死後で繋がる物語   作:四季燦々

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おっそぉぉい!!
いや、ホントすみません。諸々の事情でこんなに遅れてしまいました。

今回で一応番外編は終了となります。今回の主役はコハクちゃんです。この子は色々と難しかった……。


For You

部屋の中で鳴り響く目覚まし時計の音により、私は夢の世界から戻される。モゾモゾと動きながらどうにかその音を止めようと手を伸ばすがなかなか手が届かない。フリフリと空気をかくように手を動かしていると、やがてそのけたたましい音は鳴り止んだ。

 

良かった、これでもう一眠りできる。そう考えてもう一度意識を夢の中へと落とそうとすると、今度は身体を優しく揺さぶられた。

 

「コハクさん、朝ですよ。起きてください」

 

凛と鈴の鳴いたような綺麗な声が聞こえる。その声を聞いただけで今まさに落ちようとしていた意識が掬い上げられた。少しずつ閉じていた目を開けていくとそこには鮮やかな金色が広がっていた。

 

「おはようございます。もうすぐ朝食の時間ですよ」

 

そう言って声の主――遊佐さんは閉じていたカーテンを少しだけ開けた。全開にしないのは太陽の光に弱い私に考慮したためだろう。柔らかく入り込んでくる陽の光と、開けられた窓から朝の香りが漂ってくる。どうやら今日も外は快晴のようだ。

 

「さあ、顔を洗ってきてください。着替えたら食堂に行きましょう」

 

すでに制服に着替え終えている遊佐さんに促されてベッドから身体を起こす。目の前には寝ぼけ眼の私を微笑ましそうに見ている彼女がいた。この部屋で暮らすようになってほぼ毎日見せてくれる笑顔。いつも私や目覚まし時計よりも早く起きて見せてくれる笑顔。私はその笑顔がたまらなく好きだった。

 

だから、ちゃんと答えよう。

 

「――おはよう、遊佐さん」

 

「はい。おはようございます、コハクさん」

 

――こうして、また死後の世界で私の新しい1日が始まった。

 

 

 

 

 

食堂で朝ご飯を食べる。今日の献立は白米に根野菜の味噌汁。シンプルなハムエッグにサラダのいたって普通のご飯をおばちゃんに頼んだ。向かい合って椅子に座る遊佐さんはパンを手で小さくちぎりながら口に運んでいる。互いの間に会話らしい会話はないけれど私はこの時間が嫌いじゃなかった。生前に比べたらむしろ心地良いぐらい。

 

あの日、私は遊佐さんともう1人――神乃によって救われた。酷い言葉も一杯言ったし、小さい子のように泣きじゃくったりもした。それでも2人はそんな私の事を受け入れてくれた。絶望の底にいる私に手を差し伸べて、優しく抱きしめてくれた。

 

あの時の事を思いだすとちょっぴり恥ずかしいかも。だってすごくわんわん泣いちゃったし、顔だってぐちゃぐちゃだったと思う。なんというか2人に、特に神乃に見られたのは恥ずかしい。

 

「コハクさん?どうかしましたか?」

 

「――ううん。なんでもない」

 

首を振る私にキョトンと首を傾げる遊佐さん。私でも惚れ惚れするぐらい美人さんでとても大人びているのに、時々こういう可愛らしい仕草をする。本人は無自覚でやっているのだろうけど、それはズルいと思う。そんなギャップを見せられたら男の人だってイチコロだ。……たぶん、神乃も。

 

なんだろう。ニヤついている神乃を想像したらちょっとだけムカムカしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ」

 

「どうしましたか?」

 

「これ、どういう状況?」

 

「見たままだと思いますが。ロリコンさん」

 

「説明になってないし誤解が酷い!?」

 

本部――という名の校長室を遊佐さんと訪れた私が何をしているのかというと、神乃へと抱き着いている。ソファに腰かけていた神乃におはようと言った後、何も言わずにその後ろから首の前へと手を伸ばし抱きついたのだ。背もたれに体重を乗せ前のめりになっているような感じ。

