死後で繋がる物語   作:四季燦々

26 / 37
すみません、遅くなりましたっ!
ですが、いよいよ影達との本格的な戦いが始まります!


strange world

ピンポンパンポーン!

 

『あーあーマイクテス、マイクテス』

 

オレが2人に説教を受けること数十分。いい加減正座している足が痺れてきてそろそろ足を崩すことを打診しようかとわりと本気で考えていると、唐突にチャイムが鳴る。業務用のセリフを話すのはもう聞き飽きたレベルの声の主だ。

 

「そうでした、すっかり忘れていました。音無さんと日向さん、それに直井さんも影に襲われたそうです」

 

「音無さん達もっ!?」

 

遊佐が今思い出したーと言わんばかりにポロリと言葉を零し、それにコハクが初めて聞いたと驚く。おい、遊佐さんや。それはすっかり忘れることじゃねえぞ。もろに重要じゃねえか。

 

「で、お前の言い方からしてあっちは無事なんだな」

 

「はい。皆さんは無事撃退できたそうです」

 

「そうか、よかった」

 

「げ・き・た・い、できたそうです」

 

「嫌味ったらしい言葉がすっげえ痛い」

 

どうもすんませんね~弱くて。まあ、珍しく毒も出たようだしこっちの方が遊佐っぽくもあるかな。

 

『生徒会長、生徒会長。ただちに生徒会室に来なさい。聞きたいことがあるわ』

 

おーい、リーダー。一応相手は生徒会長なんだぞー。何様だーお前ー。あっ、リーダー様でしたね。そうですね。

 

「で、ゆりはなんで立華を?」

 

「影について天使に尋ねるようです。天使なら何か知っているのではないかとお考えのようで」

 

なるほど。尋問、ということか。

 

……あれ?それってヤバくね?立華とゆりを2人にしたらオレ達のやっていることバレかねないんじゃね?あいつ意外と融通が利かないというか、聞かれたことを素直に答えちまうところがあるんだよな。素直なのは良い事なのだけど、今回はちょっとばっかしマズい。

 

「オレも行ってくるかな」

 

「ダメです。まだジッとしていてください。再び身体に異常が起こらないとも限らないんですよ」

 

「そうだよ、神乃。まだ休んでて」

 

「大丈夫大丈夫。もう全然平気だって。異常が起こるどころか快調だ。いつもより元気なレベル」

 

「ダメです。寝ていてください」

 

「ダメだよ。ちゃんと寝てて」

 

ベッドから降りようとすると2人が口を揃えて言い、それぞれオレの肩を押して止めてきた。つか、なんでお前らはそんなに息があってんだよ。シンクロ率400%なの?エヴァのパイロットなの?

 

「本当に大丈夫だって。もし少しでも違和感があったらすぐに戻ってくるよ」

 

「……本当ですか?」

 

疑わしげに遊佐が尋ねてくる。コハクも心配そうにオレを見つめてくるが、ここでジッとしていて今やっていることがバレてしまったら今後の活動に影響してくる。影と言う不確定要素まで出現している状況ではこれ以上話がややこしくなるのは避けたい。

 

「本当、本当」

 

「なら、良いのですが……」

 

「むう、そこまで言うなら……」

 

納得はしていない。まだまだ心配だと2人は暗にそう言っていた。その様子に苦笑しながら、そばの机に綺麗に折り畳んであった新品のブレザー(さっきまで着てたのはボロボロになってた)を羽織り、その横に置いてあった愛刀と愛銃をそれぞれ腰とホルダーに装着する。その一連の動作にすっかり慣れてしまっている自分の変わりようが積み重ねてきた経験を物語っていた。

 

「色々準備してくれてサンキュ、遊佐。コハクもずっといてくれてありがとな」

 

「はい。ですが、本当に気をつけてくださいね?私は他の戦線メンバーへの通達のため一緒には行けないので」

 

「私も……邪魔しちゃうだろうから遊佐さんと一緒に行くね」

 

「下手に出歩かないで、なるべく誰かといるんだぞ。助けが欲しかったら――」

 

そこまで言って首にかけているインカムを差そうとする。しかし、いつもの定位置にあるはずのそれはそこにはなく、インカムは影に壊されてしまったことを思い出す。あのインカムどこに行ったんだろう。すげえ大切な物だったのに。

 

「――まあ、大声で叫んでくれ。なるべく早く駆けつける」

 

