信人跋扈   作:アルパカ度数38%

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ほのぼの回です。


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「くぅーっ、皆あっという間にスーさんになつきやがってっ!」

 

 と、大股を開き吐き捨てるラバくんに、僕はあははと笑いながらもスーさんの料理でいっぱいになったお腹をさすっているばかりだ。

ドクタースタイリッシュとの戦いから一ヶ月。

見つかったアジトを一旦離れた僕らは、秘境マーグ高地にて腕を磨きながら、潜伏をしていた。

加え、2人の新入りと交友を深める時間にもなり、丁度いいと言えば丁度いい期間でもある。

 

 新入りの一人、帝具人間たる電光石火・スサノオ。

ナジェンダさんの帝具たる彼は、肉弾戦に置いて凄まじい性能を持つ上に、掃除・洗濯なんでもござれな家事マスターである。

几帳面な性格と相まって、一気に皆に馴染んだ仲間であり、ラバくんの言う通り皆あっという間に懐いた相手だ。

 

「くそ、キョウも悔しいだろ? このポジションを奪われる感じ! アカメちゃんも料理にメロメロになってるぞ!」

「え? よく分からないけど、料理美味しいし、スーさん大好きだけど」

「あ、はい、食いしん坊なキョウはそうだよね……」

 

 何故かガックリと肩を落とすラバくんに、静かにケーキを口にしつつ、マインちゃんが肩をすくめる。

 

「ラバは元から今のお笑いポジションでしょ……」

「ラバックも元気出してくださいね……」

「け、マインちゃんと違ってシェーレさん、やっぱ優し……え? これポジション奪われて慰められてんの? それともお笑いポジでもめげないでねって言われてるの?」

 

 困惑するラバくんを尻目に、ドアの隙間から一匹のマーグパンサーの子供が入ってくる。

あ、と小さく声を漏らした僕に、視線で黙ってと言われ、僕は口にチャック。

そんな僕を尻目に、にゃーん、という鳴き声で気付いたマインちゃんが視線をマーグパンサーの子供へ。

 

「何よ、言っておくけど、エサなんてあげな……、し、仕方ないわね」

 

 陥落早っ。

脇で呆れる僕を尻目に、眼光を鋭くしたマーグパンサーに、あっさりケーキを奪われるマインちゃん。

白目で大口を開けた視線の先には、マーグパンサーの子供から人間へと変化した、新メンバーチェルシーちゃんの姿が。

 

「ふっふっふ、いただきだニャーン!」

「あ゛ー!! チェルシー!」

 

 僅かに妹を想起させる明るめの橙色の髪だけれど、その身に纏う雰囲気は全く違い、柔らかな鋭利さとでも言うべきか、言葉にし辛いそんな雰囲気を持つ少女。

口には何故か何時も飴を咥えており、その可愛らしい容姿と相まって、愛らしさが倍増しているのが見て取れる。

ガイアファンデーション、変身の帝具を持つ仲間。

 

「あはは、マインって隙多すぎでしょ。キョウは気付いてたみたいだよ?」

「うがー! あんた教えなさいよ!」

「あはは、黙っててって、アイコンタクトあったから、ついつい」

 

 とは言え、気付ける確率は僕でも五分五分。

気合いを入れて変身されると、いくら僕でも気付けない可能性の方が高いだろう。

こりゃあ戦闘者としては兎も角、暗殺者としては僕より格上としか言いようが無い。

特に冷静さを保つ力は、僕にとって何より教材として有用だろう。

暗殺者のプロとしては、僕が仲間内では最も尊敬する子である。

 

 と、マインちゃんをあしらったチェルシーちゃんは、すたすたと僕の方に歩いてきた。

スカートを抑えすとん、と隣に座り、僕の腕を引っ張ってくる。

 

「じゃ、キョウ、訓練付き合ってよ」

「うん、終わったら今度僕の訓練ね」

 

 と、そんな僕らの会話に、意外そうに首を傾げる面々。

何せチェルシーちゃんは、既に完成された実力を持つ、とナジェンダさんに評される程の娘。

戦闘能力こそ低いものの、帝具の扱いという意味では僕では足下にも及ばない超絶の実力者である。

そんなチェルシーちゃんが僕に学ぶ事がある、というのは意外なのだろう。

そんな彼らを代表してシェーレちゃんが口を開く。

 

「あの、そういえばお2人は何の訓練をしているのですか? 確か、キョウさんのリィンフォースは、帝具のスーさんにはあまり効かず、チェルシーちゃんの変身にはあまり効果が無かった筈ですが」

「うん、その通り。だけど……」

「キョウの観察力はパないからね。私ももう少し、ガイアファンデーションの実力、磨かないとって」

 

