死後で繋がる物語   作:四季燦々

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どうも四季燦々と言います。ハーメルンでは読み専だったのですが、とうとう我慢できずに投稿してしまいました。試験勉強の合間にポチポチと更新していきたいと思うので、どうかよろしくお願いします!


本編
awaken


ザワザワ…ザワザワ…

 

 

――――何だ?なんか騒がしいな。

 

 

オレはうつぶせに寝ている体を起こし、周囲を見渡す。一番始めに目に飛び込んできたのは同じ制服に身を包んだ男女が歩く姿だった。おそらく学生なのだろう。友人同士で楽しそうに話し、時には小突きあったりとそれぞれが違った行動を起こしつつも、全員同じ方向へと歩いていた。

 

「ここは……どこだ?つか、こいつら誰?」

 

何故かは分からないが、オレは外の、しかもコンクリートの道の上で倒れていたようだ。おかげで体の節々が痛い。痛みに顔をしかめるオレだったが、歩く学生たちはなんのその。時折視線を向けてくる者もいたが、大部分はオレを無視しながら避けるように歩いていた。

 

騒がしかったのは彼らが話しながら歩いていたことと、彼らの足音が原因だったようだ。

 

「(普通、人が道端で倒れてたら無視するか?それって人としてどうよ)」

 

無視、というよりも気づいていない、と表現した方が適切なほどの生徒達のスルーっぷりを不審に思いながら立ち上がる。その生徒達が向かう先にはやたらと大きな建物が立っているのが見えた。同じ制服、そして若者が向かう場所と言ったら『学校』しかない。つまりこの大きな建物は学校と言うことになる。

 

「にしてもでかすぎるだろ……。あれ?そもそもオレ、何してたんだっけ?」

 

とりあえず、今の状態になるまでの経緯を思い出してみるとしよう。

 

「…………何も思い出せねえ」

 

ここがどこなのか、何故道端で寝ていたのか、さらには自分の名前すら思い出せない。くそ、一体なんだってんだ。

 

意味が分からない状況に心の中で苛立ちを吐く。思考に浸っている間にいつの間にか周囲が静かになっていることに気が付く。周りには誰もいなくなっていて、建物からはチャイムのような音が聞こえた。

 

「ここは学校……だよな?制服着てたし、チャイムも鳴ってたし」

 

よく見るとオレ自身もさっきの奴らと同じ制服を着ていた。黒い学ランに黒い学生ズボン。白いワイシャツに肌着替わりの黒いTシャツを着用していた。さっき見かけた男子学生は紐状のタイをつけていたがオレはつけていなかった。どうやらオレは堅苦しいのは苦手だったようだ。なるほど、ますますわけが分からん。

 

「このまま1人で考えたってしゃーないか……。とにかく話が分かる人に会わねえとな」

 

オレは話が分かる人物を求め、学校であろう建物に向かって歩き出す。もしここが学校なら人はたくさんいるはずだ。教師なり、校長なり、事務の人なりと話は聞けるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期がオレにもありました。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………誰?」

 

むしろ、あなたこそ誰ですか?

 

とりあえず誰かと接触しなければと考えてフラフラと歩いていると1人の女生徒と遭遇した。女子にしても小柄な背丈、明るく輝く銀色のような髪に芸術的な美しさの顔立ち。そして、何物にも染められていない、どこまでも透き通った琥珀色の大きな瞳。

 

「初めて見る顔ね。もしかして新しく来た人かしら?」

 

「新しく来た……?いや、そもそもお前は誰だ?」

 

「私?私は生徒会長よ」

 

「生徒会長?」

 

「ええ。じゃあ、今度はこちらの質問に答えてもらうわね。あなたは誰?」

 

抑揚が少なく淡々と話す生徒会長(?)が、先程とは違った質問をしてきた。オレが誰か、ね。

 

「すまん。オレも分かんねえんだ。気が付いたらここにいて、名前すら思い出せない」

 

「記憶がないパターンね。大丈夫よ。ここに来た人の中にはそういった人もいるから。頭を強く打ったとかが死因だと脳も強いダメージを受けるだろうし」

 

…………what?おい、ちょっと待て。今さらっととんでもねえこと言わなかったか?

