SSSのいくつかの規則の中に、絶対的に守られているものがある。それは一般生徒や教師に敵意を持って手を出さないと言うものだ。理由としてはいくつかあるが、一番の理由は自分達の境遇が関係している。この世界に来た彼らの中には運命に呪われ、殺された、あるいは大切な人を殺された人間が何人もいる。
この世界は例え一般生徒を殺したとしても、次の日には普通に登校してくるような狂った世界だ。しかし、だからといって人を殺すということを受け入れていいものか。答えは否だ。オレ達は神に抗う者だが人殺しの集団ではない、そんな殺戮者じゃない。だから一般生徒や教師には手を出さない。イベント事をする際に巻き込んだりはするが、絶対にその一線は超えないし、超えてはいけない。何故なら、オレ達は人なんだから。自分たちの運命を狂わせた奴らと同じことをするなど、決してない。
「なんだよ……これ」
冷たい雨が降り注ぎ、太陽の光すら遮られた運動場でオレ達は言葉を無くし立ち尽くしていた。しかし、そこは決して戦場などではなかった。
――処刑場
その言葉がぴったりだった。行われていたのは戦いではなく、ただの虐殺。一方的にSSSメンバーの殺されるためだけの場所だった。
ドンッ!ドンッ!と、立ち尽くしている間にも雨の中に銃声が鳴り響く。だがそれはSSSメンバーが引き金を引いたものではない。
「――ぐあっ!?」
「――がぁっ!!」
「「…………」」
飛び散る赤い雫が雨に溶けていく。1人、また1人と同じ制服を着た者達が泥と血の大地に伏していく。そうしてできた水溜まりがまた運動場を赤に染めていった。
そんな中でもSSSメンバーは誰1人と発砲していない。一方的に撃っているのは直井の部下の一般生徒だ。
「「……………」」
しかし、あまりにもその光景は異様だった。NPCは模範的な生徒。つまり普通の高校生。そして、普通の高校生ならば銃を持って冷静に人を撃てるわけがない。その時点で彼らは異常だった。
そんな雨の中、オレの視界にくすんだ金色のものが見えた。いや、違う。オレがあいつを見間違えるわけがない。そう思った時には足が動いていた。
「――遊佐っ!!」
「――っ!?待ちなさい神乃君!」
後ろでゆりの声がしたが、オレの足は止まらない。銃弾が飛び交う中、水しぶきを跳ねながらグランドの片隅へと向かう。水分を吸って重くなった制服が、走りずらい運動場が何よりも煩わしい。何度も足をとられそうになりながらも、オレは倒れるそいつの下へと辿りついた。
「遊佐っ!おいっ!しっかりしろ!!」
「……うっ」
倒れ込んでいた遊佐を抱き上げ名前を呼ぶ。所々制服が破れ、そこから夥しく血が流れ出ている姿が痛々しい。しかし、運よく致命傷は避けられているようだった。何度か呼びかけると、苦痛に顔を歪ませながらもギリギリの声量で声が聞こえた。良かった!意識はある!
「神乃、さん?」
「前衛でもないお前まで……。大丈夫、なわけねえよな……」
「銃弾を数発受けたぐらい、です。怪我などすぐに、治ります……。私の事よりも……あなたは逃げてください……。今の私達では……彼らに太刀打ちはできません……」
このっ……!
「馬鹿野郎っ!今は自分の事を考えろよっ!!」
「…………?」
「すぐ治るとか逃げろとかっ!自分を置いて他人の心配なんかこの状況でしてんじゃねえよ!!こんな状態のお前を残して逃げるだぁ!?ふざけんなっ!少しは自分の事を考えろっ!つか、何かあったら連絡しろって言っただろうが!」
人のこと気にしている状態じゃねえだろ……!
「ですが……今一番大事なことは……対策を練って出直すことです。突発的な行動をしたところで、何もできませんよ……」
「だからって今苦しんでる奴を切り捨てろって?……ああ、あとの事を考えるんならそれが良いのかもしれんねえな。でもな、オレはゆりに皆を守るって約束したんだ。ゆりだって皆を助けたいからここに来てんだよ」
「神乃さん……」
「お願いだ、遊佐。もっと自分の事を大事にしてくれよ……。お前がどう思っているのかは知らねえけど、オレはお前も、皆も、大切なんだよ……」
オレは自分の着ていたブレザーを脱ぐ。気休め程度にしかならないが、Yシャツを破って簡易の包帯を作ると遊佐の傷口の止血を行い、ブレザーを肩にかける。
「あ、ありがとうございます……」
「礼なら後でいい。それより「――ぐあぁぁ!!」藤巻っ!?」
オレが遊佐のもとへと行っている間に一般生徒達と対峙していたはず他のメンバー。だが、藤巻の悲鳴が雨の中に響き渡った。
「ぬあぁぁぁ!?」
「ぐぅぅぅ!?」
「――っ!?」
「松下五段っ!!高松っ!!椎名っ!!」
次々に一般生徒の凶弾の前に倒れていく仲間達。確かに彼らは戦闘に関する腕前なら一般生徒よりも優れている。しかし、どんなに身体能力が高くても攻撃できなければどうしようもない。
「クソッ!どうすりゃいいんだよ……!」
「神乃君!遊佐さん!」
手が真っ白になるくらい強く握り、自分の力の無さに悔しくなっていると、ゆりが銃を構えながらこちらに向かって走ってきた。
「無事かゆり!」
「私はなんとかね……。でもこのままじゃ全滅も時間の問題よ。打開策をうつためにも」
「やっぱり天使の助けが必要か。ゆり、お前は天使の捜索に――」
「そのことなら進行形で作戦を実行中よ」
作戦?どんなだ?
