信人跋扈   作:アルパカ度数38%

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ストックが無いなら1日で1話書けばいいじゃない(マリー

0文字から1話作成、実現したけど、アルパカさんのHPはもう黄色いです……。

ちなみに、執筆開始日(プロット書き始めた日)が12/11なので、これでちょうど書き始めてから一ヶ月ですね。


16

 

 

 

16.

 

 

 

 深夜1時。

トンネルの出口付近、透明化したインクルシオで警備を無効化し、陽動班が侵入。

大聖堂の中庭にまで、見つからないままに侵入を果たそうと、ロープを辿り壁を上がる。

そのまま中庭に着地、すると目の前にはボリックとエスデスの居る建物である。

騒ぎを起こして中からおびき寄せるのが目的だったのだが。

 

「……全滅させても出てきませんね」

 

 ぽつりと告げる僕に、あぁ、腰に手をやりながらナジェンダさん。

気絶した兵を積み上げた上に座るレオーネちゃんは、大聖堂に真っ直ぐに視線をやっている。

僕もまた、大聖堂に視線を。

 

「エスデスさんに繋いだパスは、まだ大聖堂のまま。逃げた可能性は低いね」

「そろそろ、アカメたちが空から突入してくる時間だぞ、ナジェンダ」

 

 告げるスーさんの言葉に、ナジェンダさんは暫し悩むも、叫んだ。

 

「プラン変更だ、こちらから大聖堂に乗り込むぞ!」

 

 了解、と皆で声を上げつつ、タツミくんは透明化、レオーネちゃんは両拳をぶつけ合い、ナジェンダさんとスーさんは奥の手の確認を。

頷き合い、大聖堂へと駆けてゆく。

次第に強くなってゆく、エスデスさんの心地よい殺気に、思わず笑みを作る僕。

階段を上り終え、大聖堂にたどり着くと、そこには一段上に椅子に座るボリックと守りについたクロメちゃん、ナタラくん、ドーヤちゃん。

そして彼らを守るようにして、腕組みし仁王立ちするエスデスさんである。

 

「久しぶりだな、ナジェンダ、キョウ」

「エスデス……」

「お久しぶりです、エスデスさん」

 

 挨拶する僕に微笑みながら、エスデスさんは鞘から剣を抜く。

何時しか僕はレイピアの類いと予想したが、それよりやや太く、サーベルと言った方が似合う剣の使い手の模様。

脳内のエスデスさんのイメージを修正しつつ、僕は眼を細めた。

 

「折角来たんだ、私の帝具を馳走してやろう。その後色々と話そうではないか……拷問室でな」

「遠慮しよう、お前とはあまり口を利きたくない」

「つれない奴だな……奥の手も用意したんだぞ?」

 

 奥の手ねぇ、と脳内イメージを更に修正しつつ、僕はクロメちゃんに視線をやった。

クロメちゃん。

大好きな娘。

シェーレちゃんを殺し、僕に真っ二つにさせた娘。

複雑な胸中ながら、何故か手を振ってくるので、思わず応えてしまった。

それから自分の反射的な行動に頭痛がし、思わず頭を抑え俯いてしまう。

馬鹿なのだろうか、僕は。

 

「……クロメ、お前は護衛に集中していろ。ドーヤを含めた、他の補充した屍人形で、キョウ以外の奴を相手してくれればいい」

「了解」

 

 と、クロメちゃんは己の頬をぽんぽんとたたき、辺りに警戒の視線を。

ナタラくんを除いた、ドーヤちゃんと次々に這い出てくる危険種の屍人形が、

僕以外のメンバーに目標を定める。

とは言え、エスデスを前にタツミくんだけは透明化し姿を隠している、相対するはスーさん、ナジェンダさん、レオーネちゃんの3人だ。

万が一アカメちゃん達が間に合わない時、ボリックを討つための布陣である。

 

「――いくぞ、キョウ!」

 

 叫ぶと共に、エスデスさんの指が弾かれた。

突如上空に巨大な氷塊が出現、凄まじい速度で僕らへと迫ってくる。

それが視界に入るが早いか、僕は跳躍、唐竹の剣。

氷塊を真っ二つに裂き、割れた氷塊を蹴って地上へと着地、エスデスさんへ迫ろうとする。

が、対するエスデスさんは凄まじい数の氷柱を生成、僕へ向けて打ち放つ。

だが、遅い。

 

