死後で繋がる物語   作:四季燦々

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帰省中にもう1話上げると言ったな?あれは嘘だ。

いや、ホントすみません。色々あってこんなに遅くなってしまいました。ですが、1人暮らしの部屋でもネットが使えるようになったので、これからは前のように更新できると思います。

それではどうぞ!


Have a Dream

コハクが正式にSSSに入隊し、ようやく身の回りが落ち着いてきた頃。オレと音無、そして立華の『皆を卒業させ隊(仮)』は本格的な動きをすることになった。なんか(仮)ってつけると某恋愛カードゲームを思い出すよね。どうでもいいか。

 

「さて、どうしたものか」

 

誰かにも聞かれないようなところにこっそりと2人で集まり意見を交わす。ちなみに今は時間的には授業中なので立華はいない。誰に積極的にアプローチをかけるか考えていたのだが音無が1つの提案をしてきた。

 

「俺はさ、ユイがいいんじゃないかと思うんだ」

 

「ユイ?なんでまた」

 

「ほら、あいつって元々ガルデモにすっげえ憧れてたじゃん?今じゃそのボーカルの座も射止めてるし、結構満足してんじゃねえかなと思うんだ」

 

「……なるほど。一理あるな」

 

確かに初めて会ったときも熱狂的にガルデモについてのマシンガントークされたな。そういや、あの時初対面だっつーのに仕事してないって言われたんだっけ。今考えるとずいぶんと酷い知り合い方をしたもんだ。

 

「でもさ、現にユイは今もこの世界に留まってるよな。それって、ここでガルデモとしてバンドを続けたいと思ってるからじゃねえかな。だとしたら結構大変だぞ」

 

「それは……ユイ自身に聞いてみないと分からないな」

 

ふむ……結局は本人に直接話を聞くことから始めないと。まあ、初めからそうするつもりだったけど。コハクの時のような失態は2度とするもんか。しかし、いきなり聞かせてくれっていうのはちょっと怪しい。何か話を切り出せるきっかけの様なものを作らなければ。

 

「じゃあさ、早速立華に協力してもらうってのはどうだ?」

 

「奏に?でも、あんまり派手に動くとゆりに気づかれる……いや、待てよ――」

 

「んっ?なんか思いついたのか?」

 

「――ああ。。生徒会長っていう奏の立場だからこそ動ける方法がある」

 

「……?よく分からねえんだけど」

 

「作戦はこうしよう。えっとな――」

 

 

 

 

 

「悪くはねえな。でも大丈夫か?」

 

「大丈夫さ。ユイの性格からして必ずうまくいく」

 

「まあ、やれるだけやってみっか。じゃあ、オレは言われたとおりガルデモのところで待機してる」

 

「ああ。奏には伝えておく。頼むぞ神乃」

 

「作戦の肝はお前と立華じゃねえか。それはオレの言う事だな」

 

音無と別れたオレは目的の場所へと向かう。音無の作戦が決行されるまではまだまだ時間の余裕があるが、早めに行動しておいて損はねえだろ。

 

「――あっ!神乃ー!」

 

「うん?ぬおっ!?」

 

突然前方から白い塊が腹へと突っ込んでくる。ドンッという衝撃に後ろに倒れそうになったがなんとか踏ん張って受け切った。オレの視線より低いところに頭のあるその白い塊はモゾモゾと動くと背面に手を回しながらニパッと笑みを見せる。

 

「神乃、どこ行ってたの?私探したんだよ?」

 

「ああ、悪い。ちょっと野暮用でな。つか、コハク。いきなり突っ込んでくんな。危ないだろ」

 

「えへへ。ごめんなさい」

 

さてさて。誰だこいつと総ツッコミをしている人もいるかもしれないのでちゃんと説明しよう。これはコハクである。純白の長い髪も活発な赤い目も今だ細すぎるその身体もそのままの紛れもない我らがSSS新メンバーのコハクちゃんである。

 

あの騒動以降変わったことあった。そう、キャラが崩壊しているのである。正確にはメッキが剥がれたというか、本来持っていた性格に戻ったというかそんな感じだけど。ツンデレはなりを潜め、すっかり甘えんぼうになってしまった。おそらく生前甘えられていなかったことの反動だと思う。

 

まあ、これはこれで役得だし全然かまわない。クールさが失われたがその分可愛さがマジラブ2000%。つまり超可愛い。可愛いは正義って本当だったんだね。

 

「ねえねえ、今からどこ行くの?」

 

「今はガルデモのところに行こうかなって思ってたところだよ」

 

「……神乃、もしかして浮気?ハーレム作ろうとか考えてる?遊佐さんに言いつけるよ」

 

何故そうなる。というか、誰だコハクに妙な知識与えたの。正直に出てきなさい、お兄ちゃん怒らないから。

 

「違げえよ、ただ練習を見に行くだけだ。新曲ができそうって言ってたし。つか、何で遊佐なんだよ」

 

「えっ?だって神乃、遊佐さんのこと好きなんでしょ?」

 

「はい、ストップ。そこストップ。コハクさんや、ちょっとお話ししようか」

 

「お喋り?うん!するする!」

 

