遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

8 / 25
ぶっ壊れアニメオリカが出ています。ご注意ください。


第5話 メタと里

 新学期早々、クロノス先生が風邪を引いたらしい。

 それはもう大層性質の悪い風邪のようで、既に数日に渡って寝込んでいる。その間のクロノス先生が担当していた授業は他の先生方が代わりに行ってくれたんだけど……大徳寺先生の錬金術、取っとけば良かったかな。あの先生、結構話が面白い。錬金術って選択授業だから、俺、取ってないんだよね。

 ちなみにクロノス先生が性質の悪い風邪を引いた原因について、色々と噂が出回っている。流石は隔絶された孤島、面白そうな話題が転がっていたら噂を流すチャンスを逃さない。

 『裸踊りでブルー生の成績向上を祈願した』とか、『凍った湖で潜水をしていた』とか、『実は風邪じゃなくて顔に変な出来物が出来て恥ずかしがってる』とか。

 あれ? クロノス先生が休み始めたのって、十代と明日香のデュエルの翌日からだったような……それに翔が女子寮に誘き出された原因の偽ラブレターを見せてもらったけど、クロノス先生とよく似た字だったような……そしてその日、十代がクロノス先生にフラグを立ててたような…………俺は何も気付いてないよ、うん。自業自得とか、そんなこと考えてないからね。

 

 

 さて、そんな俺だが。現在、行方不明者についての調査は中断している。何故ならば。

 

 「明日は月一テストか」

 

 自室で宿題を片付けながらついつい呟いてしまった通り、月一テストが間近に迫っているからである。

 俺はただの気楽な学生ではない。学校側に授業料を援助されて通わせてもらっている身である。当然、下手な成績など取れない。ってか、取った瞬間に特待生待遇を取り消されて自主退学する羽目になる。それは避けたい。

 

 『主よ、もう寝たらどうだ?』

 

 宿題を終わらせた俺に、エンディミオンが就寝を促した。

 

 『いまさら慌てねばならないような勉学の仕方はしていまい。ならば今は英気を養うべきだ』

 

 彼の言うことも一理ある。でもなぁ、中々寝られそうにない気がするんだよね。

 

 「隣から、何か変な声が聞こえてくるんだけど……」

 

 月一テストに向けて気合を入れているのは俺だけではない、ということだろう。

 夕食後からずっと、隣室から三沢が何やらブツブツと呟く声が聞こえてくるのだ。なまじ言葉の内容が解らないのが耳障りだ。これじゃまるで念仏だよ、お経だよ。多分、壁だの床だの天井だのに数式をかき込みながらデッキ構築を考えているんだろうけど。しかしこれはもう、一種の公害だ。

 

 「耳栓買っとけば良かったかな……エンディミオン、結界張って。音避けも出来るんだろ? 俺が寝たら解いてくれていいから。それなら魔力もそんなに消費しないんじゃないか?」

 

 『……主よ。主は己のその強大な魔力と、我ら精霊の神聖なる力を何だと思っているのだ?』

 

 微妙な表情でそう問いかけてくるエンディミオンに背を向け、俺は寝間着に着替える。そして電気を消し、ベッドに潜り込んでから漸く答えた。

 

 「人生をよりよく過ごすために有効活用出来るものだと思ってるよ。世界征服を企むよりはよっぽど健全だろ?」

 

 その答えにエンディミオンは呆れたように首を振り、しかし仕方が無いとでも言わんばかりにその力を振るう。

 

 今日も俺は、精霊とナチュラルに共存している。

 

 

 

 翌日。天気は快晴、気分は爽快。俺はいつも通りの時間に起床した……ら、ほぼ時を同じくして隣室から歓喜に打ち震えた大声が響いてきた。

 

 『出来たぞ! 俺の今日の実技試験用デッキが!!』

 

 ……え? アイツまさか、徹夜してデッキ組んでたの? 午前の筆記試験中に眠くならなきゃいいけど。

 そんな感想を抱きながら、俺は着替えて筆記用具と第2デッキを持って部屋を出た。

 さて、今日は定期便で新しいパックが入荷する日だから、購買が開くのは昼からだっけ。パック占いはお休みだな。となると。

 

 「レッド寮に行くか」

 

 始業時間まではまだ時間があるし、レッド寮に朝メシを食いに行こう。朝はレッド寮の栄養バランスは取れている粗食が一番である。頭がスッとする。

 各寮にある食堂だが、他寮の生徒が利用してはいけないという校則は無い。なので俺はイエロー寮で出される食事を土産に、朝はよくレッド寮の食堂に突撃する。男子高校生という食べ盛りの彼らにはその土産はとてもありがたいものらしく、俺はまるで神の如く(略)。

 

 そんなわけで今日もいつもの如くレッド寮で朝食を摂っていたのだが、そろそろ校舎に向かわなきゃならないという時間になっても十代や翔を見掛けなかった。

 流石に可笑しいと思って彼らの部屋を訪ねてみたのだが、そこには呑気に寝こけている十代とそれを呆れたように見ている隼人しかいなかった。

 

 「翔は?」

 

 「もう学校に行ったんだな」

 

 隼人に聞いてみると、そんな意外な答えが返ってきた。翔が十代を置いて行くとは。

 俺の驚きを察したのだろう、隼人が事情を説明してくれた。

 

 「今日の月一テストは、同じ寮生はみんな敵なんだな。特に入試デュエルでクロノス教諭を倒した十代は、ラーイエローに最も近いんだな。このまま十代が寝坊して遅刻すれば、ライバルが1人減るんだな」

 

 成る程。しかし。

 

 「隼人、学校に出なけりゃ試験も受けないのに、よくそんな裏工作を考えたね」

 

 いっそ感心するよ。本気でそう思って拍手すると、隼人は困ったように頭を掻いた。

 

 「みんなが考えていることなんだな。考えてないのは、十代や優のように寮に拘ってないヤツか、本当に余裕のある優等生ぐらいなんだな」

 

 え~、やだなぁ、それ。子どもは子どもらしく行こうよ。

 第一、例えそれで十代が脱落したとしても、求められている水準以上の成績を自分自身で修めない限りはどの道昇格なんて出来ないと思うぞ。

 

 「ま、1つ訂正させてもらうなら、十代が寮に拘ってないって点かな」

 

 俺が苦笑しながら言うと、今度は隼人が驚いていた。

 

 「十代も昇格を狙ってるのかぁ!?」

 

 「あぁ、違う違う。逆だよ……十代は赤が好きだから、レッド寮に拘ってると思うんだよね。もしも昇格の話が来ても、蹴ると思うよ」

 

 説明すると、隼人は納得して再び十代に眼を向けた。

 

 「だから十代、こんなに余裕なんだなぁ」

 

 その視線の先では、十代が盛大な鼾をかいて寝ている……いや、これはこれで別に余裕の表れとかじゃないと思うぞ?

 

 「これは単に、素で寝坊してるだけだよ……いつもそうだろ? 翔も起こすのに苦労してるってよく言うし。中学の時もそうだった。定期テストの時でも、平気で寝坊してさぁ。俺はその度にコイツをベッドから蹴り落として、引き摺って学校まで連れて行ったっけ」

 

 思い出される、あの苦労の日々。見捨てて先に行くって手もあったけど、それはそれで後々面倒なことになったし。

 

 「十代を確実の起こす方法が、無いわけじゃないんだけどね」

 

 まるで秘密話をするかのように隼人の耳に口を寄せて囁いた。隼人は目を丸くする。

 

 「翔には内緒だぜ? 人間は慣れちまう生き物だからな。やりすぎて十代が反応を返さなくなったら困る」

 

 俺は悪戯っぽく笑うと、十代の枕元で魔法の言葉を口にした。

 

 「あー、何でこんな所にキング・オブ・デュエリストの武藤遊戯さんが!? 俺とデュエルしてください!!」

 

 明らかに棒読みのセリフを言い終えるか終えないかの内に、十代はガバッと飛び起きた。

 

 「遊戯さん!? どこだ!? 俺もデュエルしてぇ!」

 

 何という脊髄反射。お前、ファンの鑑だよ。

 キョロキョロと周囲を見渡す十代。溜息を吐く俺。唖然とする隼人。

 十代が状況を把握するのに、大凡1分の時を要した。

 

 

 

 何とか覚醒した十代を急き立て、俺たちは校舎へと向かう。レッド寮は校舎から遠いのもあって、もう寮内には俺たちと引き籠りの隼人以外の生徒はいなかった。

 それでも、俺も十代も体力には自信がある方だ。このまま走れば十分間に合う……と、思ったのだが。

 

 「よいしょ、よいしょ」

 

 道すがら、車がエンストした上に坂道に奮闘中という大変困った状況の女性を見掛けてしまった。購買のトメさんだ。

 そんな人を我らがHERO(使い)である十代が見過ごせるわけなく、俺としてもトメさんには色々と世話になっているので放っておけず、一緒に手伝うこととしたのだが……このままでは確実に遅刻する。

 くっ、こうなったらアイツを呼ぶしかない。

 

 (エンディミオン)

 

 『……何だ?』

 

 何だか微妙にうんざりした顔のエンディミオンが傍らにやって来た。

 

 (これ手伝って! 魔力は疲れない程度に消費させていいから!)

