遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

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第7話 判決と挑戦

 状況がまるで掴めなかったが、取りあえずのっぴきならない事態にあるらしいってのは理解した。

 

 「悪い、翔。俺着替えるからさ、その間に何が起こったのか簡潔に説明してくれないか?」

 

 ベッドから飛び起きてパジャマのボタンに手を伸ばしながら頼むと、翔は相変わらずの焦った様子ながらもひとまず了承してくれた。

 

 『今朝、倫理委員会の人たちが僕たちの部屋に押しかけてきたんだ。凄い剣幕だったんスよ、すぐに扉を開けろ、さもないと爆破するって』

 

 「そいつは……穏やかじゃないな」

 

 『僕たちも慌てて開けたッス。アニキは寝ぼけてたけど。で、その人達がアニキのこと、昨夜廃寮に入り込んで荒らした嫌疑が掛かってるって言って連れてっちゃったんス!』

 

 何だその理不尽。いや、やったことは強ち間違ってないけど。

 

 『大徳寺先生は、倫理委員会に睨まれれば退学確定って言われてるって言うし! 僕、もうどうしたらいいか!』

 

 うん、まずは落ち着け。

 

 「取りあえず、俺たちにやれる事をやろう」

 

 最近では最早着慣れた黄色い制服に袖を通して最低限の身なりも整えると、俺は翔と通話したまま寮の自室を出た。

 

 「幸いと言っていいのかは疑問だけど、俺の手元には島内に不審者が入り込んでたっていう証拠があるから、まずはそれを提出する。明日香にも連絡入れておく。翔は大徳寺先生を連れて学校に。あの先生からも話してもらおう」

 

 これチクッたの、絶対にクロノス先生だ。でなきゃここまで早く十代が連行されるもんか。

 

 「あ~、もう! 面倒くせぇ!」

 

 『いっそのこと、あの領収書を提出したらどうだ?』

 

 「懇切丁寧に話しても解ってくれなければ、当然そうなるな!」

 

 扉を爆破だなんて脅しをかけるような連中だ、十代が話したとしてもまともに取り合ってはくれない可能性は低くない。急いだ方が良い。

 そう思って俺は走った。そりゃもうメロスのように走った。ノーコンだけど体力には自信があるんだよ、この野郎!

 走りながらPDAで明日香に連絡を入れて彼女にも状況説明のために来てもらうように頼み、更にピッチを速める。

 今日が休日な上に朝早いだけあって、校内に生徒の姿は無かった。しかし道すがらですれ違ったり出くわしたりする精霊に聞いて、何とか十代の査問が行われているらしい部屋が特定できた。精霊GJ。

 

 『よって、遊城十代は退学……』

 

 「ちょっと待てやコラァ!!」

 

 倫理委員会のメンバーなのであろう、目元が見えないぐらいに帽子を深く被った女性が何やら聞き捨てならない宣告をしようとしていたのと、俺が扉を蹴り飛ばして室内に闖入したのはほぼ同時だったらしい。

 

 「優!? 何だその派手な登場の仕方!」

 

 お前、俺が誰のために慌てて来たと思ってんだ!

 

 『何だお前は! 部外者は引っ込んでいろ!』

 

 高圧的な女性の声は1度スルーして、俺は室内を見渡した。

 そこはそれなりの広さを持つ、会議室のような場所だった。部屋のほぼ中央に立つ十代の前には3つの大きなスクリーンがあり、そこにはそれぞれ鮫島校長・クロノス先生・倫理委員間の女性のどアップが映し出されている。すぐにこちらを恫喝してきた女性はともかく、他2名は俺の登場に未だポカンとしているらしい。

 粗方の現状を把握し、俺は十代の隣に並んだ。そしてこの場は取りあえず任せてくれと隣にアイコンタクトを送る。了解という返事が来た。十代も退学は嫌らしい。

 さて、今度こそ上手く丸め込まないと。一度深呼吸をし、乱れた息を整える。そして口を開いた。

 

 「部外者じゃないから来たんです。昨夜廃寮に入ったのは、十代だけじゃありません。俺もです」

 

 『何だと!?』

 

 『マンマミーア!?』

 

 女性とクロノス先生が揃って驚きの声を上げるが、その顔色は正反対だった。女性は怒りからなのか真っ赤になっていたが、クロノス先生は青くなっている。その様子を見るに、彼は真実、十代以外を巻き込むつもりは無かったのだろう……十分悪質ではあるが。

 

 『では貴様も』

 

 「しかし!」

 

 俺も退学、とでも言おうとしたのだろうが、俺はその発言をぶった切った。

 

 「勿論それは褒められたことでは無いでしょうが、昨夜は状況が特殊過ぎました。何しろ、島に侵入してきた不審者に女子生徒が拉致されていたからです」

 

 『パルメザンチーズ!?』

 

 クロノス先生は更に驚いていた……けどその叫び、何? それって可笑しくないかな?

 

 『いい加減なことを』

 

 『まぁ、待ちなさい』

 

 女性の言葉は今度は、それまで黙っていた鮫島校長に遮られた。

 

 『上野優君。詳しく聞かせて下さい』

 

 合点承知。

 

 「昨夜俺たちは廃寮を見に行きました。でもそれはちょっとした肝試し感覚で、すぐに戻るつもりでした。けれどその内、廃寮の奥の方から女性の悲鳴が聞こえて来たんです。その声が俺たちの同級生の天上院明日香のものだということにはすぐに気付き、只事では無いと思って後を追ったんです。そうしたらそこには、仮面を付けた大柄な男という不審者以外の何者でもないヤツと、気絶した明日香がいました……後で聞いた話ですが、彼女も廃寮を見に来ていて、帰ろうとしたところをその男に襲われたそうです」

 

 明日香のフォローもしなければ。何しろ彼女は本当に、混じり気無い被害者だ。俺たちのように、実は事前に廃寮内に侵入しちゃってました、ということだって無い。

 

 『嘘を吐くな! そんな男がどこにいるというのだ!』

 

 多分、地球上のどこかです。俺が吹っ飛ばしちゃったから……って、流石にこれは言えんな。

 

 「そんなことは解りません。俺たちが追い付くと、その男はデュエルを挑んできました。そのデュエルを十代が受け返り討ちにすると、男は……え~っと、逃げたんだと思います。いなくなっていたので。でも俺たちの目的は明日香を助けることでしたので、それ以上の深追いはしてません。そもそも不審者を見付けて捕えるのはそれこそ、あなた方倫理委員会の領分なんじゃないんですか?」

 

 『なっ!?』

 

 「証拠だってあります」

 

 言って俺は、PDAに残っている映像を再生した。そこに映っているのは、廃寮内でデュエルを行う十代とタイタン。しかもタイタンの奥には、気絶させられた明日香も映っている。これは決定的な証拠と言えるだろう……本当に、本来の目的とは全く違う使い方してるな、この映像。

 

 「お前こんなの撮ってたのか?」

 

 「もしもの時のためにな」

 

 想定していた『もしも』とは状況が全く違うが。へぇと感心している十代は置いといて、俺は前方の3人を見た。女性は絶句し、クロノス先生は顔色が青を通り越して白くなっており、鮫島校長は思案顔だった。

