ということで、今回は釣りの話です。
また、活動報告に重要なお知らせがありますので、そちらの方も読んでいただければと思います。今後の投稿に関しての事です。
「――高松君、報告って何かしら?」
「本日の食券が不足しているそうです」
「じゃあ、またトルネードでも行っとくか?」
テスト後のゴタゴタもようやく落ち着きを見せ始めたある日。オレ達は高松から報告があるということで本部に召集されていた。
「いいえ。今回行うのはトルネードじゃないわ……。“モンスターストリーム”よ」
「ついにきたぁぁぁぁぁ!?本気なのゆりっぺ!?」
「ええ、もちろんよ」
「うーむ、これはデカいのがきたな」
「大丈夫かよゆりっぺ!?」
また随分と仰々しいオペレーション名だな。一狩り行っちゃう?それとも神機振り回して高速戦闘しちゃう?
「モ、モンスターなんてのがいるのか、この世界には!?」
音無がそんな存在がいるのかと驚きの声を上げる。
あれからこいつもこいつで色々あったみたいで、今ではいつもの調子に戻っていた。音無も自分なり考えた事があったのだろうと思う。まあ、だからといって深く追求するつもりはないが。それはいつか音無自身が話してくれるだろ。そのときじっくり聞いてやればいいさ。
まあ、今はそれはいい。重要なのはモンスターの方だ。
「ええ。川の主です」
「川の主?なんだそりゃ?」
高松が答えてくれたので、音無から引き継いで今度はオレが聞いてみる。結構興味があるんだ。
「ちょっと歩いたところに川があるだろ?」
「ああ。オレや音無が狙撃の練習してるとこだろ」
今度は日向が答えてくれた。でも、あそこって割と静かなところだったと思うんだけど。時々魚が跳ねるくらいで、モンスターなんて物騒なものはいなかったと思うが。
「そうそうそこ。そこで食料の調達だ」
「なるほど」
「川で調達……」
「「…………ん?」」
「……?2人ともどうした?」
いやな、それってもしかして……
「「ただの川釣りじゃね?」」
「そうだけど。それがどうかしたか?」
「どこがモンスター!?普通に魚釣りって言えよ!」
まぎらわしいわっ!!ハンティングでもせにゃならんのかと思ったっつーの!!ええっと、閃光玉とスタングレネードも準備しなきゃ、とか考えちゃったじゃねえか!あっ、これ両方使い道一緒だな。
「またつられてバカな想像をしてしまった」
「釣りだけにか?」
「つまんねーよ」
音無の呟きに日向がダジャレを言ってきたので、すかさず一蹴しておく。まあ、音無が何を想像してたかは敢えて聞くまい。オレも想像したしな。ジンオウガとかヴァジュラとか。……瞬殺されかねんな。
「大山、どんだけ釣れるか勝負しようぜ」
「いいよ!久しぶりの釣りだし、楽しみだな~」
川への移動中、藤巻と大山が仲良さげに話しているのが聞こえた。内容からして本当に普通の川釣りみたいだな。
「つか、なんでモンスターストリームなんて大層な作戦名なんだ?普通に釣りでよくね?」
「ヒントを言うなら、さっき高松が言ってた通りのことさ」
高松が言ってたこと?えっと――
「川の主ってか?」
「ご明察。俺達もまだちゃんと見たことないけど、本当に存在してるって話だぜ?」
そうは言われてもな、日向。いまいちピンとこないって言うか、信憑性がないんだよな。
「たかが魚だろ?何をそんなに驚いてたんだよ」
「なんでも見たことある奴の話じゃ相当ヤバいみたいだぜ。どうヤバいのかは知らねえけど」
いまいち想像つかねえな。でも興味はある。怖いもの見たさっつーか、そんな感じだ。なんにせよ、せっかくの釣りだし、楽しむとしよう。
「あれ?音無は?」
「ん?あれ?そういや……」
「おーい!みんなーー!」
いつの間にかいなくなっていた音無。その声がオレ達の後ろから聞こえた。どうやらいつの間にか置いて行ってしまっていたらしい。
「何してんだよ音無。早くしねえと置いてっちまう……ぞ?」
「どうした日向?音無がどうかした――」
振り返りいきなり言葉を失った日向を不思議に思いつつ、オレも同じように振り返った。
――――時々思うんだが、音無はずば抜けた行動力を見せて、オレ達の度肝を抜くことがあるよな。まったく、素晴らしい行動力だ。
「こいつも一緒に連れて行ってくれないか?」
「…………」
こんな風に天使をどこからともなく連れてきたり、な。――その刹那、天使の存在に気が付いたSSSメンバーは一斉にゆりの背後へと隠れた。一度は助けてくれた相手なんだし、その態度はあんまりじゃないか?
