転生したという事実はあっさり受け入れられた俺だけど、それによって認識した俺を取り巻く環境には待ったを掛けたい気分だった。
だって、原作には無かったはずだろ? 漫画にもアニメにも。『武藤家のお隣さんの子供』なんてポジは。これまでの数年間の付き合いからして、存在はしてたけど原作には出てきませんでした、とは思えない。それぐらいには親密な関係を築いてきたと自負できる。
全てが全て、原作通りでは無い。その一言で片づけるのは簡単だけど、それならそれで俺は騒動に巻き込まれたくない。だって、下手をすれば世界の破滅とかに発展するような騒動だって起こる。そんな危険な事、こんなちびっ子が関わっていいはずが無い。あぁ、そうだとも。
故に俺は決意した。遊戯さんとの親交はそのままに、原作には関わらないようにスルーしようと。
決意……したんだけどなぁ……。
世の中、そう上手くは出来ていないらしい。それを俺はこの幼少期でまざまざと実感する羽目になる。
遊戯さんに貰ったパックに入っていたカードに、同じく遊戯さんから譲ってもらったカード。それに、カードショップで安くバラ売りされていたカードで取りあえずのデッキを作った俺は、遊戯さんにデュエル指導を受けた……何も言わないでくれ。自分でも解ってる。トンでもない贅沢だって。
ただ言い訳をさせてもらうなら、現時点での遊戯さんは決闘王の称号を得ていない。千年パズルこそ完成させているようだけれど、まだ社長とのデュエルもしていないようだから当然だ。つまり今の彼は、本当にただの『近所のお兄さん』なのである。だからこそ例え遊戯さんにデュエルを教わったからって、世界中のデュエリストに俺が嫉妬の視線で焼き殺されるようなことは無い。
その遊戯さんだけど、デュエル指導で熱が入ると偶に人が変わる。文字通りに。パズルがピカッと光ったかと思うと別人格になるのだ。王様ですね知ってます。何も言えないけど。
というか王様、『絆を信じればデッキは応えてくれるぜ!』って……もっと具体的なアドバイスを下さい。あなた、実は指導者には向いてないんじゃ……王様なのに……。
俺がデュエルモンスターズを始めたことを知り、俺の両親は僅かだが小遣いをくれるようになった。ありがとうございます。
それでもそれは本当に微々たるもので、普通ならば目当てのカードを当てるのは難しいはずだ。そう、普通ならば。特にこの世界では。
なのに俺がパックを買うと、何故かお目当てのカードが高確率で入ってたりする。
『我が主たる者、これぐらいは持っていて貰わねばな。』
とは、俺が最初に開けたあのパックに入っていたカードに宿っていた精霊の言……コイツ、何かしてやがると直感で悟った。
これってズルくね? とは思ったけど、ブラマジをピンポイントに当てたりしてるわけじゃないからまだマシなんだろうと思い直すことにした。
現在、俺の持つカードに宿っている精霊は2体。前世で使っていた2体のエースの内の1体と、デッキとのシナジーは薄かったけど妙に気に入って使っていたお気に入り、言うなれば相棒である。
エースは魔法使い族、相棒は悪魔族のモンスターだ。ちなみに、相棒は喋れない。
OCGで考えればどちらもこの時代には無かったはずのカードなのだが、出会うことが出来たということは原作に出てなかっただけで存在してたんだろう。カードショップでもそんなカードをたくさん見たし、その辺りは深く考えないことにした。
ただ、もう1体のエースに出会うのは流石に無理だろうなと思ってる。
ん? 精霊の存在を全否定してたんじゃなかったのかって?
