先ほどの部員の子が言っていた場所で本を読んでいると
「あ、いたいた! おーい!」
「ん?」
パルの声が聞こえたので、本を読むのを止める。
「ったくー、迷子になったかと思ったわよー」
「少々探したですよ。携帯にも出ないですし……」
「え? あれ……無いな。どうも、部屋に忘れたっぽいわ」
いつも入れてるズボンや学ランの内ポケットを探しても無い所を見るとおそらく部屋だ。
「そーなんや?」
「ああ。んで、あそこで待ってても暇だから部員の人にここに案内してもらったってワケ。ところで、例の子は見つけたのか?」
ここまで来て見つからなかったとか言われても困るぞ……。
「ええ、まぁ……。のどか、この人が先ほど言った二見隼人さんです」
「あうあうあう」
綾瀬押されて出てきたのは……。
「あ、さっきの」
「ん? のどかと知り合い?」
「知り合いって言うか、ここに案内してくれた部員さんだなぁ、と」
「へぇ。で、どうだった? のどかの反応は?」
ちなみに、のどかと呼ばれている子はパルの後ろに隠れてしまっている。
「……俺嫌われてる?」
「……やはりですか」
「まぁ、例外は無かったわけか……」
「せやねぇ~」
綾瀬達は俺の回答に納得している様子だが……。
「えっと……どういう事?」
「つまりですね、早い話のどかは男嫌いなんですよ」
「男嫌い?」
そういや男性恐怖症だとか言ってたっけ? でもそれ嫌いとはちがくね?
「そ。だから別に二見君が特別嫌われてるわけじゃないから安心していいって」
おい、笑いながら言う事じゃねえだろ。
「のどかー、いい加減隠れてんと自己紹介くらいしようやー」
今度は近衛さんが押し出す。
「あ、ひぅ、えぅ……」
「えーと……男子中等部1-Cの二見隼人……です」
なんか、こうして自己紹介するのでさえ申し訳なくなってくるほど縮こまっちゃてるんだけど……。
「ほら、のどかも挨拶くらいする!」
「え、えと……み、みみみ宮崎のどかで、でででしゅっ! ~~~~~っ!?」
あ、噛んだ。
「あ、あはは。やっぱりすぐには無理やね~」
「まぁ、分かり切ってた事ではありますが」
「結構イイ線行くと思ったんだけどなぁ~。失敗失敗」
「えーと、とりあえずそろそろ帰っても良い?」
宮崎さん紹介したいだけみたいだったし。そして宮崎さん怯えまくってるし……。
「そうですね。それではまt――」
「いやいやいや! 折角だし図書館探検部の活動に参加しなさいって!」
「……すみません。お願いしますです」
パルの説得は最初から諦めたようだ。
「はは……OK」
「なんや、おもろい事になってきたなぁ~」
「あうぅ……」
そして――
『では、今日の活動を始めます!』
図書館探検部の活動が始まった。
「ところで、俺は何をすれば?」
「そうですね……さすがに二見さんは見学者という立場ですからこれと言ってしてもらう事は無いですよ? ただ――」
「お、なんか面白そうな本発見――おわああああっ!?」
取ろうとした瞬間、槍が降ってきた。
「至る所に罠が仕掛けてあるから気を付けるです」
「うおぅ……忘れてたぜ……」
いや、一応後ろは警戒してたよ? でもまさか、上からなんて思わないじゃんかよ!