 

以前の私だったら妙に意地を張ってこんなこと絶対にしなかっただろうけど、やりたくなったのだからしょうがない。決してさっきに想像の八つ当たりをしたいわけではないよ?きっと神乃も私に抱き着かれて嬉しいはず。だって小さい子好きそうだし、うん。

 

「もの凄い誤解を生みそうなことを考えられた気がする」

 

「何を言っているのですか」

 

冷や汗を流しながら溢す神乃とそれに冷ややかな視線を向ける遊佐さん。だけど今の私には問題じゃない。この瞬間を思いっきり楽しむ方が大事。

 

「何があったかは知らねえけど、とりあえず離れてくれないかコハク」

 

「いや」

 

「即答ですか、そうですか」

 

「だって神乃は私の事受け入れてくれるんでしょ?」

 

「う゛っ……。それを言われると弱いな……」

 

恥ずかしそうに頬を掻く神乃。短い付き合いだけど、神乃の癖であるその仕草を見ると私の胸の奥がポカポカと暖かくなる。そして、なんだか幸せな気持ちになれるのだ。

 

「えへへ。じゃあ、もう少しこのままでもいい?」

 

「……程々にしてくれよ」

 

そう言ってため息をつきながら両手を上げて参ったと態度で示す神乃。少しツンツンと逆立っている髪にポスリと顎を乗せると自然と笑みが零れちゃっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神乃と遊佐さんはあのまま通信班の会議があるということで会議室の方へと行ってしまった。どうやら今回はかなり長引きそうで、戻ってくるのはたぶん夕方になるだろうとのことだった。昼食は誰かと一緒に食堂に行ってくれ、だそうだ。

 

本部には他に誰もいないし、正直つまらない。本だって本部にあるやつは全部読み終わっちゃったし、1人で出歩いちゃだめだと言われているのでトイレ以外は本部から出ることもできない。

 

「ああー暇だなー。これなら神乃や遊佐さんと一緒に行けばよかったなー」

 

ソファの上に行儀悪くゴロリと寝転がりパタパタと足をバタつかせる。その際丈の短いスカートが捲れて大変なことになったけど、誰もいないから別にいいや。クッションにポスリと顔を埋めてそんな感じの事をずっと続けていたけど、それじゃ時間はすぐに経ってくれない。ボードゲームはあるけど1人じゃ面白くもなんともないし。

 

「うーん。学園を探検してみようかなー。でも1人で行っちゃダメだって言われたし……」

 

身体を起こし、本部の扉へと視線を向ける。ボーと時間だけが少しずつ過ぎていく中、私は何をしようと考えていた。神乃や遊佐さんがいないとこんなにつまらないんだと考えた時、ふとついこの間の事を思いだした。

 

「――そう言えば、ちゃんとお礼してなかったな」

 

2人は私の事を助けてくれた。そのことに対してちゃんとお礼をしていなかったことに今更ながら気が付いた。お礼の言葉はきちんと伝えたつもりだけど、何か別の方法でも伝えたいなと思う。でも、何をすればいいのだろう……。何をしたら2人は喜んでくれるのだろう。

 

そんな時だ。扉の前から合言葉が聞こえ、ガチャリと扉が開かれる音がしたのは。

 

「コッハクちゃーーん!!ゆりっぺさんの登場ですよー!!」

 

「ゆ、ゆりさん!?どうしたんですか!?確か天使の見張りだとか言ってませんでしたっけ」

 

「そんなもん他のメンバーに押し付けてきたわよ!私にとって大事なことは――そう!コハクちゃんと遊ぶこと!優先順位がどちらが高いかなんて考えるまでもないわ!」

 

