遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

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 前回に引き続き、暴走警報発令中。


第19話 暫定決定とSGD

三沢 LP4000 手札3枚

  モンスター (攻撃)【白魔導士ピケル】

         (守備)【アロマージ-ジャスミン】

  魔法・罠  (永続罠)【融合禁止エリア】

         伏せ1枚

 

 「このスタンバイフェイズ、【ピケル】たんの効果発動! 自分フィールド上のモンスター×400のライフを回復する! 俺の場にいるのは【ピケル】たん自身と【ジャスミン】の2体! よって800ポイントのライフが回復する!」

 

三沢 LP4000→4800

 

 フィールドにいる【ピケル】がとてとてと三沢に駆け寄り、その手に持ったステッキを翳す。その杖先から溢れ出た暖かな光は三沢を包み込み、そのライフを回復させる。

 そしてその直後、【ジャスミン】も動く。彼女が軽くウインクをするのを三沢は満足そうに見た。

 

 「更に【ジャスミン】の効果発動! 1ターンに1度、自分のライフが回復した時にデッキからカードを1枚ドローする!」

 

【アロマージ-ジャスミン】

効果モンスター

星2 光属性 植物族 攻撃力 100/守備力1900

自分のLPが相手より多く、このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「アロマージ-ジャスミン」以外の植物族モンスター1体を召喚できる。

1ターンに1度、自分のLPが回復した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 成る程、と十代は納得した。

 植物族と聞いただけではシナジーが無いように思えたが、三沢が特殊召喚した【ジャスミン】にはライフゲイン時に発動する効果があったようだ。確かにそれなら、【ピケル】との相性はいい……かもしれない。或いは、単にイラストで選んだカードがたまたま噛み合っただけなのかもしれないけれど。

 

 「メインフェイズ、まずは【強欲な壺】を発動! デッキから2枚ドロー! そして【アームズ・ホール】を発動する! デッキトップのカードを墓地に送り、デッキか墓地から装備魔法を1枚手札に加える……ただしこのターン、俺は通常召喚が行えない!」

 

【アームズ・ホール】

通常魔法

このカードを発動するターン、自分は通常召喚できない。

デッキの一番上のカードを墓地へ送って発動できる。

自分のデッキ・墓地から装備魔法カード1枚を選んで手札に加える。

 

 「俺はデッキから【シンクロ・ヒーロー】を手札に加える!」

 

 「おっ!」

 

 覚えのあるカードに十代が少し反応した。

 【シンクロ・ヒーロー】といえば、装備対象の攻撃力を500、レベル1上げる装備魔法だ。以前……制裁デュエルの少し前に翔に見せてもらったのを皮切りに、十代自身も何度かパックで引き当てたことがある。

 しかし【シンクロ・ヒーロー】の反応した十代とは違い、当の三沢はむしろ【アームズ・ホール】の効果で墓地に送られたカードを確認して笑みを深めた。

 

 「十代、どうやらデッキも俺に応えようとしてくれているようだ! 俺は永続魔法【増草剤】を発動!」

 

 「【増草剤】? ひょっとしてまた植物族のサポートカードか?」

 

 「その通り!」

 

【増草剤】

永続魔法

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に、自分の墓地の植物族モンスター1体を選択して特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚するターン、自分はモンスターを通常召喚できない。

この効果で特殊召喚したモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。

 

 「この効果によって、俺は墓地の植物族モンスター1体を特殊召喚できる! ただしこの効果を使ったターン、俺は通常召喚が出来なくなるが……既に【アームズ・ホール】の効果によってこのターンの通常召喚は封じられているため、問題は無い!」

 

 【増草剤】に【アームズ・ホール】。共に通常召喚を封じるというデメリットを持つ魔法カードだが、同ターン中に使ったのならばそのデメリットによる被害を軽減できる。

 そして両者ともに、あくまでも封じられるのは通常召喚のみであり、特殊召喚に関しては何の制限も無いのだ。

 

 「墓地から【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚!」

 

【ローンファイア・ブロッサム】

効果モンスター

星3 炎属性 植物族 攻撃力 500/守備力1400

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する植物族モンスター1体を生贄に捧げて発動できる。

デッキから植物族モンスター1体を特殊召喚する。

 

 これまでに三沢が墓地にモンスターを送る機会は、先ほどの【アームズ・ホール】でしか無かった。ならばこのモンスターは間違いなくその時に墓地に送られたのであり、なるほど確かに三沢のデッキは上手く回っているようだ。

 しかし墓地より舞い戻ったそのモンスターは【ピケル】や【ジャスミン】とは異なり、幼女では無かった。いや、そもそも人型ですらなかった。

 花が咲く、小さな樹木である。

 

 「へぇ、そんなモンスターも入れてるんだな!」

 

 感心して笑う十代に、三沢は頷く。

 

 「ああ! こいつのおかげで、彼女たちはより輝くことが出来る! 【ローンファイア・ブロッサム】の効果発動! 自分フィールド上に表側表示で存在する植物族モンスター1体を生贄に捧げることで、デッキから植物族モンスター1体を特殊召喚する! 俺は【ローンファイア・ブロッサム】自身を生贄に捧げる!」

 

 フィールド上の【ローンファイア・ブロッサム】が咲かせていた花が急速に枯れ落ちる。しかしその花弁が落ち切った瞬間にフィールドは光に包まれた。

 

 「枯れ行く花の命を受け継ぎ、現れろ! 【アロマージ-ローズマリー】!」

 

 【ローンファイア・ブロッサム】が完全に枯れ落ち、次いで対象を失った【増草剤】が破壊される中、その光から現れたのはアロマージの名を冠する新たなモンスター。【ジャスミン】といい彼女といい、やはり初見では植物族とは思えないモンスターである。

 そしてやっぱり少女だった。

 

【アロマージ-ローズマリー】

効果モンスター

星4 水属性 植物族 攻撃力1800/守備力 700

自分のLPが相手より多く、このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の植物族モンスターが攻撃する場合、ダメージステップ終了時まで相手はモンスターの効果を発動できない。

1ターンに1度、自分のLPが回復した場合、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動する。そのモンスターの表示形式を変更する。

 

 『ふふっ』

 

 銀髪で白のイメージがあった【ジャスミン】とは異なり、全体的に青のイメージを持たせる【アロマージ-ローズマリー】。

 手にした杖の先に火の点ったキャンドルが立っていることが、両者の共通点だろうか。なるほど確かに、アロマをイメージしたモンスターだろう。

 そして守備力は高くとも攻撃力は低い【ジャスミン】とは対照的に、【ローズマリー】は十二分にアタッカーの役割を果たせるだけの攻撃力を持つ。

 来るか、と身構える十代だったがしかし、三沢のメインフェイズはまだ終わっていなかった。

 

 「そして【シンクロ・ヒーロー】をお前の【バブルマン】に装備する!」

 

 「【バブルマン】に?」

 

 けれど三沢の予想外の行動に十代は首を捻る。

 三沢は愛の力で【ピケル】を使いこなすと言うが、【ピケル】が低ステータスのモンスターであるという事実は間違いない。なのでそのステータスを装備魔法で補うのだろうと十代は考えたのだが、違ったのだろうか?

 加えて、ステータスを上げる効果を持つ装備魔法を相手モンスターに装備させるというのも、あまり見ない光景である。尤も【バブルマン】は守備表示なため、攻撃力が上がった所で意味は無いのだが。

 十代のその困惑を三沢は正確に把握しているようで、フッとニヒルに笑った。

 

 「わけが解らない、という顔だな? この意味を教えてやろう! 俺は更に【王女の試練】を【ピケル】たんに装備!」

 

【王女の試練】

装備魔法

「白魔導士ピケル」「黒魔導師クラン」にのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

装備モンスターがレベル5以上のモンスターを戦闘によって破壊したターン、装備モンスターとこのカードを生け贄に捧げる事で、「白魔導士ピケル」は「魔法の国の王女-ピケル」を、「黒魔導師クラン」は「魔法の国の王女-クラン」を手札またはデッキから1体特殊召喚する。

 

 「【王女の試練】は【ピケル】たんか【クラン】たんのみ装備可能なカード! これによって【ピケル】たんの攻撃力は800ポイントアップ!」

 

【白魔導士ピケル】 攻撃力1200→2000

 

 フィールドのピケルは力を漲らせている。小さな体で拙いファイティングポーズを構え、『頑張るのです!』とでも言いたげな雰囲気だった。

 そして長いメインフェイズを終え、遂に三沢はバトルフェイズへと移行する。

 

 「バトル! 【ピケル】たんで【バブルマン】を攻撃! 《マジカル・シャイン》!」

 

 余談であるが、この【ピケル】の攻撃名の命名者は優である。『あの言葉に触発されたんなら、やっぱりこういう攻撃名の方がいいよね』と言っていたが、一体どういう意味だったのだろうと三沢は疑問を覚えた。

 特に既存案があったわけではないし、【ピケル】のイメージからも外れていなかったため、そのまま採用させてもらったが。

 

 『え~~いっ!』

 

 拙い動作でステッキを振りかぶり、桃色の光線を放つ【ピケル】。その愛らしくも健気な姿に、観戦していたアカデミア生たちの一部が萌えた。

 そしてその桃色光線を正面から浴び、【バブルマン】は溶けるように消え去ってしまう。

 

 「だがこの瞬間、トラップ発動! 【ヒーロー・シグナル】! 自分フィールド上のモンスターが戦闘か効果で破壊された時、手札かデッキからレベル4以下のE・HEROを1体特殊召喚する! 俺は【エアーマン】を特殊召喚!」

 

 『トゥッ!』

 

 「そして【エアーマン】の効果! こいつの召喚・特殊召喚したとき、デッキからHEROを手札に加える! 俺は【エッジマン】を手札に加えるぜ!」

 

 後続を呼び出し、なおかつ手札も補充する十代に対して三沢は苦笑した。

 

 「やはりそう簡単には行かないようだな。【エアーマン】と【ローズマリー】の攻撃力は互角。相打ちに持ち込むことは出来るが……しかし! 俺はそのような真似はしない!」

 

 何故しないのだろう、とちょっと疑問に思う十代。彼の方は【エアーマン】を特殊召喚した時、ちょっと覚悟していたのだが。何しろ三沢の場には【ローズマリー】以外にも2体のモンスターがいるのに対し、十代の場にいるのは件の【エアーマン】のみで伏せカードも無いのだから。

 しかし観客席に数多いる三沢の同士たち(翔も含む)はうんうんと頷いているので、多分、彼らにしか解らない謎の心理が働いているのではなかろうか。

 

 「バトルフェイズは終了だ! そして辛く厳しい試練を乗り越えて初めて、【ピケル】たんは真に輝く!」

 

 三沢はフィールド上の【ピケル】と顔を見合わせて頷きあい、誇らしげに胸を張った。

 

 「時に十代、お前は【ピケル】たんのバックストーリーを知っているか?」

 

 「へ?」

 

 突如として全く覚えのない話題を振られ、十代は些か間の抜けた声を上げてしまう。そしてそのキョトンとした表情から、彼が何も知らないのだと察した三沢は嘆かわしいと嘆息する……ぶっちゃけ、HERO使いの十代が【ピケル】のバックストーリーを知らなくても何も可笑しくなんて無いのだが。

