遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

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読む前に1つ、注意書きをさせて頂きます……これは酷い。
迷宮兄弟のファンの方、申し訳ございません。



第9話 罪と清算

 薄暗い地下道を歩くのに、灯りは何とも乏しかった。

 細い一本道の壁に申し訳程度に置かれていた燭台、それだけが光源である。

 

 「優君、大丈夫? 手、繋ごうか?」

 

 そう言ってくれたのは遊戯さんだったが、俺は首を横に振った。

 

 「大丈夫!」

 

 それは俺にとって当然のことであり、決して強がりでは無かった。

 いくら身体能力がちびっ子のそれとはいえ、転びそうになるほど足元は悪くない。

 それに遊戯さんのことは慕っていたけれど、手を繋いで歩くのは恥ずかしかった。

 

 「本当に大丈夫なの?」

 

 杏子さんも心配そうに確認してくれたけれど、俺は頷いた。

 2人はまだ不安げな顔をしていたけれど、城之内さんと本田さんが『優も男だからな!』と俺の意を汲んでくれ、俺はそのまま1人で歩くこととなった。

 本当にそれは、何の問題も無かった。そのはずだった。

 道は舗装されているわけでは無かったけれど転びそうになるほど悪いわけじゃ無く、視界が0になるほど暗いわけでも無い。正真正銘のちびっ子のようにフラフラと勝手に行動するつもりも無いし、俺たちはそのまま地上に出られるハズだった。

 けれど、違った。

 問題は内的要因だけでは無く、外的要因でも起こり得るものだったのだ。

 

 「おい、見ろ! 出口だ!」

 

 長い通路を歩いた先に漸く見えた上へと登る階段、その先から差し込んでくる太陽の光にみんなが興奮したのは、決して悪いことじゃない。

 本当に出口があるのかという漠然とした不安を抱える中、やっと見付けたそれである。喜ぶなと言う方が無理である。ついつい興奮して駆け出してしまったみんなを、誰も責められやしない。

 そんな一行の中、最も運動能力が低い俺が最後尾となってしまうのも、自明の理であった。

 

 だが、その一瞬だった。

 

 やっと見付けた出口への喜び、社長が先にペガサス城へと向かってしまっている焦り、そういった要因が綯い交ぜとなって注意力が散漫となっている中で、俺は突如、背後から拘束されてしまったのだ。すぐさま助けを呼ぼうとしたが口を塞がれ、暴れようにもガッチリとホールドされて身動きが取れない。

 みんなが光へと向かって駆けて行くのを見ながら、俺だけがまた暗い地下へと強制的に逆戻りさせられる。

 

 「コイツでいいのか?」

 

 「あぁ。ペガサス様は『武藤遊戯と一緒にいる子供を連れて来い』と仰っていた」

 

 頭上で交わされたそんな会話に、俺はすぐさま状況を悟る。俺は今、誘拐されようとしているのだと。その声にも聞き覚えがあった。つい先ほど遊戯さんたちに負けた、迷宮兄弟だ。

 しかしそれを理解しても、抵抗できる力は俺には無かった。

 当時の俺は、身体能力も年相応で。魔力だって扱えなくて。

 ちょっと精霊が見えて口が達者なだけの、ただの子供でしかなかった。

 

 俺は自身の甘さを痛感する。

 ここは敵地であり、気を抜きすぎてはいけなかったのだと。

 そして同時に思う。

 今こうして俺の身に起きていることを知れば、遊戯さんは苦しむのかもしれない、と。自分のせいで俺を巻き込んだと思うのかもしれない、と。

 

 けれど、俺が悪いのだ……最も悪いのはペガサスだけれど。

 もしも、素直に遊戯さんの手を取っていれば。

 もしも、俺がもっと強ければ。

 もしも、俺がいなければ。

 もし、もし、もし……。

 色々な仮定が頭に浮かんでは消えていくが、現実は変わらない。

 俺は悲しくなるほどに弱者で、情けないほどに何も出来ない。

 精霊が見えるから何だ、前世の記憶があるから何だ。それでもこうして足を引っ張る。無意識に驕っていた、その罪の報いがこれなんだ。

 

 俺は悟った。

 誰かを頼るのは恥などでは無い。ちっぽけなプライドなど役に立たない、それよりも厚意を受け取るべきだった。友達だと、仲間だと言ってくれる人たちのことを1番に考えるべきだったのだ。

 今回の場合、一行で最も弱いのは誰がどう見ても俺。ならば、俺を気遣ってくれる行為を突っ撥ねるべきでは無かったし、俺自身がそれを自覚して頼るべきだった。

 そうすれば、そもそもこんな事態にはならなかった。

 

 そして決意する。強くならなきゃいけない。

 せめて、誰かの足を引っ張らないように。こんな困難、自力で乗り越えられるように。

 いつか絶対、こんなヤツらぐらい、泣かせて、跪かせられるぐらいに強くなるのだと。

 そう決意したのと同時、腕の中で暴れる俺をいい加減に煩わしく思ったのか、迷宮兄弟(兄か弟かまでは解らない)が首筋に手刀を一発落としてきた。

 意識が暗転して、俺の記憶はそこで途切れる。

 

 

Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi!

 

 PDAに内蔵されている目覚ましのアラーム音に反応し、俺はゆっくりと覚醒する。まだ少し寝ぼけた頭のまま腕を伸ばしてPDAを取り、音を止める。沈黙した機械をベッドにポイッと投げ出し、再び大の字に寝転んだ。

 

 久しぶりに、嫌な夢を見た。しかもただの夢じゃない。過去、現実に起こったことを再生した夢だ。

 記憶の再生であるから、物語のようにラストシーンで格好よく敵を打倒したりしないし、救いのヒーローが現れたりもしない。ただただ無情に流れて行くだけの映像。

 それは俺にとって一種の悪夢であった。何も出来なかった自分を見せ付けられるからだ。幼い頃は、情けなさと申し訳なさで涙が出そうになったこともある。

 何で今更あんな夢を見たんだろう。バトルシティの途中、乃亜の一件の時にBIG5の1人を倒して少し自信を持ててからは滅多に見なくなっていた。

 今となってはもう、自分が何も出来ないなんて思わない。あそこまでの無力感を覚えることは殆ど無い。それなのに……。

 

 「幸先悪いのかな……十代の足を引っ張ったりして」

 

 今日は、制裁タッグデュエルの日だっていうのに。

 

 

  

 俺たちは今、デュエル場で相手の到着を待っている。制裁デュエルの噂が広まったせいか、リングを取り囲む観客席にはかなりの数のギャラリーが集っていた。殆どの人が心配そうに見ているが、多少の人たち(ぶっちゃけて言うとブルー男子生の一部)は『負けろ負けろ』という怨念の籠っているかのような視線を送ってきている。

 俺もそうだけど、十代もよくデュエルするもんな……んで、あいつら負けてるもんな……情けない溜飲の下げ方だよ。

 負ければ退学というような重いペナルティが無いためか、十代には全く緊張感は見られない。尤もコイツの場合は、有っても緊張しない気もするが。

 俺も人のことは言えないが。特に俺は相手がわざわざ外部から呼び寄せられたヤツだと知っているので、それも一入だ。この機会を逃したらもうデュエル出来ない相手かもしれないんだし。そう考えると、制裁デュエルを受けることになって良かったのかもしれない。

 けれど、いつもほどワクワクは出来なかった。それもこれも夢見が悪かったせいだ。どうか、ちゃんとサポートできますように。

 軽く溜息を吐いたその時、クロノス先生がリングに上がってきた。

 

 「それではこれよーり、タッグデュエルを始めますーノ!」

 

 そんなコールをするためにわざわざ来たようだ。ご苦労なことである。

 

 「それで、デュエルの相手は? 君か、ブルーの生徒かね?」

 

 見届けに来ている鮫島校長が、観客席からクロノス先生に聞いた。おい、知らないのかよ校長。

 

 「ノンノン」

 

 それにクロノス先生はチッチッと指を揺らして答える。

 

 「今回の制裁デュエルーは、彼らが立ち入り禁止区域に入ったことに対するペナルティですノーネ! それ相応ーのデュエリストでないート意味がありませンーノ!」

 

 言ってることはそれっぽいというか、一理あるけど……元凶はアンタじゃね?