乱暴にバタンと扉を開いたのはテンションの高いゆりさんだった。なんでも見張りの最中に神乃と遊佐さんを見かけ私がここに一人でいることを聞いたらしい。そこで他のメンバーを急に呼び出し、見張りを交代してきたようだ。ごめんなさい、代理の人。

 

「それで何する?PSPにする?DSにする?そ・れ・と・も、モンハン?」

 

「え、えっと……」

 

ピ、ピーエスピー?ディーエス?モンハン?……なんだろうそれ。あんまり聞いちゃいけない気がする。そうだ、どうせならさっき思いついたことを相談してみようかな。

 

「じゃあ、ゆりさん。1つ相談があるんですけど……」

 

「なになに?お姉さんが何でも聞いてあげるわよ」

 

「えっとですね――」

 

私は2人の何かしら形としてお礼がしたいことをゆりさんへと伝え、何をしたらいいかと尋ねた。ニコニコと笑みを浮かべながらそれを聞いていたゆりさんは、私の言葉に時折頷きながら腕を組み、やがて困ったような表情へと変わっていった。

 

「……なるほどね。お礼がしたい、か」

 

「はい。私は甘えてばかりで2人の事をあまりよく知ってるとは言えませんから。それなら付き合いの長いゆりさんならと思って」

 

「――頼りにしてくれるのは非常に嬉しいんだけど……うーん、これは言ってもいいのかしら?」

 

「どうしてですか?」

 

「私がここで何かしらの意見を出してあげるのは簡単よ?でも、それは私の意見であってコハクちゃんのものではないわ」

 

さっきまでとは違い、真剣な表情で私へと視線を送ってくるゆりさん。知らないうちに私の背筋がピンと伸びていた。リーダーとして堂々たる風格を見せるゆりさんは、やっぱりすごい人なのだと再認識せざる得ない雰囲気だった。

 

「うん、やっぱりヒントぐらいなら出してあげれるけど、これはコハクちゃん自身が考えることが大切だと思うわ。大丈夫、あの2人ならあなたがどんな形で感謝の気持ちを伝えようと喜んで受け取ってくれるはずよ」

 

だから、自分できちんと方法を考えなさい、と諭すように話すゆりさん。慣れた手つきで私の髪を撫でる様子は本当にお姉ちゃんのようだった。

 

「……はい。そうですよね。私、ちゃんと自分で考えてみます」

 

「良く言ったわ。さすがコハクちゃん」

 

そう言って私の頭を抱えギューと抱きしめてくるゆりさん。いきなり抱きつかれたせいでビックリしたけど、悪い気はしなかった。

 

「――それで、ゆりさん。ヒントというのは……」

 

「ああ、それね。2人の日頃のあなたへの態度を思い出してみなさい」

 

「態度、ですか?」

 

「ええ。2人があなたに対してどんなふうに接しているのか。それが分かればきっとコハクちゃんから何をもらったら嬉しいのか分かるはずよ」

 

そう言われても、いまいちピンとこない。2人とも私に優しかったり、時々厳しかったり、そんな感じだと思う。そのことをゆりさんに伝えると苦笑で返されてしまった。

 

「そっか。コハクちゃんはまだそのことを実感できていないのか。これはちょっと時間がかかるかもしれないわね」

 

「実感、ですか」

 

「――よしっ!コハクちゃん色々なSSSメンバーの所へ行ってみましょう!」

 

「えっ?」

 

い、いきなり何を言い出すんだろうこの人は。

 

「日頃のあなた達3人の様子について聞きに行くの!どんなふうに見られているのか、気にならない?」

 

「そ、それはちょっとは気になりますけど……」

 

「それなら善は急げね!行っくわよ~!」

 

「あっ!?ちょ、ゆりさんっ!?」

 

手を掴まれた私はゆりさんに引きずられる様にソファから立たされる。慌てて日傘を掴んだ私の手を引きながら鼻歌交じりで学園内を進んでいくゆりさん。こうして私とゆりさんのなんだか不思議なSSSメンバー巡りが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神乃と遊佐とコハクを見て率直な印象?」

 

「ええ。ぜひ聞かせてほしいの」

 

最初に訪れたのは中庭。そこには音無さんと日向さん、あと直井さんがいた。どうやら普通にお喋りをしていたみたい。

 

「そりゃあ、なあ?」

 

「まあ、な」

 

互いに視線を交わす音無さんと日向さん。その口元はさっきのゆりさん同様苦笑により弧を描いていた。えっ、どういうこと?なにかおかしなこと聞いたかな?