いやだって、こいつらほぼ四六時中付いて来るんだよ? 諦めて受け入れないと悪影響が出る。主に俺の精神に。
そうして受け入れてしまえば、案外賑やかで楽しいものだ。人これを順応と言う。
遊戯さんつながりで、杏子さんや城之内さん、本田さんにも会った。杏子さんに至っては、元々知り合いだし。何しろ彼女は遊戯さんの幼馴染。つまり、俺にとってもご近所さんなのだ。
城之内さんも俺と同じくデュエルモンスターズを始めたばかりのようで、お試しでデュエルしてみた。勝敗? ……城之内さんが『おれは!! 弱い!!』と某麦わらさんのように慟哭する結果となった。
流石にちびっ子(=俺)のライフを1ポイントも削れずにストレート負けをしたという事実は、不屈の精神力を持つ彼の心すら叩き折ったようだった。
でもさ、城之内さんのデッキ、ほぼバニラのモンスターオンリーだったんだよ? 『カードは拾った。』とかいうレベルですらない、まさしく紙束と言うに相応しい状態だったんだよ? むしろアレにどうやって負けろというのか。
前世では、仮にも親友が作ったデッキに対して『なぁにこれぇ?』とか言っちゃうAIBOマジAIBO、とか思ってたけど、実際に相対してみると……うん。ごめんなさい遊戯さん。
なぁにあれぇ?
城之内さんはよっぽど悔しかったらしく、その後、それはそれは真剣にデッキ構築を学んでいた。頑張れ城之内さん。応援はしてる。でもあなたらしいギャンブル性は捨てないでね。
そんな風に日々を過ごしていた俺に、ある日、ビッグニュースが訪れた。俺に、というよりも我が家にだけど。
なんと、当たるはずが無いと思ってた懸賞に当たったのだ。しかも豪華ヨーロッパ旅行(ペア)。こんな旅行、今回を逃せば我が家が次に行ける保証は欠片も無い。なにせ貧乏人。
実は新婚旅行に行けてなかったらしい両親に行くことを勧め、俺はいつもの如く武藤家に預けられることとなった。両親は俺も連れて行けないかと考えてくれたが、見た目ちびっ子でも前世の記憶分精神はいくらか成長してる俺は、新婚旅行もどきに水を差す気にはなれなかった。だから、快く俺を受け入れてくれた武藤家の人々には感謝してもしきれない。
しかし事件は、そんな時に限って起こるのだ。
「じーちゃん!? じーちゃーん!!」
ビデオレター(?)でのペガサスとのデュエルに敗北……なんだろう、多分……した遊戯さんへの罰ゲームとして、双六じいちゃんの魂が抜かれてしまった。遊戯さんを決闘者王国へと誘う人質とするために……って。
今 か よ! よりによってこのタイミングで!? ってか、いつの間に社長イベントは終わってたんだ!?
俺の内なる叫びは誰が聞くことも無く、時は進む。
結論から言うと、俺も遊戯さんたちと一緒に王国に行くことになった。危険は当然あるけれど、それはそれで仕方が無いこととも言えた。
何しろ、俺の両親はもうしばらくヨーロッパから帰ってこない。近場には親戚もいない。他のご近所さんには、急に子供を長期間預かってくれだなんて、どう事情を説明すればいいのか解らない。
遊戯さんのお母さんはといえば、運悪く単身赴任中の遊戯さんのお父さんの所に行ってしまっていた。
双六さんの魂が抜かれ、遊戯さんが王国に行ってしまえば、俺は1人になってしまうのだ。
俺自身はそれでも良かったけど、流石に周囲が納得しなかった。結果、ちびっ子の俺まで付いて行くことになったんだけど……俺、足手纏い以外の何物でも無いんじゃ……。
せめてと思ってデッキは持って行ったけど、これはこれで裏目に出た。
王国に辿り着き、ほぼ原作通りに……あ、そう言えばここは漫画じゃなくてアニメの世界っぽい。デュエルのルールとか見る限り。とにかく、遊戯さんと城之内さんは順調に勝ち進んで行った。
獏良さんとの邂逅も果たし、社長ともご対面し、もうすぐ城に辿り着くという場面に至って、俺は誘拐された。
下手人は迷宮兄弟だ。遊戯さん&城之内さんのタッグデュエル後、暗い地下を歩く中で音も無く背後から襲撃された。この瞬間、俺は心に誓った。いつかこのハゲ共を泣かす、絶対に跪かせてやると。