 

 「【ピケル】たんは本来、魔法の国の王の娘として生を受けた。【クラン】たんとは双子の姉妹だ。しかし彼女たちは王の娘というだけでは王女としては認められず、引き離されて苛酷な修行を課せられた。何という悲劇だ。折角の姉妹が引き離されてしまうなんて! だが彼女たちは未だ見ぬ姉妹を心の支えとして腐ることなく懸命に修行に励み、時に笑い、時に泣き……」

 

 「なぁ、その話ってまだ続くのか? つーかデュエルに関係してるのか?」

 

 始めは大人しく聞いていた十代であったが、なんだか話が長くなりそうな予感がした。なので途中で割り込むことで、三沢の妄想がかなり入り混じって若干オリジナルストーリーと化しつつあった【ピケル】のバックストーリーをぶった切る。

 話の腰を折られた三沢であったが、自分が脱線しつつあったことにはすぐ気付いたらしく、気を悪くしたりはしなかった。

 

 「……そうだな。確かに今そこまで話す必要も無い。後でとくと語って聞かせてやろう」

 

 とくと語られる前に逃げよう、と心に決める十代。デュエルに関わりない長い話や難しい話は苦手なのだ。

 そんな十代の内心に気付くことなど当然無く、三沢はデュエルに戻って来る。

 

 「俺が言いたいのは! 今、【ピケル】たんは試練を乗り越えたということだ! 括目しろ! 俺は【王女の試練】と【ピケル】たんを生贄に捧げ……」

 

 フィールドに突如として現れる魔法陣。そこから放たれる神々しいまでの光は【ピケル】を優しく包み込み、彼女をより高みへと引き上げる。

 

 「【魔法の国の王女(プリンセス)-ピケル】を特殊召喚!」

 

 そして再びフィールドに降り立った【ピケル】は、今までとはまた違った風格を漂わせていた。頭身が僅かに伸び、豊かな髪を綺麗に巻いた少女は、柔らかな笑みを浮かべている。

 

 「【ピケル】が成長した?」

 

 面差しは【ピケル】そのままに、しかし確実に今までとは違うその姿は、十代が初めて見るものだった。

 

 「【ピケル】たん達に課せられた、真の王女となる試練! それはレベル5以上のモンスターを戦闘によって破壊することだ! その試練が達成された時、フィールド上の【王女の試練】と【ピケル】たんを生贄に捧げることで、手札かデッキから【魔法の国の王女(プリンセス)-ピケル】は特殊召喚する!」

 

 「【バブルマン】は【シンクロ・ヒーロー】の効果でレベルが1上がっていた……!」

 

 「その通りだ、十代!」

 

【魔法の国の王女(プリンセス)-ピケル】

効果モンスター

星4 光属性 魔法使い族 攻撃力2000/守備力 0

このカードは通常召喚できない。

このカードは「王女の試練」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

自分のスタンバイフェイズ時、自分フィールド上に存在するモンスターの数×800ライフポイント回復する。

 

 【バブルマン】の本来のレベルは4。しかし【シンクロ・ヒーロー】の効果で1上がれば5。なるほど確かに、【王女の試練】の条件は満たしている。

 つまり、三沢は【シンクロ・ヒーロー】を『攻撃力を500上げる装備魔法』ではなく『レベルを1上げる装備魔法』として扱ったわけだ。もしもこの場に優がいれば、内心で拍手喝采したであろう。これまで優が見てきた限り、そちらの効果に着目したデュエリストはほぼいなかったから。

 

 「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

三沢 LP4800 手札0枚

  モンスター (攻撃)【魔法の国の王女-ピケル】

         (守備)【アロマージ-ジャスミン】

         (攻撃)【アロマージ-ローズマリー】

  魔法・罠  (永続罠)【融合禁止エリア】

         伏せ2枚

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

十代 LP4000 手札7枚

  モンスター (攻撃)【E・HERO エアーマン】

  魔法・罠  無し

 

 十代の手札は7枚。普段ならばこれだけ潤っていれば色々と動けるのだが、三沢の場で【融合禁止エリア】が発動している限りは選択肢が限られてしまう。

 

 「俺は【天使の施し】を発動! デッキから3枚ドローして2枚を捨てる!」

 

 期待と共に3枚のカードをドローしたが、期待していた【サイクロン】や【ライトジャスティス】は来なかった。何故だろう、いつもより調子が悪いような気がする。愛に当てられたのか?

 しかしその一方で、三沢は絶好調のようだった。

 

 「ふ……十代! 言っただろう、俺は俺のデュエルスタイルも捨てないと! つまり、お前のデュエルは既に研究済みだ! トラップ発動、【逆転の明札】!」

 

【逆転の明札】

通常罠

相手がデッキからカードを手札に加えた時、またはドローフェイズ以外でデッキからカードをドローした時に発動する事ができる。

相手の手札と同じ枚数になるように自分のデッキからカードをドローする。

 

 「このカードは相手がデッキからカードを手札に加えた時、またはドローフェイズ以外でドローした時に発動できる! そして俺は自分の手札がお前と同じ枚数になるようにドローする!」

 

 「俺の手札と同じ枚数って……」

 

 十代は我彼の手札を鑑みる。自分の手札は7枚。そして三沢の手札は0枚。

 

 「って、一気に7枚のドロー!?」

 

 「言っただろう、お前のデュエルは研究済みだと! お前ならきっとドローソースを使うと思っていた……何しろ『ドローの鬼』だからな!」

 

 冗談めかしてそう言う三沢だが、その内心では十代にだけはドローを驚かれたくないと思っていた。十代のデュエルを研究すればするほど、その脅威のドロー力に苦笑いしか浮かんでこないのだ。ちなみに三沢の友人の1人は、十代のその特性をチートドローと称していたりする。

 しかしそんなことは当然口に出したりせず、不敵な笑みのまま手札を補充する三沢。

 

 「ちぇっ、しょーがねーか。俺は墓地の【ネクロダークマン】の効果! このカードが墓地にある時、手札のレベル5以上のE・HEROを生贄無しで召喚出来る! レベル7の【E・HERO エッジマン】を生贄無しで召喚!」

 

【E・HERO ネクロダークマン】

効果モンスター

星5 闇属性 戦士族 攻撃力1600/守備力1800

このカードが墓地に存在する限り1度だけ、自分はレベル5以上の「E・HERO」モンスター1体を生贄なしで召喚できる。

 

【E・HERO エッジマン】

効果モンスター

星7 地属性 戦士族 攻撃力2600/守備力1800

このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

 先ほど【エアーマン】でサーチした十代のメインデッキに投入されている唯一の最上級HEROが、その黄金の体を輝かせながらフィールドへと降り立った。

 

 「バトルだ! 【エッジマン】で【ピケル】に攻撃! 《パワー・エッジ・アタック》!」

 

 【魔法の国の王女-ピケル】は【白魔導士ピケル】が進化した姿である。ならば当然、ライフゲイン効果も持っているだろう。故にアロマージの効果を発動させないためにも、【ピケル】を狙うのは当然……の、はずなのだが。

 

 「ぎゃあああああああああ!!!」

 

 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 「何やってんだ遊城ィィィィ!!!」

 

 「アニキの人でなし~~~~~~!!!!!!」

 

 「何でだよ!?」

 

 対戦相手の三沢では無く、何故かボルテージMAXの観客たちにディスられるという理不尽さ。これには流石の十代も憤慨する。しかも、特に大きな悲鳴を上げていたのが翔だという事実が更に十代を精神的に追い詰めた。

 

 「諸君!」

 

 しかし三沢は、そんな阿鼻叫喚を一喝のみで鎮めてしまう。

 

 「案ずることは無い! まさか、この俺がそうやすやすと【ピケル】たんを危険に晒すと思ったか!?」

 

 自信に満ち満ちたその表情に、観客たちは焦ってヤジを飛ばしてしまった己を恥じる。

 そうだ、今自分たちの前にいるのは誰だ? 愛と正義の使者にして真の漢・三沢大地ではないか。彼ならばきっと何とかしてくれるはずだ……皆はそんな何の根拠も無い謎の信頼感を感じ、静かに見守ることにした。

 そんな訳の解らんやり取りの間にも【エッジマン】の刃は確実に【ピケル】へと近付いていたが、実際にその攻撃が決まる前に、三沢は動く。

 

 「十代! 涙を呑み、しかし勝利のために愛らしき【ピケル】たんを攻撃するその覚悟は敵ながら天晴と言う他ない!」

 

 「へ?」

 

 いや、別にそんな悲壮な覚悟はしていない。そもそも涙も呑んじゃいないのだが、と十代は困惑する。

 しかし三沢はそんな十代の様子など気にしちゃいなかった。

 

 「だが! 俺はこの身を以て彼女たちを守る! それこそが俺の愛だ! リバースカードオープン! 永続トラップ、【光の護封壁】!」

 

【光の護封壁】

永続罠

1000の倍数のライフポイントを払って発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、払った数値以下の攻撃力を持つ相手モンスターは攻撃をする事ができない。

 

 「これこそが、俺の命を注ぎ込んで築き上げる【ピケル】たん達を守る砦! 出し惜しみはしない! 俺は4000のライフを支払う! これで十代、お前は攻撃力4000以上のモンスターしか攻撃ができなくなった!」

 

三沢 LP4800→800

 

 文字通り、その命(ライフ)を削って光り輝く障壁を築き上げる三沢。当然【ピケル】はそれによって守られている。

 【エッジマン】の攻撃を防ぐだけならば、支払うライフは3000で事足りた。しかし彼はそれで良しとはせず、今の自分で出来る最大限の防御を敷いたらしい。何故そこまでしたのかは解らんが。

 しかし宣言通りに、更には己が身を削ってまで確実に【ピケル】を守るその雄姿に、観客たちは胸を打たれる。

 

 一方の十代は、決められなかったことに残念そうな顔をした。しかし、相手が手強ければ手強いほど燃えるのがデュエルというもの。すぐさま闘志を取り戻す。

 とはいえ融合召喚を封じられた今の状況で、攻撃力4000以上を出すというのはかなり難しい。

 少しずつ、しかし着実にロックが出来上がりつつあった。これはあまり時間を掛けてはいられないかもしれない。

 

 「……俺は【エアーマン】を守備表示に変更! そしてカードを2枚セット! ターンエンド!」

 

十代 LP4000 手札4枚

  モンスター (守備)【E・HERO エアーマン】

         (攻撃)【E・HERO エッジマン】

  魔法・罠  伏せ2枚

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP800 手札8枚

  モンスター (攻撃)【魔法の国の王女-ピケル】

         (守備)【アロマージ-ジャスミン】

         (攻撃)【アロマージ-ローズマリー】

  魔法・罠  (永続罠)【融合禁止エリア】

         (永続罠)【光の護封壁】 (4000)

         伏せ 無し

 

 「スタンバイフェイズ、【ピケル】たんの効果発動! 成長を遂げた【ピケル】たんの効果は以前の比では無いぞ! 【魔法の国の王女-ピケル】はスタンバイフェイズ、自分フィールド上のモンスター×800ポイントのライフを回復させる! 俺の場のモンスターは3体! よってライフが2400回復!」

