死後で繋がる物語   作:四季燦々

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うわぁぁぁ!遅刻したぁ!
すみません!次は遅れないようにします!

あと、UAが5000を超えました!皆さんありがとうございます。これからもよろしくお願いします!


Angel's thrust

「久しぶりだな、ギルドも」

 

「お、やっと来たか神乃」

 

「ほら、行くわよ。グズグズしている暇はないわ」

 

「はいよ」

 

遅れて来たことへの謝罪も含めてゆりの言葉に返事をする。オレはいつもの銃と刀、あと小型のマシンガンを身に着けていた。他の連中はガチャガチャと持ってたショットガンやらマシンガンやらを携えている。願わくば、これらの武器を使わずに行きたいがそれは無理な話だろう。

 

「前回の罠はそのままだな。ラッキー」

 

「1つ1つが嫌な思い出を思い出させてくるぜ……」

 

天井からぶら下がった状態の巨大ハンマーやら巨大鉄球やらが無造作に、しかも所々道を破壊したまま放置してある光景を見て、よくもまあ前回は無事生き残れたものだと改めて感心した。

 

薄暗いギルドの道を集団で歩くオレ達。ぶっちゃけ、天使にいつ出くわすか分からない緊張状態がかなりキツい。奇襲に備えていつでも抜刀できるように警戒はしているが、これが長時間続くかもしれないと考えると精神的に参ってしまいそうだ。

 

「あの、こんな緊張状態で天使に出くわしたりしたら結局漏らしそうなんですけど……」

 

「構わん」

 

「漏らすなら離れてくれよ」

 

「構ってくださいよ!?そして漏らす前提で言わないでください!!」

 

「余裕ないからパス」

 

「神乃に以下同文」

 

酷いっ!と騒ぎ立てるユイ。おいバカ、んな大声出したら天使に気付かれるだろうが。

 

「――――っ!?」

 

「ひぇっ!?」

 

「構わん……」

 

「やっぱ離れろユイ」

 

「だから構ってくださいよぉ!!あと神乃先輩に関しては声のテンションが冗談じゃなくなってますよぉ!?」

 

先頭を歩いていたゆりが視線の先に何かを見つけたようだ。立ち止まり、苛立たしげに進行方向を睨み付ける。突然止まったリーダーの様子にユイが短い悲鳴を上げた。

 

「まっ、そう簡単に進ませてくれるわけもねえわな」

 

ゆりの視線の先。そこには天使がいた。相変わらず寒気がする笑みを浮かべ、こちらを見つめている。

 

「ひえぇぇぇぇ!?」

 

「ユイ、騒いでる暇あったら日向の後ろにでも下がってろ」

 

武器も扱えず、痛い目に合いたくないユイは素直に日向の後ろに隠れた。こいつ、何しに来たんだろ。

 

「早速現れたわね……」

 

ゆりが片手を上げ、それを視認したオレ達が一斉に銃火器類を構える。撃て、あとはその一言を待つだけだった。

 

「撃――っ!?」

 

しかし、今まさに命令が下されそうになった瞬間、天使の姿が掻き消える。否、掻き消えたのではなく、高速で接近してきたのだ。突然の事態に驚愕するオレだったが、すぐさまマシンガンを構え意を決して発砲しようと引き金を引いた、はずだった。

 

「げっ!?」

 

「なっ!?」

 

互いの距離は十分に開いていたはずなのにも関わらず、一瞬でオレ達との距離を縮めてきた天使。昨晩よりも遥かに速いその動きにオレ達は身動きをとれない。間をすり抜けるように駆け抜けた天使は、以前立華が音無と日向の銃を切り裂いたように、オレ達の武器をバターのようにバラバラにしながら、その背後へと回った。

 

「くっそ!速過ぎんだろ!?」

 

「でもまだハンドガンがあるっ!!」

 

「――ガードスキル、『ディストーション』」

 

ゆりが武器チェンジの時間を稼ぐために天使に向かって手榴弾を投げつける。ズドォォォォォン!!と派手な音がギルド通路内へと響き渡るが、直前にディストーションを発動させた天使は無傷。おそらく服に汚れ1つ付いていないだろう。

 

「各個射撃っ!!」

 

早々に持ってきた武器をダメにされたオレ達は、武器をハンドガンへと切り替え土煙のどこにいるのかも分からない天使に向かってひたすら撃ちまくる。

 

「意外と早くけりが付きそうね」

 