しかし、さすがに男も混じった何人もの人数を隠せるほどゆりは大きくない。明らかに隠れきれずにはみ出てる。どこのトナカイ医者だ。
「お前ら……」
「ちょっ!?おまっ!?なんて奴連れてくるんだよ!?」
動揺を一切隠そうとしないSSSメンバー。逆にゆりはというと、臨界体勢にでもなるかと思ったが、意外とそうでもないようでやれやれとため息をついていた。
「い、いいじゃないか。混ぜてやろうぜ」
「敵だぞ!?我らが戦線の宿敵だぞ!?」
「先輩アホですね!」
「あさはかなり」
口々にゆりの背後から言葉を投げかけるメンバー。その勢いにうっと音無の表情が引きつるが、それでも諦めないとさらに説得を続ける。
「聞いてくれ!もう無害だ、敵じゃない」
「だが曲がりなりにも元生徒会長だぞ!」
「ちなみに現生徒会長代理もいますが」
「その通り。が、その前に僕は神です」
「神じゃねえつってんだろ!いつまで言ってんだ!」
おーい、コントなんかしてていいのか?
「どうするゆりっぺ?」
「……もう生徒会長でもないし、いいんじゃない?」
『えぇぇぇぇぇぇ!?』
驚いて声を上げるメンバー。今までの経緯にしてはあまりにもあっさりしすぎてたので、もう一度確認してみる。
「本当にいいのか、ゆり?」
「言ったでしょ?もう私達と今の彼女が争う理由は無いし、構わないわよ」
「なんかすごいメンバーになりつつあるな」
あははと日向が渇いた笑いを出す。確かに、そりゃ同感だ。今まで争ってた奴らが一緒に川釣りなんて妙な話だ。まあ、戦ったりするよりもこっちの方がいいに決まってるよな。
こうして、意外な人物を加えたオレ達はようやく川に到着。今日は天気がいいし、川の流れも穏やかだ。絶好の釣り日和ってやつである。しかし、たどり着いてからなんだが、釣りだというのに皆が何も持って来ていないことに気が付く。
「そういや皆手ぶらだよな?道具とかどうするんだ?」
音無も気づいたようでそう言った。まさか、手づかみというわけではあるまい。
「それなら大丈夫さ。連絡ならすでにギルドにいってるし、何よりあそこにはそういうマニアがいるからな」
「マニア?」
川釣りのってことか?どんな奴なんだろ。
「ほら、もう始めてるみたいだぜ」
「ん……?」
日向が指を指した方へ視界を移す。そこには麦わら帽子を被り、河原の岩の上に座って釣り糸を垂らしている人物がいた。静寂の中、しばらく観察していると水面の浮きが沈む。魚がかかった証拠だ。
「たあーー!!」
その瞬間、その人物は勢いよく竿をふり上げる。リールなどないシンプルな作りの釣竿のため振り上げるしかないからだ。水面から影が現れ、勢いよく飛び出してきたのは名前は分からないが結構大きな魚。釣り上げた人物は手馴れたようにそれをキャッチした。
釣りについてはあんまり詳しくないけど、リールも使わずにあそこまで見事に釣れるなんてかなりすごいんじゃないのか。いや、よく分かんねえけど。でも、ああいった釣竿で釣りするのって風情があっていいな。
「えっと、あいつは?」
「斉藤って奴だ。銃にも詳しいが、ギルドでは“フィッシュ斉藤”と呼ばれる釣りマニアでね」
そのネーミングセンスはどうなのかと疑問に思わずにはいられないが、まあすごい釣り好きの奴ってことね。その斉藤と呼ばれた生徒は腰の入れ物(ビクって言ったっけ?)に釣った魚を入れると、キラーンと効果音がつきそうなハニカミを見せた。ドヤ顔に見えないのがすごい。