「はい、分かりました」

 

「コハクも遊佐の言うことをちゃんと聞くんだぞ」

 

「うん。神乃も気を付けてね」

 

「おうよ。そんじゃ、行ってくる」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃい」

 

まるで家から仕事に行くように2人に見送られる。最後のはちょっと照れくさかったな。でも、悪い気はしねえや。

 

 

 

 

 

「おっ、神乃じゃねえか。お前もゆりっぺの放送を聞いてきたのか?」

 

「あ、ああ、まあな。……音無、ちょっと来い」

 

生徒会室の前まで到着すると、ちょうどやって来た音無と会うことができた。その後ろには日向と直井も一緒にいる。まさかこの2人までいるとは思わなかったオレはちょいちょいと音無を手招きした。その際、なにやら後ろ2人は険悪なムードだったが、いつもの事なので気にしないことにした。

 

「おい、どういうつもりだ?日向ならまだギリギリ分からなくもないがなんで直井までいんだよ」

 

「俺にもよく分からねえんだよな。いつの間にか俺達のやってることに気づいてた。手伝うって聞かなくてな」

 

「どこで気づいたんだよ、あいつは……」

 

「さあ?」

 

さあって……。まあ、いいか。直井なら頭も切れるし音無のやることに反対することはねえだろ。だって音無大好きっ子だからな、この催眠術少年は。

 

「日向は……なんとなく予想はつくな」

 

「あいつはそういう奴だからな」

 

やっぱり、ユイの件でオレ達のしていることに察しがついたのだろう。そのことは彼女を見送った後の言葉からも分かる。ずっとSSSを支え続けてくれていた日向の助力はかなり心強い。オレ達が知らないことだってあいつなら知ってそうだからな。

 

「んじゃ、さっさと生徒会室に入るか。立華は?」

 

「呼んだ?」

 

「うおおいっ!?いつからいたんだ立華!?」

 

「今来たところよ」

 

ま、まったく気付かなかった……。忍者かお前。あっ、女の子なんでくノ一ですね。そのうち髪の色がサクラ色になりそう。「しゅーんなろー!」とは言わんだろうけど。

 

「奏、たぶん今からゆりに色々聞かれると思うけど、俺達のしていることは話さないでくれ」

 

「分かってるわ」

 

「ごめんな、責任を押し付けるような感じになっちまって。それ以外の質問には正直に答えていいからな。オレ達もできるだけフォローする」

 

「ええ」

 

よし、とりあえずは作戦会議終了だ。ワーワーと言い争いをする日向と直井をひっ捕まえて生徒会室へと入室する。中では奥の方の机にゆりが腕を組んで座っていた。オレ達が入ってきた事に気付いたのか閉じていた目が開かれ紫色の勝気な瞳がこちらを見ている。入り口側の方に座り、机を挟んで向かい合うゆりと立華。そして、オレ達は立華の後ろ側に立つように中に入った。その様子を見て怪訝そうな表情になったゆりが言う。

 

「――なによ、あんた達」

 

「傍聴させてくれ」

 

「元生徒会長代理、現副会長の僕が許可しました」

 

「なんであなたの管轄なのよ」

 

「生徒会室ですから」

 

「……まあ、いいわ」

 

シャキーンと効果音が付きそうな勢いで直井がグーサインを出してくる。ちなみにゆりに見えないように背中で行っているためバレることはない。こちらに向けている視線が、「どうだ無能共。僕の方が音無さんの役に立てるぞふははは!」と言っているように見える。ごめん、嘘だ。適当なこと言った。最初はまだしも最後はそんなキャラじゃなかったわ。

 

「ところで――」

 

ゆりの視線が音無達からオレ1人へと移る。

 

「神乃君、あなたもう体は大丈夫なのかしら?」

 

「ん?ああ、そういやゆりも現場にいたんだったな。気遣いサンキュ。もうバッチリだ」

 

「神乃がどうかしたのか?」

 

「彼、あの影に襲われたのよ」

 

「マジでっ!?」

 

「じゃあ、さっきの大丈夫かって言うのは……」

 

ちゃんと倒したというこいつらの前で言うのはちょっと恥ずかしいぜ……。そうだ、ここは敢えてふざけて言って見よう!