少しばかり余裕気味に微笑むゆり。だがしかし。世の中にはフラグと言うものがあり、今のゆりの発言はまさにそれだった。それも死亡フラグという一番悪質な奴。

 

 

 

 

 

 

「――ぐぅおっ!?」

 

「なにっ!?」

 

銃を持たず、接近してきた時のために背後で備えていた野田から突然の悲鳴。

 

「な、ぜ……!?」

 

慌てて振り返ると野田の胸の辺りからは鋭く光る刃が突き出していた。刺した張本人は力を失った野田を持ち上げると傍らに投げ捨てる。使い手を失ったハルバートが金属音を悲しく鳴らし地面へと転がる。

 

「これはっ……!?」

 

「ええっ!?これどういうこと!?」

 

野田を突き刺した本人。それは唇に微笑を浮かべた()使()だった。袖からハンドソニックを伸ばし、その刃は野田の血で赤く染まっている。それを実行したものは優越気味に笑みを浮かべていた。

 

「おいおい!まさかオリジナルか!?」

 

「違う!こいつも分身だ!」

 

「やべえぞ!?挟まれてる!」

 

まさか、分身が増えてるなんて予想だにしなかった。いい加減状況に頭が追い付かなくなってきそうだ。とにかく、この状況は非常にマズい。明らかに格上の天使相手に挟み撃ちなんて最悪だ。

 

「……どうでもいいが、また真っ先にやられたな」

 

おいバカやめろ藤巻。せっかくのシリアスなのに野田の死体のせいでギャグテイストになっちゃうだろうが。今は見るんじゃない。

 

「ちっ!先に前の敵よ!撃てっ!!」

 

「後ろはどうすんだよ!?」

 

「それどころじゃないでしょ!!」

 

ゆりの指示のもと、オレ達は野田を突き刺した方の天使へと標的を変える。だが、そっちの天使もディストーションを発動しているようで弾の無駄撃ちにしかならない。

 

「……忙しそうね」

 

ゾクリと。必死になって引き金を引くオレ達の背を撫でるように、背後の土煙の中から非情で冷徹な声が聞こえてきた。くそっ!?撃ち続けても残弾も無駄になっちまうし、このままじゃ立華を救い出す前にゲームオーバーだ!

 

「どうすんだよゆり!!勝ち目なんてねえぞ!!」

 

「分かってるわよ!……――っ!?」

 

窮地の中、辺りを必死に見渡していたゆりが何かに気づく。そして、どうするかを決めたようで行動を開始した。

 

「入口を塞ぐわ!!ついてきなさい!!」

 

「はあっ!?何言って――って、なるほど。了解!!」

 

どういう意味なのか問いただそうと思ったが、その視線の先にある物を見て意味を理解。ゆりは手榴弾を野田を刺し貫いた天使に向かって放る。これは攻撃とかの為じゃなく、単なる煙幕弾だ。ゴォォン!という炸裂する音が聞こえ、天使の視界を膨大な煙が奪い取る。

 

「行くわよ!!」

 

そして、その天使の脇を駆け抜け、その背後、つまりオレ達が元々進んでいた方向の通路の壁にあった扉に向かって走り出す。ゆりの作戦はいたってシンプル。勝てないのなら逃げるんだよぉぉぉ!ということだ。2人の天使とバトルするぐらいなら、そっちの方が生存率は上がる。

 

「あと10秒!!間に合わなかった者は置いていく!!」

 

ゆりはそのまま扉の前で銃を撃ちながら天使を牽制する。その間に次々に扉に入っていくSSSメンバー。

 

「9ッ!8ッ!7ッ!6ッ!5ッ!4ッ!3ッ!」

 

オレもその時点で扉の中へと入る。残すはゆりただ1人。そのゆりへと向かって、天使のうち1体が凄まじいスピードで向かって来た。

 

「2ッ!1ッ!」

 

撃つのを止めたゆりが扉の中から手を伸ばす音無に手を伸ばす。すでに天使はすぐ後ろへと来ていた。そして――

 

「――0ッ!!」

 

ガシャャャャン!!と分厚い鉄の扉がふさがれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな凶暴な天使が2体……。前の降下作戦よりタチが悪いぜ」

 

疲れて座りこんだ日向がぼやく。一応ゆりも含めて何とか無事だったオレ達。野田を残してきてしまったが、さすがに死体蹴りのような真似はしないだろう。目覚めたらすぐ殺されてしまいそうだから、早めにこの件を解決する必要があるが。

 

「まったく、一体何がどうなってんだ?何で分身が増えてんだよ」

 

「理由は大体分かるわ」

 

「どういうことだゆりっぺ?」

 

「いい?分身はハンドソニックもディストーションも使えるのよ。つまり――」

 

「ハーモニクスの能力で分身が分身をつくることも可能ってことかよ……!!くそっ!!」

 

だが待て。その件ならオレとゆりがすでに手を打ったはずだ。今更ハーモニクスで分身を増やそうとしたところで、もって10秒。それが過ぎれば自動的にアブソーブが発動するはずなんだ。だが、あの2人目の天使は10秒以上存在していた。どういうことだ?

