死後で繋がる物語   作:四季燦々

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はい、第4話です。もしかしたら色々と気になる点も出てくるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。


voice

ある日、すっかり訓練場となった河原で刀の代わりに木刀で素振りをしていると、ゆりからの召集がかかった。何でも次の作戦に関しての話し合いをするらしい。それと岩沢から何かあるということなので、さっさと訓練の後片付けをして本部へと向かった。

 

あっ、木刀に関してはギルドの連中が用意してくれた。しかもただの木刀ではなく芯に鉄を込めた特別性だ。結構重いので良い訓練になる。この世界では筋肉痛になったりすることも無いようなので存分に振れるのがいい。というか、この木刀単体でも結構な武器だ。

 

「皆、今日の内容は2つ。岩沢さんの新曲の披露と、今日行う作戦の会議をするためよ」

 

「おっ!岩沢新曲できたのか。そりゃあ楽しみだ」

 

「うん!どんな歌なんだろう?早く聞きたいよ」

 

「新曲ですか……大いに期待できます」

 

「つか、作戦って今日なのかよ。初耳だ」

 

本部に向かうとそこにはギターを携えた岩沢がおり、皆それぞれくつろいでいた。ゆりの召集内容に日向や大山が反応するのは何となく分かるが、高松まで反応するのは珍しい。意外と音楽好きなのかもしれない。

 

「まあまあ慌てないで。それじゃ、岩沢さん。さっそくだけどお願いできるかしら?」

 

「ああ、分かった」

 

岩沢は傍らに持っていたギターケースを開き、中からアコースティックギターを出した。

 

「それじゃ、始めるよ」

 

ギターを構え、岩沢はゆっくりと歌い出す。

 

「♪~♪~♪~」

 

心に響くいい歌だ。オレには音楽のセンスなんて無いが、それでもいい歌だって事は分かる。他の奴らも目をつむって聞いていたり、岩沢をジッと眺めたりしてそれぞれ鑑賞していた。

 

 

 

 

 

 

ジャーーン……

 

静かに岩沢は歌い終わる。いや~良い歌だった。ゆったりとした始まりのバラードだったけど、その分サビの力強さが際立っていた。しかし、パチパチと皆と共に拍手する中、ゆりだけがなにやら渋い顔をしていた。

 

「………何故新曲がバラードなの?」

 

えっ?いや、そりゃ確かにガルデモはロックバンドだけど、バラードの曲だってやるだろ?それが何か問題があるのか?

 

「何か問題があるのか?」

 

「いい歌だったじゃないか」

 

「あのね、音無君、神乃君。彼女達には陽動部隊としてNPCを引きつけて、私達の作戦の邪魔にならないようにしてもらわないといけないの」

 

「だから?」

 

「少しは考えなさいよ。バラードなんて静かな曲だと作戦中に派手に動けないじゃない。素晴らしい歌ではあったけど……」

 

「ていうか、そもそも歌で陽動っていうこと自体意味がよく分からないんだが?」

 

オレは通信班の護衛と言うことでガルデモの近くでスタンバッてる遊佐と共にいることが何度かあるため分かるが、彼女達は校内でも相当人気者らしい。ライブはほとんどゲリラライブに等しいのに毎回観客は満席だ。音無はバリケード班が主だから、ピンと来ないのも仕方がないのかもしれない。

 

「彼女達は校内でロックバンドを組んでいて、NPCからの絶大な人気も勝ち得ているのですよ」

 

「そそ。だからあいつらを引きつける陽動部隊にはもってこいなんだ。ライブすると勝手に集まってくるし」

 

高松と日向が音無に説明をする。ていうか、高松。やっぱりバンド好きだろ。

 

「そうなのか、神乃?」

 

「ああ。彼女達のバンドにはそれだけの実力と魅力があるみたいだからな。毎回すごい数だぞ」

 

へーと感心する音無。お前も1度間近で見てみるといいさ。一瞬で虜になるぞ。少なくともオレはなった。

 

「それで、ゆり。だめなの?」

 

「だめってわけじゃないけど、やっぱりしんみり聴き入っちゃね……。今度の作戦はかなり重要なものだし」

 

「そう、ならボツね」

 

岩沢はそう言うとギターをギターケースに直し、校長室から出て行った。ボツになったことはあまり気にしていない様子。さすがクールビューティーこと岩沢だ。

 

「さて、それじゃ今度の作戦を説明するわ。音無君、カーテン閉めてくれる?」

 

「分かった」

 

音無が校長室のカーテンを閉めると、ゆりの背後にあるスクリーンに映像が映し出された。映像には毎回恒例SSSのシンボルが映し出され、クルクルと回っている。

 

「今回の作戦は前回失敗した天使エリア侵入作戦のリベンジを行うわ!!」

 

堂々と宣言したゆり。天使、エリア?そんなところがあるのか?

