『マヤMk-Ⅱ』の脅威を少しでもイメージしていただけたら幸いです。
SUS中型移動要塞『アコンカグア』艦橋
【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト 完結編』より《驚異のニュートリノビーム》】
「ターゲットロック! いつでも発射可能です!」
「よし、超エネルギー反射システム、攻撃開始」
第二次アマール遠征艦隊の司令ベルイダは、敵を薙ぎ払うように右手を大きく振り払って、決戦兵器の稼働を命じる。
「しかし司令、今発射すると艦載機が巻き添えになる可能性がありますが……」
「……止むを得ん。今撃たないと次は大気圏突入後になる、機を逃す訳にはいかない。分かったらさっさとやれ!」
「はっ!」
命令一下、階下の部下が暖機状態にあった兵器を操作しはじめた。
テーブルの様なパネルに指先がタッチする度、レーザービームのような赤い光が走る。
艦橋からの指示を受けて、要塞を覆っていた光の潮流が変化する。
すると、艦の表面を対流していた波動砲と衝撃砲のエネルギーが、四ヶ所に集約し、滞留し始めた。
「エネルギー収束率120パーセント、間もなく臨界を越えます!」
「愚かな地球人共、SUSに喧嘩を売った報いを受けるがよい。自分の放った弾でやられるなら、本望だろう」
奥歯まで見えるような醜悪な笑いに顔を歪めながら、ベルイダは呪いの言葉を吐く。
超エネルギー反射システム
SUSが新開発した、敵の決戦兵器を無効化しつつ任意の目標に送り返すことが出来る、防御と反撃が一体化した兵器である。
その原理は空間磁力メッキやSUS要塞の防御盾船のそれと同じで、艦の表層を覆う強力な磁界であらゆるエネルギー兵器のベクトルを変える事で、かつてガミラスの反射衛星砲のように敵の攻撃を跳ね返すことが出来る。
ただしこのシステムが他と決定的に違うのは、ただエネルギーを反射するだけでなく、磁界が受け止めたエネルギーをベクトル操作によって二枚の磁気バリアの隙間で対流させることが出来る点だ。
これによって、敵から受けた強力なエネルギーを一時的に保存して任意のタイミングで任意の方向に放出することが可能になり、運用の幅が大幅に向上した。
それだけではなく、表層に滞留したエネルギーは防御スクリーンの役目を果たし、防御兵器共通の弱点である実体弾兵器を着弾前に破壊し、その爆発エネルギーさえもチャージする事が可能になった。
「アコンカグア」はこのシステムを搭載することにより、単なる中型移動要塞兼艦隊司令部というだけでなく如何なる国のあらゆる決戦兵器をも寄せ付けない、無敵の盾へと変貌を遂げたのだ。
収束と回転を繰り返し、強く白い輝きを増した特異点は、巨大な目の玉となって怨敵を睨みつける。
「臨界放出まで3……2……1……射出!」
号令じみた報告と同時に、目の玉はエネルギー弾となって敵へと飛び出した。
撃った波動砲が青い龍ならば、撃ち返されたものは真っ白い龍。
白龍の向かった先は、右方向に二つ、真後ろ、そして左後方。
スパイラルと緩やかな蛇行をしながら、エネルギーの塊はミサイルらしきものを撃ち出しながら回避行動を取る敵戦艦群を直撃した。
◇
第一戦隊臨時旗艦「フジ」第一艦橋
【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト 完結編』より《ハイパー放射ミサイル》】
『シナノ』から乱数回避とバリアミサイルの発射を唐突に命じられた第一戦隊は、悲鳴や怒声すら発せないほどのパニックに陥っていた。
「ビーム着弾まであと5秒! 回避不可能です!」
「諦めるな、フルスロットル!」
上下へと散開する後続艦と異なり、戦艦『フジ』艦長の物部晃は進路を維持したままスピードを上げることを選択した。
既に戦闘モードを解除、全兵器へのエネルギー供給をカットする代わりに艦は高速の巡航モードと移行した。