 

「まったく低脳な奴らだな。あっ!もちろん音無さん以外ですよ!!――――僕が問題点まとめてやろう」

 

「よろしく」

 

疑問が浮かんだが、どうやら生徒課長代理こと直井が答えてくれるらしい。やれやれ、まずはそのまとめ上手なお話を聞かせていただくとしますかね。

 

「問題は2つある。まず何体分身がつくられたのか。分身が分身をつくれるのなら、数に限界は無い」

 

「じゃあ2体どころか10体や20体、それ以上いるかもしれないってのかよ……!」

 

「待った。だとしても忘れてないか?天使の能力にはゆりが細工をしている。ハーモニクスの能力を使えば分身は消えるはずだ」

 

オレは立華の部屋での事を思い出しながら、さっき疑問に思った事を言う。

 

「そうだ。それが2つ目の問題だ。――もし、その能力を追加する前に分身を大量生産していたとしたら?」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「ふん、愚民共め。ようやく気づいたか。あっ、もちろん音無さんは気高い貴族ですよ!」

 

お前の音無贔屓はもう分かったから。早く結論を言えっての。

 

「――いいか?僕達がここに乗り込んで来ることが分かっていて、すでに分身を生産し、このギルドに配置していたとしたら」

 

「そいつは……!」

 

「――Trap」

 

「そう、罠だ。すでに背後に2体いる。こいつらは消えないし、貴様らに勝ち目は無い。そしてこの先もウヨウヨいるだろう」

 

おいおい、マジかよ。考えうる中で最悪の状況だ。

 

「後戻りしようにも待っているのは勝ち目の無い敵。閉じ込められたな」

 

「武器の補充もできねえんだぞ。このままじゃ、やられるのを待つだけじゃねえか……!」

 

「こんなことして何が目的なんだ……!」

 

「最終的には完全なる服従でしょう。それが彼女の使命なんだから」

 

藤巻の言うとおり武器の補充はできない。後戻りができないからな。だからといって今の武器は、残弾が多くない銃が数丁に、オレやゆり、それに椎名や藤巻が持つ刃物系がいくつかに手榴弾が数個だ。それらすら無くなれば、もはや素手で戦わなくてはいけなくなる。あの天使相手にその手段は愚の骨頂だ。

 

「ははっ、俺達を一掃するには最高の作戦だな」

 

「――行くわよ」

 

日向が自虐的な言葉をこぼすが、ゆりは先へと進み出した。その様子を見て日向も一度頭をかくと、そのあとをついて行く。オレや他の皆もそれに続いた。ゆりは何も言おうとしなかったみたいだけど、皆も分かっているのだと思う。後ろには戻れない。待っていても一方的にやられるだけ。だったら道は1つ。前に進むしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく奥へと進むと一直線の連絡通路に着いた。そしてその先には予想通りの敵。

 

「また現れやがった」

 

「3体目かよ……」

 

瞳を閉じて、静かに佇んでいた天使。足音を聞きつけたからか、オレ達が足を止めるとゆっくりと目を開けた。真っ赤に染まるその眼には敵を排除するという意思しか見てとれない。小柄な体格だというのにオレにはその姿が道を閉ざす大きな壁のように思えた。

 

「…………」

 

すぐさま戦闘態勢に入り銃を構えようとするゆり。だが、その手を遮る者がいた。

 

「えっ?松下君?」

 

「弾が、もったいなかろう」

 

「お、おい五段!何する気だよ」

 

銃を下ろさせたのは松下五段だった。五段はカツカツと下駄を鳴らし、オレ達の前へと立つ。意図が掴めない行動に慌てて声をかけてみたが、五段は何も答えようとしない。やがて、腹を決めたように大声で自身を鼓舞しつつ天使に向かって駆け出した。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

