遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

3 / 25
 ふと見たらお気に入り登録数が伸びていたことに驚き、何故かと疑問に思っていたらランキング入りしていたことを知って慄いてるM・Mです。
 ありがたいことではありますが、遊戯王SSでありながら未だデュエルシーンが出ていないのにこの勢いは正直怖かったりもします。そして今回は、その問題のデュエルシーンが入りますが……まったく自信が無いので、本当に怖いです。

 デュエルシーンにあたり、いくつか注意点を。
・GX時代のデュエルルールに、それ以降に出てきたはずのカードが出ていると思ってください。
・リリースやアドバンス召喚は生贄、エクストラデッキは融合デッキで枚数制限無し。
・汎用性の高い一部の禁止カードを制限化。(例・強欲な壺など)
・アニメで使用頻度の高いカードの効果はOCGよりもアニメ優先。 (例・バブルマンなど)
・筆者のオリカは出しませんが、原作オリカは出てきます。 (例・速攻召喚など)
・シンクロ、エクシーズ・ペンデュラムは無しですが、一部のチューナーモンスターやペンデュラムモンスターは効果モンスター扱いで出てきたりします。なお、この件に関しては後に辻褄合わせを行う予定です。 (例・エフェクト・ヴェーラーなど)

 また、「」を多用していますが【カード名】・《技名》・『強調または精霊のセリフ』としています。カードを精霊として呼ぶときには【 】は付けません。

 最後に、初めて使用するカードに関しては一応テキストを付けます。これぐらい常識として知ってるぜ、と思うかもしれませんがご了承ください。

 筆者はデュエル描写には本当に自信がありませんので、ご指摘・アドバイスなどはどんどん下さると嬉しいです。
 それでは、前書きがやたらと長くなってしまいましたが、どうぞ。


1年生
第1話 実技試験と幼馴染


 

 引っ越して以来数年ぶりに訪れた童実野町は記憶にある姿と大差が無く、俺にひどく懐かしい思いを感じさせた。

 だが郷愁に浸っている暇は無い。

 何故なら俺は受験生。しかも狙うのは『合格』の2文字、ただそれだけではないのだから。

 

 デュエルアカデミア高等部は絶海の孤島に建つ全寮制学校。アニメを見てた時は考えていなかったが、学費や生活費はかなりかかる。

 だがそこは、良くも悪くも実力主義な社長がオーナーを務める学校なだけあり、好成績を修めれば特待生待遇を受けられるのだ。

 そう。相も変わらずあまり裕福ではない俺は、それを狙っている。

 前世での大学受験時以上の熱意を以て筆記試験に臨み、今日は実技試験を受けに来た。

 受験番号……即ち筆記試験の成績は2番だった。

 空気を読まずに『デュエルしようぜ!』としょっちゅう誘いを掛けてくる幼馴染を、時にシバき、時に蹴り出し、時に簀巻きにして転がし、時に精霊に成敗してもらったりしながら、寝る間も惜しんでガリ勉した成果である。

 

 ちなみにあの筆記試験。SSなんかでは社長の嫁をゴリ押しした問題がわんさか、なんてこともあったけど、当然そんなわけは無い。普通の試験問題だった……答えがブルーアイズになる問題が2問あったけど……まぁ、それぐらいは偶然と言えなくもないし。

 

 海馬ランドに来るのも久し振りだ。

 引っ越し前、かつて親しくなってからそのまま友達にまでなったモクバに招待されて以来のことである……何者なんだ、俺って。

 いや落ち着け。折角遊園地に来れたが、今日の目的はあくまでも実技試験。そんな浮ついた気持ちではいけない。

 

 と、いうわけで。

 

 『受験番号1番~5番の受験生はデュエル場に降りて下さい。』

 

 アナウンスでも呼ばれたことだし、早速行きますか。

 

 

 

 デュエル場に行ってみれば、そこには既にデュエルディスクを構えた試験官たちがいた。デュエルには関係ないことだろうが、何で屋内でサングラスを掛けているんだろう。

 受験番号1番~5番、つまりは5人の受験生が一纏めに呼ばれたが、1度に5人の試験が行われるわけではない。1人ずつ試験官とデュエルを行い、その他はリングの横で待機だ。

 その待機時間を利用し、デッキの最終確認を行う。

 実は現在の俺は、2つのデッキを持っている。片方は童実野町を離れてから作ったものだ。はっきり言って時々しか使わないけど、あれはあれで気に入っている。

 だが今回使うのは、昔から愛用しているこのデッキだ。あの戦いの日々もこのデッキと共に過ごしていた。勿論、年月が経っているからその頃のままというわけじゃないけど。

 ……OK、問題無い。ちゃんとカードは揃っている。

 

 「次、受験番号2番!」

 

 あ、呼ばれた。よし、落ち着け俺。大丈夫、俺ならきっと出来る。

 リングの上がると、向かい合った試験官がディスクにデッキをセットし直していた。次の受験生に対策をされないように、全く別の試験用デッキと入れ替えたんだろう。ご苦労な事だ。

 さて、まずは挨拶をしないと。

 

 「受験番号2番、上野優です。よろしくお願いします。」

 

 お辞儀をしてにっこりと愛想笑いをすると、試験官はウムと頷いた。

 

 「これはあくまで実力を見るための試験であるから、勝敗が即ち合否ではない。緊張する必要は無い。」

 

 「はい。」

 

 大丈夫。あの闇のゲームの日々に比べれば、こんなの何でもない。油断は禁物だが、彼の言う通り緊張もする必要は無い。

 試験官はそのまま続ける。

 

 「先攻は受験生に譲られるが、それ以外は通常のデュエルと変わりない。では早速始めよう。」

 

