宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
ここ最近は亀更新で申し訳ありませんが、今年もよろしくお願いいたします。


外伝3 ―紡がれるかもしれない未来―

2220年 4月5日 惑星「アマール」周回軌道上

 

 

【推奨BGM:「宇宙戦艦ヤマトpart2」より《彗星帝国艦隊出撃!》】

 

 

虚空を波立たせて現れた巨大な構造物が、第三戦隊の上空を航過していく。

巨人が両手を広げているような、あるいは巨大な十字架のような、ガンメタルに輝く鋼鉄色の艦が、我々など気にも止めていないかのように堂々とした様子で壊滅した敵艦隊に近づいてくる。

と、そこでようやく篠田は我に返った。敵の増援が来たというのなら、やる事は決まっている。

 

 

「第一、第二戦隊はこのまま単横陣で退避を続けろ。第三戦隊、波動砲のチャージが完了次第発射。加藤小隊、坂本小隊、椎名小隊は各戦隊の直掩にあたれ。山木小隊、小川小隊は直ちに帰還して弾薬の補充を受けろ! 笹原、下層の発艦用甲板も使って回収する。2分後に気密シャッターを開け」

 

 

呆然とする場を南部艦長の矢継ぎ早の指示が飛ぶ。通信班長の庄田有紀が我に返った様子で第二戦隊と第三戦隊に連絡をする。戦闘班長の遠山健吾が無線を右手に爆弾を落として身軽になったコスモパルサー隊へ帰還を命じる。

 

篠田は既に、ダメコン班のうち半数を飛行科の増援に向かわせている。

今までの経験からして、唐突に現れた敵の大型艦は今までの敵より強大なことが多い。

ならば、敵が攻撃をしてくる前にこちらも総攻撃の準備をしておかなくてはならない。

重爆撃隊を一度回収して、再度の出撃に備えるのだ。

出撃した50機の彩雲が矢継ぎ早に着艦してくるなら、着艦誘導に修理、燃料の補給と弾薬の再装填に飛行科がかかりっきりになることは目に見えている。

なら、補助・サポートに入る人間は絶対に必要だ。

 

幸いこちらはいまだ一切被害を被っていないから、現状でダメコン班に喫緊の仕事はない。

全員は無理でも半分くらいなら人員を割いても大丈夫だと判断して、技術班長としての判断で応援にやることにした。

やがて、敵の艦型を照合していた泉宮が自席のモニターから顔を外す。

 

 

「敵増援はSUSのマヤ型移動要塞と判明! データをメインパネルに出します!」

 

 

窓ガラスの上の大型モニター画面が二分割され、右側にマヤ型要塞の諸元が映る。

十字架状の艦体に、十字に並べられた主砲・副砲群。

後背部には艦載機発進サイロが多数配置されており、単艦で一個艦隊規模の戦力を有しているであろうことが容易に推測できる。

その大きさ、戦闘能力、まさに要塞。

 

――――――宇宙要塞。その言葉に刺激を受けて、篠田の脳はフル回転する。

 

思い出される映像。

思い出される経験。

『ヤマト』の経験と『シナノ』の経験を組み合わせると、もしかしてこいつは――――――。

 

 

「艦長」

 

 

椅子ごと振り向いて、南部艦長に強い視線を向ける。

それを察したように、南部も篠田に顔を向けた。

 

 

「分かっている、技師長。だが、それは艦載機の回収を完了させてからだ。それに、第三戦隊だけで話が済むならそれに越したことはない。まずは、事前の作戦通りにやってみよう」

 

 

頷いて意を汲んでくれた南部さんは、二つの命令を出した。

 

 

「庄田、『フジ』に通達。『本艦は艦載機収容の為、一時戦列を離脱する。第一戦隊の指揮を執れ』。機関班、いつでも波動砲を撃てるように準備しておけ」

 

 

何故かを問わず、ただ「了解」と頷いて作業に移る庄田と赤城機関班長。

 

 

「しかし、そうなると波動カートリッジ弾が使えないのは痛いですね。波動エネルギー弾道弾は『ヤマト』が持っていっちゃいましたし」

「いや、実体弾が効果あるかも分からないからな?」

「波動砲も実体弾も使えないとなったら、俺達には手が負えないですな」

 

 

深刻な状況を世間話のように軽く話す、篠田と南部艦長。

その様子を遠山が呆気にとられた顔で見ている。

 