「たぶん天使は今、音無君と一緒にいるわ。彼がいないのも生徒会長代理に天使諸共どこかに閉じ込められているからよ」
「なんで分かるんだ?」
「女の勘ね」
「勘って……」
「ゆりっぺさんの勘はかなり当たりますからね……」
この状況で一か八かの博打。正直、正気の沙汰じゃないが、今はそれに賭けるしかない。どっちにしろ他に手は無いんだからな。
「で、彼に持たせておいた無線機に連絡を入れたわ。あいにく故障か電波状況が悪いかで向こうの声は聞こえてなかったけど」
「いつの間にそんなもん渡したんだよ……。じゃあ音無が天使を連れてくれば――」
「この圧倒的に不利な状況を覆すことができるかもしれませんね」
よし、希望が見えてきたぞ。そう思った時、生徒の1人がゆりの背後から銃口をこちらを向いているのに気づいた。
――やべっ!!
「私は音無君を信じて時間稼ぎに行く「あぶねえ2人とも!」キャッ!?」
とっさにゆりと遊佐を突き飛ばす。ドォン!と1発の銃弾がオレ達が今の今まで立っていた場所に着弾した。
あっぶねえ……。あのままだと誰かに当たってるところだったぜ。すると、どうしたことだろうか。撃った生徒はオレ達への興味が失せたかのように、そのまま他の所へと行ってしまった。
「ありがとう神乃君。助かったわ」
「ありがとうございます」
「あ、ああ。なんとか無事みたいだな。じゃあオレとゆりは時間稼ぎ、遊佐はどっか安全な場所に隠れててくれ。それでいいか?」
「ええ」
「仕方ありませんね……」
「ゆり、SSSの規則に反するかもしれねえが、せめて武器を取り落とすぐらいはさせてもらうけど、いいか?」
「……事が事だからね。それぐらいは仕方ないわ」
「よし。なら……いくぞ!!」
葛藤するように悩んでいたゆりだったが、断腸の思いで判断を下す。それを聞き遂げたオレは散開するように雨の中を駆け出した。一応遊佐にかけたブレザーのから銃を取り出してベルトに挟んでおいたが、使い道はほぼ無いだろう。どちらかというと抜刀しない刀の方が使いやすそうだ。
一般生徒に手出しはできない以上、武器を奪いとって無力化するしかない。それに、さっきの様子。何かが引っかかる。
考えを巡らせていたが、身近にいた一般生徒に接近するにつれてそれを放棄する。今は1人でも無力化していくことの方が先決だ。向こうもこちらに気づいたようで銃口を向けてくるのを視野に捕えた。
「(――来るっ!!)」
そう直感した瞬間、左斜め前に飛ぶ。
オレが飛び終えた瞬間、ドンッ!ドンッ!と2発の銃弾がグチョグチョになった地面を抉る。寸前で身を躱したオレは、1度地面を転がり再び一般生徒に向かって駆け出した。制服が泥と水でさらに重くなるがかまっていられない。
「いい加減に……しろっ!!」
鞘を付けた状態で刀を振り向き、銃を持つ手を叩く。叩かれた生徒は全く反応せず、持っていた銃は泥の中に沈んだ。以外なことに全く抵抗してこなかった。銃に込められた銃弾が切れていたことで装填を始めたため、近付いても撃ってこなかったのは運が良かった。
「って、おい!?大丈夫、か?」
手を打たれ、持っていた銃を手放した一般生徒は痛がるかと思ったが、そのまま全身の力が抜けたかのように地面に倒れこんだ。慌てて確認するが、息はあったので気絶しただけのようだった。
「いったい何がどうなってんだよ……」
さっぱり意味が分からない。が、立ち止まっていては恰好の的になってしまう。次の奴の所に行こうと立ち上がったオレの耳に、まるで喜劇を見て面白がるような声が聞こえてきた。
「ふっ、なかなか頑張るじゃないか」
「てめえは……っ!?」
人を小馬鹿にするかのような態度を見せたのは一般生徒の制服を着て帽子を被った生徒。天使の後釜となり、この状況を作り出した人物。
「――直井、文人っ!!」
雨が降り続く中、傘も差さずに佇む生徒会長代理こと直井文人。オレは今、渦中の人物と対峙していた。
「無駄な話などする気はない。黙って拘束されれば痛い思いはしなくてすむが」
「ふざけんなっ!!大事な仲間をやられて黙っていられるわけねえだろうが!!」
オレの激情を表すかのように雨がさらに強くなる。しかし、直井はそんなことは意に返さないと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「所詮、理解力のない馬鹿か。人がせっかく妥協案を出してやったというのに」
「何が妥協案だ、ゲス野郎。てめえ、一般生徒の奴らに何をした?」
「驚いたな。あんな駒でしかない奴らの心配か?」
「答えろっ!!」
オレは持っていた銃を直井に向ける。こいつは一般生徒じゃない。なら、こちらから攻撃はできる。
「悪いがそんなつまらない問いに答える義理はないな。――それよりも自分の身を案じた方がいいんじゃないか?」
「――っ!?いつの間に!?」
直井が右手をあげると気づかないうちに直井の後ろから一般生徒が壁になるかのように現れ、持っていた銃の銃口を一斉にオレに向けてきた。1人や2人ではない。10人以上の生徒が殺意無き目でオレを見ていた。この数、まさかっ!?
