「でさー、これが俺のアーティファクトって奴なんだけど」
「ほほぅ、4つの瓶にそれぞれ文字が書かれているのですね」
「そうそう。で、混ぜると不思議ドリンクが出来るんだよ」
「なぬですと!? それは素晴らしいですが……何かこう、物足りないですね」
「だよなぁ? やっぱり不思議ドリンクは自分の足で探してこそだと俺は思うんだよ」
その時の方が喜びも大きいし、それにこれだとMAHORA印じゃないからMAHORAドリンクのコンプとは関係ないし。
「そうですね。MAHORAドリンクと関係もないですし……」
「まぁ、要するにドーピングだってエヴァが言ってた」
「なるほど。つまり弱々な二見さんが唯一強くなれる方法と言う訳で――いふぁいいふぁい! す、すみまふぇん、つい口がふふぇっふぇ!」
「弱くて悪かったなこんちくしょう! つかそれはお前だって一緒だろうが!」
う~ん、相変わらず柔らかいな綾瀬の頬は! 良く伸びる良く伸びる!
「ぬぐぐ、ヒリヒリするです……。まぁ人の事を言えないのは認めるですが、私はあれからネギ先生に初心者用教本をお借りして毎日魔法の練習をしているですよ?」
「なん……だと? 俺は学祭実行委員に(強制的に)なったから中々時間が……」
「ふふん、どうやら魔法を習得するのは私が先になりそうですね?」
「ド、ドーピング状態ならもう使えるもんね!」
「いや、ダメでしょうそれは」
ですよねー。で、でもあれは俺のアーティファクトなんだぞ! それ即ち俺の力と言っても過言じゃなくね?
「と言うか、そもそもネギ君と会う機会なんてない……いや、あるわ」
「どっちですか!?」
「いや、ほら、アーティファクトの練習でエヴァの別荘行った時とかに会うじゃん? まぁ学祭近づいてきたらどうなるか分かんねーけど」
「ああ、そう言う事ですか。そちらは麻帆良祭、何をするのですか?」
「……聞かないでくれ」
グラヒゲ先生がMK5だったんだぞ……青筋とか初めて見た。しかもクラスの奴ら、女装喫茶でノリノリとかもう完全に新しい扉開いてるよな……? 中林君ですらノリノリて訳分かんねぇよ……ねぇ、修学旅行で絶対何かあったよね?
「? まぁ、別に無理にとは言いませんが……」
「フタミン、『女装喫茶』のメニューについてなんだが、やはり面白味を出すべきだろうか?」
「お前一番最悪なタイミングで何言ってくれてんの!?」
「……い、いえ、私は別に二見さん達が例えどの様な性癖をお持ちでも決して差別は致しませんですよ? ええ、しませんとも!」
「じゃあわざとらしく距離取るの止めてくれます!?」
「……お兄ちゃん、いた」
「リアさんダメです。もう貴方の知っている兄は消え去りました」
「待てやぁああああああ!!」
まだリアには一切話してないと言うのに! 話したらどんな反応されるかと思うと……
「……?」
「ああ、そう言えばリア君にはまだ話していなかったね。僕らのクラスは『女装喫茶』をやる事になったんだよ」
「……女装? お兄ちゃんが……お姉ちゃん?」
「違うからな!? 格好だけでしっかりお兄ちゃんですよ!?」
「……なら、大丈夫」
最近、リアが抱きついてくる事が多い。多分ヘルマンが襲撃して来た日からかな? 悪魔だなんだの話ってそんなに大事だったのかねぇ。
「まぁ、二見さんの性癖云々は置いておくとして、せっかく4人揃いましたし、麻帆良祭における研究会の活動をお伝えします」
「あー、そういや俺達何やるつもりなんだ? 人数増えたし、去年と違う事でもやるか?」
「ふむ、ドリンクの展覧……は無理だし、レポート……は地味だね」
「……ドリンク探求ツアー?」
「いえ、せっかくの4人なので去年と同じく学祭限定ドリンクを収集しようかと思っているです」
「学祭限定ドリンク、だって?」
「……ドキがムネムネする」
「おい、誰だ!! リアに変な言葉教えた奴は!!」
「ハルナですね」
あ、あの野郎……! 今度会ったら言ってやらねば!!