 思わずジト目で見てしまうと、ふと何気なしにこちらを見たクロノス先生と目が合った。次の瞬間には気まずそうに眼を逸らされたが。

 

 「ふ、不心得者ーを叩きのめすべーく、伝説ゥのデュエリストを呼んでありますーノ!」

 

 だ・か・ら。誰が元凶だと思ってんだよ……いや、まぁ、タイタン登場以前から廃寮には入っちまってはいたけど。

 にしても、伝説のデュエリストかぁ。伝説……昨日のモクバのあの態度……まさか、社長!?

 しかしそこまで思い至って戦慄したその瞬間。

 

 「「とぅ!!」」

 

 背後から『何か』が勢いよく飛び出してきた。

 ソレは2人の人間だった。双方ともハゲ頭で、片方が緑、片方がオレンジのチャイナ服を着ている。2人はくるくると空中回転をし、着地をしたと思ったら今度はバク転しながらリングの向かい側へ……あれ? なんかすっげぇ見覚えがある気がする。

 漸くバク転を終了させた2人は揃って決めポーズを取った。

 

 「我ら流浪の番人!」

 

 「迷宮兄弟!」

 

 ……………………………やっぱりテメェらかァァァァァァァァァ!!!

 

 「うぉー、香港映画か!?」

 

 十代、それ違う。

 

 「彼らは、あのデュエルキング・武藤遊戯と戦ったこともあるという伝説ゥーのデュエリストでスーノ!」

 

 「……は?」

 

 え、何言ってんのクロノス先生。

 そんなことで伝説のデュエリストになれるんだったら、俺だってとっくに伝説のデュエリストだぞ!?

 

 「スッゲェ! そんなヤツらとデュエル出来んのか!?」

 

 十代、お前もう何年も前から『そんなヤツ』とデュエルしてる。

 

 「本物だ……本物だ……!」

 

 鮫島校長、だからあんなのは伝説のデュエリストじゃないですって。瞳を輝かせないでください。

 でも、そうか……迷宮兄弟か……そうか……。

 

 「お主らに恨みは無いが」

 

 「故あって対戦する!」

 

 おい、お前らには無くても俺にはあるぞ。恨み。

 思えばアレが始まりだった。

 

 「我らを倒さねば」

 

 「道は開けぬ!」

 

 アレ以来、俺の人質ポジが確定したも同然だった……どれだけ情けなく、申し訳ない日々だったことか!

 

 「いざ!」

 

 「勝負!!」

 

 解ってんのか、この誘拐魔どもッ!!

 

 「なぁ、お前ら」

 

 ビシッとポーズを決める迷宮兄弟に、俺は静かな声で呼び掛けた。

 

 「俺とどこかで会ったことが無いか?」

 

 その質問に、兄弟は揃って胡乱げな顔をした。

 

 「何?」

 

 「知らんな」

 

 「…………そう」

 

 あぁ、そうか、知らないか。

 そりゃそうだろうよ! 当時、あの言い草ならお前らがペガサスに俺の名前なんて聞いてなかったんだろうなって事は想像がつくよ!

 顔立ちだって、ちびっ子が高1になりゃ変わっちまってるだろうよ!

 でもな、やられた方はずーーーーっと覚えてんだよ!! お前らが忘れていようが、気付いてなかろうが!

 

 「ふ、ふふふ……ふふふふふふふ」

 

 「お、おい、優? どうした?」

 

 「このデュエルが楽しみなんだよ……十代、お前は違うのか?」

 

 「いや、俺も楽しみだぜ? デュエルキングと戦ったことがあるデュエリストとデュエルすんの。でも何か、こう……怖いぞ、お前」

 

 「気のせいだ。俺はただ、凄く嬉しいだけだよ。あの日の誓いを果たすチャンスが巡って来たんだ」

 

 「あの日? 誓い?」

 

 「こっちの話だ、気にすんな」

 

 俺がコイツらに誘拐された日に、俺は心に誓ったのだ。いつかこのハゲ共を泣かすと。

 よし、ペガサスが改心しちゃったせいであの人に晴らせなかった分の恨みも纏めて返してやろう。

 思えば、だからあんな夢を見たのかもしれない。あれまぁ、俺ってばいつの間にそんな能力まで。精霊が見えるようになって、幽霊が見えるようになって、カードを実体化させられるようになって、今度は夢でお告げ? ハハハ、いざとなったらコレで食っていけるかもな! 全く嬉しくないがな!

 

 「それでーハ、タッグデュエルを始めますーノ!」

 

 俺が新たな誓いを心に刻む中、クロノス先生が開始宣言をした。

 

 「このタッグデュエルでーハ、パートナーのフィールドと墓地も自分のものとして扱いまスーノ! ライフポイントは8000ポイントをパートナー同士で共有! パートナー間のアドヴァイスは禁止! それでは……開始!」

 

 「「「「デュエル!」」」」

 

優・十代 LP8000 

迷宮兄弟 LP8000

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優・十代 LP8000

 優(ターンプレイヤー) 手札6枚

 十代 手札5枚

 

 ディスクが示した1番手は俺だった。

 さて。ヤツらを泣かすとは決めたものの、どうするべきか。

 

 『あんまりやり過ぎるんじゃねぇぜ?』

 

 昨夜のモクバの言葉が脳裏を過ぎる。アイツ、こうなるって解ってたからあんなこと言ってたんだな。

 

 俺はあの日、ペガサス城に連れて行かれてペガサスと対面した後、地下牢に入れられた。そして俺の房は、偶々なのか狙ってなのか、モクバが入れられていた房の隣だった。黙っているのも気が滅入るため、俺たちは互いの状況だの何だのを色々と話したもんだ。尤もそれも、モクバが魂を抜かれるまでだったが。

 それはともかく、故にアイツは知っている。俺を誘拐したのが何者なのか、俺がそれをどう思っているのか。だからこそのあの忠告だったのだろう。

 

 正直、腸は煮えくり返っている。だがだからこそ、より冷静にならなければ。

 

 そう考えると、タッグデュエルで良かったのかもしれない。今回の俺はサポート重視のデッキを組んでるから、いつも以上に火力が弱い。やり過ぎたくてもやり過ぎられないのだ。

 だが今の俺の手札は、場を整えるには丁度いい。というか、良すぎる。デッキが俺の気持ちに応えてくれているかのようだ。

 よし。ならばあいつらを叩きのめすのは当初の予定通り、十代に任せる。俺はその力が120%引き出せるようにするまで。

 

 「俺は【召喚僧サモンプリースト】を守備表示で召喚」

 

【召喚僧サモンプリースト】

効果モンスター

星4 闇属性 魔法使い族 攻撃力 800/守備力1600

このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。

このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードは生贄にできない。

1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない

 

 召喚に成功した時に守備表示になる効果を持つ【サモプリ】だが、この世界では元々表側守備表示が可能なために、わざわざそうする必要性は無い。

 現れた白髪の老魔術師。早速行くぜ。

 

 「【サモンプリースト】の効果。手札の魔法カードを1枚墓地に送ることで、デッキからレベル4のモンスター1体を特殊召喚する。ただしその特殊召喚したモンスターはこのターン、攻撃出来ないけど……今は1ターン目だ、関係無いな。俺は手札の魔法カード【代償の宝札】を墓地に送り、デッキからレベル4の【王立魔法図書館】を守備表示で特殊召喚」

 

 魔法の力を得た【サモプリ】により現れる【図書館】。ふふふ、これが俺のサポートその1。

 

 「【代償の宝札】の効果発動。このカードが手札から墓地に送られた時、デッキからカードを2枚ドローする」

 

