俺は寮に帰るなり、自室には戻らず鷲崎の部屋をノックする。あいつはこの時間帯なら確かバイトは入ってなかったから部屋にいるはずだ。
「ほーい。誰――」
「くたばれクソがああああっ!!!」
ドアが開き、鷲崎の顔が見えた瞬間にフルスイングで拳を見舞う。
「ぶろぱっ!?」
「じゃあな」
「待て待て待て!! 二見、いきなり何するんだ!」
「やかましい! 5時間目を見やがれ!」
こいつのせいで俺がどんだけ酷い目にあったか……。これくらいは当然の権利と言えよう。
「あ? 意味わかんねーって! 何で俺いきなり殴られないといけないんだよ!」
「……あのな、お前は夢遊病でいきなり俺に殴りかかって来たんだ。だから仕返しに来た」
う~ん……さすがにこんなんで信じるバカなんていないか。他に何か……
「そうか……。それなら仕方ないか。悪かったな記憶ないけど殴りかかって」
信じちまったよこのおバカさん。
「おう。じゃ、また明日な」
「ああ」
……ま、いっか。部屋に戻ろう。
「ただいまー」
「おー、おかえり。今日は遅かったんだな」
出迎えてくれたのはルームメイト兼クラスメイトでもある武村。普段は悪い奴ではないんだけど……。
「ちょっと図書館島に行っててな」
「図書館島に? またなんでさ」
「ああ、知り合いの女子が図書館探検部――」
「女子だと!?」
ああ――やっちまった。こいつは異常に性に目覚めたド変態で、中一の分際でこの部屋にエッチな本を持ってくる。目のやり場に困るからホント止めて欲しい……。んで、中一の癖にたまに女生徒を口説いているどうしようもない奴(成功したと言う話は聞いたことがない)なのだ。当然、女子の話題を出すとアホみたいに食いついてくる。
「待て待て、大事なのは図書館島の――」
「女子以上に大事な話なんてあるか!!」
……もう寝ていいかな? まだ夕方だけど。
「や、いっぱいあるだろ」
「ない! つかお前いつの間に彼女を……!」
「知り合い……じゃないな。友達だよ、友達」
「女の子と友達=彼氏彼女の関係だろおおおおおっ!?」
こいつ、既に末期だ。
「じゃ、俺風呂行ってくるから」
これ以上関わらない方が良いと思い、俺は部屋を出る事に決めた。
「あ、待てよ! 俺も行くぞ」
「お前が入ると風呂がエロくなるから来るんじゃない」
「意味わかんないし!? まぁ、俺が風呂でさっきの続きを聞かせてやるからさ。安心してくれ」
むしろ不安だっつーの。
「止めろ。さもないと殴る蹴るの後に寮の裏側に全裸で放置するぞ」
「……ごめんなさい。今日は止めときます」
……今日は? と、まぁ……そんなバカ話をしているうち、大浴場に着いた。
「あ、そうだ」
そういや更衣室に自販機あったよなぁ……。ノートは持ってきてないから帰る時に買って行くか。
「ん? どうかしたのか?」
「いや、帰りにジュースでも買って行こうかなって思っただけだよ」
「ふーん。なぁ」
「嫌だ」
こいつが次に何を言うかなんてわかり切ってる。いつも趣味に金使うから他人にジュースやら何やら奢らせようとする奴だからな……。
「酷っ! 俺まだ何も言ってないのに……」
「どうせ奢ってくれとか言うつもりだろ?」
「うん」
「さて、さっさと入るか」
武村をスルーして浴場のドアを開く。
「いや~、いつ来ても広いなぁー」
ほんと、大浴場って言葉が相応しいよな。
「おや、二見君じゃないか」
「え? あ、中林君か」
俺に話しかけてきたのは見事な七三分けとシャープな眼鏡が特徴の中林君。彼はホント頭が良いのでテストの時は度々お世話になっていたりする。てか、風呂の中でも眼鏡かけてるのか。
「ここで会うのも珍しいね」
「ま、部屋のがあるから大浴場なんてあんま来ないし」
「はは、確かに。でも僕は毎日この時間にここで入ってるよ。どうも、部屋のは落ち着かなくてね」
「そうなんだ? 俺は気分だからなぁ……」
一応風呂自体は毎日入ってるけど、部屋にもあるしそこまでここは利用しない。広くて気持ちいいけどな。
「それで良いんじゃないか? 僕はこのペースが一番しっくりくるからそうやっているだけだしね」
「そっか」
「ああ。――それより君に言いたい事があるんだが……」
「……うん、言わなくても分かるけど言ってみて」
100%あの事だろうなぁ……。
「それじゃあ遠慮なく。……さっきから浴場を泳ぎ回っている武村君、どうにかならないかい?」
『いやっほ―――い!』
と、泳いでいるバカを見る中林君。
「えっと、桶貸してくれる?」
「分かった」
中林君から桶を受け取り
「あっ、全裸のお姉さんが入ってきた!!」
「なんだって!?」
「沈め!」
奴が食いついた瞬間に桶を被せてお湯に沈める。
「がぼがぼごぼぼぼっ!!??」
「10~、9~、8~」
しっかり10まで数えないとな。体を温めないとこの時期は風邪ひくし。ああ、俺ってなんて親切なんだろうか。
「7~、6~、5~」
「……」
「二見君、ちょっといいかい?」
「4~、ん? どうかした?」
「武村君だが……息しているのかい?」
「そう言われてみれば大人しくなったな」
さすがにやりすぎたか……?
