死後で繋がる物語   作:四季燦々

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遅くなりましたっ!リアルが忙しいとはいえ、最後の最後でこの遅筆は申し訳ないです。ですが、ようやくエピローグの投稿ができてよかったです。

また今回は少し短めとなっておりますのでご了承を。それでは、これにて死後で繋がる物語完結です!長い間読んでいただきありがとうございました!


Restart

『人生』とは何か。今更ながら僕は考えます。人生は人間1人1人に与えられた権利であり、同時に当人を縛り付けるものという見解はあながち間違いではないでしょう。まったく同じ人生を歩む者など存在しません。そして、その人生の価値というものは平等でもありません。全てを手に入れ自身を幸福の人間だと主張する者もいるでしょう。逆に全てに絶望し、自身は不幸の人間だと泣き叫ぶ者もいるでしょう。

 

幾億もの人生が存在する世界。あらゆる生き物が生を育む世界。生に優劣があるというのならば、なんと神は残酷なのでしょうか。平等に生きることができれば格差など生まれません。ありとあらゆる争いも起きません。絶望と不幸の淵に立たされる者もいません。

 

しかしです。仮に神にそのような事を知らず知らず強いられていたのだとしても、人間にはそれに抗うだけの力があるのだと、僕は彼らを見ていて知りました。理不尽な出来事に真っ向から立ち向かい、やがてそのことすらも受け入れる強さを人は持っていると。

 

死後の世界と呼ばれる世界で少年少女達は多く出会いを経験しました。同時に多くの別れを経験していきました。理不尽な人生を強いた神に抗おうと、死してなお己の為に戦おうとする者達の中心となった少女の一石によって生まれた波紋は、死後の世界という水面で大きく広がっていきました。まるで、そうなるべきだったと言わんばかりに。

 

そんな時です。彼に心が生まれたのは。元来死後の世界の住人であり、迷い込んだ者達への道標の1つになるはずだった彼は、神に抗う者達と出会い、手を取り合いました。

 

やがて彼は2人の少女に出会います。彼女達はいずれは世界に溶けていくのみだった彼を決死の思いで救いました。彼も彼女達の事を守り抜きました。

 

こんなことを言ったら彼は怪訝な表情をするかもしれませんが、僕は彼の事が羨ましかったのかもしれません。己のすべきことをきちんと分かっている彼の存在は、僕にとってあまりにも眩しかった。

 

……おやおや、つい余計な事を言ってしまいました。これでは怪訝な表情をされるどころか引かれてしまうかもしれんませんね。お話を続けましょう。

 

2人の少女が世界を去る際、彼は彼女達と1つの約束をした。必ず会いに行くと。例えこの身体が世界に縛られていようとも、必ず会いに行くと。

 

普通に考えればありえないことです。彼は元々死後の世界の住人。彼を縛るのは世界そのもの。可能性は皆無に等しい。

 

それでも、全ての仲間が未来への希望を見出し世界から去った後、彼は願いました。2人に会いたいと。神でもない、世界でもない、偶然にも生まれた自分の心に。

 

 

 

 

 

――――やがて、その心は永遠とも呼ばれる時間の旅へと旅立って行きました。たった1つの、約束を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うん……?」

 

とある建物の一室。そこで1人の少年はけたたましく鳴り響く目覚まし時計により自身のベッドの上で目を覚ました。窓にはカーテンが引かれており、その隙間からは眩しい光が零れてきている。時計の差す時刻はまだ早朝と呼べる時間だ。まだまだ眠い目を擦りながら上体を起こした彼は欠伸を噛み殺しつつカーテンを全開にした。

 

「うおっ、眩しっ!」

 

思った以上の眩しさについそんなことを叫んでしまう。すぐにやばいっ!と思い両手で口元を押さえた。今日は週に2日しかない休日なのだ。もっとも現在春休みを満喫している少年にとっては曜日など関係なかったが。

 

目がァァ!目がァァ!と脳内で1人コントを繰り広げながら、モゾモゾと寝間着から外着へと着替え顔を洗うために部屋を後にする。建物内はシンと静まり返っており、まだ少年以外の住人が夢の世界にいることを物語っていた。起こさないようになるべく足音を殺しながら洗面台へと向かい、顔と歯を磨く。

 

人とおりの朝の準備が終わった少年は朝食も摂らずに建物内を後にした。今日は新学期から転校することになった学園の下見に行くつもりだったのだ。日中は下の子達の面倒を見ないといけないため、朝食前にサクッと道だけでも覚えておこうと思ったためである。