 

「やられちゃった、テへッ!」

 

『――キモい』

 

「……すんません」

 

ごめん、悪ノリが過ぎた。やっててオレも吐きそうになった。

 

「まあ、無事ならもうどうでもいいわ。本題に入っていいかしら?」

 

「どうぞ」

 

オレがボコボコにやられたことはどうでもいいことですかそうですか。

 

「――で、どうなの?影よ影」

 

「知らない」

 

「あなたがプログラミングしたんじゃないの?」

 

「違う」

 

「じゃあバグという可能性があるわ。最近プログラミングしたのはいつ?」

 

「おととい」

 

「部屋に入らせてもらうけど、いい?」

 

ゆりの質問に淡々と答える立華。その彼女がコクリと頷いたのを確認すると、ゆりは無線機を取り出し、竹山に連絡を入れる。2、3とやり取りを繰り返した後に通信を切った。切る寸前に「あと、クライ――」と聞こえたのはオレの聞き間違いではないだろう。大丈夫だ竹山、いつかは言ってもらえるさ。

 

「それで、何をプログラミングしていたのかしら?」

 

「羽」

 

はい?羽?羽ってあの羽?wingの方の羽?なんで羽なんか……。

 

「羽つけたの?まさか飛べるように?」

 

「ううん。飾り」

 

「へっ?飾り?」

 

「そう、飾り」

 

「何で?」

 

「その方が天使らしいからだって」

 

「だって?誰に言われたの?」

 

おい、音無さんや。お前さんなに相談もなしに変な事やってんだよ。なんだよ羽って。つまりは天使の羽ってことだろ?そんなもん――――無茶苦茶似合うじゃねえか。想像したらすげえ違和感なかったんだけど。すげえ発想だな音無。お前が天才か。

 

だが、今この場で突っ込まれたのは痛い。どうするつもりなのかと冷や汗を流している音無にアイコンタクトを送っていると、奴より先に直井が口を開いた。

 

「それは僕です。生徒会長として箔がつくかと思い、元生徒会長代理、現副会長の僕がそう提言しました」

 

「生徒会長に羽が生えたら箔がつくの?」

 

「はい、生徒会長に羽。ふさわしいかと」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………分かったわよ」

 

む、無理矢理押し通したぁぁぁぁ!?すげえ直井さん!マジぱねえっす!でも――

 

「アホだ」

 

「アホだな」

 

そのグーサインとドヤ顔はいらねえと、ゆりに聞こえないようにボソリと呟いた。便乗するように日向も溢す。つか、本当にどうでもいいけどやたら元生徒会長代理、現副会長を押すんだな。

 

直井に無理矢理納得させられたゆりは椅子の背もたれに体重を預け、解いていた腕をもう1度組む。その表情は少しばかり驚いているようにも、どこかからかっているようにも見えた。

 

「しかし、意外に従順ね。冷酷さなんて微塵も感じられない。以前と変わらないように見えるわ」

 

……ついにその点を突いてきたか。どうやってフォローすべきか。そんなことはないと言っても基本一緒にいないことになっているオレ達では説得力がないし、このまま無駄に黙っていてはそれはそれで怪しい。ならば、説得力に欠けるが嘘をでっちあげて聞かせるか?どの手札を切るかを考えていると、オレよりも先にあの男が三度助け船を出した。

 

「いえ、冷酷です。副会長の僕が毎日刺されています」

 

賢明な皆ならもうお分かりだろう。そう、直井だ。

 

「え……?どうして?」

 

「機嫌が悪いと会長は近くにあるものを刺すんです。副会長という立場上、わりと近くにいることが多いんのでよく刺されます。今朝も刺されて腸がはみ出したままでしたが……今はとても機嫌が良いようです」

 

3度目のグーサイン。いや、もう分かったから。今回のMVPはお前だから。だからその手とドヤ顔をやめい。

 

「アホだ」

 

「やっぱアホだな」

 

「ハァ、頭痛い……」

 

マシンガンのように無茶苦茶な嘘をポンポン言い放つ直井。それを見たオレ達から出たのはもはや呆れの言葉だった。フォローしてくれようとするのはいいのだが、色々と酷い。音無に至っては頭が痛そうに溜め息をついてる始末だ。

 

『ザザ……聞こえますか?応答してください』

 

すると、胡散臭そうに直井を見ていたゆりの無線機に、今度は竹山から連絡が入る。どうやらプログラミングの確認とやらが終わったようだ。時間にして5分も経っていない。流石は天才ハッカー。

 

「竹山君ね?どうだった?」

 

『バグは見つかりませんでした。特に今回のプログラムは装飾付けという比較的単純なものです。意志を持って人を襲うようなバグなど発生しようがありません。あと、僕のことはクラ――』

 

「他のプログラムは?」

 

おい、お前絶対狙ってるだろう。なんかこう、お前の中で絶対に言わせないぞ!的なやつができてるんだろそうなんだろ!