 

「あれ?オレの聞き間違いかな?死因とか聞こえたんだけど気のせいだよな」

 

「間違えてないわ。あなた、交通事故にでも遭ったのかしら。そんな記憶ない?」

 

「あ~……ちょっと待て。つまりは何だ?お前はオレがすでに“死んでいる”とでも言うのか?」

 

「ええ。だってここは死んだ後の世界だもの」

 

どうしよう。すっげえ美少女だと思ったら電波系の残念美少女だったんだけど。オレ青春男じゃないんだけど。

 

「じゃあ、仮にここが死んだ後の世界だとしてだ、それを証明できるのか?」

 

「証明?いいけど……我慢してね」

 

「はい?我慢?何を――――」

 

 

 

 

 

 

――――“ガードスキル ハンドソニック”

 

 

グチャリと嫌な音がした。体の力が急速に失われ、腹の辺りが熱くなってくるのを感じる。いや違う。これは痛みだ。激痛が体中を走り、ガクガクと足は震え、やがてひざまづいてしまう。視線を下に下げるとそこには銀色が広がっていた。一目で今の今まで話していた女子の髪だと気づく。

 

今、この女子は何をしている?その腕から見えるものは何だ?どうして……。抜けていく力と共に意識が落ちていく。リノリウムの床に崩れ落ちたオレの視界に無表情の少女が映った。その腕からは鋭利な物が“生えて”おり、この少女の異常性を物語っていた。

 

「――――――」

 

意識を失う寸前、彼女が何かを呟いているのが口の動きで分かったが、薄れゆく意識ではそれを聞き取ることはできなかった。そして……オレは……再び闇へと……落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――って、いきなりのDEAD ENDとか納得できるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

まだ選択肢の1つも選んでねえよ!と掛けられていたシーツを跳ね上げ、勢いよく起き上がる。

 

「……あれ?ここどこだ?」

 

「目が覚めたかしら?」

 

「うわっ!?」

 

起き上がった先に見えたのは肌色をしたカーテン。それがオレが寝ていたベッドを囲むように引かれていた。現状を把握できずに頭を捻ると、引かれていたカーテンが開き、白衣を着た女性が顔を覘かせた。

 

「もう元気なようね。はいはい、それなら早く出ていきなさい。ここは健康な子が来る場所じゃないわ」

 

「えっ?ちょっ!?まっ――」

 

「はい、さようなら」

 

引かれるままに手を引かれ、部屋の外へと追い出されてしまう。話を聞こうとしたのに何も話させずに追い出すとはどういうことだとブツブツ文句を言うが、中にいる人物に気付かれるわけもなくなんだか虚しくなってきたので

やめた。扉の上に罹れたプレートからここが保健室だということは分かったが、結局はそれだけだった。何の手掛かりにもなりゃしない。

 

「つか、さっきまでのは夢……だったのか?」

 

いや、でもあの痛みも体から力が抜けていく感覚も全部本物だった……はずだ、たぶん。じゃあ、何でオレは生きてるのかって話になる。まさか、本当にここは死んだ後の世界だとでも?1度死んでるから2度は死なないとかそう理由で復活しているのだとでもいうのか。

 

「……ねえな」

 

ないない。そりゃない。そんな異常があるわけない。傷なんてどこにもないし、服だって別にどこも破けてない。たぶん夢だったんだ。中に誰もいませんよ的なリアルな夢だっただけだ。なにそれ怖い。

 

さて、あれが夢だったのだと分かったところで、またまた人探しするとしようか。今回は行くあては決めてある。ズバリ校長室だ。あの保健医の強引な対応を報告するとともに話を聞こう。うん、そうしよう。

 