 

 『だから主よ、主は己と我らを一体何だと思っているのかと昨夜から』

 

 (……出来ないのか? いつもはあんなにロード・オブ・マジシャンとか言って威張ってるのに)

 

 『出来ないわけが無かろう』

 

 ムキになったエンディミオンの魔法のお陰で、車がもの凄く軽くなった。よし、これなら間に合いそうだ。

 

 「あれ? なんか急に軽くなったような……?」

 

 十代が疑問に思っているみたいだけど、スルーの方向で。遅刻なんて洒落にならない。

 俺が気分よく鼻歌を歌っていると、エンディミオンが盛大な溜息を吐いた。

 

 『魔力の無駄遣いとしか思えん……世が世ならば、主は腕のいい魔術師として認められるだろうほどだというのに』

 

 そんな恐ろしいこと、俺には聞こえません。

 

 

 

 筆記試験には、ギリギリで間に合った。本当にギリギリだった。具体的には、試験開始のチャイムが鳴り終わる寸前に教室に飛び込んだ。だが遅刻では無い。やったね。

 肝心の試験は、上手く出来たと思う。今回はちゃんとバニラモンスターのテキストにも目を通してきたし。満点の自信は無いけど、それなりには出来ていたはずだ。

 そして筆記試験が終わったかと思うと、他の生徒たちが一斉に室外へと駆け出して行った……何事?

 その余りの勢いにポカンとして見ている間に、教室内に残っている人間は4人だけになっていた。俺とその隣にいる三沢、そしてテストの途中から仲良く鼾をかいて寝ていた十代と翔だ。

 

 「何アレ?」

 

 思わず三沢に聞いてみると、苦笑と共に答えてくれた。

 

 「今日新しく入荷されるパックを買いに行ったんだろう。午後の実技試験に向けて、少しでもデッキを補強したいらしい」

 

 ……は?

 

 「バカなの?」

 

 「お前は時々、悪気無く辛辣だな」

 

 いやだって、実技試験は今日の午後だよ? あと何時間も無いんだよ?

 新しいパックを買ったからって自分のデッキに使えるカードが出るかは解らないし、運良く出たとしてもそれを投入するにはデッキ調整しなきゃならないはずだ。

 

 「だが、その意見自体は同感だ」

 

 俺が唸りながら考えていると、三沢がゆっくりと筆記用具を片付けながら己の見解を述べた。

 

 「俺もデッキの調整は既に終えている」

 

 あ、そういえば。今朝叫んでたよね。

 

 「故に、いまさら慌てたりはしない……彼らも一応起こしておくか」

 

 三沢のその視線の先にいるのは、爆睡中の2人。うん、賛成。

 

 

 DPで支払いを済ませ、ドローパンを引く。

 あの後、三沢に事情を聞いて新カードに興味を持った十代やデッキを補強したいと言う翔と共に、俺も購買に向かった。何てことは無い、昼飯を買いに来たのだ。

 ちなみにドローパンの中身はチョコだ。実を言えば俺は甘党なので、黄金の卵パンが当たるよりも嬉しかったりする。

 新入荷されたはずのパックは何者かに買い占められていて、俺たちが購買に辿り着いた時にはもうラストワンであり、それは翔の手に渡った。

 トメさんの厚意により十代もこっそりと1つだけパックを貰っていたが、どうやらそのパックにはハネクリボーのサポートカードが入っていたらしい。ハネクリボーが十代の手元を覗き込んで、『くりくり~』と小さな体を揺らしながら喜んでいたから。

 俺もトメさんに勧められたが、遠慮しておいた。どうせ今日使うつもりは無いし、また今度自分で買えばいいや。

 

 

 

 さて、いよいよやって来ました実技試験。俺のお相手は。

 

 「予想通りと言うか、何と言うか」

 

 「まったくだ」

 

 三沢である。予想していたことなので驚きは無い。

 何しろ、実技試験は基本的に同寮の者同士で行われる。そしてラーイエロー内での特待生は、俺と三沢だけだ。そりゃこうなるよね。

 

 「優。俺は入学以来、ずっとお前のデッキと戦術を分析してきた。そしてとうとう完成したのだ! お前の魔法使いたちを打ち破るデッキが!」

 

 これが三沢の特徴である。対戦相手によってデッキを変える、この世界では珍しいタイプ。そのメタり具合は嵌ると恐ろしいの一言である……が。

 

 「そう。それじゃあ俺は、その自信のデッキを打ち砕いてあげるよ。この魔法使いたちとね」

 

 ニッコリ微笑み、俺はデッキをディスクへとセットする。三沢もディスクを構え、俺たちは同時に宣言する。

 

 「「デュエル!!」」

 

優 LP4000

三沢 LP4000

 

 ちなみに、時を同じくして。

 

 「ねぇアニキ、優君大丈夫ッスかね?」

 

 「う~ん……あのイイ笑顔からすると、ひょっとするかもしれねぇぞ。魔法使いデッキは魔法使いデッキでも……」

 

 「?」

 

 「こりゃ三沢のヤツ、地獄を見るかもな」

 

 観客席で観戦していた十代と翔の間でそんなやりとりがあったらしいが、それは俺の与り知る所では無かった。

 閑話休題。

 

 「俺の先攻。ドロー」

 

優 LP4000 手札6枚

 

 手札を見る。モンスター2、速攻・永続・通常魔法と罠が1枚ずつ。フィールド魔法が来ていない。

 うぅむ、やっぱりこのデッキだと少しドロー運が落ちるみたいだな。

 チラリと隣のエンディミオンを見ると、彼はフンと鼻を鳴らして顔を背けた。全く、拗ねても可愛くないぞ。フェーダ-だったら可愛いんだろうが。

 まぁいいや。

 

 「手札を1枚捨てて、【THE トリッキー】を特殊召喚する。そして、【魔導騎士 ディフェンダー】を守備表示で召喚。召喚に成功したことで【ディフェンダー】にカウンターが1つ乗る」

 

【THE トリッキー】

効果モンスター

星5 風属性 魔法使い族 攻撃力2000/守備力1200

このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。

 

【魔導騎士 ディフェンダー】

効果モンスター

星4 光属性 魔法使い族 攻撃力1600/守備力2000

このカードが召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。

フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスターが破壊される場合、代わりに自分フィールド上に存在する魔力カウンターを、破壊される魔法使い族モンスター1体につき1つ取り除く事ができる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 フィールドに現れたのは顔面に『?』と描かれたピエロ風の魔法使いと、大きな盾を持って鎧を着こんだ魔法騎士。アカデミアに入学して以来、俺は【図書館】と【ディフェンダー】をよく守備表示で召喚している。だって本当に便利なんだよ、この世界は表側守備表示で召喚出来るから。

 俺のデュエルを分析してきたと言うだけあって、三沢は早速出て来た【ディフェンダー】を険しい顔で見ている。だが、構わず続けさせてもらおう。

 

 「【封印の黄金櫃】を発動」

 

 魔法の発動と共に、俺の前に現れる黄金櫃。この魔法を発動するたび、俺はいつも懐かしい気持ちになる。

 その黄金櫃のデザインは、かつて遊戯さんに見せてもらった千年パズルが入っていた箱にそっくりだった。ヒエログリフとウジャト眼。そしてこのカードは、闘いの儀におけるキーカードでもあった。

 尤も、その後のエラッタによって効果は全くの別物になってしまっているのだが。具体的には、OCGの効果となっている。

 

【封印の黄金櫃】

通常魔法

デッキからカードを1枚選んでゲームから除外する。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、この効果で除外したカードを手札に加える。

 

 「デッキから【テラ・フォーミング】を除外する。2ターン後のスタンバイフェイズ、俺はこのカードを手札に加える」

 

 「フィールド魔法が手札に来なかったのか? 珍しいな」

 

 正面で三沢が少し驚いている。確かにアカデミアに入学して以来、俺の初期手札に【魔法都市】も【テラ・フォーミング】も来ないということは無かった。

 だがしかし。

 

 「そう珍しいことでもないよ」

 

 このデッキでは、ね。

 

 「続けるよ。永続魔法、【魔法族の結界】も発動。そしてカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

優 LP4000 手札0枚

  モンスター (攻撃)【THE トリッキー】

         (守備)【魔導騎士 ディフェンダー】 カウンター1

  魔法・罠  (永続)【魔法族の結界】

         伏せ1枚

 

 これでハンドレスだ。場は悪くないが、正直痛い。さて、三沢はどう来るか。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP4000 手札6枚

 

 三沢は手札を見、フッと不敵な笑みを浮かべた。望むカードが手札に来たのか?

 

 「俺はフィールド魔法、【アンデットワールド】を発動! そして永続魔法、【フィールドバリア】!」

 

【アンデットワールド】

フィールド魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上及び墓地に存在する全てのモンスターをアンデット族として扱う。

また、このカードがフィールド上に存在する限り、アンデット族以外のモンスターの生贄召喚をする事はできない。

 

【フィールドバリア】

永続魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、お互いにフィールド魔法カードを破壊できず、フィールド魔法カードの発動もできない。

「フィールドバリア」は、自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない

 

 最新設備を備えたデュエルフィールドが一変、ホラー染みた不気味な空間になった。まるで薄暗い西洋風墓地だ。

 それにしても、【アンデットワールド】か。俺の魔法使い族に限らず、アンデット族以外での種族統一デッキをメタるカードじゃないか。しかも【フィールドバリア】。フィールド魔法の張り替えという最も簡単な除去法が出来なくなってしまった。この2枚が共に初手に来るとは羨ましい。

 確かにこれでは、魔法使い族専用サポートはかなり扱いにくくなる。実際、これでは場の2体を破壊されても【結界】にカウンターが溜まらない。いや、【見習い魔導師】の効果などでカウンターは乗せられたとしても、一緒に墓地に送る魔法使い族がいないんじゃ発動できない。【ディフェンダー】も同様だ。その効果は使えない。

 ってか、魔法使い族専用では無いけど【一族の結束】もダメなんじゃね? 