 ウインクをしながら告げるチェルシーちゃんの向上心には脱帽である。

僕としては、これ以上彼女が暗殺者として成長するのは、心強いやら怖いやらで複雑な気分であった。

 

「で、僕からチェルシーちゃんに付き合ってもらう訓練は、精神の律し方かな。僕、結構キレやすいから、その辺をどうにかしたくって」

「キョウは十分自分を律しているような気もするんだけど……、向上心あるよねー」

 

 あはは、と告げるチェルシーちゃんに褒められるのは素直に嬉しいのだが、僕自身の感触としては、自分の意志をもっと冷たく保てるよう思うのだ。

何より母さんの言葉、僕は激情家と指した言葉がある以上、僕の根っこは激情家という奴なのだろう。

もっと冷たく、氷点下の意志を持たねばならない。

それなしに、僕はクロメちゃんを討てない気がするのだ。

 

「じゃ、行ってきま……」

 

 と、立ち上がろうとした僕の袖が引かれた。

見れば、シェーレちゃんが僅かに頬を赤らめながら僕の袖を掴んでいる。

 

「あの……、私も自分の甘さを鍛え直したい所があるので。キョウさんと一緒に、訓練受けていいですか?」

「……チェルシーちゃん次第かな」

 

 告げ、僕の手を取っていたチェルシーちゃんへ視線を。

うーん、と顎に手をやり、何か思いついた様子のチェルシーちゃんが、僕の手を取った。

シェーレちゃんの顔が、ぴくりと動く。

離した、ぴくりと柔らかく。

手を取った、ぴくりと硬く。

 

「よし、なんか好みの状況みたいだから、オッケー!」

「好みの状況?」

「あわわ……、じゃ、じゃあ早速行きましょう!」

 

 何故か慌てた様子のシェーレちゃんに急かされ、僕ら3人は部屋を出て行く。

どうしてか、背後でじっと僕を見つめるアカメちゃんの視線が気になった。

 

 

 

*

 

 

 

 甘い、とチェルシーはナイトレイドの面々を評する。

確かに戦闘力は高く、アカメとキョウの二枚看板は超弩級の戦闘能力。

続くスサノオもかなり強力な戦士であり、その3人は精神の統率も取れており、戦士として完成の域に達していた。

しかし、そのほかのメンバーは精神的に甘い所が目立ち、マインとシェーレ、特にタツミの甘さは暗殺者のプロとして心配になるぐらいだ。

話に効くブラートの甘さ、そしてそれをタツミが目指しているという所も心配に拍車をかける。

 

「とは言え……」

 

 告げ、チェルシーは目前のキョウに視線をやった。

まずは精神統一を言い渡したチェルシーに従い瞑想に入っているのだが、そのそぎ落とされた精神性は見事と言う他無い。

何処が激情家なのだ、とチェルシーは内心独りごちた。

 

「う~ん……、ここまで一ヶ月、キョウは危険種狩りと半々で私と訓練してきた訳だけど……。正直、かなり完成された精神性だと思う」

「そーかな?」

「そうですよ、私なんかふらふらですから……」

 

 隣で微笑むシェーレは、逆に心配になるほど集中力が無い。

これで見学した危険種狩りではかなりの集中力を見せるのが、不思議なほどである。

逆に言えば、暗殺される側に回れば弱いという事だ。

事実、チェルシーが合流したときのドクタースタイリッシュの襲撃においても、最初スイッチを切り替えるまでは苦戦したと聞く。

それはそれで心配なのだが、それは兎も角として、だ。

 

「キョウの精神をこれ以上鍛えるってなると、かなり精神攻撃的な変身をするしか無いんだけど……、どうする?」

「……やるよ」

「いちお、殺さないでね? 私の事。シェーレも止めに入る準備、お願い」

 

 頷いてみせるキョウに、溜息。

不意打ちでチェルシーは、ガイアファンデーションを振るった。

巻き起こる粉塵、遅れ大して変わらぬ髪色と共に、聞き知った人物にチェルシーは変身してみせる。

セリュー・ユビキタス。

キョウが殺した、彼の妹。

息を呑むシェーレを尻目に、チェルシーは内心の緊張と共に、告げた。

 

「久しぶり、お兄ちゃん」

「……成る程、ね」

 

 凍り付くような台詞。

ぞ、とチェルシーの背筋に悪寒が走った。

臓腑に液体窒素を流し込まれたかのような感覚。

脳髄が氷水に浸けられ、眼球が吹雪に晒されるかのような錯覚すら憶える。

 