とはいえ、モード変更からといってすぐに速力を得る訳ではない。
巨大な炎の前では近づいただけでも高熱で火傷をしてしまうように、白く輝く太い光の束は直撃しなくとも至近距離を通っただけで艦を消し飛ばしてしまうだろう。
左舷から目が潰れそうなほど眩い光の束が迫って来る。
そうして、第一艦橋が光と陰のモノクロに染まったとき――――、
ほんの一瞬だけ、自身がコバルトブルーの大海を遊弋しているような幻を見た。
直後――――視界が、ズレた。
霧状に細分されたエネルギー弾の暴風が艦を襲い、300メートル近い大きさを持つドレッドノート級戦艦が、中のクルーを置いて右に凪ぎ払われたのだ。
立ち位置が一瞬左にズレたような感覚の後、瞬間的に左方から衝突してきた艦から右方向へのベクトルを全身に浴び、文字通り吹っ飛んだ。
艦長席を囲んでいるコンソール群に最初は左腕を、その後に右半身を強かに叩きつけられる。
ベクトルはまだ殺しきれない。
踏ん張っていた足が浮き上がり、跳ね上がって反対側へ落ちそうになるところを、反射的に艦長席の肘掛けに左足を引っ掛けてこらえる。
艦橋の左舷側に席を持つ通信班、砲術班は両膝をぶつけながらも座席の背もたれに体を埋もれさせて堪えることが出来た。
しかし、右舷側の航法班、技術班は座席を放り出されて今まで自分が操作していたコンソールやディスプレイに顔面を打ち、胸を打ちつけてしまった。
「う、うぐうぅぅぅううああああ……!」
内臓を掴まれるような感覚に、悶絶して呻り声を上げる。
『フジ』は艦橋を含む艦体後部にエネルギー弾の飛沫を浴び、その衝撃と反作用で独楽のように回転する。
元々重心が後部に寄っている形状をしている上にフルスロットルで推進しているため、艦首付近を中心として不規則に回る回転は乗組員に猛烈な遠心力を与えていた。
左回転と縦回転がランダムに訪れる『フジ』は、秋風にハラハラと翻弄される落ち葉そのものだ。
窓の向こうの景色はただただ何かが目まぐるしく回っているようにしか見えないが、それだけで嘔吐感がこみ上げてきそうだ。
「エ、エンジンて、て停止、し、姿勢、制御ォォォ!」
振り回されながら部下に指示を下す。
その難しさは、ジェットコースターに乗って急カーブを曲がりながらコースターの最後尾と話す事を想像すれば、分かりやすいだろうか。
「やってます! ぐ、うううう……動けぇぇぇ――――!」
そして、そんな中で姿勢制御ロケットの操作をしようとする事は、スパイラルをしながら鞄の中から小さな点眼薬を取り出すことと同じぐらい難しい。
だがそれでも、体を襲う慣性にパニックになっていた頭を必死にクールダウンし揺れる計器を見回し、スラスターを噴射させることに成功したのは、操縦桿を預かる者としての矜持ゆえか。
反時計回りに振り回されていた艦体が逆ベクトルのスラスターの噴射によって少しずつ相殺され、ただ薄白い青にしか見えなかった宇宙は無数の線―――星々の残像だ―――に変化した。
「……ぎ、技師長、回転が収まったら、ハァ、損害の調査を始めろ」
「りょう……かい……」
頭をぶつけた際に脳震盪を起こしていただろう、技師長の返事は蚊の鳴き声そのものだった。
「くっそ……一体、何が起きたんだ……?」
ようやく衝撃から立ち直ったレーダー班長は、頭を振って霞んだ意識を覚醒しようとする。
今だに目まぐるしく回転するレーダー画面に、映っているはずの味方艦がごっそり減っている事には、彼はまだ気付いていない。
◇
同刻同場所 『シナノ』第一艦橋
【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』より《傷ついた戦士たち》】
敵光線の直撃を免れた『シナノ』はインメルマンターンを打って艦の上下を修正し、ひとまず敵要塞との距離を維持しつつ状況の把握に専念していた。
要塞は依然として高度を下げており、大気圏降下の意図は明らかだ。