嬉しそうにしてるけど、たぶんお前が考えてるような楽しい会話じゃねえと思うんだけどなー。会話という名の事情聴取なんだけなー。

 

「さて、コハクさんや。さっき言ってたのはいったいどういう事かな?」

 

「さっき言ってたことって?」

 

「いや、ほら……。オレが、その……遊佐のこ「あー、遊佐さんが好きってこと?」――はい、それ。マジそれ」

 

「えー、だってそれは見てれば分かるよ。態度に滲み出てるし」

 

「……マジで?」

 

「うんっ!すっごいマジ!」

 

なんてこったい。まだ付き合いのそれほど長くないコハクに気づかれていようとは。まさか、遊佐自身に気づかれてたりしないよね?うわっ、なにそれ恥ずかしすぎる。次からどんな顔して会えばいいのか分かんねえんだけど。

 

「うーん、大丈夫だと思うけどな。遊佐さん、そういう事には疎そうだし」

 

「そ、そうか?そうだよな……。分かんねえよな」

 

だよな!遊佐ってそういうことに興味なさそうだしな!おおう……言ってて悲しくなった。

 

「――でも、遊佐さんは遊佐さんで矢印向いてると思うんだけど」

 

「うん?すまん、最後聞き取れなかった」

 

「なんでもなーい!はいっ!じゃあ行こ、神乃」

 

「行くってどこに?」

 

「ガルデモに人たちのところ!今から行くつもりだったんでしょ?私も行く!」

 

「お、おい!引っ張るなって!」

 

片手に日傘を持ち、もう片方でオレの手を握ってきたコハクに引っ張られるように連れ去られる。と、とにかくこの話題は深く考えないようにしよう。コハクもわざわざ遊佐には言わないだろうし。……でも、ゆりとかには話しそうだな。弄り倒されるのが目に見えるようで恐怖しかない。

 

 

 

 

 

ガルデモの練習が行われる教室へとやって来たオレとコハク。一応差し入れに飲み物も買ってきてるからこれを渡して場を繋ごうと思う。ちなみのコハクちゃんはすでに1本リンゴジュースを開けてます。珍しく演奏の音が聞こえないので休憩中かと思い扉を開けた。

 

「――現状の説明を求む」

 

「お、神乃とコハクちゃんじゃないか。いきなりどうしたんだ?」

 

「いや、たまには様子見にでも来ようと思って差し入れを持ってきたんだが……」

 

いやいや、んなことはどうでもいい。オレが知りたいのは今この教室でのお前らの状況だよ。

 

「なんでユイと関根はお前に土下座してんだ?」

 

腕を組んで立つひさ子の眼下ではユイと関根が床に頭着けて深々と頭を下げている。古来日本に伝わる最上級の謝罪の姿勢、DO☆GE☆ZAである。ちなみに頂点は土下寝。北村君が失恋大明神になってやってたアレ。……さっきの話があっての失恋の大明神の話とか縁起悪すぎだな。

 

バカ2人が頭を下げ、この状況にどうすればいいのか分からない入江が小動物のようにオドオドしている。なにやっちゃったのこいつら?

 

「えっ、えっとですね、ユイとしおりんがひさ子先輩のギターにまたイタズラを……」

 

「イタズラ?」

 

「ギターの弦をメチャクチャに張り替えやがったんだよ。6弦が3弦目に張ってあったり、1弦が5弦目に張ってあったりな」

 

「そりゃまた随分とアホなことやってんなおい。無駄に手間がかかってる」

 

なるほど。そりゃひさ子が怒るわけだ。

 

「ったく、弦がもったいないだろうが。一応消耗品とはいえそうポンポン用意できないんだぞ。というか、なんで私のギターにやったんだよ。返答次第によっては……シメるぞ?」

 

「「申し訳ありませんでしたっ!!」」

 

怒髪天をつくとはまさにこのこと。その気迫でご自慢のポニーテールが宙に浮かびそうである。なにそれどこの超戦士?怒りで金髪になったりするのかな。

 

「……で、結局なんでイタズラなんかしたんだ?」

 

「え、えっとですね……」

 

「いや、その……」

 

口ごもってんな……。そんなに言いづらい理由でもあんのか?

 

「「で――」」

 

「で?」

 

「「出来心ですっ!」」

 

「――シメ倒す」

 

2人のイタズラの理由がさらにひさ子の怒りのボルテージを引き上げたのか、ひさ子は2人の頭をそれぞれ片方の手で掴む。紛れもない、アイアン・クローの構えだ。ちなみに別名はブレーン・クロー(脳天締め)と言う。

 

「ちょっ!?ひさ子さん待って下さい!!」

 

「神乃先輩ヘルプ!!助けてください!!色々マジですこの人!!」

 

「すまん、無理だ」

 

「こ、コハクちゃん!ライブしてあげたよねっ!今ここにその恩を返す時が来たよっ!!」

 

「ご、ごめんなさい。私も無理です」

 

「「そ、そんなっ!!」」

 

「――2人とも?」

 

「「ヒィ!!」」

 

「――1回くたばれ」

 

ギリリリリッとひさ子が手に力を込めた瞬間、ギャアアァァ!!と女子らしからぬ絶叫を上げるユイと関根。2人とも南無。安らかにな。

 

 

 

 

 