 

()()()と書かれた看板が掛けられている入口を通り抜け、ブラブラと人通りの少ない通りを歩いていく。時折忙しそうに走っていくサラリーマンやOLの心中で敬礼をしながらとりあえず事前にもらっていた地図を参考に歩いていった。

 

「――ったく、転校だなんていきなりすぎるんだよな。おまけに歩いていける距離なのに全寮制だからって寮に入れとか何考えてんだあの人」

 

ブツブツと文句を言う相手は孤児院の院長である。しかし、直接口には出さないが少年は院長に感謝していた。身寄りのない自分を引き取り、さらには高校まで通わせてくれているのだ。文句を言うのも、お金がかかり孤児院の経営に負担になるのではないかと危惧しているためである。

 

「おっと、やっと見えてきたな。つか、やっぱでけえ……」

 

お目当ての学園――いや、これを学園と呼んでいいのか分からないほどの規模を誇る場所へと少年はたどり着いた。転入手続きの為にもらっていたパンフレットにも書いてあったが、全校生徒2000人以上のマンモス校というのもこれだけの規模なら頷ける。なぜなら学校の端から端が見えないのだ。学園アリスかよと少年は内心でツッコミを入れずにはいられない。

 

「4月からはこの学園に通うのか……。まさか天下の『天上学園』に通うことになるとは思わなかったぜ」

 

天下なのに天上とはこれいかにと自分の寒いギャグに薄ら笑いを浮かべる。しょうもないことを口にする少年だったが、実はその内心は酷くザワついていた。

 

最初に院長に『天上学園』の名を聞かされた時から感じていた妙な違和感。初めての転校ということで緊張しているのかとも考えていたが、どうも違うように感じられた。ただ、天上学園と言う名に言いようのない落ち着かなさを感じていたのだ。それが学園に近づいた今、さらに大きな漣となって少年の胸中を乱していた。

 

――この学園には()()がある。自分にとって、本当に大切な()()が。

 

確信などない。もしかしたらただの思い過ごしなのかもしれない。それでも、少年の心は張り裂けそうに主張していた。

 

なんなんだよと理解不能な思いにやや苛立ちを見せつつ学園を観察していたが、やがて天上学園の大きな門の隣にあるやや小さめの扉が僅かに開かれた。どうやら人の出入り用の扉らしく、今から誰かが出てくるようだ。

 

朝っぱらから学園付近をうろちょろしていたらさすがに不審者っぽいよなと思い、場所も分かったことだから孤児院へと引き返そうと踵を返す。落ち着かない心はただの気のせいだろうと無理やり納得して立ち去ろうとした。が、その動作は扉から現れた人物の姿を見てしまったことによって踏みとどまらされる。

 

 

 

 

 

――――現れたのは1人の少女。その姿を見た途端、少年の胸が一際大きく跳ねあがった。

 

朝の光に照らされて眩しく輝く金色の髪をツインテールにまとめ、宝石のような瞳は優しげな光を灯していた。色白の肌は一見して体調悪さを印象付けるが、彼女の場合深窓の令嬢のような儚くも美しい雰囲気を醸し出していた。学園の制服であろう服装に身を包んだ彼女は少しだけキョロキョロと辺りを見渡した後、少年に気付きジッと視線を送ってくる。

 

動けなかった。言葉も出なかった。初めて会うはずなのに、そんな気が微塵もしなかった。彼女とはどこかで会ったことがある。彼の胸の内で何かが激しく叫んでいた。

 

「…………」

 

「…………」

 

互いに無言。今更ながらジッと見つめてしまっていることに気づき、冷や汗を流し始める少年の下にその少女は迷いのない足取りで近づいてきた。顔を見つめられたまま接近してくる美少女に思わず後ずさりそうになるが、なけなしの意地で踏みとどまる。なんとなく、逃げてはいけないような気がした。

 

「――警察呼びますよ?」

 

「――初対面でそれは酷い」

 

なんと少女の口から出た言葉は不審者かどうかを疑うのではなく、慈悲もない国家権力召喚の言葉だった。いや、朝からこんな不審者紛いの事をしていたら仕方がないのかもしれないが、抑揚もなくそう言われるとさすがに怖い。

 

先程の衝撃はすっかり身を潜め、これは面倒な人物に見つかってしまったなと少年はため息をつきそうになるが、さすがに少女の前では堪えることにした。

 