 それにアンデットデッキ……いや、魔法使い族メタのアンデットデッキということは、アイツもいるかも。【アンデットワールド】を破壊出来たとしても気は抜けない。

 

 「そして【ピラミッド・タートル】を召喚!」

 

 攻撃表示で現れる、ピラミッドを背負った亀……あ、コイツ特攻する気だ。

 

【ピラミッド・タートル】

効果モンスター

星4 地属性 アンデット族 攻撃力1200/守備力1400

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 「バトル! 【ピラミッド・タートル】で【THE トリッキー】に攻撃!」

 

 のそのそと此方へやって来る亀。仕方が無い。

 

 「迎え撃ちたくないけど、迎い撃て。【THE トリッキー】」

 

 いやいやながら迎撃指示を出すと、【THE トリッキー】は俺の意を汲んでくれたのか、いかにも渋々といった感じで亀を迎撃した。攻撃力の差で当然破壊される亀。

 

三沢 LP4000→3200

 

 バトルによってライフが減るが、三沢にとってそれは問題では無かったらしい。そりゃそうだろう、リクルーターとはそういうものだ。

 

 「これくらいは必要経費だ! 【ピラミッド・タートル】の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスターを特殊召喚する。デッキより守備力2000の【真紅眼の不死竜】を特殊召喚!」

 

【真紅眼の不死竜(レッドアイズ・アンデットドラゴン)】

効果モンスター

星7 闇属性 アンデット族 攻撃力2400/守備力2000

このカードはアンデット族モンスター1体を生贄として表側攻撃表示で生贄召喚する事ができる。

このカードが戦闘によってアンデット族モンスターを破壊し墓地へ送った時、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 亀に代わってフィールドに現れたのはおどろおどろしい空気を纏った赤眼の竜。城之内さんが持っていたレッドアイズの亜種だ。あのレッドアイズは数十万円するレアカードだけど、こちらは亜種なためかそこまでではない……正直、効果はこっちの方が強い気がするけど。

 【アンデットワールド】が発動している現状ではその効果は簡単に発動されるし、攻撃力2400というのは単純に高い数値である。レベル7の最上級モンスターを呼べるとか、何なのあの亀。

 

 「バトル再開だ! 【真紅眼の不死竜】で【魔導騎士 ディフェンダー】に攻撃!」

 

 【THE トリッキー】も戦闘破壊できるし、ダメージも与えられる。しかしここは、【アンデットワールド】が破壊されれば場の魔法使い族を守れる【ディフェンダー】を狙ってきたらしい。【フィールドバリア】がある以上はそう簡単には【アンデットワールド】は除去できないだろうが、念には念を入れたか。

 

 『グォォォォォォォォォ!!』

 

 黒竜から吐き出される炎のブレスに対して【ディフェンダー】は盾を構えるが、その力は及ばない。僅かに抵抗したものの破壊され、その姿を消してしまった。しかし当然ながら、【ディフェンダー】が破壊されても【結界】はウンともスンとも言わない。

 

 「そして【真紅眼の不死竜】の効果発動! 破壊した【魔導騎士 ディフェンダー】は【アンデットワールド】の効果によってアンデット族となっている! よって俺のフィールドに特殊召喚する!」

 

 『……』

 

 無言で敵フィールドに現れる【ディフェンダー】。コントロールが三沢に移ったところでその効果が使えないのは変わらないが。守備力2000の壁として扱うつもりならば問題はあるまい。

 三沢は小さく頷くと、手札からカードを1枚選び取った。

 

 「そしてリバースカードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

三沢 LP3200 手札2枚

  モンスター (攻撃)【真紅眼の不死竜】 

          (守備)【魔導騎士 ディフェンダー】

  魔法・罠  (フィールド)【アンデットワールド】

         (永続)【フィールドバリア】

         伏せ1枚

 

 ターンエンド。しかし俺のターンを迎える前にやるべきことがある。俺はディスクを操作した。

 

 「そのエンドフェイズに速攻魔法、【魔導書整理】を発動」

 

【魔導書整理】

速攻魔法

自分のデッキの上から3枚カードをめくり好きな順番でデッキの上に戻す。

相手はそのカードを確認できない。

 

 【魔導書整理】は、こうしてエンドフェイズに発動すれば次ターンのドローカードを僅かとはいえ弄れるという意味では優秀だが、手札のアドバンテージを稼げるわけではない。なので本来なら汎用性が高いとは言い難い魔法なのだが、何といってもこのデッキ、トラップカードがほんの数枚しか入っていない。なのでブラフとしても扱える速攻魔法はそれなりに採用しており、このカードもその内の1つだった。

 さて、どんなカードが来るか。出来れば早めに【フィールドバリア】を破壊しておきたいのだが。

 

 「デッキのカードを上から3枚確認して、好きな順番でデッキに戻す……あ」

 

 3枚のカードを捲って確認してみると、その内の1枚は何とも素晴らしいドローソースだった。

 前言撤回、このデッキを使うとドロー運が落ちるというわけでは無いらしい。ドロー運というよりも、フィールド魔法が手札に来にくいと言うべきか。

 

 「……カードを入れ替える。そして俺のターン、ドロー」

 

優 LP4000 手札1枚

  モンスター (攻撃)【THE トリッキー】

  魔法・罠  (永続)【魔法族の結界】

 

 ドローしたのは勿論、俺が選んだ1枚である。それはこの状況では最高のドローソース。

 

 所で質問だ。

 アニメ効果とOCGで効果の異なるカードは枚挙にいとまない。俺が前のターンで使った【封印の黄金櫃】もその内の1つだし。

 しかしその中でもあまりに酷いというか、カード名詐欺以外の何物でもない、と思ったカードは何だろうか?

 そして、俺にとってのその答えはこれだ。

 

 「【天よりの宝札】を発動」

 

 「【天よりの宝札】だと!?」

 

【天よりの宝札】 (アニメ効果)

通常魔法

互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにデッキからカードをドローする。

 

 アニメ効果の【天よりの宝札】。確かにぶっ壊れ以外の何物でもない性能ではあるが、何だってOCGはあんな風になってしまったのか。あれじゃあ、天よりの宝札ではなく天への宝札だ。まぁ、あれはあれで特殊なコンボを狙えないことも無かったが……。

 しかしこの世界の【天よりの宝札】はまさしくアニメ効果。かつて乃亜を絶望へと叩き落とす切り札となった、あの【天よりの宝札】である。

 いくら何でも、アニメ効果のこのカードが何故未だに禁止指定されていないのかは簡単な話である。

 実はこれ、もの凄いレアカードなのだ。ただでさえレアリティが高いというのに、I2社も出してしまってから『これって流石にぶっ壊れ性能じゃね?』と気付いたらしくてブルーアイズ同様に製造中止。流石にブルーアイズのように世界に3枚というわけではないが、そうそう手に入れられる代物じゃない。だからこそ、三沢も今こうして驚愕している。いや、三沢だけではない。

 

 「【天よりの宝札】だって!?」

 

 「あの武藤遊戯や海馬瀬人も使っていた、伝説のレアカードか!?」

 

 「なんでだってヤツはそんなカードを持ってるんだ!?」

 

 観客席で見ている他の生徒たちも大騒ぎである。騒いでないのは既に知ってる十代ぐらいのもので、その本人は隣で唖然としている翔を宥めていた。

 この周囲の反応からも、このカードの色んな意味での凄まじさは解ろうというものだ。その結果未だに何とか禁止行きとはなっておらず、大多数のデュエリストは安価な【強欲な壺】をデッキに入れている。

 そんな超絶レアカードを何故俺が持っているのかというと……ぶっちゃけて言うと、遊戯さんから貰ったんだ、これも。

 【天よりの宝札】が世に出たのはバトルシティの前ぐらい。そして遊戯さんはその当時、王国で得た優勝賞金を持っていた……城之内さんは静香さんの手術と治療・リハビリに必要な分以上は断固として受け取らなかったので、遊戯さんの懐はかなり潤っていたらしい。そこでカードを大量購入したら、複数枚当てたらしく、俺にも譲ってくれたのだ。

 俺としても流石にこれは遠慮しようとしたのだが、『気にしないでよ、このカード5枚ぐらい当てちゃったんだ』と言われ、それならとありがたく受け取ることにした……後日、このカードに付けられていた買取価格を知って卒倒しかける羽目となったが。そして同時に、いくらまとめ買いしたとはいえこんなレアカードを5枚も当てたという遊戯さんに戦慄を覚えた。真のデュエルキングはデュエル以外でも規格外なのだと思い知った。

 ちなみにこのカード、手に入れた経緯からこれまで大事に扱ってきてはいたが、使用頻度はそれほど高くはなかったりする。何故なら。

 

 「俺の手札は0。よって6枚ドローする」

 

 「俺は4枚だ!」

 

 こうして、相手にもドローを許してしまうからだ。

 たとえ相手の手札を潤沢にしてしまうとしても自分のターンに6枚もの手札を得られるのなら十分だと思うかもしれないが、これまで俺が最もデュエルをしてきた相手は十代なのだ。あのチートドローの代名詞、遊城十代である。とてもじゃないが、あの十代に6枚、いや、次のドローカードも含めれば7枚の手札を持たせようだなんて、そんな恐ろしすぎる真似はそうそう出来ない……実際、やらかして負けたことがある。

 さて。こうした結果、三沢は次のターンにどう来るか。それは少し楽しみでもある。

 だがその前に、俺は俺のターンをこなさねば。幸い、手札は悪くない……相変わらずフィールド魔法が来ないことを除けば。もう片方の要は来てくれたってのに。

 でもお前は来てくれたんだね、ありがとう。【魔導書整理】で確認した3枚の中にいたんだから当然だけど、嬉しいよ。6枚の内の1枚を見て、ついつい笑みが零れた。おっと、集中集中。