「――ふっ」

 

 吐気と共に足と床板に突っ込み、床を蹴り上げる。

咄嗟の防御壁を氷柱は貫通してこようとするが、無視して僕は跳躍、聖堂の椅子の背を蹴りながらエスデスさんへと突進。

近接した僕に、微笑みながらエスデスさんは掌を床に付けた。

同時、瞬く程の速度で巨大な氷柱が床から生まれる。

 

「――悪手だね」

 

 が、僕はエスデスさんが姿勢を低くするのを見た瞬間、既に跳躍していた。

空中でねじり回転しつつ、遠心力を乗せそのまま唐竹にエスデスさんへと斬撃。

バック宙で交わすエスデスさんに切り上げの一撃を、しかし容易くサーベルに遮られる。

そのまま凄まじい速度でエスデスさんが僕の背後へと回ろうとするのを感じ、倒れるような姿勢で胸を狙った突きを回避。

床に手をつき、身体をねじりながらの蹴りを放つも、エスデスさんの残像を掠めるのみ。

 

「ほぅ、やはり中々楽しめる……」

「ち、皆、本気を出すのに、あれは切る!」

 

 告げるエスデスさんは桁外れも良いところ、僕が戦った母さんクラスというか、聞いた事しか無い全盛期の母さんクラスという奴だろう。

歯を噛みしめ、共鳴強化を切り集中、敵意共鳴の準備に入る。

そんな僕に何かを感じ取ったのだろうか、後退したままのエスデスさんは凄まじい速度で背後に氷柱を集めた。

幾十幾百もの氷柱が集まるその姿は、さながら氷の花のよう。

 

「最大火力で、すりつぶしてやる!」

 

 指揮棒のようにサーベルを振るうエスデスさんの合図で、氷柱が発射。

が、発射された氷柱は僕を逸れて明後日の方向へと飛んでいった。

な、と目を見開くエスデスさんに向け突進、自分から避けてゆく氷柱の嵐に突っ込んでゆく。

袈裟の斬撃、舌打ちするエスデスさんが受け流そうとし、剣がすっぽ抜けそうになった。

驚きに目を見開きながらも、すぐさま崩れた力のバランスを理解し合わせ、ギリギリで僕の剣を受け流す事に成功する。

 

「な、これは……、リィンフォース、レベル3になっていたのか!?」

「知っていたのかい……なら存分に味わってみるといい!」

 

 受け流したエスデスさんは、しかし続く敵意共鳴によって姿勢を崩していた。

椅子を蹴りながら身体を地面に平行に、地表から切り上げる斬撃を放つ。

エスデスさんは自由に動かない身体ながらもサーベルで受け、続く僕の椅子の角を握って半回転しつつの蹴りを避けた。

どころか氷柱を数本とは言え放ち、よほど精緻に調整したのだろう、僕の腹部を狙ってくるも、数本なら容易く刀でたたき落とせた。

そのまま椅子の背を蹴り加速、エスデスさんの首を刈る斬撃、と見せかけ指を椅子の背に引っかけて身体をねじり回転、縦の斬撃を。

しかしそれですらエスデスさんは防いでみせる。

 

「驚いたな……、互角か?」

「どうも、吃驚してくれて!」

 

 咆哮と共にエスデスさんの蹴りを腕で受け流し、場所を交換。

そのまま互いに回転斬りを放つ。

遠心力に操作される肉体では上手く乗れず、弱まったエスデスさんの斬撃に、しかし僕の斬撃は拮抗。

お互い弾かれるも、僕はすぐに床石を蹴りエスデスさんの元へと疾走する。

示し合わせかのように、互いの剣は突き。

互いの突きを避け、僕はそのまま倒れ込むように身体を沈め、そのまま水面蹴りを放った。

飛び上がって避けるエスデスさんに、敵意共鳴で空中姿勢を崩す。

着地を失敗しかけたエスデスさんへと袈裟斬り、剣が間に合わず氷の楯で防ごうとするエスデスさんだが。

 

「がぁあぁぁっ!」

 

 剛剣。

氷の楯を砕く剣戟に、エスデスさんは短い距離ながら吹っ飛ばされる。

そこに切り返し、次いで二撃目も追撃しようとするも、その前にエスデスさんが姿勢を整えてしまったので、舌打ち、止まり構えを盤石にするに止めた。

髪を翻しながら、エスデスさんは僕の切り返しでついた、頬の一本の朱筋を撫でる。

 

