宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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今年最後の投稿です


第六話

2206年6月29日  06時45分 アジア洲日本国神奈川県内 藤堂家邸宅

 

 

昨日の疲れを残さず、今朝も藤堂平九郎はすっきりと目覚めることが出来た。

地球防衛軍司令長官を勇退してからは多忙ゆえの不規則な生活も改まり、6時間睡眠を維持できている。

早々に身支度を整え、妻が作ってくれた朝食を食べる。

今朝の献立は、合成モノの鯵の干物に群馬の知り合いから取り寄せた天然モノのキュウリの漬物、豆腐の味噌汁。

これでもまだ裕福な方で、一般家庭にはまだまだ自然栽培の野菜は届かない。

名古屋の居酒屋で食べた鯖の味噌煮が、懐かしく思う。

食後に新聞とテレビで最新の情報をチェックすると、襖を開けて書斎に入った。

 

退役後に建てた純和風のこの家は、復興が進み超高層ビルが乱立する横浜駅周辺から車で20分の位置にある。

戦乱前にも増して人口が集中する都市部に反比例して、郊外は住宅街どころか空き地が目立つ。おかげで、超近代化が進む都会の波に巻き込まれずに、自分の好みを反映させた邸宅を拵える事が出来た。

書斎には木製風のデスクに一台のデスクトップパソコン。デスクの上には大量の書類がうず高く積まれており、その左右に設けた棚には多種多様の書籍とストックしたファイルが所狭しと敷き詰められている。

デスクの前のチェアに腰かけると、頭の中は切り替わる。

今朝の新聞の社会面には、懸案だった第三次整備計画の結末が載っていた。

私のところにはいち早くメールで知らされていたのだが、下馬評通り主力戦艦が中国、アンドロメダⅢがオーストラリアの案が採用となった。

ただし、中国案には構造上の欠陥や設計ミスがいくつも見受けられたため、最終的に設計が完了するにはまだまだ時間がかかるようだ。

普通に考えれば、欠陥やらミスがこれほど多い設計図などティッシュ代わりにもならないと思う。

それを採用するということは……、何かしらの政治が行われたという事なのだろう。

新聞に載っていた、両戦艦の完成予想CGを思い出す。

中国の船はやはりというべきか、従来の主力戦艦に採用されていた船形船体の特徴を残しつつも、随所に旧東側陣営の設計思想を感じさせる。

オーストラリアが設計したアンドロメダⅢ級も元英連邦だけあって、歴代アンドロメダ級の名残を強く残しているもののイギリスのアークロイヤル級戦艦にどことなく雰囲気が似ている。

これひとつ見ても、地球連邦の実態が垣間見えるというものだ。

 

ため息交じりにチェアに深く身を沈めると、ひじ掛けに肘を置いたまま両手を組み、瞼を閉じて黙考する。

次に頭に浮かぶのは、今月上旬の事。

名古屋に出向いて、造船側の人間と技術局の人間を交えての話し合いをした際に浮かびあがった、宇宙戦艦ヤマトの特徴、そして欠点。

いざ真剣に考えてみると、意外にもヤマトは他の船とあまり変わりない――異様に対空攻撃力と装甲が優れているという点はあるが――普通の宇宙戦艦だった。

同型艦がいないため艦隊編成の際には扱いに困り、太陽系外周艦隊の旗艦の身に甘んじていたフネ。

戦闘艦としてよりも、調査船として単身で太陽系の外に飛ばされることが多かったフネ。

ガミラス、暗黒星団帝国、ディンギル帝国といった強大な星間国家を単艦で滅ぼした、史上最強にして宇宙に名を轟かせる武勲艦。

使い勝手の悪さと反比例する大戦果は、ヤマトに常に付いて回る、大きな疑問点だ。

 

普段持ち歩いている鞄を取り、中から取り出したメモ帳を開く。

開くのは最後のページ、話し合いを書き纏めた箇条書き。

わずか4年の命ながら地球防衛軍史上最も過酷な戦場を駆け抜けたヤマトは戦闘詳報が豊富で、映像と戦闘詳報を照らし合わせれば、素人でもそれなりに長所と欠点と言うものは見えてくる。