そう思っていたオレだったが、オレよりも他の奴らの方がより過剰に反応していた。

 

「マジかよゆりっぺ!!」

 

「前回あんなに失敗したんぜ?」

 

「I can't do……!!」

 

「あさはかなり……」

 

「皆してなんだよ、その反応は……」

 

皆がこんな反応するなんて、天使エリアってどんなところなんだ?ちょっと不安になっちゃうだろうが。

 

「な、何なんだよ天使エリアって!?」

 

「いや、オレが知るわけねえじゃん」

 

音無も皆のあまりな反応に驚いたようにオレへと聞いてくる。が、聞かれたって知らん。

 

「名前どおり天使の住処だよ。しかも中枢はコンピューターで制御されてるんだぜ」

 

「機械仕掛けなのか!?」

 

音無がさっきからいいリアクションをとってくれている。にしても、機械仕掛けの天使の住処って何なんだ。機械天使なの?アクエリオンなの?

 

「はいはい、皆いいかしら?確かに前回は我が戦線の弱点を露見してしまったわ」

 

「戦線の弱点?なんだそれ?」

 

「私達の弱点――――それはアホなことよ!!」

 

「「リーダーが言うなよ」」

 

くそう。薄々気が付いていたけど、やっぱり戦線の奴らってアホばっかなのか。

 

「他人事のように言ってるけど、神乃くん。あなたも相当よ?」

 

「ナチュラルに心読むな」

 

お前はさとりかよ。ウォッチしちゃうぞ。

 

「だから今回は強力な助っ人を用意したわ!」

 

「助っ人って……どこにいるんだよ、ゆりっぺ」

 

「ここです」

 

うおっ!?びっくりした。突然知らない声がしたかと思ったら、ゆりが腰掛けている椅子の後ろから眼鏡をかけた男子が現れた。

 

「椅子の後ろから!?」

 

「眼鏡かぶり……」

 

「紹介するわ。パソコンのスペシャリスト、天才ハッカーことハンドルネーム“竹山君”よ!!」

 

………………。

 

「それは本名では?」

 

「僕の事は――――」

 

竹山とやらは一旦そこで言葉を区切る。つか、ハッカーて犯罪なんじゃね?取り締まるのは天使ぐらいしかいないけど。

 

「――クライストとお呼び下さい」

 

「ハッ、ハハ……。見ろよ、さすがはゆりっぺだぜ。かっこいいハンドルが台無しだ」

 

本名言っちゃったしな……。もう竹山君としか言えないな。

 

「ゆりっぺ、そんなひょろひょろの奴が使えるのか?」

 

「まあまあ、彼ほどの実力者はめったにいないわよ?」

 

「ふっ、おもしろい!ならば俺が試してやる!!」

 

すると、突然野田がハルバートの剣先を竹山に突きつけた。

 

「お前友達いないだろ」

 

悪いが、音無に同感だ。

 

「フッ。――――3.14159265358979……」

 

「ぐっ!?ぐあぁぁぁぁ!やめろぉぉぉ!!やめてくれぇぇぇ!!」

 

「まさか!円周率だとっ!?」

 

「眼鏡かぶり……」

 

「やめてあげて!その人はアホなんだ!!」

 

「なんか、オレも頭痛くなりそう……」

 

円周率をあそこまで言えるなんて。アホの野田にはあまりに毒な攻撃だ。ちなみにオレにも効果てきめん。やはりオレもアホだったのか……。あと、高松。お前落ち込みすぎ。そんなに似てないから。

 

「もういいわ竹山君。それじゃあ皆、作戦決行日時はまた後ほど伝えるわ。解散!」

 

ゆりの解散の合図と共にぞろぞろと皆が校長室から出て行きだす。

さて、オレはどうしたもんかね……。そういや岩沢達の練習って見たことがなかったな。やることもないし、行ってみようかな。ちなみに野田はピクピク痙攣していた。どんだけ苦手なんだよ。

 

1人でブラブラと校内を散策し始めるオレ。さて、見に行くと決めたはいいがどこに岩沢達はいるんだ?こんなことなら日向にでも聞いておけばよかったな。

 

う~んと頭を傾げながら歩いていると、どこからかギターやドラムといった楽器の音が聞こえてきた。その音色に誘われるがままに、ふらふら~と音のする方へと歩みを進めると、1つの空き教室に行き着いた。

 

「どうやらここみたいだな」

 

ひょい、と廊下側の窓から覗いてみる。そこでは思った通りガルデモが練習をしていた。ボーカルの岩沢とギターのポニーテールをした女子、金髪のベースの女子にゆりよりも淡い紫色の髪をしたドラムの女子が演奏をしている。

 

「しっかし、マジですごい腕前だな。人間の手ってあんなに動くもんなのか?」

 

とてもじゃないがあんな風に指を動かすことはできないな。特にポニーテールの女子。指の動きがえげつない。しばらく見ていると、ジャーンとシメの音を奏でて曲は終わった。

 

「まあ、こんなものかな?」

 

「そうだな。ただ関根!」

 

「うぇ!?な、何ですかひさ子先輩?」

 

「お前1人で走りすぎ。もっとみんなと合わせろって」

 

「ええ~!?そうでしたか~!?」

 

「私も思ったよ、しおりん。もうちょっとゆっくりの方がいいよ」

 

「なにお~!みゆきちのくせに生意気な~!!」

 

「まあまあ、落ち着け。でも、関根はもう少し頑張ろうな?」

 

「う……。分かりました~」

 

まあ、戦線メンバーならではなのだが、こいつらも個性豊かなメンバーのようだ。

あまり邪魔するのも悪いと思いその場を後にしようと踵を返した瞬間、腰に差したままの刀の鞘が扉に当たる。やべっ、気づかれたかな?