「白兵戦の強制と、白兵戦能力の低下……、嫌らしい帝具だな」

「最強クラスの帝具使いに言われても、微妙な気分ですよ」

 

 言いつつ視界の端で、仲間達と屍人形との戦いを捉える。

6体の特急危険種とドーヤちゃんの援護に中々苦戦している模様だった。

共鳴強化を再開すればさっさと倒せるのだろうが、僕では敵意共鳴無しにエスデスさんと1対1で持たせられるか微妙な所だ。

そしてアカメちゃん達は遅すぎる、残りのイェーガーズに押さえ込まれていると考えて良いだろう。

矢張り、タツミくんがボリックを討つまで、僕が1対1でエスデスさんを抑えるしかない。

内心の覚悟と共に、僕は再びエスデスさんへ向かい、雄叫びと共に突進を開始した。

 

 

 

*

 

 

 

 ――キョウさん、あんなに強かったのか!

驚愕するタツミの視線の先、恐ろしい事にキョウはエスデスと互角に戦っていた。

いや、かすり傷とは言えエスデスの方がダメージがある、むしろ僅かながら押しているとさえ言ってもいい。

むしろ問題はクロメの屍人形達である。

特急危険種の中でも強い危険種が使われているが、1対1であれば他のメンバー所かタツミでも格上な程度だ。

とは言え数で2倍となった上、ドーヤの絶妙な援護があり、かなり粘られている。

このままでは突破にまだ時間がかかり、そしてそれまでキョウが優勢で居られるとは限らない。

 

 だが、とタツミは視線をクロメとナタラへ。

クロメはキョウの全霊の姿に頬を染めつつも辺りへの警戒を緩めていないし、ナタラもまたクロメをカバーした位置取りをしていた。

以前の戦闘を見た感触で言えば、ナタラは強化無しのタツミより格上、そしてクロメは八房の使用状況によってはそのナタラをも超える。

タツミの勝利条件はボリックを討つ事、それさえできればインクルシオの防御力で追撃を多少なら無視して逃げる事は可能なのだが。

 

 ――隙が見つからねぇ。

どう切り込んでも、ボリックを討ちきれない映像しか浮かばない。

だが、硬直した状況を打破するには、タツミしかいない。

深呼吸。

押し殺した気配の中で殺意の槍を練り上げて。

地を蹴り放つ、殺気を放つその寸前。

 

 ――透明化したタツミとクロメの、目が合った。

 

「っ!?」

 

 思わず目を見開きながらも、一度突進を開始したタツミは動きを止められない。

ままよ、と槍に全霊を籠め、解除される透明化と共に雄叫びをあげる。

 

「おぉおぉおぉおっ!」

「げ、敵ぃ!?」

 

 悲鳴をあげ椅子から転げ落ちるボリック。

そこに疾走するタツミに、凄まじい速度でナタラの伸びる薙刀が迫る。

袈裟、姿勢を極端に低くし避ける。

続く突き、ノインテーターで受け流し、薙刀が反転し石突での払い、跳躍するタツミ。

ナタラを飛び越し、ボリックを守るクロメに斬撃を放つ。

が。

 

「ぐ、止められた……!?」

「温いよ、キョウくんの剣と比べたら……!」

 

 弾かれ、追撃のナタラの斬撃を避けつつ後退。

舌打ちしつつ、思わず叫ぶタツミ。

 

「くそ、てめぇなんで殺気を放つ前に俺を……!?」

「ふふ……そんなの簡単だよ」

 

 告げ、クロメは唇に指を。

淡い花弁の唇をなぞりながら、眼を細め恐ろしく艶やかな顔を作る。

ごく、と思わずタツミが生唾を飲み込むのに、微笑みと共にクロメが告げた。

 

「キョウくんの戦いを見て、私昂ぶってきちゃってるもん。殺気を放つ前に、見つけられたよ……」

「ぐ、なんつーヤバイ女だ……!」

 

 前回での戦いの狂った趣味の話と言い、タツミとしては、クロメはエスデス以上に恐ろしい女性に思えた。

こんなのが気になるキョウさんって、という思いを封じ込め、床を蹴り打ち後退、援護に戻ってきた危険種達の攻撃を避け、仲間と合流する。

 