「このオペレーションの時だけは大量の釣り道具を荷車で引いて出てくるんだ」
「あの距離をか!?どんだけ釣り好きなんだよ……」
「要はアホですね!」
「ま、まあ好きなことがあるのは良いことだよ」
「そのとおりです。私も筋トレが好きですし」
「お前もだけど、のめり込み方が異常なんだよ」
限度を超え過ぎだ。四六時中やってんじゃねえか。暑苦しいからやめてくれ。
「ようし!じゃあ始めるか!!」
『おーーーー!!』
松下五段の一声に戦線メンバーは腕を突き上げる。さて、オレも頑張るかね。釣りなんて記憶の上では初めてだけど、どうにかなんだろ。こうして次々に竿を手にして釣り糸を垂らし始めるメンバー。
「はっ!!」
「おお~!さすがだなゆりっぺ」
一番最初に釣り上げたのはゆりでこれまた大きな魚だった。もしかしたら、この川には小さい魚はいないのかもしれない。ゆりのナイスフィッシングに触発されたメンバーの中には、早々に釣竿でのやり方を捨て、それぞれの個人の方法をとる奴らもいた。
「……だらっ!くそっ!逃がしたか!!」
野田は膝ぐらいまで水に浸かり、ハルバートを銛のようにして魚を突こうとしている。もっとも、あまり成果は上がっていないようだが。
「はっ!」
シュシュッ!ジャバン!シュッ!ズバッ!椎名の方法だ。敢えて効果音だけで表現してみたが、どうだ意味分かんねえだろ?分かりやすく解説してやろう。
シュシュッ!(クナイを川に向かって投げる)
ジャバン!(クナイに驚いた魚が水面から飛び出る)
シュッ!(再びクナイを投擲)
ズバッ!(魚両断)
とまあ、こんな感じだ。運動神経のいい椎名だからこそできる秘技、っていうか荒技だ。おい、それもはや魚取りですらねえじゃねえか。
「アホだ……」
言うな、ユイ。オレも同じこと思ったから。まあ、椎名みたいな超人的スキルは持ってないオレは、普通に釣り糸を垂らす。さあ、ここからがクライマックスだっ!無我の境地になってゾーンに入ってやる!なにそれ強そう。
「わわっ!?引いてるんですけどひなっち先輩!?」
「おおっ!?結構デカいんじゃねえか!よし、思いっきり引け!」
……垂らす。
「どうだ大山!結構デカいだろ!!」
「僕だって負けてないよ!ほらっ!」
「うおっ!?やるじゃねえか……」
…………垂らす。
「Get fishes!!」
「TKもやるな……。だが俺も負けんぞ!うおぉぉぉぉ!!」
「私も負けませんよ!この筋肉にかけて!!」
……………垂ら、す。
「ゆ、ゆりっぺ!?」
「どうしたの野田君?」
「そ、その魚の数はどうしたんだ!?」
「全部私が釣ったのよ。野田君はどう?」
「お、俺はまだ4~5匹だ」
……………
「ん?どうした神乃?」
黙り込んだオレの様子に、ユイの手伝いを終えた日向が気づいた。その視線を注がれながら、とりあえず全力で思っていること叫んでみる。
「全然釣れねぇぇぇぇぇ!?」
周りの連中がどんどん釣り上げていくことに反比例するかのように、オレの釣竿の浮きウンともスンとも言わない。ただ、川下へと流されていくだけであった。
「なにこれ!?なんで皆そんなポンポン釣れんの!?つか何でオレのは糸引くことすらしねえの!?」
「お、落ち着けって神乃!偶々だって、偶々」
嘘付けぇ!!この竿だけぜってえ呪われてんだろ!ATフィールドでも展開してんのかよっ!?