 言われ、俺もデュエルディスクを起動する。かなり年季の入っている、俺の愛機。バトルシティが行われた最初期に販売されたタイプだ。というか、バトルシティの頃に入手した物をメンテナンスしつつ使い続けているんだが。

 ちなみにこれ、モクバの厚意によって俺に渡された代物だ。よく危険に巻き込まれるから、自衛のために持っていた方が良いと……もの凄くありがたかったのは事実なのだが、デュエルディスクとデッキがあればちびっ子でも自衛が可能となるこの世界って、一体……いや、これ以上は言うまい。

 それよりも今はデュエルだよね。

 

 「「デュエル!!」」

 

優 LP4000 手札5枚

試験官 LP4000 手札5枚

 

 「俺の先攻。ドロー。」

 

 ドローによって6枚になった手札を見て、しばし考える。

 

 『主よ、何故考える。まずはその魔法を発動しろ。』

 

 考えていると、もう長い付き合いとなる精霊がせっついてきた。

 

 (何も言うなよ、俺のデュエルだぞ。)

 

 例えこのデッキにも入っている仲間とはいえ、他者の助言など以ての外だ。小声で叱ると、しかしコイツはフンと鼻を鳴らす。

 

 『そんなことは解っている。こんなこと、助言ですらあるまい。』

 

 まぁ、そう言われてしまうとその通りなんだが。

 俺がデュエルをする時、精霊のコイツがいるせいなのかは謎だが、必ずと言っていいほどある魔法カードかそのサーチカードが初期手札にあるのだ。

 王様、いやアテムさん。あなたは正しかった。確かに、絆を信じればデッキは応えてくれる……応え過ぎな気もするけど。

 まぁいいや。確かに発動はするんだし。

 

 「俺はフィールド魔法、【魔法都市エンディミオン】を発動。」

 

 必ず初期手札に来る魔法カードこと、【魔法都市エンディミオン】。稀に【テラ・フォーミング】なこともあるが、とにかく俺はデュエルが始まってすぐこの魔法を発動させることが多い。

 

【魔法都市エンディミオン】

フィールド魔法

自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。

魔力カウンターが乗っているカードが破壊された場合、破壊されたカードに乗っていた魔力カウンターと同じ数の魔力カウンターをこのカードに置く。

1ターンに1度、自分フィールド上に存在する魔力カウンターを取り除いて自分のカードの効果を発動する場合、代わりにこのカードに乗っている魔力カウンターを取り除く事ができる。

このカードが破壊される場合、代わりにこのカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事ができる。

 

 発動と同時に周囲の景色が一変する。デュエル場と観客席のみだった無機質な空間に、高く聳え立つ塔を中心に据えた都市が現れる。不思議な文字の帯がまるで結界を張っているかのように周囲を取り囲み、街並みのそこかしこでは仄かな発光が見られる。俺にはもう見慣れた、いかにも魔法使いが住んでいそうな都市だ。

 【魔法都市エンディミオン】。OCGではGX放映終了後に発売されたSDが初出のカードである。だがこの世界では既に存在しており、俺は長く愛用している。

 

 「更に魔法カード、【強欲な壺】を発動。」

 

 OCGを知る者ならば誰でも知っているだろう魔法カード、【強欲な壺】。最強クラスのドローソースとして禁止カード指定されていたが、この世界では未だに制限カードであり、デッキには必須のカードとして扱われている。当然のように俺も入れている。

 

【強欲な壺】

通常魔法

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 「デッキからカードを2枚ドロー。そして、魔法カードの使用により【魔法都市エンディミオン】に魔力カウンターが乗る。」

 

 薄笑いを浮かべた不気味な顔が描かれた壺がフィールドに現れ、ドロー後に破壊される。このソリッドビジョン、芸が細かい。

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 0→1

 

 カウンターが乗ったことにより、周囲のフィールドに緑色に光る石が現れた。まだ乗せるよ、いいカードをドロー出来たし。

 

 「【魔力掌握】を発動。その効果によって【魔法都市エンディミオン】にカウンターを1つ乗せる。そしてデッキから2枚目の【魔力掌握】をサーチ。魔法カードの使用により、更にカウンターが乗る。」

 

【魔力掌握】

通常魔法

フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。

その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。

「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 1→3

 

 「永続魔法、【魔法族の結界】を発動。また【魔法都市エンディミオン】にカウンターが1つ乗る。そして【見習い魔術師】を守備表示で召喚。」

 

 俺のフィールドに、杖を掲げた魔法使いの石像と金髪の小柄な魔法使いが現れた。

 それにしても便利だよな、OCGでは出来なかった表側守備表示での召喚。特に、こういう効果のモンスターには。

 

【魔法族の結界】

永続魔法

フィールド上の魔法使い族モンスターが破壊される度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大4つまで)。

また、魔力カウンターが乗っているこのカードと自分フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスター1体を墓地へ送る事で、このカードに乗っていた魔力カウンターの数だけデッキからカードをドローする。

 

【見習い魔術師】

効果モンスター

星2 闇属性 魔法使い族  攻撃力 400/守備力 800

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。

このカードが戦闘によって破壊された場合、自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を自分フィールド上にセットする事ができる。

 

 「【見習い魔術師】の効果により、【魔法族の結界】に魔力カウンターを1つ乗せる。」

 

 【見習い魔術師】の効果はリバース効果じゃないから、ちゃんと召喚しないと発動しない。

 俺がそんな前世を思い出している間に、【見習い魔術師】が守備の体勢のまま石像に杖を向けていた。

 

 『ハァ!』

 

 彼の魔法により、石像の付近にも淡く光る緑の石が浮かぶ。

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 3→4

          【魔法族の結界】 0→1

 