皆の驚きを尻目に気合いの入った叫びを上げながら天使に突っ込む五段。もちろん、天使も黙って見ているわけはなく、無言でハンドソニックを発動させる。グシャリと耳に響く音を鳴らし、五段の背中に天使の刃が突き出した。

 

「――がっ!!」

 

苦悶に悲鳴を上げつつも、五段は怯むことなく天使を押さえ付ける。それは、松下五段の名前の由来ともなっている柔道の技だった。

 

「「「松下五段!?」」」

 

「いけえぇ!!俺の意識があるうちに……!ぐぅ……早くっ!!」

 

貫かれた傷口から夥しい血を流し、叫ぶ口からは同じく血を吐きつつも松下五段は決死の思いで叫ぶ。その声も段々力を失い始めていた。

 

「ちょっ、何だよその死に際だけ良い奴みたいなセリフ!?」

 

緊迫した状態なのにも関わらず、しっかりとツッコミを入れる日向に呆れと感心が半分ずつ。ごめん、実際オレも同じこと思った。

 

五段に抑えつけられている天使が抵抗のために刃を動かし、嫌な音が辺りに響く。だが、生憎五段は柔道の達人だ。重傷を負いながらも寝技をかけ続ける。体重のある五段を退けるのは容易ではない、五段が狙ったのはそこだった。

 

「行くわよ!今のうちに突破する!!」

 

「ああ!!」

 

「耐えろよ松下五段!!」

 

「すまねえ!!」

 

仲間を信頼しきっているからこその突破だが、やはり犠牲にしていることには心が痛む。だが、ここで進まなかったら五段の頑張りが無駄になってしまう。そう考えたオレ達は後ろ髪を引かれる思いのまま先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

「松下君の犠牲は無駄にしない……。彼のおかげで分かったけど、先に進むにはあれが1番良い方法なのよ」

 

「どういうことだ?」

 

「天使は体が小さい。それにいくら天使が馬鹿力でも、柔道の押さえ込みなら動きを封じることができるってことよ」

 

なるほど。つまり、この先再び天使が現れた場合、オレ達のうち誰か1人が自滅覚悟で押さえ込みに行って道を作れっことか。

 

「まさに一人一殺ってやつか」

 

「ええ~……マジかよ……」

 

「ぼやかないの。そうやって先に進んだ者が天使のオリジナルを助け出す。もうこれしかないわ。先を急ぎましょう」

 

こうして打開策とも言い切れない策を切ることにしたオレ達。ひたすら足を進め、再び一直線の通路にたどり着く。そこにもやはり奴はいた。

 

「4体目……!」

 

先ほどの話からここで誰か1人が犠牲にならなければならない。そう思い出した時、オレ達の中からあの男が一歩前に踏み出した。

 

「It's my turn」

 

「TK!?」

 

そう。戦線の中でもさらにぶっ飛んだ変人。謎の過ぎてもはや何が正しいのか分からないサヴァンという特別な力を持つ男、TKである。……なんか、この言い回しちょっとかっこいいな。

 

「Get chance and luck」

 

バンダナのせいで目をはっきりと見ることはできないが、TKはオレ達を一瞥し笑いかけるとそう言い残し、そのまま天使に向かってルパンダイブよろしく突っ込む。服は脱がなかったけど。当然とも言えるが……こう、グサリと。見事に天使に刺し突かれながらも押え込み(?)をするTK。

 

「「「TKぇぇぇぇぇ!!」」」

 

「うおおい!?なんだよこの少年漫画の最終回近い展開はっ!?」

 

「いいから!ドンドン行くわよ!!」

 

TKに何も言ってやらねえのに超前向きだなゆり!?つか、日向もツッコミご苦労!!そこからはもはや怒涛の流れだった。ちょっと進んで――

 

「この肉体、見せる時が来たようですね」

 

――グサッ

 

「「「高松ぅぅぅぅぅ!!」」」

 

まだまだ進んで――

 

「へ、へへっ……!ビビってられるかってんだ……。おらぁぁぁぁぁ!!」

 

――グサッ

 

「「「藤巻ぃぃぃぃぃ!!」」」

 

ガンガン進んで――

 

「あさはかなり……。あさはかなりぃぃぃぃ!!」

 

――グサッ

 

「「「椎名ぁぁぁぁぁ!!」」」

 

おっそろしくシリアスなはずなのに、もはやギャグにしか見えないオレを誰が責められようか。ここまで流れ作業だといっそのこと清々しい。

 