 

「「――仲良いなって」」

 

「……それだけですか?」

 

まるで答えになっていない。いや、単純にどうな感じに映っているのかってことが知りたいわけだからそれでもいいんだけど、それじゃ全然参考にならない。神乃や遊佐さんと仲が良い事なんて分かってることだもんね。

……自分で言っててちょっぴり恥ずかしくなっちゃった。

 

「うーん、そうだな。なんて言うかな」

 

「3人の間には特別な絆があるって感じかな。ちょっとクサいけど」

 

「ああ、そうそう!ナイスだ音無。まあ、俺達が言いたかったのもそう言うことだよ、コハクちゃん」

 

「特別な……絆」

 

私と神乃と遊佐さんの間にあるらしい絆。それはどういうことなのだろう。友達?いや、でもそれはなんか違う気がする。同じSSSの仲間?それなら他の人ともあるはずだ。うーん、どういうことなんだろう。

 

うまく回ってくれない思考に頭を抱えそうになる。どうやら私はこういうことを考えるのが苦手なようだ。

 

「お、おい、ゆり。コハクのやつすげえ考え込んじまったけど大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。この子なりにあなた達の言葉を飲みこもうと必死なのよ。思った以上にいい意見をくれてありがとう」

 

「お、おう。でも、いきなりどうしたんだ?」

 

「ふふふっ、ひ・み・つ。乙女の大事な気持ちなの」

 

「なんだよ、それ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼ご飯をゆりさんと食べて次に訪れたのは空き教室。バンド練習をしているガルデモの人達のもとだ。ちゃんと練習の邪魔にならないように休憩時間に訪れて先程と同じような問いかけをしてみる。

 

「そうだねー、とにかく仲良さそうだよなアンタ達」

 

「ですねー。特にコハクちゃんと神乃先輩はいつも一緒にいる気がします」

 

「時々神乃先輩が危ない人に見えたりしますよねー!幼女を連れまわしている的な意味で」

 

「し、しおりん!そんなこと言っちゃ神乃先輩に失礼だよ!」

 

各々が感想を漏らします。今回はさっきみたいな直接的なヒントのようなものはなさそうだ。というか、関根さん。私が幼女とはどういうことですか。私は立派なレディです。確かに胸は小っちゃいし、背も小っちゃいですがそれでも心は立派なレディです。そこらへんを忘れないでください。

 

「でも、時々羨ましくなりますよ。神乃先輩と遊佐先輩とコハクちゃんが一緒にいるところを見ると」

 

「羨ましく?どうしてですかユイさん」

 

不意に現ボーカルであるユイさんがそんなことを言ってきた。残りの3人も「ああー、分かる」と言わんばかりの表情をします。3人ともユイさんの言いたいことに何となく察しがついたようです。

 

「なんというか、すごく()()じゃないですか」

 

()()、ですか?」

 

「そうだな。距離間ていうかさ、そういうのが近い」

 

「互いに互いの事を想っているんだろうなっていうのがすごく伝わってくるよ」

 

「私達じゃ到底踏み込めないコハクちゃんの領域に当たり前のように居るって感じだねー」

 

ユイさんを筆頭に次々に自身の意見を言ってくるガルデモの人達。

 

「……ごめんなさい、よく分からないです」

 

「うーん、私達もうまく説明できないから何とも言えないな」

 