 

「……?誰かいるのか?」

 

あちゃ~、練習の邪魔しないためにさっさと立ち去ろうかと思ってたのに気づかれちまった。これはいなくなるより出てった方が良さそうだ。観念してガラガラと教室の扉を開ける。

 

「悪い。練習の邪魔するつもりはなかったんだけどさ」

 

「なんだ、あんたか。別に邪魔になんかなってないから気にすんな」

 

「岩沢、こいつ誰?もしかして、この前言ってた新人?」

 

「ああ、そうだよ。名前は……なんて言ったっけ?」

 

「神乃だよ、ゆり命名のな」

 

「え~!?ゆり先輩命名ってどういうことですか?」

 

おっと、とりあえず説明しておかないとな。

 

「オレには自分自身に関する記憶が全くないからな。呼びやすいように名前をもらったんだ」

 

「へぇ~、そうなんですね」

 

「あと、今は通信班の護衛みたいなことをしてる。よろしくな」

 

「ああー!そういえば見たことがあります!あんまり印象に残らなかったのですっかり忘れてました!」

 

ふっ、金髪っ子よ。悪気はないのだろうけどその一言はなかなかくるからやめてくださいお願いします。影が薄くならないように頑張ってんだから。

 

「し、しおりん!失礼だよ!そ、それよりもこっちも自己紹介しましょう」

 

「そうだな。岩沢の事はもういいよな?」

 

「ああ」

 

と、いうことで自己紹介をするという流れになってしまった。いや、別にいいんだけどよ。で、まとめると、ギターを弾いていたポニーテールの女子が“ひさ子”、金髪のベースの女子が“関根”。ドラムを叩いていた女子が“入江”、だそうだ。そして、ギターボーカルの岩沢。これが校内でも絶大な人気を誇るGirls Dead Monsterだ。

 

「ひさ子に関根に入江か……。よし、覚えたぜ」

 

「覚えが早くて助かるね」

 

「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね。学年は私達より上なようなので、えっと神乃先輩」

 

「なんか、よく分かんないけど、よろしくね~先輩!!」

 

「ちょうどいいし、休憩しようか?客もさらに増えたみたいだし」

 

「ん?」

 

ふと、岩沢の言葉に廊下を見ると、飲み物を持った音無がこっちを見ていた。なんだ、お前も来たのか。じゃあ一緒に来ればよかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして俺、邪魔だったか?」

 

「なに、オレも今さっき来たところだし、それに岩沢も気にしてないだろ?」

 

「ああ。どうせ休憩いれるところだったし構わないさ」

 

岩沢は音無が持ってきた飲み物を飲みながら答えた。オレと音無と岩沢は廊下で、他のバンドメンバーは教室の中でお喋りをしている。さっきから中がすごい盛り上がりをみせているが、何をしているのだろうか?

 

「ところで……あんた達って記憶がないんだよな」

 

オレと音無は顔を見合わせて頷く。

 

「誰かの記憶って聞いたことある?」

 

「一応、オレと音無はゆりのを……」

 

「ゆりの、か。あれは最悪だな。私の場合そこまで酷くはない」

 

そこまで酷くない。そうは言うものの、岩沢は少し悲しそうだった。水の入ったペットボトルを握る手に力がこもり、容器がわずかに変形する。

 

「岩沢。その、聞いてもいいか?お前の話……」

 

オレの申し訳なさそうな、はっきりとしない様子にフッ、と岩沢は微笑した。

 

「なあに、私の場合はただ好きな歌が歌えなかった……それだけさ」

 

それから岩沢は、悲しい詩を詠み上げるようにゆっくりと語りだした。彼女自身にとっての悲劇を。なぜ自分自身がこの場所に存在しているのか、そのワケを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~岩沢 side~

 

私の両親はいつも喧嘩ばかりしていた。毎晩毎晩言い争いをしていて、私は部屋の隅で小さくなって自分の殻に閉じこもるしかなかった。

 

そんな時だ、“Sad Machine”というバンドに出会ったのは。

 

そのボーカルも私と同じ恵まれない家庭環境で、精神的に辛いときは耳をイヤホンでふたして音楽の世界に逃げ込んでいたと聞いた。だから、私もそうしてみた。

 

――――頭の中に流れる音楽で全てが吹き飛んでいく気がした。

 

――――ボーカルが私の代わりに叫んでくれる、訴えてくれる。

 

――――常識ぶってる奴こそが間違っていて、泣いている奴こそが正しいんだと。

 