「どうやら貴様らの悪あがきも無駄に終わったみたいだな」
「――――っ!?」
すでに無傷で立っている戦線メンバーはオレだけだった。
日向も、野田も、TKも、大山も、そしてゆりまでも、すでに泥と化した運動場の中に血を流しながら倒れこんでいる。すでに事切れている奴らも何人もいた。ほんの数十分前まで話していた仲間たちが、傷つき、血を流し、死んでいた。
「戦うことのできない奴らなど、殲滅するのは容易いものだ。良い的だったよ。結局は、ただの的に過ぎなかったがな」
「て、てめぇぇぇぇ!!」
どこまでも、どこまでも腐りきった奴だ……っ!!こんなことして何も感じねえのかよ。自分と同じような奴らがここまで傷ついて、それを指示したのが自分にも関わらず、本当に何も感じねえのかよっ!!
「駄犬ようにほざくのはいいが、狙われているのは自分だけだと思っていないか?」
「どういう意味だ……!?」
「――ふっ」
「……?」
直井がオレの背後へと指を指す。オレは銃に警戒しつつ、ゆっくりと自分の後ろを振り返った。直井が指さしたオレの後ろ、そこには――
「逃げるためか、援軍でも呼ぶためか知らないが、どちらにせよただで見逃すつもりはない」
痛む体を引きずりながらも懸命に歩く遊佐がいた。
「――っ!?待て直井!戦えない奴を狙う必要なんてないだろっ!狙うならオレを狙えっ!!」
「何故わざわざ僕が貴様の言い分など聞かなければならない?却下だ、愚か者」
ち……くしょうがぁぁぁぁぁ!!ついには直井や一般生徒に背を向け、遊佐の下へと走り出す。
何度も地面に足をとられそうになる。走るのに邪魔だと刀を放り捨てる。足は止めない。止めてなるものか。
遊佐は恐らく音無と天使を探しに行こうとしているのだろう。あいつが仲間を見捨てて逃げようなんてするはずがない。だが、それが直井に見つかってしまった。
「逃げろ遊佐ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「――――っ!?」
あの負傷した状態で早く動けるとは思えない。ましてや体を動かすことが得意ではなく、体力もない遊佐ならなおさらだ。だがオレは叫ばずにはいられなかった。
――逃げきってほしかった。
――傷つかないでほしかった。
――苦しまないでほしかった。
ただ、それだけを願っていた。
「――――やれ」
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
直井の指示の声と共に、乾いた銃声が雨が降り続く処刑場に無情にも響き渡った。
~遊佐 side~
考えが、甘かったのです。体力もなく負傷している私では神乃さん達の足手まといにしかなりません。隠れてろと言われましたが、最後の切り札である天使を探しに行くことが今の私にできる全てだと思ったのです。
――ですが
「逃げろ遊佐ぁぁぁぁぁ!!」
「――――っ!?」
私を狙う銃口。それを背に神乃さんが走ってきます。命を奪う引き金が、一斉に向けられていた。私はそれに怯え、足を止めてしまった。
それは彼も同じはずです。あんな数の銃弾をまともに受けたら無事ではいられないことは分かっているはずです。ですが彼は、自分のことなどかまわず、私のもとへと駆け寄ってきます。
傷などしばらくすれば治るというのに、役に立たない私など放っておけばいいのに、彼は必死に走り寄ってきます。その姿に、何故、どうして私の為にそこまでするのかと考えてしまいます。
――いえ、違いますね。私はあの人に傷ついてほしくないのでしょう。理由は分かりませんが、そう願います。
「――やれ」
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
響く銃声に私は静かに目を閉じると、襲いかかってくるでしょう痛みに覚悟を決めた。
泥の海に沈むのが分かりました。冷たい水が、体を冷やしていくのを感じました。
ですがそれでだけです。痛みが、こない。体を銃弾が突き抜ける、そして血が抜けていくあの嫌な感覚がない。しかし、何故か体は動かない。手や足は動くのに、身体自体の身動きができない。痛覚も死んだのでしょうか?