 

『……パッシブにオーバードライブ、アクティブにハンドソニック。以前と同じものです。形状は違いますけど。どうしますか?』

 

「…………」

 

竹山の問いかけには答えようとはせず、無線機を耳に当てたまま真っ直ぐに音無を見るゆり。音無は音無でまた渋い顔をしている。下手に書き換えられたら今後の作戦に支障が出る、そう考えているのだろう。とにかく、話をさり気なくオレ達に有利な方へと進めようと口を開こうとした瞬間――

 

――ドォン

 

1発の銃声がオレに耳に届いた。ほんのかすかな音だったけどあれは間違いなく銃声だった。

 

「今のは……!」

 

「どうかしたか神乃?」

 

「聞こえなかったか?今、銃声がしたぞ」

 

「銃声?そんなの何も――」

 

音無が様子が変なオレへと尋ねてくる。どうやらこいつには聞こえなかったようだ。他の4人もキョトンとしている。すると、今度ははっきりとドォン!ドォン!と2発の銃声が聞こえた。

 

『――!?』

 

「ほらっ!たぶん運動場の方からだ!!」

 

もしかして誰か戦ってんのかと思い、急いで廊下へと飛び出した。生徒会室は廊下を挟んで運動場とは反対側にあるので、オレ達はひとまず廊下の窓際へと立つ。運動場へと視線を移すと、そこには異様な光景が広がっていた。

 

「あの怪物!?」

 

「なっ、なんだよあの数!!」

 

「マズいわね……。数に押されてるわ」

 

明らかに1体や2体なんかじゃない。2、30体はいるであろう影が運動場を真っ黒に染め上げている。その中心で、野田と椎名とTKの3人がもみくちゃにされながらも必死に応戦していた。それぞれの実力は高いが、如何せん数が多い。あのままでは人海戦術で圧倒されかねない。

 

「くっ……!!奏、頼む!!」

 

音無が苦渋の決断を下す。ゆりの目の前で立華に助力を申し出たのだ。この場にゆりがいる以上、立華との繋がりを見せる発言は極力避けたかったが、悠長なことは言ってられなくなった。さすがにあの数は立華の力がないと難しい。音無の言葉に頷いた立華は廊下にある手すりに足をかけ、そのまま一気に空中へと飛び出した。

 

――バサリと、一瞬の間ののち彼女の背中から純白の翼が広がる。

 

立華の身体を容易に包み込めるほど大きなそれは、まさに天使の羽。その身から離れた真っ白な羽の欠片がふわりと散り、その姿にさらなる神秘的な美しさを与えていた。

 

「――綺麗だ」

 

こんな状況にも関わらず、思わず場違いなことを口走ってしまう。しかし、立華の雰囲気や容姿もあり本当に美しかった。さすがに飛ぶことはできず落下速度を抑える程度だったが、バサリと翼をはためかせてゆっくりと下へと着地する。

 

その様子を見ていたオレ達もさあ行こうとした瞬間、その横を走り抜け手すりから飛び降りる人物がいた。――って、おいおいっ!?

 

「ゆりっぺ!?」

 

揺らいだのは瞳と同じ紫色に染まる髪。我らがリーダーはここが3階であるにも関わらず、手すりを越え下へと飛び降りる。潰れるっ!と一瞬目を逸らしかけたが、ゆりは2階の少し広い足場に着地すると衝撃をうまく殺し、再び飛び降り運動場へと向かって行った。

 

「すげえ……」

 

「立華に負けてねえな」

 

立華が優雅な雰囲気で飛び降りれば、ゆりはアクロバティックな動きで猛追する。至極正反対に位置する2人ならではの違いだった。

 

「俺も行くぜ!」

 

「お、おい!……って、行っちまった」

 

先に飛び降りたゆりに続き、今度は音無が日向の静止の声も聞かずに飛び降りる。ヒヤリとしたがあいつも無事に着地できたようだ。

 

「んじゃ、オレも行くかな」

 

「神乃まで……。つか、お前あいつらのうちの1体にやられたんじゃなかったのかよ。大丈夫なのか?」

 