――――孤独な私達こそが人間らしいんだと。

 

理不尽を叫んで、叩きつけて、破壊してくれた。そして、雨の中私はこいつに出会った。雨にうたれてゴミ捨て場に捨てられていたこのギターに。

 

それから私は歌い出した。進学も止めて、バイトする合間にオーディションを受け続ける毎日。両親になんか頼らずに、卒業したら自分の力で上京して、この音楽で生きていくんだって、そう思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は倒れた。そして次に目が覚めた時、病院のベッドに寝かされていた私は――言葉を失っていた。頭部打撲、脳梗塞による失語症。原因は両親のケンカのとばっちりだった。

 

――――運命を呪った

 

――――どこにも逃げ出せなかった。

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――私の人生はそこで終わった。

 

 

 

~神乃 side~

 

言葉が出ない。頭の中では岩沢の話がグルグルと駆け巡って、思考が追いつかない。いや、そんなことはどうでもいい。オレは……。

 

「これが私の話。私がここにいる理由、になるのかな?」

 

「――――悪かった」

 

オレの口からこぼれたのは謝罪の言葉だった。

 

「ハハッ、どうして謝るのさ?」

 

「軽々しく聞くことじゃなかった。本当にすまない……」

 

「そんな辛気くさくなることないよ。私が話したくては話したんだ。気にしなくていい」

 

岩沢はそう言ってくれたが、こっちはそうはいかない。

なんて人生だ……。最初に考えられたのはそんなことだった。せっかく自分の生きる意味を見いだせたのに、その意味すら理不尽にも奪われた。彼女は何も悪くない、全ては周りのせいなのに。

 

なんて軽率だったんだ、オレは。こんな話、話している本人が辛くないわけ無いだろ。そこまで酷くない?馬鹿言うな。それなら聞いてもいいとでも思ったのかこの愚か者。ゆりの時、軽率な言葉はかけられないとか思っていた奴が笑える。馬鹿かオレは……。

 

「俺も悪かった……」

 

「なんだよ2人して。謝るのが流行ってんのか?」

 

音無も謝るが、岩沢は軽い冗談で返してくれた。こういうところも岩沢はすごいと思う。

 

「岩沢ーー!そろそろやるよー!」

 

「分かった。今行く」

 

教室から顔を出してきたひさ子が岩沢を呼ぶと、岩沢は持っていたペットボトルを手に立ち上がった。

 

「――岩沢っ!」

 

「……?なに?」

 

「その……最後に1つ聞いてもいいか?」

 

岩沢が首を捻る。やべっ、とっさに引き止めたけど何も思いつかねえ……。

 

「聞きたいことってなんだ?」

 

「えっと……あの、お前は……その……」

 

「……?」

 

結局、頭に真っ先に思いついた問いを尋ねることにした。

 

「その……お前は、今が楽しいか?」

 

自分の言葉のレパートリーの無さにうんざりした。なにが楽しいかだ。アホか。だけど岩沢はバカにするようことはせず、フワリと本当に自然な笑顔を浮かべた。

 

「ああ。ひさ子もいる。関根や入江もいる。ゆりや他の戦線の奴らもいる。こんな奴らと一緒にいて、好きな音楽ができて、楽しくないわけがない」

 

「そ、そうか。悪い、変なこと聞いて」

 

まっすぐな瞳を向けられて、ついつい目をそらし、頬をかいてしまう。正直ここまで真面目に答えてくれるとは思わなかった。

 

そして、岩沢はそのまま教室に向かおうとしたが、すぐに振り返って持っていたペットボトルを軽く投げてきた。

 

「やるよ!記憶無し男共!」

 

反射的にそれをキャッチすると、岩沢は一言言い残し教室へと入っていった。その背中は、さっきまでの話なんてなんてことないと。大事なのは今なのだと物語っていた。

 

「――強いな」

 

「ああ、あんな風に理不尽に立ち向かえるなんて……ほんっと、この戦線メンバーは強い」

 

岩沢やゆりのように、戦線メンバーは理不尽という武器を振るう神に抗い、それぞれのやり方で戦っている。並みの精神なんかじゃ自分の人生を受け入れることすらできないかもしれない。でも、彼女達は戦っている、抗っている。

 

「……行くか」

 

「そうだな。練習の邪魔しちゃ悪いからな」

 

オレ達は再び聞こえ始めたガルデモの演奏を背に、その場から離れる。それぞれ思いを胸に抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音無と分かれたオレは少し頭を冷やすべく屋上へと向かった。色々考えることもあったしな。屋上へと向かう途中、所々にガルデモのポスターが貼ってあるのを見かけた。

今さら知ったことだが、今度のライブは今までよりもはるかに大がかりな前代未聞のゲリラライブのようで、NPCの奴らもわいわいがやがやと騒いでいた。

 

「ん?何だあいつ?」

 

リノリウムの廊下を歩いているとを何やらポスターを脇に抱えて掲示板に押しピンでペタペタと貼っている女生徒を見つけた。あの制服は戦線メンバーだな。

 