困ったように笑う彼女達はしばし顔を見合わせる。やがて、代表するようにひさ子さんが目線を合わせるように屈み、ポンと手を私の頭の上に置いた。

 

「――でもさ、そういうのって別に無理に理解しようとしなくてもいいと思うよ」

 

「……えっと、どういうことですか?」

 

「私達がやっているバンドと一緒さ。音楽は音符だの楽譜だの英語だのを理解していないと感動できないと思う?」

 

それは違う。それなら音楽に関してはほとんど無知な私がガルデモの歌や演奏に感動することなどなかったはず。その意思を伝えるためにフルフルと首を横に振る。私の反応に満足したようでひさ子さんはニッとかっこいい笑みを浮かべた。

 

「だろ?音楽ってのは無理に理解するんじゃなくて、身体全身で()()()もんだよ。きっとコハクが知りたいことも似たような感じなんだと思うよ。無理に考えなくてもいい。アンタがあの2人にどんなことを感じているか、このことが大切さ」

 

「何を感じているか……」

 

私が2人に感じていること。きっとその大部分を占めるのは感謝の気持ち――ううん、何か違う気がする。確かにそれも大きな理由ではあるけれど、もっと他に重要なことがあるような気がする。もうちょっとで分かりそうなんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間も時間なため、次で最後かしらと言うゆりさんに連れられてきたのは出発地点である本部だった。何故次で最後と言いながら戻ってきたのか問いかけると――

 

「時間もないし回るより集まれるメンバーに聞いた方が早いわ」

 

――だそうだ。そのために手が空いている人を本部に集めてくれたみたい。わざわざ来てくれてありがとうって言わないと。

 

扉を開けた先にいたのは野田さん、大山さん、TKさん、椎名さんの4人だった。うん、正直に言ってもいいかな。すごく不安なメンバーなんだけど。大山さんは全然構わないんだけど、残りの3人はどんな印象を持っているのかすごく不安。特に野田さんは神乃の事を敵視しているらしいから余計に不安になってくる。

 

「これはまた微妙なメンバーが集まったわね」

 

「他の皆は手が離せないらしいよ。藤巻君はどこかに行っちゃったし、高松君は筋トレ中みたい」

 

「マツシタゴダン、in the mountain」

 

「あさはかなり」

 

「俺はゆりっぺの命令ならばいつでも駆けつけるぞ!」

 

「まったく、しょうがないわね。ほんと団体行動のできないメンバーよ。まあ、なんにせよ、集まってくれてありがとう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ゆりさんがお礼を言うの聞いて、慌てて私も頭を下げる。どんなメンバーであろうとわざわざ私の為に時間を割いてくれたんだ。不安だなんて失礼な事考えちゃいけないよね。

 

とりあえず、ゆりさんが4人に集まってもらった理由を話す。内容を聞いて野田さんが明らかに不機嫌になってたけど、ゆりさんが一睨みするとすぐに真面目に考えていた。ゆりさんすごい。

 

「僕は神乃君とコハクちゃんは兄妹みたいだなーって思っていつも見てたよ」

 

まずは大山さんが答えてくれた。って、兄妹?

 

「うん。神乃君の後をちょこちょこ付いていくコハクちゃんを見てると、まるでお兄ちゃんの後をついていく妹みたいだなって」

 

すごく可愛らしいって思ってたんだと朗らかに笑う大山さん。中性的な顔立ちのせいで笑みを見せると女の子のようにも見える。言ってることもなんだか女の子っぽいし。

 

「You are brother and sister!」

 

「えっと、TKさんも同じように兄妹に見えていたということですか?」

 

「Oh yes!」

 

どうやらTKさんも同じように思っていたらしい。よく分からないステップを踏みながら言っているせいで真面目なのかどうなのか分からないけど。……実はダンスって少し興味あるんだよね。今度こっそり教えてもらおうかな。

 

「えっと、椎名さんは……」

 

「私には兄妹だとかそう言った関係の者がいないためよく分からない」

 