 

 『頑張ってくださいですの~!』

 

三沢LP800→3200

 

 下級モンスターの一撃で簡単に消し飛びそうな程しか残っていなかったはずの三沢のライフが一気に回復する。

 そしてその回復をトリガーに、他の2体も動く。

 

 「そして俺のライフが回復したことで、【ジャスミン】と【ローズマリー】の効果が発動する!」

 

 「やっぱり【ローズマリー】にも同じ効果があったか!」

 

 同じ『アロマージ』の名を持つ以上、【ローズマリー】にも【ジャスミン】同様のライフゲイン時に発動する効果があるのではないか、というのは十代も予想していた。そしてそれはドンピシャだったわけだ。

 

 「まずは【ジャスミン】の効果でデッキからカードをドロー! そして【ローズマリー】は俺のライフが回復した時、フィールド上のモンスター1体の表示形式を変更する! 【エッジマン】には守備表示になってもらうぞ!」

 

 【ローズマリー】が持つキャンドルから漂う香りが【エッジマン】に纏わり付き、彼はそれに惑わされたのか守備の体勢となる。

 【エッジマン】は攻撃力こそ2600とかなりの値だが、その守備力は1800。これでは【ピケル】で充分突破されてしまう。

 そして三沢の手札は9枚もある。それだけの手札があれば、どのようにでも動けることだろう。

 

 「【魔法石の採掘】を発動! 手札を2枚墓地に捨て、墓地の魔法カードを1枚手札に戻す! 俺が手札に戻すのは【アームズ・ホール】だ!」

 

【魔法石の採掘】

通常魔法

手札を2枚捨て、自分の墓地の魔法カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

 【アームズ・ホール】にはそのターンの通常召喚を封じるデメリットがある。にも拘わらず墓地から回収するということはつまり、三沢のデッキで装備魔法が重要な位置を占めているということなのだろう。

 

 「手札に戻した【アームズ・ホール】を発動! デッキトップのカードを墓地に送り、デッキから【早すぎた埋葬】を手札に加え、そのまま発動する!」

 

【早すぎた埋葬】

装備魔法

800ライフポイントを払い、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。

このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

 

 ライフを800払うだけでモンスター1体を蘇生できる、汎用性の高いお手軽魔法。もしも能動的にバウンスして使い回すことが出来る手段でも出てくれば、禁止カードにも指定されるかもしれない一品である。

 

 「ライフを800払い! 来い、我が魂の片翼! 【黒魔導師クラン】!」

 

 『フンっ!』

 

三沢 LP3200→2400

 

 ツンデレっぽい声と共に、手に持ったピンクの鞭をしならせながら現れた幼き魔女。彼女が三沢のデッキに入っていることはとっくに察せられていたが、こうして実際にフィールドに出て来るとやはり反客席は盛り上がった。

 

 「【クラン】た~~~~ん!!」

 

 「鞭でビシバシして下さいッ!!」

 

 ……一部には特にコアなファンもいるようである。

 

【黒魔導師クラン】

効果モンスター

星2 闇属性 魔法使い族 攻撃力1200/守備力 0

自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在するモンスターの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 「そして【王女の試練】を【クラン】たんに装備!」

 

 「またか!」

 

 ついさっきは【ピケル】に装備されていた魔法が、今度は【クラン】に装備される。そしてその結果、次にどのような行動に移られるのかは十代にも容易に推察することが出来た。

 

【黒魔導師クラン】 攻撃力1200→2000

 

 「バトル! 【クラン】たんで【エッジマン】に攻撃! 《ナイトバースト》!」

 

 ちなみにこの攻撃名も優の発案だったりする。

 それはともかくとして、【クラン】はどこか優越の混じった……言うなれば女王様風の笑みを携えてその鞭を振う。見た目にはさしたる威力の無さそうな攻撃だというのに、それは何の問題も無く巨体のHEROを破壊せしめた。

 

 「そして! レベル7の【エッジマン】を戦闘破壊したことで今、【クラン】たんも試練を乗り越えた!」

 

 三沢と【クラン】は共に誇らしげに胸を張る。

 

 「特殊召喚! 来い、【魔法の国の王女(プリンセス)-クラン】!」

 

 『お仕置きよ!』

 

 ナニをお仕置きするのかは不明だが、とにかく【クラン】も【ピケル】と同様に真の王女へと成長した。

 

【魔法の国の王女(プリンセス)-クラン】

効果モンスター

星4 闇属性 魔法使い族 攻撃力2000/守備力 0

このカードは通常召喚できない。

このカードは「王女の試練」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

自分のスタンバイフェイズ時、相手のフィールド上に存在する

モンスターの数×600ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 当たり前のようにバトルフェイズを終了させて【クラン】を進化させた三沢だが、十代の場にはまだ【エアーマン】が残っている。

 それは【クラン】の進化を急ぐ余りのミス……では当然無く、恐らくはあえて残したのだろう。【クラン】の効果を発動させるためには、十代の場にモンスターがいる必要があるのだから。

 或いは、十代の場のリバースカードを警戒しているのかもしれないが。

 

 「まだだ! 手札から【死者蘇生】を発動! 再び蘇れ、【クラン】たん!」

 

 『あら? また私?』

 

 【黒魔導師クラン】と【魔法の国の王女-クラン】。2体の【クラン】がフィールドに揃ったことに三沢はご満悦である。

 

 「ふはは! これぞ【クラン】たん、夢の競演! まだあどけなさが残る幼き【クラン】たん! 王女としての風格を備えて気品を醸し出す【クラン】たん! 一粒で二度美味しいとは正にこの事! だがそれがイイ!」

 

 その力説に観客席から幾多もの同意の声が飛ぶ。三沢の同志は着実にその数を増やしつつあった。

 

 「そして……愛らしい少女たちには花が良く似合う。そうは思わないか、十代?」

 

 「ん? よく解んねぇけど、そうなのか?」

 

 「そうなんだ!」

 

 朴念仁の十代にはよく解らない理論だったが、三沢の目はマジだったのでそれ以上ツッコむのは止めておいた。

 

 「お前をモンスターの命を養分に花咲かせる魔界の花園へと招待しよう! フィールド魔法、【ブラック・ガーデン】を発動!」

 

 三沢がフィールド魔法を発動させたと同時、蔦のドームが2人が対峙するデュエル場を包み込んでしまう。

 

 「【ブラック・ガーデン】? モンスターの命を養分に……何だって?」

 

 「花咲かせる魔界の花園、だ! フ、すぐに解るさ。俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

三沢 LP2400 手札1枚

  モンスター (攻撃)【魔法の国の王女-ピケル】

         (攻撃)【魔法の国の王女-クラン】

         (攻撃)【黒魔導師クラン】

         (守備)【アロマージ-ジャスミン】

         (攻撃)【アロマージ-ローズマリー】

  魔法・罠  (フィールド魔法)【ブラック・ガーデン】

         (永続罠)【融合禁止エリア】

         (永続罠)【光の護封壁】 (4000)

         伏せ 2枚

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

十代 LP4000 手札5枚

  モンスター (攻撃)【E・HERO エアーマン】

  魔法・罠  伏せ2枚

 

 ライフポイントだけを見れば、十代の方が上回っている。しかしフィールドへと目を向けてみれば、そのライフ差は気休め程度……否、それにも満たないものだろう。三沢の方が明らかに充実しているのだ。

 それならば。

 

 「【サイクロン】を発動! 【融合禁止エリア】を破壊するぜ!」

 

 先ほどのドローで手札に加えた汎用除去。とにかく融合召喚さえできるようになれば何とかなる。しかしその考えは。

 

 「通さん! カウンタートラップ、【神の宣告】! ライフを半分払い、その発動を無効にする!」

 

 あっさりと止められてしまった。

 

 「くっ!」

 

三沢 LP2400→1200

 

 「お前が【融合禁止エリア】を突破しに掛かってくるのも想定内だ! そう簡単に融合は許さん!」

 

 腕を組み、自信を持って宣言する三沢。十代の融合を封じ続けるためならば、ライフの半分など欠片も惜しくは無かった。

 

 「……ははっ」

 

 しかしそんな三沢も、十代が急に笑い出したことで胡乱げな顔をする。

 

 「すげぇ……すげぇよ、三沢! 俺がやろうとすることを悉く先回りしてくる! 凄ぇワクワクしてくるぜ!」

 

 この状況でも未だ……否、尚更ワクワクを募らせているらしい十代に一瞬目を瞠った三沢だが、しかしそれでこそ遊城十代だ、とも思えてきて彼自身も笑みが零れる。

 

 「ああ! 楽しいデュエルだ!」

 

 十代という強敵と戦えること、己の魂のカードである【ピケル】や【クラン】と共に戦えていること。そしてそれを応援してくれている観客たち。三沢は今、とても晴れやかな気持ちだった。

 互いのタクティクスを認め合う2人は、デュエルを続行する。

 

 「俺は【神秘の中華なべ】を発動する! フィールド上の【エアーマン】を生贄に、その攻撃力分のライフを回復! ターンエンドだ!」

 

【神秘の中華なべ】

速攻魔法

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。

生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 

 自らフィールドを0にし、そのままターンを譲るという行動。しかし三沢は不敵に笑った。

 

 「なるほど、フィールド上のモンスターを0とし、なおかつライフも回復させる! 【クラン】たんのバーン効果を警戒したか! そしてそのリバースカードで攻撃を防ぐつもりなんだろうが……」

 

 まさにその通りであった。十代の場の2枚の伏せカードの内の1枚は、【クリボーを呼ぶ笛】。今は無防備なフィールドを晒しているが、これで十代の相棒たる【ハネクリボー】を守備表示で特殊召喚すれば、次のターンの戦闘ダメージは防げる。

 

【クリボーを呼ぶ笛】

速攻魔法

自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

【ハネクリボー】

効果モンスター

星1 光属性 天使族 攻撃力 300/守備力 200

フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。

ターン終了時まで、自分が受ける戦闘ダメージは全て0になる。

 

 或いは、もう1枚の方の伏せカードを使ってもいい。しかし、十代のその計算は。

 

 「それは甘いぞ、十代!」

 

 すぐさま崩れ去ってしまった。

 

 「? 何が……って、何だこれ!?」

 

 三沢の言葉に訝しげにした十代だったが、空にしたはずの自分のフィールドに何故かモンスターが存在していることに驚いた。

 

 「このエンドフェイズ、俺は【竹頭木屑】を発動していた! このカードは俺の場の植物族モンスター1体を生贄とし、お前の場に2体の【プラントークン】を守備表示で特殊召喚するトラップカード!」

 

【竹頭木屑】

通常罠

自分フィールド上に存在する植物族モンスター1体を生贄に捧げて発動する。

相手フィールド上に「プラントークン」(植物族・地・星1・攻800/守500)2体を守備表示で特殊召喚する。

 

 見ると、三沢の場からは【ローズマリー】が消えている。そういえば、一見そうは見えずとも【ローズマリー】と【ジャスミン】は植物族モンスターだった……と納得しかけると同時、全く別の『もの』も発見する十代。

