14.
「……キョウさん!」
叫び、エイプマンを撃破したタツミくんがこちらへと疾走。
舌打ち、合流を阻止しようとウェイブくんがタツミくんの前に立ちはだかる。
「悪いな……趣味じゃねぇが、今はそんな事を言ってる訳にはいかねぇんだ」
「は?」
「ここからは、通行止めって事だよ」
告げつつ構えるウェイブくん、応じタツミくんもまた副武装ノインテーターを構え、腰を低く。
鋭い殺意に己を満たし、タツミくん。
「へっ、何が趣味だか知らねぇが、キョウさん達も2対2、それなら俺たちに負けは……!」
「……1対3だよ」
低く告げる僕の言葉に、え、とタツミくん。
哀れむような声色で、構えつつウェイブくんが告げた。
「ナイトレイド・シェーレは、もう八房の骸人形だ」
「ふふ、帝具使いの玩具だよ。結構強かったし、使い勝手良さそうだね」
クロメちゃんの物言いに、ウェイブくんは何か言おうとして、言葉にならない様子でそれを止める。
愕然としたタツミくんは、僅かに天を仰ぎ、それから歯軋り。
壮絶な殺意を込め、絶叫しつつウェイブくんへと突進してゆく。
それを尻目に、僕とクロメちゃん、武器を取り戻したナタラくん、エクスタスを持ったシェーレちゃんは静かなままだった。
「う~ん、やっぱりキョウくん、ショックだったかな? でも……今の私たちは敵同士。殺しに行くよ」
「……そうだね、だけど……」
告げ、僕は鞘に収まった刀を手に、視線をクロメちゃんに合わせる。
冥く冥く地獄の底蓋の裏より尚暗い、漆黒の瞳。
そこに映る僕の目は、負けず劣らず、暗く淀んだ瞳をしていた。
「母を……」
歯を噛みしめる。
視線に力を、冷たい鋭利な刃の力を乗せて。
「そして妹を斬ってきた僕が……」
全霊の殺意を胸に。
あらゆる負の感情を全身から噴き出しながら。
「今更、仲間の人形を斬る事に遠慮すると、本気で思っているのかい?」
叫ぶ程の力を込め、静かに告げた。
漆黒の殺意を込めた言葉に、しかしクロメちゃんは、とても嬉しそうに答える。
「あはは、骸人形は綺麗に殺す事なんて不可能。無茶苦茶にしないと動き続けるけど、できる?」
「できるとも」
抜刀。
抜き身の刀が、陽光を反射し殺意の輝きを魅せる。
「斬れる。斬って、バラバラにさえしてみせるとも」
「うふふ……。キョウくん、今、とっても素敵な顔してるよ……」
――艶然と微笑むクロメちゃんの言う通り。
刀に反射し見える僕の顔は、悪鬼の笑みを浮かべていた。
「――ふっ」
吐息。
姿勢を低く疾走する僕に、前衛となったシェーレちゃんのエクスタスがその両刃を開きながら迎え撃つ。
死神の刃を跳躍して避けると、そこに伸びてくるナタラくんの薙刀による薙ぎ払い。
刀で受けると同時、薙刀の軌道が変更。
シェーレちゃんが再び開き待ち構えるエクスタスの刃へ向け、僕はたたき落とされる。
「……で?」
両断しようとしてくるタイミングを見切り、納刀した上で首を狙う鋏の平面部分を叩き回避。
地面にたどり着くと同時に、再び抜刀、追撃のナタラくんの突きを避けつつ前進する。
「……ふふ、ここに来て更に動きがよくなった……。凄いやキョウくん、惚れ直しちゃうかも。私にもキス、して欲しいなぁ」
「僕より先に、死神がキスを所望しているようだけどね」
冷えた声で告げつつ、横からのナタラくんの突きを受けた。
そのまま半回転、翻る剣でナタラくんを真っ二つにする軌道を描こうとするも、シェーレちゃんの突きがそれを許さない。
咄嗟に刀の軌道を変更、突きを打ち落としつつ、止めようとしていた身体の回転をそのままに、ナタラくんを蹴り飛ばした。
シェーレちゃんと共に吹っ飛ぶ彼らを尻目に姿勢を低く、背後から迫るクロメちゃんの袈裟切りを避ける。
「つれないなぁ、キョウくんったら」
「ふ、多分キスは、お互い地獄に落ちてからだろうね」