「慌てるんじゃない。釣りは辛抱強く待てることが重要だ。むしろそれを楽しむものと言っても過言ではない」
「フィッシュ斉藤、お前が一番釣ってるよな?」
全然待ってる時間ねえし。釣り糸垂らしたらすぐ引いてるし。理不尽すぎる。
「はあ~、こりゃ退屈しそうだ……」
最初の楽しむっていう意気込みはどっかに行ってしまったようだ。ため息をつき、ボーッと水面に揺れる浮きを眺める。が、やはり反応は無い。
ふと、天使はどうしたのだろうかと思いキョロキョロと辺りを見渡してみる。天使は少し離れたところで音無と一緒に釣り針に餌となる虫をつけていた。オレは絶賛ニート活動中の自分の釣り竿をその場に置くと、2人のもとへと行ってみることにした。
「調子はどうだお2人さん」
「神乃か。立華は釣りやったことないんだってよ。だから始めから教えてるところだ」
「…………」
何も喋ろうとしない天使の隣で音無が話す。そういや天使の名前って立華っていうんだったっけ。
「そうかい。――あっ!そういや、まだこの前の時の礼を言ってなかったな」
今更ながら直井の時の戦いで天使に助けられたことを思いだす。事態を起こした張本人は普通に釣りしてるけど。礼を言うにしても言うタイミングっつーか機会っつーか、それが全然なかったからな。基本会わないし。
「……別にお礼なんていらないわ」
「そう言うなって。こっちはお前にすげえ感謝してるんだ。改めて、あの時はありがとう。本当に助かったよ」
「……うん」
「音無もな。改めてありがとう」
「別にいいさ。仲間じゃないか」
頭を下げるオレに、音無は言葉で、天使は頷くことで返事をしてくる。せっかくなのでもう1つお願いしてみることにした。
「あと、名前で呼んでいいか?」
「別にいいけど」
「んじゃ、立華。釣り楽しもうぜ。なっ、音無」
「そうだな」
オレと音無が笑いあい、その間で立華が小さく微笑む。少し前まで争い合っていた間柄なのに、随分良くなれたものだ。きっと良い変化なのだろう。
「それで、今どこまでいってんだ?」
「とりあえず餌はつけた。立華、竿を川に向かって振ってみろ」
「うん」
オレ達男2人が見守る中、立華は竿をその小さな両手で持ち、ズンッ!と力強い踏み込みをする。そして、竿を振り上げると一気に川に向かって振り下ろし――
「うううぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
なぜか偶々後ろを歩いていた竹山を針の先に引っ掛けたまま、思いっきりぶっ飛ばした。
「た、竹山ぁぁぁぁぁぁ!?」
「クライストとぉぉぉぉ…………!」
キラーン。日向の叫び虚しく竹山は星になる。
「「「…………」」」
「…………」
とうとう見えなくなった天才ハッカーの末路に唖然とするオレ、音無の2人。プラス顔色1つ変えない立華。
うん。やっぱ立華ってすげえわ。よくこんな奴と戦ってこれたもんだ。あと、竹山ドンマイ。きっといつか言ってもらえるさ。
「……お前、すごい怪力だな」
「オーバードライブはパッシブだから」
「パッシブ?」
何それ界王拳?髪の毛銀色だけど。
「まっ、あいつも何だかんだでメンタル強いし大丈夫だろ」
「実は心配してねえだろお前……」
いやいや心配はしてるよ?あいつの眼鏡割れたらどうしようとか。そこらへんの心配はしてるよ?
「もしかしたら……」
「んあ?」
「もしかしたらあんたならいけるかもしれないな」
「何がいけるって?」
「主を釣り上げるってことさ。そいつはオペレーションどうりの化け物なのさ」
いつの間にか近くに来ていたフィッシュ斉藤がどこか楽しげに語る。釣り人として強敵に挑む興奮を抑えきれないのだろうか。いやでも、やっぱモンスターって言われてるぐらいだし、できることなら遭遇したくねえよな。
フィッシュ斉藤の楽しそうな様子に苦笑していると、改めて川へ釣り糸を垂らしていた立華がトントンと音無を呼ぶ。
「ん?どうした立華」
「引いてる……」
おっ、さっそくかかったか。随分早いな。……やっぱりオレの釣竿だけ呪われてるんじゃないだろうか。どっかに教会とかねえかな。シャナクでも可。
まあ、立華もなんだかんだで楽しんでいるようで良かった良かった。現にこうやって音無の肩を叩いて魚が引いてるのを知らせてるし。
釣り竿も良い具合にしなって――
ミシ……ッ!ミシミシギシミシ……ッ!
――音が明らかにおかしいのは気のせいだと思いたい。えっ?嘘だよね?フラグ回収早くない?
すると突然フィッシュ斉藤の目がカッ!と開き、徐々に後退りをし始めた。それに呼応するかのように、水面下の立華の釣り糸を中心にするかのようにして超巨大な渦が形成される。
「まさか――モ、モンスターストリーム!!」
「ええ!?これが!?」
やっぱりそうかよちくしょうめっ!
「これってさっさと逃げた方がいいんじゃねえのか!?」
「確かに……。本来モンスターストリームは主の怒りの証。これが起きたら全員即離脱が定石だ」
「だったら皆にも早く知らせねえと――」
「――だがっ!その子ならもしや!!」
フィッシュ斉藤はジリジリと川へと引かれつつある立華を見ながら呟く。実際立華だからまだその程度で済んでいるのであって、オレ達だったら一瞬で渦の中に引きづり込まれているだろう。
「くっ!マジでやんのかよ!どんだけデカいんだよ竿が折れるぞ!」
慌てて立華の後ろから彼女を引っ張るように体を支える音無。ツッコむとこそこか!?というツッコミを喉の奥へと押し沈めたオレも慌てて音無の後ろに回り、2人が引っ張られないように微力ながら助太刀する。おい、嘘だろ。3人がかりでも全然変化がねえんだけど。
「オイラの腕を嘗めてもらっちゃ困る!!主のパワーにも負けない特別製の釣り竿よぉ!!」
フィッシュ斉藤は己の造りだした竿を誇りつつ、オレの背後から一緒に引っ張り出した。つか、どんな釣竿だよっ!リールも無しの普通のつりざおかと思ったらすごい釣竿だったのかよっ!