「冗談ですよ。あなたは今度転校してくる方ですよね?」

 

「えっ?何で知ってんだ?」

 

「私には少々情報収集が得意な知り合いがいますので、その方からの情報です。写真は見せていただきましたから」

 

「どんな情報網だよ……」

 

というか、個人情報が一般生徒に駄々漏れの時点でこの学園大丈夫か?と心配する少年。おいおいと困惑している少年と僅かに笑みを浮かべている少女。両者の間で微妙な空気が流れ始めた時、その空気を断ち切るかのごとく第三者の声が2人の耳に届いた。

 

「あっー!いたー!もうっ!1人で行っちゃったかと思ったじゃないですかっ!」

 

金色の少女と同様に大きな門の横の扉から出てきたのは言い表すなら真っ白な少女だった。小柄な体躯を制服で包み、雪のように白い髪に金色の少女よりもさらに薄い色素。日傘を差しており、その下から覗く大きく真っ赤な目を僅かに吊り上らせドタドタとこちらに駆け寄ってきた。

 

再び少年の胸が騒ぐ。今日の自分は一体どうしてしまったのだろうかとわけが分からなくなっている少年を後目に、少女たちは互いに言葉を交わし始める。

 

「ごめんなさい。門の外に転校生の方がいらっしゃったので」

 

「……?もしかしてこの人ですか?」

 

金色の少女が謝罪とその理由を説明すると白い少女は怒っていたことなどすっかり忘れたように少年へと視線を向けてきた。宝石のようにクリッと輝く赤い瞳に見つめられた少年は純粋な視線につい無意識に頬を掻いた。

 

「えっと……」

 

「あっ、ごめんなさい、ジッと見ちゃって。ただ、この学園に途中から転入してくる人って珍しいなって思ったんです」

 

「ああ、いや。別に気にしなくていい。この学園はエスカレーター式だし、驚くのは無理ねえよ」

 

天上学園は小等部、中等部、高等部が揃った学園だ。小等部に入学したら、そのまま高等部までというのが普通の流れである。少年のように途中から転入してくる者もいないわけではないが、そのような例外の生徒はほんの一握りである。

 

目の前の金色と白い少女達はそれぞれ高等部と小等部と言った感じだろうか。特別そっくりというわけではないため姉妹という線は無いだろうが、それでも彼女達からは強い結びつきを感じられた。

 

「もしかして、転入前の見学ですか?」

 

「ああ。とりあえず場所だけは覚えておこうって思ってな。さすがに中までは見せてはもらえないだろうし」

 

許可もとってないし、連絡だって学園側に入れていない。そんな状態でいきなり内部の見学など失礼だろう。そう考えていた少年だったが、目の前の少女たちは違ったようだ。

 

「見学ですか……。できないこともありませんよ?」

 

「えっ?マジで?」

 

「はい。あなたにその気があれば、ですけど」

 

「そりゃ、天上学園だなんて有名な学校の見学できるなら嬉しいけど、大丈夫なのか?」

 

「おそらく大丈夫かと。私の上司――友人は学園側に顔が利くのでそれくらいの許可ならすぐに下りるかと。今は春休みなので授業の邪魔になるということはありませんから」

 

「うちのリーダーならバッチリですよっ!」

 

金色の少女の言葉に白い少女が同意するように元気よく答える。学園側に顔が利く友人とはどういう人物なのか、とツッコミをいれそうになる。もしかしてお偉いさんの子なのだろうかと疑問に思ったが、せっかく入れてくれるのだと言うのだからその提案に甘えてみようかと思った。

 

しかし。少年にはどうにも腑に落ちない点があった。

 

「――なあ、どうしてそこまで親切にしてくれるんだ?いくら転校生が珍しいからって君がそこまでしてくれる理由は無いはずだけど」

 

少年の言葉はもっともだった。友人間ならまだしも、彼女達と少年はつい数分前に出会ったばかりだ。そのため、少年には彼女達の行動が理解できなかった。少女達は顔を見合わせ、やがて金色の少女が口を開いた。

 

「――そのことに答える前に1つ。突拍子もないことですが聞いてもいいでしょうか?」

 

「……なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

「――あなたと私。いえ、この子もでしょうか。どこかで会ったことがありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

「――――っ!!」

 