告げつつ地表近くの肉体のまま更に半回転。
遠心力たっぷりの斬撃を見舞うも、軌道上には八房が。
持ち手と刀の峰に手を、盤石の防御の構え。
だが関係無い、と僕は口元を歪めた。
――帝具ごと切り裂いてみせる。
決意と共に膂力の全てを賭し、怒号と共に剣を振るう。
「な、重……!」
「がぁぁぁぁああぁあっ!」
絶叫と共に振るった剣は、しかし八房を折るには至らず。
しかし足を浮かせたクロメちゃんの防御を抜き、刀越しの感触に骨数本をもらった感覚を得た。
顔を歪めつつ吹っ飛ぶクロメちゃんとの間を、護衛のナタラくんとシェーレちゃんが塞いでゆく。
「が、は……、きょ、強烈な愛情表現だなぁ」
「言ってろ!」
叫びつつ疾走する僕に、やはり先に立ちはだかるのはシェーレちゃん。
彼女を影に、ナタラくんの薙刀がどこからか伸びてついてくるのだろうが、流石にそろそろナタラくんの癖も読めてきた。
小さく跳躍、意表を突いたつもりだろうシェーレちゃんのエクスタスより先に放たれた突きを避け、その薙刀の刀身の上に乗る。
着地を狙ったエクスタスは空振り、薙刀は縮み僕を落とそうとするより早く蹴り、シェーレちゃんへと僕は突進した。
「……すいま、せん」
アカメちゃんが言っていた。
八房で操られた死体人形は意志を持たず言葉も不明瞭だけど、身体に染みついた癖や強い念だけは残る。
ならば、微笑みながら僕を見つめ謝るシェーレちゃんの癖と強い念とは。
脳裏を過ぎる迷いを振り切り。
「ばいばい」
唐竹の剣。
シェーレちゃんの死体を、縦に真っ二つに切り裂く。
数瞬遅れ、死体が乾いた土を叩く、鈍い音が響いた。
思い出の眼鏡までもが真っ二つに割れているのが、視界に入る。
油断せずナタラくんに向かい構えつつも、僕は呟いた。
「――せめて、安らかに」
告げつつ、僕は左右に別たれたシェーレちゃんの死体の真ん中を歩き、クロメちゃんへ向かい間合いを狭める。
ナタラくんを護衛に呼び戻しつつ、頬を赤く染めながらクロメちゃん。
「あはは……、ちょっとジョークみたいな強さだね、キョウくん……」
「これから死ぬんだ、今のうちに冗句を楽しんでおくといいよ」
と刀を構えると同時、近くで轟音。
吹っ飛んできた白い塊を、どうにか抱き留めてやると、タツミくんだった。
インクルシオの鎧は所々がヒビ割れており、多大なダメージを受けていた事が窺い知れる。
「すま、ねぇ、キョウさん。ウェイブの奴、足にダメージを負ってるのに、滅茶苦茶強い……!」
「ち、こっちは優勢だが、クロメは劣勢か……、やべぇなこりゃ」
グランシャリオを纏ったウェイブくんがクロメちゃんの護衛に。
しかしよく見れば、足の怪我が開いており、結構なダメージを負っているのが見て取れる。
加えて。
「……シェーレ……」
崖上から着地し、2つに別たれた眼鏡を拾うマインちゃんが。
対し、ドーヤちゃんの屍人形がクロメちゃんと合流。
「たどり着いたぞ……」
奥の手を使ったのだろう、姿を変えたスーさんがナジェンダさんを従えこちらへ。
視界の端では、スーさんに真っ二つにされたデスタグールが垣間見えた。
つまり、相手はクロメちゃん、ナタラくん、ドーヤちゃん、ウェイブの4人。
対しこちらは、奥の手発動中のナジェンダさんは数に入れられず、僕、タツミくん、マインちゃん、スーさんの4人。
「……ウェイブ、帝具人間を含めて他は1対1ならどうとでもなるけど、キョウくんだけは別格。気をつけて行くよ……」
「分かった。言いたい事はいろいろあるが、後に取っておくぜ……」
肋の骨折をおして八房を構えるクロメちゃんと、足の怪我をおして拳を構えるウェイブくん。
対しこちらは、細かい怪我はいくらでもあるが、大きいダメージは無い。
殺意で己を満たす僕たちが、視線を交わし合った、その瞬間である。
閃光。
爆発の、音と風。