そういえば撃たれる直前、何かが体に当たってきた気がします。それは、命を奪う冷酷なものではなく……そう、まるで包み込むように優しく暖かくて……。
――待て。撃たれる直前、私の前に誰がいた?彼は何をしていた?
そこで私の思考は停止しました。自分の予想が違ってほしいと願いながら、閉じていた目を開けます。
映るのは真っ黒な雲に、落ちてくる雫。そして――
「……よぉ、今度は……何とか無事、みてえだな……」
「神乃……さん?」
現実は残酷です。生きていても、死んでいても私を苦しめます。しかし、今度の苦しみは私ではない誰かが傷ついたことによる苦しみです。生前、あれだけ嫌い、疎ましく思い、そして
「どうして……ですか……!」
顔は見えない。すぐ横にあるはずなのに見れない。彼はいつものようにおどけたように話してはいるが、まったく力が込められていない。そのことが私の心をすり減らしていく。一語一句が私の心を抉っていく。
馬鹿だ。私はどうしようもない大馬鹿者だ。知っていたじゃないか、彼がこういうことをすると。岩沢さんの時の彼の姿を見ていたではないか。
「オレは……お前のパートナーだから……。それに、言っただろ……?……オレが、お前を……守るって……な」
彼は、私の盾となり、私の分も含めた銃弾全てをその身に受けていた。
「……ゴフッ!!」
「――っ!?神乃さん……!!」
私を抱きしめるようにして倒れていた彼の腕を解き、上体を起こす。そして、今度を私が彼の体を支えるようにして抱きかかえた。
その際、私は見てしまった。以前から気になっていたこと、その
「しっかり、してください……!」
「は、はは……。わりい……もう…指1本……動かねえわ……」
謝らないで。本当に謝らなくてはいけないは自分なのだ。自分の力量も考えずに、できると驕って行動したことが、今こうして彼を傷つけてしまっている。私の中で自分に対する侮蔑の言葉がぐるぐると渦巻き出した。
――足手まとい
戦う力が無い私のせいです。
――疫病神
勝手な行動をした私のせいです。
――愚か者
できることがあると思いあがった私のせいです。
次々に溢れ出す自分への怒りにおかしくなりそうでした。誰でもいい。今すぐ数分前の私を消してください。
「――泣くなよ……遊佐」
泣、く……?神乃さんに指摘されて、初めて気が付いた。頬を冷たい雨以外の液体が伝っている。目の前が次第にぼやけてくる。ああ、そうですか。私は泣いているのですか……。
どこまで私は愚かなのでしょう。私に……涙を流す資格など無いというのに。
~神乃 side~
ポロリポロリと無表情の顔を僅かに歪めながら泣く彼女に、オレは何もできなかった。その涙を拭ってやることも、言葉で泣き止ませてやることも。
遊佐の涙、初めて見たぜ。できればそんな悲しそうな涙はごめん被りたかったけどな。つか、風穴あいてる状態でそんなことを考えてられるオレは見上げた度胸だと思う。我ながらバカだ。
それにしてもやべえ……。マジで体動かねえ。
歩くことはおろか、立つことも関節1つ曲げる力もない。岩沢の時よりも、はるかに重症だ。死んでないのが不思議なくらいだ。このままじゃ、どのみち遊佐もやられてしまう。
何か手はないか、必死に考えるが、何1つ良い手段が浮かばない。完全に万策尽きていた。
そんな時、バシャリと水の跳ねる音が聞こえた。誰か来たのか……?
「これは……!?」
「………………」
――そうか、やっと来やがったか。
「――遅いぜ、音無」
ちょうど音無が天使を連れて到着した時、直井はまだ息を止めていない日向を足蹴にしていた。まだ死んではいないものの、オレと同じように重症の日向はそれに抵抗することすらできない。あの野郎……動けない奴にまで……っ!