「いやまあ、情けない話そうなんだけど――」

 

その場で屈伸して筋を伸ばしながら、オレは影にやられた時のことを思い出す。大丈夫、もう油断はしない。あいつらを心配させるようなことは2度とするもんか。

 

「――だからと言って、仲間のピンチに駆けつけない理由にはならねえだろ」

 

ほら、お前らも行くぞ!と投げかける。日向は頭を掻きながら、直井は腕組みをしてふんと鼻を鳴らしながら答えた。

 

「……分かったよ。お前の言うとおりだ。あ!もちろん、俺は行かないなんてこと言わないからな」

 

「貴様に言われずとも音無さんがそこにいるなら僕はいつでも駆けつけるさ。ほかの奴らはどうでもいいがな」

 

「そうこなくっちゃな。よし!んじゃ、いっちょ派手に暴れるぜっ!」

 

残りのオレ達3人も手すりに足をかけると、そのまま下へと飛び降りる。ゆりのようにうまく着地はできなかったが、足を捻ったりはしなかった。

 

駆けつけた運動場はまさに乱戦といった雰囲気に包まれていた。そんな中、一足先に戦いに加わっていたゆりの背後から新しい影が忍び寄る。

 

その影の存在に気付かなかったゆりの足を掴み放り投げようとする。しかし、それより先に音無がすかさず掴んでいる腕を撃ち抜くことで助けた。オレ達も出遅れたりしないように各々の武器を構えて参戦する。

 

「待たせたな!!」

 

「神の前にひれ伏せ!!」

 

「主役参上!ってな」

 

新しい戦力なのだが、なぜか野田は不服そうな顔をしていた。

 

「ふん!!加勢などいらん!」

 

「ま、そう言うなって!」

 

「少しはオレ達にも活躍させてくれよっ――と!!」

 

迫りくる影にカウンターと言わんばかりに抜刀。綺麗に居合いが決まったことで身体を両断された影は地面に溶ける様に消失した。おしっ、相変わらず防御力はない。攻撃だけを見切れば手痛い一撃をもらうことはない。なにより、ここには仲間達がいるのだ。恐れるものなど何もない。

 

「うるぁぁぁぁ!!」

 

――荒れ狂う獣のように猛り声を上げた野田が振り回すハルバートが影達をまとめて切り裂き。

 

「……あさはかなり」

 

――人間離れした椎名の目にも留まらぬ手裏剣捌きと短刀による斬撃が影を真っ二つに断ち。

 

「Wooooo!!Dancing in the shadow!!――I kiss you」

 

――TKが舞踏を舞うかのような華麗な足捌きで影の攻撃を躱して、両手にそれぞれ持った銃で撃ち抜く。

 

「…………」

 

――そして、立華のハンドソニックversion5が削岩機で削るように細切れにしていく。当の本人は無表情で歩きながらただ腕を振り回しているだけに見えるからかえって恐い。おい、あの手の速度、残像しか見えないんだけど。どんな早業だっつーの。

 

「うっわ、あれくらいたくねえ……」

 

「そんなこと言わずに1回チャレンジしてみたらどう――だっ!!」

 

「いやいや、肉片すら残らねえ――って!!」

 

こんな状況でも軽口を叩けるぐらいの心の余裕がある。伸びてきた黒い手を地面を転がりながら躱し、左から右へと真一文字に一閃。すかさず刃を翻し真上から真下へと振り降ろした。十字が刻まれた相手にトドメにもらっとけと言わんばかりに銃を数発放つとその影も消失する。

 

「だりゃああああ!!」

 

するとハルバートを振り回していた野田が、オレ達がいるにも関わらず接近してきた。見境なく斬りつけるバカに慌てて身を伏せる。その瞬間、重量感のある何かが頭の上を通過していった。一緒にいた日向もうおっ!?とギリギリで避けていた。

 

「あぶねえ!?」

 

「てめえ!!味方ごと斬る気かよ!?」

 

「――計算の内だ」

 

「入れるなよ!?省けよ!?」

 

「もっとまともな計算式立てやがれっ!」

 

噛みついているオレと日向を、まるで仕留めそこなったと言わんばかりに鼻を鳴らす野田。この野郎、後で峰打ちして「安心しろ、峰打ちだ」っていうセリフの練習台にすんぞこらぁ!!