篠田君の場合、ある程度あたりをつけて資料を借り受けていたようで、資料室の連中のように全ての航海日誌を一日ごとに全て検証したわけではないらしい。

それゆえ少々正確さには欠けるが、今の段階では印象論で話を進めても問題は無いだろう。

映像を見た篠田君、艦の設計に携わった飯沼、かつての乗組員だった真田君の議論の中では、以下のような論点が挙がっている。

まず、火器の配置が大和のそれを踏襲している所為で、三次元戦闘に不向きになっている。

対空パルスレーザー群は両舷上部にあるため、前後および艦底部全般からの空襲には弱い。

重装甲と操艦次第で欠点は克服できるが、艦隊運動を前提とした艦隊戦では土台無理な話である。

次に、第三艦橋が貧弱過ぎる。

ミサイルの直撃にも耐える強度を持つ上部艦橋に比べ、艦底にぶら下がるように設置されている第三艦橋は過去幾度と無く破壊、或いは脱落している。

壊れやすい事自体は、他の部分と異なり宇宙戦艦への改装に伴い新造された部分で大和の装甲を使っていない事が理由なのだが、そもそも艦底部を敵の攻撃が擦過していったり、酸性の海に沈んだりと、第三艦橋は何かと「運が無い」。

その割には艦橋として使われた事はあまりなく、真田君の話では専らレーダー類を使っての下方警戒に使われていたそうだ。

飯沼は無くても困らないんじゃないかと言っていたが……こればかりは長らく前線を退いた私にはわからない。現場の意見を尊重しよう。

艦載機発進口についても、「離着艦の方法が危険すぎるのではないか」と篠田君から疑問が出た。

艦底部の狭いハッチに頭から突っ込んでいく方法は、どう考えても危険すぎるとのことだ。

とはいえ飯沼が言うには、ヤマトが艦尾低部に艦載機関係の設備を配置したのには、やむを得ない訳があったという。そこしか、スペースが無かったのだ。

宇宙空母の場合、艦載機は後部飛行甲板から発進する。

しかし、ヤマトには第三主砲があるため後部にそれだけのスペースをとれない。

そこで、波動エンジンの下に空いた、かつては操舵室があった部分に艦載機格納庫とハッチを設けたのだ。

純粋に戦艦を建造するなら、究極的には艦載機は必要ない。現に、第二・第三世代の主力戦艦は艦載機運営用の大型艦載機発進用ハッチを設置していない。

篠田君の言いたいことも分かるが、それなら「対艦攻撃能力も持つ空母」であるべきで、「艦載機運用能力を持つ戦艦」である必然は無いだろう。

 

ペラリとページを捲る。

ページの頭に書かれているのは、煙突ミサイルの是非についてだった。

煙突型VLSそのものについては、2201年段階で既に時代遅れとされている。

宇宙空間におけるミサイルの機動性が向上したため、艦側面のVLSと艦橋前方のミサイル発射機で十分全周囲を網羅できるようになったのだ。

とはいえヤマトは一斉投射量を確保するために、また時間的余裕の無さからも撤去されずに残り続けた。

前回の話し合いの場では、上方への発射管の確保という点では異論をはさむ者はいなかった。議題は駆動装置の発射機にするかVLSにするか、VLSにするなら煙突型にするのか他の形にするか、だったのである。