「――っ!?日向ぁぁぁぁ!!」
それに気づいた音無は真っ先に日向に駆け寄る。直井はその様子がまるで愉快な見せ物であるかのように笑い、意外にもおとなしくその場退いた。
「大丈夫か日向!?」
「……はは、真っ先に俺に駆け寄って来るなんて……コレなのか?」
「冗談言ってる場合かよっ!!」
日向が苦しげに笑いながら、いつぞやの手の甲を頬に当てる仕草をすると音無が心配の声をあげる。
「遅刻だぞ……音無……」
「神乃!?それに遊佐まで……!」
「名誉の負傷……だ。かっけえだろ……?」
「お前まで……!この馬鹿野郎共が……っ!」
はっ、お互い様だよ馬鹿野郎。
オレ達のやり取りを傍観していた直井は、音無の様子を一瞥。その後、音無の背後に立っている天使へと視線を移した。
「ふんっ、あの独房からどうやって出て来た?」
「扉を壊した」
「……っ!何年かけて作ったと思ってるんだ。――生徒会長代理として命じる。おとなしく戻れ」
天使の言葉に忌々しそうに呟く直井。だが、すぐに元の自分のペースに戻り、命令を下す。
「立華、この惨状だ。これが正しくないってことは分かるよな?」
「――ハンドソニック」
天使は音無の言葉にコクリと頷くと、いつもの武器となる刃を袖から伸ばした。だが、そんな天使の様子に微塵の動揺も見せない直井。次の瞬間、奴は驚くべきことを言い出した。
「逆らうのか……?
な……に……?
「僕が神だ」
聞き間違いではないと、もう1度告げる直井。突拍子もないその言葉に、天使を含め、オレ達は唖然とする。天使は顔色一つ変えはしなかったが。
「馬鹿かこいつ……」
「こんなにまでしておいて!日向や神乃や皆を傷つけておいて何を言ってやがるっ!!」
「愚かな。ここは神を選ぶ世界だと誰も気づいていないのか?」
神を、選ぶ……?
「どういうことだ……?」
「生きていた記憶がある。皆一様に酷い人生だった。何故か。生きる苦しみを知っている僕らこそ神になる権利を持っているからだ。僕は今、そこにたどり着けた」
「神になってどうするつもりだ……?」
「安らぎを与える」
「俺達にかよ……!!」
「ムチャクチャしてくれてんじゃねえかよ!!」
「抵抗するからだ。君達は神になる権利を得た魂であると同時に生前の記憶に苦しみ、もがき続ける者達だ」
語りながら歩き出す直井。その姿は、まるで慈悲を求める者達に救いを与えようとする先導者のような振る舞いだ。自分こそが正しいのだと、纏う空気が物語っていた。
「神は決まった。なら僕はお前達に安らぎを与えよう」
「――っ!?ゆり!!」
音無が悲鳴のような声を上げる。直井が歩いて向かった先、そこには血を流し倒れこんでいるゆりがいた。日向と同様、息はあるが傷が酷いのか動くことができないようだった。
「う゛っ……ああっ!!」
「ゆり!!」
直井は倒れているゆりの髪を荒々しく掴むと無理やり顔を上げさせ、抵抗できないように拘束する。
「これ以上何をするつもりだっ!?」
「動くな」
「なっ――!くっ!」
ゆりの下へと駆け寄ろうとした音無だったが、その走りは一般生徒に銃を向けられることで止められる。くそ、あれじゃ動いた瞬間ハチの巣だ。直井はそれを満足そうに見届けると、ゆりへと向き直る。
「な、によ……」
「君は今から成仏するんだ」
「――――っ!?」
冷たい雨が降り続く中で、直井がゆりに囁くように呟いた言葉がはっきりと聞こえた。ゆりが……成仏だって?
「岩沢まさみを覚えているだろう?生前彼女は声を失い、歌う夢を断たれ、酷い家庭環境のもと惨めに死に至った」
何故あいつが岩沢の記憶を知っている……?まさか、調べあげたってのか……!?
「だが彼女はこの世界で夢を叶えた。だから消えた、成仏できたんだ。そして、貴様も今から成仏するんだ。幸せな夢と共に……」
「あなたは私の、過去を知らない……。そんなあなたに……私を成仏させることなんて……」
「知らなくてもできるんだ。僕は時間をかけて準備してきた。それは天使の牢獄を作るだけだけじゃない。僕が準備してきたもの――それは“催眠術”だ」
さ、催眠術……だと?とても信じられない。そんな事ありえるとも思えない。でも、それなら一般生徒の様子がおかしいのも納得がいく。彼らは直井に操られていたんだ。だから銃を持つことも、人を容赦なく撃つこともできたんだ。
「(あの野郎……!自分の手を汚さないでNPCの奴らに無理やりやらせてたってことかよっ……!!)」
あいつらはそんな非道なことをやらせるための存在じゃねえんだぞ。迷い込んだ人間が無事にここを去れるように、満足のいく学園生活を送れるように模範となってくれてんだぞ。永遠に続くこの世界で、ただそれだけの為に。そんな奴らを駒みたいに使いやがって……っ!
「さあ……目を閉じるんだ。君は今から幸せな夢を見る。こんな世界でも幸せな夢が見れるんだ」
直井の瞳の色が赤になったと思ったら、次に紡がれた言葉にゆりはゆっくりと目を閉じる。
マズい……直井の催眠術が始まってしまった。このままじゃ直井が作り出した夢のせいでゆりが消えちまう。偽りの思いに騙されてしまう。
「ぐっ……!!」
「だめです、神乃さん……!動いてはいけません……!」
いつものオレなら消えるのを止めたりはしないが、今回は違う。こんな方法で消えたんじゃ、ゆりは本当の意味で成仏できない。だから、早く止めねえと……!