 

 『……事情は解りました』

 

 真っ先に口を開いたのは鮫島校長だった。

 

 『どうやら、結論を急いではいけないらしい』

 

 良かった、何とかなったみたいだ。

 俺はホッと一息を吐いた。

 

 

 

 その後、廃寮での一件は詳しく調べられた。

 俺が撮影した映像は合成でも何でも無い正真正銘の動かぬ証拠として採用され、被害者の明日香にも事情を聞き、また大徳寺先生も事のあらましを説明してくれた。

 その結果、昼過ぎになって漸く判決を言い渡された。

 

 「アカデミアらしくデュエルで解決しようってわけだ」

 

 制裁デュエルが行われることとなりました。

 

 「でも、何で『制裁』デュエルなんスかね? アニキは……それに優君も、明日香さんを助けようとしたのに」

 

 レッド寮の十代たちの部屋、翔が疑問を投げかけて来た。俺はそれに肩を竦める。

 

 「ま、廃寮に入っちゃいけないっていう校則は破ったわけだし、無罪放免とは行かないってことだろうぜ。それでも、問答無用で退学にされようとしていたのと比べれば段違いでマシだけどな」

 

 廃寮に事前に侵入していたことがバレなかったので、問題は無い。

 

 「勝てば無罪放免、負けたら十代は補習で優は反省文……確かに、どっちに転んでも実害は無いわね」

 

 夕刻になり十代の部屋を訪れると、珍しく明日香もいた。どうやら心配して様子を見に来ていたらしい。

 昼過ぎには判決を言い渡されたのに何故ここに来るのが夕方になったかというと、その間にちょっとクロノス先生と個人的にO☆HA☆NA☆SHIしてたからだ。内容? まぁ、それに関してははいずれまた。

 閑話休題。

 幾分かホッとしたような様子の明日香に、十代は楽しそうな笑顔を見せた。

 

 「いいじゃん、制裁デュエル! しかもタッグって珍しいし! 相手は誰になるんだろうな!」

 

 お前は遠足を楽しみにする小学生か。

 

 「ア、アニキ? 何か楽しそうッスね?」

 

 「制裁デュエルも、十代には罰則になってないんだな」

 

 ここまでの話の流れで解ると思うが、今回、俺と十代がタッグを組んで制裁デュエルを受けることとなった。

 俺が提出したあの映像は、不審者が島内に入り込んでいた証拠ではあるが同時に、映っている十代と撮影者である俺が間違いなく廃寮に入っていたという証拠でもある。どんな事情があるにせよ校則を破った以上、何らかのペナルティは必要だという結論に至ったらしい。流石に、100%被害者で廃寮に入ったのも100%不可抗力の明日香はお咎め無しとなったが。

 それに俺たちにしたって、退学と補習or反省文じゃ比べ物にならない。もしも負けたって大して問題じゃないし、気楽なもんだ。尤も、負ける気はさらさら無いが。

 

 「でも、タッグデュエルなんでしょ? あなた達のデッキって、あんまりシナジー無いじゃない。どうするの?」

 

 明日香の疑問も尤もだが、心配はいらない。

 

 「確かにシナジーは無いけど、問題の制裁デュエルまではまだ日数もあるからね」

 

 「それまでに調整すりゃいいよな」

 

 あ、そうだ。

 

 「それでさ、十代。俺はこのカードを渡しに来たんだ」

 

 本題を思い出した俺は、ポケットから1枚のカードを取り出して渡す。

 

 「何だこれ? トラップカード?」

 

 差し出されたカードを受け取り、不思議そうな顔をする十代。俺はそれに肩を竦めた。

 

 「HEROのサポートカードじゃないんだけどな。魔力カウンターに関する効果を持ってるからか、前にパックを買った時に何枚か当てたんだ。でも俺のデッキに入れる優先順位は低くってさ。どっちかって言えば十代のデッキに合いそうだと思って持って来た」

 

 今まで渡さなかったのは、その必要が無かったからだ。しかし今回のタッグデュエルでは少し事情が変わってくる。

 

 「え~っと、【臨時収入】?」

 

 十代だけでは無く、翔や隼人、明日香までもが十代の横やら正面やらから覗き込んでそのカードのテキストを黙読し始めた。

 

【臨時収入】

永続罠

このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分の融合デッキにカードが加わる度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。

魔力カウンターが3つ置かれているこのカードを墓地へ送って発動できる。

自分はデッキから2枚ドローする。

 

 魔力カウンターに関する効果ではあるが、そのカウンターが乗るタイミングが何とも微妙であった。前世だったらシンクロだエクシーズだペンデュラムだでその機会は多々あったが、今の俺は融合デッキの枚数が0である。

 勿論、【見習い魔術師】や【魔力掌握】でカウンターを乗せるチャンスはあるが、【強欲な壺】や【天使の施し】が現役だったり【天よりの宝札】を始めとした原作効果の宝札カードなどある今生において、そこまでしてこのカードを使いたいかと聞かれるとあまり頷けない。

 だがその点十代なら、【ホープ・オブ・フィフス】や【融合解除】などで無理無く使える……あれ? これってよく考えたらコンタクト融合と相性良くね?

 

 「優君、アニキにドローソースを渡す意味ってあるんスか?」

 

 俺が意外な事実に気付いていると、翔が胡乱げな顔で俺を見ていた。隼人や明日香も乾いた笑いでこっちを見ているが、当の十代は不思議そうな顔で翔の方を向いている。おい、お前ひょっとして自分がチートだっていう自覚無いのか?

 だがまぁ、翔の疑問も尤もである。しかし。

 

 「いや、そのタッグデュエルの時は多分、【バブルマン】の効果が使えないだろうし」

 

 「え?」

 

 「あ~」

 

 キョトンとする翔に対し、十代は気付いたのか苦笑して頭を掻いた。

 

 「【魔法都市】だろ? あれ場持ちが良いもんな」

 

 その通りだったので俺は頷いた。

 タッグデュエルではパートナーとフィールドと墓地を共有する。だが【バブルマン】はフィールド上に他のカードが1枚も無い状態でないと2枚ドローの効果が発動しない。一方で俺のデッキの要はただでさえ場に残り続けるフィールド魔法な上に、破壊耐性もある上に維持してこそ意味のある【魔法都市】ときている。これでは『フィールドに他のカードが1枚も無い状況』なんてそうそう巡って来ないだろう。

 では【魔法都市】を抜いた構成にすればいいのかと言えば、そうでもない。さっきも言ったが、アレが俺のデッキの要だからだ。それは十代も解っていて、今回は自分のデッキから【フュージョン・ゲート】や【スカイスクレイパー】を抜くことにするつもりらしい。俺の方でも【一族の結束】とかを抜いて調整するつもりだし、その辺は双方で折り合いを付けないといけない点ってヤツだ。

 他の面子も納得してくれたらしく、疑問顔では無くなっていた。

 

 「解ってくれて良かった。で、それどうする? いらないのならこのまま持って帰るけど、今回のタッグデュエルでだけ使うって言うんなら貸すし、それ以降も使うかもってんならトレードするか? 俺はそれ3枚以上持ってるから、なんならあげてもいいけど」