「すまねぇ皆、奇襲には失敗した……!」

「気にするな、技自体は見事だった」

「クロメがやばすぎただけさ……!」

 

 ノインテーターを構えるタツミは、残る面々と共にクロメの操る骸人形へを打破すべく、怒号と共に槍を切り結ぶ。

視界の端では、再び距離が空いたキョウとエスデスとが、睨み合っているのが見えた。

 

 

 

*

 

 

 

「……、彼の奇襲は失敗か」

「ふん……、これで貴様は、どうにかして私を殺さないといけない訳だ」

 

 凍り付くような声色で告げるエスデスさん。

その覇気は矢張り見事、超弩級としか言いようの無い相手である。

矢張り、帝具無しの白兵戦では僕より格上。

敵意共鳴でどうにか互角に持ってきてはいるが、このままただ単に戦うだけでは、ある理由から僕が圧し負けるのは目に見えている。

 

 だが、タツミくんの奇襲は失敗。

残るはアカメちゃん達が到着しボリックを討つ可能性に賭けるのみだが、イェーガーズの足止めされている彼女達が何時辿り着けるかは分からない。

残る皆が骸人形を突破するのを待つのもアリなのだが、攻めの姿勢を崩した瞬間僕の死は確定するだろう。

とすれば。

 

「――ナジェンダさん。スーさんの奥の手はまだ要りません」

「何!?」

 

 視界の端、顔色からして禍魂顕現を使おうか迷っていたナジェンダさんに向け、告げる。

目を見開くナジェンダさんに、エスデスへ向ける集中を欠片も欠かさぬままに告げた。

 

「僕がこれからエスデスさんを殺します。スーさんの奥の手は、それが失敗してからでも遅くは無いでしょう」

「……分かった、死ぬなよ!」

 

 正確に言うと、出来るだけ要素を少なくしないとエスデスさんに通用するレベルに足りない技なので、頭数が増えるとむしろ不利なのだが。

叫ぶナジェンダさんを尻目に、薄く微笑むエスデスさん。

寒気のするような殺気と共に、艶然と告げる。

 

「――出来ると思うか?」

「――出来ないと、思いますか?」

 

 自然、僕らは同時に微笑み合う。

直後地を蹴り互いに突進、サーベルと刀とが激突し合った。

視線を交わしつつ僅かな鍔迫り合い、膂力に差は無く硬直する。

 

「いい加減、貴様の敵意共鳴にも慣れてきたぞ!」

 

 叫びつつ、不自然な強化をものともせずにエスデスさんは残る手で抜き手。

僕は半身に避けつつ剣を流し、浮いた手で裏拳を放つ。

頭蓋を狙ったそれを姿勢を低く回避、そのままエスデスさんは水面蹴りに移行。

僕は椅子の背に手を、空中に浮きつつ剣を唐竹に放つ。

その際、椅子を数個はね飛ばしておいた。

信じた通り、エスデスさんは僕の剣を横薙ぎに切り払い、切り返しで僕ののど笛を狙う。

 

「――慣れてきたのは、お互い様ですよ」

 

 エスデスさんが自分を邪魔する力を観察していたように。

僕もエスデスさんの動きを観察し続けてきたのだ。

そのまま僕は思いっきり姿勢を低く、後頭部をサーベルが掠るのを感じつつ、エスデスさんの腹部に頭突き、と見せかけ後退。

袴に邪魔され足運びが読めなかったのだろう、エスデスさんは咄嗟に腹部に氷の鎧を作り出していた。

倒れ込むような姿勢のまま90度回転、切上の剣を放ち腹部の氷ごと砕くのを狙う。

すぐさまサーベルが防御に戻るが、同時に僕の袖からは太い針が高速射出されていた。

 

「なっ!?」

 

 対イェーガーズでは初の暗器である、驚愕しつつも大きくスウェーして避けるエスデスさん。

その時横に切り払うのも、信じた通り、逆らわずに残した軸足で逃げた力を吸収。

身体を回転させつつ唐竹の一撃を放つ。

スウェーした状態のエスデスさんには避けようもない一撃。

だが。

 

「舐めるなぁっ!」

 

 空中に氷の楯が、そのまま姿勢を崩し尻餅をつくエスデスさんを守りに生成。

剛剣を放ち、氷の楯を割りエスデスさんに傷を与えるも、楯で弱まった勢いでは深手は与えられない。

転がって逃げるエスデスさんの前方に、しかし先ほど跳ね上げた聖堂の椅子が落下、道を塞ぐ。

 