彼らが俺を浚った理由はペガサスの指令であり、ペガサスがその命令を下した理由は2つあった。
1つ目は、単純に遊戯さんへの人質。俺はモクバポジか。社長に対するモクバ、遊戯さんに対する俺ってか? 俺と遊戯さんは血は繋がってないけど、だからこそ遊戯さんは今のこの状況に責任を感じている節もあった。自分のせいで巻き込んだって。いや、むしろマジで足手纏いでしか無くてこっちの方が申し訳ないんだけど……。
そして2つ目の理由。正直こっちの理由が無ければ、それこそモクバの如く、俺の魂もカードに封印されていた可能性が高い。
俺が精霊と交流出来ることがバレたのだ。理由は解らないけど、島内で精霊と話してるのを誰かに見られていたのかもしれない。迂闊だった。本当にごめんなさい、遊戯さん。
元々ペガサスがKCの乗っ取りを企んだ目的は、ソリッドビジョンシステムだ。それは恋人ともう1度会いたいがため。しかし、立体映像は所詮映像。ただのプログラムでしかない。だが、そこに精霊の存在が加われば話は変わる。故に、精霊が見える・聞こえると思われる俺を攫ったのだと言う。
そしてミレニアム・アイで俺の心を覗こうとしてビックリ、心が読めなかったのだとか。理由は俺にも解らなかったけれど、正直助かった。原作知識とか知られたら厄介なんてもんじゃない。
でもそれが更にペガサスの興味を煽ったらしく、遊戯さんを倒した暁には国に連れ帰って詳しく調べたいとか言われた。
国境を越えた誘拐か! ふざけるな!
俺は心の底から遊戯さんの勝利を願った。
そして遊戯さんは……遊戯さんたちは、勝ってくれた。ありがとうございます、本当に。俺もう、遊戯さんたちに頭が上がらないよ。
だが、話はこれで終わらない。王国の話は終わっても、全てが終わったわけじゃないのだから。
お次はバトルシティだ。あ、DMクエストは知らない内に終わってたらしい。
俺は元々童実野町在住、バトルシティはのんびりと観戦するつもりだった。
だがここで出て来るのがグールズ。どこで知ったのか、ペガサス同様に俺を捕まえようとしていた。理由は遊戯さん……というより王様への人質。俺はモクバポジか。
グールズに追われて町を彷徨っている間に運よく王様に出会い、そのまま行動を共にした。もういっそ、その方が安全なんじゃないかという結論に至ったからだ。
ちなみに人質要因としての連帯感か、モクバとはかなり親しくなった。嬉しいような、悲しいような。
それと、社長もそれほど刺々しくは無かった。多分、俺がちびっ子だからだろう。何しろ俺は、モクバですら見上げるサイズなのだ。これに剣呑な態度を取るような人が、『ちびっ子たちのために世界中に遊園地を作る』なんていう壮大な夢を掲げるはずもあるまいし、よく考えれば当然の反応なんだと思う。
その後、城之内さんとの洗脳デュエルも乗り越え、バトルシップに乗り込み、遊戯さん、城之内さん、社長、マリクが勝ち上がった。
その間、俺に出来たことは全くと言っていいほど無かった。下手に動けば王国の時みたいに足を引っ張りかねないし、大人しくしてるのが1番だと思ったからだ。
ただこの時、イシズさんに気になることを言われた。どうも、俺の未来が見えないらしい。それを聞いて、そう言えばと思い出した。ペガサスも言ってたのだ。俺の心が覗けないと。
どちらも理由は解らない。前世では精霊も見えなかったぐらい平凡だったし、今生も何かをした覚えはない。考えても解らないので、心にしこりとして残るだけだった。
そしてここでアレが起こる。
アニメにおける乃亜編、とどのつまりは海馬家お家騒動だ。お家騒動が最終的に軍事衛星にまで発展するのだから、海馬家は恐ろしい。
この時、俺も皆と一緒にバトルシップを降りた。何故なら、船内にはマリクが残っているからだ。しかも闇マリク。どちらも危険ならばせめて誰かの目に届くところに、というわけだ。
そして何故か、BIG5の1人にデュエルを挑まれる俺。ちびっ子だから簡単に降せると思われたのか、それとも人生をかなり初期からやり直したかったのか、或いはその両方か。真実は解らないが、それでも俺は勝った。