「俺からも言っておくけどさ? 綾瀬の方からもパルに釘刺しといてくれよ。リアに変な事教えるなって」
「いえ、これでもちゃんと止めたですよ……? 少し目を離した隙に……」
「リア、パルの言う事は話半分に聞いといて良いからな? お兄ちゃんとの約束だぞ?」
「……うん。約束、する。ハルナの言う事は……適当に聞き流す」
「まぁ時と場合によるけど、基本的にはその方針で」
「……分かった」
「で、学祭限定のドリンクなんてあるのかい?」
興味津々ですねフェイトさん。目の輝きがさっきと全然違うじゃねーか。
「ええ、去年は中々のモノがありましたよ?」
「だな。俺の中ではになるが『塩昆布入りカーニヴァルドリンク~しじみの香り~』なんかは面白かったぜぇ? 塩昆布の味がしつつ香りはしじみ、そしてカーニヴァルの部分が何を指しているのか全く分からず面白かった!」
「ああ、あれは良いモノでしたね。私はやはり『黒酢ミルク・ラテ麻帆良祭ver』ですね。何が麻帆良祭verなのか皆目見当もつかない不思議な味で何とも言えない面白さがあったです」
「へぇ、そんな物もあるんだね。ただワイワイ騒ぐだけの催しかと思っていたけれど」
「フェイト、本番になったらとてもじゃないけどそんな事言ってられないぜ?」
あの賑やかさはホントすげーからな! 確か3日間で大体40万人くらい来るんだったか? 1日辺り10万人以上なんだぜ……? これが盛り上がらない訳がないだろ?
「……楽しみ」
「ふと思ったんだけれど、去年は2人だったのだろう? 一緒に行動していたのかい?」
「ん? ああ、そうなるな。一度はぐれると合流するのに時間がかかるなんてレベルじゃないんだよ……」
「ですね……。一度お手洗いに行った時に一瞬ではぐれましたです」
「合流するのに3時間は余裕でかかった」
あれはダメだ。特に今年はリアがいるし、絶対に目を離さないようにしないと!
「一ついいかな?」
「ん?」
「なんですか?」
「……それ、デート。だと思う」
「「…………へ?」」
「考えてもみたまえ。男女が一緒に祭りを回るのだろう? それを一般的に何と言うんだい?」
「そりゃ、デートだろ」
「デートですね」
そんなもん誰が聞いてもまごう事なきデートだろ。でも、俺達は部活の延長みたいなもんだしなぁ?
「で、君達の性別は?」
「そりゃお前、男に決まってんだろ」
「私も、女性ですね」
「……つまり、去年は……お兄ちゃんとユエ、デートした」
「……えっ」
「へぁっ!?」
フェイトからの質問の後、リアの衝撃的な言葉に思わず顔を見合わせる俺達。そしてその意味を理解して数秒後、綾瀬の顔が真っ赤に染まる。多分、俺の顔も。
「お、おおう……」
「あう……」
「やれやれ、自覚がなかったとは」
「……鈍い」
「あー……でもまぁ、その、あれだ。今になってそう思うと恥ずかしいだけで当時はそんな事考えてもなかったし?」
「ですね! ……アレ? そう言えばドリンクの回し飲みとかしたような……」
「……間接キス」
「「…………oh」」
綾瀬の顔は許容量を超えたのかもうトマトみたいに真っ赤になっている。俺? んなもん決まってんだろ! 恥ずかしすぎて穴があったら入りたいわ!! だって間接キスだぞ!? いくら過ぎた事とは言え、改めて言われると超絶恥ずかしいわ!!
「しかし、アヤセユエは分かるけれど、既に2回キスを経験しているフタミン。君がそこまで狼狽える理由が分からないね。何か特別な事情でもあるのかい?」
「いや、だってそりゃ……なぁ?」
「わ、私に振らないでくださいです!」
「まぁ、とりあえず君達の話は一旦置いておくとしよう」
「出来ればずっと置いておいてくれた方が助かるんだけど」
「そう言う訳にもいかないね。で、当日はどうするんだい? まぁ、2人きりになりたいと言うのなら止めはしないけれど」
「……お兄ちゃんとユエ、らぶらぶ?」
「「全員で! 全員でお願いします!!」」
俺と綾瀬は揃って力強く2人に言う。出ないとガチで2人きりにさせられそうだったからだ。麻帆良祭までまだ2週間以上あるとは言え、この2人……特にフェイトが忘れるとは思えない!
「しかし、固まって動くのは非効率的じゃないかい?」
「麻帆良祭では逆に固まって動いた方が良いんだよ。まぁ、お前の場合は転移魔法があるから良いんだろうけどさ」
「……私も、使える」
「リ、リアさん? お願いですから2人きりにはしないでくださいよ……?」
「……分かった。ユエがそう言うなら……」
「ホッ……」
でもなぁ……どう考えても嫌な予感しかしないんだよなぁ。フェイトは完璧にうちのクラスに毒されてるし、リアは俺にベッタリなのはベッタリなんだけどやはり3-Aに毒されつつあるようで……。
「あ、そうです。図書館探検部・児童文学研究会・哲学研究会でそれぞれ出し物をやるので良かったら見に来てください。これチケットです」
「お、サンキュ」
「ふむ、せっかくだし手が空いたら行ってみるとしよう」
「……絶対行く」
「ふふ、ありがとうございます。えっと……一応二見さんのクラスにも遊びに行きます……ね?」
「……お兄ちゃんの晴れ姿、見に行く」
「晴れ姿じゃないからな!? あと別に来なくていい!」
そう言った瞬間、リアの顔がみるみる曇っていく。……あれ? 俺何かマズイ事言ったか?