 何より、視線の合ったその瞳が恐ろしかった。

昆虫の瞳だ、とチェルシーは直感した。

そこに感情の色は欠片も無い。

己の手で殺した妹の姿に化けられたというのに、憎悪が無い、嫌悪が無い、憤怒が無い、殺意が無い。

ただ不気味。

いや、感情はあるが――、人間には理解できない感情しか無いのか。

 

 チェルシーは、凄腕の暗殺者である。

故に暗殺の経験の中、これまで化け物と呼ばれた精神異常者を殺してきた事もある。

だが、化け物と呼ばれた者達も根っこには人間の精神があり、それが歪に育って人外の精神に到達したようにチェルシーには思えていた。

故にチェルシーは、化け物の精神を生まれ持つ人間など居ないと信じていた。

 

 ――だが、目の前の男は、生まれつきの化け物の精神の持ち主としか思えなかった。

 

「――ぷはっ」

 

 息を吐き出し、途端にチェルシーはガイアファンデーションによる変身を解いた。

どっと汗が噴き出るのを感じながら、何とか笑顔を取り繕い告げるチェルシー。

 

「すごい殺気だったけど、冷静さは失ってなかったね……」

「まぁ、ね」

「っていうか、そこまでやるんですね……」

 

 冷や汗をかくシェーレの言葉も、半ば耳に入らないままに、チェルシーは思う。

直感に従うと、キョウは激情家どころか、昆虫の精神を持って生まれた男。

むしろ激情家と思い込ませるように教育され、それ故に後天的に感情を会得したかのようにさえ思える。

普段の天然の混じった人格ですら、今は紛い物にしか思えなかった。

内心の怯えに僅かに身体を震わせるチェルシーに、しかしキョウ。

 

「でも、ありがとう」

「へ?」

 

 急に聞こえた意味不明の言葉に、チェルシーは首を傾げた。

途中の会話を聞き流してしまったのか、とシェーレに視線をやるが、こちらも首を傾げている。

何のことか、とキョウに視線をやると、その真っ直ぐな瞳がチェルシーを射貫いた。

 

「今の変身、最悪僕が暴走しかねないって、チェルシーちゃんは覚悟してくれた。僕の我が儘で、僕の心を鍛えるために。これで礼を言わないなんて、ありえないさ」

 

 信頼。

凍り付いた心をさえ波打たせる、精神の温度を上げる視線。

 

「改めて。――ありがとう、チェルシーちゃん」

「……ぁ」

 

 心から自身を信じる言葉に、チェルシーは寸前までの己の思考を恥じた。

この目の前で、誰よりも人間らしい信頼の言葉を告げる男の、何処が化け物の精神の持ち主だと言うのか。

 

「――どういたしまして、ね」

 

 告げつつ、チェルシーは誓う。

自分の精神の中でだけの葛藤による罪など、謝罪した所でキョウに伝わるかどうか分からない。

故に、この借りは行動にて必ず返す。

気を取り直した瞬間、近づいてくる気配。

視線をやると、ラバックが走り寄るのが見えた。

 

「おーい、緊急招集! 帝都で新種の危険種が出現して、大変な事になってるらしくてさ。いよいよ帝都に帰還だって!」

「お、私もそろそろ活躍できる訳ね」

 

 呟きつつ口内で飴を転がし、視線をキョウへ。

力強い輝きを秘め、その黒々とした瞳に暗い意志を宿し告げる。

 

「――帝都、か」

 

 

 

*

 

 

 

 帝都から北東15km地点。

新しく作られたアジトの元、春の気配差し迫る光景に溜息を漏らしながら、僕らは会議室に集合する。

いつも通り、煙草を燻らせるナジェンダさん。

 

「戻ってきて早速だが、今回の標的は例の新型危険種どもだ」

 

 新型危険種。

ナジェンダさん曰く、群れで行動する事が多く、僅かながら知性も見受けられると言う。

個々の身体能力も高く、腕試しの武芸者達も挑んではやられているとの事。

帝都から何部の鉱山・森林に広く潜み、先日民家をさえ襲ってきたそうだ。

 

「言ってしまえば、帝国に協力する形になるが……いいな?」

「もちろんだぜ、今回は事情が事情!」

 

 即答するタツミくんに、アカメちゃんも僕も頷き、ナジェンダさんも薄く笑みを浮かべた。

そんな僕らを尻目に、一人壁に背を預けるチェルシーちゃんが水を差す。

 

「ん~、大きな危険を冒して化け物退治ねぇ。イェーガーズに任せておけばいいものを、やっぱり何処か甘いよ皆……」

 