「だとしてもこのままじゃぜってえ無理だ!!」
しかし、引く人数が増えようとも相も変わらずものすごい力で川へと引きずられる。明らかな戦力差に悲鳴のような声を上げる音無。
「何だよ主をやる気かっ!?正気じゃねえな。――が、松下五段!肉うどん優先で回してやるから手伝え!!」
「本当か!?ならば助太刀しようっ!!」
オレ達の騒がしさに気づき、日向と松下五段も引っ張るメンツへと加わる。そこに、ピンク色の髪をした小悪魔っ子が茶々を入れてきた。
「おお!!なんか隙だらけじゃないですかひなっち先輩!よ~し、股の間を思いっきり蹴り上げてみよう!」
「姑息なこと考えてねえでてめえも手伝え!!」
「む~、じゃあ神乃先輩を!!」
「却下だバカ!!アホなこと言ってる暇あんなら手伝えよっ!」
この状況見てよくそんなこと言えるなこのバカユイ!!そうこう言っている間にも引きずられ続けるオレ達。くそっ、まだ足りねえのかよっ!?
「――ダメだ!もっと加勢しろ!!」
「音無さん!?」
「やわな奴だ!!」
とうとう音無のヘルプの声を聞きつけたゆりとユイを除いたメンバー全員が助けに回ってきた。一列になり、大きなカブでも引っこ抜くかのように全員で力の限り引っ張る。
『オーエス!!オーエス!!』
「オラァ野郎共!もっとグイグイ引っ張らったんかい!!」
『オーエス!!オーエス!!』
隣でユイの声援なのか罵声なのかよく分からない声をBGMに、懸命に竿を引くオレ達。こうして拮抗していた人間とモンスター綱引き合戦だったが、次第に引っ張り返し始めてきた。徐々に動き出した戦況に川の渦も徐々にさらに巨大なものへと変わっていく。
「――っ!?今だ!!」
「――――っ!」
フィッシュ斉藤の声に頷いた立華は一旦しゃがむようにして反動をつけると、力強く跳躍。ドォォォンという凄まじい衝撃の後に感じるのは浮遊感。天へと飛び上がるかのように飛んだ立華の踏込の強さが窺える。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!?』
もちろん、引っ張るために捕まっていたオレ達も一緒にお空へとtake off。そのまま空中に放り出されたオレは、竿に引かれるように海面から現れた主をついに視界にとらえた。
ザバァァァァァンという巨大な水柱と共に現れたのは、これまた巨大な川の主。見た目は魚のようだが、大きさが意味不明レベル。全長30~40メートルぐらい余裕である。まさかギャラドスサイズのコイキングが釣れるとは誰も思わんだろうに。
「本当に釣り上げやがった!?」
「俺達ごとかよ!?」
「どっちがモンスターだよ!!」
「で、この状況!?」
「マズいですね……。」
空中へと投げ出されたオレ達の体は徐々に重力に従って落下を始める。だが、主はまだ釣り上げられたことによる上昇の途中で、オレ達は主よりも高く上がってしまっている。
つまり――
――グワァァァァァァァァ!!
「これぜってえヤバいだろっ!?」
魚なので鳴き声は聞こえないはずだが、主は最後の抵抗を見せてきた。主に逆らった敵を丸呑みにしてやると言わんばかりに、10人は入りそうなその大きな口を広げる。
「このまま落ちると食われるぞ!?」
「神は落ちない!」
「Crazy for you!」
「あさはかなり」
マズいマズいマズい!!このままじゃ主の口の中にホールインワンになるっ!死なないとは言ってもそれは避けたい。つか、こんな死に方嫌だっ!