 フィールドに2体のモンスターを呼んだのに、実質的な手札消費は0。【代償の宝札】は本当にありがたい。

 今日の晩餐は蟹しゃぶにしよう。たしかイエロー寮の食堂にあった。凄く高いから1度も食ったこと無いけど。今回コイツらを叩き潰せたら奮発しよう。十代たちも招待して……勿論、エビフライだって付ける。DPは溜まってるからね。

 

 「マジックカード、【テラ・フォーミング】を発動。デッキからフィールド魔法を手札に加える。【魔法都市エンディミオン】を手札に加え、そのまま発動。魔法カードの使用により【図書館】に魔力カウンターが溜まる。そして【魔力掌握】を発動。その効果で【魔法都市】にカウンターを乗せ、デッキから2枚目の【魔力掌握】を手札に加える。魔法カードの使用によりさらにカウンターが溜まる」

 

魔力カウンター 【魔法都市エンディミオン】 0→2

          【王立魔法図書館】 0→3

 

 「カードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

優・十代 LP8000

 優(ターンプレイヤー) 手札2枚

 モンスター (守備)【召喚僧サモンプリースト】

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター2

       伏せ3枚

 十代 手札5枚

 

 「私のターン! ドロー!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄(ターンプレイヤー) 手札6枚

 弟 手札5枚

 

 次のターンは迷宮兄弟の兄。それから十代、弟と続き、次の俺のターンから攻撃が可能となる。

 

 「随分と忙しないな。もう少しゆっくりとデュエルを楽しんだらどうだ?」

 

 「こういうデッキなんだよ。安心しろ、十分楽しんでいる」

 

 兄の挑発めいた発言はサラッと流す。そもそも俺にしてみれば、アイツらの存在そのものが挑発のようなものだ。今更その程度で心を乱しはしない。

 

 「私は【地雷蜘蛛】を召喚! ターンエンドだ!」

 

【地雷蜘蛛】

効果モンスター

星4 地属性 昆虫族 攻撃力2200/守備力 100

このカードの攻撃宣言時、コイントスで裏表を当てる。

当たりの場合はそのまま攻撃する。

ハズレの場合は自分のライフポイントを半分失い攻撃する。

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄(ターンプレイヤー) 手札5枚

  モンスター (攻撃)【地雷蜘蛛】

  魔法・罠 無し

 弟 手札5枚

 

 おい。

 確かにこのタッグデュエルではこのターン、誰も攻撃出来ない。それに【地雷蜘蛛】の攻撃力は2200、壁と考えると中々の数値だ。

 でもそれだけで伏せカードも無し? 舐めとるんか?

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

優・十代 LP8000

 優 手札2枚

 モンスター (守備)【召喚僧サモンプリースト】

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター2

       伏せ3枚

 十代(ターンプレイヤー) 手札6枚 

 

 勢いよくカードをドローした十代は、チラッとこっちを見た。俺はそれに頷く。

 

 「俺は優の場にいる【召喚僧サモンプリースト】の効果を使うぜ!」

 

 そう、このタッグデュエルではパートナーのフィールドも自分のフィールドとして扱う。それはつまり、パートナーのモンスター効果も使えるということだ。

 

 「【召喚僧サモンプリースト】の効果発動! 手札のマジックカード【R-ライトジャスティス】を墓地に送って、デッキからレベル4の【E・HEROエアーマン】を特殊召喚する!」

 

【R-ライトジャスティス】

通常魔法

自分フィールドの「E・HERO」カードの数だけ、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

 十代にも【代償の宝札】でもあったら良かったんだけど、流石にそこまでの余分は無かった。だが三沢……じゃなくて【エアーマン】を呼んだのなら、アド損は無きに等しい。

 

 「【エアーマン】の効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからHEROと名の付いたモンスター1体を手札に加える! 俺が選ぶのは【E・HEROプリズマー】だ!」

 

 しかも【プリズマー】か。【ブレイズマン】でもあればもっと面白かったんだろうけど、あれは元々アメリカのカードだったせいか、今は十代も持ってないしな……そういったカードも続々と海を渡って来ている現状を考えれば、いつか手に入れそうな気がひしひしとしてくるけど。

 

 「そして【王立魔法図書館】の効果も発動! 魔力カウンターを3つ取り除いてデッキから1枚ドローする!」

 

 そう、これが俺のサポートその1。身も蓋も無い言い方をすれば、チートドローのスキル持ちにドローさせまくろうぜ、ってことである。そのため、前のターンに【図書館】のカウンターが溜まりきっていたのに俺は効果を使わなかった。

 ちなみに、言うまでも無く【図書館】は3積みである。

 

 「手札からマジックカード、【E-エマージェンシーコール】! デッキからE・HEROを1体、手札に加える! 来い、【フェザーマン】!」

 

【E-エマージェンシーコール】

通常魔法

デッキから「E・HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

 そして魔法カードの使用によって、魔力カウンターが溜まった。そうなれば勿論。

 

 「【王立魔法図書館】の効果! デッキから1枚ドローする!」

 

 「何!?」

 

 「だが、【王立魔法図書館】に乗っているカウンターは1つ!」

 

 そうか、お前ら知らないのか。悪かったな、どうせ【魔法都市】はマイナーなフィールド魔法だよ。

 だが俺は優しいので、こんなヤツらにも懇切丁寧に教えてやろう。

 

 「【魔法都市エンディミオン】は、自分フィールド上の魔力カウンターを使った効果発動に自身に乗ったカウンターを代用出来る」

 

 「「何だと!?」」

 

 ハモるなキショい。

 けど、これで十代の手札何枚だ? 8枚? ……初期手札より増えてるな。使わないとエンド時に捨てることになる。

 

 「【クレイマン】を守備表示で召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

優・十代 LP8000

 優 手札2枚

 モンスター (守備)【召喚僧サモンプリースト】

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3→0→1

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター2→3→0

       伏せ3枚

 十代(ターンプレイヤー) 手札6枚

 モンスター (攻撃)【E・HEROエアーマン】

        (守備)【E・HEROクレイマン】

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 モンスター召喚して、リバースカード出して、ターンエンド時に手札が6枚残ってる……怖い。

 でも、十代の調子が良ければ良いほどあの兄弟をボロボロにしてやれるので、俺としては大歓迎だ。

 

 「私のターン! ドロー!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄 手札5枚

  モンスター (攻撃)【地雷蜘蛛】

  魔法・罠 無し

 弟(ターンプレイヤー) 手札6枚

 

 それでも迷宮兄弟は揃って不敵な笑みを浮かべていた。余裕なのか驕っているのか。

 

 「私は【カイザー・シーホース】を召喚!」

 

【カイザー・シーホース】

効果モンスター

星4 光属性 海竜族 攻撃力1700/守備力1650

光属性モンスターを生贄召喚する場合、このカードは2体分の生贄とする事ができる。

 

 出て来たのは光属性のダブルコストモンスター。やっぱりアイツらの狙いは、相も変わらず【ゲート・ガーディアン】なんだろう。あの当時とはルールが変わって随分と出しにくくなったのに使い続ける当たりには、カードへの信頼があるんだろう。俺の知ったこっちゃ無いが。

 【ゲート・ガーディアン】を呼びたけりゃ呼ぶがいい。ただし、使わせてやるとは言っていない。

 

 「そして手札から【生け贄人形】を発動!」

 

 俺が【ゲート・ガーディアン】に相応しい末路を考えている間に、弟は次の手を使ってきた。

 

【生け贄人形】

通常魔法

自分フィールド上モンスター1体を生け贄に捧げて発動する。

手札から通常召喚可能なレベル7のモンスター1体を特殊召喚する。

そのモンスターはこのターン攻撃できない。

 

 【生け贄人形】かぁ。レベル7限定じゃなくてレベル7以上ならもっと汎用性が高くなってた気がするのになぁ。

 それはそれとして、折角出したダブルコストモンスターを生け贄になんてしないだろう。となると生け贄要員は。

 

 「私は【地雷蜘蛛】を生け贄に、手札より【風魔神-ヒューガ】を特殊召喚!」

 