 まぁ言いたい事は分からないでもない。

帝国を確実に倒す為に、こんな所で万が一損害を負ってしまえば取り返しが付かないし、情報を漏らしてしまうリスクもある。

だが、反論は僕が言う必要は無いだろう。

タツミくんに視線をやると、やはりその瞳に力強い意志を宿し、続けた。

 

「……言いたいことは分かるけど、こいつら今でも誰かを襲っているかもしれない。俺たちは殺し屋だけど、民の味方のつもりだ。殲滅を早めて、一人でも多く助けたい!」

 

 告げるタツミくんに、僕は薄く微笑んだ。

スーさんと視線を交わし、指摘はスーさんから、と頷き合う。

 

「――タツミ。ズボンのチャックが空いている、気になるから閉めてくれ」

「……あ゛」

 

 沈黙。

ちー、という金属音。

遅れ爆笑が響き渡るのを尻目に、僕はちらりとアカメちゃんに視線をやる。

なんだかぼうっとした目で居るアカメちゃん。

タツミくんが半泣きで、からかっているラバくんに殴りかかりそうになるのを尻目に、僕はアカメちゃんに近づいてみる。

 

「……ん」

 

 数歩離れるアカメちゃん。

あれ? と首を傾げつつ、数歩近づく僕。

数歩離れるアカメちゃん。

見れば顔も僕から背けており、視線すら合わせて貰えない。

思わず、もの凄い敗北感にその場で膝を突きそうになってしまう僕。

 

「あ、あれ? アカメちゃん? 僕なんかしたっけ?」

「い、いや、キョウは何も悪くないんだ。と言うか、何でも無い」

「いや、めっちゃ避けられてるよね?」

 

 ぴしっと指さし指摘すると、何故か頬を赤らめるアカメちゃん。

こほん、と咳払いを一つ、静かに告げられる。

 

「元々こんな距離だった、だろう?」

「それはそれでなんかショックだ!?」

 

 ビックリする僕に、ボスと話していた様子のチェルシーちゃんが近寄ってきた。

おやおや、と意地悪な表情と共に、ぽんぽんと僕の肩を叩いてみせる。

 

「ふふ、キョウ、アカメちゃんにセクハラでもしちゃった?」

「してないよ! 風評被害止めて!?」

 

 と、そんな僕の叫び声が大きかったのか、にょきにょきと生えるように表れるラバくん、レオーネちゃん。

 

「おやおや」

「アカメにセクハラですってよ、奥様」

「キョウの本性はセクハラ親父だったんですってねぇ」

「こわいこわい」

 

 もの凄い楽しそうな声の2人に、ひくひくと僕の口が歪むのが自分でも分かる。

うがー、と叫びながらタツミくんと共に、逃げるラバくんとレオーネちゃんを追う僕なのであった。

 

 

 

*

 

 

 

 そんな帰還初日、夕食を終えたチェルシーは、アカメと共に温泉に浸かっていた。

湯煙の中、身体を心底から温める温度に、チェルシーは思わず顔を綻ばせる。

 

「いや-、マーグ高地でもそうだったけど、温泉はいいねぇ」

「あぁ。食事の次に好ましいな」

 

 隣で告げるアカメもまた、顔を綻ばせ、幸せそうな顔で肩近くまで温泉に浸かっていた。

最近物憂げな表情の多かったアカメの顔に、僅かに安堵を抱きつつ、チェルシーは問う。

 

「そういや、ほんとにキョウとは何も無かったの? 本気でセクハラだったら、相談に乗るよ!」

「ち、違う! キョウがそんな事する訳無いだろう!?」

 

 同感だが、そこまで力強く言うアカメに、チェルシーは内心素晴らしい玩具を見つけた気分になった。

とは言え顔には出さずに納得した様子を見せると、続けアカメは、のぼせたからなのか、僅かに頬を赤らめ告げた。

 

「というか……、チェルシーは、その、キョウが私にセクハラしてたら、悲しくは無いのか?」

「へ?」

「……その、マーグ高地で2人が過ごしている時間、長かっただろう?」

 

 首を傾げチェルシーが疑問符を示すと、顔を真っ赤にしつつ、上目遣いにアカメ。

 

「……チェルシーは、キョウの事をどう思っているんだ?」

 

 チェルシーは脳内で言われた言葉を数巡、ようやく何を言われたのか理解し、何よりアカメの可愛らしさに頬を綻ばせた。

心の底から、目の前の生物の愛らしさに参ってしまう。

思わずアカメに抱きつきつつ、叫ぶチェルシー。

 