「な、なんだこの爆発!?」
舌打ち、防御の薄い僕とマインちゃんでは生身に受けると相当キツイ。
マインちゃんを拾ってタツミくんの後ろに、インクルシオの防御力を借りつつ爆風を防ぐ。
視界の端で、ナタラくんに抱えられたクロメちゃんが見えた。
寂しそうな、今にも泣き出しそうな目で僕を見つめるクロメちゃん。
隣には、ナタラくんにくっついて一緒に離脱しようとする、ウェイブくんが居る。
「ぁ……」
思わず声を漏らすのと、薙刀が伸びゆくのとは殆ど同時であった。
消えゆくクロメちゃんを尻目に、僕らはまだまだ続く爆風から身を守るため、動けないままであった。
*
爆発は、標的たるボルスの帝具ルビカンテを爆破した事による物だったと言う。
爆発から逃れたナイトレイドの面々は、近くにある革命軍のセーフハウスにて応急処置を続けていた。
特に両腕に大ダメージを受けたレオーネ、グランシャリオに全力の拳をぶつけ壊しかけたキョウは、重傷の範疇である。
「…………」
沈黙。
誰一人余計な声を漏らさない状況に、マインはスサノオに包帯を巻いて貰った腕を庇いつつ、溜息をついた。
ぴくり、と反応するのは椅子に腰掛け、刀を抱いたキョウである。
何処かまだ鋭い雰囲気を残したままの彼は、暗い目でマインを見つめ、すぐに目を逸らした。
苛つきが、マインの胸を過ぎる。
「……キョウ」
「ごめん」
間髪入れずに謝るキョウに、マインは頭に血が上るのを感じた。
そして、それを抑えようとも思えなかった。
「なんで、謝るのよ!?」
叫ぶマインに、キョウはのろのろと俯いていた顔を上げる。
疲れ果てた目が、マインの視線と合った。
「……ごめん、僕が、弱かったから……」
「阿呆か、あんたが弱ければ、この場に居る全員弱いわよ!?」
思わず、いきり立ってマインは椅子をはじき飛ばし、立ち上がった。
当たり前だが、一時クロメ・ナタラ・シェーレと3対1で戦っても優勢だったキョウは、奥の手を使ったスサノオよりと互角以上、この中で間違いなく最強の男である。
痛む腕を無視、暗い目のキョウを指さし告げる。
「でも僕、クロメちゃん相手に、全力出せたのか、自分でも……」
「あのね、射撃の天才ナメんじゃないわよ!? 戦場ぐらい、全部見ながら戦ってたっての! どう見ても全力だったわよ、あんたは!」
事実、マインは常に戦場を俯瞰して見ていたが、キョウは明らかにクロメに対し殺意のある動きをしてみせていた。
シェーレを屍人形にされてから更に動きは良くなったが、それはどう見ても憎悪の感情によって強さが増加されたに過ぎない。
視界の端で、同じように戦場を見ていたのだろうナジェンダも、頷いてみせる。
遠方で状況を見切れていなかったレオーネとアカメは、僅かに安堵してみせた様子だ。
対し、キョウは目を潤ませた。
「……マイン、ちゃん」
「あたしが言いたいのはね。シェーレを……、静かに眠らせてくれて、ありがとう、って言いたかったのよ……」
告げつつ、マインは自身の目を涙が潤ませてゆくのを感じる。
視線の先には、シェーレの真っ二つにされた屍人形を入れた、死体袋。
ルビカンテの爆発で大分損傷してしまったそれ。
「あの娘、きっとあんたの変態性癖聞いて、ちょっと引いちゃったの、後悔してただろうから……。最後にあんたに、すいませんって言えて、きっと後悔を無くして逝けただろうから……」
変態性癖の部分で微妙な顔をするキョウだったが、流石に口は出さない。
続け僅かな間瞼を閉じ、開く。
その時には既に、その瞳に暗い色は残っていなかった。
「……どういたしまして、マインちゃん」
「……ふん」
腕組みし告げ、マインがふと視線をやると、ナジェンダが外に視線を向けていた。
釣られ見ると、遠くからラバックとチェルシーが走ってくるのが見える。
「あいつらも無事だったようだな……」