 

 「【サイクロン】を発動。【フィールドバリア】を破壊する」

 

 まず手に取ったのは、汎用性の高い除去カード。だが、三沢も三沢で罠を張っていた。

 

 「そうはさせん! カウンタートラップ、【マジック・ジャマー】! 手札を1枚捨てて、その発動を無効とする!」

 

【マジック・ジャマ-】

カウンター罠

魔法カードが発動した時、手札を1枚捨てて発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 【サイクロン】によって起こった風は、突如現れた魔法陣から溢れる魔力によって無効化される。

 かつてはかなりのレアカードだった【マジック・ジャマ-】だが、こちらは【天よりの宝札】とは逆にその後量産され、最近では巷でよく見るカードの1枚だ。むしろ、同じカウンタートラップなら魔法だけではなく罠にも対応している【魔宮の賄賂】の方が汎用性が高くなっているが、俺の魔法使い族デッキは魔法カードの比重の方が大きいし、今回の三沢のデッキは間違いなくアンデット族主体。墓地で効果を発動するモンスターが割と多い。手札コストはむしろデメリットではなく、むしろ墓地肥やしだろう。しかも今回は【天よりの宝札】で手札が潤っていることだし。

 まぁ、これは仕方が無いな。

 

 「じゃあ、【見習い魔術師】を守備表示で召喚。その効果で【魔法族の結界】にカウンターを1つ乗せる」

 

 乗せたところで現状は使えないが、やらないよりはマシだ。

 そう思って召喚した【見習い魔術師】は、明らかに顔色が悪かった。アンデット化しているという事だろう。【THE トリッキー】も【ディフェンダー】も顔が見えないからよく解らなかったけど。

 

 『ハァ……』

 

 【結界】によってフィールドに現れている像に魔法を放つ【見習い魔術師】だが、その声は明らかに覇気が無かった。魔法にも勢いが無い。これがアンデット化か。

 

 「【THE トリッキー】を守備表示に変更。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

優 LP4000 手札2枚

  モンスター (守備)【THE トリッキー】

         (守備)【見習い魔術師】

  魔法・罠  (永続)【魔法族の結界】 カウンター1

         伏せ2枚

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP3200 手札6枚

  モンスター (攻撃)【真紅眼の不死竜】 

          (守備)【魔導騎士 ディフェンダー】

  魔法・罠  (フィールド)【アンデットワールド】

         (永続)【フィールドバリア】

 

 このドローによって6枚になった三沢の手札。それを見て、ヤツはフッと笑った。

 

 「感謝するぞ、優! お前のおかげで俺のデッキのキーカードが引けた!」

 

 ……それはつまり、このターンで片を付ける自信がある、ということか?

 

 「まずはアンデット族となっている【魔導騎士 ディフェンダー】を生贄に捧げる! こいつはアンデット族モンスターを生贄とする時、1体の生贄で召喚出来る! 2体目の【真紅眼の不死竜】を召喚!」

 

 2体入ってたのか。しかも手札に来てたとか……あ、俺のせいか。

 

 「そして【火車】を特殊召喚!」

 

 げ、更地になる。【見習い魔術師】を召喚した意味が無い。

 

【火車】

効果モンスター

星8 地属性 アンデット族 攻撃力 ? 守備力1000

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上にアンデット族モンスターが表側表示で2体以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードが特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在するこのカード以外のモンスターを全てデッキに戻す。

このカードの攻撃力は、この効果でデッキに戻したアンデット族モンスターの数×1000ポイントになる。

 

 「このモンスターは自分フィールド上にアンデット族モンスターが2体以上いるときのみ特殊召喚が出来る! 俺のフィールドには2体の【真紅眼の不死竜】がいるため、条件を満たしている! そして【火車】の特殊召喚に成功したことでその特殊能力が発動! 《冥界入口》!」

 

 フィールドに現れた【火車】。その姿は伝承上の火車と変わりなく、アンデットというよりも妖怪だ。……妖怪? あれ、今何かが引っ掛かったような?

 しかし【火車】の特殊能力の発動によってフィールドが一変し、そんあことを言っている暇では無くなった。

 

 『ウォォォォォォォォォォ!!』

 

 何だか怨念が籠ってそうな雄叫びを【火車】が上げ、それに吹き飛ばされるように全てのモンスターが消え去った。破壊されたのではない、消え去ったのだ。

 

 「【火車】が特殊召喚に成功した時、フィールドのこのカード以外のモンスターをデッキに戻す! そして【火車】の攻撃力は、この効果でデッキに戻したアンデット族モンスター×1000となる!」

 

【火車】 攻撃力?→2000

 

 「そして【苦渋の選択】を発動!」

 

 「【苦渋の選択】!?」

 

 流石に驚いた。いや、この世界じゃまだ現役なのは解ってたし、アニメ効果の【天よりの宝札】を使った俺が言えた義理じゃないんだろうけど。でもさぁ、アンデットデッキで苦渋の選択ってことは……。

 

 「俺が選んだのはこの5枚! さぁ選べ!」

 

 三沢が選びフィールドに映し出された5枚のカードは【真紅眼の不死竜】・【真紅眼の不死竜】・【馬頭鬼】・【馬頭鬼】・【ダブルコストン】……どれを選んでも【真紅眼の不死竜】と【馬頭鬼】が1組は墓地に落ちるねこの野郎! まさしく苦渋の選択!

 ……落ち着け俺。クールになるんだ、深呼吸しろ。

 

【苦渋の選択】

通常魔法

自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。

相手はその中から1枚を選択する。

相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードを墓地へ捨てる。

 

 「……【馬頭鬼】で」

 

 でもそれが【苦渋の選択】の効果なんだから仕方が無い。俺が選ぶと、三沢は頷いて他の4枚を墓地に落とした。そして。

 

 「墓地の【馬頭鬼】の効果発動! 墓地のこのカードを除外することでアンデット族モンスター1体を蘇生する! 【真紅眼の不死竜】を蘇生!」

 

 やっぱりかい。

 

【馬頭鬼】

効果モンスター

星4 地属性 アンデット族 攻撃力1700/守備力 800

自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。

そのアンデット族モンスターを特殊召喚する。

 

 三度飛翔する【真紅眼の不死竜】……お早いお帰りで。さっきデッキに戻ったばっかなのに。

 

 「そして【サイクロン】! ……右の伏せカードを破壊する!」

 

 俺の場に伏せられた2枚のリバースカードを見比べ、三沢は右のカードを選んだ。【結界】はスルーか。確かにこの状況では意味の無いカードになってしまっているが。

 

 「くっ」

 

 突風によって捲れ上がるリバースカード。正直、破壊されたのがこっちなのは俺にとって不幸中の幸いだ。

 

 「【魔宮の賄賂】か……何故【苦渋の選択】を止めなかった?」

 

 そう、破壊されたのは【魔宮の賄賂】。確かにこれを使えば、【苦渋の選択】は止められた。だが仕方が無い。もう1枚のリバースカードを守るため、温存する必要があった。実際、もしもこの【サイクロン】が左のリバースカードに向かって来たら発動するつもりだったし。

 その思惑を悟ったようで、三沢は渋い顔で残ったリバースカードを見ている。だが、見ているだけではどうにもならない。

 

 「バトルだ! 【火車】と【真紅眼の不死竜】でダイレクトアタック! 《火炎車》! 《アンデット・メガ・フレア》!」

 

 迫り来る2種類の炎。どちらもアンデット族であるのに、攻撃方法が似ているのは面白い。

 だがそんな悠長なことを言っている場合では無い。その攻撃力は【火車】が2000、【真紅眼の不死竜】が2400。食らえば負ける。

 だが、こんな時こそ我らが守護悪魔の登場である。

 

 からーん

 

 鐘の音を響かせ現れる小さな悪魔……すぐにアンデット化してしまったけど。

 

 「手札の【バトルフェーダ-】の効果発動。ダイレクトアタックの宣言時にこいつを場に特殊召喚することで、バトルフェイズを強制終了させる」

 

 「何!?」

 

 あぁ、折角の我が相棒が無残な姿に……おのれ三沢。というか【アンデットワールド】。

 

 「魔法使い族以外がいたか……」

 

 三沢よ、驚くところはそこなのか? あぁでも、そういえば最近フェーダ-を使ったのって、明日香や十代とデュエルした時ぐらいな気がする。だから知らなかったのか。

 とはいえ、バトルフェイズが終了してはどうしようもあるまい。

 

  「リバースカードを1枚セット! ターンエンドだ!」

 

三沢 LP3200 手札2枚

  モンスター (攻撃)【真紅眼の不死竜】 

          (攻撃)【火車】

  魔法・罠  (フィールド)【アンデットワールド】

         (永続)【フィールドバリア】

         伏せ1枚

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP4000 手札2枚

  モンスター (守備)【バトルフェーダ-】

  魔法・罠  (永続)【魔法族の結界】 カウンター1

         伏せ1枚

 

 真面目な話、ちょっとキツイ……けど、このドローカードなら何とかなるか。しかしメインフェイズに入る前に。

 

 「このスタンバイフェイズ、【封印の黄金櫃】の効果で除外していた【テラ・フォーミング】を手札に加える」

 

 漸く揃ったよ、要のカードが。

 さて、いくか。

 

 「手札より【魔導戦士 ブレイカー】を攻撃表示で召喚」

 

 やってきました【ブレイカー】。さぁ、その効果を使うぞ。

 

 「その効果によってカウンターが自身に1つ乗る。そして発動。【フィールドバリア】を破壊。《マナ・ブレイク》」

 