 「カードを1枚伏せて、ターンエンド。」

 

優 LP4000 手札3枚

  モンスター (守備)【見習い魔術師】

  魔法・罠  (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター4

         (永続魔法)【魔法族の結界】 カウンター1

         伏せ1枚

 

 カウンターも少しは貯まったし、壁としてのリクルーター。自分で言うのもなんだけど、それなりに堅実に行けた1ターン目だと思う。罠も張れたしね。

 

 「私のターン! ドロー!」

 

 ターンが移行したことにより、試験官が勢いよくカードをドローする。

 

試験官 LP4000 手札6枚

 

 「魔法使い族デッキか……しかし、攻めさてもらおう! 私は【ジェネティック・ワーウルフ】を召喚。」

 

【ジェネティック・ワーウルフ】

通常モンスター

星4 地属性 獣戦士族 攻撃力2000/守備力 100

遺伝子操作により強化された人狼。

本来の優しき心は完全に破壊され、闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。

その破壊力は計り知れない。

 

 相手にフィールドに、4本の腕を持った顔中毛むくじゃらなモンスターが召喚される。有名な、デメリットの無い高攻撃力の下級アタッカーだ。

 試験官が俺のデッキの予測を付けたのは、不思議でもなんでもないだろう。【見習い魔術師】、【魔法都市エンディミオン】、【魔法族の結界】。俺が発動させたこれらのカードを見れば容易に解る。

 そして確かに彼の言う通り、俺のデッキは魔力カウンターを軸とした魔法使い族デッキだ。まぁ、魔法使い族以外のモンスターも少しだけ入ってはいるけれど。

 

 ちなみに昔、俺が遊戯さんから貰った初パックに入っていた5枚のカードは、【神聖魔導王エンディミオン】・【魔法都市エンディミオン】・【魔力掌握】・【漆黒のパワーストーン】・【バトルフェーダ-】だった。1枚だけ何かが可笑しいとかは言っちゃいけない。

 そして、デッキに入っている魔法使い族以外のモンスターについても、押して知るべし。

 閑話休題。

 

 試験官は、手札から2枚のカードを選び発動させる。どうやらどちらも魔法カードのようだ。

 

 「装備魔法【ビッグバン・シュート】と【魔導師の力】を発動! 【ジェネティック・ワーウルフ】に装備させる!」

 

【ビッグバン・シュート】

装備魔法

装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。

装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外する。

 

【魔導師の力】

装備魔法

装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールドの魔法・罠カードの数×500アップする。

 

 「さらにリバースカードを1枚セット! 2枚の装備魔法の効果により、【ジェネティック・ワーウルフ】は貫通効果を得、攻撃力は1900上がる!」

 

【ジェネティック・ワーウルフ】 攻撃力2000→3900

 

 おぉ、結構いったなぁ。【魔導師の力】ってことは、あのデッキは下級アタッカーを装備魔法で強化していくビートダウンデッキなのかも。

 感心している間にも、【ジェネティック・ワーウルフ】は全身に力を漲らせていた。

 

 『グァァァァァ!!』

 

 凄く滾ってる。ムッキムキになってるじゃないか。でも。

 

 「こちらも【魔法都市エンディミオン】の効果発動。あなたが2枚の魔法カードを発動させたことにより、魔力カウンターを2個乗せる。」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 4→6

          【魔法族の結界】 1

 

 俺がそう告げても、試験官の様子に変化は無い。予め折り込み済みだからだろう。

 試験官はそのままバトルに突入する。

 

 「【ジェネティック・ワーウルフ】で【見習い魔術師】に攻撃!」

 

 指示を受け、目を血走らせた狼人間がこちらに駆けてくる。その光景は、正直怖い。言っちゃ悪いがどこか野蛮な印象があって、この整然とした魔法都市にはあまり似つかわしくない姿だ……しかしそんな感慨は、デュエルそのものとは何の関係も無い。

 貫通効果を得ている【ジェネティック・ワーウルフ】の攻撃力は3900。【見習い魔術師】の守備力は800。このまま通せば、3100の大ダメージだ。ライフの初期値が4000のこの世界でそんなダメージを受けるのは、かなりの痛手だろう。

 とはいえそれはあくまでも、このまま通すのならばの話である。

 

 『グワァ!』

 

 『くっ……』

 

 【見習い魔術師】が【ジェネティック・ワーウルフ】に殴り倒される。思わず可哀そうになってしまうほどにフルボッコだ。攻撃力と守備力の差は歴然なのだからそこまでしなくてもいいような気がするが、そういえば【ジェネティック・ワーウルフ】は正気を失っているんだっけ。ならあの暴れっぷりも仕方が無いのかもしれない。

 それにリクルーターである【見習い魔術師】は、元々破壊されることを前提として召喚している。だから、可哀そうなどと思うのはお門違いだ。俺が感じるべきなのは哀れみでは無く、その犠牲を無駄にしないという決意でなければならない。

 【見習い魔術師】が遂に破壊され、その攻撃の余波が俺のライフをも削り取ろうと襲いかかってくる。だが、これを通す気は無い。俺はディスクに手を伸ばした。

 

 「トラップ発動、【ガード・ブロック】。その戦闘ダメージを0にして、デッキから1枚ドローする。」

 

【ガード・ブロック】

通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 攻撃は俺に当たる直前で弾かれ、ライフに変動は無い。さらに。

 

 「魔法使い族モンスターが破壊されたことで、【魔法族の結界】にカウンターが1つ乗る。そして破壊された【見習い魔術師】の効果を発動。デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体をセットする。デッキから2枚目の【見習い魔術師】をセット。」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 6

          【魔法族の結界】 1→2

 