 

 「うん? 何だそれ? 薔薇の花?」

 

 三沢の場にいる4人の少女たち。それとはまた別に、一輪の赤みがかった黒薔薇が三沢のフィールドに咲き誇っている。

 少女たちはその黒薔薇と戯れているが、2体の【クラン】が異様にお似合いである。【ピケル】と【ジャスミン】は些か不釣り合いな印象だが。

 

 「気付いたか、十代! これこそが【ブラック・ガーデン】の効果! この庭ではモンスターが召喚・特殊召喚される時、そのモンスターの力……攻撃力の半分を養分として取り込み、相手フィールドに【ローズ・トークン】1体を特殊召喚させるのさ!」

 

【ブラック・ガーデン】 

フィールド魔法

「ブラック・ガーデン」の効果以外の方法でモンスターが召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスターの攻撃力を半分にし、そのモンスターのコントローラーから見て相手のフィールド上に「ローズ・トークン」(植物族・闇・星2・攻/守800)1体を攻撃表示で特殊召喚する。「ローズ・トークン」は戦闘では破壊されない。

また、自分のメインフェイズ時に発動できる。このカードとフィールド上の植物族モンスターを全て破壊し、自分の墓地からこのカードの効果で破壊したモンスターの攻撃力の合計と同じ攻撃力のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 確認してみると、十代のフィールド上に現れた【プラントークン】の攻撃力は半減していた。尤も守備表示なので、表示形式を変更する効果を持つ【ローズマリー】がいなくなった現状ではあまり関係無いとも言えるのだが。

 

【プラントークン】1 攻撃力800→400

【プラントークン】2 攻撃力800→400

 

 しかしこれはアテが外れた、と苦い顔になる十代。三沢の言う通り、フィールドを空にしたのは【クラン】の効果を警戒していたのが大きな理由だったのだが、まさか相手からモンスター(トークンではあるが)を送られるとは思っていなかったのだ。

 

十代 LP5800 手札3枚

  モンスター (守備)【プラントークン】1 攻撃力400

         (守備)【プラントークン】2 攻撃力400

  魔法・罠  伏せ2枚

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

三沢 LP1200 手札2枚

  モンスター (攻撃)【魔法の国の王女-ピケル】

         (攻撃)【魔法の国の王女-クラン】

         (攻撃)【黒魔導師クラン】

         (守備)【アロマージ-ジャスミン】

         (攻撃)【ローズ・トークン】

  魔法・罠  (フィールド魔法)【ブラック・ガーデン】

         (永続罠)【融合禁止エリア】

         (永続罠)【光の護封壁】 (4000)

         伏せ 無し

 

 「スタンバイフェイズ! まずは【クラン】たん達の効果を受け取れ、十代! 【黒魔導師クラン】はスタンバイフェイズ時に相手フィールド上のモンスター×300ポイントのダメージを与える! 成長した【魔法の国の王女-クラン】が与えるダメージはその倍のモンスター×600ポイント! お前の場には【プラントークン】が2体! 2人の【クラン】たんで合計1800のダメージだ!」

 

 『『覚悟なさい!』』

 

 「ぶっ!」

 

十代 LP5800→4000

 

 【エアーマン】を生贄として回復し貯金しておいた十代のライフが一気に吹っ飛んだ。

 そして遂にダメージを受けた十代に観客たちは盛り上がる。

 

 「ああっ、【クラン】たん!」

 

 「どうせなら俺にその鞭を!」

 

 「羨ましいぞ、遊城ィ!」

 

 ……決して、2人の【クラン】による鞭打ちに興奮して歓声が上がったのではない。きっと無い。観客席でそんな声をモロに聞いてしまった明日香は、そうやって必死に己に言い聞かせた。

 

 「そして【ピケル】たんの効果! 俺の場にはモンスターが5体! よって4000のライフを回復!」

 

 『頑張れですの~!』

 

 いそいそと自身を回復させてくれる【ピケル】を、三沢は慈愛の籠った目で見つめる。ただ慈愛を込めているだけでは無く、妙にやに下がった目をしているのが色々と何かを台無しにしているが。

 

三沢 LP1200→5200

 

 それはともかく、【光の護封壁】に【神の宣告】、【早すぎた埋葬】などでライフを大幅に消費しているというのに三沢のライフは十代を上回ってしまった。4000ポイントといえばライフの初期値と同等であるから、それ自体は可笑しくはないといえば可笑しくないのだが。

 

 「更に【ジャスミン】の効果! ライフが回復したことでデッキからカードを1枚ドロー! メインフェイズ、俺は【フレグランス・ストーム】を発動! この効果によって俺はフィールド上の植物族モンスター1体を破壊してデッキから1枚ドローする! そしてドローしたカードが植物族のモンスターだった場合、それを公開することでもう1枚追加ドローを行える!」

 

【フレグランス・ストーム】

通常魔法

フィールド上に表側表示で存在する植物族モンスター1体を破壊し、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

さらに、この効果でドローしたカードが植物族モンスターだった場合、そのカードをお互いに確認し自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 

 【フレグランス・ストーム】の効果で破壊するのは、あくまでも『フィールド上の植物族モンスター』である。なので十代の場の【プラントークン】を破壊してドローすることも出来るのだが、【クラン】の効果のために十代の場にモンスターを残しておきたい三沢が今回、そんなことをするはずがない。

 

 「俺は【ローズ・トークン】を破壊! そしてドロー! ……ドローしたのは植物族モンスター、【カズーラの蠱惑魔】! よってもう1枚ドロー!」

 

 次いで三沢が手に取ったのは、手札のカード……十代の記憶が正しければあれは確か、【ジャスミン】の効果でドローして手札に加えたカードだったはずだ。

 

 「【ロードポイズン】を召喚! 【ブラック・ガーデン】の効果で攻撃力が半分となり、お前の場には【ローズ・トークン】が咲く!」

 

【ロードポイズン】

効果モンスター

星4 水属性 植物族 攻撃力1500/守備力1000

このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、自分の墓地に存在する「ロードポイズン」以外の植物族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 

【ロードポイズン】 攻撃力1500→750

 

 フィールドから伸びた蔦が【ロードポイズン】へと絡みつき、その力を吸い取っていく。そしてそれを糧とし、十代の場には新たな黒薔薇が咲く。

 

 「十代、お前は花言葉は……知らないだろうな」

 

 「おい、何で決めつけてんだよ!」

 

 「なら知っているのか?」

 

 「う! そ、それがデュエルと何の関係があるんだよ!」

 

 三沢に問われかけ、しかし答える前に納得されてしまい憤った十代だが、実際花言葉など知らなくて言葉に詰まる。しかしそれはあくまでも雑学に過ぎず、デュエルとは関係無いはずだ。そう気を立て直して逆に問い詰める。

 対して三沢は目を閉じてフッと口角を吊り上げた。

 

 「黒薔薇の花言葉は、『死ぬまで憎む』、『化けて出る』……」

 

 物騒な花言葉だ、薔薇ってもっと情熱的な花だと勝手に思ってたのだが、違ったのだろうか?

 そう思って首を捻る十代だったが、次の瞬間には三沢はカッと目を見開いた。

 

 「そして『永遠の愛』! 『滅びることの無い愛』!!」

 

 「くっ……」

 

 まただ、と十代は顔を顰める。またもや『愛』のフレーズを聞いた瞬間、頭の奥がキリキリと痛みだした。

 しかし十代のその渋面はデュエルでの劣勢から来るものだとでも判断したのか、三沢は特に頓着せずに続ける。

 

 「ここは【ブラック・ガーデン】……永久の愛が咲き誇る庭! 【ピケル】たん達には些か雰囲気が暗いが、しかし! ここには不滅の愛がある! それこそが俺の……」

 

 再び演説に入りかけている三沢だが、十代にそんな余裕は無い。頭痛がまだ治まらないのだ。

 

 (ああ、十代……十代十代十代十代十代十代十代十代十代十代!!)

 

 「!?」

 

 しかも、何だか妙な幻覚まで聞こえたような気がした。

 これはヤバい、と十代は直感で悟る。何がヤバいのかは解らないが、とにかくヤバい。これ以上深入りしたら、戻って来られないような気がひしひしとするのだ。

 

 「三沢! つまりどういうことだ!?」

 

 余計な思考をシャットアウトするには、デュエルに集中するに限る。そう判断した十代は三沢の演説をぶった切った。

 三沢も三沢で暴走しかけていた自分を認識したのか、ハッと我に返る。

 

 「熱くなり過ぎたか……すまないな、十代! 俺が言いたいのは! 【ローズ・トークン】が不滅の愛の象徴だということだ!」

 

 「不滅の愛の象徴……?」

 

 「【ローズ・トークン】には戦闘破壊耐性がある! そして攻撃表示だ! その意味は……解るな?」

 

 「!」

 

 十代にもすぐに解った。つまりは、サンドバックにされるということだ。

 

 「手札から【ワンショット・ワンド】を発動! これは魔法使い族のみ装備可能なカードで、攻撃力が800ポイントアップする! 俺はこれを【黒魔導師クラン】に装備!」

 

【ワンショット・ワンド】

装備魔法

魔法使い族モンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

また、装備モンスターが戦闘を行ったダメージ計算後、このカードを破壊してデッキからカードを1枚ドローできる。

 

【黒魔導師クラン】 攻撃力1200→2000

 

 「そしてバトル! 【ピケル】たんと2人の【クラン】たんで【ローズ・トークン】に攻撃! 《トライアングル・チャームボイス》!」

 

 『『『行く((わよ))(ですの)!!』』』

 

 なお、今回も攻撃名の提供者は優である。彼は一体三沢に何を仕込んでいるというのか。

 そして三人の魔法少女による攻撃は、不思議な桃色光線だった。それは【ピケル】単体での攻撃とどこか似た輝きを放っていたが……【クラン】の要素はどこに行ってしまったのだろうか。割合的には【クラン】の方が多いはずなのに。

 

 「くっ!」

 

十代 LP4000→2800→1600→400

 

 一斉攻撃の体ではあったが、実際の所は連続攻撃である。しかしそれによって十代のライフはごっそりと削られてしまう。

 流石にこれには十代も驚いた。【クラン】の効果のためには相手の場により多くのモンスターがいるのが望ましい。戦闘破壊耐性を持った、攻撃力の低いトークンへの集中攻撃。これはひたすら理に叶っている。

 

 「【ワンショット・ワンド】の効果発動! このカードを装備したモンスターが戦闘を行った時、そのダメージ計算後にこのカードを破壊してデッキから1枚ドロー! そして【ロードポイズン】で【ローズ・トークン】を攻撃!」

 

 「攻撃力は【ローズ・トークン】の方が上だぞ!?」

 

 「構わん、必要経費だ! くっ!」

 

三沢 LP5200→5150

 

 僅か50。しかしいくら僅かであろうと、明確な差である。当然、【ロード・ポイズン】は破壊される。しかしそれは、【ロードポイズン】の効果の発動条件が満たされたということでもあった。

 

 「【ロードポイズン】の効果! このカードが戦闘で破壊された時、墓地から【ロードポイズン】以外の植物族モンスター1体を特殊召喚する! 墓地から【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚! そして特殊召喚に反応し、【ブラック・ガーデン】は【ローズ・トークン】を咲かせる!」