 

「あの~。艦長も技師長も、何故そんなに余裕あるんでしょうか?」

「あ、私も思いました。お二人とも、余裕があるだけじゃなくて仲いいですよね」

「そうそう! 泰然自若と言いますか、腹が据わっていると言いますか。やっぱり、実戦経験の違いですかね~」

 

 

佐藤も泉宮も、視線をパネルから外さずに会話に参加する。

 

 

「そりゃ、15年の長い付き合いですからねぇ」

「俺は『シナノ』も篠田も信頼してるからな。篠田とは『シナノ』を造る前からの知り合いだし」

「またまたぁ、それだけじゃないんでしょう?」

 

 

庄田の良く分からない茶々の入れ方に、嫌な予感を感じる二人。

 

 

「15年も同じ艦にいるんですよ~。そんな、ただの仲良しで済むわけないですって」

「えぇ~、まさか、まさかなの?」

「艦長が責めかしら?」

「そりゃそうよ、先輩だもん」

「何言ってんの真貴。強気受けって可能性もあるわよ?」

「「「キャ―――――!! 副長×艦長!?」」」

 

 

彼女らの――非常に特殊な――趣味の対象にされた二人の目が、何か汚いものを見るような目に変わる。

普段の業務の時は非常に優秀な三人なのだが、こうなってしまうともう手が付けられない。というか、関わりたくない。

どうして3人が3人とも、このような趣味にどっぷり浸かってしまっているのだろうか。同じ女子同士の会話でも、第三艦橋の5人とは正反対だ。

そしてついに、篠田の口から鉄槌が下る。

 

 

「佐藤、泉宮、庄田。お前ら後で艦内の洗濯物全部担当な」

「「「ええ~~~!? 副長ひど―――い!」」」

「遠山、笹原。お前らは3人を止めなかったから後でパンツ一丁で艦内一周だ。艦長命令だ、拒否は許さん」

「「ええ~~~~~!? 横暴っすよそれ―――!!」」

「あ、それいいかも」

「庄田、お前はいい加減黙れ」

 

 

命のやり取りをしているとは思えない会話が、この瞬間だけは広がっていた。

 

 

「……南部さんも、年をとって丸くなったもんだなぁ」

 

 

かつての南部を知っている赤城が苦笑いしながらぼそりと呟いたが、それが南部に聞かれることは無かった。

 

 

 

 

 

 

同刻   第二戦隊旗艦『ヴィクトリア』艦橋

 

 

第一・第二戦隊が一目散に避退する間に、マヤ型移動要塞は星間連合艦隊の墓場と化した宙域に接近する。

 

 

「第二戦隊、取り舵90度。単縦陣に移行」

 

 

右向きのGがかかって艦が左へ旋回すると、第一艦橋左舷に巨大な鉄色の艦が映り込む。

高さ1キロはあろうかという要塞は真横から見ると、一枚の壁が聳え立っているように見える。

第二戦隊と反航する針路をとる敵移動要塞は、すぐに艦橋からは見えなくなる。メインパネルに視線を戻した。

 

手元のパネルには艦後部に設置されたカメラの映像が映っており、一斉転舵によって再度単縦陣に移行した各艦が、隊列の微調整のためにスラスターを噴かしているのがわかる。

失敗を誤魔化しているような気がして、少々見苦しい。

かつて戦艦が海に浮かんでいたころの艦隊運動は、先行する艦の航跡を綺麗になぞるほどの精密さであったという。

にわか作りの戦隊ということもあるが、やはり錬度の低さというものが艦隊運動に如実に現れていた。

 

 

「第三戦隊より警告。波動砲、発射します!」

 

 

ネガティブに偏っていた意識を引き剥がすように、通信班長が報告を飛ばす。

艦長は慌ててゴーグルをかけるように命じる。

 

その直後、左舷前方下方、ゴーグル越しに青い閃光が目を射抜いた。

8隻のスーパーアンドロメダ級の偶数番艦が、拡散波動砲を発射したのだ。

2本一組の波動バースト流が4筋、追いかけるように敵要塞に迫る。

敵は避ける素振りを見せない。

今度は一斉射目と違って4筋8本が敵要塞の手前で一点に交わり、極大の彼岸花を咲かせた。

要塞を丸ごと包み込むように青い光跡を引いて、散弾が次々とマヤ型要塞を襲う。

 

しかし―――

 

 

 