「えぇ、クロメたちの足取り、掴めるかしら……」
呟きつつ、マインは視線をアカメとキョウへ。
クロメの名を聞き、2人が目に宿す色は、矢張り複雑。
戦いの時は割り切れても、やはり普段から割り切れるほど簡単な関係では無いらしい。
……殺し屋なのだ、報いを受ける日は当然の事。
こちらが殺そうと罠に仕掛けておいて、殺されたからと言って恨むなどお門違いも良いところだ。
けれど、クロメはシェーレを殺した。
そしてその身体を、未遂ながらあろうことかキョウを殺そうと使ったのだ。
――2人が殺れないのなら、クロメ、あんたには私が手を下す。
ボルスを仕留め、クロメはウェイブと合流していた為に見逃さざるを得なかった。
そんなチェルシーの報告を聞きながら、マインはそんな覚悟を己の心に誓ってみせた。
*
ロマリーの街にて。
合流したイェーガーズの面々は、地方部隊の力を借り、ボルスの死体を発見。
彼の死亡を知った面々は、宿に集合し、各々の方法でボルスを弔った。
その後、骨折の重傷を負ったクロメは一人ベッドの上、他の2人は椅子に座りクロメに向かった形である。
「……ボルスさんの仇、さ」
呟くクロメに、ウェイブとランが視線を上げる。
暗い瞳をしながら天井を見つめつつ、クロメ。
「あれ、暗殺のプロだよ。急所を針で一撃。幻覚か何かで、それと知らせずに油断させての一撃」
「ナイトレイドは、クロメさん達が戦った以外のメンバーも居たという事ですか……」
「うん、見つけたら、必ず刻む……」
呟くクロメ自身、己がおぞましいまでの殺意を放っている事に気付いていた。
常人なら脂汗と共に命乞いし始めるそれに、しかしウェイブとランは頷き同意してみせる。
イェーガーズのメンバーで最も人格者だった彼の死に、全員復讐の殺意を強く抱いていた。
心は同じく、その状況に、クロメは自分も随分とイェーガーズを仲間と認めてきたものだと思う。
今なら、薬が入っていない菓子であれば仲間に配る事すらありえるかもしれない。
口元を緩めるクロメに、ふとウェイブが告げた。
「すまねぇ、クロメ。……お前の八房、ナイトレイドの仲間同士を殺し合わせたろ?」
「うん……嫌だった?」
戦力的にも、精神攻撃的にも、そしてクロメ個人の感情的にも有効な手である事は確かだった手段。
しかし、それを好まない人間が世の中にいくらでも居る事を、クロメは知っている。
不安に揺れる目で見つめるクロメに、だがウェイブ。
「好みの手じゃねぇのは確かだ。だが、その手無しじゃあ、これ以上の犠牲が……最悪、俺たちは全滅すらしていたかもしれねぇ。俺個人の我が儘で、嫌そうな事言ってて、すまなかった」
「ううん、そういう人が多いの、分かってるから」
頭を下げるウェイブに、クロメは微笑み返してみせた。
共感を得られないのは寂しいが、理解だけでもしてもらえるのは、それだけでも嬉しい事だ。
それに今は、キョウという共感者が居るので、寂しくない。
何故か照れるウェイブを尻目に、眼を細め、ランが呟く。
「しかし、ウェイブにそこまで言わせるとは……。ナイトレイド、やはり凄まじい強敵」
「あぁ。特にキョウは、隊長の言う通りヤバイ。俺たち3人がかりじゃねぇと、多分……」
「うん。残るナタラとドーヤ込みで、私たち全員でかかるか……」
と、順々に告げるクロメらに、凍り付いたような声が割り込んだ。
「私が、1対1で殺すか、だな」
「隊長……!」
喜色を浮かべるクロメに、エスデスは軍帽のつばを撫でながら薄く微笑んだ。
ヒールで床板を叩きながら、3人の方へと足を進める。
「先ほど早馬で、大臣から護衛の任務と、キョウの捕縛任務の催促が入った。我らはキョロクに向かうぞ。――その護衛対象が、ナイトレイドの遠征の標的かもしれんという事だ」
目を見開く3人に、エスデスは憎悪の笑みを浮かべた。