正直に言えばこの時、俺はとても嬉かった。仮想現実とはいえ痛みを実感する、闇のゲームに近いようなデュエルに精神は疲弊した。だが人質要因の足手纏いの役立たず、それでも俺を仲間だと言ってくれた人たちに、初めて役に立てたような気がした。
大袈裟にいうなら、この時初めて、『仲間』という言葉の意味が解ったような気がしたのだ。
俺は多分、この時の誇らしさを絶対に忘れないだろう。
アルカトラズ。城之内さんVSマリク、王様VS社長、城之内さんVS社長(非公式?)、王様VSマリク。
人智を超える神のカードのぶつかり合い、持てる力を出し尽くすデュエル。
これらのデュエルを間近で、直にこの眼で見られたことは、俺がこの先デュエリストとして生きるのであれば何物にも代え難い、得難い財産だろう。
そして俺はこの時には決めていた。デュエリストとなることを。
バトルシティ終了直後、自宅のアパートの窓からふとお隣を見ると、遅刻しそうなのか慌てて出てきた遊戯さんが誰かとぶつかる所が見えた。
その誰かは、赤い服を着て、クラゲのような髪型で、ハネクリボーの精霊を連れていた。
それを見た俺は……。
「……寝よう。」
見なかったことにした。
いやだって、この間までミレニアムバトルに巻き込まれてたんだよ? デュエリストを目指す者としては得難い経験だったとは思ってるけど、それはそれ。もう暫くはオカルトは勘弁です。
だが、平和な時は長くは続かない。
ドーマ。それまでと比べてもかなりぶっ飛んだ戦いを繰り広げることとなる……ちなみに、俺はまた人質にされました。何度目だ。
でも、俺だっていつまでも同じじゃない。抵抗ぐらいする。ちびっ子だから肉弾戦は出来るはずもないけど、デュエルなら出来る。
俺に何が出来たかは、正直解らない。戦いを終えた後にふと振り返ってみると、結局は原作と大差が無かった。王様は負けたし、バーサーカーソウルも発動されたし。その他も色々。
でも、経験は決して消えない。無駄なことなど、絶対に無い。そう信じている。
ちなみにその後、KC杯には出場できなかった。あの大会に出るには、流石に俺はちびっ子過ぎた。
とはいえ、観戦と応援の合間を縫って会場に来ていたデュエリスト達とちょいちょいデュエル出来たのは楽しかった。
俺と同い年ぐらいの、しかも日本人の子がいたのには少し驚いたなぁ。その上あの子、【ライダー】なんて使ってくるから余計にびっくりした。だって【ライダー】って確か、漫画版GXの万丈目のキーカード的な感じだったはずだもの。
けどよく考えれば【ライダー】は社長の嫁のようなレアリティってわけじゃないし、使い手が他にいたって可笑しくないよね、と思い直して納得した。
名前を聞いておかなかったのは失敗だったなぁ。精霊が見えてないみたいだったから、万丈目本人じゃないだろうし。残念。
そして最終的には無事に日本に帰って来られました。まる。
その後、童実野町でもデュエル大会が開かれることになった。ペガサスも特別ゲストとして来るらしい。
俺は正直、あまり嬉しくなかった。拉致され、薄暗い地下牢に閉じ込められたことを忘れるには、俺の心は狭かった。反対に遊戯さんは、もう気にしていないようだったけれど。罪を憎んで人を憎まず、を地で行っているようだ。あなたが菩薩か。
が、そのデュエル大会の最中、突如として実体化したドラゴンが襲撃してきた……ごめんなさい、ガチで忘れてました。超融合だ、これ。
しかし思い出したはいいものの、だからといって事態が好転するわけも無かった。むしろ悪化していたと言ってもいい。
遊戯さんが庇ってくれたお陰で俺は助かったけれど、双六じいちゃんが瓦礫に押し潰された。他の人たちも……ペガサスも含めてだ。その現場は凄惨の一言に尽きた。
そんな中で高笑いする1人の男。もういっそホラー染みている。
だが、その男は地上から見上げる俺に目を止めるとピタリと笑いを止めた。そして憎々しげに吐き捨てる。
「上野優……精霊の力を操るデュエリストにして、シンクロ召喚の立役者か。」
………………………………はい?