「――さあ、気づくんだ。お前はピエロだ。ほら、あんな暗いところに寂しげな目をした女の子がいるよ?」

 

「…………うわあ!いっけない本当だ~♪あはは!僕が笑わせて――」

 

――グサッ

 

「「大山ぁぁぁぁぁ!!」」

 

直井の催眠術のもと、あっという間催眠状態に陥った大山はあえなく犠牲になった。もはや押え込みですらない。一応男子である体重のおかげで天使を押え込むことはできているようだが、これは酷い。

 

「ちょっ!?おま、直井!!今のは酷すぎんだろ!?」

 

「黙れ愚民が。道は開けたんだから構わないだろう」

 

「いやいや!せめて意思確認ぐらいしてやれよ!問答無用で催眠とか大山が不憫でならねえよっ!!」

 

そこまで言ってもツーンと知らん顔の直井。

 

「お前最低だな……」

 

「ああ!音無さん違うんですよ聞いてください!言葉の綾ですよ!次は僕が行きますから!」

 

オレとのその態度の差は何なんでしょうかねぇ!?

 

 

 

 

 

――サクッと。他の誰よりも軽い音が彼からはした気がした。随分深くまで進んだ頃、直井は宣言通り自分から役目を買って出た。

 

「「「……………」」」

 

「おい、誰か何か言ってやれよ」

 

「いや、私名前知らないですし」

 

「音無、お前が何か言ってやれよ」

 

「俺がか?え~と、ナイスファイト?」

 

「別にいいじゃない。先に行きましょ」

 

血塗れで、天使と一緒にぶっ倒れてる直井の横を無言で通り過ぎるオレ達。ごめん、直井、さっきはちょっと言い過ぎた。少しだけお前に同情したよ。ナイス犠牲。

 

ギルドに侵入してはや数刻。オレ達は以前のギルド降下作戦で椎名が人形に惑わされ滝壺に落ちて行ったポイントへとたどり着いた。もちろん、そこにも天使がいた。いい加減数えるのもアホらしくなってくる。

 

この奥にはギルドの最深部しかないはずだ。どうやら敵さんはRPGみてえにメインを最深部に置いてくれているらしい。あながち日向の最終回近い展開というのは間違っていないようだ。

 

「これで何体目よ……」

 

「分かんねえ。もう数えてねえよ」

 

「あとちょっとだっつーのに……」

 

何度も何度も立ちふさがってくる天使に苛立ちを隠せない。あと、どれくらいいるのだろうか、と考えてすぐに頭を振ってその考えを消した。考えるだけ疲れる気しかしないからだ。

 

「今度こそ俺が行く」

 

「待てよ音無。お前がいなくなっちまったら誰が立華を助けるんだよ。オレが行く」

 

「ちょ~と待った2人共。今度は俺の番だ。それに音無、お前は最後まで残れ」

 

音無を制したオレが前に出ようとすると、さらにそれを制するようにして日向が前に出てくる。

 

「日向……」

 

「弾切れ近い俺よりも、いざという時に接近戦で戦えるお前が残った方がいいだろ」

 

「日向、やっぱり俺が!」

 

「バーカ。お前はもっと残れ。神乃も言っただろ。あの子が待ってんのはお前だ。だからお前は進むんだ、いいな?」

 

へへへっと鼻の下を擦る日向。言っているのは至極もっともであるため、オレ達はそれに対して反論ができなかった。日向は、そんなオレ達に苦笑し最後にと口を開く。

 

「あともし――」

 

「――行くならとっとと行けやぁぁぁぁぁ!!」

 

「うおわっ!どわわわわわわ――ぐふっ」

 

オレ達のやり取りに業を煮やしたユイが、以前も見せた喝の入ったケリを日向に叩き込む。前のめりに倒れそうになった日向は驚きつつ体勢を立て直そうとバランスを取りつつ前進し――あっさり天使に刺された。

 

「「ひ、日向ぁぁぁぁぁ!?」」

 

って、おいぃぃぃぃぃ!!?ユイィィィィ!?せめて最後まで言わせてやってくれよ!?せっかくの格好いい見せ場が台無しじゃねえか!?