「ま、今日は罠の位置を覚えるために見学~って事で良いんじゃない?」
「おお、名案やねハルナ」
「……それってこれからもここに来る事前提の話になってない?」
「え? そりゃ部に入れとは言わないけど来ることはあるかもしんないでしょ?」
「どうだろうなぁ……」
こんな怖い場所出来れば近寄りたくないんだが……。
「あ、そこ気を付けてくださいです」
「へ?」
綾瀬がそう言った瞬間、宙に浮く感じを覚えた。
「わああああっ!?」
落ちる寸前に必死で本棚に掴まった。
「あ、そこは……」
「え? なああああっ!?」
今度は本の隙間からナイフみたいなものが飛び出して来た。
「死ぬ! これ死ぬうううううぅっ!!!」
「えーと、この仕掛けは確かこうして……ここはこう……」
俺が叫んでいる間、綾瀬が何やら本棚の周りを弄っていて……急に仕掛けが停止した。
「た、助かった……?」
「ええ。仕掛けの止め方は教わってますので」
「それにしても……スゴイ見事に罠にハマったわね」
「だ、だだだだ大丈夫ですかー……?」
かなりか細い声だが宮崎さんまで心配してくれる。……さっきの俺、客観的に見ても相当ヤバかったんだろうなぁ……。
だが、俺の苦難はこれで終わらなかった。
「あ、そこは――」
「? ぎゃああああああっ!!!???」
ちょっと本を見ようと思って近づいたら下から格子状に剣が突き出して来たり
「そこを踏んでしまうと――」
「ごげぷっ!!!???」
何かスイッチらしきものを踏んだと思った瞬間に、頭に金タライが落ちてきたり
「それには触らない方がええよー」
「え? ぼぎゃあああああああっ!!??」
ちょっと疲れたので壁に寄り掛かると電流が走って痺れたり
「そ、そそそそこには近づかない方が…………」
「ん? あぢゃあああああああああっ!!!!!?????」
喉が渇いたので自販機に行こうとしたら、四方向から炎が噴射されたり…………本当に散々としか言いようがないほど酷い目に遭った。
「もういや……もうおウチに帰りたい……死ぬ、これ以上はマジで死ぬ……」
「あそこまで行くと最早何かに呪われてるですね……」
「さすがにあんだけの事が起こるとはねぇ……」
「ほんまに」
「…………」
でも……あれだけの事が起きても生きてるって事はある意味幸運なんだろうか? 全身ズタボロだけど……。
「とりあえず、これを飲んで落ち着くです」
「うげっ、夕映それって……」
「MAHORA不思議ドリンク研究会の活動の一環です」
「で、でも練乳ミートソース味て書いてあんねんけど……」
「の、のののの飲めるのー……?」
ほう? 面白そうだな。
「おう、サンキュ」
「うわー……マジで飲んでるし」
「ど、どんな味するん?」
「ん? 舌触りはぬらっとしてて、練乳の甘さがミートソースと全く絡まり合う事は無く、それぞれ個性を出しまくった味がするな。喉越しはぬるっとしてて非常に飲みにくい」
ふむ、学園長の分も買っておくか。
※後日、喜んで飲んだ学園長は腹痛で倒れたそうな。
「……それ飲み物って言うの?」
「何を言うですかハルナ。まごう事なき飲み物じゃないですか」
「だよな。お前らも飲んでみるか?」
「「「遠慮しとく」」」
あの宮崎さんまでもがきっぱりと言い切った。
「そうか? 別に不味くは無いのになぁ」
「です」
俺達は顔を見合わせてそう言う。
「あんたらの舌に合わせてたらこっちが保たないっつーの!」
「あ、あはは~」
「あうあう……」
「よし、さっそくノートに記入しておこう」
綾瀬に渡された『MAHORA不思議ドリンクメニュー表』と書かれたノートに先ほどの練乳ミートソース味の感想と置いてあった場所を書いておく。
「ふふ、この調子でコンプリートしましょう!」
「おうよ!」
「……おかしい、このアタシがツッコミに回るなんて……」
「ま、まぁそう言う日もあるんとちゃう?」
「う、うううんー……」
とりあえず失礼な事を言われている気がする
「ま、とりあえず先行こうぜっ!」
「あれ、もう大丈夫なの?」
「その……なんだ。もう諦めた」
きっと、今日はこういう日なんだ。だったら諦めてどんどん先に行こう!
「おお~、開き直った」
「………」
「それなら早速出発するですか」
「おう!」
――――俺は、この日ほど自分のバカさ加減を後悔した事は無いだろう。
図書館島、怖い……。あそこ何も知らない人間が一人で入ったらほぼ確実に還らぬ人になりますよね……。当時はそんな事を思いながら執筆していました。