 

 属性HEROのようなレアカードでもないし、俺としてはどれでもいい。だが十代は少し考えると、自身が使っているのだろう机の引き出しを漁り始めた。どうでもいいが、それは最も卓上が散らかっていて雑多とした印象の机である。

 

 「いや、トレードにしようぜ。俺もついこの間、魔法使い族のサポートカードが当たったんだ……あ、これこれ」

 

 言って十代が引っ張り出したのは、確かに魔法使い族のサポートカードと言えるカードだった。その装備魔法がどんなカードなのかに気付き、俺は内心でガッツポーズをした。エンディミオンは舌打ちしたが。

 

 『チッ』

 

 精霊が見えるようになったばかりの十代は、エンディミオンのその反応に驚いたようだった。だが俺はスルーする。何故ならいつものことだ。

 

 「サンキュー、十代。今回は【ネクロの魔導書】か」

 

 苦々しげなエンディミオンに少し戸惑いながらもカードを差し出してきた十代に、俺は笑顔で答えた。

 

【ネクロの魔導書】

装備魔法

自分の墓地の魔法使い族モンスター1体をゲームから除外し、このカード以外の手札の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を相手に見せて発動できる。

自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を選択して表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。

また、装備モンスターのレベルは、このカードを発動するために除外した魔法使い族モンスターのレベル分だけ上がる。

「ネクロの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 「本当に感謝するぜ。俺、魔導書関連のカードは全然当たらないからさ」

 

 恐らく……いや間違いなく、どこぞの魔導王のせいだろうけど。

 俺のふと漏らした一言に隼人が食い付いた。

 

 「優、魔導書当たらないのかぁ? 俺でも何枚か持ってるんだな」

 

 「そうね、私もよ」

 

 明日香もそれに便乗した。翔もコクコクと頷いている。その疑問に答えたのは俺ではなく十代だった。

 

 「優ってさ、魔法使い族のサポートは魔力カウンターの効果を持ってないヤツでもしょっちゅう当てるクセに、何でか魔導書は1度も当てたこと無ぇんだよな。だから俺が当てた時、よくトレードするぜ。月一テストの時に使ってた【魔導書整理】もそうだよな?」

 

 「ああ。他にも【トーラ】とか【ヒュグロ】とかな」

 

 ぶっちゃけ、【魔導書整理】ぐらいなら当てさせてくれてもいいんじゃないかと思うんだが。

 そんな思いを視線に乗せてエンディミオンを見ると、ヤツは吐き捨てた。

 

 『フン。魔導書は好かん』

 

 (お前が好かないのは魔導書じゃなくてラメイソンだろ? 八つ当たりするなよ)

 

 『ラメイソンなど滅びれば良い……』

 

 「はは……何で優に魔導書が当たらないのか、解った気がする」

 

 至近距離にいたからだろう。俺が小声でエンディミオンと交わした会話が聞こえたらしく、十代は引き攣った笑みを浮かべていた。そうだよ、お気付いてなかったんだろうけどここ数年、お前の眼前ではこんな攻防が繰り広げられてたんだよ。

 でも笑いごとじゃねぇんだぞ? 俺はあくまでも【魔法都市】を使い続けるつもりで【ラメイソン】に乗り換える気はさらさら無いんだから、魔法使い族をサポートする範囲で魔導書を使うぐらい別にいいじゃないか。むしろ使わせろ。

 

 「でも、【ネクロの魔導書】なんて初めて聞いたわ」

 

 「ん、まぁ、ついこの間新規で出たパックに入ってたしな」

 

 「へぇ……見せてもらってもいい?」

 

 興味が出て来たらしい明日香に聞かれ、特に困ることも無いのでそのカードを渡した。受け取った彼女はテキストにざっと目を通しすぐにそれを俺に返しながら自身の感想を述べる。

 

 「蘇生効果のある装備魔法なのね。【早すぎた埋葬】のライフコストが、墓地の魔法使い族除外になったって所かしら……でも、レベルを変動にどんな意味があるのかが解らないわ」

 

 その最後の疑問に、翔が「あ」と声を漏らす。

 

 「そういえば僕も昨日、そんなカードを当てたんだった」

 

 言って翔はポケットから1枚のカードを取り出して十代に見せた。

 

 「アニキに見せようと思ってポケットに入れてたんだけど、忘れてたッス。昨夜は色々あって疲れちゃってたし」

 

 取り出して見せたカードは【シンクロ・ヒーロー】……なるほど。

 

【シンクロ・ヒーロー】

装備魔法

装備モンスターのレベルは1つ上がり、攻撃力は500アップする。

 

 HEROのサポートでは無いが、カード名にヒーローと付いている。だから十代に見せようと思ったのか。十代はそれを受け取ってしげしげと眺める。

 

 「へー、攻撃力が500上がるのか。でもレベルも1上がる? 何でだ?」

 

 疑問を出しても、それに答える者はいない。何故なら答えを持つ者が彼らの中にはいないからだ。ぶっちゃけて言えば俺はその意図を知っているが、素知らぬフリを貫くことにした。

 他にもあれもそうだったああだったと似たような……レベルを変動させる効果を持つカードが主に明日香によって次々と上げられる。【寂々虫】、【能力調整】、【レベル・マイスター】etc.etc……。

 ただ共通しているのは、どれもここ最近になって急に出てきた、ということだ。

 

 勿論これには理由がある。シンクロ召喚発表の前段階的なものだ。

 シンクロ召喚の発表そのものはまだなので、当然ながらシンクロモンスターやチューナーモンスターはまだ世に出ていない。

 【エフェクト・ヴェーラー】や【ラブラドライドラゴン】、【復讐の女戦士ローズ】に【共闘するランドスターの剣士】などといったOCGでチューナーだったモンスターの一部は効果モンスター・通常モンスターとして既に存在しているが、それらはシンクロ召喚発表後にチューナーとしてエラッタされることが決まっている……まぁ、それはそれとして。

 しかしその一方で、レベルの調整が出来る魔法・罠・モンスター効果などを事前にある程度出し、いざ発表した後に世のデュエリストたちが上手く活用できるようにある程度広めておきたい、という思惑があるらしい。そしてそれが始まったのが、先日発売され始めた新規パックなのだ……そりゃ、最近急に出て来たように感じるよな。

 ただこれにも制限はあり、カード名やテキスト内にシンクロ召喚を仄めかすような部分があるものは出されていない。そりゃまぁ、シンクロ召喚は現時点じゃKCやI2社でも一部の人間しか知らない機密事項なのだから、当然といえば当然だ。【シンクロ・ヒーロー】辺りはちょっとギリギリな気もするが、シンクロ召喚を仄めかしているわけではないのでGOサインが出たんだろう。

 でもさ。

 『レベルを調整する効果を持ったカードにどのような反応が出るか見ておいて下サーイ』って言われても……そりゃ、こうなるよな。

 先日のペガサスからの連絡で頼まれたことを思い出し、眼前で友人たちが『何故なんだろう』って首を捻っている状況を見、俺は嘆息するしかなかった。

 いや、生の声という情報を集めるには俺が適任だってのは解るんだ。会社勤めをしているI2社やKCの社員よりも、デュエルアカデミアの現役学生である俺の方が現場の様子がよく解る。