 アンデット化によってどこか暗い雰囲気を漂わせている【ブレイカー】の剣に魔力が宿る。だが。

 

 「トラップ発動、【魔力枯渇】!」

 

 同時に三沢も動いていた。

 

【魔力枯渇】

通常罠

自分と相手フィールド上に存在する魔力カウンターを全て取り除く。

 

 やっぱりあったか、【魔力枯渇】。俺を意識してメタデッキを組んだのなら、そりゃ入ってるだろう。【ブレイカー】と【結界】のカウンター1つずつ、計2つを除去するために使うのは些か非効率的だが、【フィールドバリア】を守るためなら仕方があるまい。しかし。

 

 「……何故、カウンターを取り除けない」

 

 三沢が困惑したような声を出した。ふふふ、フィールドをよく見ることだね。

 

 「【魔力枯渇】にチェーンして、俺のトラップも発動している」

 

 やっぱり快感だね、『発動している』。OCGでやったら大顰蹙を買うが、この世界ではむしろデュエルが盛り上がったりする。

 

 「【王宮のお触れ】。その効果によってこのカード以外のトラップは無効化される」

 

【王宮のお触れ】

永続罠

このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、このカード以外のフィールドの全ての罠カードの効果は無効化される。

 

 「なっ!?」

 

 逆順処理により【魔力枯渇】は無効化され、【ブレイカー】のカウンターは取り除かれなかった。というわけで。

 

 「破壊を続行。《マナ・ブレイク》」

 

 「くっ!」

 

 【ブレイカー】の効果により破壊される【フィールドバリア】。セットされていた【魔力枯渇】も発動されたことによって消えたし(無効化されたが)、憂いは無くなった。

 

 「【テラ・フォーミング】を発動。デッキからフィールド魔法を1枚手札に加える。俺は【魔法族の里】を手札に加え、そのまま発動」

 

 「【魔法都市エンディミオン】では……無い? 【魔法族の里】、だと? どんな効果が……」

 

 三沢が困惑するのも無理は無い。あまり有名なカードでは無いからね……この世界では。

 フィールド魔法が張り替えられたことにより、薄暗かったフィールドは一変する。しかし代わりに現れたのはいつもの整然とした魔法都市ではなく、どこか牧歌的な雰囲気がある田舎風の里だった。

 何が言いたいかというとつまり、コンボが完成したということである。

 

 「さらに装備魔法【魔導師の力】を発動。【ブレイカー】に装備。俺の場にある魔法・トラップはこのカードも含めて4枚。よって攻撃力は2000アップ」

 

 【魔導師の力】などというが、実際には魔法使い以外も装備可能な魔法である……そんな与太話は置いておいて、この装備魔法。【魔法族の里】と【王宮のお触れ】によるコンボを前提としたこのデッキでは、非常に心強い装備魔法なのである。

 

【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力1600→3600

 

 「くっ……」

 

 【ブレイカー】の攻撃力上昇を受け、三沢は手札を見て呻いた。どうやらフェーダ-のような手札誘発効果持ちはいないらしい。こちらにとっては好都合である。

 

 「バトル。【ブレイカー】で【真紅眼の不死竜】に攻撃。《マナ・ソード》」

 

 攻撃指示に【ブレイカー】が駆け出す。それを応援するかのように鐘を鳴らすフェーダ-は間違いなく癒しである。

 しかし【ブレイカー】が剣を振りかぶり【真紅眼の不死竜】に攻撃を仕掛ける、その瞬間。

 

 「墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果発動! このカードを墓地から除外することで、その攻撃を無効にする!」

 

 「っ」

 

 攻撃を薄いバリアで止められ、そのままフィールドに戻って来る【ブレイカー】。

 なるほど、手札誘発は無くとも墓地発動のカードは落ちてたわけね。落としたのは……【マジック・ジャマ-】のコストか。

 何にせよ、止められたのなら仕方が無い。

 

 「ターンエンドだ」

 

優 LP4000 手札0枚

  モンスター (守備)【バトルフェーダ-】

         (攻撃)【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力3600

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】 

         (装備【魔導戦士 ブレイカー】)【魔導師の力】

         (永続)【魔法族の結界】 カウンター1

         (永続罠)【王宮のお触れ】

 

 もう手札も伏せカードも無いのだから、仕方が無い。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP3200 手札3枚

  モンスター (攻撃)【真紅眼の不死竜】 

          (攻撃)【火車】

  魔法・罠  無し

 

 三沢にしても、フィールド上に魔法・罠はもう無い。手札3枚の内の1枚は【苦渋の選択】で手札に加えた【馬頭鬼】のはずだ。さて、どうくるか。

 その出方を窺っていると、三沢はドローカードをそのまま発動しようとした。もう1度言おう、発動『しようとした』。

 

 「【異次元からの埋葬】を発動! それによって【馬頭鬼】と【ネクロ・ガードナー】を墓地に……何故発動しない!?」

 

 ふふふ、相手のこの反応こそがこのデッキの醍醐味である。そしてこのタイミングで効果説明するというね。

 

 「フィールド魔法、【魔法族の里】の効果」

 

 そう口にすると、三沢はハッとして周囲を見渡した。

 

 「俺のフィールドにのみ魔法使い族が存在する時、相手……つまり三沢。お前は魔法カードを発動することは出来ない。ただし、俺のフィールドに魔法使い族がいない場合は俺が魔法を使えなくなる」

 

 「何……だと……?」

 

【魔法族の里】

フィールド魔法

自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、相手は魔法カードを発動できない。

自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、自分は魔法カードを発動できない。

 

 「待て。優のフィールドでは既に【王宮のお触れ】が発動している。それはつまり……」

 

 「そう。三沢はもう、魔法もトラップも使えない。まぁさっきも言った通り、俺のモンスターを倒せば魔法はまた使えるようになるけどな」

 

 「!!」

 

 デュエルにおいて魔法・罠の重要性は高い。それはかつて、モンスターオンリーの紙束……失礼、デッキを作った挙句に俺や杏子さんに惨敗していた城之内さんを見れば嫌でも解るだろう。

 その重要なカードが使えない。その枷はとてつもなくデカい。

 

 ちなみに、時を同じくして。

 

 「あ~、やっぱりなぁ」

 

 「アニキは知ってたんスか、優君のあのデッキ」

 

 「あぁ、アイツが昔から使ってる第2デッキだぜ。あれと俺のHEROデッキ、相性最悪なんだよなぁ」

 

 「魔法が使えなくちゃ、融合HEROを召喚出来ないッスからね。アニキのデッキ、魔法使い族入ってないッスし」

 

 「いや、魔法使い族は入ってるぞ?」

 

 「え? そうなんスか?」

 

 「1枚だけ、ピン挿ししてんだ。ほらコイツ」

 

 観客席で十代と翔がそんな会話をしながら、十代がデッキから取り出した【カードエクスクルーダー】を見ていたらしいが、そんなことは俺の与り知る所では無かった。

 閑話休題。

 

 

 「優」

 

 僅かな間フリーズしていた三沢だが、やがて考えを纏めたのか口を開いた。

 

 「そのデッキは……いつも使っているものとは違うのか?」

 

 「まぁね」

 

 俺のいつもの戦術とはまるで違うコンセプトだからだろう、三沢はその結論に行き当たったらしい。そしてその推察は大当たりだったので、俺は肩を竦めた。

 

 「複数のデッキを持つのは何も三沢、お前だけじゃないんだ。それにお前がこの実技試験の相手が俺だろうと予測していたように、俺もお前が相手だろうと思っていた。だから今回はこの第2デッキを持って来たのさ。対策をされないためにね」

 

 メタデッキは強い。だがそれはあくまでも特定の相手に対してであって、こうして別のデッキにしてしまえばその効力は著しく落ちる。

 例えば今回なら、三沢は対魔法使い族のために【アンデットワールド】を軸としたデッキを組んだ。それはまだいい。俺の方は結局魔法使い族デッキには違いなかったのだから、少なからず影響した。

 だが先の【魔力枯渇】などは、明らかに魔力カウンターに対するメタ。確かにこのデッキにも魔力カウンターの要素はあるが、それを主軸としているわけではない。故に決定打に欠ける。

 さらに言うなら、三沢が魔法使い族を召喚すれば少なくとも魔法ロックは解けるものの、それがデッキ入っているとは思えない。何しろ彼はあくまでも『対魔法使い族デッキ』を前提としてデッキを組んだのだ。『対種族統一デッキ』ではない。【アンデットワールド】が破壊された時のことを想定して【魔女狩り】や【疫病】の類を採用している可能性はある。ならば自身は魔法使い族をデッキには投入しないだろう。

 

 「……なるほど。お前の方が一枚上手だったというわけか」

 

 「今回に限っては、ね」

 

 こんな手が通用するのは、最初の1回だけだ。だからこそこの1回、無駄には出来ない。

 だが三沢の方でもまだ諦めてはいないらしく、すぐに目に力が戻ってきた。

 

 「だが、だからといって俺が負けたわけではない! 俺はモンスターを1体セットする! そして【火車】と【真紅眼の不死竜】を守備表示にしてターンエンドだ!」

 

三沢 LP3200 手札2枚

  モンスター (守備)【真紅眼の不死竜】 

          (守備)【火車】

         セットモンスター

  魔法・罠  無し

 

 三沢の手札には【馬頭鬼】がいたはず。あれは墓地に送ってこそのカードだ、あのセットモンスターがそうである可能性は高い。だがわざわざセットしたということは、違う可能性もある……ならば。