「アカメちゃん可愛い! 嫉妬? それ嫉妬!?」

「ち、ちが……! 質問に答えてくれ!」

「私は、友達としては良い奴かなって。男としては好みじゃないかな。キョウの事を好きなのって、私なんかよりシェーレの方じゃない?」

「しぇ、シェーレが!?」

 

 驚くアカメの鈍さに、余計に愛らしさを感じ、チェルシーは破顔した。

目を見開き硬直するアカメの後ろを陣取り、抱きしめながら続ける。

 

「ねぇね、キョウの事気になるんだ? どーゆー所が気になるの?」

「そ、それは、その……単に、気になるだけだ」

「ね、できる限りアドバイスするからさぁ」

 

 続けるチェルシーの言葉に圧され気味のアカメは、こほん、と一つ咳払い。

肩まで温泉に浸しながら、ゆっくりと語りだす。

 

「その、最初は境遇が凄い似ていると思っていて、気になっていたんだ」

「……うん」

 

 これから妹を斬らねばならないアカメ。

既に母と妹を斬り捨てたキョウ。

その運命の酷似性は、チェルシーも聞き知っている。

 

「けれど、キョウが妹と出会って、敵と知らずに意気投合したっていう話を聞いて。で、デートまでしたと聞いて」

「うわ、キョウってそこまでやってたんだ……」

「あぁ」

 

 何処か冷たさの混じるアカメの声に、チェルシーは入浴中だというのに思わず冷や汗を滲ませた。

だが、その冷たさはつまりアカメがキョウにどれほど本気か示しているようにも思え、同時にアカメの愛らしさを増しているとも言える。

そんなチェルシーの内心に、しかしアカメ。

 

「……それで、分からなくなってきたんだ。私は、キョウ本人が気になっているのか。キョウが何処かクロメと似ているから気になるのか。それとも、クロメにある男の影だから、キョウの事が気になっているのか」

「成る程、ねぇ」

 

 最初は自分と似ているから気になっていた男だが、そこに最愛の妹と似た感覚を見る。

加え、その男は妹と意気投合しており、楽しそうに妹の事を語るとなれば、アカメとしては内心穏やかでは居られまい。

更にその最愛の妹をアカメは斬らねばならず、キョウとクロメも敵対関係にあるとすれば、何とも言えない事だろう。

 

 チェルシーとしても、アカメのキョウに対する気持ちが真に恋心なのか分からない。

傍目に見ればアカメのキョウへの気持ちはいじらしい恋にしか見えないのだが、こうして内心を聞いてみると、いくらか複雑さを増している。

思ったより難解な状況に、しかしアドバイスする言った手前黙る事もできず、唸りつつもチェルシーは告げた。

 

「まずは、キョウはアカメちゃんとクロメちゃんの事、どう思っているのか調べるべきなんじゃないかな」

「……キョウ、が?」

「うん。理由はどうあれ、アカメちゃんがキョウを気にしているのは確かなんでしょ? なら、気になる相手の想いを知りたいっていうのは、その気持ちが何であれ自然な事だよ」

 

 そして、キョウの気持ちによってアカメの気持ちもまた、変化を遂げる可能性がある。

人間の感情は何時までも一定通りとは限らないし、相手の気持ちによってこちらの気持ちが変化するなどざらにある事だ。

一般論的な助言しかできない事に罪悪感を憶えつつも、しかし何も言わないよりはマシ、とチェルシーはじっとアカメを見つめた。

うん、と頷くアカメ。

その瞳には一切の濁りは存在せず、純朴な光は、チェルシーの言葉をあるがままに受け入れているのが見て取れた。

 

「そう、か。ちょうど新型危険種の狩りは、私とキョウでコンビだしな」

「うん、こんな時に不謹慎かもだけど、一緒に話せるチャンスでしょ? 頑張れ、アカメちゃん!」

「そ、そうだな」

 

 告げ、両手に握り拳を作り気合いを入れるアカメ。

うんうん、と頷きつつチェルシーは続ける。

 

「どういう気持ちにしろ、シェーレもキョウの事好きみたいだしね。私はアカメちゃんを応援かなぁ」

「あ、ありが……そうだ、シェーレもって、やっぱりそうなのか?」

 

 自然にシェーレ”も”と告げたアカメに、指摘はせずにチェルシーは顔を綻ばせるだけに止めた。

指摘するより、もっとその精神を育ってからおちょくる方が楽しそうだ、と思った為である。

 

 面白そうに語るチェルシー。

顔を赤らめながらも、話に食いつくアカメ。

恋話に盛り上がる2人の乙女を、静かに照らす天上の月だけがゆっくりと眺めていた。

 

 

 

 

 




まだ仕事始めになっていないうちですが、予約投稿。

ほのぼの回はもう一回はさみます。

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