「なっ……!?」

「波動砲が――――効かない!?」

「まさか、無効化されたの……?」

 

 

次々に唖然とした声が漏れる。

艦長も、声にこそ出さなかったが眼前で起こった事が信じられなかった。

マヤ型要塞に子弾が命中した瞬間、瀑布が滝壺に落ちた瞬間のように激しく飛沫を上げて跳ね返り、霧散してしまったのだ。

 

子弾が次々と命中しては霧と姿を変え、マヤ型要塞の後背を煙だらけにする。

地球防衛軍最強の兵器を受けてもどこ吹く風、要塞は悠然として直進を続けた。

まもなく、煙と化したタキオン粒子を靡かせた要塞が、鉄色の艦体を薄灰色に染めて残骸だらけの宙域に到達する。

既に波動バリアは効果を失って消えてしまっていた。

 

 

「レーダーが、敵要塞の航跡に多数のエネルギー―反応を確認!」

「……煙で何も見えないな」

「どういうこと? 機雷を撒かれたとでもいうの?」

「いえ、違います! これは……艦載機です! 敵要塞から、艦載機が射出されています!」

 

 

パネルがチェンジし、赤外線によるスキャンがされる。

確かに、艦の後背部から次々に打ち出されている物があった。シルエットは、ヤマトからデータで送られて判明しているSUSの爆撃機に間違いなかった。

 

 

「なんてこと……第二戦隊、ソリッド隊形! 本艦を中心に防空陣を形成するのよ! 対空戦闘用意、各個に対空戦闘始め!」

 

 

慌てて、対空防御に適した陣形への変更を命じる。

スラスターが煌めいて艦が減速し、後続艦がそれぞれの位置へと移動していく。

二番艦が本艦の七時半上方へ、三番艦が二時半下方。四番艦が四時半上方、五番艦が十時半下方。六番艦は五番艦の真上。七番艦は四番艦の真下。八番艦が三番艦の真上にそれぞれ占位する。本来なら九番艦が二番艦の真下に就くのだが、残念ながら第二戦隊は八隻しかいない。

 

しかし、この陣形変更がまずかった。

相次ぐ陣形変更の為に艦隊が減速している間に、SUS艦載機が攻撃態勢を整えて煙から飛び出して来たのだ。

戦斧のような造形の漆黒の機体が、艦隊の左舷下方から、駆けあがるように迫ってくる。

対空ミサイルの発射準備はまだ整っていない。

艦隊の左側に向かっている3艦が独断で、艦橋下の無砲身パルスレーザーの射界に敵を収めようと、艦体を左に傾ける。

しかし、この行動は所定位置に移動中の艦を直進に走らせてしまい、密集隊形になるはずの艦隊が逆に拡散していってしまう。

 

 

「まずい。このままでは……」

 

 

艦長は先の護衛戦の悪夢を思い出す。

あの戦いは、陣形形成ができていない艦隊がまともな戦闘ができないことを、身を以て知った。

前後左右上下の6方向から敵機が三次元に襲ってくる宇宙空間の対空戦闘は、全方向に対応できる陣形でないとあっというまに防空網の隙を突かれてしまう。

ただでさえ第二戦隊は九番艦が欠けていて対空火力が不足しているのに、このまま各艦が孤立してしまったら、各個撃破されてしまう。

 

 

「紫雲隊、吶喊します!」

 

 

レーダー班の報告に、艦長ははっとして手元のディスプレイを見る。

敵艦載機隊の真横から、味方のアイコンが高速で迫っていた。

 

 

 

 

 

【推奨BGM:「宇宙戦艦ヤマト完結編」より《FIGHT!コスモタイガーⅡ》】

 

 

第二戦隊の戦術空中哨戒を担当していたのは、加藤四郎率いる紫雲20機からなるファルコン隊だった。

 

 

「ファルコン1より各機へ。全機、攻撃開始! エレメントを崩すなよ!」

『了解!!』

 

 

マイクに声を叩き付けるようにして、加藤は命令を下す。

揮下の18機が、攻撃開始の命を受けて、2機一組になって左右に散開する。

自機の左後方には、自分とエレメントを組む2番機だけが残った。

 

 

「行くぞ高岡! ついてこい!」

『Roger that!』

 

 

