Fate/electronic wizard   作:skyfish

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第1話「8番目のサーヴァント」

バゼットはただ混乱していた。

 

 監督役である聖堂教会の神父に不意打ちされたこと。左腕を千切られ令呪を奪われたこと。そして、一応持っていた現代科学の形である携帯電話から聞こえてきた声にだ。

 

(どれくらいぶりかしら、地上と繋がるなんて。貴方は誰?)

 

「はあ、……はあ…………だ、れ?」

 

(質問を質問で返してほしくはないのだけど………。ふーん。もう既に死に体ね。辛うじて命は繋がっている。けれど、風前の灯に変わらない)

 

 声の主はこちらの、バゼットの容体を把握している口ぶりだった。

 

(それで、貴方は生きたい?)

 

 声の主は、私にそう言ってきた。何故、見ず知らずの私に手を差し伸べるのだ。

 

(こればっかりは変えられないというか、死にかけてる人見ると放っておけないんだよね。でも、相手の承諾無しだと後々問題だけど、こうして話せるのも何かの運命かもしれない)

 

 声の主は、より強く、私に問いかける。

 

(決めなさい。その運命(死)に抗う覚悟はあるか―――!)

 

 

 

「わ゛たしは……いぎたい゛!!!」

 

 

 

 瞬間、光が私を包み込む。ガキイィィィン! となる鉄と鉄がぶつかる音が響く。光が治まると、そこには女の子が立っていた。だが、ただの女の子ではないとすぐに感じ取った。だが、どうにも腑に落ちないものをバゼットは感じた。目の前の女の子は人間じゃないことは分かる。だが、あまりにも英霊らしい雰囲気を感じ取れなかった。悪い話、この女の子が英霊にはとても思えなかった。

 

「はぁ……はぁ……、あなた、は………?」

 

「ひどい話。まさか、私がこちら側(・・・・)になる日が来るなんて。それに知ってる顔ぶれもいるし………。まあ、いいか。せいぜい悔いの無いよう無駄な足掻きをしますか」

 

「ふむ、どうやらこの場で死にかけているのは貴女一人のようね。一応確認しておきましょう。あなたが、私のマスターですか?」

 

 似たような言葉を聞かれたのはこれが2度目。確認すると、確かに彼女とのパスは繋がっている。彼女に目を向け頷く。

 

「そう―――ッ!」

 

 彼女の言葉を遮るように、ランサーの槍が襲い掛かった。それを双剣で弾き返す。

 

「ぼさっとしてんじゃねぇぞ!!」

 

「女の邪魔する男は嫌われるわよ……ッ!」

 

 深紅の槍と白黒の双剣が斬り結ぶ。互角の様に見えるそれは、次第にランサーが優勢になっていった。次第に切り傷が増えていく。そして、白い方の剣が砕け散る。

 

「あばよ」

 

 がら空きになった右側からランサーが薙ぎ払う。それは女の首を正確に狙い―――

 

「――、――」

 

 呟く言葉。それに反応したのはランサーだった。首を捻り回避する。状況把握に下がった彼は目を見開く。

 

「バカな……それは今壊したはずだ?」

 

 女の右手には先ほど壊れたはずの白い剣が握られていた。女は双剣を構えなおす。

 

「テメェ、どこの英霊だ? セイバーじゃなさそうだな」

 

「さあどうだろう? 7クラスに当てはめるなら私はどれになるかな? 現状だと有力なのは一応セイバーかな? アーチャー? ライダー? アサシン? バーサーカー? キャスター? もしかしたらランサーかもしれない」

 

「はっ。ぬかせ。貴様程度がセイバーなわけねぇだろ」

 

 最速のサーヴァントであるランサーと競り合ったが、実力は明らかにランサーの方が上だった。最優のサーヴァントがこの程度であるはずがない。それをすぐにランサーは察した。

 

「だよね~。私なんかが成れたら皆セイバーだらけになるもんね~」

 

「な――」

 

 自分から謎かけておいて自重気味にセイバーでないといった女にバゼットが言葉を失う。今まで静観していた言峰が口を開いた。

 

「何をしている、ランサー。さっさと始末しろ。それとも令呪が必要か?」

 

「……けっ。わーったよ。指示には従うさ」

 

「…………ランサー。貴方のマスターってもしかして―――?」

 

「………そうだよ。俺が不甲斐ないばかりにな。だがよ、これも戦争に参加した奴の末路さ」

 

 ランサーは槍を構えなおし――――朱い魔力が溢れだす。

 

「新しいマスターはせっかちでな。早々で悪いが―――死んでもらう」

 

 充満した殺気が一点に集中する。より鋭く、より禍々しく穂先に圧縮される。

 

 まずい。とバゼットは心の中で叫ぶ。彼の宝具は放たれたら最後、死が確定する対人最強の一撃なのだから。ランサーと対峙していた女が素早く後ろに振り向き、倒れるバゼットを抱え、疾走する。

 

「view_map(),Area(範囲) reduction(縮小)―――!」

 

 何やら言葉を紡ぐ。教会の扉を蹴破り、ランサーと距離を取る。だが、彼の宝具の射程圏内だ。

 