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!食われるぅぅぅぅ!!』
しかし、抵抗しようにもここは空中。銃撃で今更どうこうなるわけもないし、帯刀はしているものの、踏ん張りの効かない空中で巨大な主を両断する腕力もない。正直チェックメイト状態だった。
――その時だ。
「――助けなきゃ」
「え……?」
立華の小さな呟きと、その後に続いた何かを切り裂く音に、オレは閉じていた目を開く。
「なっ……!?」
目を閉じる寸前までオレ達と一緒に空中を舞っていたはずの立華は、いつの間にか両手からハンドソニックを出し、重力に従うよりも早く地面に着地しきっていた。そして、オレ達を食らおうとしていた主の体がバラバラに解体され、宙に舞う。
「す、すげえ……!」
あまりの手際、そしてその冷静さに驚愕した。おいおい、食われそうになったっつーのになんて奴だよ。
さすがは戦線の宿て――
「――げふんっ!?」
感心しすぎて落下中なの忘れてた。
「んで、これどうするんだよ?」
全員落下の衝撃から立ち直ってしばらく。オレ達は切り身状態になってしまった主を見上げている。もう、見事な切れ味である。デカいわりには、断面から覗く鮭のような赤身はすごく美味そうだ。
「なあ、こんだけデカけりゃしばらくトルネードしなくていいんじゃね?」
「ええっ!?毎日これ食べるの!?さすがに飽きると思うよ……」
「いや、それ以前にどうやって保存すんだよ。こんなデカいの巨大冷凍室でも作んねえと無理だぞ」
だからと言って廃棄するにはもったいねえな。せっかく死にそうな思いまでして釣り上げたんだし、どうにかしたい。というか、ちょっと食ってみたい。
「う~ん、捨てるのもなんだしな。仕方ない、一気に調理して一般生徒にも振る舞うか」
「おっ!ナイスアイデアだ音無。それに賛成」
「そうだな。そうすっか」
そうと決まればこのデカい切り身を調理できる場所まで運ぶか。オレ達だけじゃちょっとキツいし、他の戦線メンバーやギルドの奴らにも手伝ってもらわねえとな。
「おっ、やっぱり思った通りうめえ」
「はい、美味しいです」
NPCの奴らが運動場に集まり、SSSメンバーの調理した主の料理を配給のようにもらっている。それらの様子を見ながら段差がある場所に腰掛け、同じ物を食べるオレと遊佐。さっきまで調理の手伝いをしていたのだが、他の奴らと交代したため、こうして自分の分をもらって食べているのだ。遊佐とは偶々会った
ちなみに献立は一口サイズの切り身が入った主のけんちん汁。これがまた味付けもしっかりしていてかなり美味い。さすがにイメージで裸になったりはしねえけど。
「にしても……」
そう呟いて配給活動をしているSSSメンバーの方を見る。ズラリとならんだNPCの奴らの数かなり多い。流石に全校生徒とは言わないが、500~600人ぐらいはいるかも知れない。
「はい、お待ちどおさん!」
「そこ!ちゃんと並べ!量ならある!」
「皿が足りてねえぞ!誰か食堂から借りてこい!」
「野菜が少なくなってるぞ!」
「じゃあ私切ってくるわ!」
ガヤガヤと賑わうその空間にはとても戦いを日常としていた彼らの姿は無い。どこにでもいる普通の高校生のようだった。さっき日向や野田が言ってたけど、マジで慈善事業や奉仕団体にも見える。
その様子をほのぼのと見つめていると、隣に座る遊佐がコトリと器を置く。その音に気づき彼女の方へと顔を向けると、この表情はどこか不安を抱いているように見えた。
「――私達はこれからどうなっていくのでしょうか」
「うん?」
急にどうしたと問いかける。それに対して遊佐は僅かに口ごもった後話し始めた。
「天使が無害となったことで、私達の敵は神のみとなりました。ですが、今だに神への糸口は掴めていません。戦いをしない私達は一体何なのでしょうか」
「戦う相手がいなくなったから、戦線ですらないってことか?」
はいと小さく呟く遊佐。確かに遊佐の言うとおりかもしれない。オレ達は天使である立華と、そして神と戦うために今まで戦ってきた。しかし前者は無害となり、後者に関しては行方知れず。戦う相手のいない戦線など意味がないのかもしれない。
「――でもさ、そんなに気にしないでいいんじゃね?」
「え……?」
キョトンとした反応をする遊佐。つってもほぼ無表情だから、いつもとほとんど変わらないけど。