 

【ローンファイア・ブロッサム】 攻撃力500→250

 

 元々高くない【ローンファイア・ブロッサム】のステータスは【ブラック・ガーデン】の効果で更に下がる。だというのに攻撃表示なのは、【光の護封壁】による加護があることもあるがそれ以上に、すぐにこの花もフィールドから消え去るからであろう。

 

 「そして【ローンファイア・ブロッサム】の効果! 【ローンファイア・ブロッサム】自身を生贄に捧げ、デッキから植物族の【アロマージ-カナンガ】を守備表示で特殊召喚!」

 

 『きゃっ!』

 

 「……すまない」

 

 現れてすぐ、【ブラック・ガーデン】の蔦に絡め取られたのはまたもや『アロマージ』の名を持つモンスター。

 【ロードポイズン】や【ローンファイア・ブロッサム】が同じように触手プレイ紛いな状態になった時には何の反応も示さなかった三沢が今回は小声で……しかし明らかに苦しげな顔で謝罪したのは、【カナンガ】が他の『アロマージ』たち同様に少女だったからだろうか。

 

【アロマージ-カナンガ】

効果モンスター

星3 地属性 植物族 攻撃力1400/守備力1000

自分のLPが相手より多く、このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする。

1ターンに1度、自分のLPが回復した場合、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。そのカードを持ち主の手札に戻す。

 

【アロマージ-カナンガ】 攻撃力1400→700

 

 しかし今はデュエルの真っ最中。三沢は心の中だけで滂沱しつつも己のターンを進める。その不退転の覚悟を窺わせる気迫は、正に漢と言う他ない。

 

 「そして【カナンガ】を特殊召喚したことにより、【ローズ・トークン】が再び咲く!」

 

 「これは……」

 

 己のフィールドを見、この状況にはさしもの十代も驚嘆した。

 

 「俺のフィールドがトークンで埋まった!?」

 

 そう、今や十代のモンスターゾーンは2体の【プラントークン】と3体の【ローズ・トークン】によって埋まってしまっている。

 三沢は大きく頷いた。

 

 「そうだ! 十代、これがどういう意味か解るな? 次のお前のターンで何とかしなければ! お前は次の俺のターンのスタンバイフェイズに【クラン】たんの効果によってライフをすべて失う!」

 

 仮に十代が何の手も打てず、このままの状況で次のターンを終わらせたとしよう。そうなると2体の【クラン】によるバーンダメージは合計4500。例え初期値であっても吹き飛んでしまう。ましてや、今の十代のライフは400。とてもでは無いが耐えきれない。

 否、仮に何らかの手を打てたとしても、生半可な手ではライフは持たないだろう。

 そして、追い打ちはまだ残されていた。

 

 「更に! 【カナンガ】の効果も発動している!」

 

 「【カナンガ】の効果? 今はライフを回復してないぜ?」

 

 【カナンガ】もまた、『アロマージ』の名を持つモンスター。ならばライフゲイン時に発動する効果を持っているのだろうという十代の予想は、確かに正しい。しかしそれは、完璧なものでは無いのだ。

 三沢はまるで種明かしをするように、得意げに胸を張る。

 

 「教えてやろう! 『アロマージ』モンスターには2種類の効果があるのさ! 1つは1ターンに1度、ライフが回復した時に発動する効果! もう1つは、自分のライフが相手のライフを上回っている時に発動する効果だ!」

 

 「2つの効果を持つだって!?」

 

 これまでのデュエル、三沢は様々なライフコストを払って来た関係もあり、中々十代以上のライフを持つ機会に恵まれなかった。

 加えて、デュエルの間にその状況が無かったわけではないのだが、そういった時に発動するタイミングも無かった。それ故にこれまで表には出て来なかったのだ。

 しかし今、機は熟した。

 

 「【カナンガ】の効果! それは俺のライフがお前よりも多く、このカードがモンスターゾーンにいる限り、お前の場のモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントダウンする!」

 

【ローズ・トークン】1 攻撃力800→300 守備力800→300

【ローズ・トークン】2 攻撃力800→300 守備力800→300

【ローズ・トークン】3 攻撃力800→300 守備力800→300

【プラントークン】1 攻撃力400→0 守備力500→0

【プラントークン】2 攻撃力400→0 守備力500→0

 

 トークンの攻守が下がったことは、実はそれほど問題では無い。そもそも、このトークンたちをこのまま場に置いておけばそれだけで次の三沢のターン、十代は負けてしまうのだから。

 しかし【ブラック・ガーデン】や【光の護封壁】が発動している今、三沢に攻撃を通そうと思ったら、それだけで攻撃力8000以上を必要とする状況なのだ。

 例に出せば、【パワー・ボンド】で【サイバー・エンド】を呼んだとしてもギリギリ同値、【リミッター解除】も使って漸く突破できる。そんな状態だ。そんな中で、さらに500余分に必要となるなど、気が遠くなりそうである。

 観客席で静かに見守っているカイザーも、自分だったらこの状況でどうするべきか考えを巡らせている。そして同時に、三沢大地というデュエリストの名を心に刻む……刻んだのはあくまでもデュエリストの名であってロリコンの名ではないので、あしからず。

 

 現在の状況を鑑み、観客席は一層沸き立つ。

 

 「三沢ー!!」

 

 「いいぞ! 行けーーーー!!」

 

 「【ピケル】たん! 【クラン】たん!」

 

 「萌え~~~~!!!」

 

 《ミ・サ・ワ! ミ・サ・ワ!》

 

 何所で誰がいつの間に示し合わせたのか、妙にシンクロした可笑しな身振りも加えて湧き上がる三沢コール。もしも優がこの場にいれば、内心で『太陽! 太陽!』とツッコんでいただろう。

 

 しかしそんな優位にあっても、当の三沢に油断は無い。

 何故ならば彼は、遊城十代というデュエリストを自分よりも格上として見るよう、己に言い聞かせているからだ。実際に実力がどうこうというよりも、それが三沢の気構えなのである。そのつもりで全力でぶつかる。故に、自分に出来ることはまだやっておく。

 

 「俺はリバースカードを2枚セット! ターンエンドだ! さぁ、十代! お前のラストターンだ!」

 

三沢 LP5150 手札0枚

  モンスター (攻撃)【魔法の国の王女-ピケル】

         (攻撃)【魔法の国の王女-クラン】

         (攻撃)【黒魔導師クラン】

         (守備)【アロマージ-ジャスミン】

         (守備)【アロマージ-カナンガ】

  魔法・罠  (フィールド魔法)【ブラック・ガーデン】

         (永続罠)【融合禁止エリア】

         (永続罠)【光の護封壁】 (4000)

         伏せ 2枚

 

 しかし三沢がエンド宣言をしても、十代はすぐにはドローをしなかった。見ると、俯いて僅かに肩を震わせている。

 

 「十代?」

 

 不思議に思って声を掛けてみると、十代は顔を上げる。その顔はとても楽しそうに笑っていた。

 

 「面白ぇ! 面白ぇな、三沢! なぁ、俺って今、大ピンチってヤツだろ? でも、次のドローで全てが引っくり返るかもしれない! そう考えたら、凄ぇワクワクしてくるんだ!」

 

 その言葉に、三沢は苦笑するしかなかった。そんなことが言えるのは……否、強がりでも何でも無く、心底そう感じることが出来るであろうデュエリストは、三沢が知る限りでは目の前にいる十代以外では優ぐらいのものだろう。彼も大概、デュエル馬鹿だから。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

十代 LP400 手札4枚

  モンスター (攻撃)【ローズ・トークン】1 攻撃力300 守備力300

         (攻撃)【ローズ・トークン】2 攻撃力300 守備力300

         (攻撃)【ローズ・トークン】3 攻撃力300 守備力300

         (守備)【プラントークン】1 攻撃力0 守備力0

         (守備)【プラントークン】2 攻撃力0 守備力0

  魔法・罠  伏せ2枚

 

 十代のドローカード。それはまさしく、希望への道の1つであった。

 

 「俺は【HEROの遺産】を発動! 墓地にレベル5以上のHEROが2体、【エッジマン】と【ネクロダークマン】がいるから3枚ドロー!」

 

 土壇場での奇跡のドロー。十代の幼馴染曰く、これは十代の勝利フラグの1つである、らしい。その言葉を思い出し、三沢はさらに気を引き締めた。

 

 「HEROにはHEROに相応しい、戦う舞台ってモンがあるんだぜ! まずは手札から【E・HERO キャプテン・ゴールド】の効果発動! このカードを手札から墓地に送ることで、デッキから【スカイスクレイパー】を手札に加える! そして【スカイスクレイパー】を発動! フィールド魔法の上書きで、【ブラック・ガーデン】は破壊される!」

 

 「くっ……愛の庭が……!」

 

【E・HERO キャプテン・ゴールド】

効果モンスター

星4 光属性 戦士族 攻撃力2100/守備力 800

このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。

デッキから「摩天楼 -スカイスクレイパー-」1枚を手札に加える。

また、フィールド上に「摩天楼 -スカイスクレイパー-」が存在しない場合、このカードを破壊する。

 

 崩壊し消えていく、黒き庭。代わりに現れたのはネオン輝く夜の街だ。

 この街がHEROが戦うに相応しい舞台と十代は言った。それは確かにそうなのかもしれないが、今回に限ってはそのフィールド魔法の効果よりも、【ブラック・ガーデン】を割ることにこそ重きを置いているのではなかろうか。

 なお完全に余談ではあるが、【ブラック・ガーデン】……三沢曰く『愛の庭』が消えた時、地味に続いていた十代の頭の鈍痛もスッと晴れていったことをここに追記しておく。

 

 「さらに! 手札から【死者転生】を発動! 手札のカードを1枚墓地に捨てて、墓地のモンスター1体を手札に加える! 俺が選ぶのは、墓地の【エッジマン】! そして! 2体の【プラントークン】を生贄に、【エッジマン】を召喚!」

 

【死者転生】

通常魔法

手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを手札に加える。

 

 「ここで生贄召喚……!」

 

 三沢が十代のデッキを研究した限り、メインデッキに入っている上級以上のモンスターは【ネクロダークマン】と【エッジマン】のみ。そしてその2枚が共に墓地にいる以上、トークンでフィールドを埋め尽くしてしまえば暫くはモンスターを召喚できないだろうと想定していたのだが……しかし現実では、十代はその上を行ってしまった。

 しかし、呻いている暇は無い。何故なら十代のターンはまだ続いている。

 

 「そして【死者蘇生】! 墓地の【エアーマン】を復活!」

 

 【エアーマン】といえば、十代のデッキの……というよりむしろ、HEROデッキの過労死代表と言っていいモンスターである。その理由はその効果にあった。『HERO』と名の付くモンスターをサーチするのだから、【エアーマン】があるのと無いのとでは大違いと言っていい。

 しかし今回十代が【エアーマン】を復活させたのは、サーチ効果を使うためでは無い。

 