【風魔神-ヒューガ】

効果モンスター

星7 風属性 魔法使い族 攻撃力2400/守備力2200

このカードが相手のターンで攻撃された場合、そのダメージ計算時に発動する事ができる。

その攻撃モンスター1体の攻撃力を0にする。

この効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない。

 

 【風魔神】か……俺が絶対に使わない魔法使い族その1だな。いや、カードに罪は無いのは解ってるんだが。

 俺はチラッと伏せカードを見た。いや、まだだ。お楽しみはこれからだ。

 

 「済まない兄者」

 

 「何、お前の為なら犠牲にもなろう」

 

 弟が【生け贄人形】のコストにしたのは兄のモンスターだったため、弟は謝罪していた。おい、どうでもいいから早く進めろ。

 

 「いや、このままでは私の気が済まぬ。私はマジックカード、【闇の指名者】を発動!」

 

【闇の指名者】

通常魔法

モンスターカード名を1つ宣言する。

宣言したカードが相手のデッキにある場合、そのカード1枚を相手の手札に加える。

 

 「私が宣言するのは【雷魔神-サンガ】!」

 

 弟が兄を指で指しながら宣言すると、兄はくつくつと笑った。

 

 「くくっ。勿論、私のデッキに【サンガ】はある!」

 

 あれ? どうどうとやり取りしてるけど、この場合の『相手』ってパートナーも含まれるの? ディスクが反応してるんだから含まれるんだろうな。

 またタッグデュエルすることがあるかもしれないし、よく覚えておこう。

 

 「私はこれでターンエンド!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄 手札6枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 弟(ターンプレイヤー) 手札2枚

  モンスター (攻撃)【風魔神-ヒューガ】

         (攻撃)【カイザー・シーホース】

  魔法・罠 無し

 

 弟がエンド宣言をすると同時に、揃って変な構えを取る迷宮兄弟。

 

 「お主らに!」

 

 「タッグデュエルの真髄を!」

 

 「「教えてやろう!!」」

 

 だから、何故一々決めポーズを取ったりハモったりするのか。

 でもそうかそうか。そこまで言うなら教えてもらおうじゃないか。

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優・十代 LP8000

 優(ターンプレイヤー) 手札3枚

 モンスター (守備)【召喚僧サモンプリースト】

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター1→3

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター0→2

       伏せ3枚

 十代 手札6枚

 モンスター (攻撃)【E・HEROエアーマン】

        (守備)【E・HEROクレイマン】

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 さて、【図書館】のカウンターが溜まってるな。どうせまたすぐに溜まるし、俺も使うか。でもその前に。

 

 「【召喚僧サモンプリースト】の効果。手札からマジックカード【マジックブラスト】を墓地に送り、デッキから2枚目の【王立魔法図書館】を守備表示で特殊召喚する」

 

 現れる2枚目の【図書館】。その鬼畜っぷりの意味をあの兄弟が悟るのは、もう少し先だろう。

 

 「1体目の【図書館】の効果。カウンターを取り除いて1枚ドローする……へぇ」

 

 これはこれは……良いカードが来た。

 

魔力カウンター 【魔法都市エンディミオン】 2

          【王立魔法図書館】① 3→0

          【王立魔法図書館】② 0

 

 「永続魔法、【魔法族の結界】を発動する。フィールドの魔法使い族が破壊される度にこのカードに魔力カウンターを乗せ、場の魔法使い族1体と共に墓地に送ることでそのカウンターの個数分ドローすることが出来る」

 

 そしてカウンターを溜める方法はそれだけじゃないのだ。

 

 「2枚目の【魔力掌握】を発動。【魔法族の結界】に魔力カウンターを乗せ、デッキから3枚目をサーチ。さらに【黒魔力の精製者】を召喚し、効果発動。このカードを守備表示に変更することで、場のカードに魔力カウンターを1個置く。【魔法族の結界】にカウンターを乗せる。ターンエンド」

 

優・十代 LP8000

 優(ターンプレイヤー) 手札1枚

 モンスター (守備)【召喚僧サモンプリースト】

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター0→2

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター0→2

        (守備)【黒魔力の精製者】

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター2→4

       (永続魔法)【魔法族の結界】 カウンター0→2

       伏せ3枚

 十代 手札6枚

 モンスター (攻撃)【E・HEROエアーマン】

        (守備)【E・HEROクレイマン】

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 「私のターン! ドロー!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄(ターンプレイヤー) 手札7枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 弟 手札2枚

  モンスター (攻撃)【風魔神-ヒューガ】

         (攻撃)【カイザー・シーホース】

  魔法・罠 無し

 

 

 兄は俺を見、フッと笑った。

 

 「随分と消極的なことだ! 守っているだけではデュエルに勝つことは出来んぞ!」

 

 それに対し、こっちは鼻で笑う。

 

 「言ってろ。俺の役目は攻撃じゃないんだよ。守ってるんじゃない、お膳立てをしてるんだ……一応忠告しといてやる。賭けてもいい。お前ら、次のターンで地獄を見るぞ」

 

 俺のその発言に兄弟は胡散臭そうな顔をしていたけれど、観客席で翔と隼人、それに明日香がうんうんと頷いているのが目に入った。肝心の十代はキョトンとしてたが。だからお前、少しは自覚しろって。

 

 「フン、ハッタリを……私は【カイザー・シーホース】を生贄に、【雷魔神-サンガ】を召喚する!」

 

 【闇の指名者】で手札に加えていた【サンガ】。当然と言えば当然だが、すぐさまその姿を現した。俺はと言うと、素知らぬ顔を貫く。まだだ……まだ使わない。

 

【雷魔神-サンガ】

効果モンスター

星7 光属性 雷族 攻撃力2600/守備力2200

このカードが相手のターンで攻撃された場合、そのダメージ計算時に発動する事ができる。

その攻撃モンスター1体の攻撃力を0にする。

この効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない。

 

 「そして【死者蘇生】を発動! 墓地から【地雷蜘蛛】を呼び寄せ、【生け贄人形】を発動!」

 

 兄弟で同じカードを入れていたようだ。戻ってすぐさま墓地にとんぼ帰りとは、【地雷蜘蛛】も忙しいヤツだなぁ。

 

 「【地雷蜘蛛】を生け贄に、手札より【水魔神-スーガ】を特殊召喚!」

 

【水魔神-スーガ】

効果モンスター

星7 水属性 水族 攻撃力2500/守備力2400

このカードが相手のターンで攻撃された場合、そのダメージ計算時に発動する事ができる。

その攻撃モンスター1体の攻撃力を0にする。

この効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない

 

 「すっげぇ、一気に来た!」

 

 十代が目を輝かせる。コイツ、本気でこのデュエルが制裁デュエルだってのを忘れてるな。

 キラキラとした眼差しで見られて悪い気はしないのか、迷宮兄弟は再びポーズを取る。

 

 「これで揃った!」

 

 「見せてやろう! 我らが究極のモンスターを!」

 

 十代だけじゃ無く、俺もワクワクしてきた。俺の今のワクワクは、十代のそれとは話が違うんだろうが。

 

 「【風魔神ーヒューガ】!」

 

 「【水魔神ースーガ】!」

 

 「【雷魔神ーサンガ】!」

 

 「「3体がフィールドに揃った時、この3体を生け贄に捧げ【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!」」

 

【ゲート・ガーディアン】

特殊召喚・効果モンスター

星11 闇属性 戦士族 攻撃力3750/守備力3400

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドの「雷魔神-サンガ」「風魔神-ヒューガ」「水魔神-スーガ」をそれぞれ1体ずつ生け贄にした場合に特殊召喚できる。

 

 迷宮兄弟の掛け声に合わせてフィールドの3体が合体し、乗っただけのダサい究極体が姿を現した、まさにその時。

 

 「あ、【黒魔族復活の棺】を発動するね」

 

 「「…………何?」」

 

【黒魔族復活の棺】

通常罠

相手がモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスター1体と自分フィールドの魔法使い族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスター2体を墓地へ送る。

その後、自分のデッキ・墓地から魔法使い族・闇属性モンスター1体を選んで特殊召喚できる。

 

 俺のリバースカードの発動に従い、選ばれた2体のモンスターがフィールドに出現した2つの棺に吸い込まれた。その2体とは俺の場の【黒魔力の精製者】と。

 

 「というわけで、【ゲート・ガーディアン】は墓地に行ってもらうから」

 

 当然、【ゲート・ガーディアン】である。

 ふふふ、この時を待っていた。三魔神を1体ずつ処理するより、こっちの方が簡単だし。アイツらのメンタルにも傷が入るだろうし。

 

 「わ、我らの……」

 

 「【ゲート・ガーディアン】が……」

 

 茫然自失状態の迷宮兄弟はスルーし、効果を続ける。

 

 「【ゲート・ガーディアン】はありがたくこの俺の踏み台にさせてもらうぜ。そしてデッキから闇属性・魔法使い族のモンスター1体を特殊召喚する。呼ぶのは【魔導戦士ブレイカー】」

 

 『トゥッ!』

 

 勇ましい掛け声と共に降り立つ【ブレイカー】。しかし俺の傍らのエンディミオンは不服そうだった。

 

 『主よ、何故我を呼ばん?』

 

 (【ブレイカー】の方が使いやすいだろ?)