「うう、まだ痛い……」

 

「頭変形してませんよね……?」

 

2人ともよっぽど痛かったのか、目元に涙を浮かべながらウンウンと頭を押さえていた。ったく、やらなきゃいいのに。つか、なぜひさ子を相手に選んだし。

 

「自業自得だぞお前ら」

 

「もう二度とするんじゃないぞ?次やったら……分かるよな?」

 

「「はいっ!!肝に銘じておきます!!」」

 

ピシッと効果音がつきそうなくらい背筋を伸ばし返事を返す2人。口ではこう言っているが、オレの予想ではこいつらはまたやらかすと思う。だってそういう奴らだし。

 

「はあ……」

 

ひさ子も薄々分かっているのか、小さくため息をついていた。オレは机に置いた差し入れの飲み物のもとへと行くと、スポーツドリンクを取り出しをひさ子へと渡す。

 

「ほら、お疲れひさ子」

 

「んっ?ああ、サンキューな」

 

「ほら、ユイに関根、あと入江も好きなのとっていいぞ」

 

「さっすが先輩!太っ腹ですね~♪」

 

「あ、ありがとうございます」

 

さっきまでの様子はどこへやら。関根は早くも復活し、入江も小さな声でお礼をしてきた。

 

「どうしたんですか神乃先輩?なんか今日優しくないですか?どっかで頭でもぶつけ「やっぱユイの分は無しで」わぁぁぁ!すみませんすみません!!いります!ぜひいただきたいです!!」

 

初めからそう言え、バカ。ユイの慌て様に苦笑していたオレはあらかじめ自分用に買っていたkeyコーヒーのプルタブを開け少しだけ飲む。そして、同じようにスポーツドリンクを飲んでいるひさ子の下へ近づいて行った。コハクはユイ達に揉みくちゃにされながらも一緒に2本目ジュースを飲んでいる。お腹壊しても知りませんからね。

 

「んで、調子はどうなんだ?」

 

「まあまあ……ってとこかな。関根と入江は、まあ今までどおりだし問題ないと思うよ。ユイはまだまだ岩沢には到底及ぶようなものじゃないけど、最近じゃ少しずつ技術も上がってきてるしね」

 

「そうか……」

 

コハクを交えて関根、入江と共に飲み物を飲みながらはしゃいでいるユイをなんとなく眺める。関根にからかわれ、コハクに何で助けてくれなかったのかと怒り、入江に宥められている。でも、最後には満点の笑顔を皆に振りまいていた。穢れの無いその笑顔は心のそこから今を楽しんでいるようだった。その笑顔を見ていたオレは気づかないうちに自然と言葉を口にしていた。

 

「おーい、ユイ」

 

「……?どうしました先輩?」

 

「ガルデモ、楽しそうだな」

 

「ふっふっふ!あったりまえじゃないっすか!つまらないわけないです!!」

 

元気いっぱいで答えるユイ。浮かべてるのは純粋な笑顔。含むのは音楽に対する真っ直ぐすぎるぐらい真っ直ぐな気持ち。迷いなんて、一切感じられなかった。

 

 

 

 

 

「――革命起こしに行こう、夢を叶えに行こう♪」

 

休憩も終わり練習が再開。オレとコハクは隅の方でその練習を眺めていた。そろそろ音無に言われていた時間になる。作戦の大まかな内容はこうだ。何か理由をつけてガルデモの練習している教室に立華が笑われる。そして、ユイのギターを持ち去って追いかけてくるように誘導。適当なところで音無が、ギターを奪い返してユイに返し話を聞く展開に持っていく、という事だ。

 

具体的な理由とか、ギターを持ち出す口実とかは音無が任せとけと言ってたんだしなんとかなるのだろう。オレの役割はユイだけが立華を追いかけるようにひさ子達を止めることである。まあ、これはそこまで難しくねえだろ。ユイなら勝手に暴走して追いかけそうだし。

 

にしても、こんだけガルデモの曲聞き放題ってのも良いもんだな。隣で聞くコハクもニコニコと天使のような笑みを浮かべながらリズムを取っている。ずっと聞いてきたけど全然飽きたりしないし、むしろいつまでも聞いていたいぐらいだ。今聞いてるこの『Shine Days』もいい感じだし、ガルデモ万々歳だ。

 

「駆けだしたらどこまでも行こう!アインシュタ「ストーップ!!」へ……?」

 

歌が1番のサビへと移り、さあこれから盛り上げるぞという場面になって急にひさ子が演奏を止めた。つられて残りの3人も自分の楽器を弾く手を止める。あれ?なんで止めたんだろ。

 

「どうかしたのか?」

 

「どうもこうもあるか。こら、ユイ!そんなヨレヨレのリズムで続けるな!」

 

「ええ~~……」

 

「ユイ~歌うか弾くかどっちかに専念した方がいいんじゃないの?」

 

「あ~そりゃ言えてる。今のまんまじゃ酷すぎるわ」

 

ユイ以外のバンドメンバーはなんでひさ子が止めたのか分かったみたいだ。素人のオレには何がダメだったのかさっぱり分からん。普通に上手いと思ってたし、コハクもキョトンと首を傾げている。

 

「そんな~!岩沢さんは弾きながら歌ってましたよ~!」

 