「なっ」

「信じていたよ――。この程度避けてくるとも、避ける方向とタイミングはそちらだとも」

 

 告げつつ突き。

エスデスさんの喉を狙ったそれは避けられるも、回転しつつ突き出された切っ先は、エスデスさんが避けた方向に向いて停止。

周りは椅子に囲まれ逃げる場所は無く、突きはこのまま斬撃に変化すればエスデスさんの首を飛ばす寸前。

だからこそ。

僕は、エスデスさんを信じて。

その通り、エスデスさんの胸の痣が光った。

 

「摩訶鉢特摩ァ――!」

 

 だから、僕は唐突に姿勢を低く。

寸前まで僕の心臓があった場所を、背後のエスデスさんの突きが貫くのを感じつつ半回転。

驚愕に目を見開いたエスデスさんの顔に、微笑みながら、横薙ぎに。

信じて、斬る。

 

「うぉぉおぉ、2回目だぁぁっ!」

 

 が、エスデスさんが後ろに一歩瞬間移動していた。

それを視認した瞬間剣の軌道を変え、エスデスさんの腕を切り裂く事には成功するも、致命傷には程遠い。

舌打ち、跳躍し椅子の牢獄を離れる僕。

同じようにエスデスさんも、椅子でぐっちゃりした空間から離れていた。

 

「馬鹿な……、貴様、何故私の時を凍らせる摩訶鉢特摩を読めた?」

 

 悪鬼のように歪んだ表情で告げるエスデスさんに、しかし僕は殺意の爽やかさを感じ、むしろすがすがしさをさえ感じていた。

流石にエスデスさんとはいえど、そんな大技もう使える体力はあるまい。

とは言え状況はむしろ、必殺の連続技を外された僕不利なのだが、顔には出さない。

 

「貴方の奥の手の内容自体は、全く読めませんでした。でも、あの絶体絶命の状況でも貴方は絶対に僕の攻撃を避ける事ができる。加えて反撃もできる。――そう、信じていましたから」

「……どういう読みだ……!」

「ま、2回目の発動までは読めてませんでしたがね……」

 

 エスデスさんは片手を負傷し、だらりと垂れ流しながら残る片手で剣を構える状態。

対し僕はかすり傷こそ無数にあるが、ほぼ無傷のまま。

見目には僕有利に見えるし、エスデスさんですらそう思っている節があるのだが、その実真逆の状況であった。

 

 ――端的に言えば、もう敵意共鳴をする体力が残っていなかった。

 

 しかも負傷したエスデスさんは手負いの獣のような凄まじい気配、先ほどまでより必ずしも弱いとは限らない。

あと一合でも剣を交えれば、僕が敵意共鳴ができないとわかり、そうなれば僕が凍りづけになる未来しか見えないのだ。

先ほどの連続剣技を避けられた時点で、僕の敗北は半ば決定していた。

視界の端では、ようやく骸人形の殆どを倒した仲間達が。

とは言えドーヤちゃんに加えナタラくんも追加された所為で苦戦中、ボリックは手薄になったが僕を助けに来る余裕は無さそうだ。

 

 これは、ナジェンダさんに奥の手を使って貰うしかない。

深い読みの連続技を使う為に必要な1対1という状況だったのだ、最早拘る必要は無い。

ナジェンダさんに応援を望む声を上げようとした、正にその瞬間である。

 

 ばりぃん、と。

硝子窓が割れる音と共に、アカメちゃんとマインちゃんの2人が表れた。

 

「ぐっ、新手かっ!」

 

 急ぎ僕から距離を取りつつ、エスデスさんは巨大な氷塊を生成。

それを見て、僕は即座にもう使えない敵意共鳴のフェイクよりも優先し、この場の仲間全員に共鳴強化を繋げる。

マインちゃんのパンプキンが氷塊を破壊するのを視界の端に、僕は疾走、エスデスさんへと迫った。

 

「エスデスさん、もうちょっと付き合ってね!」

「くっ、だが味方の強化に切り替えたな!」

 