次にメモされているのは、戦艦の顔である艦橋構造物の問題。

例のごとく、ヤマトの艦橋構造物は大和を参考に造られている。

他の軍艦よりも巨大に作られているそれは、古の城の天守閣の如く。艦長室下部から左右に張り出したコスモレーダーは簪の如し。

それは後の第二世代型主力戦艦やパトロール艦にも継承されている。

対して、アンドロメダⅠ~Ⅲ級は第一艦橋上部に巨大なフェイズド・アレイ・コスモレーダーを装備している。

構造物もシンプルな外見で、洗練された現代的なデザインである。

こうしたデザインの違いは設計した国の御国柄も大いに関係しているが、設計に際して量産性を重視したという事情でもある。

ヤマトは第一・第二艦橋、さらには艦長室までをひとつの構造物内にまとめて配置しているため、艦橋の司令塔としての機能は非常に高いものとなっている。

その反面、その体積――裏を返せば被弾面積ということでもある――は他艦よりも圧倒的に大きい。

他方、アンドロメダはその多くをコンピュータに任せている事により第一艦橋しかなく、結果として背が低くなっている。

第2世代以降は再び有人化の流れに傾きつつあるようだが、それでもヤマトほど立派な高楼はない。

さすがにヤマトのそれを丸々継承する事は非現実的だが、ではどのような艦橋を設計するのか。これもまた、設計側と現場の意見をすり合わせる必要があるだろう。

最後に書かれているのは、船体そのものの形状について。

これは欠点ではないが、着水した際には水上艦の形をしたヤマトの方が水上航行能力に優れている、というものだ。

とはいえ、宇宙での運用を前提としている宇宙戦艦が水上航行能力を考慮する必要は殆ど無いので、模倣する必要のない特徴であると言える。

 

4人の議論で、これだけ多くの欠点や修正点が出た。細かい問題点はまだまだ挙がるのだろうが、あとは研究所の優秀な職員達が設計図とにらめっこをするだけである。

 

 

「……まだ、足りないか」

 

 

一度は満足するものの、思いなおす。

我々が考える第四世代型宇宙戦艦は、ヤマトの戦訓を余すことなく反映できるように設計技師に便宜を図ったフネを目指している。

しかし、ヤマトの戦訓といっても技術班班長兼副艦長と直接戦闘に参加した事のない前地球防衛軍司令長官、それに造船技官2人の4人が考えただけではやはり不完全なのだ。

真田君には悪いが、せめてもう一人か二人、実際に乗艦していた人の意見が欲しい。

 

机の脚元にある引き出しを開け、一冊のファイルを取りだした。

地球防衛軍日本支部(旧陸海空自衛隊)の職員・隊員名簿から、ヤマトの元乗組員のページだけをバインダーにファイルしなおしたものだ。

バインダーから特定のページだけを抜き取り、机の上に並べる。主に第一艦橋で勤務していた戦士達だ。

艦長代理、ヤマト沈没時には戦闘班班長だった古代進と生活班班長の森雪の夫妻は、雪の懐妊を機に第一線を退いた。

雪は子育ての真っ最中、進は宇宙戦士訓練学校の高等課程で総合演習を専門とした講師を勤めている。

卒業試験を兼ねる総合演習を監督するだけあってその訓練は苛烈で、訓練生が卒業する前に過労で倒れてしまうのではないかと注意を受けるほどだという。

戦闘班副班長の南部康雄は退役し、実家の南部重工に入社した。

しかし激戦を通して熱血漢に成長していった彼にはデスクワーク漬けの日々は相に合わないらしく、たまに射撃実験場でコスモガンを撃ってストレス発散をしているらしい。

航海班副班長の太田健二郎は宇宙戦士訓練学校に入り直し、宇宙船操縦士の資格を取得。

現在は木星防衛艦隊所属、第12水雷戦隊旗艦宇宙巡洋艦『あさま』の航海班班長として操縦席に座っている。

ちなみに『あさま』は第一世代の主力戦艦に近い大きさと火力を持っていて、昔ならば「巡洋戦艦」と呼ばれているであろう船である。

機関長の山崎奨は一年間の長期休暇の後、日本で造られたアンドロメダⅡ級戦艦『しゅんらん』の機関長に転属となった。

かつて徳川太助にしたように、機関班の後輩を厳しく扱いている。

その徳川太助は、第二世代型駆逐艦『あさかぜ』の機関員に転任した。

『あさかぜ』は『しゅんらん』とともに第7艦隊に配属され、太陽系外周で敵対的勢力の監視と宇宙海賊の取り締まりの任務に従事している。

通信班班長の相原義一は、ふたたび防衛軍司令本部の下部組織である情報本部電波部に配属された。

孫娘で元秘書の晶子との交際もどうやら順調らしく、同じ横浜勤務という事で頻繁に会っているようだ。

 

 

「……よし、この人物しかなかろう」

 

 

そう呟いて懐から携帯電話を取り出し、目当ての人物のファイルに記されている電話番号を入力した。




12月も半ばから投稿を始めた本作ですが、読んでいただいた方々には感謝の念に堪えません。
また来年もよろしくお願いいたします。

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