 一連の流れに、試験官は初めは悔しそうな表情をしたがその次には満足そうに頷いた。それはそうだろう。

 これはあくまでも試験なのである。大ダメージを与えるチャンスを躱されたことに1デュエリストとして悔しい思いは抱いても、試験官としては受験生がどのように対処をするのか見たいはず。それを考えれば、この攻防は納得のいくものだったようだ。

 俺としては、ここで【執念深き老魔術師】をセットしたかったのが本音だけれど……残念なことにさっきの【ガード・ブロック】でドローしたカードがその【執念深き老魔術師】だったのだ。こればっかりはどうにもならない。

 

 「貫通対策はしていたか……。」

 

 試験官はポツリと呟いていたけれど、実際に危惧してたのは、【シールドクラッシュ】だとか【地砕き】だとかで【見習い魔術師】を破壊されるケースだったんだよね。だがあちらは、大ダメージを与えるつもりだったからこそリクルーターでも構わずに攻撃してきたんだろう。そして結果オーライ、俺はモンスターを場に残しつつ、ライフを削られることも無く、手札も増やせたわけだ。

 

 「私はこれでターンエンドだ!」

 

試験官 LP4000 手札2枚

     モンスター (攻撃)【ジェネティック・ワーウルフ】

     魔法・罠  (装備【ジェネティック・ワーウルフ】)【ビッグバン・シュート】 

            (装備【ジェネティック・ワーウルフ】)【魔導師の力】 

            伏せ1枚

 

 「俺のターン。」

 

優 LP4000 手札4枚

  モンスター (セット)【見習い魔術師】

  魔法・罠  (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター6

         (永続魔法)【魔法族の結界】 カウンター2

 

 俺の今の手札なら、【ジェネティック・ワーウルフ】にご退場を願うことは出来る。だが、まだ決着を着けるには至らない。さて、どうするか。

 

 「ドロー。」

 

 ドローカードを見る。

 あ、行けそう。

 

 「俺は【マジカル・コンダクター】を召喚。」

 

 フィールドに現れるのはふんわりとした水色の服を着た優しげな女性。いつも頼りにしています。そんな信頼を込めて見ると、彼女もふんわりと微笑んでくれた……癒しだ。

 

【マジカル・コンダクター】

効果モンスター

星4 地属性 魔法使い族 攻撃力1700/守備力1400

自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを2つ置く。

このカードに乗っている魔力カウンターを任意の個数取り除く事で、取り除いた数と同じレベルの魔法使い族モンスター1体を、手札または自分の墓地から特殊召喚する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 「【魔力掌握】を発動。【魔法族の結界】にカウンターを乗せ、3枚目の【魔力掌握】をサーチ。同時に、魔法カードの使用で【魔法都市エンディミオン】と【マジカル・コンダクター】にそれぞれカウンターが乗る。さらにセットされている【見習い魔術師】を反転召喚。効果により【魔法族の結界】にカウンターを乗せる。」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 6→7

          【魔法族の結界】 2→4

          【マジカル・コンダクター】 0→2

 

 これで、【魔法族の結界】には4つのカウンターが乗った。魔法使いの石像が、もうこれ以上は無理だということを示したいのか、眩いばかりの輝きを放っている。

 

 「【魔法族の結界】の効果発動。このカードと魔法使い族モンスター【見習い魔術師】を墓地に送り、デッキから4枚ドロー。」

 

 【見習い魔術師】と石像が共鳴するように光り、やがてその姿を消す。

 一気に4枚のドロー。手札とは可能性だと、あの人は言った。教えてくれた。うん、ちゃんと解ってるよ。だから引ける時に引く。

 そしてドローした4枚のカードを確認し、俺は思った。

 よし、勝てる。

 その4枚の内の1枚を手に取り、ディスクに差し込む。

 

 「【サイクロン】を発動。試験官の伏せカードを破壊する。」

 

【サイクロン】

速攻魔法

フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

 

 【サイクロン】。単純ゆえに強力で、汎用性も極めて高い魔法カードだ。その【サイクロン】の発動により突風が巻き起こり、伏せられていたカードが一瞬露わとなってなってから破壊される。

 

 「くっ!」

 

 破壊される寸前に見えたが、伏せられていたのは【聖なるバリア ミラーフォース】だった。破壊出来て良かった。

 そしてカードが減ったことにより【ジェネティック・ワーウルフ】の攻撃力も500下がるが、それはどうでもいい。あちらもすぐに破壊するから関係ない。

 

 「魔法発動により、【魔法都市エンディミオン】と【マジカル・コンダクター】にカウンターを乗せる。そして【マジカル・コンダクター】の効果発動。【マジカル・コンダクター】に乗っている4つのカウンターを取り除き、手札からレベル4の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 7→8

          【マジカル・コンダクター】 2→4→0

 

 【マジカル・コンダクター】を取り囲んでいた4つの緑の石……即ち魔法カウンターが、彼女が魔力を込めることによって浮かび上がり、さらに強い光を放つ。そしてその光の中から現れるのは、精霊こそ宿っていないが俺にとってかなりの思い入れがある、特別なモンスター。鎧を纏い剣と盾を持った、細身の魔法使い……ちょっと戦士っぽくも見えるが、間違いなく魔法使いである。

 

 「【魔導戦士 ブレイカー】を特殊召喚。」

 

【魔導戦士 ブレイカー】

効果モンスター

星4 闇属性 魔法使い族  攻撃力 1600/守備力 1000

このカードが召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする

このカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事で、フィールド上に存在する魔法・罠カードを1枚破壊する。

 

 特殊召喚なので、コイツ自身にカウンターを乗せることは出来ない。だが。

 