……恥ずかしいからなかなかできないんだよー。刀持ったら誰でも憧れるよね!ねっ!

 

「バカやってないで援護しあって!! 」

 

「分かってるよ!!」

 

オレは目の前の影に向かって数発の弾丸を放つ。背後から迫ってきた相手が横殴りに振った腕はしゃがんで躱し、そのまま足をバネにして跳躍。足元から脳天までを一直線に斬り裂いた。着地しその場で1回転。左上から右下に逆袈裟切り、そして腕を持ち上げ右上から左下に袈裟切りをお見舞いする。*のように斬られた影はドシンと後ろへと倒れそのまま消失した。

 

「にしてもなかなか減らねえな……。そもそもこいつらどっから湧いて出てんだ?」

 

いつまで経ってもなかなか減らない相手に嫌気がさしてきて辺りを見渡す。辺りには相も変わらず黒い軍団とオレ達SSSメンバー。そして、その様子を隅の方で見守る体育着姿のNPC達。どうやら体育の授業だったようで、驚いたり怖がっていたりそれぞれの反応を見せていた。

 

「NPCの奴らも今のところは無事、か。つか、あいつら逃げた方がいいんじゃね?」

 

あんな場所にいてはいつ影に襲われるか分からない。避難するように伝えようと足を踏み出す。が、その瞬間――

 

 

 

 

 

「――う゛っ、あああぁぁぁぁっ!!」

 

突然NPCのうち1人が頭を抱えて苦しみだす。突然のその異常に何事かと驚いていると、その身体が溶けるように1度崩れ、次の瞬間には()の姿へと変異した。変異したNPCの近くにいた他の者達は悲鳴を上げてその者から逃げ出すように距離を置く。

 

「なっ――!?」

 

あまりの衝撃的なシーンに言葉を失う。

――まさか、この影達の正体が元NPCだってのかよ……!?

 

だが、それなら辻褄が合うこともある。遊佐はオレも影と同じようになっていたと言っていた。その理由がオレが元々NPCだからだとしたら?それならば今目の前で起こった事とオレの影化に納得がいく。

 

しかし、何故?NPCは迷い込んだ者達が模範的な生活を送れるように見本となる。あるいは、共に学園生活を謳歌する為の友人的な存在だ。そんな奴らが何故影になってオレ達を襲う?

 

「神乃!ボーッとしてるとまたやられるぞ!」

 

「――っ!お、おうっ!」

 

すぐそばで戦いを続けていた日向に一喝され思考の海から戻ってくる。どうやら日向はNPCの変化に気付かなかったようだ。一方影化した奴はそのまま戦いへと加わってくる。どうやら影化した奴はNPCの奴らを襲わないようだ。

 

くそっ、とにかく今はこいつらを全滅させねえと!正直かなり憚られるが仕方がない。やらないとこっちがやられちまう。

 

迷いを振り切るように目の前に迫る影に刀を振るう。相手が斬り倒されたの確かめると他に影達が密集している所へと斬り込んでいった。

 

それからどれくらい敵を斬り、撃ち、消してきただろう。数分だけだったかもしれない、もしかしたら数十分以上戦っていたかもしれない。時間の感覚が麻痺するほど集中して敵を殲滅したオレ達は尻餅を突いたり、膝に手を当てて息を荒くしたりと力尽きていた。

 

「――皆、無事か?」

 

「おうよ、なんとかな」

 

「それにしても、なんなんだよあいつら。化け物かよ……」

 

音無の気遣う言葉に納刀したオレは手をヒラヒラと振ることで答える。すぐ横で、同じく疲労しきった日向が空を仰ぎながらほとんど呆れるように言った。

 

「あんな不気味な存在、この世界にはいなかったぞ」

 

「これは悪夢か……?」

 

「誘い乱れるcarnival……」

 

他の奴らも各々の感想を口に、疲労した身体を休めている。さすがに椎名やTKでさえもあれだけの数を相手にするのは骨が折れたようだ。顔には出さないが、言葉に端に疲労が滲んでいる。それらを見ていたゆりが、もしかしてと気づいたように言った。

 

「――この世界に長く居すぎたのかしら」

 

「……?どういうことだ」

 

「ゲームでよくあるじゃない。永久プレイ防止のために出てくる無敵のモンスター」

 

「――笑えないな」

 