「とりあえず……おい、生きてるか?」
桶を外して変態の生死を確認する。
「ぷはあっ!! おい、二見! 全裸のお姉さんはどこにいるんだ!?」
「さて、中林君。あがるか」
「ああ。そうしよう」
俺達は変態を一人残し、大浴場を出る。浴場から「お姉さーん!!」とか聞こえているが無視だ無視。
「さて、ジュースジュース~」
俺は小銭を出して、自販機へ向かう。
「二見君、あまり無駄遣いは感心しないな」
「違うって。これも部活動なんだよ」
ふと思ったんだけど、卒業までに終わるのだろうか……。ま、あればあるほどいろんな味が楽しめて良いけどさ。
「部活動? ジュースを飲むのがかい?」
「おう。MAHORA不思議ドリンク研究会ってんだ」
「不思議ドリンク……ああ、アレか」
「なんだ、結構知ってる人多いんだな」
もっとマイナーかと思ってた。
「……正直な話、アレを飲むのは辛くないかい?」
「え? なんで? めっちゃ面白いじゃん」
あんな面白い飲み物他にないと思うぞ?
「いや、まぁ……君が良いなら良いのだけど。くれぐれも体には気を付けるんだよ?」
「大丈夫だって。不思議食べ物シリーズじゃない限りな!」
アレだって面白い……だけど! 体に直接クるから嫌なんだよな……。中林君と別れ、自販機の前に立つ。
「んー……お、『塩タントマト(小豆入り)』か。また面白そうなもんが置いてあるじゃん。買いだな」
硬貨を投入し、俺と綾瀬と学園長の分を購入する。ふふ、みんな喜ぶぞ!
※頬を引きつらせながら飲んだ学園長はそれから一時間、お手洗いから出てこなかったとか。
「ふんふんふふーん♪」
「二見ぃいいいいいい!」
「さーって、今日はさっさと寝て明日に備えるかな~」
図書館島じゃ色々あって疲れたし……。
「普通にスルー!?」
「え? あ、お前いたのか」
「大声で呼んだよね? 俺呼んだよねえええ!」
「うるさい黙れ」
やたら顔を近づけてくる武村に裏拳を入れる。
「っ! ~~っ!!」
「おっと、寝る前にドリンクを冷蔵庫にいれとかにゃ」
まー、来週には存在自体忘れてるかもしんねーけど。
「た、頼むから話を聞いてくれ……」
「あ? 3秒以内な」
「お姉さんがいなかった!!」
「……」
よし、寝よう。さっさと部屋帰ってマッハで寝よう。
「あぁっ! 待ってくれよー! ルームメイトだろぉ~~~」
「うるせぇなぁ……あ、そうだ。さっき金髪で胸の大きいお姉さんがお前に話があるって呼んでたぞ」
無論、嘘だ。
「ゑ、マジ? いや~、困っちゃうなぁ~。じゃっ、行ってくるわ!」
「真性のバカだったか……」
俺は部屋に戻り、カギをかけた。
「ドリンクを冷蔵庫に入れてっと。さー、寝るぞ~」
電気を消し、ベッドに潜り込む。
「あ゛~~~~。今日はホンット疲れたぁ……」
まさか臨死体験までするとは思わなかったしなぁ。……今日を思い返すと不幸な思い出しか蘇らない……。ま、でももうあそこに行く事は無いだろうがな! それに行ったとしても奥に進まなきゃ済む話だし。あの罠の数には正直驚いたけど……あれだけの数の罠を図書館探検部はだいたい把握してるんだよな? それはそれですげぇぞ……。俺なら多分、次もひっかかる。
「――ってもうこんな時間かよ。……いい加減寝るか」
明日は朝から新田の国語だしな……。ただでさえ眠くなる授業だってのに睡眠不足の状態で授業受けたりしたら100%寝るに決まってる。そしてそのまま正座コース一直線だ。あれだけは何としても避けたい。
「……あれ? そういやなーんか忘れてるような気が……」
だが、結局思い出せなかったので俺はそのまま夢へと旅立った。――次の日、武村がお姉さんが来なかったとか言って泣いていた。どうやら一晩中待ってたらしい。そして俺が忘れてたのは部屋の鍵を開ける事だった。
はい、今回は2人のオリキャラが登場です。これから暫くはオリキャラ登場の予定はありません。
今現在名前が出ているオリキャラ(主人公を除く):武村・中村・鷲崎
彼らは名字だけです、今の所は。