 

 これが俺のサポートその2。戦闘以外での除去。なので今回の俺のデッキ、【神宣】だの【神警】だの【賄賂】だののカウンターがかなり多くなっている。

 反対に十代のデッキはそういったカードが少ない。ガンガン攻めるためのデッキと言っていい。

 

 例えるなら、俺がスクルト・マホカンタ(トラップなどによる防御)やピオリム(【図書館】などによるドロー促進)を唱えている間に十代が攻撃するといった所か。まさしく戦士と魔法使い。魔力カウンターはMPか。

 バイキルト? 唱えんでも十分に爆発力はあるので問題無い。

 ちなみに、先日わざわざ渡しに行った【臨時収入】は『今回は別に無くても良くね?』という結論に落ち着いたため入ってない。

 閑話休題。

 

 「えー、何だよ、もう退場かぁ!?」

 

 遊戯さんと戦ったモンスターとやり合いたかったのだろう、十代は不服そうだった。しかしその無邪気な発言は、図らずもあの兄弟の心を更に抉る。十代GJ。

 俺はそれに肩を竦めて答えた。

 

 「防御や行動阻害のリバースカードも何も用意してなかったアイツらが悪い。さて、『伝説のデュエリスト』がここからどう立て直すか、お手並み拝見といこうか?」

 

 あえて『伝説のデュエリスト』を強調して微笑みかけると、十代はまたキラッキラした顔をしてあの兄弟を見た。『どうするのかな、どんな手を使ってくるのかな』という期待を隠しもしない眼差しである。その純粋さが、兄弟のメンタルを更に追い詰めた。

 

 「わ、私は……」

 

 ターンプレイヤーである迷宮兄弟・兄は顔色が悪い。絶対の自信を持つモンスターがあっさりと除去された事実は受け入れがたいものであるらしい。気持ちは解る。俺もこの前、カイザーにエンディミオンを【奈落】で落とされた時はショックだった。解っててやった。反省も後悔もしていない。

 

 「リバースカードを2枚セット! ターンエンドだ!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄(ターンプレイヤー) 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 伏せ2枚

 弟 手札2枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 

 ショックから抜け切れていなくとも、デュエルは続けなければならない。兄は伏せカードを出し、エンド宣言をした……悔しいでしょうねぇ。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

優・十代 LP8000

 優 手札1枚

 モンスター (守備)【召喚僧サモンプリースト】

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター2→3

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター2→3

        (攻撃)【魔導戦士ブレイカー】

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター4→6

       (永続魔法)【魔法族の結界】 カウンター2

       伏せ2枚

 十代(ターンプレイヤー) 手札7枚

 モンスター (攻撃)【E・HEROエアーマン】

        (守備)【E・HEROクレイマン】

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 十代の手札は現時点で7枚。繰り返そう。『現時点で』7枚である。

 

 「俺は【図書館】の効果を発動するぜ! 魔力カウンターを3つ取り除いてドロー! 2体いるから2枚ドローだ!」

 

 これで9枚。

 

 「でもって、【魔導戦士ブレイカー】の効果! 【魔法都市】のカウンターを1つ取り除いてフィールド上のマジック・トラップを1枚破壊する! 右のリバースカードを破壊する!」

 

 「【アヌビスの裁き】が……」

 

 茫然と呟く兄。うん、まぁ、それってモンスター効果には対応してないしね。

 

【アヌビスの裁き】

カウンター罠

手札を1枚捨てる。

相手がコントロールする「フィールド上の魔法・罠カードを破壊する」効果を持つ魔法カードの発動と効果を無効にし破壊する。

その後、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える事ができる。

 

 次いで十代は、その豊富な手札から1枚のカードを選び取った。

 

  「速攻魔法、【サイクロン】! フィールド上のマジック・トラップを1枚破壊する! もう1枚のリバースカードを破壊!」

 

 【サイクロン】も来てましたかそうですか。そしてそれによって破壊されたリバースカードは【ミラフォ】……本っ当に仕事しないな。

 もしも【サイクロン】を先に発動していれば、或いは【ブレイカー】で破壊したのが【ミラフォ】だったなら。せめて【アヌビスの裁き】を発動出来ただろうに。運の無い奴らだ。十代が強運なだけかもしれんが。

 

 「【魔法族の結界】を【召喚僧サモンプリースト】と一緒に墓地に送って、2枚ドロー! そして手札から【強欲な壺】を発動! デッキから2枚ドロー!」

 

 まぁ、9枚……いや、【サイクロン】使って【魔法族の結界】でドローしたから……10枚か。10枚も手札があれば【強欲な壺】が来てても可笑しくないよな。

 

 「【天使の施し】を発動! 3枚ドローして2枚捨てる! カウンターが溜まったことにより、【図書館】の効果で2枚ドロー! そして【HEROの遺産】! 自分の墓地にレベル5以上のHEROが2体以上いる時、デッキから3枚ドローする! 俺の墓地にはレベル5の【E・HERO ネクロダークマン】とレベル7の【E・HERO エッジマン】がいる!よって3枚ドロー!」

 

魔力カウンター 【魔法都市エンディミオン】 6→5→9

          【王立魔法図書館】① 3→0→3→0→1

          【王立魔法図書館】② 3→0→3→0→1

 

 【ネクロダークマン】も【エッジマン】もフィールドに出て来ていない。今の【天使の施し】で条件を満たしたんだろう。怖い。

 これで手札は……15枚? あれ、何だこれ。お膳立てしとけば後は勝手に回ると思ってたけど……ここまでとは。

 

【HEROの遺産】

通常魔法

自分の墓地にレベル5以上の「HERO」と名の付いたモンスターが2体以上存在する場合に発動できる。

自分のデッキからカードを3枚ドローする。

 

 ここまで来て漸くこの状況の恐ろしさに気付いたのか、迷宮兄弟は顔色を失くしていた。

 

 「一気に行くぜ! 手札より【融合】を発動!手札の水属性モンスター【バブルマン】とフィールドの【エアーマン】を融合! 【E・HEROアブソルートZero】を召喚!」

 

 『ハァッ!』

 

 まず手始めに現れたのは、絶対零度の氷のHERO。

 

 「明日香さん!?」

 

 「明日香さま、しっかりなさって!?」

 

 これまでアカデミア生が見たこと無かったであろうHEROの登場に観客席が俄かにざわつく中、そんな声が微かに聞こえた。チラリとそちらを見てみると、眩暈でも起こしたのか軽く頭を抱える明日香とそれを慰めるジュンコとももえがいた。そうか、トラウマか……強く生きろ明日香。大丈夫、お前は強いデュエリストだ。きっと乗り越えられる。

 だが、そんな一幕に十代は全く気付かなかったようだ。

 

 「手札からもう1枚、【融合】を発動! フィールドの【クレイマン】と手札の光属性モンスター【スパークマン】を融合! 【E・HERO The シャイニング】を召喚!」