途中で見かけた校内案内図(異様なぐらい広かった)を参考に、スタスタと廊下を歩く。そして、何度か道に迷いながらもようやく校長室と書かれたプレートのある部屋へとたどり着いた。

 

「やっと見つけたぜ……。この学園広すぎだろ」

 

歩き疲れたせいでため息が出る。ホント、勘弁してほしい。おかげでだいぶ時間がかかっちまった。これは保健医の事を誇張して伝えることで発散しよう。……我ながらちっさいな。

 

そんなしょうもないことを考えているオレだったが、なかなか校長室には入れずにいた。別にカギがかかっているとかそういうことではない。まだドアノブには触れてないからその確認はしていない。もっと別の事が気になって踏み出せずにいた。

 

「天上からハンマーが……?」

 

校長室の扉、その目に前にハンマーがぶら下がっていたからだ。廊下の先を見ると割れた窓ガラス。えっ?なに?ここで大乱闘でも起こったの?誰かスマッシュぶっ放したの?

異様過ぎる。電波系残念猟奇的美少女の夢といい、このハンマーと割れたガラスといい、何なんだこの学校は。

 

考えてみたが、やはりさっぱり分からない。では、分からないならどうするか。そこは行動するしかない。と言うことで――――

 

「すんませーん。誰かいませんかー?」

 

コンコンコンとノックをして中へ呼びかけてみる。

 

『えっ!?誰か来た?』

『音無に引き続き新たなメンバー候補か!?』

『というか罠はどうした?何故発動しない?』

『野田が先に吹っ飛んだからだろ。まだセットし直してねえし』

 

中で何やら話し声が聞こえる。もしかして来客中だったのだろうか?こりゃ1度で直すべきかな。

そんなことを考えていると、『入ってきていいわよ』と若い女の声がした。校長って女の人だったのか。

とにかく許可が出たのだから早く入ろうと、ドアノブを回し扉を開けて――

 

「失礼しま――――――した」

 

――――バタンと閉じた。あれ?オレ疲れてんのかな。なんか色々とツッコミが必要なメンツが集まっていたんだけど。たぶん見間違いだろ、うん。じゃあ、もう1度開けてみよう。そうしたら今度は人の良さそうなおじいさんが椅子に座って暖かく迎えて――――

 

「入りなさい」

 

「……はい」

 

有無を言わせないその様子に素直に返事をした。そして、校長室から出てきた“女子”に連れられるようにオレも中へと入る。

 

「うおー。本当にNPCじゃなくて新入りだぜ」

 

「マジかよ。同じ日に2人とかどういうことだ」

 

「すごいレアケースだね」

 

「New member!」

 

「仲間が増えるのは良いことですよ」

 

「うむ。高松の言うとおりだ」

 

「あさはかなり」

 

校長室の中にはいろんな特徴を持った男女がいた。何故か制服がボロボロのオレンジ色の髪をした奴、青い髪をしたやんちゃそうな奴、長ドスをもったヤンキーみたいな奴、童顔の中世的な顔立ちをした奴etc……と色の濃いメンバーが集っていた。だが、肝心の校長らしき人物がいない。

 

「あの~……オレ校長に会いに来たんだけど……」

 

「ああ、その辺も含めて話を聞くから大丈夫よ」

 

そう言って校長専用の椅子に腰かけたのはオレを出迎えた女子だった。紫色のような髪にカチューシャ。勝ち気な目をしているかなり可愛い。来ている制服がさっき見た奴らとデザインが違う。この校長室にいる奴らではボロボロのオレンジ色の髪をした奴以外オレと制服は異なっていた。

 

「そうね……。ねえ、あなた」

 

「なんだ?」

 

「ここがどういう場所か分かってる?」

 

「いや、全然。ついでに言うと自分の事も分からない」

 

「そう。記憶をなくしているパターンね」

 

またそれか。でも、あれはオレの夢だったはずだし、すごい可愛い生徒会長に同じこと言われましたなんて妄想乙とか言われそうで恥ずかしいから黙っておこう。

 

「どういうことだ?」

 