だがオレの思いとは裏腹に、体は僅かに指が動く程度にしか回復していないため起き上がれない。くそっ!動け、動いてくれっ!動けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「――だめだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな時、音無の叫び声が響き渡った。音無は自分を取り囲んでいる一般生徒の間を通り抜け、驚愕の表情を浮かべる直井を思いっきり殴り飛ばす。直井がゆりへの催眠に集中していたせいか、一般生徒達は動くことはなかった。
殴られた拍子に、直井の被っていた帽子が空へと舞う。
「そんな紛いもんの記憶で消すなぁぁぁぁぁぁ!!」
もう一度大きく叫ぶ。音無は尻餅をついて座り込んでいる直井の胸ぐらを強引に掴んで引き寄せた。
「俺達の生きてきた人生は本物だ!!何一つ嘘の無い人生なんだよっ!みんな懸命に生きたんだよ!そうして刻まれてきた記憶なんだっ!」
怒鳴りつけるように、今にも泣きだしそうに音無が叫ぶ。あいつの言葉の1つ1つは、戦線の皆の思いの代弁だ。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、オレ達の人生はオレ達自身がつくりあげたもの。そこには1つとして偽りの物などない。自分がその人生を生きてきた何よりの証なのだと。
「必死に生きてきた記憶なんだ!それがどんなものであろうが俺達の生きてきた人生なんだよ!それを結果だけ上塗りしようだなんて……!」
記憶を失っている音無だからこそ、その大切さが身をもって分かっている。故に直井の方法は許せないのだ。そして、音無は三度叫ぶ。
「お前の人生だって――本物だったはずだろっ!?」
最後に音無は直井自身の人生も本物だと言った。その言葉に、直井が大きく動揺するのが分かった。だが、自嘲するように口元に弧を描く。
「本物?僕の人生が?じゃあ、あんた、僕の話を聞いてもそんなことが言えるのか?」
そうして、直井は語りだす。自分の生前の話を。失い、手に入れ、そして最後に全てを失った物語を。
~直井 side~
――兄が死んだ。
陶芸の名手の家に生まれてしまった僕と双子の兄。兄は幼いながらも後継ぎとしての才能を素晴らしく発揮していた。展覧会に作品を出せば上位の成績を収め、陶芸家で師である父からも一目を置かれていた。
僕はと言えば、1人部屋に籠もって遊ぶ毎日だった。誰にも相手にされない。家族に見向きもされない。僕はあまりに無価値だった。親からも誰からも期待されない無意味な人生だった。
『死んだのはお前だ』
そう告げられた。死んだのは無能な弟、つまり僕ということになった。そう、今生きている僕は兄なんだ。無能で無意味な弟は死んだのだ。
僕が兄とすり替わると、リハビリという名目で厳しい修行が続いた。父の罵声を聞く毎日。修行は苛烈を極めた。兄への道は、才能のない僕にはあまりにも遠かった。でも、止めるわけにはいかなかった。僕は僕の人生を意味あるものに変えるために挑み続けなければならなかった。
展覧会で兄には及ばないが、僕自身の最高の成果で入賞を果たした。だけど父から言われたのは再び罵声だった。それでも良かった。厳しい父のもとで修行を積んで日本一の陶芸家になろうと思った。無意味だった人生の意味を見つけられた気がしたんだ。
その父が床に伏せた。回復の見込みは無いらしい。もう、ろくろすら回せない……。
僕に陶芸を教えることも、叱ることもなくなった。食事を与えると優しい微笑みすら見せた。
師である父に教わらなければ、僕ではこれ以上腕を磨くことができない。こんな腕じゃ工房は持てないし、独り立ちもできない。ずっとこの人の世話をしていく人生なの?――ねえ!!神様っ!!