 「【魔法都市エンディミオン】に乗っている魔力カウンターを代用し、【魔導戦士 ブレイカー】の効果発動。フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。対象は【ビッグバン・シュート】。」

 

 ここは我らが魔法都市の恩恵に与るとしよう。

 【魔導戦士 ブレイカー】が剣を掲げると、フィールド上に浮かんでいた緑石が1つ輝き、その力を発揮する。緑石から溢れた魔力が、掲げられた剣に纏われる。

 

 「《マナ・ブレイク》。」

 

 【魔導戦士 ブレイカー】がその剣を【ビッグバン・シュート】に向け、カードは破壊された。そして同時に、【ビッグバン・シュート】の最後の効果も発動する。

 

 「【ビッグバン・シュート】が破壊されたにより、装備モンスター【ジェネティック・ワーウルフ】には除外されてもらう。」

 

 『グォォォォァァァァ!!』

 

 【ジェネティック・ワーウルフ】は断末魔の如き叫び声を上げ、突如現れた闇の中に引きずり込まれるようにして消えた……除外のソリッドビジョン、怖い。

 【ジェネティック・ワーウルフ】が除外されたことにより【魔導師の力】も破壊され、試験官のフィールドはまっさらな状態になってしまった。

 

 「くっ……ダメージは避けられんか!」

 

 試験官は悔しそうに手札を見る。次のターンでの挽回の道筋を考えているのかもしれないが、俺としてはダメージで済ます気は無い。折角なのでこのターンで終わらせる。

 

 『さぁ、主よ。それで終わりでは無かろう?』

 

 隣に立つ精霊がうずうずとしたような様子で先を促す。俺はそんな彼に対してニコリと微笑んだ。凄くイイ笑顔だったと思う。

 

 「永続魔法【一族の結束】を発動。」

 

 『………………何だと?』

 

 自分が召喚されることを信じて疑ってなかったのだろう。精霊が呆けたような声を出すが、聞く気は無い。

 

【一族の結束】

永続魔法

自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、自分フィールド上に表側表示で存在するその種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 8→7→8

 

 「この効果により、俺の場にいる2体のモンスターの攻撃力は800上がる。」

 

 【マジカル・コンダクター】と【魔導戦士 ブレイカー】に力……魔力が行き渡り、それは攻撃力となって表れる。

 

【マジカル・コンダクター】 攻撃力1700→2500

【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力1600→2400

 

 無防備なフィールドを晒している相手への、攻撃力2000以上のモンスター2体による攻撃。試験官の手札に【クリボー】とかそういった類のモンスターがいれば別だが、あの引き攣った表情を見る限りそれもあるまい。これで詰みだ。

 

 「バトル。」

 

 バトルフェイズへの移行を宣言すると、呆けていた精霊が現実へと戻ってきた。

 

 『ちょ、ちょっと待て主よ。何故この晴れの舞台で我を召喚せん!?』

 

 お前、ちょっと黙ってろ。

 

 「【マジカル・コンダクター】と【魔導戦士 ブレイカー】でダイレクトアタック。行け、2人とも。」

 

 号令により2体の魔法使いは試験官へと向かう。

 まずは【マジカル・コンダクター】が波動っぽい攻撃を放ち、その次に【魔導戦士 ブレイカー】が剣を一閃。ライフを削りきった……一瞬だけあの試験官がHA☆GAさんのように見えてしまったのは、きっと気のせいなんだろう。

 

 「うくぅっ!!」

 

試験官 LP4000→1500→0

 

 【魔導戦士 ブレイカー】の攻撃の後、試験官が苦しげな呻き声を上げた。確かにリアルなソリッドビジョンのダイレクトアタックを受けるにはちょっと覚悟がいるが、闇のデュエルでも何でもないのだから苦痛は無いはずなのだが。ノリだろうか。その方が、観戦してる人にとっては楽しいし。

 そして、試験官のライフが0になったことでデュエルは終了し、全ての映像はスゥッと消えていく……俺だけに見える、隣で機嫌を損ねている精霊を除いて。

 

 「……実技試験は以上だ。いいデュエルだった。試験結果は後日自宅に郵送される。」

 

 「ありがとうございました。」

 

 少しだけ表情を緩める試験官に対してペコリとお辞儀をして、俺はフィールドから降りた。入れ替わりに呼ばれた、フィールド横で待機していた次の受験生とすれ違う。彼が受験番号1番である。白い学ランが目に眩しい。ちなみに俺は黒学ラン着用である。

 

 フィールドで始まった次の実技試験デュエルの声を背後に聞きながら荷物を置いてある客席に戻る途中、明らかに機嫌を損ねている精霊が憮然としながら声を掛けてきた。

 

 『主よ。』

 

 (何だ?)

 

 周囲には聞こえないよう、小声で答える。

 

 『先のデュエル、何故我を召喚しなかった?』

 

 (しなくても勝てただろ?)

 

 思い返してみると、こちらのライフは無傷でのワンショットキルだった。上級モンスターすら召喚せずに終わったが、相手は試験用のデッキ。無難に終わらせられたのではなかろうか。

 だが、コイツは俺の返答がお気に召さなかったらしい。

 

 『我を召喚する手はあったであろう!? 我はエースなのではなかったのか!?』

 

 確かに、【魔法族の結界】でドローした4枚の中には【おろかな埋葬】があった。【魔法都市エンディミオン】にも、十分にカウンターが溜まっていた。それらを使えば、コイツを召喚することも出来た。

 だが。

 

 (エースだからさ。)

 

 俺は体ごと精霊……【神聖魔導王 エンディミオン】に向き直る。

 

 (エースだからこそ、無闇に手の内を周囲に晒したくなかったんだ。お前は俺のとっておきなんだからな。)

 

 現金なもので、『とっておき』と言われたエンディミオンは簡単に機嫌を治した。

 

 『フン、当然であろう。』

 

 うん。やっぱコイツ、さり気に単純だわ。

 少し呆れを含んだ俺の視線には気付かず、誇らしげに胸を張るエンディミオン。そんな彼には見えない所で、くいくいと俺の袖を引く仕草をする精霊が1体。

 

 (どうした、フェーダ-?)