「そりゃ、岩沢はどっちもうまかったからだよ」

 

「うう……!わ、私だって頑張ってますよ!皆さん言うことキツすぎますよ!ライブだってちゃんと盛り上がってるじゃないですか!」

 

「でも今回は新曲だぜ?」

 

「で、でも~……」

 

三者三様の集中放火を受けまくったユイは、ガクッと言った感じに肩を落とした。フォロー入れるべきなのかと思ったのだが止めといた。餅は餅屋、適材適所というやつだ。専門な事は専門家に任せるのが一番だろう。余計な事を言ったって無駄だ。コハクがハラハラしていたので頭を撫でつつ、大丈夫と言い聞かせながら黙って傍観する。

 

ふと廊下の方へ視線を向けてみると銀色のような髪が揺れたのが見えた。おっ、ようやく来たかと内心で呟く。さて、立華はどんなこと言ってギターを持ち去るのか。ちょっと楽しみだったりする。そして、扉の前まで来た立華は練習している教室の扉を開けた。

 

「ったく、今度はだ……れ……」

 

「天使っ!?何でいきなり!?」

 

ガルデモメンバーはそれぞれ驚愕の表情を浮かべる。身を引き、何かを盾にする等の反応を見せた。オレも一応作戦がバレないように戦闘体勢をとり刀に手を添える。まあ、しょせん見せかけで、マジでやり合うわけじゃねえんだけど。ここでボーっとしてたらそれはそれで怪しいし。

 

その立華はユイの目の前まで来ると、ビシッと指差しこう言い放った。

 

 

 

「――お前のギターのせいでバンドが死んでいる」

 

 

 

「は……?」

 

全く予想していなかったセリフ(棒読み)に思わず口からアホみたいな言葉が零れる。何を言ってるんだとツッコミを入れたくなったがギリギリのところで抑えた。コハクも立華の言葉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。というか、お前これが初対面だったな。すっかり忘れてた。

 

「一瞬にして今のバンドの弱点を見抜いた!?」

 

「やっぱりただ者じゃない!!」

 

「すごい!音が分かるのよ!」

 

というか、音無さんや。お前さんは立華に何言わせてんだよ。これ立華絶対よく分からずに言ってんだろ。作戦話している時の立華のキョトン顔がありありと浮かぶんだけど。

 

「ええ~そんな~!!皆は気づいていないと思ってたのに!!」

 

「というわけで、そのギターはしばらく没収させてもらう」

 

立華は放心状態になったユイからギターを奪うと教室から出て行ってしまった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

言葉を失うオレ達。加えて、ユイはその場にへなへなと崩れ落ちてしまった。って、違う違う!状況に呆然としてる場合じゃねえ!!早くユイに立華を追いかけさせねえと作戦が進まねえじゃん!

 

「ユ、ユイ?ギター!ギター取り返しに行かねえと!!」

 

「はぁ……」

 

「えっと、あっ、ほら!ダメだったところももう1回練習しなおさないと、だろ!?」

 

「はぁぁぁ……」

 

だ、ダメだ……!完全に魂が抜けてやがる。まったく追おうとしねえ。真っ白に燃え尽きてやがる。どこのボクサーだお前。

 

「まあ、天使も没収って言っただけだし壊したりはしないだろ。ちょうど良いしギター無しで歌ってみろよ」

 

「ひ、ひさ子?いや、でもさ……」

 

「どうしてそんなユイを追いかけさせたいんだ。あの天使がユイに手を出さないとは限らないだろ。正直危ないよ」

 

あまりのど正論に何とか追わせようと思っていた口実が全て霧散してしまった。あんまりしつこく言うと深く追究されそうだし、ここは引き下がるしかない。すまん、音無。オレ、役立たずだったよ。でも、お前の作戦にも後で異議を申し立てるからな。

 

「さあ、『Shine Days』の初めからもう一度やるよ!ほら、ユイもいつまでも呆けてないでマイク握った握った 」

 

「分かりました」

 

「了解で~す!」

 

「……は~い」

 

う~む……どうすっかな。このままにするわけにはいかねえし、なんとかユイが元気を取り戻して、なんかこうメラメラ~!って取り戻す気になってくれればいいんだけど。

 

「ねえ、神乃?」

 

「うん?どしたコハク?」

 

「さっきに人が生徒会長の天使、なんだよね?」

 

「ああ、そうだ。あれがSSSの敵だ」

 

見かけ上は、な。

 

「ふ~ん。でも、なんか敵って感じしなかったね。とっても優しそうに見えたよ」

 

「あれで無茶苦茶強いからな。1対1ならオレは勝てん。断言できる」

 

「そんなに自信満々に言う事じゃないと思うけど。……でも、やっぱり引っかかるなー。絶対良い人だと思うんだけど」

 

ウンウンと頭を唸らせるコハクにオレは思わず苦笑する。オレの時もそうだったが、もしかしたらこの子は他人の本質を見抜く力に優れているのかもしれない。味方の少ない立華のことをそんなふうに考えてくれるだけで嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

「Shine Days~♪」

 

ユイが歌い終え、ひさ子達の演奏が終わる。で、ユイはギター無しで歌いきったわけなんだが。

 