 「【エアーマン】の効果発動! フィールド上のコイツ以外のHEROの数だけ相手フィールド上のマジック・トラップを破壊する! 俺のフィールドには【エッジマン】がいるぜ! よって1枚破壊出来る! 【融合禁止エリア】を破壊! 《エア・スラッシュ》!」

 

 「くっ!」

 

 この展開には三沢も呻くしかない。何故なら彼が前のターンで伏せた2枚のカード。その内の1枚は【偽物のわな】……【融合禁止エリア】や【光の護封壁】を守るためにセットしておいた罠である。

 しかし【エアーマン】の破壊効果に対し、【偽物のわな】は発動できない。破壊が不確定だからだ。この方法で除去されるとは、運が悪いとしか言いようが無い……或いは、十代の持前のセンスが成せる業なのかもしれないが。

 

【偽物のわな】

通常罠

自分フィールド上に存在する罠カードを破壊する魔法・罠・効果モンスターの効果を相手が発動した時に発動する事ができる。

このカードを代わりに破壊し、他の自分の罠カードは破壊されない。セットされたカードが破壊される場合、そのカードを全てめくって確認する。

 

 何はともあれ、融合デッキの天敵・【融合禁止エリア】が漸く三沢のフィールドから離れた。

 そしてここからが、十代の本領発揮である。

 

 「これで融合が使える! 俺は手札から【ミラクル・フュージョン】を発動! フィールドの【エアーマン】と墓地の水属性、【バブルマン】を除外する! 【E・HERO アブソルートZero】を召喚! そして……HEROは仲間の遺志を継いで強くなる! 【受け継がれる力】を発動!」

 

 「【受け継がれる力】だと……まさか!」

 

 何度も言うが、三沢は十代が持つHEROの効果はとっくにリサーチ済みである。

 

 「俺は【アブソルートZero】を墓地に送って、その攻撃力分【エッジマン】の攻撃力をアップする!」

 

【E・HERO エッジマン】 攻撃力2600→2100→4600

 

 【光の護封壁】による守り、その4000のラインが遂に突破される。そして、それと同時に。

 

 「この瞬間、【アブソルートZero】の効果発動! このカードがフィールドから離れた時、相手フィールド上のカードを全て破壊する! 《絶対零度》!」

 

 【アブソルートZero】によって齎された氷河期は三沢のフィールドを侵食し、今まさに少女たちを飲み込もうとしていた。その様を見て、三沢は苦悶の表情で暫し逡巡する。

 

 どうする、リバースカードを使うべきか? しかし【エッジマン】の攻撃力は4600、【カナンガ】が破壊されてその効果が切れたとしても5100だ。確かに【光の護封壁】のラインは超えているが、例えダイレクトアタックを受けたとしても三沢のライフ5150はギリギリで削りきれない。しかも【受け継がれる力】の効果が続くのはこのターンのみで、次のターンにはまた【光の護封壁】によって三沢は守られる。だが……。

 

 『『『『『きゃあああああ~~~~~!!!』』』』』

 

 しかし三沢の迷いは、そんな少女たちが上げた悲鳴によって一気に霧散した。

 

 そうだ、自分は何を迷っていたのだ? 彼女たちを守り、彼女たちと共に歩む! それこそが己のデュエルだ!

 

 「リバースカードオープン! 速攻魔法、【我が身を盾に】! ライフを1500払い、フィールド上のモンスターを破壊する効果を無効にし、破壊する! ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

三沢 LP5150→3650

 

 少女たちの前に仁王立ち、三沢はその腕を目一杯に広げて彼女たちを守る。その姿は正に【我が身を盾に】。そして絶対零度が晴れた時、そこには傷一つない姿の5人の少女たちと、彼女たちを守り切った漢の姿があった。

 

 「み、三沢~~~~~!!」

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 その姿に、アカデミア生たちは感動の涙を流す……一部、そんな彼ら・彼女らを冷たい目で見るリアリストたちもいたが。

 

 「十代……俺は彼女たちを必ずや守る!!」

 

 些か血走った、爛々と輝く目で睨み付けられながらそう言われ、十代は少し気圧された。

 

 「お、おう……そうか……って、わざわざ仁王立ちする必要ってあったのか?」

 

 デュエル馬鹿の十代ではあるが、その思考はどちらかと言えばリアリスト寄りのようだ。魂のカードとして【ピケル】や【クラン】を使われようが全く気にしなかった彼だが、【我が身を盾に】を自らの肉体で表現した三沢には流石にちょっと引いたらしい。

 それに【アブソルートZero】の効果を止めたら止めたで、【エッジマン】で攻撃するだけである。

 

 「バトル! 【エッジマン】で【カナンガ】に攻撃! 《パワー・エッジ・アタック》!」

 

 【エッジマン】は貫通効果を備えている。ならば攻撃対象は当然、守備力1000の【カナンガ】。しかし……。

 

 「って、三沢!? どうして退かないんだ!?」

 

 プレイヤーたる三沢が、【カナンガ】の前から退かないのである。相も変らぬ仁王立ちで、【カナンガ】を守るように聳え立っている。

 

 「十代……解っていたさ。【アブソルートZero】の効果を防いでも、それで全てが守れるわけでは無い。【エッジマン】の攻撃力が4000を超えている以上、5人とも効果で破壊されるか、1人だけが戦闘破壊されるか……それだけの違いに過ぎないということぐらいは」

 

 「まぁ、そりゃそうだ」

 

 「しかし! ならばせめて俺を斬れィ! 【カナンガ】には指一本触れさせはしない! ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 三沢の言葉が終わるのと、【エッジマン】の刃が三沢を切り裂くのは同時だった。仁王立ちの男を素通りして【カナンガ】を攻撃せずにちゃんと三沢を斬る辺り、【エッジマン】も空気を読んだのかもしれない。ただしその攻撃後に【カナンガ】はちゃんと墓地に送られたし、ダメージ計算もそのように行われたが。

 

三沢 LP3650→50

 

 結果、三沢のライフはわずか50。そうそう見ることのない数値ではあるが、ここで三沢は耐え抜いたのである。

 しかし。

 

 「フッ……これでこのターン、凌いだ……次の俺のターン、【クラン】たん達の効果で……」

 

 「何言ってんだ? まだ俺のバトルフェイズは続いてるぜ?」

 

 「…………何だと?」

 

 現実は非情だった。

 【我が身を盾に】、そして【エッジマン】の攻撃。一気に5100ものライフを消し飛ばし、1人の少女を守りきれなかった無念を抱え、しかしながらも前を向こうとする男に十代は無邪気に宣告した。

 

 「リバースカードオープン! 【リビングデッドの呼び声】!」

 

 「【リビングデッドの呼び声】だと!? バカな、墓地のモンスターを蘇生したところで、攻撃力4000以上でなければ【光の護封壁】に防がれて……まさか!」

 

 【光の護封壁】による防御は強固である。攻撃力4000といえば、かの【青眼の白龍】すらも上回る値だ。

 しかし、何事にも例外というものは存在するし、十代がその『例外』に当たるモンスターを持っているということは三沢も把握していた。そして今、それを思い出したのだ。

 目を見開く三沢に対し、十代はニヤッと笑った。

 

 「多分、そのまさかだぜ! 俺が蘇生するのは【E・HERO ワイルドマン】!」

 

【E・HERO ワイルドマン】

効果モンスター

星4 地属性 戦士族 攻撃力1500/守備力1600

このカードはモンスターゾーンに存在する限り、罠カードの効果を受けない。

 

 十代が蘇生させた野性味溢れるHEROの攻撃力は、1500。とてもではないが4000には遠く及ばない。しかし【ワイルドマン】が持つ効果がその不可能を可能とする。

 

 「【ワイルドマン】はフィールド上にいる限り、トラップカードの効果を受けない!」

 

 「つまり、【光の護封壁】の効果も受けない、か……」

 

 ちなみに、トラップの効果を受けないということは【リビングデッドの呼び声】のデメリットも受けないということであり、こうして1度蘇生してしまえば【ワイルドマン】にとっての【リビングデッドの呼び声】は完全蘇生カードとして扱える便利さがあるのだが……今のこの状況では、あまり意味が無いことだろう。

 

 終幕を悟り、三沢は静かに目を伏せた。しかし次の瞬間には、キッと面を上げる。

 

 「しかし! 彼女たちをやらせはしない! 斬るなら俺を斬れ、【ワイルドマン】!!」

 

 先ほど【エッジマン】にしたのと同様に、幼女たちを守るように【ワイルドマン】と対峙する三沢。十代はそんな三沢に色々と言いたくなったものの、本人がそれを望んでいるのならまぁいいかと自分を納得させる。

 

 「行くぜ、三沢! 【黒魔導師クラン】に攻撃! 《ワイルド・スラッシュ》!!」

 

 容赦なく【クラン】に対する攻撃宣言をした十代だが、これがデュエルのルールなのだからやむを得ない。【エッジマン】と同じく空気を読んだ【ワイルドマン】が三沢に対して直接刃を振ったのは、ちょっとした優しさだろうか。

 

 「ぐぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

三沢 LP50→0

 

 「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 三沢のライフは尽きた。それと同時に、審判役を担っていたクロノス教諭が終了を告げる。

 

 「決着ゥ! 勝者! オシリスレッドの遊城十代ナノーネ!」

 

 ちなみにクロノス教諭、この混沌の満ちたフィールドで初めっからずっとデュエルを見守っていた。色々と入って行けない空気が流れていたため、それを読んで隅っこで小さくなりながら嵐が過ぎ去るのを待っていたが。

 彼の内心は複雑である。本音を言えばこのデュエルが始まる前は、三沢大地に勝って欲しいと思っていた。上野優と話し合ってから後は以前ほど遊城十代にちょっかいをかけないようにしていたクロノスだが、それでも十代が鼻持ちならない問題児だ、という認識に大きな変化は無い。ならば学園の代表には三沢の方がいい、と考えてしまうのも無理は無い。十代の素行に色々と問題があるのは事実であるし。

 しかし今のデュエルを見てしまうと……正直、あのデッキをあのテンションで操る三沢を学園の代表とするのには些か所では無い不安がある。

 人知れずクロノスが苦悩しているその時、デュエルの結果を漸く飲み込めてきたらしい観客たちがざわざわと騒ぎ出す。

 

 「負けた……? 三沢が……【ピケル】たんが……」

 

 「【クラン】たんも……」

 

 そして次には、大ブーイングが巻き起こる。

 

 「遊城ィィィィィィ!! 貴様ァァァァァァァ!!」

 

 「何故【カナンガ】や【クラン】たんを攻撃した!」

 

 「それでもHEROか!!」

 

 「鬼! 悪魔!!」

 

 「何がE(エレメンタル)ヒーローだ! もういっそE(イービル)ヒーローだ!」

 

 「テメェの血は何色だッ!」

 

 「赤に決まってんだろ!?」

 

 この状況には十代も困惑を通り越して泣きたくなってきた。三沢とのデュエル自体はとても楽しい満足のいくものであったのに、何故外野にここまで言われねばならないのか。自分がアウェイに立たされているのには気付いていたが、果たしてこんなに言われるほど悪い事をしただろうか。ただ、ルールとマナーを守って楽しくデュエルしただけなのに。