 

 俺のマスコット……基、相棒の【バトルフェーダ-】である。コイツもずっと俺の傍にいたんだよ? ただエンディミオンと違って喋れないから、ちょっと目立たないだけで。

 そんなフェーダ-だが、喋れないなりに仕草や表情、行動でコミュニケーションを取ろうとする。

 そして長年の付き合いである俺は、それでコイツの考えてることが大体解る。

 今コイツは、訝しげな表情である。本音は? とでも聞きたいのだろう。

 

 (いや、明らかに召喚されることを期待してたエンディミオンの出鼻を挫いてみるのも、面白そうだなって。)

 

 エンディミオンは仮面をつけているからその表情は解らなかったが、思いっきり困惑していた空気は伝わってきた。大いに楽しませて頂きました、ごちそうさまです。いやぁ、根が真面目なコイツはやっぱり弄り甲斐があるね。

 フェーダ-は微妙な表情をすると、手に持った鐘を鳴らした。これは、コイツがどうしても言いたいことがある時に行う行動だ。

 

 からーん からーん からーん

 

 大きく長く、3回鳴らされる鐘。ん? Sだって? 何が?

 

 そんなやり取りをしながら観客席に戻ると、ふと客席の向こうに目をやったエンディミオンが俺を呼んだ。

 

 『主よ、あそこに。』

 

 (うん?)

 

 エンディミオンが指し示す方向、少し離れた場所に見知った顔があった。あれは……。

 

 (モクバ?)

 

 それは確かに、実物を見るのは久しぶりな友人、海馬モクバだった。

 彼がいることはそれほど可笑しくは無い。何せここは海馬ランド。しかもモクバは、社長と違って一般大衆には面割れしてない。

 にしても、何でわざわざ本人が? ヤツは天下のKC副社長、そのスケジュールは多忙を極めてるはずなのだが。

 そんなモクバは俺が気付いたことに気付くと、ヒラヒラと手を振って懐から携帯電話を取り出し、それを見せ付けるように掲げた。

 その行動に思う所があり、俺は自分の携帯電話を鞄から取り出す。試験前ということもあって切っていた電源を入れると、メールが2通来た。

 その内の1通はまさしくモクバからで、『話がある』とのことだった。ご丁寧に場所も指定してある。この海馬ドームの一室らしい。紛れもない呼び出しだった。なるほど、だからこんな所にいるのか。どうやら、電話やメールでは済ませられないような厄介、もしくは面倒な話があるらしい。

 『了解』と返信のメールを送る。電源を入れた時に来たもう1通のメールを確認している間に、彼はいつの間にかこの場を去っていた。後で行かなければ。

 ちなみに、そのもう1通のメールは即座に削除する。保存する必要は無い。

 鞄を持って移動しようしたのと、デュエル場で行われている最後の実技試験が終わったのはほぼ同時だった。尤も、真のラスト試験はまだなのだろうが。

 移動の最中、妙なタイミングで聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

 「そりゃ、1番強いのは俺だからさ!」

 

 ……ほう。

 

 「ぐぇっ!?」

 

 「だ~れが1番強いってぇ?」

 

 「い、痛ぇって! 離せよ、オイ!!」

 

 誰が離すかい。

 俺はそいつ、遊城十代に背後からヘッドロックをかけつつ、ギリギリと締め上げた。

 突然現れた俺に、白学ランの受験番号1番・三沢大地と、眼鏡をかけた水色髪の少年・丸藤翔が目を丸くしていた。

 

 「で? 誰が何だって? 昨日俺に負けた十代クン?」

 

 「お、一昨日は俺が勝っただろ!? 離せって!」

 

 存分に締め上げて気は済んだので、希望通りにその拘束を解く。

 咳き込む十代の向こうから、三沢大地がこちらを見る。

 

 「君は確か、俺の前に実技試験を受けていた……」

 

 「上野優。よろしく。」

 

 さり気なく右手を差し出すと、彼はああと頷き握り返してきた。

 

 「し、知り合いっスか?」

 

 俺に声を掛けてきた三沢(自己紹介をしてもらったらやっぱり彼だった)とは違い、丸藤翔は十代の方に問いかけていた。息が整ったらしい十代が大きく頷く。

 

 「知り合いっつーか、幼馴染。」

 

 「そういえば、制服が同じっスね。」

 

 翔が納得した通り、俺と十代の着ている学生服は同じ物だ。同じ学校に通ってたんだから、当然なのだが。

 俺もまた、翔に対して苦笑する。

 

 「俺たち、家が隣同士なんだよ。」

 

 そうなのである。

 そして思い出す。あの日のことを。

 

 

 

 あれは童実野町を離れたその日のこと。

 以前に住んでいたものとそう大差の無いボロアパートに引っ越した俺は、家から追い出されていた。誤解しないでほしいが、邪険に扱われたわけではない。ただ家が狭いので、ある程度片付くまでは待ってなさいと言われただけだ。