 でもさ、シンクロ召喚が出ていない現状でレベルを変動させる効果なんて出されても、世のデュエリストたちは意味解んないって。特に気にせずスルーするか、困惑するかだよ。まぁ、世にごまんにいるデュエリストたちの中には現時点でも何かしらのコンボに使えないか考える人もいるんだろうけど、より多くの活用法が見出されるのはもっと後になってからだろう。

 

 「はいはい、考えるのはそこまで」

 

 パンと1つ手を打ち、俺はみんなの思考を断ち切った。

 

 「どうせ考えたって答えなんて出て来ないし。何か意味があるのなら、いずれ解るさ……いずれな」

 

 「ま、それもそうか。何にしたって俺は俺のデュエルをするだけだしな」

 

 真っ先に十代がそう言い、他3人もここで議論しても意味は無いと納得したのだが……ゴメン、本当は俺、答え知ってる。でも言えないんだ、機密事項だから。

 さて、この話はここまで俺は用事があるし、もう帰ろう。

 

 「ま、タッグデュエルでは今回は俺がサポートに徹するよ。RPGでもそうだろ? 戦士(HERO)が前衛、魔法使いが後衛……なんてな」

 

 元々がシナジーの無いデッキ同士だ、調整するにしても限界はある。ならば役割を決めておいた方がいい。

 

 「俺、今日はもう帰るぞ。元々あのカードを渡しに来ただけだったし」

 

 「もうか? 俺たちは大丈夫だぞ?」

 

 いつもは門限ギリギリまで入り浸っているからだろう、早々のリターン宣言にこの部屋の住人達が不思議そうな顔をした。

 

 「用事があるんだ」

 

 外していたデュエルディスクを腕に着け直して立ち上がる。そろそろ時間だ、行かなければ。

 

 「そういや一昨日言ってたな、用事があるって。どうしたんだ?」

 

 十代のそのささやかな疑問に、俺はもの凄くイイ笑顔で答えた。

 

 「デュエルをするんだよ」

 

 「へー、わざわざ約束してか。誰とデュエルするんだ?」

 

 「カイザー」

 

 その返答に、部屋中の空気が凍った。

 

 

 

 「ずりーぞ、優! カイザーってアカデミア最強って言われてるヤツだろ!? 何で優だけデュエル出来るんだ!?」

 

 「ずるくない。前々からデュエルの申し込みをしてて、その順番が回ってきただけだ。それが偶々今日だった」

 

 カイザーとデュエルをすると言うと、案の定十代は羨ましがった。ふはは、精々臍を噛め。

 俺がカイザーにデュエルの申し込み申請をしたのは、アカデミアに入学してそう経っていない頃だった。って言うか入学式当日だ。それでもこんなに時間が掛かった。多分、前学期での申し込みが今まで縺れ込んでたんだろう。

 学園最強ってのがどれくらいなのかが知りたかったのだ。彼我の差はどれほどなのか、自分は今どの辺りにいるのか? それが知りたかった。

 そしてもしも勝てたのならばその時は……もうそろそろ、いいかな、と。

 そんな俺は、正攻法に出た。

 正直、早めに申請しといて良かったと心から思う。聞いた話だと、今申請すると2ヶ月は待つことになるらしい。酷ぇ。

 ちなみに、羨ましがった十代はせめて見学するのだと言って付いて来た……お前、あわよくばどさくさ紛れにデュエルを申し込むつもりだろ。ディスクも装着して準備万端じゃねぇか。

 そして他3名も付いて来たのだが。

 

 「元気無いな、翔」

 

 デュエルリングへと向かう道すがら、暗い顔で俯いてトボトボ歩く翔の様子があまりにも辛気臭いので堪らず聞いてみた。すると翔は、その表情に負けず劣らずの暗い声を出す。

 

 「優君は、お兄さんのデュエルを知らないからそんなに呑気にしていられるんス」

 

 その言葉にしかし、十代はピントのズレた感想を抱いたらしい。

 

 「お兄さん? カイザーって翔、お前の兄ちゃんなのか?」

 

 「オベリスクブルー3年、丸藤亮。正真正銘、翔君の実のお兄さんよ」

 

 十代の疑問に答えたのは明日香だった。隼人もそれを知っているのか、コクコクと頷いている。まぁ今回の場合はむしろ、知らない十代の方が噂に鈍いのかもしれない。それなりに有名な話だし。

 

 「お兄さんのデュエルは、勝つために全てが計算され尽くした、何者も寄せ付けないデュエル……」

 

 いや、だからって何でお前が暗くなるんだよ。

 俺は翔の頭を軽くポンと叩いた。

 

 「それが何だよ。寄せ付けないってんなら食らいついてやればいい。いくら学園最強と謳われるカイザーだって、それがイコール世界最強ってわけじゃないんだ。それで怯んでちゃ、デュエルキングなんて夢のまた夢だぜ」

 

 その俺の言葉に翔は困惑していたが、十代がうんうんと頷いていた……俺だからな? デュエルキングになるのはお前じゃなくて俺だからな? そこんとこ忘れるなよ? 俺は負けないぞ、カイザーにもチートドローにも負けてたまるもんか。

 

 

 

 辿り着いたデュエルリングには、俺たちよりの少しばかり年上の男が1人いるだけだった。他にギャラリーがいないのは今日が休日だからだろうが、そんなことはどうでもいい。

 その身に纏う制服はオベリスクブルーの物だが万丈目のような青一色では無く、明日香と同じ白を基調としたもの。

 デュエルアカデミア最強と言われている人物、カイザーだ。

 

 「すみません、先輩を待たせてしまったみたいで」

 

 余裕を持って出たつもりだったが、レッド寮で思ったよりも時間を食っていた。それでもまだ遅刻ではないが、先輩を待たせるつもりは無かったので謝罪を述べる。デュエリストに老若男女の差は無いが、学生としては一定の敬意は必要だろう……ただしデュエル以外に限る。

 

 「いや」

 

 正面に立って頭を下げるがしかし、当のカイザーは気にしていないようだった。

 

 「それ程待ってはいない。それよりもその実力、見せてもらいたい」

 

 「は?」

 

 「入学以来、随分と積極的に活動しているようだな。どこから聞き付けたのか、俺がお前とデュエルすると知って仇討ちを頼んできた者たちもいた」

 

 え、何それ。

 

 「あなた、まだ暴れてたの?」

 

 カイザーの言葉に、明日香は呆れたように俺を見た。

 

 「暴れてたなんてそんな……俺はただ、その辺を歩いてる人にデュエルを申し込んでいるだけだぞ?」

 

 別にアンティを持ちかけたことも無いし(むしろ要求されたことはある)、無理矢理デュエルに付き合わせたことも無いし(むしろ『イエローのまぐれ勝ちが続くのもここまでだ! 俺が引導を渡してやる!』的なことを言われてノリノリで承諾されたことも多々ある)、舐めプをした覚えも無いし(無駄に甚振るようなこともせず、常に全力を以て臨ませてもらっている)。

 まるでわけが解らんぞ!