しかし、止めようにもこちらに打てる手段はなく、敵要塞も我らが火器の射界に入り込んでいないことから、沈黙を保っている。
第二戦隊へと向かっていた敵編隊と紫雲隊がなおも戦闘を継続中だが、お互いに動揺しているようで、どこかぎこちなさというか真剣身が欠けている。
先程までの命がけの戦闘から一変、奇妙な小康状態が発生していた。
「第一戦隊は『フジ』、『シラネ』、『ヨウテイ』が戦闘続行可能、『タカチホ』が航行に支障あり。第三戦隊は『ノース・カロライナ』、『ライオン』、『クロンシュタット』戦闘続行可能、他は大破炎上中。第二戦隊は……」
泉宮は震える声で、半球状のレーダーパネルに表示されている残存艦を読み上げる。
第一戦隊は直列陣形の中央を射抜かれて『ダイセツ』、『ノリクラ』が跡形もなく消滅した。
第三戦隊は中央で平列に並んでいた偶数艦の直上を敵弾が擦過し、艦の頭脳である艦橋を抉られた。
第二戦隊はソリッド隊形の中央を打ち抜かれて、射線にいた旗艦はモロに食らって煙も残さず消滅。周囲の艦も後部を悉く食い千切られて残骸だけが力なく漂っている。
「全滅か……バリアミサイルが展開される前に被弾したんだな。密集隊形だったから、余計に被害が大きかったんだろう」
南部艦長が冷静に事態を推測する。
誰にともなく呟く艦長に、紡ぐ言葉が見つからなかった。
「技師長、艦のダメージは?」
「奇跡的に、全くありません。バリアを2重に張ったのが幸いしましたね。加害範囲を出るまでの時間を稼いでくれました」
同じく冷静に、技師長の篠田が返答する。
―――『マヤMk-Ⅱ』から放たれたエネルギー弾が直撃する直前、間一髪のところでバリアミサイルが炸裂した。
正三角形に展開された3枚の円環が、破壊の奔流をほんの一瞬食い止める。
遮られたエネルギー流は飛沫をあげ、バリアの枠外へと飛散していく。
しかし、拡散波動砲の子弾程度は跳ね返せるタキオン粒子フィールドも、『シナノ』の収束型波動砲と第三戦隊の拡散波動砲、さらに第一戦隊の衝撃砲を合わせた威力を抑える事はできなかった。
押し寄せる怒涛に押し切られ、為す術も無く突破される。
再び突進する白龍の前に、2枚目の壁が立ちはだかるが、これもいとも簡単に食い破られた。
しかし、2枚の障壁が稼いだ僅かな時間に『シナノ』は敵弾の軌道から脱出、幸運にも無傷で消滅の危機を乗り切ることができたのだ。
「技師長、機関長。今の攻撃をどう思う?」
艦長に意見を求められた赤城は、癖になっている右手の人差指と親指で顎を挟むポーズで思案する。
「佐藤の報告の言う通りなら、俺達を襲ったあの怪光線は波動砲のタキオンバースト奔流っすね。ということは、あの要塞の周囲には空間磁力メッキが展開されているという事になります」
「ただの空間磁力メッキだったら撃った瞬間に跳ね返ってくるはずです。要塞の表面を波動バースト流が対流していたってことは、敵の攻撃を一旦貯め込んで、好きな時に撃ち返せるってことですよ。おそらく、先の拡散波動砲や第一戦隊の砲撃も吸収されていたんでしょう」
篠田も両腕を組んで、赤城と同じ結論に達する。
ふむ、と一言頷いて、艦長は遠山の背中に視線を向ける。
「遠山、航空指揮所に連絡だ。『別命あるまで現状のまま待機せよ』……遠山?」
「か、艦長。俺……お、俺が撃った波動砲が、みみみ、みんな、殺し、、、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「遠山君!?」
「健吾どうした!?」
「健吾さん!?」
庄田、笹原に続いて泉宮は頭を抱えて絶叫する遠山に駆け寄る。
「お、おれ、オレのせいで、味方が、第二戦隊が、何て事をしてしまっ、ごめっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、」
「どうしたの遠山君、しっかりして!」