「そうね、さっさと教えてた方がいいわね。ここは死後の世界。あなた、ここにいるってことは――――死んだのよ」

 

「――――っ!!」

 

面と向かってハッキリ『死んだ』と言われた。ここまでハッキリと告げられる言うことは、このことは真実で、あの生徒会長が言っていたことは本当だったのかもしれない。だが、そんなことすぐに納得できるはずがない。

 

「――証拠は?」

 

ふと気づけば、オレは生徒会長にした質問と同じ内容を口走っていた。その質問は想定してしていたと言わんばかりに、女子はふふんと鼻を鳴らしながら腕を組む。

 

「証明はできるけどどうする?1回死んでもらうことになるけど」

 

「……やめとくよ」

 

すでに1度経験したからな。あんなのは2度とごめんだ。

 

「順応性が高いのは評価に値するわね。でも、やけに素直じゃない?」

 

「1度生徒会長とやらにぶっ刺されたからな。あの時オレは死んだはずだけど、今こうしてここに立って話してる。それが答えなんだろうよ」

 

「「「なんだって(ですって)!?」」」

 

「うおっ!?なんだなんだっ!?」

 

オレなんか変な事言ったか!?って、生徒会長に刺されたとか思いっきり言ってるな。サーセン。

 

「生徒会長ってことは天使だろ……」

「あいつよく無事だったな」

「いや、1回刺されてるなら無事って言わなくね?」

 

何やら周りが騒々しいが、1つ気になるワードが聞こえた。

 

「なあ、天使ってどういうことだ?」

 

「それも説明するわ。でも、その前に。唐突だけどあなた、入隊してくれないかしら?」

 

「……は?」

 

「だから、入隊よ。どうする?」

 

「待てよ、入隊ってどういうことだ?そこからちゃんと説明してくれ。あまりにも脈絡が無さすぎる」

 

「入隊ってのは私達“死んだ世界戦線”に入るってことよ。そして目的のために戦うの」

 

「戦う?誰とだ?」

 

「そんなの決まってるじゃない。“神”、それと“天使”とよ」

 

“神”?それにまた出てきたけど“天使”?

 

「この世界にいる人間は皆、生前に理不尽な人生を送った者達よ」

 

「理不尽な、人生?」

 

「そう、だから私達は理不尽な人生を強いた神、そしてその仲間である天使と戦うのよ。この世界を手に入れるために」

 

「手に入れるって……」

 

おいおい、話がどんどん壮大になってねえか?どこの映画だよ。神や天使と戦うとか正気の沙汰じゃねえぞ。

でも、こいつは決して冗談で言っているわけではなさそうだった。その瞳には固い決意と熱い闘志、何があろうと目的を達成するという強固な意思が見えた。

 

「聞いてもいいか?」

 

「何かしら?」

 

「ここは死後の世界って言ったよな?じゃあ、この世界では絶対に死ねないのか?」

 

「あら、いいところに気づいたわね。そう、ここでは確かに死ねない。だけど消える、つまり『成仏』することはできる。まあ、私達はしようとは思わないけど」

 

なるほど。死後の世界らしい話だ。未練が無くなったらおさらばってか?

 

「じゃあ、天使って言うのは?」

 

「あなたも会ったのでしょう、生徒会長に」

 

「ああ」

 

「その子が天使。神のしもべよ」

 

「マジかよ……」

 

確かに人間離れした容姿だと思っていたが、まさか本当に人間じゃなかったとは……。あの腕から出てた奴も天使としてのあいつの能力ってわけか。つーことは、こいつらはあの子と今まで戦ってきたってことなのか。

 

「質問は以上?じゃあ、仲間になる気になった?」

 

女子のニコニコとした視線が向けられる。うっわ……。これ断らせる気ねえわー。笑顔の中になんか黒いものが渦巻いてるわー。まあ、しかしだ。現状、今オレには選択肢は1つしかない。

 

「……オレには記憶がない。だからなんでこの世界にいるのかも分からない」

 