「いやさ、確かにオレ達は神と天使、まあ立華と戦ってきた」
「…………」
「敵を失った、それはそのとおりだ。戦線においてそれは存在する意味を失うことに同等だろうな。――だけどな。忘れんなよ、遊佐。戦い云々以前にオレ達は“今ここにこうして存在してるんだ”」
素直に思ったことを述べてみる。遊佐は何も言わずにオレの話に耳を傾けていた。
「今ここにいて、こうして仲間と飯を作ったり食べたりしている。それは共通の敵がいるから一時的にそうしているだけか?」
オレの問いかけに遊佐はフルフルと首を振る。それに合わせるかのようにツインテールがその名の通り尻尾のように揺れる。
「なっ、違うだろ。そんなんじゃオレ達は繋がってない。ただ戦うためだけにこの世界にいるんじゃないし、一緒にいるわけでもない。互いに助け合うために一緒にいるんだ。生きている間に見つけられなかったものを探すためにな。戦いってのはそのことへの1つの手段にしかすぎねえさ」
だから、とオレは長ったらしくなってしまった話にピリオドを打つように言葉を紡ぐ。
「これからどうなるのかとか、そんなことはどうせ分からねえよ。未来予想なんて素敵スキルなんて持ち合わせちゃいねえんだ、存在意義が少なくなったんだとしたらまた見つければいい。嬉しいことに時間はまだまだあるみたいだしな」
自堕落な考え方だけど悪いものではないと思うぞ、と最後に付け足す。
「――神乃さん」
「ん?」
オレが話し終えると、黙って聞いていた遊佐が口を開いた。
「言ってて恥ずかしくないですか?結構クサいですよ」
――我慢して堪えてた事をズバッと指摘しないでもらいたいですね、このやろう。何か別の話をしよう。羞恥に負けそうになる。
「――ま、まあオレも自分のことどうにかしなくちゃいけねえしな」
「…………」
オレの言葉に急に黙り込んでしまう遊佐。あっ、照れ隠しのつもりで地雷踏んだかもしれん。
「すまん。無神経だった。この前嫌な気持ちにさせたばっかだってのに」
「……いえ、私は大丈夫です」
何やってんだ、バカかオレは。
「不快にさせたのなら何度でも謝る。お前の気が済むならパートナーの解消も――「ふざけないでください」――うぇ?」
オレの話を遮るようにして、遊佐は珍しく言葉を被せてきた。日頃は相手の話をきちんと聞く方の遊佐がそのような行動をしてきたことについ変な声が出てしまう。
「え、えっと……」
「神乃さん、お忘れですか?あなたは私に“これからもよろしく”と言い、私はそれを了承したのですよ」
「い、いや、別に忘れてたわけじゃ……」
「では、ちゃんと分かってなかったのですね。あなたの頭はただのタンパク質の塊ですか?それとも記憶力が鶏なんですか?」
あるぇ~~?なんか怒ってませんか遊佐さん?さっきまでと雰囲気が逆転してますけど。
「ゆ、遊佐さん?」
「何です?あと何故さん付けなのですか」
あなたが怒っているみたいで怖いからです、とは言えない。言ったらゲームオーバーな気がする。おお、死んでしまうとは情けないってなりそう。
「えっとな、何をそんなにお怒りになっていらっしゃるのでしょうか?」
「別に怒ってなどいません」
いや、明らかに怒ってるよね?さすがに分かるぞと内心で呟くが決して口には出さないオレマジチキン。あっ、やっぱり鶏じゃん。
「――ただ、頭にきているだけです」
「同じっ!それ同じ意味だからっ!!あと、なんか分からんけどすんません!!」
全力で遊佐にツッコんだ後に全力で土下座する。あれ?なんかデジャヴ?
「――本当に分からないのですか?」
「はい!私めの馬鹿な頭では分かりませんっ!!どうか教えて頂きたい次第でございます!!」
「……――ません」
「……?す、すんません、聞き逃しました」
土下座している際に遊佐が何かを呟いた気がするが、それは運動場の賑わいにかき消されオレの耳に届かなかった。恐る恐る聞き返すと、遊佐は小さくため息をつく。しょうがないなと困った感じにそれをついた遊佐は少し疲れたように言う。
「……もういいです。何でもありません」
「いや、その言い方は明らかに―――ハイ、ワカリマシタ。モウキキマセン」
無言の腹パンならぬ無言の威圧。もうこれ以上は聞いてくるなと遊佐が沈黙で訴えてくる。
すごく怖いです、はい。
「さあ、片付けが始まりますよ。いつまで頭を下げているのですか?」
「い、いいのか?」
「はい、あなたですから」
それぜってえ誉めてねえよな?