「健吾さん! 健吾さん! 落ち着いて!」
「ちくしょう、どうなっちまってんだ一体!?」
暴れる遠山を三人がかりで座席に抑えつける。
遅れて篠田も彼の両肩を強く押さえ、大人しくなるのを待った。
やがて暴れなくなった遠山はしかし、代わりに頭を抱え込んでブツブツと独り言を繰り返すようになってしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、」
「くそ、まさかシェルショックか? 庄田、笹原、泉宮、お前らは持ち場に戻れ。それから衛生兵を呼んで来い! 有馬、お前が臨時に戦闘班長をやれ」
「了解。有馬政一、戦闘指揮に就きます」
篠田が指示する間も遠山の懺悔は止まらない。涙を浮かべたまま眼を見開き、焦点の定まらないまま謝罪の言葉を延々と口にしている。
敵の反撃が自分の波動砲によってもたらされたという事実に、彼の心は折れてしまったのだ。
「どうしよう、こんな時に……」
「どうしようも何も、―――ええと、なんとかするしかないでしょ?」
「健吾さん……」
庄田の茫然とした呟きに佐藤が気丈に答えようとしているが、まともに答えられない。今まで見たことがないほど取り乱した遠山に、彼女らもまた動揺していた。
泉宮もまた、手をこまねいていることしかできなかった。
「どうしよう、このまま健吾さん、心が壊れちゃったりしたら……」
「真貴……滅多な事を言うもんじゃないわ」
「でも由紀、」
「どけ、泉宮」
「艦長……?」
南部艦長が、着ていたコートを脱ぎ捨てて駆け寄ってきた。
泉宮は一歩下がって、遠山の右隣を空ける。
「遠山、こっちむけ」
「え……?」
バキィッ!!
「キャアッ!?」
「艦長!?」
「なっ……!」
遠山が振り向いたところを、艦長が左の拳を思いきり振り抜いていた。
右頬を殴られた遠山は、勢い余って床に倒れこんでしまう。
あっという間のできごとに、誰もが揃って唖然とする。庄田は目を瞑って身を竦めてしまった。
南部艦長は、おもむろに胸倉を両手で掴んで遠山を無理やり立たせる。
「遠山、勝手に自己完結して満足か。罪悪感に浸っているふりをしていれば満足か」
「艦長……、でも、俺は、」
反射的に何か言おうとする遠山を抑えるように、掴んだ胸倉を絞り上げる。
「そうやって泣いて謝っていれば、第二戦隊は生き返るのか? そうやって今やらなければならない任務を放棄して自分の殻に閉じこもれば、事態は解決するのか? そのくらいのこと、貴様なら分かるだろう? ええ?」
目尻から涙を零しながら、遠山は口を開く。
「俺には……俺は嫌です……! もう、味方を殺してしまうようなことは、できません……!」
「今お前がやらなかったら、更に多くの人が死ぬぞ。本土防衛艦隊は壊滅し、アマール人も、地球人も、皆あの要塞に殺されるんだ。それでもいいのか、貴様は」
「有馬がやってくれます! 俺じゃなくてもいいじゃないですか!」
南部艦長の手首を掴んで、涙声で遠山が叫ぶ。
「誰がやっても同じならば、戦闘班長のお前がやれ。お前がしようとしているのは、ただ現実に目を背けて逃げようとしているだけだ。それでは何の解決にもならない」
「あんたは何とも思わないのか! あんたの命令で何百人も死んだんだぞ! あんたには人の心が無いのか! あんたには良心の呵責は無いのか!」
「そうだ。貴様は軍人として、上官である俺の命令で引き金を引いただけだ。これは俺の判断ミスだ。お前が責任を感じる必要は全くない」
「質問に答えろォォォ!」
空いている右手で、遠山が艦長に殴りかかる。
艦長は左手を襟元から外しつつ身体を右半身に避ける。
左手を滑らせて伸ばされた遠山の右手首を掴み、襟を掴んでいる右手首を返して肘を懐へ。
足を交差させて体を潜り込ませると、膝を折りつつ強引に背負い投げた。
思いもよらない背負い投げを受けて、遠山は背中から床に叩きつけられてしまう。