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP4000 手札1枚

  モンスター (守備)【バトルフェーダ-】

         (攻撃)【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力3600

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】 

         (装備【魔導戦士 ブレイカー】)【魔導師の力】

         (永続)【魔法族の結界】 カウンター1

         (永続罠)【王宮のお触れ】

 

 「俺は【見習い魔術師】を守備表示で召喚。その効果で【魔法族の結界】にカウンターを乗せる」

 

 【ブレイカー】に乗せても良かったが、既に魔法・罠を封じた今、そうするメリットは薄い。

 

 『ハッ!』

 

 先ほどはいかにも陰鬱な空気を纏わせていた【見習い魔術師】。しかし今度は溢れる元気と共にフィールドへと現れ、勢いのある魔法を像へと放つ。

 

魔力カウンター:【魔法族の結界】 1→2

 

 そしてこれでまたハンドレス、他にやることが無い。と、くれば。

 

 「バトル。【ブレイカー】で【真紅眼の不死竜】を攻撃。《マナ・ソード》」

 

 正体不明のセットモンスターよりも、既に効果発動を終えてしまっている【火車】よりも、まず真っ先に倒すべきは【真紅眼の不死竜】だ。

 【真紅眼の不死竜】へと駆けた【ブレイカー】は今度こそその剣を一閃させ、不死の竜を切り裂く。

 

 「ターンエンド」 

 

優 LP4000 手札0枚

  モンスター (守備)【バトルフェーダ-】

         (攻撃)【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力3600

         (守備)【見習い魔術師】 

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】 

         (装備【魔導戦士 ブレイカー】)【魔導師の力】

         (永続)【魔法族の結界】 カウンター2

         (永続罠)【王宮のお触れ】

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP3200 手札3枚

  モンスター (守備)【火車】

         セットモンスター

  魔法・罠  無し

 

 三沢のターンだ。しかし。

 

 「……モンスターをセット! ターンエンド!」

 

 魔法・トラップを封じられ、俺のフィールドには攻撃力が3600にまで上昇した【ブレイカー】がいる。モンスターをセットしただけで終わった。しかしまだ手はあるのは本当のようで、諦めないぞと目が言っている。雌伏の時、なのだろうか。

 

三沢 LP3200 手札2枚

  モンスター (守備)【火車】

         セットモンスター 2体

  魔法・罠  無し

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP4000 手札1枚

  モンスター (守備)【バトルフェーダ-】

         (攻撃)【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力3600

         (守備)【見習い魔術師】 

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】 

         (装備【魔導戦士 ブレイカー】)【魔導師の力】

         (永続)【魔法族の結界】 カウンター2

         (永続罠)【王宮のお触れ】

 

 俺の方でも上手く手札が揃わない。積極的な攻勢に出られずにいる。

 

 「バトル。【ブレイカー】で【火車】に攻撃」

 

 先ほど同様に【ブレイカー】に指示を出し、今度は【火車】を破壊する。しかし、それ以上やることが無い。

 

 「ターンエンド」

 

優 LP4000 手札1枚

  モンスター (守備)【バトルフェーダ-】

         (攻撃)【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力3600

         (守備)【見習い魔術師】 

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】 

         (装備【魔導戦士 ブレイカー】)【魔導師の力】

         (永続)【魔法族の結界】 カウンター2

         (永続罠)【王宮のお触れ】

 

 「俺のターン! ドロー! ……来たか!」

 

三沢 LP3200 手札3枚

  モンスター セットモンスター 2体

  魔法・罠  無し

 

 引いたか、何らかのキーカードを。

 

 「2体のセットモンスターを生贄に、【赤鬼】を召喚!」

 

【赤鬼】

効果モンスター

星7 地属性 アンデット族 攻撃力2800/守備力2100

このカードが召喚に成功した時、自分の手札を任意の枚数墓地に送る事で、その枚数分だけフィールド上のカードを持ち主の手札に戻す。

 

 ここでバウンスが来たか。あれ?でもバウンスってことは、次のターンにはまた【里】を発動してしまうような……。

 

 「手札を1枚墓地に送り、【魔導戦士 ブレイカー】を手札に戻す!」

 

 あぁなるほど、そっちに来たか。遠目だが、どうやら三沢が墓地に送ったのは効果モンスターらしい。

 

 『グォァァァァァァァァァ!!』

 

 先ほどの【火車】召喚時とよく似た印象の、怨念が籠ってそうな雄叫びだ。それによって【ブレイカー】は手札に戻り、対象を失った【魔導師の力】が破壊される。

 

 「墓地の【馬頭鬼】の効果発動! 除外して墓地の【龍骨鬼】を特殊召喚する!」

 

 そして来たか、魔法使い族メタのアンデットモンスター。さっき墓地に送ったのはそいつかよ。

 

【龍骨鬼】

効果モンスター

星6 闇属性 アンデット族 攻撃力2400/守備力2000

このカードと戦闘を行ったモンスターが戦士族・魔法使い族の場合、ダメージステップ終了時にそのモンスターを破壊する。

 

 フィールドに現れた白と赤の鬼。白の方は骨の集合体のようでちょっと鬼っぽくなかったが、まぁそれは置いておこう。

 

 「【龍骨鬼】で【見習い魔術師】に、【赤鬼】で【バトルフェーダ-】に攻撃!」

 

 迫り来る2体の鬼。

 鬼たちの攻撃によって破壊される俺のモンスターたち……しかもフェーダ-、お前は除外だ。ごめんな。

 しかしまぁ、【見習い魔術師】はリクルーターである。

 

 「【見習い魔術師】が破壊されたことで、【魔法族の結界】にカウンターが1つ乗る。そして効果発動。デッキから【見習い魔術師】をセット」

 

 【見習い魔法使い】が破壊され、その残滓から零れた魔力が魔法石となって像へと向かう。

 

魔力カウンター:【魔法族の結界】 2→3

 

 だが、俺の場に魔法使いがいなくなったことで三沢の魔法も解禁である。【見習い魔術師】いるにはいるが、セット状態では意味が無い。

 

 「【異次元からの埋葬】を発動! 除外されている【ネクロ・ガードナー】と2体の【馬頭鬼】を墓地へと戻す!」

 

 これ1回とはいえ、わりと厄介なカードたちが戻ったぞ。

 

 「ターンエンドだ!」

 

三沢 LP3200 手札0枚

  モンスター (攻撃)【赤鬼】

         (攻撃)【龍骨鬼】

  魔法・罠  無し

 

 三沢もハンドレスである。まったく、互いに手札が不足しがちだな。

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP4000 手札3枚

  モンスター セットモンスター1体

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】 

         (永続)【魔法族の結界】 カウンター3

         (永続罠)【王宮のお触れ】

 

 ドローカードを見、カウンターが3つ溜まった像を見、俺は可能性を呼び込むことにした。

 

 「セットされている【見習い魔術師】を反転召喚。効果により【魔法族の結界】にカウンターを1つ乗せ、【魔法族の結界】の効果発動。こいつと【見習い魔術師】を墓地に送り、デッキから4枚ドローする」

 

 

 光り輝く像と共に消えていく小柄な魔術師。

 これで手札は7枚。そしてその中には、なんともありがたいモンスターがいた。

 このドローのおかげで、ようやく手札が充実した。さて、まずは。

 

 「手札より【ジェスター・コンフィ】を特殊召喚」

 

【ジェスター・コンフィ】

効果モンスター

星1 闇属性 魔法使い族 攻撃力 0/守備力 0

このカードは手札から表側攻撃表示で特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚した場合、次の相手のエンドフェイズ時に相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと表側表示のこのカードを持ち主の手札に戻す。

「ジェスター・コンフィ」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

 フィールドに現れる小柄なピエロ。これといったコストも条件も無く特殊召喚出来る、優秀な魔法使いである。いつも生贄要因になることが多く、今回もその例に漏れない。だがその前に。

 

 「さらに墓地から光属性の【魔導騎士 ディフェンダー】と闇属性の【見習い魔術師】を除外し、【カオス・ソーサラー】を特殊召喚する」

 

 「【カオス・ソーサラ-】!? 伝説のカオスモンスターの一角か!?」

 

 いや、そこまで驚かんでも……確かに強いしカオスモンスターではあるけれど、遊戯さんの【カオス・ソルジャー】や社長の【混沌帝龍】に比べりゃそうでもないだろ?

 

 『待て主よ、何だか可笑しなことを考えていないか? 比較対象が狂っているぞ』

 

 あ、エンディミオン久し振り。今回は随分と長く拗ねてたね。まぁ、こっちのデッキでエンディミオンを召喚することってそうそう無いから仕方が無いか。

 まぁ、それはそれとして。

 

 「【カオス・ソーサラー】の効果発動。【龍骨鬼】を除外する」

 

 墓地から光と闇の魔力を得、混沌の渦の中から現れた魔法使い。だがその姿は漆黒である。

 彼は右手に光、左手に闇の力を携えて【龍骨鬼】と向かい合う。魔法使い族に対して強力なメタを持つ【龍骨鬼】だが、効果に対しては無力であり、【カオス・ソーサラ-】によってあっさりと除外されてしまった。

 

 「くっ!」

 

 除外されては【馬頭鬼】の効果で蘇生することも出来まい。三沢が悔しげな顔をするのも当然だろう。だが【カオス・ソーサラー】の攻撃力は2300、【赤鬼】の攻撃力は2800。このままでは次のターンに戦闘破壊される。

 しかし俺はこのターン、まだ通常召喚を行っていないのだ。

 

 「俺は【ジェスター・コンフィ】を生贄に捧げ、【ブリザード・プリンセス】を生贄召喚する。コイツはお前の【真紅眼の不死竜】と同じく、1体の生贄で召喚出来る。ただし、こっちは魔法使い族に限るが」

 

 現れたのは、身の丈に不釣合いな巨大武器を構えた美少女。雪をイメージしているのだろう、白と青を基調とした服がふわふわと揺れている。俺の持つモンスターの中では、【マジカル・コンダクター】と並んで断トツの人型癒しである。ちなみに人外癒しはフェーダ-だ。何故俺の精霊はこの子じゃなかったのか……。

 

 『主よ、今妙な事を考えなかったか?』

 

 (何が?)