小柄な体格で、ピンク色の髪を小さなツインテールをするように留め、制服の腰の部分からは何故か悪魔の尻尾のようなアクセサリーをつけている。よく見ると他にもアクセサリーをつけているのが分かった。あれ?何か見覚えがあるような、無いような……。

 

「ん~~しょ!フゥ~……。これは疲れるなぁ」

 

小さな背を精一杯伸ばすようにポスターを貼っていたが、残念ながら掲示板の下の部分にしか貼られていない。見てるこっちからしたら苦笑しかできない。

 

「手伝おうか?」

 

「ふぁ!?い、いきなり後ろから話しかけないで下さいよ!!」

 

「わりぃ、わりぃ。で、ポスターを貼ればいいんだよな?」

 

そういいながらポスターと押しピンを手にとり、掲示板へと向かう。とりあえず、すでに貼ってあるのと同じ高さになるようにピンを刺すとするか。

 

「あの……あなたは?」

 

「オレは神乃。お前と同じく戦線メンバーだ。最近来た新入りだけどよろしくな」

 

「神乃……あーー!!」

 

「どわっ!?なんだ?」

 

いきなり叫んだ女生徒は、ビシッと効果音が聞こえるほどの勢いでオレを指差してきた。

 

「通信班の護衛と称して、実は全く仕事をしていないことで有名な神乃先輩ですねっ!」

 

これ泣いてもいいよね?えっ?オレって周りからそんな風に思われてんの?うわぁ、ショック……。何よりも大体合ってるのがまた悲しいんだけど。してるから!見えないところで頑張ってるから!

 

「……んで、なんでお前はこんな事してんだ?」

 

「お前じゃないです“ユイ”です。“ユイにゃん♪”と呼んで下さい!」

 

「で、ユイ。なんでお前はこんな事してんの?」

 

「スルーされたっ!?まあ、いいです。えっとユイは陽動部隊のしたっぱなんです」

 

「陽動部隊って岩沢達だけじゃなかったのか」

 

「そりゃそうですよ。ガルデモメンバーには演奏に集中してもらうためにサポートする人達は必要です」

 

「陽動の最重要な奴らだから、他の事に気をとられるわけにはいかないよな」

 

演奏もすげぇし。そう呟くと、なにやらユイの目がキラキラしだした。な、なんだ?

 

「ですよねーー!!ガルデモすごいですよね!!女の子だけのバンドなのにあの力強い演奏!!特にボーカルの岩沢さんはすごいんですよ!ギターボーカルな上に、作詞作曲までやっちゃうんです!!」

 

ぶっ飛んで眉間に刺さんじゃねえかと思うほど、腰の尻尾を揺らしながらの止まることのないすごい勢いでのマシンガントーク。すまんユイ。ちょっと引いた。

 

「一番のオススメは“Crow song”!!あっ!!でも“Alchemy”もすごいんですよ!曲のテンポというか、歌詞というか、もう何もかもがかっこいいんです!!それに――」

 

「ストップ!ストッープ!分かった、分かったから!」

 

「むう、まだ途中なんですけど……」

 

「もう十分だから。お前のガルデモへの愛は十分伝わった」

 

やっと止まってくれたぜ。こんなに熱く語るなんて、よっぽど好きなんだろうな。

 

「ほら、さっさと終わらせようぜ?早くしないと日が暮れちまう」

 

「うわっ!それだけはダメです!じゃあ手伝いお願いします!!」

 

その後、学校中の掲示板を回ってポスターを貼り終わると、ユイは「ライブの準備に行ってきます!」と、さっさとどこかに行ってしまった。すると、ちょうどゆりからの召集がかかったので本部へと向かう。結局考え事をする暇が無くなってしまったのは、まあ、仕方ない。作戦を終わらせてから考えることにしよう。

 

そして、作戦決行となったわけだが、今回天使エリアに侵入するのは、ゆり、竹山君、日向、野田、音無、松下五段となった。他はいつものようにバリケード班でオレもいつものように護衛。最近護衛が板についてきたと思うんだ。そろそろ転職するべきじゃないの、ねえ?ジョブチェンジでも可。

 

「と言うことで、またよろしくな遊佐」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「で、オレは何すればいい?」

 

「皆さんの盾になって散ってください」

 

「酷いっ!あれ?でも、立ち位置的には間違ってなくね……?」

 

いや、散らないけど。とまあ、最近はあいさつ代わりにもなってきた遊佐の毒舌の洗礼を受けたオレは、ボーっとステージ袖でガルデモのメンバーを見ていた。すると、ライブでは使用しないはずのあのアコースティックギターを手に、ステージの真ん中へと向かう岩沢が現れる。それが気になったオレは、やることも無いし、遊佐との会話も続かないので岩沢のもとへ行ってみることにした。

 

「何してんだ?」

 

「ん?ああ、こいつをステージに置こうと思ってな。音楽を始めるきっかけになったこいつは、私にとって特別だからな」

 