あまりに予想外な一言に、一瞬、現状も忘れて呆けてしまった。だがその男……パラドックスは待ってくれない。
「貴様も消えるがいい……私の大いなる実験のために!」
そうして己の従えるドラゴンに指示し、こちらを攻撃しようとしてきた。
ちょっと待て! 何のことだ!?
混乱している間に俺は、いや、俺と遊戯さんは赤き竜に助けられ、何とか危機を脱することが出来た。
こうして、まさかのタイムスリップを経験することになった……なったのだが。
「上野優……シンクロ召喚の祖か。」
ちょっと待て、だから何のことだ、不動遊星。
「うわー、優がちっせぇー。」
ちょっと待て、面識でもあるのか、遊城十代。
「優君、何をしたの?」
俺が聞きたいですよ、遊戯さん。
パラドックスから解放されたっていうのに、何故か海産物に囲まれてじろじろと見られる羽目になった。
そのちょっと不躾な海産物共(遊戯さんを除く)がデュエルによってパラドックスを打ち負かし、歴史は歪んだ悲劇を起こすことなく正常な流れを取り戻した。俺はそのデュエルを、猫&幽霊と一緒に見守っていた……俺、いつの間に幽霊まで見えるようになったんだろう。
俺の疑問が解消されたのは、この騒動の後だった。
未来から来た2人は帰り、大会も無事に終わったその後、ペガサスが俺を訪ねて来たのだ。王国でのことを詫びたいと言われた。本気で改心したらしい。いや、それはもう解ってたけどさ。お詫びだって、新しいパックを山ほどくれたんだ。許さんわけにはいかなかった。
にしても、ボロいアパートに世界のI2社会長がいるって……シュールな光景だ。
それで世間話をしていたら、先ほどの戦いの話になり、シンクロ召喚の話になった。
ペガサスは大層驚き、同時に興味を持ったんだが……そこでハタと気付いた。
あれ、これって傍から見れば、俺がシンクロ召喚を提唱したみたいになってないか? と。しかも、前世の懐かしさも加わって、シンクロ召喚についてかなりの補足を入れながら喋ってしまったような気がする。
だが今更気づいてももう遅い。ペガサスはすっかりその気になっていた。国に戻ったらプロジェクトを立ち上げるとまで言い出している。
俺は迂闊だった。それは認めるがただ、一言言いたい。
そもそもの原因はパラドックスじゃねぇか! お前が来なきゃ、俺だってペガサスにシンクロ召喚の話なんてしなかったんだよ! いずれ誰かがしてただろうし!
ただ、シンクロ召喚プロジェクトを立ち上げたとしても、実際に世に出すのはまだまだ先になるだろうとのことだ。その最大の理由は、ごく最近に大きなルール改訂を行ったことだ。
LPの変化、ダイレクトアタックの有無、生贄召喚……ここで更に新たな召喚法まで提唱しては混乱をきたすとのこと。なので、ゆっくりじっくり煮詰めながら計画を進めるらしい。
俺が今の遊戯さんぐらいの年齢になる頃には世に出したい、というのがペガサスの考えらしい……どうしてこうなった。
だがもう止められそうもないし、俺は何も言わないことにした。
シンクロ召喚が原作よりもかなり前倒しして世に現れそうな予感がする中、とうとう迎えた最後の戦い。王様の記憶を取り戻すためのもの。
事ここに至って、俺は初めて『巻き込まれて』ではなく『自主的に』参加した。かつての決意、『遊戯さんとの親交はそのままに、原作には関わらないようにスルーしよう』というものは、最早はるか彼方へと放り出されていた。
何かを成せるかは解らなかった。また足を引っ張るだけかもしれなかった。けれどここまで見て来たからには最後まで見届けたかったし、原作通りに行ったならばもう王様とは会えなくなってしまう。
遊戯さんと王様。どちらも間違いなく、俺の師匠的な、お兄さん的な存在だった。そんな終わりは嫌だったのだ。