 しかし、そんな暴徒一歩手前であった観客たちは。

 

 「諸君!」

 

 【ワイルドマン】に吹っ飛ばされて倒れ伏していた三沢が漸く立ち上がって声を上げたことで、ピタリと口を閉ざす。

 そうだ、今は十代を責めている場合ではない。この戦い抜いた漢の一挙手一投足を逃さぬようにせねばならない。彼らはそう悟ったのだ。

 

 「応援ありがとう! しかし! 俺は負けた!」

 

 負けた。戦った本人がそう認めたことにより、すっかり三沢の雄姿に心奪われた観客たちは揃って沈痛な面持ちとなる。中には無念の涙を流す者までいたりする。

 

 「だが! それは俺が弱かったからだ! 負けたのはこの俺自身……決して【ピケル】たん達ではない!」

 

 その朗々と響き渡る声に、皆はハッと顔を上げた。

 

 「十代が【クラン】たん達を攻撃したのも、決して責められることでは無い! 何故ならば俺たちはデュエリストであり、これはデュエルだ! ならばいくら愛らしき少女たちを無慈悲に攻撃することを心の中で血の涙を流して悔やもうと、目指すは勝利! 今回は、俺が【ピケル】たん達を輝かせる力よりも十代の方がHEROたちを輝かせる力を発揮できた……そういうことだ!」

 

 「いや、俺が自分のデッキを信じてるってのは間違っちゃいねぇけど……別に血の涙なんて流してねぇぞ?」

 

 「故に!」

 

 十代が密かにツッコんだのだが、その言葉は殆どの人間の耳に届いていなかった。唯一その呟きを拾い取ったのは観客席の最前列で十代に同情しながら成り行きを見守っていた明日香で、彼女は後で十代に何か好物でも奢って労わろうと決意した。

 一方で衆目を集めまくってる三沢は、つい先ほど『愛と正義の使者』として名乗りを上げた時と同様、高々と握りこぶしを突き上げる。

 

 「俺はここに誓う! 真のデュエリストとして! これからも己が信じるカードたちと共に歩むと! 『強いカード、弱いカード、そんなの人の勝手。本当に強いデュエリストなら、自分の好きなカードで勝てるように努力するべき』……ああ、努力しようとも! これぞ我が指標! 俺はこの魂のデッキと共に! 持てる勇気と力でレボリューションを起こして見せる!!」

 

 《ワァァァァァァァァァァァァァァ!!》

 

 「俺の真の戦いは! ここから始まるのだ!!」

 

 吠えるように誓い上げる三沢に、観客(リアリストを除く)はスタンディングオベーションを送った。

 

 「三沢ー!」

 

 「俺たちも共に行くぞォ!」

 

 「革命だァ!」

 

 「レボリューショーン!」

 

 《ミ・サ・ワ! ミ・サ・ワ!!》

 

 異様に盛り上がるその会場の中心で。

 

 「…………あれ? 勝ったのって俺だよな?」

 

 今回のデュエルの勝者であるはずの十代は、すっかり忘れ去られていた。

 

 しかしこのデュエルの結果を以て、対抗試合の代表選手は暫定的に決定したのであった。

 

 

==========

 

 

 どうもこんにちわ、うっかり病身となってしまった優君です……って、ふざけてる場合じゃ無い。わりとマジで辛かった。でもありがたいことにもう完治しました! 俺! 復活!

 突然だけど、俺は数日前からインフルエンザに罹っているということになっていた。

 うん、つまりはインフルエンザでは無いんだな、実は。

 

 事の起こりはレイが返ってから数日後、俺は予てから『何かありそう』だと思っていた遺跡へと足を運んだ。そこは廃寮と同じく立ち入り禁止区域に指定されている場所なため、こっそりと入り込んだというのが正確な所だけど。

 

 そしていざ遺跡を見て回ってみると、そこには異世界に通じているのであろう空間の歪みがあるのを感じ取れた。

 冬休みに遊戯さんに鍛えてもらっておいて良かったと心から思ったね。俺は早速その歪みに足を踏み入れてみた。

 その先にあったのは、これまた冬休みに訪れたことがある墓守の世界。何という偶然。

 あちらも俺の事を覚えていたのか、それなりに丁寧な対応をしてくれた。冬休みに初めて立ち入った時は盗賊と間違えられて試練を受ける羽目になったが、その時に勝ったのが効いたらしい。

 中にはそれを認めない者もいたけど、俺がエンディミオンの主であると知ると黙った。むしろ崇められるようになってしまった……そういえば魔法使い族だもんね、墓守って。エンディミオンが本当にロード・オブ・マジシャンなのだと実感した瞬間であった。

 

 なので話を聞いてみたのだが、やはりこの世界は行方不明事件には関わりが無いらしい。予測はしてたけど。

 だがどうも、天上院吹雪と思しき人物が迷い込んだことがあったようだ。マジか。

 

 そんなこんなで情報収集をしてから墓守世界を辞したのだが、問題はその後に訪れた。

 

 どうやら異世界で未知のウイルスだか細菌だかを拾ってしまったようで、病に倒れてしまったのだ。

 高熱を出して倒れた俺は保健室に運ばれたのだが、原因は不明。そしてこれは人間界には無い病気らしい、とエンディミオンが判断を下した。そりゃあ人間の医者には解らんはずだよ。

 しかしそんなことを他人に言えるはずも無く、仕方が無いので季節外れのインフルエンザということにしておいた。鮎川先生はそれに納得してなかったけれど(するわけが無いよね)、どうしようもないので押し切った。具体的には、ホラ……ちょっと、ね。魔力を使いました。緊急事態なので許して下さい。

 本土の病院に行くかとも言われたが、そもそも人間世界には無い病気なので行っても意味が無い。それで現在は、エンディミオンが魔法都市から持って来た精霊世界の薬を服用しつつ自室療養していたというわけだ。

 ちなみに面会謝絶。だって他の人に移しちゃうかもしれなかったし。

 

 高熱でダウンした俺にエンディミオンは苦い顔をして治癒系のカードを使うことを勧めてきたが、俺自身がそれを拒否した。確かにカードを使えばすぐにでも何とかなったんだろうけど、後々の為にはそうしない方がいいと判断したのだ。

 

 この状態に陥った時、俺が頼ったのは当然ながら遊戯さんだった。医者? だからこれは人間界の病気じゃないから無理なんだって。

 そして遊戯さん曰く、こういう時は自然治癒に任せた方がいいとのこと。

 

 『無理矢理治すことは可能だろうけど、今が差し迫った状態じゃないなら地道に直した方がいいよ。その内、体の中で抗体が出来るから。そうすればもう次は同じ病気には罹らなくなるし』

 

 「あの、抗体って……?」

 

 『決闘者としての生存本能が免疫系を活性化して、抗体が自然と出来てくるらしいんだ』

 

 「………………そうですか」

 

 以上、遊戯さんとの電話内容を一部抜粋したものです。

 そして理解する。どこぞのナンバーズハンターは決して間違っていなかったのだと。

 

 まぁとにかくそんなわけで、これからも精霊世界に出向く機会は多々あるだろうし、それなら今の内に抗体を手に入れた方がいい。そんな結論に至ったため、俺は高熱に耐えて安静にしていた。

 

 薬は飲んだけどね。エンディミオンが魔法都市から持ってきてくれたから。なんか、ある程度以上の魔力が無いと効かないから普通なら人間には効果が無いような薬だったらしいんだけど……俺なら間違いなく効くからって。

 うん、もうそれに関しては諦めてる。俺の魔力量が凄く多いってことは、もう個性として受け入れてる。だって遊戯さんにすら魔力の絶対量だけならば自分よりも上って謎の太鼓判を押されちゃったし。

 

 そんなこんなで苦しい闘病生活を終えてアカデミアの日常に戻ってみると。

 

 「サインして下さい!」

 

 「どういう……ことだ……」

 

 何故かサインを強請られました。

 え、どういうこと!? さっきから色んな人に何度も握手をせがまれたし……アカデミアに何が起こってるんだ!?

 

 俺は困惑しながらもその相手……ブルー寮の、多分2年生かな? 彼が差し出してきている【モリンフェン】にサインし、そのままダッシュで逃げた。誰か今のこの状況を説明してくれ!

 

 「困惑しているみたいね」

 

 「明日香!? 何でそんな登場の仕方!?」

 

 誰かに事情を聞きたくて廊下を走りながら顔見知りを探していると、階段に差し掛かった所で頭上から声が降ってきた。見ると、階上の踊り場から明日香が腕組みをしながらどこか厳しい目で俺を見下ろしている。女王の威圧感が半端ない。

 明日香はギョッとした俺に1つ溜息を吐くと、一歩ずつゆっくりと階段を降りてくる。

 

 「3日前、十代と三沢君でノース校との対抗試合の代表者を決めるデュエルが行われたのは知ってるわよね?」

 

 「ああ、うん。十代に聞いた」

 

 わざわざPDAで教えてくれた。ちなみに結果も聞いたよ。

 

 「十代が勝ったんだよな。でも三沢も残念だったよな、折角魂のデッキが完成したのに」

 

 初陣が黒星ってのは、無念だろうな。ずっと長い事試行錯誤したデッキだったのに。

 ああでも、来年辺りにシンクロ召喚が発表されてから【パワー・ツール】でも手に入れられればもっと面白くなりそうだよね。装備魔法もたくさん入ってたし。あ、【ブラック・ローズ】もアリかな? 植物族多そうだし。

 そうそう、【ブラック・ローズ】といえば、【ブラック・ガーデン】も使うって言ってたっけ。【ローズ・トークン】に戦闘破壊耐性があるからって……OCGじゃ【ローズ・トークン】には無かったよね、戦闘破壊耐性。三沢はその耐性を永久の愛の象徴って言ってたけど……きっとOCGじゃ愛が足りなかったんだな。

 でもこの世界のキャード効果がそういったものならばきっと近い未来、ドSなアキさんも満足してくれるに違いない。

 しかしそうしてどんどん脱線していく俺の思考は、明日香によって遮られる。

 

 「その三沢君の言動が問題だったのよ」

 

 階段を降りきった明日香は、俺の眼前で再び特大の溜息を吐いてから事の次第を教えてくれた。

 

 曰く、三沢は十代とのデュエルの最中、公衆の面前でロリコンであることをカミングアウトしてしまったんだとか……え、マジで?

 いや、あのデッキを使えば遅かれ早かれバレることだろうけど……そんなに堂々と宣言しちゃったの? うわぁ、そこまでするか?

 しかしその余りに堂々としすぎた漢っぷりに、感化される者が続出。遂にはこの短期間で三沢を筆頭に一大派閥を作り上げてしまったんだとか。

 しかも派閥の名称まで決めて揃いのドッグタグまで持ち、今ではもう派閥というよりもむしろ団体に近い様相を呈しているのだとか……え、まだ3日しか経ってないんだよね? 何その熱意。

 

 いや、集団が纏まったこと自体はまだいい。驚きの早さではあるが、あり得ない事ではない。

 ただ、この短期間でエンブレムを決めてドッグタグを人数分作成するって、可能なのか?