「意外と……いいんじゃね?」

 

「神乃先輩の言うとおりだよユイ!ギター無い方が全然ブレてないよ」

 

「え~~でもなんかサウンド薄っぺらくないですか~?やっぱりリズムギターいるでしょ」

 

ギター無しだと確かに音が物足りない感じがしないでもないがそれも微々たるものだ。それよりもユイの歌声に芯が通っていて響きも良くなってきていたと思う。そうは言っても、オレ達の言い分に不満タラタラなユイ。

 

「薄っぺらいっつってもほとんど分かんねえよ。たぶん他の奴らは言われねえと気づかないと思うぜ」

 

「神乃先輩は黙っていてください!!」

 

おおう、なんか怒られちまった。

 

「じゃあサイドギターもう1人入れるか」

 

「……あ~もう!私が言いたいのはっ!!」

 

顔を1度伏せ、プルプルと震えだしたユイ。あっ、キレたんじゃね?ようやくきたんじゃね?

 

「やっぱバンドはボーカルがギター背負って歌うのが1番絵面的にシビレんでしょって話だゴラァァァァァ!!」

 

「おわっ!?こいつひさ子さんにキレた!!」

 

とうとう我慢しきれなくなったユイが俯いていた顔を上げ、ズカズカとひさ子に詰め寄りだした。チャンスッ!煽るならここだ!

 

「落ち着けユイ!!お前じゃひさ子には色々勝てねえよ!!」

 

「色々ってどういう意味じゃあぁぁぁ!?胸か!?胸なのか!?ひなっち先輩に続いてお前もかぁぁぁぁ!!どぁれが今その話をしたぁぁぁぁぁ!!」

 

「お、落ち着いてユイ!神乃先輩はそうは言ってな――」

 

「分かってんじゃねえか!お前じゃひさ子にゃ勝てねえよ!!」

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「か、神乃先輩っ!?火に油を注がないでくださいよ!!」

 

「みゆきち頑張れ~」

 

「しおりんも見てないで止めてよぉ!!私じゃこの2人は止められないのにぃ!!」

 

ワーワー騒ぐが、一向にユイの怒りがおさまる気配はない。計画通りとキラ張りにニヤリとする。ここまで煽れば動きを見せるだろう。

 

「やっぱ私ギター取り返してくる!!」

 

ほら、予想どおり。

 

「あっ、ユイ!……って、行っちゃった」

 

「大丈夫かあいつ?天使に返り討ちにあうのがオチだと私は思うんだけど」

 

「んじゃ、オレが探してくるよ」

 

「いいのか神乃?相手は天使だぜ?」

 

「別にバトルわけじゃねえし、大丈夫だろ」

 

ユイが教室から出て行った以上、オレの役割は完遂だ。もっと聞きたかったが、まあ仕方ない。

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。あっ、コハクはここにいろよ」

 

「え~」

 

「言う事聞いたら学食でデザート奢ってやるよ」

 

「いってらっしゃい、神乃。私ちゃんと待ってるね」

 

変わり身はええな、おい。お前そんな現金な奴だったか?

 

「ユイをお願いします」

 

「頼りにしてるよ~せ・ん・ぱ・い!」

 

「はいはい。そっちもうちの姫さんを頼むな」

 

関根と入江の声援を背にオレはユイのあとを追いかけだした。音無の話だとギターを取り返すのって、確か中庭だったっけ?

 

 

 

 

 

「いたいた。バッチリ順調みたいだな」

 

オレが中庭に到着すると、ちょうど音無がユイにギターを手渡しているところだった。その様子をユイに気づかれないように柱の影からこっそり覗き込む。こっからは音無の出番だし、オレは様子見をさせてもらおう。

 

「――相変わらず好き放題やってんな、お前」

 

「へっ?好き放題?やってないよ好き放題なんて」

 

「バンドのボーカルの座を射止めたじゃん。ギターまで弾いてさ」

 

「そんなの全然だよ。やりたかったことの1つにすぎないよ。」

 

柱の影から2人の会話に耳を潜ませる。つか、1つにすぎないって……。他にもやりたいことあったのか。てっきり音楽1本かと思ってた。

 

「はっ?やりたかったことの1つにすぎないって……他にもあるのか?」

 

「うん、あるよ。いっぱい」

 

いっぱいあるのか……。音無の推理外れてたな。色々大変そうだ。その時、ガサリと背後で物音がする。

 

「誰――って、なんだ立華か」

 

振り返ると音無にギターを渡し終えた立華が立っていた。これはアレだな。会話を聞くのに夢中になっていたオレは背後から近づいてくるもう1人の仲間に気が付かなかった、てやつだな。やばい、薬飲まされて身体が縮んじゃう!