刺し穿つ(ゲ イ)―――」

 

ランサーが奔る。後ろから迫りくる、心臓に喰らいつく音。バゼットを抱えたまま、彼女はコートから透明な宝石を取りだし

 

Transition(転移),―――」

 

死棘の槍(ボ ル グ)―――!!!」

 

「穂群原学園!」

 

 地面に叩きつけた。

 

 バリン

 

 宝石が割れる音。そこをコンマ数秒遅れて朱い歪な流星が通り過ぎる。それはバチバチッ! と音を立てながら虚空を彷徨い、ランサーの槍へと戻った。

 

「…………悪ぃな、マスター。どうやら逃したみてぇだ」

 

「君の宝具は必中だと思ったのだが?」

 

「届く前に獲物が消えちまったら意味ねぇよ。で、どうすんだ? 追うか?」

 

「……いや、逃れたのなら仕方がない。彼女たちが逃げた場所は川を挟んだ向こう側だ。どの道、間に合わん」

 

 それだけ言うと、言峰は教会内に戻っていく。 ランサーは冬木市の街並みを一望する。

 

「………へっ」

 

 ランサーも言峰の後を追うように教会内に向かう。その顔は獲物を逃したというのに、どこかうれしそうにニヤケていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂群原学園。言峰教会から空間転移してきた二人は保健室にいた。もちろんバゼットの治療である。

 

「heal(64)」

 

 バゼットの胸、言峰綺礼の凶拳にやられた部分に手を当てる。呪文を唱える。青く光るも弱弱しい。

 

「―――amplify(増 幅)

 

 続けて呪文を唱える。強くなった光。そこから魔力が浸透する。

 

(痛みが、楽に……)

 

 光が消える。上体を起こしたバゼットは患部を手で確かめる。傷痕どころか、折れた骨も治っていた。さすがに左手はダメだった。今は包帯できつく締め止血してある。

 

「とりあえずの治療は済ませた」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

「礼なんていらないよ。マスターを守るのがサーヴァントの務め、でしょ?」

 

 改めて、自分の新たなサーヴァントを見る。身長は私より小さい160cm。顔立ちから二十歳を過ぎているかどうかも怪しい。服装も改めてみる。どこか現代っぽい服装をしている。今から近い年代に生きていた英霊なのだろうか? だが、彼女くらいの年で名を残した英雄など知らない。

 

「マスターとして聞きます。貴方の真名はなんですか?」

 

 バゼットは彼女に聞く。マスターである以上彼女がどんな英雄か把握しておく必要がある。これからの闘いのために、サーヴァントをどう使いこなすかが重要だからだ。

 それを聞いた彼女は、すごく申し訳ない顔をして言った。

 

「あー……、ごめんマスター。自分がどこの誰か分からない」

 

「…………は?」

 

「そもそも召喚自体が緊急だったから。それに、どうやら私はイレギュラーな存在らしい。私には明確なクラス名が存在しないんだ」

 

 そもそも7つのクラスしか存在しないのに無理やり入ったせいでいろいろとエラーが発生した――――と、ぶつぶつと独り言のように呟く彼女を余所にバゼットは言葉を失っていた。自分を助けてくれたサーヴァントが記憶を失っている。しかも7つのクラス。セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー。その7つに該当しない8番目のサーヴァントと契約したことになる。右手の皮手袋を取る。そこには新たな3画の文様―――令呪だ。

 

「へぇ……」

 

「どうしました?」

 

「いや、ただ、とても懐かしいなって」

 

「そうですか……それで、私はこれから貴方をなんて呼べばいいのですか?」

 

 基本、サーヴァントをクラス名で呼ぶが目の前の彼女には名前が思い出せず、クラス名もない。どうすればいいというのだ。

 

「あ。それならいいクラス名を考えたんだけど、いいかな?」

 

 悩んでいると彼女から言ってきた。

 

「ウィザードのサーヴァント………て、どうかな?」

 

「ウィザードですか……いいでしょう。よろしくお願いします。ウィザード」

 

「こちらこそ、ええっと」

 

「バゼット。バゼット・フラガ・マクレミッツです」

 

「バゼット・フラガ・マクレミッツ、私のマスター。未熟者だけど、よろしく」

 

 二人は握手を交わす。ここに、契約は完了した。

 

「さ。それじゃあ、すぐにいきましょう。」

 

「まだ、追撃があると?」

 

「違う違う」

 

 ウィザードはバゼットを抱き上げる。

 

「マスターの左手を直す。もしかしたらいい技師がいるかもしれないから」

 

 ウィザードの両足は黒ブーツでなく、鋭い針のような、鋼の具足に変わる。保健室の窓から跳び出る。2人は夜の街に溶け込んでいった。

 

 

 

 




Q戦闘が短すぎる件
Aバゼット瀕死だったからね。しかたないね。



転移クリスタル
リターンクリスタルを元に彼女が作ったアイテム。ムーンセルの特許申請済み。
ただ、作ったはいいものの使用する機会がまったくなかった。所謂、宝の持ち腐れ。

一応、二個もっていて契約した。残り一個

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