 

【E・HERO The シャイニング】

融合・効果モンスター

星8 光属性 戦士族 攻撃力2600/守備力2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターを2体まで選択し、手札に加える事ができる。

 

 氷のHEROの次は光のHERO。属性HEROが活躍してくれているようで何よりである。

 

 「2体の【王立魔法図書館】の効果! カウンターを取り除いて2枚ドロー!」

 

 あ、また溜まったんだ。今の十代の手札は……13枚か。可笑しいな、十代の手札が殆ど減らない。

 この怒涛の召喚劇に言葉が出ないのか、迷宮兄弟は絶句していた。

 

 「そして3枚目の【融合】を発動! 手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合する! 来い、マイフェイバリット! 【フレイム・ウイングマン】!」

 

 今度は【フレイム・ウイングマン】。あれ? でもそう言えばさっき、【スパークマン】いたよね? 墓地に送られてた……あっ(察し)。

 

 「【ミラクル・フュージョン】を発動! 場の【フレイム・ウイングマン】と墓地の【スパークマン】を除外して融合! 輝け、【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】!」

 

【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】

融合・効果モンスター

星8 光属性 戦士族 攻撃力2500/守備力2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついたカード1枚につき300ポイントアップする。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 フェイバリットカードを呼んで早々に素材にしてしまう辺り、十代も割と容赦無い。

 

 「2枚目の【ミラクル・フュージョン】を発動! 墓地の【クレイマン】と炎属性の【バーストレディ】を除外して融合! 燃え上がれ、【E・HERO ノヴァマスター】!」

 

【E・HERO ノヴァマスター】

融合・効果モンスター

星8 炎属性 戦士族 攻撃力2600/守備力2100

「E・HERO」モンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 4体目の融合モンスターが出た。1ターンに5回融合って、何?

 

 「手札から【E・HERO プリズマー】を召喚して効果発動! 融合デッキのモンスターを見せて、その素材になるモンスター1体を墓地に送る! そしてこのターン、【プリズマー】は墓地に送ったカードとして扱う! 融合デッキの【E・HERO ワイルドジャギーマン】を見せて、デッキの【E・HERO ワイルドマン】を墓地に送る!」

 

【E・HERO プリズマー】

効果モンスター

星4 光属性 戦士族 攻撃力1700/守備力1100

1ターンに1度、融合デッキの融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体をデッキから墓地へ送って発動できる。

エンドフェイズまで、このカードは墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。

 

 そういえば、まだ通常召喚はしてないんだった。

 ここまで、3枚の【融合】と2枚の【ミラクル・フュージョン】が使われている。まさか……いや、でも十代なら有り得る。

 だがここに来て、十代は何かに迷うような素振りを見せた。自分の手札を見(まだ7枚ある。4体も融合モンスターを呼んでおいて)、俺の手元を見、やがて1枚のカードを手に取った。

 

 「3枚目の【ミラクル・フュージョン】! 【ワイルドマン】になっている【プリズマー】と墓地の【エッジマン】を除外して融合! 【E・HERO ワイルドジャギーマン】を召喚!」

 

【E・HERO ワイルドジャギーマン】

融合・効果モンスター

星8 地属性 戦士族 攻撃力2600/守備力2300

「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO エッジマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。

相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

 

 遂に5体目の融合モンスターが来たか。1ターンで5体の融合モンスターを呼ぶとは、壮観な光景だ。何というレア。そして何というソリティアっぷり。十代も何だか凄く『やりきった!』的な顔をしている。まぁ、普通ならいくらアイツでもまず無いからな、こんなの。

 次々に現れる融合モンスターに初めは感心していた観客席の面々も、途中から誰も何も言わなくなった。言えなくなった、とも言える。もしも自分が対戦相手だったら……という恐怖を感じたらしい。気持ちは解る。でもそこで黙るなよ、それを打ち破ってこそのデュエリストだろ?

 迷宮兄弟の方も、既に顔面蒼白である。だから忠告しておいてやったのに。地獄を見るって。

 

 けどこうなってくると、さっき迷ってたのは【図書館】の効果を使うかどうかってことか。俺、手札1枚しか無いしな。しかもその1枚は【魔力掌握】。もしものために残してくれたらしい。

 このタッグデュエルに向けてデッキ調整してる時、言ったのになぁ。俺に構わずじゃんじゃんドローしろって。

 それはそれとして、【シャイニング・フレア・ウィングマン】と【The シャイニング】には自身の攻撃力を変動させる効果がある。つまり。

 

【E・HERO アブソルートZero】 攻撃力2500

【E・HERO The シャイニング】 攻撃力2600→4400

【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】 攻撃力2500→4000

【E・HERO ノヴァマスター】 攻撃力2600

【E・HERO ワイルドジャギーマン】 攻撃力2600

 

 こうなる。……なぁにこれぇ?

 総攻撃力は16100。この間のカイザーよりも低い。あれ、じゃあこれって別に可笑しくないのか。

 はっきり言えば、ここまで融合しまくらなくてもライフは削りきれる。しかし十代はノリノリだった。イキイキとしている。凄く楽しそうなので、水を差すような発言はしない。

 

 「バトルだ! ダイレクトアタック!」

 

 5体の融合モンスターが総攻撃をかける。だがその攻撃宣言により、現実逃避をしていたらしい兄弟が帰還した。

 

 「て、手札から【速攻のかかし】を捨てて効果発動! そのダイレクトアタックを無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 動いたのは弟の方だった。どうやらこのターンは命拾いしたらしい。

 だがしかし、どもっている。腰が引けている。まぁ、こんな光景を目の当たりにすれば無理も無い。

 俺はあいつらのそんな様子が見られてとても嬉しい。誘拐とはこの世で最も唾棄すべき犯罪の1つであると俺は思っている。なので誘拐犯のアイツらはその報いを受けるべし。恐怖という形で。

 一方で止められた十代は悔しそうな顔をした。

 

 「ちぇ~、止められたか。流石は伝説のデュエリストだぜ! 俺はこれでターンエンドだ!」

 

 だから、アイツらは別に伝説のデュエリストなんかじゃ無いって。

 俺としては、5体も融合モンスターを並べておいて……しかも融合自体は6回やってる……手札が6枚も残ってるお前の方がよっぽど『伝説』だと思うぞ?

 

優・十代 LP8000

 優 手札1枚

 モンスター (守備)【王立魔法図書館】 カウンター1→3→0→3

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター1→3→0→3

        (攻撃)【魔導戦士ブレイカー】

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター9→15

       伏せ2枚

 十代(ターンプレイヤー) 手札6枚

 モンスター (攻撃)【E・HERO アブソルートZero】 

        (攻撃)【E・HERO The シャイニング】 攻撃力4400

        (攻撃)【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】 攻撃力4000

        (攻撃)【E・HERO ノヴァマスター】 

        (攻撃)【E・HERO ワイルドジャギーマン】 

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 「わ、私のターン! ドロー!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 弟(ターンプレイヤー) 手札2枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 

 震える手でデッキからカードを引き抜いた弟。彼はまるで祈るような表情でドローカードを確認し……その表情を喜びに変えた。

 

 「手札よりマジックカード、【ブラック・ホール】を発動! フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

 「弟よ!」

 

【ブラック・ホール】

通常魔法

フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 その魔法カードの発動に、兄の方も顔色を変える。

 あいつらのフィールドにモンスターはいない。そして俺たちのフィールドにいるモンスターに、効果破壊に対する耐性を持つ者はいない。これでフィールドを一掃、逆転とまでは行かなくともリセットは出来る、そう思ったのだろう。

 しかし。

 

 「あ、【魔宮の賄賂】で」

 

 「「…………………」」

 

 俺が発動させた【魔宮の賄賂】により、空間に現れようとしていた虚無の闇は霧散した。

 ビキッと固まってしまっている兄弟に、俺は先を促す。

 

 「ほら、【ブラック・ホール】は止まったぞ。【魔宮の賄賂】の効果だ、さっさと1枚ドローしろ」

 