スロットルを一気に押し上げ、ミリタリーレベルにまで加速する。

速度計の数値がめまぐるしく表記を変えていくのを視界に入れつつ、加藤は左から右に通り過ぎようとする敵艦載機をにらみつけた。

黒を基調としたカラーに、赤のスリットが鈍く光る。SUSの爆撃機に間違いなかった。

航空力学を無視したデザイン。宇宙空間ならともかく、ヤマトの報告によると、この爆撃機はアマール首都を空襲する為に大気圏内を飛翔していたというから驚きだ。ヤマトの対空ミサイルであっさりと殲滅されたのも納得のいく話だ。

第二戦隊へ向かう機数は30~40機程度。数としてはこちらの方が圧倒的に不利だが、魚雷を投下して身軽になった紫雲の敵ではないと確信していた。

 

20機の紫雲は2機ずつウェルデッド・ウィングと呼ばれる密集隊形を成しつつ、一心不乱に敵機に迫る。

遅ればせながらこちらの存在に気づいたのであろう、敵の集団に乱れが生じる。集団の前半分が機体を翻してくる。

アマールからもたらされた情報によると、SUSの航空機も地球防衛軍と同様に、戦闘機と爆撃機の機体性能上の区分はあまりないらしい。つまり、見分けこそつかないが、こちらの迎撃に向かってくる機体は護衛戦闘機という事になる。

旋回を終えたSUS戦闘機が、真正面から向き合う。

互いの戦闘機が、正々堂々と槍を繰り出す形になった。

 

 

「各機、向かってくる戦闘機にはミサイルで早々に御帰り願え! 一刻も早く爆撃機隊にとりつくぞ!」

『了解!』

 

 

HUDの中を、ターゲット・ピパーが敵を求めてフラフラと動き回る。

ピパーが敵と重なった瞬間、target lockの表示と共にピパーが敵機にしっかりと張り付く。

 

 

「ターゲット、ロック。ミサイル発射!」

 

 

加藤は握っている操縦桿の頂部、黒いボタンを2度、しっかりと押した。

その刹那、折りたたまれた主翼からコクピットに僅かな振動が伝わる。

ロケットに点火されたミサイルがキャノピーの上をあっという間に通り過ぎ、安定翼を出してフルスピードで機体を離れたのだ。

白煙を引いて、三角柱の形をした2発のミサイルが飛んでいく。

 

 

「発射! 発射! 11時から1時方向にミサイルの発射を多数確認!」

 

 

高岡がひきつった声で叫ぶ。

敵も、ノズルの両脇から杭のような形状をしたミサイルを放ってきたのだ。

互いの殺意が具現化したミサイルがすれ違う。

ミサイルを撃った直後、俺は操縦桿を勢いよく左へ倒した。

翼端のスラスターが煌めくと、突きあげられるように右翼が跳ね上がり、左翼がアマールの青い海を指す。

倒した右手を少し戻しつつ、手前に引く動きも加える。操縦桿を左手前に引く格好だ。

 

 

ヴ――ッ    ヴ――ッ   ヴ――ッ  ヴ――ッ ヴ――ッ、ヴ――ッ、ヴ―ッ、ブ―ッ、

 

 

機体は鋭い動きで左上方へと旋回し続ける。いわゆる、バレルロールと呼ばれる戦術空中機動だ。

キャノピーの天井越しにアマールの雲が見えた瞬間、機体の20メートルほど左を白煙が通り過ぎていった。

敵のミサイルは、数瞬前まで自分がいたところを貫いたのだ。

バレルロールを中止し、その場でのロールを行って態勢を整える。機体の進行方向は先程より20度ほど左にずれていた。

自分が放ったミサイルの行く末を確認するために、一瞬だけ視線を手前のディスプレイに移した。

自機から見て30度の方角、敵機が左旋回して逃げようとしているのをミサイルがターゲットの進路を予測して最短距離で追尾している。

視線と機体を敵機の方へ向けると、今まさに戦闘機が被弾するところだった。

ノズル部分に立て続けにミサイルが命中する。

被弾箇所から破片を大量にばら撒きながら、機体カラーにそっくりな黒煙と炎を振り乱して敵機は回転する。爆散とまではいかなかったが、無力化できたことは間違いないだろう。

 

 

ヴ―――ッ、ヴ――ッ、ヴ―ッ、ヴ―ッ、ヴッ、ヴッ、ヴヴヴヴヴヴ――ッ!!