 

 「仇討ちなどという気は無いが」

 

 割と本気で悩んでいたら、カイザーが言葉を続けていた。

 

 「興味はある。準備はいいか?」

 

 「当然」

 

 準備万端整えて来たからね。では早速。

 

 「「デュエル!」」

 

 互いにデュエルディスクを構え、開始を宣言した。

 

優 LP4000

カイザー LP4000

 

 「俺の先攻。ドロー」

 

優 LP4000 手札6枚

 

 ディスクが示した先攻表示に、内心で舌打ちする。

 カイザーといえばサイバー流。それは覚えてる。っていうか前世でSDも買いました。サイバー流相手に先攻って嫌すぎる。

 だが、先攻後攻でいつまでもグチグチ言うのはみっともないし、『サイバー流相手に先攻でした。だから負けました』なんて情けない言い訳もあり得ない。ならば全力で行くだけだ。

 故に一瞬過ぎった苦い気持ちはすぐに余所へと追いやり、俺は目の前の手札に集中する。

 先攻1ターン目は元々攻撃出来ない。だがそれはそれとしても、積極的に攻勢に出られる手札とは言えない。 

 とはいえ。

 

 (サイバー流の火力と真っ向やり合う気は端っから無いけどな)

 

 思わずポロリと溢せば、隣に立つエンディミオンが神妙な顔で頷いていた。

 魔法使いデッキらしく、柔軟に動いて行こうじゃないか。先攻1ターン目は確かにバトルフェイズは行えないが、相手に邪魔されずに場を整えるチャンスでもある……手札誘発効果持ちを握られている場合もあるので、その限りでは無いが……この時、俺の脳内では不動性ソリティア理論もどきが展開されていた。

 

 (よし)

 

 道筋を決め、手札に指を伸ばす。

 

 「【王立魔法図書館】を守備表示で召喚」

 

 まず初めはお馴染みの図書館。まるでフィールドを覆うような本棚の壁に、観戦していた十代が「うへぇ」と嫌そうな声を漏らす。いつものことだ。あいつは本があまり好きでは無い。

 だが今は十代の反応はどうでもいい。肝心のカイザーは……特に表情に変化は無いな。

 

 「そしてフィールド魔法、【魔法都市エンディミオン】を発動」

 

 「【魔法都市エンディミオン】……お前の十八番か」

 

 「そりゃあもう」

 

 【魔法都市】は、はっきり言ってメジャーなフィールド魔法じゃない。何しろこれ単体では特に意味を持たない効果だし、モンスターのステータスを上げる効果も無い。なので初見では知らない人も多く、発動させて効果説明をしても鼻で笑われることだってある。無論、その場合は実際に使って恐ろしさを見せつけてやったが。

 しかしこのカードこそが俺のデッキの要。なので、これまで直接の面識も無く同級生でも無いカイザーがこのカードを知っていてくれたというのは嬉しいものだ。

 気分が高揚してくる。ワクワクする、とも言える。

 荘厳な都市の中、更に続ける。

 

 「魔法カードが発動したことにより、【図書館】に魔力カウンターが乗る。そして魔法カード、【二重召喚】。このターン、俺はもう一度通常召喚を行える。【図書館】と【魔法都市】にカウンターを乗せ、そして【黒魔力の精製者】を召喚」

 

【二重召喚(デュアルサモン)】

通常魔法

このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 

【黒魔力の精製者】

効果モンスター

星4 風属性 魔法使い族 攻撃力1200/守備力1800

1ターンに1度、自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードを表側守備表示に変更し、自分フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く事ができる。

 

 【黒魔力の精製者】、その攻撃力は1200とピケクラと同値であり決して高くない。だがその効果があれば、低い攻撃力をカバーするのは造作も無い……貫通効果を持つ【サイバー・エンド】でも出されたら、あまり意味が無いけど。

 

 「【黒魔力の精製者】の効果発動。このカードの表示形式を守備表示に変更することで、フィールド上のカードに1つ魔力カウンターを乗せることが出来る。俺は【王立魔法図書館】にカウンターを乗せる」

 

 鎧を着こみ刀を腰から下げるという『お前本当に魔法使い族か?』と小一時間問い質したくなるような装いをしたそのモンスターは、その右手に持った水晶のような珠を掲げた。よく見ればその珠には【漆黒のパワーストーン】と同じ紋様が入っている。

 掲げられた珠から発せられた緑の光は【図書館】へと向かい、魔力を精製する。その作業が終了した後に【黒魔力の精製者】は守備の体勢を取るが、その顔が黒子の如く布に覆われているため(コイツの布は白いが)表情が解らない。

 そしてその効果によって【図書館】に3つのカウンターが溜まった。となれば当然。

 

 「【王立魔法図書館】の効果で1枚ドロー」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 0→1

          【王立魔法図書館】 0→3→0

 

 まさか、【図書館】にカウンターを乗せきっておいてドローしないバカはいまい。これで俺の手札は3枚だ。おかげでこれが使える……しかもおあつらえ向きに、【図書館】の効果でドローしたカードもこうした方が都合の良いものだった。

 

 「【手札断殺】を発動。互いのプレイヤーは手札を2枚墓地に送り、2枚ドローする」

 

【手札断殺】

速攻魔法

お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。

その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 これによってカイザーの手札から何のカードが墓地に送られるかも気になる所だが、それはそれ。大事なのはドローによってどんなカードが来るかだ。それによって不動性ソリティア理論もどきの続きが出る。しかも今回の俺の場合、ドローは【手札断殺】の効果によってのみ行われるのではない。

 

 「互いに2枚ドロー。そして墓地に送られた【代償の宝札】の効果」

 

 「何?」

 

 自身もまたドローしたカイザーが疑問の声を上げた。俺は顔が自然とニヤリとするのを押さえられなかった。

 

 「このカードが手札から墓地に送られた時、デッキから2枚ドロー」

 

【代償の宝札】

通常魔法

このカードが手札から墓地へ送られた時、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 【代償の宝札】。手札から墓地に送られた時に2枚ドロー、しかも手札コストとして送ってもOKという素敵仕様に、漫画版で見た時から欲しい欲しいと願い続けていたカードである。何しろ、エンディミオンとの相性が最高なのだ。だがOCGには存在せず、悔しい思いをしていたのだが……こっちで探してみたらあった。

 初めてこのカードをショップのストレージで見付けた時は(何故これがストレージ行きになってたのかは解らんが。ノーマルカードだからか?)大歓喜だった。文字通りに小躍りして喜んだため、一緒にショップに来ていた十代にドン引きされたが。

 閑話休題。さて、そんな話はさておき。

 手札は4枚。【手札断殺】でも場のカードにカウンターが乗ったし、今の所は順調と言っていい。しかも新たな手札の中にはちゃんと防御系のカードもあったので、正直ホッとした。【パワボン】や【リミ解】の恩恵に与った【サイバー・エンド】は真面目に洒落にならないから。

 