 

 コイツは変な所で鋭いしさぁ。

 さて、デュエルに戻ろう。【ブリザード・プリンセス】も【赤鬼】も、攻撃力は2800で全くの同値だ。これで現状、互いに迂闊に攻撃できない。だが、俺にはまだ手札が残っている。

 

 「さらに装備魔法、【ワンダー・ワンド】を【ブリザード・プリンセス】に装備」

 

【ワンダー・ワンド】

装備魔法

魔法使い族モンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

また、自分フィールド上のこのカードを装備したモンスターとこのカードを墓地へ送る事で、デッキからカードを2枚ドローする。

 

【ブリザード・プリンセス】 攻撃力2800→3300

 

 「バトル。【ブリザード・プリンセス】で【赤鬼】に攻撃」

 

 『せいっ……やぁ!!』

 

 声は可愛らしいのに掛け声は勇ましい。そんな【ブリザード・プリンセス】はその手に持つ巨大武器……鎖付き氷球を思いっきりぶん回し、【赤鬼】に振り下ろそうとしたのだが。

 

 「墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果発動! このカードを除外してその攻撃を無効にする!」

 

 まぁ、そりゃそうなるよね。さっき戻してたし。

 【ブリザード・プリンセス】の氷球は【ネクロ・ガードナー】によるバリアに阻まれ、攻撃を止められた少女は頬を膨らませながらフィールドへと戻って来る。

 

 「ターンエンドだ」

 

優 LP4000 手札3枚

  モンスター (攻撃)【ブリザード・プリンセス】 攻撃力3300

         (攻撃)【カオス・ソーサラ-】

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】

         (永続罠)【王宮のお触れ】

         (装備【ブリザード・プリンセス】)【ワンダー・ワンド】

 

 さっきから、戦況は動いているのにライフが全然変動しない。結構長引いてるんじゃないか、これ。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP3200 手札1枚

  モンスター (攻撃)【赤鬼】

  魔法・罠  無し

 

 さて、何を引いたのか。

 

 「【赤鬼】で【カオス・ソーサラ-】に攻撃!」

 

 【赤鬼】が迫り、【カオス・ソーサラ-】に殴りかかる。次のターンに戦闘ダメージを受けるのを覚悟で、除外効果を持つ【カオス・ソーサラ-】を破壊しにかかったな。

 

 「くっ」

 

 【カオス・ソーサラ-】が破壊され、俺のライフが削られた。

 

優 LP4000→3500

 

 「俺はモンスターをセット! さらに墓地の【馬頭鬼】の効果発動! 【ピラミッド・タートル】を守備表示で特殊召喚! ターンエンドだ!」

 

 三沢 LP3200 手札0枚

  モンスター (攻撃)【赤鬼】

         (守備)【ピラミッド・タートル】

         セットモンスター 1体

  魔法・罠  無し

 

 また出て来たよ、亀。亀を呼んだってことは。デッキにまだ【龍骨鬼】でもいるのかな? アンデットは【真紅眼の不死竜】といい、【龍骨鬼】といい、【ヴァンパイア・ロード】といい、簡単に上級モンスターをデッキから呼んで来れるからいいよなぁ。

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP3500 手札4枚

  モンスター (攻撃)【ブリザード・プリンセス】 攻撃力3300

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】

         (永続罠)【王宮のお触れ】

         (装備【ブリザード・プリンセス】)【ワンダー・ワンド】

 

 ドローカードを見る。こいつか。なら早速。

 

 「【強欲な壺】を発動。デッキから2枚ドロー」

 

 【天よりの宝札】を使ってその上【強欲な壺】まで、とか言うなよ。それだけ手札が大事なんだ。  

 そして新たなドローカードを見て、思う。あ、行けそう。あの正体不明のセットモンスターと厄介な亀、どっちかを対処するか。

 

 「【魔導戦士 ブレイカー】を召喚。それによりカウンターが1つ溜まり、攻撃力が300アップ」

 

 再度召喚される【ブレイカー】。しかし今回は、すぐにコストにしてしまう。悪いな【ブレイカー】。

 

 「手札から速攻魔法、【ディメンション・マジック】を発動。フィールドの【ブレイカー】を生贄に、手札から【氷の女王】を特殊召喚する」

 

 棺に納まる【ブレイカー】。そして次にその棺が開いた時に現れたのは、氷を纏った女王。

 

【氷の女王】

効果モンスター

星8 水属性 魔法使い族 攻撃力2900/守備力2100

このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の魔法使い族モンスターが3体以上の場合、自分の墓地から魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。

 

 【ブリザード・プリンセス】と【氷の女王】。俺的には大満足な共演だ……おっと、効果の続き。

 

 「【ディメンション・マジック】の効果により、モンスターを1体破壊する。対象はそのセットモンスターだ」

 

 守備表示でデンと構えてる亀は確かに厄介だが、あのセットモンスターも実は亀である可能性だってある。ならばセットモンスターを破壊してしまおう。そして現れた【氷の女王】の攻撃によって破壊されたセットモンスターの正体は。

 

 「くッ!」

 

 破壊された三沢が呻く。それは味方ならば心強く、敵ならば何とも厄介なモンスターだったのだから、納得だ。

 

 「【魂を削る死霊】だったんだ、そいつ」

 

【魂を削る死霊】

効果モンスター

星3 闇属性 アンデット族 攻撃力 300/守備力 200

このカードは戦闘では破壊されない。

このカードがカードの効果の対象になった時、このカードを破壊する。

このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手の手札をランダムに1枚捨てる。

 

 戦闘破壊は出来ないモンスターだ。破壊出来て良かった。

 

 「バトルだ。【ブリザード・プリンセス】で【赤鬼】を攻撃」

 

 『せいやぁ!!』

 

 体がほぐれたのか、何だかさっきよりも動きが良いような気がする。相変わらずの勇ましい叫びと共に、氷球を振り下ろすお姫様。今度は【赤鬼】を守るものは無い。そのままスプラッタにされる。

 

 『ギャァァァァァァ!!』

 

 もの凄い断末魔だ。おいお姫様、飛び跳ねて喜んでるけど、中々にグロいシーンだったぞ、さっきの。まぁいい、それで三沢のライフ削れたし。

 

 「クッ!」

 

三沢 LP3200→2700

 

 よし、次だ。

 

 「【氷の女王】で【ピラミッド・タートル】に攻撃」

 

 【氷の女王】は流石は女王の貫録だ。姫のように元気が有り余ってる感じではなく、至ってクールに魔法攻撃を放った。当然ながら氷の魔法だ。そして亀は凍りつき、やがて破壊される。だがヤツはリクルーターである。つまり。

 

 「破壊された【ピラミッドタートル】の効果発動! デッキから守備力2000の【龍骨鬼】を特殊召喚する!」

 

 やっぱりいたか2体目。そりゃいるよな、対魔法使い族として組んだんだから。

 

 「ターンエンドだ」

 

優 LP3500 手札2枚

  モンスター (攻撃)【ブリザード・プリンセス】 攻撃力3300

         (攻撃)【氷の女王】

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】

         (永続罠)【王宮のお触れ】

         (装備【ブリザード・プリンセス】)【ワンダー・ワンド】

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

 三沢 LP2700 手札1枚

  モンスター (攻撃)【龍骨鬼】

  魔法・罠  無し

 

 ドローカードを見て、三沢は苦い顔をした。次いで一瞬だが周囲を見渡したところを見ると、魔法カードを引いたのかもしれない。

 しばらくその苦い顔は続いていたが、やがてフィールドの龍骨鬼に顔を向けた。

 

 「【龍骨鬼】で【氷の女王】に攻撃!」

 

 あぁ、まただよ特攻。亀といいこいつといい、本当にもう!

 

 「迎え撃ちたくないけど、迎え撃て。【氷の女王】」

 

 【THE トリッキー】と同じく、彼女も俺の意を汲んでくれているのだろう。溜息を吐いて迫り来る骨の鬼に魔法攻撃を放つ。当然【氷の女王】の方が攻撃力は高いので、【龍骨鬼】は破壊される。

 

三沢 LP2700→2200

 

 「く……だが【龍骨鬼】の効果発動! こいつと戦闘を行ったモンスターが魔法使い族か戦士族だった場合、ダメージステップ終了時にそのモンスターを破壊する!」

 

 既に破壊され墓地へと送られていた【龍骨鬼】の怨念が、【氷の女王】に纏わり付く。

 

 『キャアァァァァァァァァァァ!!』

 

 よほど苦しいのだろう、あのクールな女王が絶叫した。絹を裂くような女の悲鳴……これ、三沢の趣味じゃないだろうな?