立ち上がった艦長は、つまらなそうな顔で見下している。
「目、醒めたか」
「…………」
「人の心も良心の呵責も、戦闘には一切不要だ。それで引き金を引けなくなったら、死ぬのは自分だけではないからな。責任を感じるのも、責任を取るのも、戦闘に勝利してこそだ。……もう、持ち場に戻れ。まだ戦闘は継続中だ。続きは、終わってから聞いてやる」
艦長は振り返り、殴った時に落とした制帽を被り直すと、艦長席へと戻っていく。
「でも、俺は……」
「例えお前が嫌がっても、状況がそれを許してくれない。第一、お前はもうさっきのように取り乱していないだろう?」
「……」
体を起こした遠山は、顔を伏せたまま押し黙る。
「お前はそんなヤワな男じゃない。お前が抱いている感情は、俺だって、古代さんだって、沖田艦長だって通った試練だ。いずれはお前自身で答えを見つけ出すものだが、今はその時じゃない。今は戦闘に集中しろ。いいな」
「…………………………了解」
篠田と佐藤は既に席に戻り、庄田も通信席へと足を向ける。
席に戻ろうと立ち上がる遠山を、笹原が手を取って引っぱり上げる。泉宮は赤くなった右頬にハンカチを当てた。少し腫れていて、見ているだけで悲しい気持ちになってくる。
「すまない笹原、真貴。……迷惑かけた」
「ううん、私は大丈夫……健吾さんこそ大丈夫?」
「正直大丈夫じゃないが……今は我慢する。艦長の言ってた通り、今はそれどころじゃない」
「健吾さん……」
遠山の痛々しい姿を見て、泉宮は胸が苦しくなる。
そして、艦長の事が憎々しく思えてしまう。
わざわざ殴らなくたっていいのに。
わざわざ、背負い投げなんてしなくていいじゃない。
どうしてあんなインテリヤクザみたいな人が、あんな乱暴な事できるんだろう。
いくら銃の腕前が良くたって、歴戦の宇宙戦士だからって、あんな性格じゃきっと結婚なんてしていないに違いないわ。
あんな人より、健吾さんの方がよっぽど素敵な人なんだから。
カッコいいし、優しいし、私に気を遣ってくれるし、あんな眼鏡のおじさんよりもよっぽど魅力的な男性なんだから。
……あれ、何の話だったっけ?
ピピーッ、ピピーッ
「後方に新たなワープアウト反応!」
そのとき、警告音とともに佐藤の悲鳴のような声が響く。
「俺は大丈夫だから、行け、真貴!」
「は、はい!」
遠山の声に弾かれるように、泉宮はレーダー席へ戻った。
彼女を待っていたかのように、レーダー席から聞き慣れた音が鳴る。
コスモレーダーに新たな反応。機械が自動的にIFFの照会を行う。
「泉宮、敵か、味方か!」
「ちょっと待って下さい! 今照会中なんです!」
急かす艦長に思わずイラッと来て、ついつい泉宮は大声で返してしまった。
「お、おう。済まなかった……」
先程あれだけの啖呵を切っていた艦長が、泉宮の迫力に思わずたじろく。
全く、レーダーに映ってすぐに敵か味方かなんて、分かる訳ないじゃない。
宇宙戦士は艦長とレーダー員が結婚するパターンが多いっていうけど、あれって絶対嘘ね。
私と南部艦長って20歳近く離れてるのよ?
いくらヤマトの元戦闘副班長だからって、無理があるのよ。
それなら健吾さんの方が、南部さんより早く戦闘班長に就任してるし、歳も同じだし。
……何を考えてるんだろ、私ったら。
と、ようやく解析結果が出たわね。
「艦長、ワープアウトしてきた艦の詳細が判明しました! 所属は地球連邦軍!」
「なんだと? 『ヤマト』がもう帰って来たのか?」
いいえ違います、と泉宮はかぶりを振った。
「太陽系周辺宙域の救出に当たっていた、旧式艦ばかりの艦隊のようです。旗艦は……『武蔵』?」
聞き慣れない艦種に首をかしげながら、IFFで判明した艦のリストを読み上げる。
このときの彼女には、唐突に表れたこの艦隊が打つ手を無くした自分達にどんな影響を与えるか、全く分からなかった。
次回は例の実験艦と、カレンダーとHPにしか登場しなかった幻の艦が登場。