 促され、緩慢な動作でドローする弟。彼は効果でドローしたカードをそのままディスクに差し込んだ。

 

 「カードを……1枚、伏せる……ターンエンドだ……」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 弟(ターンプレイヤー) 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 1枚

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優・十代 LP8000

 優(ターンプレイヤー) 手札2枚

 モンスター (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3

        (攻撃)【魔導戦士ブレイカー】

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター15

       伏せ1枚

 十代 手札6枚

 モンスター (攻撃)【E・HERO アブソルートZero】 

        (攻撃)【E・HERO The シャイニング】 攻撃力4400

        (攻撃)【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】 攻撃力4000

        (攻撃)【E・HERO ノヴァマスター】 

        (攻撃)【E・HERO ワイルドジャギーマン】 

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 さて、さっさと行くか。

 

 「まずは2体の【図書館】の効果で2枚ドロー。【魔法都市】のカウンターも代用してもう1枚ドローだ。3枚目の【魔力掌握】を発動して【ブレイカー】にカウンターを乗せる。もうサーチは出来ないけどね。そして【ブレイカー】の効果。自身に乗っているカウンターを取り除いて魔法・トラップを1枚破壊。その伏せカードを破壊する」

 

 「トラップ発動!」

 

 破壊しようとしたカードはしかし、フリーチェーンのカードだった。最早ヤケクソとばかりに弟は叫ぶ。

 

 「【威嚇する咆哮】! このターン、お前は攻撃宣言を行えない!」

 

 「あ、そう。そうか、『このターン』はね」

 

 わざと煽るような言い方をしてやると、弟はギリギリと歯を食いしばった。

 スルーすることにした。

 

 「リバースカードを2枚セット。ターンエンドだよ」

 

優・十代 LP8000

 優(ターンプレイヤー) 手札2枚

 モンスター (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3→0→1

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター3→0→1

        (攻撃)【魔導戦士ブレイカー】

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター15→12→13

       伏せ3枚

 十代 手札6枚

 モンスター (攻撃)【E・HERO アブソルートZero】 

        (攻撃)【E・HERO The シャイニング】 攻撃力4400

        (攻撃)【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】 攻撃力4000

        (攻撃)【E・HERO ノヴァマスター】 

        (攻撃)【E・HERO ワイルドジャギーマン】 

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 ライフこそ減ってはいないものの、誰がどう見ても俺と十代のタッグが迷宮兄弟を圧倒している。フィールドの状況においてもハンドアドバンテージにおいてもだ。ここまでこのデュエルを見守っていたアカデミア生たちの間には、『どっちが伝説のデュエリストだっけ?』的な空気が広まっていた。

 あまりに劣勢な迷宮兄弟を哀れに思ったのか、声援を飛ばす者まで出る始末だ。

 これはあの2人にとって、何とも屈辱的な状況だろう。

 

 ここまで簡単にあの兄弟が追い込まれたのは、2人のデッキにも原因がある。アイツらのデッキは、明らかに【ゲート・ガーディアン】の召喚を主目的としている。だからその【ゲート・ガーディアン】を倒されてしまえば、アド損が多いことも手伝ってリカバリが難しくなる。その隙を付かれれば一気に攻め込まれるのだ。

 

 「私のターン! ドロー!」

 

迷宮兄弟 LP8000

 兄(ターンプレイヤー) 手札2枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 弟 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 

 ターンが移ったことにより兄がドローし、彼はそのドローカードをそのまま発動させる。

 

 「【強欲な壺】を発動する! デッキからカードを2枚ドロー!」

 

 ゆっくりと、最後の望みを賭けるようにドローする迷宮兄弟・兄。そして2枚目のドローカードを見た瞬間、感極まったように笑いだす。

 

 「フ、フハハハハハハ!! 来たぞ、このカードが!! 我らの真の切り札を出すための、このカードが!!!」

 

 え、真の切り札って【ゲート・ガーディアン】じゃないの?

 

 「私はライフを半分払い、【ダーク・エレメント】を発動! 墓地に【ゲート・ガーディアン】が存在する時、デッキから【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】を特殊召喚する!!」

 

 ライフの半分って、そりゃまた随分なコストだな。【神宣】並みか。

 

迷宮兄弟 LP8000→4000

 

【ダーク・エレメント】

通常魔法

自分の墓地に「ゲート・ガーディアン」が存在する場合、ライフを半分払って発動できる。

デッキから「闇の守護神-ダーク・ガーディアン」1体を特殊召喚する。

このカードを発動する場合、このターン他のモンスターを召喚・特殊召喚できない。

 

【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】

効果モンスター

レベル11 闇属性 戦士族 攻撃力3800/守備力3500

このカードは通常召喚できない。

「ダーク・エレメント」の効果でのみ特殊召喚する。

このカードは戦闘では破壊されない

 

 それによって現れたのは、全体的に黒ずんだ印象の【ゲート・ガーディアン】。へぇ、OCGじゃ無かったよな、こんなの。

 

 「このモンスターは【ダーク・エレメント】の効果でのみ特殊召喚出来る!」

 

 「そして【ダーク・ガーディアン】は戦闘では破壊されない!」

 

 あ、弟も復活した。顔色が随分と良くなっている。揃って決めポーズを作るぐらいには回復したらしい。

 でもそうか。『戦闘では破壊されない』のか……なるほど。

 

 「さらに! 装備魔法【巨大化】を発動! 我らのライフはお主らのそれより少ない! よって【ダーク・ガーディアン】の攻撃力は倍となる!」

 

【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】 攻撃力3800→7600

 

 【ダーク・エレメント】の発動コストはライフの半分。ならばライフが相手を下回ることも十分にあり得る事態だ。それ故の【巨大化】だろうか。

 この間、攻撃力8000の【サイバー・エンド】を見たせいか、凄いと感じることが出来ないが。

 だが大型モンスターの登場に、観客席は沸き立つ。最早、どっちが挑戦者か解ったもんじゃない。

 

【巨大化】

装備魔法

自分のライフポイントが相手より少ない場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。

自分のライフポイントが相手より多い場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。

 

 何にせよ、これでこちらの場で最も攻撃力の高い【The シャイニング】ですらも殴り倒せるようになったわけだ。尤も、攻撃できればの話だが。

 十代が俺の方をチラッと見た。任せろと伝えるためにあの兄弟には見えないようにこっそりとグーサインを出しておく。十代は1つ頷きまた正面に向き直った。

 

 「バトル! 【ダーク・ガーディアン】で【E・HERO The シャイニング】に攻撃!!」

 

 その判断は、間違ってないんだろう。最も攻撃力が低い【ブレイカー】を攻撃してもライフを削りきれない。それどころか俺たちのライフがヤツらのライフを下回り、【巨大化】のデメリットを負うこととなる。だったら、最も攻撃力の高い【The シャイニング】を潰す。融合HEROは墓地から特殊召喚することは出来ないのだし、その判断は間違っていない……と、思う。

 だがそれは、状況を甘く見過ぎである。

 

 「じゃあ、【強制脱出装置】で手札に戻っちゃってよ」

 

 「「ふざけるなァァァァァァァァァ!!」」

 

【強制脱出装置】

通常罠

フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを持ち主の手札に戻す。

 

 戦闘破壊が出来ないなら、バウンスしちゃえばいいじゃない。

 そんな『パンが無いなら、お菓子を食べればいいじゃない』と言わんばかりの理論の下で発動させたトラップに、迷宮兄弟が遂に切れる。

 【ダーク・ガーディアン】が手札に戻り、対象を失った【巨大化】が破壊され、兄弟のフィールドには何も残らなかった。

 

 「き、きさま……我らのカードを悉く……!!」

 

 兄が唸るように声を絞り出す。

 彼らから見れば、次々と強力なモンスターを呼び出す十代は脅威だろう。

 だがしかし、【ゲート・ガーディアン】に【ダーク・ガーディアン】、【ブラック・ホール】という切り札を遍く対処した俺は、いっそ忌々しい存在らしい。もの凄く剣呑な目で睨まれた。