それに、嬉しかったのだ。出来ることなんて殆ど無い、年もかなり離れた俺のことすら、仲間だと言ってくれる彼らの存在が。彼らはもう、俺にとっても『原作キャラ』などではなかった。
幸いと言うか何というか、俺には精霊の加護があった。俺の精霊はかなり強い力を持っているようだし、身を守るぐらいは出来るはずだ。事実、俺はもう人質要因じゃなかった。役に立ったかは微妙だけど。
ゾークは強く、ホルアクティは神々しかった。
しかし、記憶を取り戻した王様との別れも確実に近付いていた。
遊戯さんと王様……もとい、アテムさんとの闘いの儀は言葉に出来ない。
きっとこのデュエルは、変に口にしない方が良いんだろう。
けれど俺は忘れない。泣きながらアテムさんと離れた遊戯さんのことも、光の中へと還って行ったアテムさんのことも。きっと、忘れない。
さようなら、アテムさん。
普通の人なら一生経験しないであろう闘いを何度も経験し、やっと全てが終わった。
そんな中、俺にも変化はあった。
なんと、精霊を実体化させられるようになってしまったのだ。誤解しないでほしい、精霊と超融合とかはしてないからな。
ただ修羅場を潜り抜け続けた結果、いつの間にか魔力(ヘカ)の扱いを感覚的に身に付けてしまっていたってだけのことだ。言うなればサイコ・デュエリストのようなものか。決して二十代のような人外ではないので、あしからず。
俺の魔力(ヘカ)は人よりもかなり多いらしく、その事実に俺の精霊はご満悦だった……うん、お前魔法使い族だもんね。
精霊曰く、俺の魔力は無尽蔵と言ってもいいレベルで膨大で、コレのお陰でミレニアム・アイや千年タウクの力を跳ね返していたんだとか。全てが終わって初めて知った新事実だった。ちなみに、彼(精霊)が俺を主と認めたのも、そもそもはこの魔力に引かれたからじゃないかとか。
どうして今になってそんなことが解ったのかと聞けば、多くの闇のゲームに触れ過ぎた結果、ごく最近になって表面化したから気付いたらしい。おいこら。遅いよ。
俺、平凡な凡人なつもりだったのに……まさかの事実だよ、そんな設定いらなかったよ。
いや、俺は凡人だ。いくら強い魔力を持ってても、使うつもりが無いんだからやっぱり凡人だ。
なので変化はあっても俺は俺で、相変わらず遊戯さんと遊びながら日々を過ごしていた。
「非ィ科学的だ!」とか言って闇のゲームを誰よりも否定していたはずの社長が、宇宙にカードを飛ばして波動を取り込むとかいうオカルトテイストしかないような企画を敢行したりとか、そんな細々とした騒動はあったけど概ね平和な日々が流れる。
しかし更なる変化が訪れる。
俺の父の転勤が決まった。俺たち一家は引っ越し、童実野町を離れることになった。
引っ越しに当たり、皆が見送りに来てくれた。俺は冥界に還るわけじゃないのでまた会えるからか、アテムさんとの別れの時のように号泣している人はいなかったけど、誰もが惜しんでくれた。勿体ないことだ。
……後になって同年代の友人の見送りが皆無だったことに気付いて微妙な気分になったりしたけど、それだけ彼らと濃密な時間を過ごしていたということだろう。うん。
引っ越したとは言ってもそこは便利な現代社会。
電話やメール、手紙なんかで頻繁にやり取りはしていた。特に遊戯さんには、色々とデュエルの相談に乗ってもらったり。
でも引っ越して以来、遊戯さんと直接会うことは無かった。
約束したのだ。次に会うのは俺が一人前のデュエリストになった時、そして全力で戦おうと。
俺は本当に恵まれた贅沢者だと思う。
更に時は流れる。流れる。
やがて中学を卒業した俺は、デュエルアカデミアの入学試験に挑むこととなった。
さて、かつての彼らと同年代となった今の俺には、一体何が出来るのだろうか?
次回、入学試験。漸くデュエルが……ただし筆者はOCGは下手の横好きなので、熱いバトルが書ける自信はあまり無いのです……でも頑張ってみます。使うカードは決まってますので。