 

「結弦はどうかしら」

 

「まあ、色々聞き出せてはいるみたいだぜ」

 

「そう。良かった」

 

「でも、何かユイには他にやりたいことがいっぱいあるみたいでさ、音無も困ってるみたいだぜ?」

 

「そう」

 

えらい淡白な返事だな。もう少し驚いたりはしないのかね、こいつは。ああ、そういや立華はユイのことは全然知らないんだっけ。

 

「……ん?」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、なんか2人が移動し始めた」

 

とりあえず場所替えか?まあ、立ち話でやるような内容じゃないはずだし、当然っちゃ当然か。

 

「オレらも移動すっか」

 

「私は教室に戻るわ。あなたも私と一緒に行動しているところを誰かに見られたら困るでしょう?」

 

「あ、確かに」

 

いかん、いかん。オレと音無は立華と敵対()()()()ことになってんだった。こうも親しげに話しているとそのことを忘れてしまいそうになる。

 

「そっか。じゃあ、またあとでな」

 

「ええ」

 

立華はそれだけを告げ、眩しく輝く長い髪を翻し校舎の方へと歩いていった。立ち去り方も颯爽してるね、生徒会長。

 

「おっと、見失っちまう前に追わねえと」

 

オレは2人が歩いていった方へと気づかれないように走りだした。

 

 

 

 

 

場所は移って学食前のベンチ。その先には体育中のNPC達がわちゃわちゃと動き回る運動場がある。――結論から言おう。BA・RE・MA・SHI・TA。

 

いや、こっそり聞こうと思ってたんだけど、オレのところに体育のソフトボールが飛んできてな、慌てて避けたらユイに見られた。くっ!不覚!

 

「何してるんですか先輩」

 

さすがにいつまでも黙り込んでいるわけにはいかないので、とりあえずそれっぽいの理由を述べることにする。

 

「いや、飛び出したお前をひさ子達に変わって追いかけてきたんだよ」

 

「あ、そうだったんですか!ギターはこのとおりバッチリですよ!」

 

「みてえだな。取り越し苦労だった」

 

とりあえず会話が自然に成り立つように場を持たせる。音無もユイの反応にひとまず安堵していた。上手く誤魔化せたようだ。

 

「ところでお前達は何話してたんだ?」

 

「えっとですね、私の生前について話してたんですけど……」

 

正確には話そうとしていたんですけどとユイ。うーん……本当はこっそり離れて聞くつもりだったんだけどな。見つかった以上、ここは立ち去った方が無難か?

 

「そうか……。なんか邪魔したみたいで悪かったな」

 

作戦の邪魔にならないということもだが、それ以上にユイの心情を考える。あまり大勢に聞かれたくないことだろうと考えその場を去ろうと踵を返す。だが、その前にユイがオレに問いかけてきた。

 

「神乃先輩も聞きますか?私は別に構わないんですよ」

 

……こりゃ、予想外な申し出だな。

 

「いいのか?生前の話って、その……話しにくいんじゃねえのか?」

 

「別に大丈夫ですけど?」

 

えっ?なにそこまでシリアスになってるの?と言わんばかりに首を傾げるユイ。いや、軽くね?オレの気づかいはどこ吹く風ですかい?

 

「ほらほら!2人とも立っていないで座ってください!!ユイにゃんの特別なお話ですよ~!」

 

「わーったよ!」

 

「あ、ああ……」

 

どうしてこうなるんだって顔してるな音無よ。オレも似たような感じだ。オレ達2人がベンチに座るのを確認すると、ユイは割とスムーズに話し出した。

 

「私ね、やりたいこと人よりいっぱいあるんだ。どうしてだと思う?」

 

「そりゃあ……生きてる時にできなかったから、だろ?」

 

「そうそう、そのとおり。小さい時にさ、後ろから車にはねられちゃってさ、体が動かなくなっちゃったんだよね」

 

完全に寝たきりだったんだ、と続けるユイ。できるはずのことができない。その苦痛は味わったものしか分からないだろう。明るめに話してはいるが、本当はずっと苦しんでようやく飲み込んだはずだ。

 

「介護無しじゃ生きられなくて、そのせいでいつもお母さんに頼りっきりだった。……お母さんにすごく悪いことしちゃったなって」

 

自分の母親のことが出てきた瞬間、明るい表情が一瞬崩れ、苦悶の表情が現れる。ユイはお母さんっ子だったみたいだな。だからこそ、自身が母親を縛り付けてしまったことが悔やまれるのだろう。

 

「でもね、テレビだけは見れたからさ、音楽番組でバンド見て、こういうの自分でできたらいいなって」

 

「それがお前の音楽に対する強い気持ちってわけなんだな」

 

「まあ、そうなるかな」

 

「じゃあ、良かったじゃん、バンド組めて。すっげー楽しいだろ?」

 

「うん!!今はすっごく楽しいし!!」

 

目をキラキラとさせ笑うユイからは心のそこからそう思っているのがひしひしと伝わってくる。

 

「じゃあ他にはどんなことやりたいんだ?」

 

「えっとね、野球中継もよく見てたんだ。だから野球もしたいんだよね」

 

「野球なら球技大会でやっただろ?」

 

「え~~!?あんなの全然だよ~!!」

 

あれでか?結構盛り上がったと思ったんだが。野球部相手に良いとこまで行ったし。もっともユイと日向はあの後ゆりに折檻されてたけどな。

 

「だってあの時打てなかったじゃん!!」

 

「打てなかったって……そりゃもちろんヒットを、ってことだよな?」

 

「何言ってんのさ!!ホームランだよ!!」

 

自らハードル引き上げやがった。そもそもお前、あの試合じゃバットに掠りもしなかったじゃねえか。そんな奴がホームランとか。

 