そう言うと、岩沢はステージのほぼ中央にあるスタンドにギターを立てかける。と言うことは、これが岩沢が最初に拾ったギターなのか。もちろん、生きていたころの世界の物がここにあるとは思えないが、彼女がそう言うのならば正しいのだろう。

 

「特等席だぜ」

 

岩沢は立てかけたギターにたった一言そう告げた。

 

「あんたも。今日は舞台の袖から観るんだろ?なかなかできることじゃないんだからな」

 

「つっても、本当にオレはやることがないけどな……」

 

「だったら十分に楽しんでくれよ。せっかくのゲリラライブなんだ。落ち込んでたって面白くないだろ?」

 

岩沢はニッと笑った。そうだよな。何もやることがないんだったら、せめてライブを楽しまないとつまんないよな。

 

「岩沢さん、そろそろ時間ですから準備をお願いします」

 

「うおっ!?驚かさないでくれよ遊佐!!」

 

「何を驚いているのですか。あなたは私と一緒に舞台の袖に行きますよ」

 

突然背後から遊佐の声がしたのでつい情けない声を上げて驚いてしまった。てか、気配が無さすぎだぞ。マジでビビった。オペレーターより他の仕事の方がむいてんじゃねえか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ――――始めるよ!!」

 

岩沢のかけ声と共に、ガルデモのゲリラライブがスタートした。岩沢もひさ子も関根も入江も、メンバー全員が練習の時よりもさらに迫力のある演奏をしている。しかし――

 

「少ないですね……」

 

「ああ。いつもよりだいぶ少ない」

 

一般生徒であるNPCの数が圧倒的に少ない。いつもなら生徒で埋め尽くされている空間が今日はまだらに空いている。

 

「このままでは作戦に支障が出てきてしまいますね……」

 

「どうすりゃいい?」

 

「どうもこうも、私達にはできることはありませんよ。岩沢さん達がどうにかしてくれなければ……」

 

そして、1曲目の“Crow song”が終了した。だが、どうもNPCの奴らの数はいまいちだ。しかし、歌い終わった岩沢の様子が変わる。もしかしたら会場の様子から何か感じとったのかもしれない。すぐに2曲目が始まった。

 

「これは“Alchemy”……!まだ序盤なのに」

 

どうやら岩沢によるアドリブが入ったようで、曲順を急遽変更したようだ。だが、他のガルデモメンバーは決して遅れたりすることなく岩沢のギターについていく。互いに信頼している関係だからこそできうることだろう。やがて、会場にも変化が現れた。“Alchemy”に惹かれるように次々にNPCの奴らが集まって来たのだ。

 

「すげえ……すげえよあいつら。そう思うだろ、遊佐」

 

心の中で思った事を吐露してみた。まあ、返答はないよな~と思いつつ遊佐を見てみる。

―――――メチャクチャリズムにノッていた。そもそもオレの話など聞いていなかった。顔は若干だが緩んでいて、体が小刻みに動いてリズムをとっている。危惧していたことが解消されたことでゆとりが出てきたのかもしれない。ステージ袖のカーテンを掴みながらリズムにのってる姿は不覚にも可愛らしかった。

 

意外と乙女チックなところもあるんだな~と、そんなことを思いつつ会場に目を戻す。

 

「(――っ!!来やがったか……!)」

 

ゲリラライブを止めるためだろう。ついに天使が現れた。しかも、現れたのは天使だけではない。騒ぎを聞きつけたのであろう教師達まで体育館に潜入してきた。おいおい、外はどうしたんだよ。まさか、全員拘束されたのか!?

 

「――遊佐」

 

「分かっています」

 

幸いにもNPCの奴らが密集し、さらに邪魔されたくないのかライブを止めようとする教師のを足止めしてくれていた。だが、それでもわずかな時間しか稼げない。天使は教師達がNPCの奴らをかきわけて行くのをジッと眺めている。どうやらまだ動くつもりはないようだ。

 

「ゆりっぺさん、天使が現れました。――はい――はい。分かりました」

 

「ゆりは何だって?」

 

「エリアへの侵入は成功。現在急ピッチで調査を行っている、とのことです」

 

「だけど、もうNPCの奴らの壁も突破されるぞっ!オレも出るからな!」

 

いつの間にか教師達はステージのすぐ側までやってきていた。このままじゃ止められちまう。

 

「貴様ら!いい加減にせんか!!こんな勝手なこと許されんぞ!!」

 

ステージに上がった教師達は岩沢達の演奏を中断させ、楽器を奪おうとしてきた。くそ、少し遅れた!