確かに。今度ばかりは冗談ではない。立華の時はまだ彼女自身の問題だったから何とかなった。だが、仮にゆりの言葉が真実だとしたら、今度の相手はこの世界そのものだ。相手にするにはあまりにも部が悪く、そして大きすぎる存在だ。おまけに現時点で対策をしようにも世界の仕組みについて話すことができない以上、碌な案を出せる気がしない。

 

いっそのこと話してしまおうか?今回はあまりにも特例が過ぎる。NPCの異変は十中八九プログラムに何か細工をしたのだろう。その犯人はと考えたところで出てくるのはいけ好かない笑み。あの野郎、今度会ったら覚悟しとけよ。

 

「……にしても」

 

「……?」

 

ゆりが視線をハンドソニックを消した立華へと移す。その視線に気づいた立華が不思議そうにキョトンと頭を傾げた。

 

「まるで味方ね。やっぱり冷酷には見えないわ」

 

ゆりの事だ。もしかしたら薄々感づいているのかもしれない。どうするかと音無にアイコンタクトを送ると、奴も困ったような表情をしていた。どうやら判断に迷っているらしい。

 

「おーーーい!!」

 

「――ん?」

 

すると、運動場に大きな声が響いた。その出所である校舎へ繋がる階段の上を見ると、長ドスを持っていない方の手を荒々しく振る藤巻がいた。

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

「藤巻じゃねえか。どうしたんだよそんなに息切らして?」

 

おそらく全速力で走って来たのだろう。藤巻は膝に手をつき、息を整えると捲し立てるように言った。

 

 

 

 

 

 

 

「――やべえぞ……っ!高松が、高松がやられちまった!!」

 

 

 

 

 

 

その言葉に、オレ達は絶句するしかなかった。世界が、ついにオレ達の喉元に喰らいついた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつの眼鏡だ……」

 

場所は学習棟の渡り廊下。藤巻の報告を聞いたオレ達は報告のあったこの場所へと駆けつけた。そこには呆然と立ち尽くす大山と、持ち主を失った高松の眼鏡だけが残されている。日向の拾い上げた眼鏡はフレームは曲がり、レンズは無惨にも割れてしまっていた。

 

「僕、見たんだ……。高松君があの影に喰われるところを……!」

 

「喰われるって……」

 

大山の話によると、こいつが偶然高松を発見した時にはすでに奴自身、全身を影に覆われてしまっていたそうだ。

 

「僕も助けようとしたんだ!!でもっ……!どうしようもなくて……!」

 

悔しそうに涙を浮かべる大山。自分にはどうしようもなかった状況でも、何もできなかったことが本当に辛かったのだろう。オレは慰めるように震える肩に手を置く。

 

「……それで、最後には眼鏡まで外れて消えちゃったんだ」

 

「あいつが眼鏡を落とすなんて相当だぜ……」

 

「……で、その後は」

 

「地面に、飲み込まれていった……!!」

 

「地面に?」

 

ううっと泣き崩れそうになる大山を何とか支えてやるが、当の本人は泣き止む気配はない。マジでどうなっちまったんだよこの世界は。突然現れた影、喰われて消えたという高松の行方。昨日まで平穏に過ごしていたのに1日にしてありえない変化が起きてしまった。

 

「イレギュラー過ぎる……」

 

ポツリと呟くゆりの言葉の重大さに、オレ達は何1つ話すことができない。それからはそれぞれペアを組み高松を捜索することとなった。ペアを組んだのは、また影に襲われても対処しきるための戦力を確保しておくためだ。

 

だが、日が傾き、夕日が遙か遠くに消え、月が空に輝くような時間までひたすら探したが、結局高松を見つけることは叶わなかった。言いようのない思いを抱えながら、SSSは各々休息に入る。誰一人、この世界の異常に答えを出すことができない。

 

――唯一、世界の仕組みを知る、オレを除いて。




第26話でした。

物語も佳境。原作で言うと残り2話程です。
ですが、ここからが長いっ!僕自身も頑張って書きたいと思います。

また、今回神乃君が影相手に圧勝しますが、彼も本来はこれくらいの実力があります。前回のは油断と初めて相手にする敵への緊張等があっての敗北です。

なので、今回は油断もなく初見でもなく、ましてやフォローしてくれる仲間もいたので普通に勝っています。彼も武器を持って長くなりました。それくらいの戦闘は行えるようになったというわけです。

次の更新も一週間以内には行いたいと思います。
感想、評価、アドバイス、誤字脱字報告などお待ちしています。
ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。