 「【魔力掌握】を発動。【図書館】に魔力カウンターを乗せてデッキから同名カードをサーチ」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 1→3

          【王立魔法図書館】 0→3

 

 またカウンターが溜まった。となれば当然。

 

 「【図書館】の効果発動。1枚ドロー。【魔法都市】のカウンターを代用すればもう1枚ドロー出来るけど……今はそれはしない」

 

 そう判断した理由は1つ。現状で発動できる魔法カードが手札に無いため、【図書館】の効果を使うために【魔法都市】のカウンターを使い切っては破壊耐性を失してしまう可能性があるのだ。次のドローで引く可能性もあるが、確実では無い。ここは温存しておこう。

 それにさっきの【図書館】によるドローカードを見て、不動性ソリティア理論もどき……いい加減に面倒くさくなってきたな。これからは不動性とでも呼ぶか。まぁとにかく、その着地点は出た。

 

 「カードを4枚伏せて、ターンエンド」

 

優 LP4000 手札1枚

  モンスター (守備)【王立魔法図書館】 カウンター0

         (守備)【黒魔力の精製者】

  魔法・罠  (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター3

         伏せ4枚

 

 モンスターは2体いて、魔法・罠はほぼガン伏せ状態である。なのに俺の心境的には全く安心出来ない。というのも。

 

 「俺のターン! ドロー!」

 

 相手がこの人だからなんだろうなぁ。

 

カイザー LP4000 手札6枚

 

 「墓地の【サイバー・ドラゴン・コア】の効果発動!」

 

 「え」

 

 「相手の場にのみモンスターが存在する時、墓地のこのカードを除外することでデッキから【サイバー・ドラゴン】と名の付いたモンスターを特殊召喚する!」

 

【サイバー・ドラゴン・コア】

効果モンスター

星2 光属性 機械族 攻撃力 400/守備力1500

このカードが召喚に成功した時、

デッキから「サイバー」または「サイバネティック」と名のついた

魔法・罠カード1枚を手札に加える。

また、相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

墓地のこのカードを除外して発動できる。

デッキから「サイバー・ドラゴン」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

「サイバー・ドラゴン・コア」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 え、そう来る? 【手札断殺】でそれを墓地に送ったの? 何この自業自得。

 

 「デッキから【サイバー・ドラゴン・ドライ】を特殊召喚!」

 

【サイバー・ドラゴン・ドライ】

効果モンスター

星4 光属性 機械族 攻撃力1800/守備力 800

このカードが召喚に成功した時、自分フィールド上の全ての「サイバー・ドラゴン」のレベルを5にできる。

この効果を発動するターン、自分は機械族以外のモンスターを特殊召喚できない。

また、このカードが除外された場合、自分フィールド上の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して発動できる。

選択したモンスターはこのターン、戦闘及びカードの効果では破壊されない。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 現れたのは【サイバー・ドラゴン・ドライ】。これもまた、レベルを変動させる効果を持つカードだ。つまり発売されたのはごく最近だというのに、既に手に入れていたようである。しかもデッキに組み込んでいる。早ぇ。

 

 「マジックカード、【エヴォリューション・バースト】を発動!」

 

【エヴォリューション・バースト】

通常魔法

自分フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が存在する場合に発動できる。

相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

このカードを発動するターン、「サイバー・ドラゴン」は攻撃できない。

 

 発動されたのは【サイバー・ドラゴン】の攻撃名と同名を持つ魔法カード。そういった意味では【ブラマジ】の【ブラック・マジック】や【ブルーアイズ】の【バーストストリーム】、【レッドアイズ】の【黒炎弾】と似ているが、それはさておき。

 俺のフィールドで破壊されるのは、多分……。

 

 「自分フィールド上に【サイバー・ドラゴン】が存在する時、このターンの攻撃を封じて相手フィールド上のカードを1枚破壊する! 【サイバー・ドラゴン・ドライ】はフィールド上で【サイバー・ドラゴン】として扱う! 破壊対象は【王立魔法図書館】!」

 

 「やっぱり……」

 

 4枚もある伏せカードの中から1枚を選ぶよりも、モンスターを選ぶよね。

 エネルギーをチャージした【サイバー・ドラゴン・ドライ】の口から放たれた光線が【図書館】に直撃し、哀れ【図書館】は崩れ去った。

 しかも攻撃を封じて【エヴォリューション・バースト】を発動したということは、恐らく既に融合カードも握っているのだろう。

 

 「そして【パワー・ボンド】を発動!」

 

 って、おぉい!? 融合カードを握ってるとは思ってたけど、もうそれか!

 

 「場の【サイバー・ドラゴン・ドライ】と手札の【サイバー・ドラゴン】を融合! 来い、【サイバー・ツイン・ドラゴン】!」

 

【サイバー・ドラゴン】

効果モンスター

星5 光属性 機械族 攻撃力2100/守備力1600

相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

融合・効果モンスター

星8 光属性 機械族 攻撃力2800/守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

【パワー・ボンド】

通常魔法

自分の手札・フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、機械族のその融合モンスター1体を融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。

このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、自分はこのカードの効果でアップした数値分のダメージを受ける。

 

 「【パワー・ボンド】の効果により、【サイバー・ツイン】の攻撃力は倍となる!」

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】 攻撃力2800→5600

 

 「攻撃力5600!?」

 

 俺の背後から驚きの声が上がった。確かにそうそう見ない数値であるから、気持ちは解る。

 

 『キシャー!!』

 

 現れ吠える、2つの首を持つ白銀の機械竜。しかも攻撃力は倍加しており、その雄々しい姿はかなりの威圧感を持っていた。【サイバー・ツイン】でこれなら、【サイバー・エンド】はどうなるんだろう?

 あぁもう、本当に、本当に……ワクワクする。

 

 「バトル!」

 

 バトルフェイズへの移行によって【サイバー・ツイン】の2つの首の内の1つがエネルギーチャージを始める中、俺も動く。【サイバー・ツイン】は貫通効果は無いが、2連続攻撃が可能だ。通すわけには行かない。

 

 「トラップ発動、【マジカルシルクハット】」

 

 今まさに放たれようとしていた【サイバー・ツイン】の攻撃が止まった。

 

【マジカルシルクハット】

通常罠

相手のバトルフェイズ時に発動できる。

デッキから魔法・罠カードを2枚選んで相手に見せ、その2枚をモンスター扱い(攻/守0)として、自分フィールド上のモンスター1体と合わせてシャッフルして裏側守備表示でセットする。

この効果でデッキから特殊召喚した2枚のカードはバトルフェイズ終了時に破壊される。

 

 「デッキから魔法・トラップを2枚選び、モンスター扱いでセットする。俺が選ぶのはこの2枚」

 

 言ってデッキから抜き取ったのは【マジックブラスト】と【ブレイクスルー・スキル】だ。

 

【マジックブラスト】

通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスターの数×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

このカードが墓地に存在する場合、自分のドローフェイズ時に通常のドローを行う代わりに、このカードを手札に加える事ができる。

 