『死んだのはお前だ』
あの時死んだのは本物に僕だったよ。あそこから頑張ったのはずっと兄、ここにいるのも兄、結局、僕の人生だと思っていたものには父と兄しかいなかった。あの時死んでから、僕はすでに終わっていたのだ。
――僕の人生は偽りだった。
――僕はどこにもいなかったんだ。
「――――お前の人生だって本物だったはずだろっ!!」
~神乃 side~
「お前の人生だって本物だったはずだろっ!」
直井が自分の人生について語り終える。それを聞き遂げた音無はなお同じことを叫ぶ。そしてその存在を確かめるように直井を強く抱きしめた。
「頑張ったのはお前だ!必死にもがいたのもお前だ!違うか!?」
「何を知った風に……!」
「分かるさ……!ここに、お前もいるんだから!」
音無の放つ言葉の1つ1つが直井の心を曝していく。徐々に先ほどまでの傲慢な感情が薄れ、縋りつくような感情が顔を見せ始めた。
「……なら、あんた、認めてくれんの?この僕を」
震える声で言う直井は、自分の求めるものを必死に掴もうとしている幼子のようだった。
これが直井の本当の気持ちなのだろう。生徒会長代理という傲慢な態度の奥に秘めていた、あいつの本当の姿だ。直井は、今初めてそれをさらけ出していた。生前ですら見せれず、この世界来てからも見せなかったものを、初めて。
「お前以外の何を認めろってんだよ!俺が抱いてるのはお前だ!お前以外いない!お前だけだよ……!」
直井の目が大きく開かれる。あいつが欲しがっていたものはこの言葉だった。あいつの兄でもない、兄に成り代わったあいつでもない。“直井文人”という存在を認める言葉。その歩んできた人生を認める言葉。
開かれた瞳からはやがて一筋の涙がこぼれ、直井の頬を濡らしていた。いつの間にか降り続いていた雨はあがり、雲の隙間からは太陽の光が溢れる。零れる光は悲しみの戦場を照らし、たった1人、自らの意味を追い求めていた少年に優しげな救いの光を見せていた。
「なんとか、一件落着だな」
「……本当に大丈夫なんですか?」
「なあに、傷ももう治っちまったし大丈夫さ。制服がボロボロだけど」
おまけに濡れてるからかなり寒い。早く風呂にでも入りたいもんだ。
あれから、全ての事が終わると、各々の傷が回復するのを待ち、各自解散ということになった。さすがに皆疲れていたのか、誰1人としてそのことに異論のある者はいなかった。ちなみに操られていた一般生徒達も皆解放されている。直井なりに思う部分もあったのだろう。
オレも痛みが引き、ようやく治ったと思ったので部屋に戻ろう、そう思ったのだが、突然遊佐が部屋まで付き添うと言い出してきた。男子と女子とじゃ寮が違うからいいって言ったんだけど、頑なに付いて来るって言ってきたから、まあ、今は一緒にいるわけだ。
「本当に大丈夫ですか?」
「お母さんかよ、お前は。むしろ、お前の方が大丈夫か?傷痛んだりしてないか?」
「あなたがそれを言いますか。あんなに銃弾を受けたんですから気になるのは当然です。それに私の怪我などあなたに比べたら掠り傷も同然です」
いや、心配してくれるのは嬉しいんだけどよ、こっちとしては気が気じゃなかったんだよ。言ったらブーメランになりそうだから言わねえけど。そんな事を考えているうちに、なんだかんだでオレの部屋の前まで着いた。
「んじゃ、お疲れさん。今日はお互い大変だったな。お前もゆっくり休めよ」
「はい。神乃さんこそいつまでも起きていてはいけませんよ」
だからお前はオレのお母さんかよ。
「へいへい分かってるよ。……じゃあ遊佐、お休み」
「お休みなさい」
そう告げて扉を閉めようとしたら、
「――すみませんでした」
とかいう小さな声が聞こえたので閉める途中だった扉を止める。
「何がすみませんなんだ?」
「き、聞こえたんですか……!?」
遊佐は聞かれたことに驚いていた。いや、何度も言うが無表情なんだけども。お前、器用だな。
「うん、まあな。で?何がすみませんなんだ?」
「…………足手まといになってしまったことです」
「は?足手まとい?」
「はい……。皆さんは頑張って戦っていたのに私は何一つできず、あまつさえ神乃さんに大怪我までかけてしまって……」
シュンと落ちこんで顔を伏せる遊佐。心なしか雨に濡れたツインテールもしょんぼりしているように見えた。
「それはオレが勝手にやったことで「なんとか皆さんを助けようか思い、援軍を呼びに行くにしても結局は見つかってしまいましたし、私は自分が情けないです」……」
聞けよっ!と言うツッコミは無粋だからやめておく。なるほどね。だからそんな自分に対してボロクソ言ってんのか。
やれやれ。そこまで言うのなら、オレからも1つ言わせてもらおう。
「――ばーか。何言ってんだお前」
「馬鹿って……。やっぱりそうですね。私なんて──」
「ああっもう!ちげえよ。そういう意味で言ったんじゃねぇっつーの」
「……?」
どうしてそんなに自分を責めるんだ。そりゃ、自分のミスで仲間が傷ついたらそうなるだろうけど、いくらなんでも落ち込み過ぎだ。遊佐の場合、今まで頑張ってきた分、責任感みたいなのが強いんだろうけど。
「誰にだって得意不得意があんだろ。それをフォローしたり助けたりすんのが仲間だ」
「ですが……!」
「ですがもナスカもサッカーもねえよ。オレはお前のことを足手まといなんて思わないし、むしろ……その、なんだ……尊敬してるし」
なんか直接本人に言うと恥ずい。でも、ここではっきり言っておかねえと、こいつはズルズル引きずってしまう。それだけはダメだ。
「尊敬……ですか?」
「ああ。通信士の仕事ってそんなに目立つもんじゃない。でも、絶対に必要な役割だ。お前はその責任を十分に果たしてんだぞ?それを凄いって思わない方がおかしいだろ」
「それが私の仕事ですから……」
「仕事でもだよ。お前のおかげで助かっている奴はこのSSS中に存在してる。だからお前は胸張っていいんだ。自分はすごい奴なんだと言い切っていいんだよ。否定なんざさせねえし、きっと他の奴らも同じこと思ってる。だから、迷惑なんか気にすんな。困った時は頼りたい奴を頼ればいいんだよ」
「頼る……」
「その……オレなんかでもお前の助けくらいにはなれる……と思うし」
「…………」
頭を掻くという照れ隠しをしながら話す。それを聞いた遊佐は顔を伏せて黙り込んでしまった。
ねえ、何か言って?超恥ずかしいからなんか言って?オレ顔から火が出ちゃうよ?