 そんな疑問を覚えて明日香に尋ねてみると、どうやら三沢が事前に作ってたらしい。もしも同志が現れた時、目に見える決意の証となるように……おい、準備良すぎだろ。

 三沢お前、魂のデッキを作るのに時間が掛かってたのって実は、ドッグタグを作る時間も含まれてたのか?

 

 しっかし、それでいいのかデュエルアカデミア……って、あれ?

 

 「ちょっと待ってよ。何でそれで俺が握手をせがまれたりサインを強請られたりするんだ?」

 

 俺、関係無いよね? いや、三沢の背中は押しちゃったけど、今の話を聞く限りではトップっていうかカリスマは三沢であって、俺じゃないよね?

 

 「……『強いカード、弱いカード、そんなの人の勝手。本当に強いデュエリストなら自分の好きなカードで勝てるように努力するべき』。あなた、三沢君にそう言ったでしょう?」

 

 「え、うん。まぁ、受け売りに近いんだけどさ。でもその通りだろ?」

 

 某あくのお姉さんは実に良い事を言ったよね、うん。ゲーム史に残る名言だと思うよ。だから俺も昔、厳選なんてやらなかった! 頑張って強くなろうとしたよ! ……その結果、対戦ではあまり勝てなかったんだけど。ちくしょう、皆して俺の渾身のもふもふブイズパをボコりやがって。

 

 「……そうね、その通りだわ。あなたの言ってることはその通りなのよ、決して間違ってないわ。むしろとても良い言葉だと思う……ただ、それが彼らにとっての指標となってしまったようなのよ……」

 

 「は?」

 

 「解りやすく言えば、あれは一種の新興宗教ね」

 

 明日香……お前の認識では三沢の派閥は最早怪しげな宗教団体なのか。

 

 「三沢君は教祖という名のトップ。優は神託を授けた神という特別枠って所かしら……」

 

 ………………………………え?

 

 「何それ笑えない」

 

 「良かったわ、あなたの感性はまだまともで」

 

 いや、そんなにあっさり言わないでよ……マジで笑えないよ……。

 え、どういうこと!?

 

 「ああそういえば、言ってなかったけれど。彼らの宗教名は『真のデュエリストの会』だそうよ。略称は『SGD(A Society of the Genuine Duelist)』」

 

 「……あぁ、そうなんだ」

 

 あれ? 『真のデュエリスト』なら『the True Duelist』で良かったんじゃね……って、それじゃあ略称にした時に色々と問題があるか。

 でもさぁ、ぶっちゃけそれってどうでもいい情報だよ。

 

 「そして彼らのドッグタグに刻まれたエンブレムは魔力カウンターなんですって」

 

 「ファッ!?」

 

 いや、それはどうでも良くないよね!?

 

 「な、何で……いや、落ち着け俺。ビークール、ビークール、デュエリストは狼狽えない……そうだよ、魔力カウンターなんて、別に俺専用のものでも無いし。うん、他に何か理由があるのかも……」

 

 「今現在、このデュエルアカデミアで魔力カウンターを見れば誰だってあなたを連想するわ」

 

 「…………………………」

 

 あのさぁ、そんなにバッサリ切り捨てなくてもいいんじゃないかな? 現実逃避ぐらいさせてよ。しかし明日香は俺の逃避を許してくれない。世知辛い。

 

 「どうしてこんなことに……」

 

 「自業自得でしょう? 月一テストで【ブリザード・プリンセス】を使ったのは仕方が無いにしても、その後に三沢君を止めていれば良かったのよ」

 

 返す言葉もございません。

 

 「それでもさ……もっと他に何か……それこそ三沢を象徴するマークでも良かったんじゃないの?」

 

 例えば『3』とかさ。

 そうあがく俺に向ける明日香の視線は生暖かい。

 

 「それが教祖と神の違いなんじゃないの?」

 

 嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 何だよそれ、どうして神格化なんてされてるんだ!? 嫌すぎる! 俺はそんな大それた人じゃない!

 ……で、でも! 三沢の脱・空気化の代償が俺のこの精神的苦痛だっていうなら、俺も乗り越えよう! うん、頑張る!

 でも拒否るよ! 俺はロリコンじゃないし! もしも同類に見られたら、その度に全力で否定してやる!

 

 「それよりも優、あなた、体は本当にもう大丈夫なの?」

 

 俺が悲壮な覚悟を決める中、明日香は首を傾げて話題を変えた。

 

 「あぁ、うん。へーきへーき。でも大事を取って、授業に出るのは明日から。今日は職員室に顔を出してくれって言われてたからそっち行こうとしてたんだけど……」

 

 言い出しにくくて言葉尻を濁して視線を彷徨わせたが、相手は察してくれた。

 

 「信者たちに行く手を阻まれて中々辿り着けなかったのね」

 

 仰る通りです。

 俺がコクコクと頷くと、明日香は苦笑した。

 

 「じゃあ、あっちの方から行けばいいわ。さっき私が通って来たけど、怪しげな人はいなかったから」

 

 そんなありがたい情報をくれた明日香と別れ、俺は抜き足差し足、こっそりと職員室へ向かう。

 

 しかし漸く職員室に辿り着いたと思ったら、今度はそこにいた樺山先生に連れられて校長室へと向かう羽目となる。そしてそこで、驚きの通達を受けた。

 

 曰く、ノース校との交流試合の代表者の座を掛けて、十代とデュエルしてくれ、と。

 

 え、何で? それって三沢と十代のデュエルで決定したんじゃなかったの?

 




<今日の(ある意味)最強カード>

優「それはこれ」

【黒魔導師クラン】

優「ぶっちゃけ、前回【ピケル】を出したから今回は【クラン】を感じなんだけど。軽い紹介は前回で既に済ませちゃってるんだよね」

王『両者ともに【王女の試練】で進化するモンスターだ。我も王となるためにそれはそれは厳しい試練を乗り越え……』

優「お前、ちょっと黙ってろ。まぁ、進化先は進化前以上にファンデッキ専用カードなんだよね。通常召喚出来ないし、特殊召喚も【王女の試練】の効果でしか出来ない。効果は倍化してるけど……ねぇ?」

王『まだ進化前は【ジャンク・シンクロン】で釣って【ジャンク・ウォリアー】の攻撃力を爆上げすることも可能だというのに』

優「言ってやるな、それを。さて、本編についてだけど……筆者は【ブラック・ガーデン】、初めはアニメ効果にするつもりは無かったらしいよ。本当は【憎悪の棘】を使おうとしてたらしいよ。バーンだけではなくてバトルもこなせるように。だけど……テキストに【ブラロ】のことが書いてあったのに気付いて止めたらしい」

王『代わりにアニメ効果の【ブラック・ガーデン】か」

優「そういうこと。いや~、それにしても俺ってば、順調に超人の領域に駒を進めつつあるよね」

王『……人外の領域でスキルアップしているだけにしか見えんがな(ボソッ)』

優「うん? 何か言った?」

王『細かいことを気にするでない。主が気にするべきことはもっと他にあるであろう……何なのだ、SGDとは』

優「あはは、なにいってるんだエンディミオン。あんなのはがくせいのおふざけじゃないか」

王『棒読みになっているぞ。現実逃避はやめておけ』

優「……あぁ、うん。でも実際、どうせアカデミア内でのことだし。俺たちが卒業してしまえばその内自然消滅してしまうだろうし、ちょっとオーバーなクラブ活動の一環だと思えばまだ……」

王『むしろOB・OGが世界に拡散させていきそうな気がするのは我の気のせいか?』

優「…………………………気のせいだよ、きっと!」


 






















《オマケ》

 門限を大分過ぎてから漸く帰宅した少年を、しかし義母は温かく迎え入れた。

 「お帰り。どうしたんだい、遅かったね。
 おや? そのドッグタグはどうしたんだい? 拾ってきた? へぇ、それが落ちてるとは珍しい事もあるもんだ。
 ほら、ここに刻まれたエンブレム。これはある団体のシンボルマークでね、そこに属する人間ならみんな持ってるんだよ。

 団体って言っても、そこはかなり特殊でねぇ。特別な目的があるわけでも、何らかの活動をしているわけでも無いのさ。
 じゃあ何の団体なのかって? 聞きたいかい?
 彼らはある1つの信念によって繋がっているのさ。
 『強いカード、弱いカード、そんなの人の勝手。本当に強いデュエリストなら、自分の好きなカードで勝てるように努力するべき』、ってね。
 これはかつて、あるデュエリストが何気ない日常の中で言った一言が広まったものだと言われているよ。今じゃあ世界中に広まっているけどね。
 彼らはその思想に賛同した者たちの集まりなのさ。だから特別何かを活動するわけでもない、ただ己のカードを信じるという覚悟の証としてこれを持つんだ。

 え? 誰が言ったのかって? どうしたんだい、珍しいね。あんたがそんなに勢いづくなんて……そうかい、またクズカードって言われたのかい。折角拾って来たのに、悔しかったろうねぇ。
 ふふっ、慌てなくてもちゃんと教えてあげるよ。あんたも知ってるはずだよ、有名なデュエリストさ。
 そうそう、そのデュエリストに関してはこんな話もあるよ。何でも、レベル1、攻守0のモンスターでレベル8、攻撃力3000のモンスターを退けたとか。強いカード、弱いカード、そんなの人の勝手。さっきの言葉を象徴するようなエピソードじゃないか。
 ただ残念なことにね、詳細は伝わってないんだけど……殆ど伝説のようなものなんだよ。

 何ならそのドッグタグはあんたが持ってるかい? 珍しいんだよ、それが落ちてるなんて。
 ああもう、そんなに握りこむんじゃないよ。

 ほら、ドッグタグのエンブレムを良く見てごらん。『SGD』ってあるだろう? これはその団体の名前だよ。『真のデュエリストの会』の略称なのさ。昔はドッグタグにこのロゴは入って無くて、シンボルマークだけだったようだよ。
 初めからあるこのシンボルマークがその発端となったデュエリストのデッキ、デュエルを象徴しているってのは、変わって無いらしいけどね。

 ただ、その本人はこの団体にはあまり良い感情を持っていないとも言われているのさ。そこまで特別なことを言ったわけでは無い、と。
 まぁ、中には感銘を受け過ぎて彼をまるで神のように信奉するような人もいたっていうし、本人が辟易としても無理は無いだろうねぇ。
 だからアンタも、程々にしておきな。いつか本人と会うようなことがあった時、嫌がられたりしたくはないだろう?

 さ、もう夕飯も出来てるよ。早くしないとジャック辺りが痺れを切らしてしまうかもしれないし、アンタも早く入りな」

 『真のデュエリストの会』の信念。それは発足当時から何も変わってはいないのだが、全世界に広まって行く過程でかなり良い風に、美談として伝わって行った。同時に、会の創始者も歴史に名を残している。
 ただ、会員の一部に最早神格化されているデュエリストがその名言を発した理由が、とある変態的嗜好を持つ友人の為だという真実は……きっと、歴史の闇に葬っておいた方がいいのだろう。夢と希望と憧れに溢れた少年の心の平穏の為にも。

 この十数年後、少年は件のデュエリストと同じ言葉を発してとある元・交番のお巡りさんを震撼させるのだが……それはまた別の話である。

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