元同僚ナジェンダにしてやられたのが相当堪えたのだろう、殺意に満ちた表情のまま、手を握りしめる。
歯を噛みしめるラン。
「私たちを道中で叩いておき、本命はそちら……舐めた真似をしてくれますね……」
「あぁ。……もう一つのキョウの捕縛任務は難易度が高すぎる、基本的に考えず殺害を考えるのみで十分だ。出来れば八房で骸人形に、万が一可能なら生きたまま捕縛するとしよう」
告げるエスデスに、クロメは薄く微笑んだ。
己の唇に指を這わせ、告げる。
「そうですね……。出来るだけ、ただ殺すよりは骸人形にしてみせます。キョウくんの強さも、リィンフォースの強化も、喉から手が出る程欲しいですから」
「ふ、肋が折れているようだが、同行は可能だな?」
「全力戦闘には少し時間が要りますが、八房の操作程度であれば余裕を持って」
視線を交わすと、エスデスは微笑みながら頷いてみせた。
腕組みしつつドアに背を預け、続ける。
「まぁ、クロメの言う通り、キョウの捕縛は難しいながらも成功すれば、かなりの成果となる。何せ奴は……」
続けエスデスは告げた事実に、イェーガーズの面々は驚愕に目を見開いた。
最も冷静沈着なランでさえ口が開いたままになる程の事実。
硬直した面々に、エスデスは補足を続ける。
「まぁ、大臣曰く、恐らく本人すら知らない事実だそうだがな。ピンピンしている所に言った所で、キョウがどうにかなるとは思わないが……」
「追い詰めてからその事実を告げれば、内心はどうあれ、チャンスを狙って一旦大人しく捕まってくる可能性もあります、ね」
目を光らせるランは、新事実にキョウの捕縛へ積極的な模様。
ウェイブはしかめっ面をしており、クロメとてその事実には何とも言えない気分になってしまうのだが、キョウを生きたまま捕縛できる可能性はむしろ好ましい物だ。
無論、そのチャンスを狙って捕縛できたなら、噂のオネスト大臣であれば、キョウを暴走させるような下手は打たないだろう。
飼い殺しにされるのが関の山と言った所か。
となれば。
「あはっ、キョウくんと生きたまままた一緒に居られる可能性、出てきたんだ……」
「ふ……。クロメ、お前の恋の道は、また閉ざされていなかったという訳だ。とは言え、キョウの仲間を殺った今、難しい道である事に変わりは無いがな」
エスデスの言葉に、しかしクロメは勇ましく握り拳を作るのみである。
燃える意志を瞳に、勇ましさを声に乗せ、クロメは告げた。
「いえ、むしろ障害が多いほど、燃えてきましたっ。それに……」
クロメの脳裏を過ぎる、ボルスの姿。
暖かな家庭を持つ、怖いマスク姿の優しい仲間。
「ボルスさんも、言っていました。”相手のハートを掴むコツはですね……、諦めないことですよ”って。私、敵味方に分かれて、お互いの仲間を殺し合う事になっても……、キョウくんの事、諦めません!」
「……あのー、それって俺がキョウに殺されても?」
宣言するクロメに、数秒遅れ、口をひくつかせながら挙手するウェイブ。
数秒思案、クロメは人差し指を立てて唇にやり、ウェイブを見つめる。
「ウェイブ、磯臭いし……」
「磯臭くねぇよ!? そしてそこは諦めておけよ!?」
「あはは、冗談。その時は八房で仇ぐらいは取ってあげるって」
笑い声をあげる、クロメとウェイブ。
そんな2人を、幾分か明るくなった表情で、エスデスとランとが見守っていた。
――この仲間達を、もう誰も傷つけさせない。
内心の決意と共に、クロメは笑みを浮かべるのであった。
Scene2終了となりました。
Scene1:妹を斬る
Scene2:仲間(屍)を斬る
というシーンになった訳で、次話からはScene3と相成ります。
Scene3は3話分ぐらいの短い話になりそうです……。
全部でScene4つになるので、話数的にはも展開的にも折り返し過ぎた感じでしょうか。