 マジカルシルクハットの効果により、場には3つのシルクハットが現れた。【黒魔力の精製者】はこの内の1つに、他の2つには選んだカードが入っているのだろう。

 貫通効果を持たない【サイバー・ツイン】ならば、このターンはこれで凌げる。

 

 「やはり手を残していたか。しかしバトルは続行する! 【サイバー・ツイン・ドラゴン】! 《エヴォリューション・ツイン・バースト》! ニレンダァ!」

 

 連続で放たれた光線の内、2つ目の光線に当たったシルクハット内に【黒魔力の精製者】は隠れていた。

 

 「当たり、だね。流石」

 

 混じり気無い賛辞を贈る。こればっかりは運だからだ。

 もしも当たらなければ次のターンに【黒魔力の精製者】を残せたけど、当たってしまったものはどうしようもない。

 

 「俺の場のモンスターは【サイバー・ツイン】のみ。よってバトルフェイズは終了だ」

 

 「ご丁寧にどうも。じゃあバトルフェイズが終了したことによって【マジカルシルクハット】の効果処理を。フィールド上に残された魔法・トラップを破壊する」

 

 破裂し、煙となって消えていくシルクハット。どこまでも奇術っぽい演出である。何にせよ、これで俺のモンスターゾーンは空になったわけだ。

 

 「攻撃力5600の連続攻撃を防いだんだな!」

 

 「けどそれでモンスターはいなくなっちゃったし……やっぱりお兄さんには勝てっこないよ……」

 

 「でも、【パワー・ボンド】にはデメリットもあるわ」

 

 「デメリット?」

 

 唯一【パワー・ボンド】の詳細を知らないらしい十代が不思議そうな顔をする。それには俺が答えよう。

 

 「【パワー・ボンド】での融合召喚を行ったターンのエンドフェイズ、その融合召喚されたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるんだよ」

 

 強力な効果に見合う多大な代償である。仮に後先を考えずに【サイバー・エンド】を融合して相手を倒しきれなければ、逆に自分の方が敗北してしまうのだから。

 とはいえ今回は【サイバー・ツイン】。その元々の攻撃力は2800であり十分に高い数値だが、今は序盤でもあるし、決して払えない代償では無い。だがそうはならないだろう。

 

 「でも確かこのターン、カイザーはまだ通常召喚権を残してるよな?」

 

 【サイバー・ドラゴン・ドライ】も【サイバー・ツイン・ドラゴン】も特殊召喚。もしも召喚権を敢えて残しているとしたら、残りの手札にアイツがいる可能性が高い。

 

 「その通りだ。伏せカードが4枚もあった以上、このターンの攻撃を躱してくるだろうことは読んでいた。俺は【サイバー・ジラフ】を召喚! 効果で生贄に捧げ、このターンの俺の効果ダメージを0にする!」

 

【サイバー・ジラフ】

効果モンスター

星3 光属性 機械族 攻撃力 300/守備力 800

このカードを生け贄に捧げる。

このターンのエンドフェイズまで、このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。

 

 出て来て速攻でその身を捧げる機械麒麟。【ハネワタ】でない辺りにカイザーのサイバー愛を感じる……うん、【ハネワタ】ももういるんだよ、チューナーではないけど。

 

 「カードを1枚伏せる。ターンエンドだ」

 

カイザー LP4000 手札1枚

  モンスター (攻撃)【サイバー・ツイン・ドラゴン】 攻撃力5600

  魔法・罠  伏せ1枚

 

 よし、伏せカードが出された。チャンス。

 

 「そのエンドフェイズに速攻魔法【ダブル・サイクロン】を発動」

 

 これも一種のエンドサイクです。

 

【ダブル・サイクロン】

速攻魔法

自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。

選択したカードを破壊する。

 

 「互いのマジック・トラップを1枚ずつ選んで破壊する。そっちのマジック・トラップはその伏せカード1枚だから、選択の余地は無いね。俺の場で選ぶのは、残った2枚の内、右の伏せカード。更に、チェーンしてそのカードを発動する。永続トラップ、【漆黒のパワーストーン】」

 

【漆黒のパワーストーン】

永続罠

発動後、このカードに魔力カウンターを3つ置く。

自分のターンに1度、このカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除き、フィールド上に表側表示で存在するこのカード以外の魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く事ができる。

このカードに乗っている魔力カウンターが全て無くなった時、このカードを破壊する。

 

 トラップを発動させたことにより、その名の通りに漆黒の石がフィールドに現れた。その中には逆三角形の模様が入っていて、仄かな緑光も見える。カウンターを溜めこんでいるのだ。しかしその直後に巻き起こった突風により、その魔石は破壊される。

 

 「逆順処理により、【漆黒のパワーストーン】には3つの魔力カウンターが乗る。そして【ダブル・サイクロン】によって破壊されたことで、そのカウンターは【魔法都市】が貰い受ける……勿論、【ダブル・サイクロン】の発動によってもカウンターは乗った」

 

 【漆黒のパワーストーン】は1ターンに1度、好きなカードにカウンターを乗せらる。でも今は【魔法都市】に乗せてしまいたいのですぐに破壊する。

 なお当然だが、【エヴォリューション・バースト】や【パワー・ボンド】が使用された時にもカウンターは乗っている。地味? それを言うな。

 

 「くっ」

 

 【ダブル・サイクロン】が破壊するのは相手のカードもである。突風に小さく呻いたカイザーの場を見てみると、捲れ上がった伏せカードは【我が身を盾に】……そんなにサイバー流を愛しているのか。

 しかしなるほど、これを握ってたのなら俺の伏せカードが例えば【ミラフォ】のような物であっても問題は無かっただろう。道理で躊躇無く攻撃してきたわけだ。

 

【我が身を盾に】

速攻魔法

1500ライフポイントを払って発動する。

相手が発動した「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つカードの発動を無効にし破壊する。

 

 速攻魔法も伏せたターンは役に立たない。エンドサイクって素晴らしい。

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP4000 手札2枚

  モンスター 無し

  魔法・罠  (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター3→9

         伏せ1枚

 

 俺の場にはフィールド魔法と伏せカード1枚。手札は2枚でその内の1枚は前のターンにサーチした2枚目の【魔力掌握】。

 だが、何の問題も無い。向こうの場にも【サイバー・ツイン】1体のみ。攻撃力が倍加していようと、そんなことは問題では無い。最初にも言ったが、火力でぶつかり合う気はあまり無いのだ。【我が身を盾に】を除去出来たのは僥倖だった。

 もう攻勢に出られる。っていうか出たい。

 融合主体のデッキの宿命か、今のカイザーの手札は1枚。しかしすぐにリカバリしてくるだろう。今の内に行く!