 

「待ってて……先輩」

 

「ないわー。蹴りつけたのお前なのにそれはないわー」

 

「お前、あいつのこと好きなのか嫌いなのかどっちなんだ?」

 

うるうると目を潤ませ、両手を組み可愛く言うユイだったが、やった張本人なので微塵もトキめかない。いつまでたっても緊張感を持たないオレ達に、ゆりはため息をつくと先へと進み始めた。リーダーが進む以上オレ達も追従しなくてはならないので、今度日向に何か奢ってやろうと心の中で決めたオレはその後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわね。ギルド爆破の後。ここから一気に最下層に降りることになるわ」

 

ようやく最深部か。前の時は思いっきり爆破したからどんなふうになってるかは知らなかったけど、こんなでっかいクレーター作ってたのか……。チャーよ、火薬の量どうなってんの?あとよく頭上の岩盤落ちてこなかったな。

 

「音無君と神乃君とユイは天使のオリジナルを探して。見つけ次第ハーモニクスの発動を促すこと」

 

「ゆりはどうするんだ?」

 

「私は妨害してくる天使の足止めをするわよ」

 

「それじゃお前だけが危ねえじゃねえか。オレも加勢する」

 

「足止めはあくまで足止めよ。なんの解決にもなりはしないわ。事態を解決するにはオリジナルをどうにかする方が優先でしょう?」

 

「そうだけど!じゃ、じゃあオレが足止めする!それならいいだろっ!」

 

「悪いけど、今回は譲れないわよ」

 

「じゃ私が足止めします!」

 

「「弱過ぎて話にならない」」

 

「話にしてくださいよ!?」

 

お前戦闘経験すら皆無じゃねえか。息をそろえて言い切るオレ達にユイが批判するように捲し立てる。が、もちろんスルー。それよりも、頑なに了承しないゆりにオレは何故なのか問いかけた。すると、ゆりはすごく良い笑顔(黒い)でこう告げる。

 

 

 

 

 

「――やられっぱなしってのは嫌いなのよ」

 

――ああ。昨日やられたの結構根に持ってたわけですね。

 

「じゃ、行くわよ」

 

「私むっちゃ強いですから!!」

 

「はいはい、さっさと諦めような」

 

ゆりのブラックスマイルに気圧されながら、オレは渋々ゆりの提案を受け入れた。その傍らでシュッ!シュッ!シュッ!とシャドーボクシングをするユイだが、全くもって強そうに見えない。オレも天使相手じゃ似たようなもんだけど。

 

「これが最後の作戦になるといいわね」

 

「ああ」

 

「ほら、ユイ。ついて来ねえと置いてくぞ」

 

「あっ!?待ってくださいよーー!!」

 

ゆりを筆頭にクレーターの斜面をザザァーと滑り降りていく。傾斜はそこまでキツくないが、石がゴロゴロしていたり爆破された破片なんかもあって気を抜いたら転びそうになる。それでもなんとか体勢を保つようにしていた時だった。

 

――ガァン!!

 

「ぎゃん!?」

 

ん?何か聞こえたんだけど気のせいか?疲れて空耳でも聞こえ始めたのかもしれん。終わったらガッツリ寝るぞーと思いつつ、ようやく下へと降りきったオレ達。しかし、明らかに人数が足りない。あのうるさい小悪魔系ちびっ子がいない。

 

「あれ?ユイは?」

 

「なんか短い悲鳴が聞こえたけど」

 

「あっ、やっぱ気のせいじゃなかったのか」

 

「天使の餌食か、可哀想に。でも、すぐ助けてあげるわ」

 

ユイが何故かいなくなったことで、とうとう3人だけになる。結局前の降下作戦の時と同じメンバーが残ったということだ。もしかしたら、この3人はギルドと相性がいいのかもしれん。

 

「またお互いに生き残ったわね音無君、神乃君」

 

「そうだな。前回と一緒だ」

 

爆発によって焦がされた地面を進みながら、ふとゆりがこぼした。その顔に浮かぶのは苦悶の表情。以前、ゆりは仲間が犠牲になっていく様子を見て、己の非力さを責め立てていた。今も顔には出していないにしても、内心は気が気じゃないのだろう。

 

「なあ、ゆり」

 

「なに?」

 

「余計なお世話かもしんねえけど、あまり気に悩むなよ?皆だってお前を信じているからこそ道を作ってくれたんだからな」

 

「……そんなこと言われなくても分かってるわよ。私はこの戦線のリーダーなんだから」

 

一瞬間があったが、返ってきたのはいつもどうり強気なゆりの言葉だった。やれやれ、素直じゃないな。別に強がらずに少しぐらい弱音を吐いてもいいと思うんだけどな。

 

「そろそろ最後かしら?」

 

「そう願いたいな」

 