正直頭ん中は混乱でグチャグチャだ。

でも……

 

「いいぜ。やってやろうじゃねえか。神様と天使とやらと戦えば、オレ自身のことも何か分かるかもしれねえしな。だから……仲間になるよ」

 

不思議とこいつの言葉には説得力があった。そして、何となくでしかないけれど信用してもいい気がしたんだ。

 

だから、戦おう。本当の自分を見つけるために。精一杯抗ってやろうじゃねえか。

 

「そう……。なら私達と共に戦いましょう」

 

そう言って手を出してくる少女。握手という意味だと分かり、その手を握る。

 

「私は“ゆり”。この戦線のリーダーよ」

 

「ちなみにあだ名はゆりっぺって言うんだ――ぐぺっ!?」

 

「余計な事言わなくていいのよ、ったく」

 

「なるほど、ゆりっぺか」

 

「正直恥ずかしいんだけどね。まあ、もう慣れたわ……」

 

どうやら『ゆりっぺ』というのは渋々納得したあだ名だったようだ。ちなみに、ゆりっぺと呼んだ青い髪の奴はゆりの回し蹴りを顔面に食らって吹っ飛んでいた。おい、そんな短いスカートで足上げていいのかよ。

 

「で、彼はついさっき入隊した音無君。あなたと同じ新入りで、あなたと同じ記憶喪失よ」

 

「そりゃ互いに苦労するな。こちらこそよろしくな、音無」

 

「あ、ああ」

 

「なあ、音無はなんでそんなボロボロなんだ?」

 

「聞かないでくれ……」

 

音無とも握手をしつつ、ふと思った疑問を口にする。どうやら、オレ以上に色々あったようだ。南無南無。あっ、この世界じゃ洒落にならないな。

 

「よし、じゃあ俺も自己紹介しとくか。俺は「彼は日向君よ」うぉい、ゆりっぺ!?なんでお前が言うんだよ!?」

 

「うっさいわね。別に誰が言おうと変わらないでしょ?やるときは偶にしかやらない君?」

 

「俺はそんな名前じゃねぇ!!つか、語呂悪すぎて無理がある!!」

 

日向と呼ばれたのは先ほどぶっ飛ばされた青い髪をした男子だった。結構損な役回りのやつらしい。つか、回復はええよ。それから部屋の中にいた戦線メンバーの名前がゆりっぺ……やっぱゆりでいいや。ゆりから紹介があった。

 

 

 

 

 

 

「そういえばあなた、名前は何と言うのですか?」

 

眼鏡をかけた男子が聞いてくる。こいつは“高松”。一々眼鏡を上げて知的な様子で話すが、実は馬鹿らしい。何そのギャップ。

 

「それが分からねえんだよな……。ほんと、何にも覚えてないんだよ」

 

「名前すら覚えてないのか。記憶が無いにしてもなかなか重傷だな」

 

そう言ってくるのは赤い髪をした女子。彼女の名前は“岩沢”。陽動部隊に所属しているそうだ。歌が凄まじく上手いらしい。“ガルデモ”というバンドを組んでいるそうだ。

 

「名前がないのも不便よね……。思い出すまでの仮名でいいから誰か考えてくれる?」

 

「もう村人Aでいいんじゃねえか?」

 

ゆりの提案に適当に答えるのは、長ドスを持つ男子。こいつは“藤巻”。見た目はおっかないあんちゃんみたいな奴だ。というか、誰が町の名前を説明してくれる村人Aだ。あっ、別にそこまで言ってないですね。

 

「さすがにそれはヒドいよ藤巻君……。もうちょっとちゃんと考えようよ」

 

何とかフォローを入れてくれるのは中性的な顔をした男子。こいつは“大山”。ゆりの紹介曰わく、“特徴が無いことが特徴”の普通すぎる奴だ。こいつは良い奴。直感でそう思った。

 

「Oh……no idea」

 