「す、すみません」

 

腕を組んだ状態で鋭い視線を向けてくる椎名さんに思わず萎縮してしまう。ううっ、やっぱりこの人ちょっと怖いな……。SSSの誰よりも強いって聞いたし、機嫌を損ねちゃったんだとしたらどうしよう……。

 

「だが、お前達を見ているときっとその関係は暖かいものなのだということは分かる」

 

「えっ……」

 

「……?何かおかしなことを言ったか?」

 

「い、いえっ!ありがとうございました!」

 

い、意外だった。椎名さんってこういうことも言ってくれたりするんだ。おまけに本人は素直に言っただけみたいだし、もしかしたらすごく純粋な人なのかもしれないな。日頃はあさはかなりとしか言っていないから分かりづらいけど。

 

さて、次で最後なんだけど……

 

「の、野田さんはどうですか?」

 

「…………」

 

いつも持ち歩いている武器を手放さずに瞑想するかのように目を閉じている野田さん。私の問いかけにも一切反応を見せず、険しい顔つきだ。

 

やっぱり、この人には聞かなかった方が良かったんじゃないかなと少し泣きそうになっていると、ゆりさんが野田さんへと近づいていき、いきなりその頭をひっぱたいた。――って、何してるのゆりさんっ!?

 

「な、ななな何してるんですかゆりさんっ!?」

 

「――野田君、コハクちゃんが真剣な話をしてるのになに寝てるのかしら?」

 

「いきなり叩くなん――って、えっ?寝てた?」

 

「んごっ!?い、いや違うんだゆりっぺっ!俺は別に寝てなどいな――」

 

「問答無用っ!1度目冷ましてきなさいっ!!」

 

ゆりさんは野田さんの襟元を掴み、自分よりも体格の大きな彼を本部から追い出した。バタンと閉じられる扉。廊下側からはドンドンと叩く音と「違うんだぁぁぁ!」と言う叫びが聞こえてくる。

 

やがて、野田さんは無理やり中へと入ってこようとしたようでわずかに扉が開かれる。あっ、合言葉もなしにそんなことしたら!

 

――そう思った次の瞬間、彼は窓の外へと突き飛ばされていた。もちろん扉の罠が発動してしまったためだ。ガシャァァァン!!と窓ガラスの割れる音と何かが落下する音がした。

 

「ゆ、ゆりさん……」

 

「ああ、彼の事なら気にしなくていいわ。どうせすぐに復活するでしょうから」

 

いや、そういうわけにもいかない気がするんだけど……。そもそも野田さんは私の質問に答えに来てくれただけなのだ。流石にあんまりではないかと思う。あとできっちり謝ろう。

 

「で、1人少なくなっちゃったわけだけど。コハクちゃん、あの2人との関係を見直せたかしら?」

 

誰のせいなのだろうかとはツッコまない。というか怖くてツッコめない。それよりも、今は大事なことがあるし。

 

「……あと少しだけ分からないことがあるんです」

 

「あら、何かしら」

 

「皆さん、私達のことを特別な絆があるとか、兄妹だとかに見える。そしてそれは感じるものだと言ってました」

 

「言ってたわね。それでどうかしら」

 

「確かにそうなのかもしれません。私には兄妹はいませんから実感というか、そういうものがないです。――ただ、ほんのちょっとだけ違う気がするんです」

 

戸惑いつつも少しずつ零れてくる私の言葉に、ゆりさんはうんうんと頷きながら反応してくれる。大山さん達は空気を読んでくれたようで本部を後にしていた。たぶん、野田さんの下へと向かったのではないかと思う。

 

喉元まで来ているのにはっきりと口にできないもどかしさ。皆さんは分かっているのに私だけが分からないというのは結構辛い。

 

「――まあ、ここまでくれば合格点ってところかしら」

 

「えっ?」

 

「いいわコハクちゃん。あなたの求めている答え、教えてあげましょう」

 