「い、一応聞くけど他には……?」

 

「えっとね、サッカー!!」

 

「……まさか他には?」

 

「あとね、プロレス!!」

 

む、むちゃくちゃ過ぎる……!!ちょっと節操が無さすぎやしませんかねユイさんや。バンドやって、野球やって、サッカーやって、しまいにゃプロレス?隣で聞いている音無も頭を押さえている。大丈夫だ、音無。オレも頭抱えたい。

 

でも、ユイの望みは生前にテレビから得た()()()()()()()()()()()だ。きっと、本当にやりたかったことなのだろう。だったら――

 

「――うっし!じゃあ、やるか音無」

 

「だな。ユイ、その願い……俺達が手伝うよ」

 

全部叶える最後までとことん付き合ってやるさ。それが今のオレ達にできることだからな。

 

「え……?」

 

「そうだな……手軽なとこからプロレスでどうだ?」

 

「いいんじゃね?じゃあオレ審判やるからお前技の受け手な」

 

「うえっ!?俺が技かけられるのかよ!?」

 

「えっ!?えっ!?先輩達何言ってるんですか!?」

 

突然ベンチから立ち上がり、邪魔なブレザーを脱ぐオレ達にユイは驚きの表情を隠せない。

 

「何って、今からプロレスすんだよ。やりたかったんだろ?」

 

「プロレス!?いいんですか!?」

 

「いいも何もこっちは準備万端だぜ」

 

音無が。

 

「ほら、技は何したいんだ?」

 

「やったー!私、ジャーマンスープレックスがしたいんです!!」

 

説明しよう!!ジャーマンスープレックスとは相手の背後へと回り腰ぐらいでホールド、そのままブリッジする感じで相手の頭(首?)から落とす派手な技のことである!!ぶっちゃけ超危ない!

 

まあ、キン肉バスターとかじゃなかっただけマシなのかもしれない。

 

「……ドンマイ音無」

 

「いや、止めてくれよ!?明らかに無理があるだろ!!」

 

「イヤ、オレハデキルトオモウヨ?」

 

「片言じゃねえか!?絶対思ってないだろそれ!!」

 

そんな感じの物議は数分続いた。だって一般の男子ぐらいの背の音無と女子の中でも小柄なユイじゃ……ほら、ね?体格差で明らかに失敗するのが目に見えて分かるし。

 

「あ~もう!!分かったよ!!ほら、ユイ。いつでもかかってこい」

 

んで、結局音無が折れて1度やってみることにした。

 

「いいんですか!?」

 

「ああ……」

 

「よっしゃーー!!」

 

両手を真横へと開き技をかけやすいようにした音無の背後に周り、腰の辺りでホールドするユイ。

 

「ふ……ん……っ!!」

 

「おおっ!?持ち上がった!?」

 

「なんだよユイ。結構力あるじゃねえか。これならいけるぞ!!」

 

意外にも、ユイは音無の体を持ち上げて見せた。あとはブリッジする感じで地面に叩きつけるだけだ。さあ、派手に決め手やれ!!

 

「お……りゃーーー!!」

 

「おおっ!!って……!?」

 

――ガンッ!!

 

「――いってぇぇぇぇぇぇ!?」

 

叩きつけるだけなんだが……うん、こりゃ失敗だな。

 

ユイはブリッジするというより後ろに飛ぶような感じになってしまい、加えてホールドしていた手を離してしまったのでただ音無を後ろにぶん投げるような形になってしまった。音無は見事に地面に頭から落ち、「うおぉぉぉぉ!?」とゴロゴロ転がって悶えている。

 

「……そういや、ここコンクリートだったな」

 

失念していた。むちゃくちゃ痛がる音無を見てやっと気づいた。

 

「やっぱり女の子の私じゃ、プロレスなんて無理なのかな……」

 

地面をゴロゴロ転がりながら痛がる音無とは違い、ユイはというとショボンと落ち込んでしまっている。すごいシュール。温度差がヤバイ。

 

「いや!!できそうでしたよ!?ムッチャ惜しかったスよ!?」

 

「えっ?本当に!?」

 

後頭部を押さえた音無が半ばやけくそにフォローを先に入れてくれる。おい、泣くなよ音無。見てるこっちが泣きたくなるだろ。そして、交代したくなくなるだろ。

 

「じゃあもう1回やっていいですか!?」

 

「え……?」

 

「まあ、技は完璧じゃなかったしな。バッチリできるまで頑張れ音無」

 

「交代してくれないのか!?頼むから次は変わってくれよ……」

 

「……あれを見せられて、OKするわけねえだろ」

 

「薄情者!」

 

「まあ、マジで無理だと思ったら言ってくれ。そん時は変わるよ」

 

あの、私が失敗すること前提にされてませんか?とかいう言葉が聞こえたが、あえてのスルーで。運動場行ってヘルメットとか借りて来れねえかな。ダメ?ダメか。

 

「はあ……分かったよ。ならせめて芝のところにしてくれ。このままじゃ俺が死ぬ」

 

「「あっはは!死ぬかっての!!」」

 

「食らってもいないお前らが言うな!!」

 

そんな感じでオレ達は芝のある場所へと移動。そこからまた再開だ。

 

 

 

 

 

「おりゃああああ!!」

 

――ゴンッ!