 

 

唐突に緊急警報インジケーターが点滅し、警報音が耳をつんざく。

反射的に湧き上がる恐怖心とともに正面を向くと、既にミサイルが眼前に迫っていた。

 

 

「…………ッ!!」

 

 

避けるのは無理と直感的に判断し、咄嗟に加藤は右手の人差し指を強く引く。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

機首と胴体に搭載された8門の無砲身パルスレーザーと主翼端の6門の長砲身パルスレーザーが、地吹雪さながら猛烈にミサイルに襲いかかる。

敵が放った鋼鉄の杭が視界いっぱいに広がったところで、大小14門の火箭に絡めとられたミサイルが爆散した。

機関砲を撃ち続けながら煙や破片を突っ切ると、黒い機体が2つ、射線を避けるように上昇するのが見えた。

ミサイルを撃ってきたのはあいつか。至近距離から撃ってきたから、警報が遅れたのだろう。

持ち前の旋回性能をフル活用して、こちらも発砲しながら急上昇をかける。

真上からのしかかるGに歯を食いしばりつつ、敵機を追い求めて操縦桿を微調整する。

縦に薙いだビーム光が、宇宙をはためく旗となって顕現した。

遅れて上昇していた二番機のどてっ腹に、これでもかというくらいに青い焔が突き刺さった。

 

 

「ファルコン2、ミサイル発射!」

 

 

オーバーキルで文字通り木っ端微塵に砕け散った敵2番機を尻目にそのまま1番機に狙いを移そうとしたところで、ウィングマンを務める高岡の声が聞こえる。

自機の頭上を通り過ぎていったミサイルが曲がりくねった白煙の柱を靡かせながら、敵機のコクピットを下からアッパーカットのように貫いた。

 

 

「ファルコン2、1機撃墜」

「ふぅ―――――、ファルコン1、2機撃墜」

 

 

咄嗟に止めていた息をゆっくりと吐き出し、かつては幾度となく言ってきた言葉をマイクに吹きこむ。

パイロットとしては何年も前に第一線を退いていたが、久々に戦闘の最前線に躍り出ると、昔のカンが蘇ってくる。

 

 

『ファルコン3、1機撃墜!』

『ファルコン11、2機撃墜! 敵爆撃機へ向かいます!』

 

 

インコムから味方機からも戦果が報告される。

勿論、良い報告だけが入ってくるわけでもない。

 

『ファルコン5、ミサイル外れた、インファイトに移行する! 村田、援護しろ、シザーズだ!』

『ファルコン6、コピー』

『2機に食いつかれている! 7時方向から2機だ!』

「待ってろ、今片付けてやる!」

 

 

互いにミサイルを当てられなかったコスモパルサーと敵機は、絡み合うように近接戦闘へと移行する。

 

 

『メーデーメーデー! ファルコン4、左翼にミサイル被弾! 操縦不能!』

『脱出しろ、大池!』

『ダメです! 機体の回転が止まらない!』

『このままだと大気圏に引き込まれるぞ! いいからシュートしろ!』

『い、行きます! うわああああぁぁぁ!!!』

 

 

ミサイルを避けきれなかった紫雲が、翼をもがれた鳥がもがくように不規則な回転をしながら戦場から離れていく。

大池が無事脱出したか確認したかったが、細長いキャノピーの視界からすぐに外れてしまう。

部下の安否が気になるが、今は後ろを振り向いていられない。

紫雲隊を突きぬけた敵編隊は、四方八方に分散して旋回していた。SUS戦闘機のスリットから漏れる赤い光が、漆黒の宇宙に残像を残している。

敵護衛戦闘機の防衛網を突破した以上、すれ違った戦闘機が旋回して背後から迫ってくる前に、第二戦隊に襲いかかる敵爆撃機を1機でも多く、一瞬でも早く落さなければならない。

 

レーダースクリーンを確認する。

針路10度に敵爆撃機が21機。パルスレーザーの射程にはまだまだ遠い。

敵に最短距離で迫るべく、機体を気持ち手前に引きつけた。




復活篇本編ではろくに活躍しなかった、マヤ型中型移動要塞が再登場。
あれだけの貫録と重武装なのだからもうちょっと活躍してもよかったんじゃないかと思うのは私だけじゃないはず。
同様に、スーパーアンドロメダ級戦艦の専用艦載機という謎設定のうえにお蔵入りした、コスモパルサーの発展系である紫雲もイラスト付きで登場。絵の下手さはキニスルナ。

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