「い、いいんですか!」

 

「ええ。答えが出なかったけどあなたなりにしっかりと考えたんだもの。そもそも、あなたはこのことをよく知らないのだから答えを出せって言う方が難しかったのだろうけど」

 

一体ゆりさんは何の事を言っているのだろう。そう言えば話を聞きに行く前にも似たようなことを呟いていたような気がする。私が分からないこととは何なのだろうか。

 

「いい、コハクちゃん」

 

「は、はい!」

 

「あなたと神乃君、遊佐さんの関係性。――それは『互いに相手を信頼し、好意を持っている』と言うことよ」

 

「――――っ!!」

 

「ま、端的に言うのならばお互いが好きだと言うこと。信愛であったり友愛であったり親愛であったりってね」

 

「それは……」

 

『愛情』。つまり最初から私が求めていたことだ。神乃や遊佐さんと一緒にいる私はその関係性にあるのだとゆりさんは言う。

 

「あなたの生前の話は前に直接あなたが話してくれたわよね?あなたは親にちゃんと愛してもらえなかったって」

 

「…………」

 

「――ごめんなさい。さすがに無神経過ぎたわね。言葉を選ぶべきだったわ」

 

「いえ、気にしないで続けてください」

 

大丈夫?と心配そうに私を見てくるゆりさん。確かに先日の事はゆりさんだけには話した。無理に話すことはないと言われたけど、もう乗り越えたから聞いてもらってもかまわないと思ったからだ。……それでも、やっぱり辛い部分はある。

 

「きっとあなたは今その愛情を感じているのよ。誰でもない、神乃君と遊佐さんから」

 

「2人から……」

 

「だからあの2人の為に何かしてあげたいと思うし、きっと神乃君達もあなたの為に何かをしてあげたいと思ってるはず。きっと、それこそが愛し愛される関係。今のあなた達の事を言い表すのに1番ピッタリな言葉」

 

ゆりさんの言葉がスッと心に落ちていく。まるで欠けていたピースがカチリとはまるような合点のいく感じがした。

 

……そうなんだ。2人のことを考えた時に生まれるこの暖かい気持ち。これが『愛』なんだ。それなら、最初から私に分かるわけないよね。私は愛してもらうことなんて知らなかったんだから。ずっとずっと求めていたはずなのに、いざすぐそばにそれが来ると気が付けないなんてちょっと皮肉だな。

 

「さて、2人のとの関係性も見直せたところだし、本題に戻りましょうか」

 

「――あっ、2人へのお礼……」

 

すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。そうだ、私は2人にお礼がしたくてこの関係性を探り始めたんだった。きっかけを忘れるなんてよっぽど集中していたみたい。

 

「ど、どうしようゆりさん!もうすぐ2人とも戻ってきちゃうよ!わ、私まだ何も用意できてない!!」

 

「お、落ち着きなさいコハクちゃん。大丈夫だから」

 

「で、でも!」

 

「いいからっ!特別な用意なんてもういらないから大丈夫よ」

 

「……えっ?」

 

えっ?用意がいらない?まだ私、話聞いただけで何も準備してないよ?それなのに?

 

「いい、コハクちゃん。2人はもうすぐ帰ってくるわ。だからその時に――」

 

そう言ってコソコソと私に耳打ちをしてくるゆりさん。どういう内容なのだろうとすごく気になっていたのだが、いざ聞いてみると少々拍子抜けしてしまった。

 

そのまま、2人が帰ってくるのを待つ。やがて、コンコンと扉を叩く音がして合言葉が告げられる。聞き間違えようがない。神乃の声だ。2人が会議から帰ってきたのだ。

 

「うぃーい。疲れたぞーっと。つか、なんで罠が発動してんだ?」

 

「どうやら野田さんが合言葉を言わずに入ろうとしたみたいですよ。先ほど連絡があり、もうすぐギルドの人が再設定に来るそうです」

 