英語で話しながら、クルクルと踊っている金髪とバンダナの男子は“TK”。名前もその正体も何もかもが謎だらけの奴で、あんな風に英語で話しているが、実際の英語の勉強は全く駄目らしい。さっき紹介された時も踊ってるせいで握手できなかった。

 

「あさはかなり」

 

部屋の隅の方で気配を消して立っている女子の名は“椎名”。あさはかなり、を言いまくってはいるが、戦線メンバーの中でもずば抜けて運動神経が良いらしい。握手した際、今度手合わせ願おうとか言われた。普通に嫌です。

 

「…………」

 

窓の外で血だらけで死んでるのは“野田”。運動神経は高いが、ゆりの指示にしか従わないほどゆりに従順なんだそうだ。あと、アホだそうだ。オレが校長室に来る前に自分で仕掛けたあのハンマートラップに引っかかり窓の外へとI can flyしたらしい。そんで、アホだそうだ。

 

「人の名前を考えるというのは難しいな」

 

この大きな体をして目の細い奴が“松下”。柔道五段なので、皆敬意を評して『松下五段』と呼ぶそうだ。戦線メンバーに柔道を教えたりしてくれるらしい。大の肉うどん好きだそうだ。

 

この他にも戦線メンバーは多く校内に潜伏していて、それぞれの仕事を行っているらしい。おっと、それよりも今はオレの名前だったな。

 

「誰も意見は無いの?じゃあ私が決めるわよ」

 

一番良いのを頼む。

 

「そうね……それじゃあ、あなたはこれから“神乃(カンノ)”君でどう?」

 

「“神乃”か……ちなみに意味は?」

 

「無いわよ。適当だもの」

 

「無いのかよ!?しかも思いつきか!?」

 

「うるさいわね。じゃあ、日向君は何かあるの?」

 

「うっ……ねえけどよ。お前は良いのか?」

 

「うん?まあ、いいんじゃねえか。思ったより変な名前じゃなかったし」

 

「じゃあ、決まり!さっすが私。ネームセンスあるわね!」

 

嬉しそうにはしゃぐゆりの周りのメンバーは苦笑し、オレも釣られて笑った。

 

 

――――神乃。神乃か……。

 

 

心の中で何度か与えられた名前を反復し、胸に刻みこむように噛みしめる。これがオレの名前。この世界で唯一オレだと証明できる証だ。

 

「気に入ったよ。それじゃあ、オレの事はこれから神乃って呼んでくれ」

 

「どんな名前を想像されてたのか気になるけど……まあいいわ、改めてよろしくね神乃君」

 

「こちらこそよろしく、ゆり。それにみんなも」

 

皆にもよろしく、と改めて伝える。

 

「それじゃあ、とりあえず日向君」

 

「なんだ、ゆりっぺ?」

 

「音無君と神乃君に学校の中を案内してあげて。ついでにあなたが知っているこの世界のことも」

 

「別に構わねえけどが、ゆりっぺから直接説明した方が早いんじゃねえか?」

 

「私は次の作戦の事で考えないといけない事があるからちょっと忙しいの」

 

次の作戦?まさか、いきなりドンパチやらかすわけじゃないよな。何の準備もしてないのにいきなり戦場に放り込まれるとか嫌だぜ?

 

「分かった。じゃあ神乃、音無。ちゃっちゃと行くか」

 

「おう。よろしく頼む」

 

「よろしく、日向」

 

「ああ、行く前に戦線の制服に着替えてね。神乃君はまだしも、音無君の恰好は生徒指導室に連行されかねないから」

 

ゆりの提案に了承したオレと音無は、与えられた制服に着替え、日向について行くようにして校長室を後にした。




いきなり長かったですかね?これからも大体10000字を目安に投稿していきたいと思います。
時系列は第1話ですね。以前投稿していたサイトでは第2話と第3話の間からスタートだったのですが、どうせなら最初から、ということで新たに加えました。
あと、神乃君の名前ですが、特に理由はありません。響きと直感で考えました!
では、次の更新までさらばです!

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