金色の少女の言葉は少年を大きくかき乱す。まさか、自分と同じことを考えていたとは思わなかったからだ。なんと答えようかとまごついていると、やがて彼女は小さく息を吐いた。

 

「……突然すみません。何故か初めて会った気がしなかったものですから」

 

「あ、ああ」

 

「あなたに親切にするのは私の気まぐれですよ。なんとなく、そうした方がいいような気がしただけです」

 

「私もです。あなたとは初めて会った気がしないからいいかなって」

 

彼女達の曖昧な言葉に少年は何も言えなかった。ただ、自分も同じ思いを抱いたことだけは伝えなければならないと思った彼は、重々しく口を開く。

 

「――オレも」

 

「「……?」」

 

「オレも、君達とは初めて会った気がしない。いや、記憶とかじゃ確かにないはずなんだけど、初めて君達を見た時からなんとなくそう感じた」

 

端から聞いていたらナンパのような言葉だ。それが分かっているから少年は少しばかり頬を赤くしながら伝える。

 

「…………」

 

「…………」

 

少年の言葉に面食らった彼女達だったが、やがて顔を見合わせると、小さくクスッと笑った。

 

「ふふっ、一体どういうことなんでしょうか」

 

「オ、オレにも分からん……」

 

「えへへ、不思議ですね」

 

クスクスと少女達に笑われる少年はやはり言わない方が良かったかと少しばかり後悔していた。思った以上に恥ずかしいことを言ってしまったと向けられる視線から目を逸らす。やがて、少女達は小さく微笑みながら少年へ言葉をかける。

 

「――理由は分かりませんが、私達とあなたは何かしら縁があるようですね」

 

「うんうん!でも、悪い気はしないです!」

 

片や美しいと形容できる笑みを浮かべながら。片や可愛らしい笑みを浮かべながら。その笑顔が少年の中で誰かの笑みと重なる。しかし、それが誰なのか、少年はそれ以上深くは考えなかった。

 

今はただ、目の前で笑っている2人の笑顔を眺めていたいと、そう思うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういや、名前をまだ聞いていなかったな」

 

ひとまず一度孤児院に戻ってから出直してくることを少女達に伝えると、後程またここで合流することになった。その別れの際、ふと自分が彼女達の名を聞いていないことを思い出す。

 

「そう言われればそうですね。すっかり忘れていました」

 

「自己紹介はちゃんとしないとダメですよね」

 

 

 

 

 

――少年少女達は言葉を交わす。

 

 

 

 

 

――これが自分達の出会いだと、そう伝えるように。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、オレから。オレは――――」

 

 

 

 

 

 

 

――そして

 

 

 

 

 

 

 

「私は――――」

 

 

 

 

 

 

 

――新しい物語は

 

 

 

 

 

 

 

「私はね――――」

 

 

 

 

 

 

 

――繋がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死後で繋がった物語は終わりを告げました。これから先に続くのは、未来で繋がる物語。どんな結末をむかえるのか、それは誰にも――そう、神にすら分かりません。

 

 

 

どうです?ご満足いただけたでしょうか?僕は大いに満足していますよ。まったく、相変わらず彼は面白いものを見せてくれます。真なる鍵は人の思いか、魂か、心か。僕はそのことをこれから考えていきたいと思います。

 

 

 

――おや、また新しい来訪者が現れたようです。僕も僕のすべきことを果たすために戻りましょうか。なに、時間はいくらでもあります、それこそ永遠と呼べるほどに。

 

 

 

気長に読み解いていきましょう。彼ら彼女らが綴った物語を。




第34話、エピローグでした。

前書きにも書いていますが、今まで読んでくださりありがとうございました。日に日に増えていくお気に入りを見るたびに大変嬉しく思っていました。

おまけに途中にはランキングにも乗り、夢ではないかと思ったこともありましたが、このことも含めて全てが読者の皆様のおかげだと思っています。本当にありがとうございました。

更新が安定しない僕に励ましの言葉をかけてくださった皆様にも感謝の言葉が尽きないです。この作品を好きだと言ってくれる言葉に何度励まされたか分かりません。

このままではいつまでもお礼を言ってそうなので、ひとまず締めたいと思います。後々活動報告でもお礼を述べたいと思っているので、そちらも覗いていただけたら幸いです。

最後になりますが、感想、評価、アドバイス、誤字脱字報告等々お待ちしています!
ではでは!

PS ここまで読んでくださった皆様。オリキャラのキャラ紹介も作ったのでそちらもどうぞ!

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