 

「学園祭でも無いのにふざけおって……。貴様ら全員楽器をよこせ!!くだらないことで騒ぎを起こすな!楽器は全部廃棄処分にしてやる!!」

 

――――ピクリと無意識に眉が上がる。

 

「(くだらない……だと……?)」

 

教師のうち1人が岩沢のギターを掴みにかかる。

 

「やめろ!」

「くそっ!てめぇら!」

「ああ!?私のベース!」

「痛いです!離して下さい!」

 

必死に抵抗する岩沢達の姿を見たオレの中で何か熱いものがこみ上げてくる。度し難いそれは、人の感情の中で最も激しいもの。

 

確かにゲリラという手段は褒められたものではない。だが、あいつらにとって音楽とは存在の証だ。岩沢の話しか聞けなくて他のメンバーのことは分からなかったが演奏しているときの表情は本当に輝いていた。

 

ほんの僅かの関わりだったけど、あいつらの気持ちは分かる。音楽を、自分達の証を失いたくないと。だから――

 

 

 

 

 

 

 

「――その手を離せぇぇぇぇぇ!!!」

 

湧き上がる激しい“怒り”の感情を押し殺すことなく、オレは教師に向かって駆け出した。

 

「き、貴様!?何を――ぐあっ!?」

 

オレは岩沢達に掴みかかっていた教師の腕を掴み、力任せに引き離す。本当は刀でも突きつけたいぐらいだった。でも、それは許されない。SSSの信条にはNPCに手を出してはいけないという、絶対的なルールがある。オレの今やったことだってかなりのグレーゾーンなんだ。

 

「貴様、教師に手を出すとは何事「――黙れよ」何だと……?」

 

「黙れつってんだ!!てめえらにこいつらの何が分かんだよ!」

 

オレの怒りはただの自己満足で、勝手なものでしかない。岩沢達はこんなこと望んでいないかもしれない。それでも、叫ばずにはいられなかった。

 

「てめえらがくだらないと言って奪おうとしたのはこいつらの魂だ!こいつらの命だ!こいつらの生きる意味そのものなんだよ!必死に生きて、やっと見つけた全てなんだよっ!」

 

奪わせない……奪わせてたまるか。

 

「くだらない?廃棄処分?ふざけるんじゃねえ!てめえの価値観で物言ってんじゃねえぞ!!」

 

「あんた……」

 

教師につかまっていた岩沢が驚いた顔をしている。待ってろよ、お前ら。今何とかしてやるからな。

 

「貴様、あとで生徒指導室できっちり説教してくれる」

 

「はっ!できるもんならやってみやがれ」

 

啖呵をきるオレに教師達が3人でじわりじわりと歩み寄ってくる。

 

「(ちっ!さすがに分が悪い……)」

 

相手は3人。こっちは1人。おまけに手出しはできない。ほとんど詰んでいる状態だが、ゆり達の増援が来るまで時間を稼げれば――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――教師への罵詈雑言。及び銃刀法違反ね。悪いけど拘束させてもらうわ」

 

「――――えっ?」

 

ズドォン!と鈍い音が響き、オレはステージの壁へと叩きつけられた。一瞬何が起こったのか分からなかった。何も見えなかった。気づいた時には体中で激しい痛みが走っていた。

 

「ごッ!ガァァァァァァァァァっ!!?」

 

「教師に手をあげるのを黙って見てるわけにはいかないわ」

 

いつの間にか距離を詰めていた天使が、オレの腹に()を捻じ込ませていた。その細腕からは考えられないぐらい怪力。叩きつけられた拍子に壁には蜘蛛の巣のような亀裂が走っている。正直吐血していないのが不思議なレベルだ。加減、したのか?

 

「が、はっ……!て、てん…し」

 

「大丈夫、死にはしないわ」

 

痛みと共にオレの体から急速に力が抜け、その場に崩れ落ちるように倒れこむ。やばい……指一本動かない。あの一撃で全てを持って行かれた……。

 

「「神乃!?」」

「「先輩!?」」

 

「今だ!取り押さえろ!!」

 

教師達は再び標的を岩沢達へと変える。ステージの袖にいた遊佐までしっかりと捕まえてやがる。

こん…なところで…寝てる場合じゃ……!オレはまだ、何も……守りきれて、ねえじゃねえか……!

そう思って体を動かそうとするが、やはり力が入らない。

 

「あなた、やっぱり……」

 

何やら驚いているような呟きをこぼしたが、すぐに首を左右に振ると体育館から出て行った。もう後は教師に任せていいと判断したのだろう。現にこの場で戦える奴なんていないのだから。

 

「ぐっ………!」

 

この世界に来た人間ならば傷はほっといても治る。だが、それはすぐに、というわけではない。やはりある程度の時間は必要になってくる。そうこうしているうちに、岩沢とひさ子には1人ずつ、関根と入江の2人組は1人の教師が取り押さえた。

 

「ふん!好き勝手しおって……!貴様らの楽器は没収するからな」

 

すでにぶっ倒れて動けないオレには誰1人教師はつくことなく、岩沢達の楽器を見渡して言い放った。

 

「この……野郎……」

 

ギリッと歯をくいしばる。何もできない自分自身にメチャクチャ腹が立ってくる。

すると、さっきから偉そうに話していた教師が、ステージの中央にあるギターを手にとった。あれは、岩沢のギターだ。

 

「これは捨ててもかまわんな?」

 

そのギターは岩沢にとって大事な物なんだぞ……!