「まあ、お前がいいならいいんだけど……」
「かまいません、行きましょう。あと、私はあなたの事への手伝いもします。そのことは忘れないでください」
「お、おう。ありがとな」
結局なんだったんだろう。考えたがよく分からなかった。そういや、ボソッと話した時にチラリと見えた頬が赤みを帯びていたような気がしたが、それは暮れ始めた夕日のせいだったのかもしれん。
「だぁ~~もう!!食器多すぎだろ!?運び終わんねえよ!!」
「ぼやくなよ神乃。食堂から借りたんだから、ちゃんと洗って返さないと」
「うう、分かってるよ」
「すごい数の一般生徒が集まったよね。食器もまだまだあるよ!」
マジかよ……。あといくつ運べばいいんだ?
遊佐とのやりとりのあと片付けに戻ったオレ。ちなみに遊佐は食器を洗うために食堂に向かっている。女子は皿洗い、男子は大量の食器を運ぶように分かれて撤収作業をしていた。
「そういやゆりっぺはどこ行ったんだ?」
「ゆりっぺは片付けって柄じゃないからな」
そういや見かけねえな。もう寮に戻ったのか?いつのまにかいなくなっていたリーダーの事を不思議に思いつつ、まあゆりの事だし心配することねえだろと考え直し作業を再開する。
「さてと、日も暮れちまったしさっさと終わらせようぜ」
「だな。ゆりっぺは部屋で高みの見物でもしてるんだろうし」
月が夜の校舎を照らす中、ガチャガチャと食器を運びだすオレ達。そこに1人だけ一般生徒の制服で食器を運ぶ女子がいた。
「…………」
立華だ。結局最初の仕込みから調理、後片付けまでしっかりと手伝ってくれている。
「立華も手伝ってくれてサンキューな」
「……かまわないわ」
「釣りだけじゃなくて、調理まで付き合わせて悪かったな、奏」
「あれ?音無、お前いつから立華のこと名前で呼ぶようになったんだ?」
河原では名前呼びだった気がしたけど……。
「ああ、仲良くなったからな。どうせなら名前で呼ぼうかと思って」
「ふ~ん、そうか」
本当に仲良くなれたようで。少し前まで立華の事を心配していたが、こいつにも音無っていう寄り添ってくれる人物ができたようでよかった。
「さてと、じゃあこれを――――」
ドサリと何かが背後で倒れる音がした。
「なん――ゆりっ!?」
倒れこんでいたのは部屋に戻ったと思っていたゆりだった。その姿を見つけた音無がゆりに駆け寄り体を抱え、オレも食器を置いて駆けつける。同じように気づいた他のSSSメンバーも同様に集まってきた。
抱きかかえられたゆりは苦悶の表情で満ちていた。着ている制服も所々刃物のようなもので切り裂かれており、そこから見える白い肌からは血が流れ出している。致命傷というほどの傷はないが、それでも重傷だ。
「どうしたゆりっぺ!?誰にやられた!!」
「うっ……!」
野田の心配そうな声にゆりは痛みを堪えながら口を開く。次に話された襲撃者の存在に、オレ達は一瞬言葉を失った。
「――天使よ」
「な……っ!?」
そんな馬鹿な。オレと音無、それに他のSSメンバーが一斉に立華に顔を向けた。向けられた本人はというとそれに対して何かを言うわけでもなく、ただその場にいるだけだった。
「ま、待て!立華は俺達とずっと一緒にいたぞ!」
「…………」
音無の言葉を聞きながら、ジッとオレ達を見つめるゆり。だが、それも僅かな間だった。
「――っ!」
ハッと表情を強ばらせたゆり。その視線はオレ達を追い越し、その背後の校舎の屋上に向けられていた。冷や汗を流し、刀の柄に手を添えつつ、ゆりの視線を追うようにゆっくりと振り返る。
「…………」
月光の下、なびかせる髪の色は銀色。小柄な体系に色白の肌。他者を魅了する容姿。しかしその姿は鋭い刃のような危険性を醸し出している。こちらを見下ろすその瞳は読めないが、とても友好的には見えず、ビリビリと言いようのない威圧を感じる。
月夜が瞬く夜。オレ達の前に再び“天使”が降臨した。
第14話でした。
今回は主釣りの話になっていましたがどうだったでしょうか?
これから先の展開は一続きになるので原作アニメで言う9話まではオリジナルの話は挟まないように投稿していきたいと思います。下手に挟むとテンポが悪くなっちゃいますからね。
また、前書きでも述べているように活動報告の方に投稿に関することで重要なお話があります。そちらの方も読んでいただけると幸いです。
感想、評価、アドバイスも首を長くしてお持ちしています。
ではでは。