あまり歩かないうちに、オレ達の前に天使が静かに立ちはだかる。にしても、マジで何体目か覚えてねえな。

 

「ほら、あなたはさっさとオリジナルを探す。もちろん、神乃君も行きなさいよ」

 

「あ、ああ!」

 

「無理すんなよ、ゆり」

 

さっきゆりが言っていたように、オレ達の目的は立華の救出であって天使の殲滅ではない。オリジナルがハーモニクスを使えば全てが終わるのだから、そちらを見つけた方がいい。ゆりの個人的な恨みもあるし。そのことを汲み取ったオレと音無は周囲を見渡すようにバラバラに駆け出した。

 

ドォン!ギィィン!!ドォンドォン!!ギィギィン!!ドゴォォォン!!

 

背後からゆりの銃声と天使が銃弾をはじく音が聞こえた。最後のは手榴弾でも使ったのだろうか?振り返ると戦況はゆりが押しているようにも見えた。よほど、昨日のことで鬱憤でも溜まっていたのだろう。天使に負けないくらい猟奇的な表情をしているのは気のせいだと願いたい。

 

っと。見てばかりじゃなくて、すぐにでも立華本人を見つけださなければ。ギルド爆破後は意外と広い。もしかしたらもう少し離れた場所にいるのかもしれないし、それなら急いだ方がいい。そう考え、そういったポイントへと向かおうと足を踏み出した、その時だ。ゆりの鋭い声がギルドの爆心地に響く。

 

「耳を塞いで!!」

 

突然、天使と戦闘中のはずのゆりがこちらに向かって叫んできた。何が何だか分からないが反射的に耳を塞いだ。

 

「――ガードスキル、『ハウリング』」

 

塞ぐ寸前、両手のハンドソニックを×上に重ねた天使が、何かをぼそりと呟いたのが聞こえた。そして次の瞬間、キィィィィィィィィン!!と甲い音と衝撃がオレの体を襲う。

 

「ぐああぁぁっ!?」

 

な、何だこれ!?み、耳がっ……いかれちまう……!!×状に重ねられたハンドソニックから何やら衝撃波のようなものとは別の、脳内を揺らすような衝撃が発せられ身体の平衡感覚を揺さぶる。ま、まさか……超音波か!?

 

「(や、やべ……立って……らんね……!)」

 

今にも崩れ落ちそうな足に力を込めようとするが、上手く力が入らない。オレの今いる場所とは少し離れた場所にいる音無も、衝撃に身を震わせ必死に耐えているようだった。このままでは、天使にやられてしまう。ギリギリでそこまで考えられたオレだったが、とうとう頭の中が真っ白になり、片膝をついてしまう。

 

とうとう薄れ始めた意識の中、そんな天使の下へ駆ける影があるのが見えた。影の正体はゆりだ。紫色の髪を揺らし、固い意志をもった瞳を揺らしながら天使へと肉薄する。天使もまさかこの状況で平然と近づいてくるとは思わなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべ、防御をとることもなく呆気にとられる。

 

ゆりはナイフを腰だめに構え、そのまま天使の腹へと突き立てた。ナイフで刺された天使は倒れ、超音波も徐々に解除される。耳なりが鳴り止まない耳を押さえながらフラフラと立ち上がると、ちょうど天使に馬乗りになっているところだった。つか、あいつ。なんであの中で動けたんだよ……。

 

「――――っ!?」

 

「えーー!なんてーー!?耳栓してるから聞こえなーーい!」

 

天使が何やら話しかけたようだが、ゆりは自分の耳を指差しながら大声で聞き返す。なるほど、耳栓か。そりゃ超音波も聞こえねえだろうし、衝撃波だけ耐えれば動き回ることも十分可能なのだろう。しかしだ。

 

「あんにゃろう……ちゃっかり自分だけ耳栓準備してやがったな」

 

教えてくれていてもいいじゃねえかよ、ケチめ。つか、ハウリングがどんなスキルなのか分かってたのかよ。内心でゆりに愚痴りながらもその場はゆりに任せ、オレは立華捜索を再開する。音無もいつの間にかいなくなっているみたいだしな。

 

「ほーら観念なさい。なんなら、もう1本のナイフで喉を掻き切ってあげるわよ♪」

 

すごく楽しそうな声色で恐ろしい言葉が背後から聞こえたので早々にその場を離れる。自分に向けられて言われたわけではないのに鳥肌がたったのは決して気のせいではない。今日の教訓。ゆりに後腐れを残してはならない(戒め)。