 なのでアパートの入り口の辺りで手持無沙汰にしていると、隣の民家の塀の影から興味深そうにこっちを見ている、俺と同い年ぐらいのちびっ子が1人。

 暇を持て余していたこともあり、その子に『おい、デュエルしろよ』と持ちかけてみたのだが。彼は大層驚き、しかし次の瞬間には満面の笑顔で頷いた。あまりにも驚きが大きいようだったので疑問に思って聞いてみると、どうやら彼はデュエルが好きなのだが相手がいないらしい。誰も誘ってくれず、自分から誘っても逃げられるのだとか。不運なヤツもいるもんだ、とその時は思った。思えば俺も呑気だった。

 あれ? と思ったのはデュエルが始まってすぐだった。具体的には、対戦相手のその子が使うのがHEROデッキなのだと知った時だ。

 まさか……と思いつつもデュエルを続行し、終わった後に(ちなみに、この時は俺が勝った)家の場所と名前を聞いてみた。

 結果、お隣の遊城さんちの十代君だと判明しました……どうしてこうなった。

 なるほど、デュエルの相手がいないってのは、ユベルの爪痕か。社長があのカード打ち上げ企画を済ませてしまってる今、ユベルはもう十代の手元には無いはずである。しかもエンディミオンやフェーダ-に反応を示さない所を見るに、その記憶すら既に失われているらしい。しかし、対戦相手が意識不明になったりなどという事態が頻発していたのだ。そりゃあデュエルの相手いなくなるって。誰だって我が身は可愛い。

 しかしこれはどういう巡り合わせだ。俺はお隣さんに対してどんな縁があるというのか。

 この現実に俺がちょっと遠い目になりながら苦笑いをしていると、タイミングよく両家の両親が家から出てきた。

 

 想像してごらん。

 目の前には、『楽しかったぜ!』と笑う同い年の少年。『久しぶりにデュエルが出来た!』って……ちょ、おま、そういうことを満面の笑顔で言うなよな。思わずホロリときちゃうだろ!

 その少年の後ろには、少年の両親。明らかな安堵の表情を浮かべながら(多分、何事も無くデュエルが終わったからだろう)、『これからもうちの子と仲良くしてやってね。』と頼まれ。

 俺の背後には俺の両親。『いえいえこちらこそ。』とか言っちゃってるこちらの表情に浮かんでいるのも安堵だった。『この子、なかなか同い年の友達が出来なくて』って……うん、俺が友達だって紹介するの、年の離れた人ばっかだったもんね。しかも殆どが高校生以上。何気に心配させてたらしい。ごめん。

 そんな面々に囲まれたこの状況下で。

 『うん。』と頷く以外に、俺にどんな選択肢があったと言うのか。

 

 それ以来、小学生の頃も中学生の頃も、俺はその少年・遊城十代とつるむこととなったのだった。

 

 そして心に誓う。将来俺が住む場所を選ぶときは、お隣さんが不動さんでないことをちゃんと確認してからにしよう、と……不動さんの方が後からお隣に引っ越してきたりしたら、流石に泣くぞ。

 

 

 

 「あ、そうだぜ優! メールしたのに、何で返事くれなかったんだよ!」

 

 俺が回想に浸っていると、十代がビシッと指差してきた。俺はそれに肩を竦める。

 

 「電源切ってたんだよ。」

 

 そしてさっき、即座に削除した。あのメールを保存することは、メモリの無駄遣いだ。

 突き付けられた指をピシッと払いながら、俺は溜息を吐く。

 

 「ってか何だよ、あのメール。電車が止まった愚痴なんてわざわざ送って来るなよ。」

 

 「しょーがないだろ! 他にすること無かったんだって!」

 

 そりゃあ、止まった電車の中で出来ることなんて限られてるし。気持ちは解らんでも無いが。っていうか。

 

 「交通機関の遅れによる遅刻は仕方が無いことだし、慌てる必要なんて無かったんだよ……ちゃんと遅延証明書は貰って来たのか?」

 

 「……へ?」

 

 あ、コイツ貰って来てねぇな。

 俺がまた溜息を吐くと、十代はバツが悪そうにした。

 だがまぁ、1つのヤマはちゃんと超えられたようで良かった。

 十代の横に浮かんでいるハネクリボーの姿を認め、俺は少しホッとしていた。十代にはまだ見えていないようだが、そいつは確かにそこにいる。

 

 

 俺とて、何も考えなかったわけではない。

 正直に明かせば、俺はGXの原作知識がかなり曖昧だ。

 単純に、時間が経ちすぎているのである。GXをアニメで見たのなんて20年は前のことなんだから、仕方が無いだろう。遊戯さんたちの時にちゃんとDMのことを覚えていたのは、前世の記憶が蘇った直後だったからに過ぎない。

 さらに言うなら、GXは3期以降の鬱展開が子供心には強烈過ぎて、DMのように何度も見返すと事も無かった。これで覚えていろという方が無理というものだ。

 だがそんな曖昧な記憶の中でも、十代がクロノスに目を付けられたことによって少なくない騒動が巻き起こされた、というのは覚えていた。

 なので俺は今朝、十代が遅刻しないように引き摺って行こうかとも思ったのだが。

 同時にふと気付く。

 十代が遅刻しないと遊戯さんからハネクリボー貰えないじゃん、と。

 なので俺は1人、早めに向かうことにした。1人で試験会場に向かおうとする俺に、母さんは少し驚いた顔をしていた。どうせ行く場所は同じなのに十代は一緒じゃないのか、と。母さんがそう聞いてくるのも解る。実際に筆記試験には一緒に向かったし、これまでの登校も大抵一緒だった。

 だがこの瞬間、俺の脳内には【パワー・ツール・ドラゴン】が召喚されていた。

 

 (【パワー・ツール・ドラゴン】の効果発動。デッキから装備魔法カード(と書いて選択肢と読む)を3枚選んで相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選ぶ。相手が選んだカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードをデッキに戻す。俺が選んだ装備魔法カード(と書いて選択肢と読む)はこの3つ。【綺麗に見捨てる】・【華麗に見捨てる】・【爽やかに見捨てる】。)