 叫ぶエスデスさんに先の無数の氷柱を放たれると死んでしまうので、溜めの時間を与えぬ速攻が必要だ。

超速攻の切上を跳躍して避けるエスデスさんを、パンプキンの熱線が狙うも、氷の楯で無効化。

返す刃で僕を狙う氷柱が放たれるも、黒い影がそれを防ぎきる。

 

「スーさん! 奥の手を使ったのか!」

「ふ、押し切れなかったとは言え、見事だったな、キョウ」

 

 微笑みつつ、エスデスへ向かうスーさん。

遅れ僕もエスデスへと向かい、剣を振るう。

視界の端では、ボリックへ向かうアカメちゃんと、ボリックを守るクロメちゃんとが対峙していた。

 

 

 

*

 

 

 

 アカメは即座に現状を把握した。

キョウと奥の手を使ったスサノオ、マインの3人がかりで負傷したエスデスの相手。

レオーネ、タツミの2人でドーヤとナタラの相手。

そして、残るアカメがクロメを突破しボリックを討つ役目である。

 

「……2ヶ月ぶり、ぐらいかな? お姉ちゃん」

「クロメ……」

「ひょええ、アカメ!」

 

 涙目で叫ぶボリックを完全に無視、アカメは目前の妹に集中する。

最愛の妹にして、仲間を斬りその屍を利用した敵であり、そして恋敵。

だが、それでもアカメがやるべき事に変わりは無かった。

 

「……ボリックを、討つ」

「ふふ、私相手に出来るかな?」

 

 告げるクロメは、しかし八房発動中の上にアカメが共鳴強化中なので、格下の相手。

とは言え油断せず、アカメは村雨を構えた。

胸中を様々な思いが駆け巡る。

愛情、郷愁、使命感、殺意。

そして、嫉妬。

 

 アカメからして、キョウは自身よりクロメとより相性が良いように思えていた。

何故なら、アカメは長い時間をつぎ込んでようやく親しくなれたというのに、クロメとは初対面で惹かれたのだと言う。

クロメ側からも、前回の激突までに会うタイミングは初回しか無かったため、一目惚れだったのだろう。

それはまるで運命のようにロマンティックで、だからこそアカメの胸を引き裂くかのように鋭い。

自然、漆黒の感情を乗せた声が出る。

 

「クロメ……!」

「ふふ、良い目!」

 

 叫びつつ、2人は同時に地を蹴り放った。

同時に横薙ぎの斬撃が激突、身体能力で勝るアカメの剣がクロメの矮躯を吹き飛ばす。

空中で回転、着地と共に再びアカメに迫るクロメ。

アカメが迎え撃とうと村雨を構えた、その瞬間である。

 

「天叢雲剣っ!」

 

 エスデスへと迫る超巨大剣。

その余波が、2人の間を別った。

瞬間、アカメは反転しボリックへと。

 

「――葬る」

 

 斬撃。

悲鳴を挙げる暇すらもなく、ボリックは絶命した。

遅れ、天叢雲剣の余波をかいくぐり到着したクロメの斬撃がアカメを襲う。

どうにか抑えきったアカメに、漆黒の眼差しで、クロメ。

 

「お姉ちゃん……、よくも……!」

「アカメ、撤退だ! 兵や残りのイェーガーズが来る前に、退くぞ!」

 

 ナジェンダの指令に、アカメは眼を細めつつ蹴りを放った。

防御し、きっちり足を浮かせてダメージを殺すクロメだが、距離は空いた。

パンプキンで牽制しつつ退く2人に合わせ、タツミとレオーネも合流。

遅れ、エスデスと距離を取ったスサノオとキョウも一カ所に集まる。

 

「ぐっ、この手傷では容易く押し切れんが……、キョウ、貴様もうバテているな!」

「そう見えるなら、節穴アイの持ち主としか言いようが無いけどね」

 

 飄々と告げるキョウだが、共鳴強化の強化量は明らかに弱々しく、味方からすれば体力が尽きかけているのは明らかだ。

守らねば、と使命感に燃えるアカメ共々、マインの牽制のパンプキンと共に高速後退。

待機していた空飛ぶ危険種、エアマンタに全員乗り、マインのパンプキンとスサノオの天叢雲剣とで牽制する。

 

「飛べ、エアマンタ!」

「く、逃すかっ!」

 

 咆哮と共にエスデスの氷柱が飛翔するも、明後日の方向へと飛んで行く。

目を見開くエスデスに、荒い息ながらキョウが告げた。

 