「――ふふっ」
「ゆ、遊佐?」
沈黙を破ったのはクスクスとした笑い声だった。一瞬誰だと思ったが、今ここにはオレと遊佐しかいない。ということはだ。そう考えていたら、遊佐が伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「やはりあなたは変わっていますね」
そう言って、いつもの無表情を止め、言葉を紡ぐ。
「神乃さん」
「お、おう」
「――ありがとうございます」
ドキリと心が跳ねた。顔が一気に熱くなる。思わず声が震える。満面という程ではないが、遊佐は今まで見たことがないぐらい、そして今までで一番の優しげな笑みを浮かべていた。
その笑みは、どこまでもに可憐で、あまりにも儚げで、触れるだけで壊れてしまいそうな位繊細で、オレはそんな遊佐の笑顔に否応もなく、惹きつけられていた。
「ああ~ビックリした」
遊佐と部屋の前で分かれたオレは部屋の中で胸元を押さえていた。胸がまだドキドキしてやがる。今までで一番のギャップだった。あれは卑怯だ、あまりにも不意打ち過ぎる。この前のコンテストの時から色々と心臓に悪い。
「つーか、ぜってぇ顔赤くなってるなこれ」
風邪ひくといけないから(実際この世界では病気になんてかからないけど)とか言って誤魔化して慌てて遊佐を帰らせたけど、見られてない、よね?
「…………やめだ、やめ。考えてもしょうがねえし、むしろ考えるといつまでも落ち着けない。汚れちまったままなんて嫌だし、さっさと風呂に行こう」
そう呟きながらおもむろにYシャツのボタンに手をかける。この寮は部屋に風呂は無く、寮の大浴場まで行く必要がある。そこまでボロボロの服で行くのはちょっと抵抗があるので、着替えて行くことにしたのだ。
「うわ、こりゃもうダメだな……。ゆりに言って新しい制服もらえるか聞いてみねーと」
Yシャツの前は泥まみれで、袖は遊佐の包帯代わりにしたからひどい有様だった。
「これ、後ろとかヤバいんじゃ……」
一応、心の準備をして恐る恐るYシャツを脱ぎ、背中を確認した。
「あれ?血が……ついてない?」
確認したYシャツの背中の部分、そこには泥がついていたり、銃弾による風穴はあった。だが、本来あるべき痕跡、血痕が全くなかった。
「な……んでだ……?あんなに銃弾を食らったのになんで穴があいてるだけで血がついてねえんだっ!?」
理解不能な事態につい口調を荒げてしまう。この世界では傷は治るが血痕は消えない。当たり前のようにそこに残る。それが無いのだ。確かにオレは遊佐を庇って銃弾を受けた。それも1発や2発なんかじゃない、軽く10は越えてたはずだ。なのに……。
動揺を隠せず、Yシャツの下に着ていたTシャツも脱いで確認する。だが……。
「これもかよ……!」
TシャツにはYシャツ程ではない泥と、銃弾による風穴だけがあった。血痕などどこにもない。
「何でだよ……!一体何が起こってんだよ……!」
自室で溢す言葉。もちろん聞いている者など、誰もいなかった。
この日気づいた不可解な事実。このことが自身の存在を大きく揺るがすことになるとは、オレはまだ気づいていなかった。
第11話でした。
一難去ってまた一難。今回は直井君の話の完結と、神乃君自身の話をちょこっと入れてみました。これからの展開を待っていただけると嬉しいなと思います。
自論ですが、誰かの代わりと言うものには絶対になりきれないと思います。ただひたすら他の人になろうとしても、なろうとした自分と言う存在がどこかに残っています。
仮にそれすらも消せたら、それはもはや代わりですらないと思います。だって代わりになろうとした自分がいないのですから。代わりでもない、自分でもない。それは一体誰なんでしょうね?
はい、どうでもいいですね(笑)
次回はオリジナルの話を入れたいと思います。時系列も少しだけ戻ります。たぶんシリアスは無いでしょう。
感想、評価、アドバイスお待ちしています。ではでは。