 

 「まずは2枚目の【魔力掌握】を発動。【魔法都市】にカウンターを乗せ、3枚目をサーチ」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 9→11

 

 さて、いよいよだ。何か凄ぇ久し振りな気がする。

 

 「カイザー」

 

 「どうした?」

 

 「俺のデッキにもあなたの【サイバー・ドラゴン】と同じく、特定の条件を満たすことで特殊召喚出来るモンスターがいるんだ。そしてそいつが俺のエースでもある」

 

 俺のその言葉に、隣の精霊がピクリと反応した。そして心なしかそわそわとしだす。

 だがその他の面子は驚いている。そりゃそうだろう、最近召喚する機会が無かったから出してないし……召喚自体は可能だったがあえて召喚しなかった場面が多々あるとか、そういうことを言ってはいけない。

 

 「行くぜ。俺は【魔法都市】に乗っているカウンターを6つ取り除くことで、【神聖魔導王エンディミオン】を墓地から特殊召喚する」

 

魔力カウンター:【魔法都市エンディミオン】 11→5

 

【神聖魔導王エンディミオン】

効果モンスター

星7 闇属性 魔法使い族 攻撃力2700/守備力1700

このカードは自分フィールド上に存在する「魔法都市エンディミオン」に乗っている魔力カウンターを6つ取り除き、自分の手札または墓地から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する魔法カード1枚を手札に加える。

1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てる事で、フィールド上に存在するカード1枚を破壊する

 

 【魔法都市】の魔法石6つを用いて作られた光の門から堂々と現れるエンディミオン……堂々と……。

 

 『漸く! 我の! 出番が! 来たァ!!』

 

 えーっと。

 

 『ふはは、恐れろ慄け恐怖せよッ!! この時を待っていたァ!!』

 

 手に持った杖をブン回しながら、ハイテンションで高らかに哄笑しながら現れたエンディミオン………………………神秘性台無しだ。どうしよう、何だか今凄く後悔してる。

 

 「あれが優のエース……!」

 

 「召喚されたの初めて見たッス!」

 

 「もの凄くやる気なんだな!」

 

 ソリッドビジョンによる映像が見えるのみで、エンディミオンの声が聞こえていない観客3人は厳粛に受け止めているみたいだが。顔を隠す仮面のお陰で表情は見えないし、【魔導王】という響きは何となく凄そうだ。そして確かに、やる気だけはもの凄くある。その立姿だけを見れば、凄そうに見えるのかもしれない。

 でも……。

 

 「ははは……あいつ、あんなキャラだったんだな」

 

 真実を知ると全くそうは思えないというね!

 違うぞ十代、いつもはもうちょっと、こう、マトモなんだよ! でもここ最近、鬱憤が溜まってたみたいで! 弾けちゃってるんだよ! 止めろ、そんな目で見るな……そんな軽く引いた目で……!

 

 「それがお前の全力か」

 

 対戦相手のカイザーの発言に、俺は無理矢理現実逃避から帰って来た。

 

 「あぁ、うん……」

 

 ちょっと認めたくないような気分になったが、カイザーだって精霊は見えてないんだから他意は無いのだろう。ならばこのまま全力で行く!

 

 「スー、ハー」

 

 一度深呼吸をし、気持ちを切り替える。

 

 「……【神聖魔導王エンディミオン】は【魔法都市エンディミオン】の長。このカードは【魔法都市】の魔力カウンターを6つ取り除くことで手札または墓地から特殊召喚することが出来る」

 

 「墓地から、と言っていたな。【手札断殺】で墓地に送っていたか」

 

 「その通り」

 

 エンディミオンはデッキから出てさえいれば、手札にいようが墓地にいようが関係無い……【魔法都市】にカウンターが溜まっているという前提が必要だが。【魔法都市】が来なければ途端にレベル7(最上級)の重量モンスターに早変わりだが。ま、その場合は【闇の誘惑】や【七星の宝刀】のコストという手もある。

 だが少なくとも今までは、【魔法都市】が全然手札に来ないということは滅多に無い。それに【魔法都市】にカウンターを溜めるというのは存外簡単なことである。それに特化したデッキなら尚更だ。

 そしてエンディミオンは、大きなアドバンテージももたらしてくれる。

 

 「この特殊召喚に成功した時、墓地の魔法カードを1枚、手札に加えることが出来る。墓地の【代償の宝札】を手札に」

 

 【代償の宝札】万歳。見付けられて本当に良かった。

 エンディミオンが杖を掲げ、よく解らない言語で呪文を唱える。すると魔法都市の地中から緑色の光が浮かび上がってきた。やがてそれは1枚のカードへと姿を変える。エンディミオン……やっとそれっぽくなってきたな。

 

 「そして【エンディミオン】の最後の効果。手札の魔法カードを1枚墓地に捨てることで相手フィールド上のカードを1枚破壊する。【代償の宝札】を墓地に捨て、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を破壊。《パニッシュメント》!」

 

 『今こそ我が力を見せる時! 括目せよ!』

 

 ……お前、もう喋らないでくれ。

 エンディミオンの鬱屈はともかく、その力は本物である。何しろ【魔導王】だ。一応は。

 エンディミオンの杖先に力が集約し、それはどんどん大きくなる。やがて限界まで蓄えられたそれは破壊の力を揮う。

 

 『ハァ!』

 

 それはまるで闇の奔流のような一撃だった。前のターンの【エヴォリューション・バースト】とはまるで真逆である。

 

 『キシャー!』

 

 5600という破格の攻撃力を持っていようと、【サイバー・ツイン】に効果破壊への耐性は無い。エンディミオンの攻撃に耐えられるはずも無く、断末魔の悲鳴を上げて粉砕された。よし。

 

 「出し惜しみはしない。全力でやるぞ」

 

 『当然だ。我を召喚しておいて負けるなど許さぬ』

 

 相手のフィールドは空となった。今攻めないでどうするというのだ。

 

 




<今日の最強カード>

王『漸く来た! 主よ、今日紹介するのは勿論!?』

優「勿論、これだ」

【パワー・ボンド】

王『…………』

優「ご存知、機械族専用の融合カード。原作でも幾度となく使用され、色んな意味で勝負の決め手となったカードです」

王『…………』

優「攻撃力倍加ってのは、単純故に強い。でもデメリットも大きいよね、作中で言ってるから深くは言及しないけど」

王『違うであろう!? もっとこう、自分の使ったカードであるであろう!?』

優「ん? ああそうだね。じゃあこれ」

【代償の宝札】

王『…………』

優「OCGには存在しない、漫画版宝札カード。OCG化はしないだろうと筆者は諦めているみたいだよ……手札コストになっても効果発動という素敵仕様だから。墓地に送られた時、なんだからなんでもアリなんだよね。【サモプリ】、【手札断殺】、【手札抹殺】等々」

王『主よ』

優「何?」

王『ダイレクトに言おう」

優「うん」

王『我では無いのか?』

優「だってお前、出て来ただけじゃん。単体除去は【エヴォリューション・バースト】でもやってるし」

王『うぐ!?』

優「まぁ気を落とすな。今回は前後編の前編。後編でアピールしなよ。話が長くなりそうだったのでわけたらんだって。大方の予想が制裁デュエルだった所で何故かカイザーだけど。後編には【サイバー・エンド】も出るだろうし」

王『どうしてこうなった』

優「そりゃ、制裁デュエルのタッグが俺と十代になっちゃったからだよ。翔が落ち込まないから、テコ入れしないとカイザーイベントが起こらないのさ」

王『大人の事情のようなものか』

優「でも勝負はガチだよ。俺は勝つ気でやってる。作者がどういうつもりかは解らないけどね」

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