「はぁ、はぁ……、最後の敵意共鳴……、ここを逃げるまでは持たせてみせる!」

「くそ、帝具は効かない、並の銃ではエアマンタに弾かれる……か」

 

 悔しそうに帽子のつばを抑えるエスデスを尻目に、ナイトレイドの面々はエアマンタで空を行った。

エスデスの追撃が届かない程度の距離になった所で、ようやくキョウが安堵の溜息をつく。

 

「……あっ」

 

 思わず漏れる声。

そのまま倒れそうになるキョウを、しかし当然のように近くに居たアカメが抱きとめる。

傷だらけの身体を抱きしめつつ、アカメは微笑んだ。

 

「よくやったな、キョウ……大丈夫か?」

「アカメちゃんこそ……随分セクシーな服装になってるけど、大丈夫だった? ラバくんは、共鳴範囲内で生きている感じはするけど、離れちゃってるのかな」

 

 キョウの視線の先を見やると、アカメの腹部であった。

アカメ達はエアマンタで進入する際、ランの妨害に遭い、空中からの進入を断念。

幸い共鳴強化で無事だったエアマンタと共に地上へ着地、待ち構えていたウェイブと交戦してきた。

その際、アカメは腹部に強烈な一撃を貰い、服が一部破けてしまったのだが。

 

「……おへそ、ありがとうございます!」

 

 両手を合わせアカメを拝むキョウに、アカメは耳まで顔を紅くした。

かといって、アカメには体力が尽きかけているキョウを突き飛ばす事などできず、優しく抱き留めたままにしかできない。

ずるい。

本当にずるい。

あまりのずるさに、ふと、アカメの脳裏にキスをしてやればいいのでは、という思いが過ぎった。

 

「…………」

「あれ? あの、アカメちゃん? ごめん、怒ってらっしゃいます?」

 

 首を傾げるキョウの、その唇に、アカメの視線は釘付けになる。

そっと、身体を倒し己の唇を重ねさせようとした、その瞬間であった。

キョウが、跳ね起きる。

 

「――ただでは帰しませんよっ!」

「アカメちゃん危ないっ!」

 

 アカメをタツミに向け突き飛ばした直後。

凄まじい速度で向かってきた、追いついてきたランが放った一本の羽根が、キョウの腹部を貫いた。

ごふ、と血を吐きつつバランスを崩し、キョウが転倒。

エアマンタの背を転げ、そのまま空中へと投げ出される。

 

「キョウ!?」

 

 咄嗟にタツミの手を握り、限界まで飛んでもう片方の手をキョウに伸ばすアカメ。

凄まじい勢いで伸びる手は、しかし空ぶった。

停止する時間の中、アカメとキョウの視線が空中で交わされる。

呆然としていたキョウは、しかし視線が合った事を自覚すると同時、微笑んで見せた。

こんな時だと言うのに、心の底からほっとするような、不思議な笑顔。

それを最後にキョウは地上へと落下して行く。

 

「キョウ!? おい、キョウーーっ!?」

「おい待てよ!?」

 

 叫ぶアカメが飛び出しそうになるのを、手を繋いでいたタツミが必死で押さえ込む。

続け参加したレオーネも加わってアカメを羽交い締めにし、マインは攻撃の主であるランを射撃で牽制している。

そんな面々に、しかし落下中のキョウは悲壮感などまるでない声色で、叫んだ。

 

「皆は先に行っててくれ! 必ず、また会える!」

「……キョウ・ユビキタス。まずはそちらを確保しますか」

 

 告げ、パンプキンを遠距離で避けていたランは、キョウを追ってそのまま地上へと矢のような速度で下りて行く。

歯噛み、マインが震えながら告げた。

 

「射程外になったわ……」

「う、そ。キョウが、そんな……」

 

 アカメは、まるで現実感の無い状況に、震え、そのまま腰が抜けぺたんと座り込んでしまった。

視界がぐらぐらと揺れる感覚さえ感じるアカメに、鋭い声でナジェンダ。

 

「キョウの捜索は、今はしない。皆の消耗が大きすぎる、一旦引き上げるぞ」

「ボス!? キョウは、キョウは……!」

 

 震えた声で返すアカメに、しかしナジェンダは力強く微笑んだ。

 