 

「……保たない。神乃、交代」

 

「もう!?分かったよ……」

 

「す、すみません……」

 

 

 

 

 

「どりゃああああああ!!」

 

――ガツンッ!!

 

「いったあぁぁぁぁぁ!?おまっ!なんで一々手を離すんだっつーの!?」

 

「わわわっ!すみません!すみません!次こそ!次こそは必ず!!」

 

「言ったな?いい加減最後だかんな?」

 

「了解です!」

 

 

 

 

 

「でやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

――メキッ!!

 

「ぎゃあぁぁぁ!!メキッて!?今メキッて言ったぞおい!!絶対折れたってこれ!?」

 

「ごめんなさいごめんなさい!!」

 

「神乃、手首が変な方向に曲がってるぞ」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

まあ、賢い人はオレ達の会話と効果音だけで状況は理解できたと思う。ちなみに手首はすぐ治った。ひとまず何度か技を受けてみたが全くできていないので、できない原因を考察してみることにする。さすがにこのままできるまで技を受け続けたら身が持たない。

 

「お前さ、もしかしてブリッジとかできねえんじゃねえか?」

 

「で、できますよ!!」

 

「なら、やってみろよ。ほら、ハリーアップ」

 

「いいですよ!しかとその脳みそに焼き付けてください!」

 

焼き付けるのは目だ。脳に焼き付けたら死ぬわ。

 

「よっ!ほっ――て、あれ?」

 

「……できてねえじゃねえか」

 

「あ、あれ~?おかしいですね。あはっ、あはははは……」

 

「あははは……じゃねえ!!結構今までオレと音無が無駄に身体痛めたのはなんだったんだよ!!」

 

ったく、ここから改善せにゃならんのか。

 

「まずはブリッジの特訓だな」

 

「え~~っ!?そんなのつまんな~い!」

 

「「いいからやれっ!!」

 

 

 

 

 

数時間ブリッジの練習に費やし、ようやく何とかできてなくもない感じになってきた。

 

「ほっ!ど、どうですか?できてますよね!?」

 

「ブルブル震えてるな」

 

「ああ、生まれたての子鹿のようだ、とはまさにこのことを言うんだろうな」

 

「まっ、一応できてるしこれでいっか」

 

いつまでもブリッジの練習してても仕方ない。本題に再チャレンジだ。

 

「じゃあ、いっきますよ~!!」

 

「頼むから今度こそ決めてくれよ」

 

ホールドした手を腹の前で外れないように組む。ちなみに今回投げられるのは音無だ。オレはというと、傍らで審判係として立っている。逃げたわけじゃないから。順番的に音無だっただけだから。じゃんけんとかしてないから。

 

「くぬぬぬ……!」

 

「おお!?良いぞユイ!」

 

バッチリ様になってんじゃねえか!!腕もガッチリはまってるから、これなら途中で手を離すこともないだろうし、音無も逃げられない!つまり……

 

「「完璧な……」」

 

――オレと音無の言葉が重なる。

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「ジャーマンスープレックスだぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

――ズドンッ!!

 

「がっ!!」

 

音無をホールドし、なおかつ完璧なブリッジ体勢へと持っていくことのできたユイ。そしてそのまま渾身のジャーマンスープレックスを音無に叩き込んだ。今まで失敗していたのとは違って、まるでお手本のような出来だったと思う。

 

「1!2!3!カンカンーン!!試合終了ーー!!」

 

「ふえ……?やった……やったんだ私。あっはははは!勝った!バンザーイ!!」

 

カウントが終わった途端、辺りをジャンプしながら騒ぎ倒すユイ。よっぽど嬉しかったんだろう。ガッツポーズを空高く上げ、そこら辺を飛び跳ねていた。その素直な感情表現につられ笑みを浮かべ、首元を擦っている音無の下へと向かった。

 

「大丈夫か、音無?」

 

「ああ、何とかな……」

 

フルフルと首を振って大丈夫なことを確かめた音無は立ち上がりざまにため息を1つつく。

 

「はあ……こんなことあと何回繰り返すんだ……」

 

「そうやさぐれんなよ。ほら、見てみろよユイのあの顔」

 

オレは今だにそこらを飛び回っているユイを指差しながら音無に言った。

 

「あはははっ!わーい!やったーー!!」

 

本当に嬉しそうに駆け回っている。それはもうバンドでライブをしているときのように、顔だけじゃなく身体全体で喜びを表現していた。あの笑顔が見れただけでもやった価値はあったというものだろう。

 

「……あんなに喜んでんだ、良いことじゃねえか。次もしっかり付き合ってやろうぜ」

 

「……だな。俺達はあんな顔をしてほしいから、未練なんて残してほしくないから、こうやって体張ってんだもんな」

 

色々と痛い思いもしたが、まあ、結果オーライってやつだな。




はい、23話でした。

今回の話は原作の第10話の前半に当たります。ええ、そうです。あの10話です。僕がボロ泣きした10話です。

次は後半部分になります。なんとかあの感動を自分なりの文章で伝えられるように頑張りたいと思います。

感想、評価、アドバイス、誤字脱字報告等々お持ちしております。
ではでは。

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