 

そんな、いい加減怒りで血管がぶち切れそうなオレの耳に、岩沢の声がかすかに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――触るな」

 

……岩沢?

 

「それに――――」

 

見たことががないような形相の岩沢がギターを持つ教師を射殺すかのように睨みつけていた。

 

「――――触るなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐおっ!?貴様まで!!」

 

岩沢は自分を押さえつけいた教師を無理やり振り払い、ギターを持っていた教師にタックルしながらギターを奪い返した。

 

「お前!――がっ!?」

 

自分を押さえている教師が岩沢に気を取られた瞬間、ひさ子は精一杯の頭突きをし、ひるんだすきに放送制御室へと駆け出した。当然教師はひさ子を追いかけようとしたが、遊佐の捕らわれながらも教師の足を掴む、というフォローに無様に転がる。

 

壁際に追いつめられた岩沢はギターを構え、ジリジリと後ずさりする。

 

「岩沢!……くっ!いってえ……」

 

少しずつ力が入るようになったので、ふらふらとしながらも立ち上がる。

 

岩沢はキッと教師達を睨みつけながら、ギターを構える。まるで、このギターこそが自分の武器だと主張するかのように。そして、岩沢は一度深呼吸すると――ギターを弾き出した。突然の行動に教師達も目を丸くする。

 

これは、校長室で聞いた曲だ。

確か曲名は――――

 

――“My Song”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「岩沢……」

 

オレもガルデモメンバーもNPCも教師も誰一人、岩沢の邪魔をしなかった。いや、違う。邪魔しなかったんじゃない。できなかった、岩沢の歌に聞き入っていたんだ。校内放送でも流れているのはひさ子の仕業だと思う。せめて岩沢の歌を皆に届けようとしたんだろう。

 

岩沢の話を聞いてしまったからだろうか?1度聞いたはずなのにあの時以上に訴えかけてくるものがあり涙が零れる。岩沢の思いが伝わってくる。その時オレは気づいた。ギターを弾き、幸せそうに歌う岩沢の頬をつたう1つの雫に。

 

「~♪~♪~♪」

 

歌が、終わる……

 

「…………」

 

無言。沈黙。静粛。

 

それらの空気が体育館を支配していた。誰一人喋らない、誰一人動かない。曲を弾き終えた岩沢は、オレや放送制御室から戻って来たひさ子、関根や入江や遊佐に何も言わず笑いかけた。

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ガタリッと、ギターが床に落ちる音と共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「岩、沢……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――岩沢は、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今頃本部では今回の報告会が開かれているところだろう。どうも参加する気の起きなかったオレは1人屋上へと来ていた。心地よい風が吹きつけていて、じっくりと考え事をするには丁度良い感じになっている。

 

「逝っちまったのか、岩沢」

 

あのあとライブは中止。岩沢の捜索も行ったが、結局彼女を見つけることは叶わなかった。本当は皆が皆、分かっていたはずだ。岩沢はもうここにはいない、と。

 

最後に見せた笑顔。感謝の気持ちを伝えるような、まっすぐで眩しすぎるくらいの笑顔。あの笑顔を見て思った。岩沢はきっと自分の思いを見つけ、受け入れ、果たすことができたのだと。

 

「よかった、んだよな」

 

誰に言うのでもなく、蒼海を思わせる青空にこぼす言葉。彼女が何を思っていたかは分からないが、消えてしまったということはきっと、いや、絶対よかったのだ。

 

「もっといろんな曲聴いてみたかったけどな」

 

オレは手すりに置いていた手を空へと伸ばし――――

 

「ありがとうな、岩沢。またどこかで」

 

聞く相手もいない屋上で、静かに言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは本当なの?」

 

「はい、間違いありません。天使が何か気づいているようでした」

 

「天使が……」

 

「ゆりっぺさん、どう思いますか?」

 

「今の段階じゃ何とも言えないわね。まず情報が少なすぎるわ」

 

「今後はどうなさるつもりで?」

 

「様子見しかないわね。他の連中じゃあまり頼りにならないから、遊佐さんにまかせてもいいかしら?」

 

「分かりました。表向きは彼は私のバックアップということでいいですか?」

 

「お願いね。できればあんまりコソコソしたくないんだけど、状況が状況だから」

 

秘密裏に話すゆりと遊佐。この内容が自身にどれだけ関わってくるのか、オレはまだ気づいていなかった。




な、長いっ……!約14000字です。上手くまとめたいのですがなかなか思うように行きません。

い、、岩沢さぁぁん!もっとアニメでも出番欲しかったよぉぉぉ!
ちなみに僕が一番好きな岩沢さんの曲はやっぱりCrow songです。僕自身も素人ながらギターをやってるのでいつか弾けるようになりたいなぁ……。

さて、次はどうしましょうか。オリジナルのストーリーか、原作アニメ第4話の球技大会か。たぶん僕の気まぐれで順番は決まると思いますが、どうかよろしくお願いします。

あと、感想やご意見もお持ちしています!

ではでは。

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