「今は、だ。戻ってから必ずする。それにランは今、キョウを”確保”と言った。”始末”ではなくな」

「そ、それじゃあ……」

「ランはキョウを殺す為ではなく、捕縛するために動いている可能性が高い。理由までは分からんがな……」

「よ、良かった……」

 

 煙草を燻らせるナジェンダに、ようやく人心地がつき、アカメはほっと胸をなで下ろした。

そんなアカメを安心させるように、にこりと微笑みタツミ。

 

「それに、お前は見てなかっただろうが、今日のキョウさん、滅茶苦茶強かったんだぜ? あのエスデス相手に、1対1で腕一本使えなくさせるまで追い詰めたんだ」

「あんた、エスデスが空中からたたき落とされたぐらいで死ぬ光景想像できる? できないでしょ。ならキョウも生きているって事よ」

「あいつしぶとそうだからな、絶対生きてまた会えるって」

 

 次々に仲間達が告げる言葉に、アカメは目を潤ませた。

胸の奥に暖かな物が広がり、血潮が僅かに火照るのを感じながら、うんうん、と頷く。

曇った夜空に隠され、うっすらとした月明かりが、その光景を照らしていた。

 

 

 

*

 

 

 

 身体が泥のように重かった。

瞼さえも鈍重な動きで、開くのに万力が居る程である。

そうやってようやく開いた視界を横にやり見えたのは、青い髪の美女と、黒髪の美少女。

へーと思ってから一気に覚醒、立ち上がろうとして。

激烈な痛み。

 

「が……!」

 

 呻きながら身体を丸くする僕に気付いたのだろう、エスデスさんとクロメちゃんが口を開く。

 

「お、気付いたか、キョウ」

「流石キョウくん……。あれからまだ夜も明けてないのに、よく意識が戻るなぁ」

 

 呆れながら告げる2人を尻目に、激痛の波が退くまで待っていると、ドアが開く音。

見れば残りのイェーガーズのメンバー、ランさんとウェイブくんの2人である。

何かを話しているのは分かるのだが、体中が痛くて言葉が意味を成して頭に入ってこない。

数分、荒い呼吸を繰り返すと、ようやく痛みの波が退いてきたのが分かる。

 

「……捕虜になった、という所かな、僕は」

「物わかりが良いな、キョウ。そういう事だ」

 

 椅子に腰掛け、足組みしながらエスデスさん。

その横では、同じく椅子に腰掛け、こちらは足を揃えて上品に曲げているクロメちゃん。

ウェイブくんとランさんは即応できるように立ったまま僕を静かに見据えている。

 

「さて……落下中、枝をクッションにしてどうにか生き残ったのは憶えてるけど。その後、ランさん辺りに捕まった訳か」

「ご推察の通り。悪いですが、治療より拘束を優先させてもらいましたよ」

「それは敵同士で文句ある訳じゃないけど……。何でわざわざ僕を殺さずに捕まえたのかな?」

 

 駄目元で聞いてみると、あぁ、と頷いてみせるエスデスさん。

指組みした上に顎を乗せ、楽しそうな目で僕を見つめる。

 

「可能ならば大臣にキョウは生かしたまま捕縛しろ、と厳命されていてな。今回、たまたま生きたまま手に入ったので、殺さないでおいてやった」

「……オネスト大臣に?」

「あぁ。何でも、奴はリィンフォースの奥の手を知っているそうで、それが理由の一つらしい」

 

 リィンフォースの奥の手。

母から僕に伝えられていない知識。

母は元帝国の暗殺者だったと聞くので、帝国にその情報が残っているのは想定内ではあったけれども。

 

「でも、だからって……?」

「理由はもう一つある」

 

 ぴしゃりと告げるエスデスさん。

その凍り付くような目に愉悦の色が加わり、その美姫の唇からその言葉が吐き出された。

 

「――オネスト大臣は、お前の実父だ」

 

 

 

 

 




感想欄で予想的中されまくってた既知の衝撃の事実(笑

それはそうと、帝具戦なのに死者出なくてすいませんでした……。
ここだけどーにか出来なかったのかな、とも思うのですが……。
ここで死んで良いキャラで、ドラマを作れるキャラが居なかったんで。

代わりにキョウさん捕まったので、それで許してください。

追記:感想欄より、原作通りならホリマカ画面外で死んでるじゃん、とのご指摘が。
そりゃそうだった……。という訳で今回の死人はホリマカで。

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