 そのまま地中から引き摺られるようにして消えた【氷の女王】を見て、その隣にいた【ブリザード・プリンセス】がドン引きしていた。気持ちは解る。あれは怖い。まさにホラーだ。

 でも、こっちだってただでは終わらないぞ。女王を甘く見るな。

 

 「破壊された【氷の女王】の効果発動」

 

 「何!?」

 

 この効果は三沢も知らなかったようだ。そりゃまぁ、知ってたら女王じゃなくて姫を狙うよな。

 

 「フィールド上のこのカードが破壊された時、墓地に3体以上の魔法使い族モンスターがいる時にのみ発動可能。墓地の魔法カードを1枚手札に加える。俺の墓地には魔法使いが3体以上。なので墓地の【強欲な壺】を手札に加える」

 

 地中から氷のカプセルが舞い上がり、強く輝く。そのカプセルが氷解すると、中から魔法カードが現れた。

 再び手札に加わったドローソースに、三沢の顔はますます険しくなる。だがどうすることも出来まい。故に彼は気を取り直して自分のターンを進める。

 

 「……墓地の【馬頭鬼】の効果発動! このカードを除外し、墓地の【龍骨鬼】を特殊召喚する! ターンエンドだ!」

 

 三沢 LP2200 手札1枚

  モンスター (守備)【龍骨鬼】

  魔法・罠  無し

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP3500 手札4枚

  モンスター (攻撃)【ブリザード・プリンセス】 攻撃力3300

  魔法・罠  (フィールド)【魔法族の里】

         (永続罠)【王宮のお触れ】

         (装備【ブリザード・プリンセス】)【ワンダー・ワンド】

 

 厄介な【龍骨鬼】が戻ってきたが、これで三沢も【馬頭鬼】を使い切った。【ネクロ・ガードナー】もだ。他に何か墓地で発動するようなカードは落ちていなかったはず。

 さて、そんな俺のドローカードは……あれま。

 これがラストターンになるかもしれない。折角手札に戻した【強欲な壺】だが、使う必要は無かったか。

 

 「装備魔法、【閃光の双剣-トライス】を発動」

 

【閃光の双剣-トライス】

装備魔法

手札のカード1枚を墓地に送って装備する。

装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 俺が発動したカードに、三沢よりも【ブリザード・プリンセス】の方がギョッとしていた。『ムリムリ!』とでも言いたいのか、もの凄い勢いでブンブンと首を横に振りながら【龍骨鬼】を指差している。

 見なかったことにした。

 

 「手札を1枚墓地に送る。【ブリザード・プリンセス】に装備」

 

【ブリザード・プリンセス】 攻撃力3300→2800

 

俺のその行動に三沢も不審げな顔をしている。ついでに言えば、【ブリザード・プリンセス】は真っ青だ。

 

 「2回の攻撃? 【龍骨鬼】を攻撃すれば【ブリザード・プリンセス】も破壊されるんだぞ?」

 

 三沢の指摘にコクコクと頷く【ブリザード・プリンセス】。【氷の女王】の最期がよっぽど衝撃的だったと見える。

 

 「心配はいらないよ。だってこうするから……トラップカード、【ブレイクスルー・スキル】の効果発動」

 

 「何!?」

 

 三沢が目を見開いた。

 

 「お前の発動させた【王宮のお触れ】により、それ以外のフィールド上のトラップカードは全て発動できないはずだ! 第一、お前の場にリバースカードは無い!」

 

 確かにその通りである。だが。

 

 「【王宮のお触れ】による拘束は、あくまでも『フィールド上のトラップカード』だ。俺は【ブレイクスルー・スキル】を墓地から除外することでその効果を発動させる」

 

 「墓地から罠だと!?」

 

【ブレイクスルー・スキル】

通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、

相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

 「墓地から【ブレイクスルー・スキル】を除外し、効果発動。相手フィールド上のモンスター1体の効果を、ターン終了時まで無効とする」

 

 墓地から漏れ出た力が【龍骨鬼】に纏わり付く。心なしか、禍々しさが幾分か減った気がする。

 そうなると現金なもので、ついさっきまで真っ青になって震えていたお姫さまがノリノリの表情でブンブンと氷球をブン回していた……やっぱり俺、この子が精霊じゃなくて良かったのかもしれない。

 

 「墓地から罠、か。さっきの【トライス】のコストか?」

 

 既にこのデュエルの結果が見えたからだろう。三沢が静かに聞いてきた。俺はその質問に首を振る。

 

 「いや。この効果はこのカードが墓地に送られたターンには使用できない。1番最初だよ」

 

 「1番最初……なるほど、【THE トリッキー】のコストか」

 

 「そゆこと。ちなみに【トライス】のコストは、手札で腐ってた2枚目の【王宮のお触れ】……それより三沢、覚悟しろよ?」

 

 最後の忠告の意味が通じなかったらしく、三沢は虚を突かれたような顔をした。

 

 「……さっき見てたろ、【赤鬼】の末路。あの攻撃が今度はお前に向かうんだぞ?」

 

 要は、美少女にノリノリで潰されるのだ。その光景を想像したのか、三沢の顔が今度は引き攣った。だがもう止まらない。

 

 「【ブリザード・プリンセス】で【龍骨鬼】に攻撃」

 

 さっきまでの怯えは一体どこへ行ったのか、お姫さまは一気にフィールドを駆け抜け【龍骨鬼】を粉々に粉砕した。

 

 『ギャァァァァァァァ!!』

 

 うん、スプラッタ第2弾。

 

 「最後、三沢にダイレクトアタック。《プリンセス・クラッシュ》」

 

 最後の指示を出すと一瞬だけ【ブリザード・プリンセス】に睨まれた。え? もっとマシな攻撃名は無かったのかって? いや、ピッタリだと思うぞ?

 

 「う、わぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 姫君が俺を睨んだのは本当に一瞬で、次の瞬間には楽しそうに三沢を潰していた。それに思わず悲鳴を上げる三沢。

 デュエルは何度もしているのだから、今更ダイレクトアタックぐらいでそこまで取り乱しはしない。しかし今回の場合は、美少女がイイ笑顔で潰しにかかってくるのだ。アレは一種のトラウマである。

 まぁ、何はともあれ。

 

三沢 LP2200→0

 

 勝者、俺。イェイ。

 

 

 

 

 「それで、何故お前はここにいるんだ?」

 

 夜就寝時間になってイエロー寮の自室に戻った俺とたまたま出くわし、三沢が訝しげな声を上げた。

 

 「いちゃ悪いか? ここは俺の部屋だぞ?」

 

 「ブルーに昇格したんじゃなかったのか?」

 

 そうなのである。あの実技試験後、俺にはブルー昇格の話が来た。元々特待生待遇なのである、変な話では無い。もしも実技で三沢が勝っていれば三沢に話が行っていただろう。

 俺はその話を思い出し、肩を竦めた。

 

 「辞退したよ。俺にはまだ未熟な点が多いからね」

 

 本音を言えば、イエロー寮ですら神経すり減る貧乏性な俺が、あんな中世の城のようなブルー寮に行けるはずがないって思っただけなんだけどね。

 でもそんな内心は綺麗に包み隠して述べた建前に三沢は納得したらしい。

 

 「成る程な。それは俺もだ。今日は己の認識不足を実感したよ。俺が対策を練るように、相手も対策を練る。それを想定していなかった……そういえば、十代も昇格を蹴ったという噂だが、どうなんだ?」

 

 「事実だよ」

 

 俺たちのデュエルよりも後に行われた十代の試験デュエル。その相手は何故か他寮生の万丈目で、勝てばラーイエローに昇格という話だった。

 結果は十代の勝利。1度目は非公式とはいえ、十代に連敗を喫することとなってしまった万丈目の顔は、そりゃもう凄いことになっていた。なのに十代はそれを見事にスルーして『ガッチャ』するし。

 だが十代も俺と同じで、昇格を蹴った。しかし勿論、理由は違う。

 

 「十代は赤が好きだからレッド寮がいいんだってさ」

 

 「……それはそれで、あいつらしいのかもしれないな」

 

 俺と三沢は軽く笑い合い、そのまま互いの部屋に入る。

 いつもより少し長く感じた1日が終了した。

 

 

 




 <今日の最強カード>

優 「第5回、<今日の最強カード>。それはこれです」

【天よりの宝札】(アニメ効果)

王 『違うであろう、主よ。確かに壊れカードだがな」

優 「あはは、冗談だよ。本当はこっち」

【魔法族の里】 【王宮のお触れ】

優 「このカードの組み合わせで簡単にロックデッキが作れます。自分フィールド上に魔法使い族がいることが前提条件となるけど、俺のような魔法使い族主体のデッキならそう難しい条件じゃありません……ってか、そういうデッキじゃないと使わないよね、【魔法族の里】は」

王 『【王宮のお触れ】は他のロックデッキでも使われるがな。しかし主よ、鬼だな。HEROデッキの十代とこのデッキでデュエルするなど』

優 「別に十代メタとして作ったわけじゃないんだよ? 魔法使い族を使って第2デッキを作れないかなと思った時、自然とこのデッキが浮かんできたんだ。結果的にはHEROデッキの天敵のようになっちゃったけど。ちなみに今回のデュエルの三沢のラストターン、引いたのは【魔女狩り】だったらしいよ。ロックしてなかったら負けてたね」

王 『その三沢だが……アレではまるで漫画版デッキだな。まぁ、その方が存在感が出せるかもしれんが』

優 「妖怪族ね。アレさぁ、魔法使いメタとして有名な【龍骨鬼】がアンデットで、種族統一デッキメタとなる【アンデットワールド】の組み合わせから出て来た結論らしいよ」

王 『なるほどな。ところで主よ、主は自分を何だと思っているのだ?』

優 「俺? デュエリストだよ」

王 『そうではなく。前話で自分を凡人だと称していなかったか?』

優 「だってそうだもの」

王 『……自分が既に魔術師に片足を突っ込んだ存在だという自覚は……』

優 「何言ってんだよエンディミオン。あれくらいで大袈裟な」

王 (ナチュラルに結界を張ったり車の重量を操作したりするのは、決して『あれくらい』では無いと思うのだが……立派に染まっているのだな、主よ)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。