 だがしかし、お前らがそんな目をする権利は無いぞ。何しろこれが俺の役割であり、俺はデュエルのルールに則って真っ当な戦術をしているだけだ。

 むしろ俺の方が、お前らを睨み付けてやりたい。何度も言うが、誘拐はれっきとした犯罪である……主犯のペガサスと既に和解している以上、蒸し返すのもアレなので何も言わずにおくが。

 なので俺は、ここでゆったりと『微笑んで』みせた。

 

 「これが俺のするべき事なんだ。さぁ、お前のターンはまだ終わって無いぞ? 早く俺たちに『タッグデュエルの真髄』とやらを教えてくれ」

 

 ここまで来れば、俺の発言が明らかな嫌味であることは2人も悟っているだろう。だが実際、デュエルは続けるしかない。サレンダーするなら話は別だけど。

 

 「私……は……」

 

 兄はぎこちない動作ながら、手札から1枚のカードを手に取った。

 

 「【サイクロン】を発動する! お主の右のリバースカードを破壊だ!」

 

 なるほど、【サイクロン】。それを伏せておけば、俺たちのライフがヤツらのライフを下回った時に発動させ、【巨大化】を潰せる。そういう目論見だったのだろう。だがそれも水泡に帰した今、ただ手札に握っていても意味が無い。かといって、伏せておいても次のターンで【ブレイカー】に除去されるだけ。

 俺の場にある残り2枚の伏せカード。その内の1枚が破壊される。

 

 「あちゃあ、2枚目の【魔宮の賄賂】が破壊されちまったな」

 

 そうは言うが、然程惜しくは無い。

 アイツらの状況を見てみよう。モンスターは0。リバースカードも0。兄の手札に残っているのはバウンスされた【ダーク・ガーディアン】のみ。唯一の懸念は弟の手札1枚だが、次のターンプレイヤーは十代で、アレが手札誘発でない限りは何の意味も持たない。そもそも、手札誘発に【賄賂】は意味が無い。

 はっきり言って、もう詰みに等しいのだ。

 

 「ターン……エンドだ……」

 

 「兄者……」

 

迷宮兄弟 LP4000

 兄(ターンプレイヤー) 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 弟 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠 無し

 

 迷宮兄弟は、何とも酷い顔をしていた。あれが絶望というものなんだろうか。

 だがしかし、同情はしない。かつて俺も、お前たちにそれに似た感情を植え付けられたのだから。

 ただ1つ、ゲームを最後までやり遂げようとする精神は認めよう。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

優・十代 LP8000

 優 手札2枚

 モンスター (守備)【王立魔法図書館】 カウンター1→3

        (守備)【王立魔法図書館】 カウンター1→3

        (攻撃)【魔導戦士ブレイカー】

 魔法・罠 (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター13→15

       伏せ1枚

 十代(ターンプレイヤー) 手札7枚

 モンスター (攻撃)【E・HERO アブソルートZero】 

        (攻撃)【E・HERO The シャイニング】 攻撃力4400

        (攻撃)【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】 攻撃力4000

        (攻撃)【E・HERO ノヴァマスター】 

        (攻撃)【E・HERO ワイルドジャギーマン】 

 魔法・罠 伏せ2枚

 

 迎えた十代のターン。【図書館】のカウンターが溜まりきっているが、もう使う必要は無いだろう。そう予想した通り、十代はそのままバトルフェイズへと移行した。

 

 「これで終わりだ! ダイレクトアタック!!」

 

 LP4000の相手に総攻撃力16100のダイレクトアタック。清々しいまでに明らかなオーバーキルである。

 

 「「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 HEROたちの攻撃に晒され、迷宮兄弟は吹っ飛んだ。文字通りに吹っ飛んで行った。ソリッドビジョンなのに。

 

 「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 そりゃあ、あれだけ融合しまくって召喚しまくれば爽快だろうさ。

 そんな十代の無邪気な、しかし迷宮兄弟に立ち直れないほどの精神的ダメージを負わせかねない決めゼリフは、彼らには聞こえなかったに違いない。何故なら伸びていたから。それだけがあの2人の唯一の幸運なのかもしれない。

 俺はというと、そんな迷宮兄弟を少し冷めた目で見ていた。

 

 随分と時が流れていたらしい。あの時は抵抗すら出来なかった相手を、今はぶちのめせる。実際にぶちのめしたのは十代だけど、俺のサポートも少しは役立ったと思いたい。

 当然なのかもしれない。だって今の俺はもう、あの当時の遊戯さんたちと同年代なのだ。

 そして、ふと思った。

 

 もうそろそろ、遊戯さんにまた会いに行こうかな、と。今の俺は、どこまで行けるのだろうか。

 冬休みにでも、童実野町に行ってみよう。そう決意した。

 

 

 制裁デュエルがあった日の夕食時、俺はデュエル中に考えていた案を実行することにした。

 

 「さぁ、食ってくれ!」

 

 「うぉ~、エビフライ! いいのか!?」

 

 「あぁ。それだけじゃなくて、何でも好きなのを注文してくれ」

 

 「僕たちまでいいのかなぁ?」

 

 「なんだなぁ」

 

 イエロー寮の食堂にて、晴れて俺と十代が無罪放免となった祝賀を催したのだ。費用は全部俺持ちだが、そんなのどうでもいい。DPは溜まってるんだ。十代だけではなく、翔と隼人も一緒である。

 とにかくめでたい。なのでもう何でもアリ! 無礼講だ!

 テーブルに所狭しと並べられた料理たちに翔と隼人は少し恐縮していたけれど、食欲には敵わなかったようですぐさまがっつき始めた。

 アカデミアは今日も平和である。

 

 

 

 余談だが、この後俺と十代のタッグは『絶望コンビ』と呼ばれ、アカデミアで語り継がれることとなる。相対すれば絶望しか残らない、という意味らしい。

 なのでこれ以降、タッグデュエルに誘っても生徒は誰も受けてくれないという事態に陥るのだが……それは、まだ先の話である。

 

 

 




<今日の最強カード>

優「何だろう?」

王『もういっそ【王立魔法図書館】で良いのではないか?』

優「本当はさ、俺も少しは攻撃するつもりだったんだよ? でも相手があの兄弟だったから、もうサポートに徹して十代(のチートドロー)に託そうと決めたんだ」

王『サポートの結果がアレか』

優「十代に思う存分ドローさせた結果がアレだよ! 筆者も書ききってから『なぁにこれぇ』とか思っちゃったような事態だよ!」

王『あれは酷い。色々と。心理フェイズでも主が自覚を持って追い詰め、十代が無自覚に追い詰め……尤も、我も主を攫ったあの兄弟は好かん。自業自得だな』

優「原作の迷宮兄弟にはちょっと申し訳ない扱いになっちゃったね。迷宮兄弟のファンのみなさん、ごめんなさい」

王『原作よりも強化はされていなかったみたいであるしな』

優「いや、強化はされてたんだよ?」

王『何?』

優「でもあの兄弟の性質上、取りあえずは【ゲート・ガーディアン】の召喚に専念してしまうからね。それを潰されたらアド損の酷さも相まってあんなことになっちゃったのさ。本編でも考察してたけど」

王『完璧に自業自得ではないか』

優「まったくだよ。さて、終わったことは切り替えて次回ね」

王『次回に何か特筆すべき事でもあるのか?』

優「デュエルが出て来ないんだ。だからといって廃寮の時のようにストーリーが進むのでも無い。俺たちはアカデミア生であると同時に、れっきとした高校生でもあるんでね。そんな日常が軽く出るよ。でも、そんな次回の前に幕間も1つ」

王『幕間?』

優「7話で出て来た、俺とクロノス先生のO☆HA☆NA☆SHIだよ。本当は今回本編に入れようかと思ったらしいけど、入れる隙が無くて止めたんだって。ただ、三人称での文の練習という意味合いも混めて、一応書いてみるって」

王『練習作か』

優「そうらしい。それじゃあ、またね!」
 

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