 

 相手はいないので俺が自分でランダムに選ぶが、それによって俺の心は決まった。

 俺は訝しがる母さんにニッコリ微笑み、流石の十代も受験に遅刻したりなんてしないだろう、と誤魔化して家を出た。つまりは(十代を)爽やかに見捨てた。

 

 だってそうするしかない。

 十代には遅刻してもらわなきゃいけないみたいだが、俺が一緒に遅刻する意味は無い。理由が交通機関の遅れとはいえ遅刻は心証を悪くしかねないし、遊戯さんと顔を合わせるわけにもいかない。あの人とは約束があるんだ。

 

 『受験番号110番の受験生はデュエル場に降りて下さい。』

 

 俺がそんなことをつらつらと考えていると、正真正銘最後の受験生を呼ぶアナウンスが流れた。

 

 「あ、俺だ。じゃあ行くぜ。」

 

 そう言って勢いよく降りて行く十代。だが、俺の受験勉強に付き合わせたはずなのに受験番号が3桁台とはこれ如何に?

 さて、それじゃあ俺も行きますか。

 

 「君は見て行かないのかい? 彼のデュエルを。」

 

 デュエルを始めようとしている十代に背を向けて去ろうとしている俺に、三沢が疑問を投げかけてきた。俺はそれに肩を竦めて答える。

 

 「結果は解ってるし、十代のデュエルはいつでも見られる。今はちょっと、人と待ち合わせをしててね。」

 

 「結果は解っている、か。そんなに強いのかい、彼は。」

 

 うん、それは少し違うかな。

 

 「確かに、強いのは強い。ただそれだけじゃない。アイツは『持ってる』のさ。」

 

 「『持ってる』?」

 

 「そう。」

 

 デュエルリングで語尾の可笑しな金髪教師と向かい合う十代を見て、心底そう思う。

 

 「デュエルに絶対は無い。どんなに強いヤツでも負けることはあり得る。けど世の中には、ここぞという時には絶対に勝つ、そんな風に思わせるデュエリストもいるんだ……アイツもその類だね。」

 

 常時デステニードローというスキルの持ち主なんだよ、あいつは。

 

 「尤も、だからって俺も、負ける気は無いけど。」

 

 言うだけ言って、俺は本当にその場を辞した。三沢ももう引き止めはしなかった。何やら考え込んでいる。

 

 さて、俺のもう1人の『幼馴染』は、一体どんな話があるんだろうか。

 

 

 




 <今日の最強カード>

優 「さて、第1回<今日の最強カード>のコーナーだよ。司会進行はこの俺、上野優と」

王 『その精霊、神聖魔導王エンディミオンだ……にしても、酷く淡泊なデュエルだったな。デュエルシーンよりも他のキャラとの絡みシーンの方が多かったのではないか?』

優 「うん、筆者もそれは自覚してるみたい。そうなっちゃった理由は2つ。」

王 『2つ?』

優 「1つ目は、単純に筆者のデュエルスキルが低い。これが最大の要因だね。」

王 『真理だな。』

優 「2つ目は、相手が試験デッキだってこと。言い方は悪いけれど、自分のカードの効果すら把握していなかった初期の翔や隼人でも受かった試験で使われたデッキだからね……そのレベルは高くなさそうだってのが筆者の見解。かと言って十代のように遅刻したわけでもなし、試験用じゃないデッキを使うのは不自然だろう?」

王 『まぁ、な。』

優 「だからさ、筆者も途中で開き直ったらしいよ。今回のコレは今後のデュエル描写のための練習台だと割り切ろうって。なので読者の方々も出来ればご意見ください、とのことです。ここが見にくいとか、こういった情報が不足してるとか。逆に、くどく説明しすぎだ、とかそういったのでも何でも。」

王 『他力本願め。』

優 「精進のために忌憚ない意見を求めているのさ。けどまぁ、デュエルが淡泊だったせいか、<今日の最強カード>って何だろうと考えても中々出て来なかったらしい。」

王 『だから、我を召喚しておけば良かったのだ』

優 「(完全にスルーして)なのでここで、さり気ない裏設定を1つ。このカードを紹介。」

【魔導戦士 ブレイカー】

王 『? 確かに、OCGでは禁止カードであったこともあったが……それがどうした?』

優 「実はこのカードね、俺がアテムさんから譲られたものなんだ。だから本編でも言ってただろ? 特別なカードだって。」

王 『……何? 確かにファラオはこのカードを使っていたが……一体いつの間に。確か、闘いの儀の時もデッキに入っていたはず……』

優 「だから、その時だよ。2人のデュエルが終わって、アテムさんが冥界に還るまでの僅かな時間。『ラッキーカードだ、コイツが君の所に行きたがってる』ってね。」

王 『……事実か?』

優 「まぁ、セリフは捏造だけど。本当は、自分はもう還るからってね。俺なら使いこなすだろうってさ……遊戯さんやアテムさんに譲られたカードは少なくないけど、あの状況で譲られたこのカードは特に思い入れが強いんだ。」

王 『成る程な。しかし……縁起が悪くないか? ファラオの【魔導戦士 ブレイカー】ということはつまり……』

優 「そう。みんな大好きバーサーカーソウルでHA☆GAさんを爆☆殺した、あの【魔導戦士 ブレイカー】さ。」

王 『……ファラオの心の闇がギュッと濃縮して詰まっていそうな1枚だな。』

優 「気のせい気のせい。アテムさんはちゃんと立ち直ったし。」

王 『だといいがな。』

優 「さて、それじゃあまた次回にて。」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。