 

 

 

 

 

「くそっ!!ここにもいねえのかよ!!」

 

あらかた爆破跡の周りを見て回ったが、今だ立華を見つけるには至らない。もしかしたら別のエリアにいるのかもしれないな。

 

「どこにいんだよ立華……ん?」

 

額に浮かぶ汗を拭いながら1度落ち着こうとした時、人影が細い通路のような場所に入り込んでいくのを見つけた。一瞬立華かと思ったが、その人物は黒い服装をしていた。立華はたしかパジャマを着ていたはずだから、今のは立華ではない。というかあの服装は──

 

「――ありゃあNPCの男子の制服、だったよな」

 

だとしたら誰だ?いつもNPCの制服を着た直井はすでに天使にやられちまってるし、直井以外にNPCの制服を着た戦線メンバーはいないはずだ。だとしたら一般生徒か?

 

「いやいや。それこそありえねえだろ」

 

こんな場所に一般生徒がいるわけがない。NPCの模範的な行動に爆心地見学など存在しないのだから。というか、ギルドの存在すら知っているかどうかも怪しい。

 

うーん、と謎の生徒について考えこんでいると、ザザッと首にかけていたインカムに反応があった。

 

「誰だ?まさか遊佐かっ!?」

 

何か地上であったのかと血の気が引く。何でもないことを祈りつつ、耳なりも治まった耳にインカムを装着する。

 

「遊佐!?何かあったのか!?」

 

『……神乃さん……か?いえ…には何…お…ては…ません』

 

地下深くで電波が悪いせいかかなり聞きづらいが、話している様子から向こうで何かあったわけではないようだ。とりあえずほっとした。

 

『突…んすみ…せん。何…連絡……いので、心ぱ…になり…して』

 

「犠牲は出ちまってるけど、なんとか大丈夫だよ。もう最深部にいるし、今は立華を探してるところだ」

 

『そう…すか。こちらには…天使……出現……いません』

 

くそ、聞きづらいな。えっと、地上では天使は出現していないって言ってるのか?てことは、もしかしたら天使は全員をギルドに集めていたのかもしれないな。まあ、今更考えても仕方がない。それよりもさっきのことを少し聞いてみよう。

 

「なあ遊佐、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

『……何でし…うか?』

 

「ギルドって普通に一般生徒が入れるのか?さっき見かけたんだよ」

 

『そんな…けありま…ん。ギル…は戦線メン……しか場所は知り…せん。まし…や、模…となる…PCが入り…むなど……』

 

乱れまくっている電波だが、言ってることは何となく分かった。つまりNPCが入り込むなんてありえないということか。じゃあ、さっきの奴は一体何なんだ?気になるけど、今は立華を探す方が優先だし――

 

「奏!!」

 

――とか何とか考えているうちに、音無が立案の名を呼ぶ声がギルド爆破後に響いた。そちらに目を移すと、音無が立華の体を軽く揺さぶって起こしているようだった。

 

「ナイス音無!!グッドタイミングだぜ!!」

 

音無が立華を見つけてくれた以上、残るはハーモニクスの発動を促すだけだし、あとはまかせて大丈夫だろ。

 

「遊佐!オレはその生徒を追ってみるわ!」

 

『ちょ…と待ってくだ……!ひと……は危…ん……!』

 

「遊佐?おい遊佐!?」

 

『……ます…!?……さん…!?』

 

「遊佐っよく聞こえねえぞ!だぁ、くそ!とうとう切れちまったか!」

 

トントンとインカムを叩くが、ザーという雑音しか聞こえない。どうも電波が完全に途切れてしまったようだ。外部との連絡手段を断たれたオレはインカムを首に掛けなおす。

 

「まあ、向こうで何かあったわけじゃ無さそうだし、心配することもないと思うけど……」

 

さてと。そんじゃ、あのよく分からん一般生徒を追うとしますか。歩いていたとはいえ、グズグズしてたら見失っちまう。こんなところにいるなんて怪しさ爆発の奴を見逃してやるつもりはないと、オレは生徒が消えて行った通路へ向かって走り出すのだった。




はい、第16話でした。

今回は天使ちゃん大増殖の話ですね。
実際こんなにたくさん天使がいたらそれはそれで……(意味深)

次回はあの人物が登場します。そうです、あの人です。ガンダム乗ってます。ヅラじゃないです。使徒です。絶望学園にもいました。

それでは、ご感想、評価、アドバイス等々お待ちしています。

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