「何をやってんだあのアホは。自分で考えた罠だろうが」

 

「最近ではギルドの方が手を加えていたようですからね。少々強力になっていたみたいです」

 

「ねえ、あいつ大丈夫だよね?なんかこうモザイクかけないとダメな感じじゃないよね?金色ならぬ赤色モザイクとか怖すぎるんだけど」

 

「大丈夫でしょう、野田さんですから慣れてるでしょうし」

 

「不遇な奴……」

 

そんな会話をしながら入ってくる2人。遊佐さんは全然平気そうだけど、神乃はちょっと疲れてるっぽい。まあ、座っての話しあいなんて性に合わないって前に言ってたしね。

 

「よっ、コハク、良い子にしてたか?」

 

「すみません、少々遅くなってしまいました」

 

2人が私へと話しかけてきた。チラリとゆりさんを見ると大きく頷いて今よっ!と目線で訴えてきていた。よ、よし!ゆりさんに言われたとおりしっかりやろう。

 

グッと心の中で意気込んだ私は1度深呼吸をする。私の様子を不思議に思ったのか2人は顔を見合せてキョトンとしていた。心の底から大好きなそんな2人に、私は自分に出来る精一杯の笑みを浮かべて伝える。

 

 

 

 

 

「ふ、2人共――おかえりなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そ、そんなことでいいんですか?』

 

『ええ。2人にとっては笑顔でお帰りなさいと言ってもらえることが何物にも換え難いすごく素敵なプレゼントになるはずよ。他の誰でもない、コハクちゃんからのね』

 

『でも、そんなことでいいんですか?もっと何か形のある物とかの方が……』

 

『形ある物も確かにいいかもしれない。でもね、そういう物はいつか朽ちてしまう物なの。だけど、大好きな人の笑顔っていうのは形を残す物よりきっと尊いものだわ』

 

『私の笑顔と言葉……それだけの価値があるのでしょうか』

 

『もちろんよっ!あなたの笑顔は誰にも負けない宝物よ。自信をもって2人に見せてあげなさい』

 

『わ、分かりました!やってみます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の言葉に2人は一瞬だけ面食らったあと、やがて嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ああ、ただいまコハク」

 

「ただいまです。コハクさん」

 

ジワリとその言葉が胸へと溶けていく。熱くなっていた胸の中がもっともっと暖かくなっていくような気がした。ついつい耐え切れなくなって2人の下へと駆け寄る。

 

 

 

 

 

「――おかえりっ!神乃っ!遊佐さんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。私は遊佐さんに今日は一体どうしたのかと聞かれた。正直に話そうかと思ったけれど、結局は話さなかった。やっぱり改めて考えるとちょっぴり恥ずかしいもんね。

 

就寝時間になりベッドの中へと潜りこむ。さあ、明日は2人とどんな言葉を交わそう。どんなことをしよう。でも、例えどんなことをしようと笑顔だけは忘れないようにしよう。2人の心に私の気持ちが届くように。

 

そんなことを考えながら、私は夢の世界へと落ちていくのだった。

 




はい、ということで番外編第2話でした!

今回は時系列的に言えば、コハクが救われた後、ユイが成仏するまでの間の話となっています。そのためコハクのデレ具合がまだまだ甘いです。この話をきっかけにこの子のデレは加速していったのでした。

さて、コハクは確かに本編で神乃君達に救われました。しかし、すぐにそれを理解できていませんした。何故ならコハクちゃんは愛を知らなかったから。口では言っていても、実際愛と聞かれても彼女は答えられません。その点を今回は広げてみました。

愛は人それぞれの形があります。きっと別の考え方もあるでしょう。コハクちゃんにとっては大好きな人の笑顔。そして神乃君達からはコハクちゃんの笑顔。これが愛の証明になっていたということです。

それでは、長い話はこれくらいにして一度締めましょうか。

感想、評価、アドバイス、誤字脱字報告等お持ちしています。
ではでは。

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