「……私が行ったら、迷惑?」
「あ、いや、そう言う訳じゃなくてだな……」
「リアさん、二見さんは単にリアさんに見られるのが恥ずかしいのですよ。なので是非行ってあげてください」
「……ホント?」
「あー……まぁ、そう言う事にしとこう。……がっかりしても知らねーからな」
「二見さんが残念なのは周知の事実ですので大丈夫ですよ」
綾瀬の頬をぐにぐにと引っ張ってやりました。
「だ・れ・が、残念だって?」
「ご、ごめんふぁふぁいれふ!」
「……大丈夫、お兄ちゃんはどんな姿でも、格好良い」
「はは、ありがとうなリア」
「ふむ……」
「ん? どうしたんだフェイト?」
急に何か考え出したみたいだけど……何かあったのか?
「い、痛かったです……」
「……大丈夫?」
「いや、やはり君はそう言う星の元に生まれているのかと思ってね」
「「「?」」」
「まぁ、簡単に現代風で言うとだね。ロリコン乙」
「おいテメェ表出ろ」
「ロリコンがなんだって?」
いきなり後ろからかけられる声。こんな声のかけ方する奴で思い当たる奴なんて……。
「ヘルマン! お前どっから湧いた!!」
「なに、ロリコンと言う単語が聞こえたから文字通り飛んできたんだよ」
「何この変態怖い。そして綾瀬にリア、さりげなく俺の後ろに隠れるなよ……」
「い、いえ……とてもじゃないですが真正面から相対する気にはとても……」
「……ぷいっ」
「つれないね。時にマスターフタミン、麻帆良祭とはどう言うものなのかね。私のクラスの天使達が何やらやたら楽しそうにしていたのだが」
「麻帆良学園に存在する全校の合同イベントだよ。あなたのクラスでは何をするのかな?」
「一応喫茶店と言う事で落ち着いてるいるよ。火を使うの危ないし、軽食程度でそれも午前で閉店だがね。午後からは麻帆良祭をじっくり楽しむ時間に充てて欲しいと思ったのだよ」
へぇ、学祭の事ほぼ知らなかったのにキチンと考えてるんだな。……それだけ聞くと良い先生なんだけどなぁ。あとマスターは止めろ。
「本当の所は?」
「いやぁ、クラスの天使の一部から一緒に回ろうとお願いされてしまってね! その時間を出来るだけ長く取る為だよ!」
「一周回って清々しいですね……」
「……どうしようもない変態」
「ハッ! 誘導尋問かね……?」
自分から地雷原に足突っ込んだだけだろあんたの場合。
「ああ、そうだ思い出した。すらむぃ達は元気かね?」
「忘れてやるなよ……。一応まだ部屋の中で待機してもらってるよ。学祭になったらどんな姿でも仮装としか思われないから出て良いとは言ってるけど」
「ふむ? 別にわざわざそうまでしなくとも実体化したらいいだけではないかね? 彼女らとて仮にも魔法生物だ。それくらいは造作もないハズだよ」
「え、そうなの? フェイト、信憑性は?」
「出来る出来ないで言えば出来るね。でも、仮に出来なくともこの学園で気にする人がいるとは思えないけれど」
「納得」
確かに、今更だけどこの学園で人の見た目気にする奴いねーわな。
「しかし、そうなると二見さんが益々ロリコンになるのでは? 既に手遅れではありますが」
「手遅れじゃねぇ!!」
「何を言うのかねマスター! 君はロリコンの中のロリコン、即ちロリコンマスターではないか!」
「もう黙れよお前!!」
こんな調子で、まともに学祭迎えられるのかねぇ……? 少なくとも、自分のクラスの準備くらいはキチンとしておこう。これでも一応実行委員だし。
~今回の出来事~
・グラヒゲ先生がMK5(マジでキレる5秒前)
・何気に去年に学祭デートを実行していたメインの2人
・主人公はロリコンマスター
はい、驚く程進んでませんね。次回はそれなりに時間軸を進めてみようかと思ってます。思ってるだけです。
原作だと9巻に相当する場面なのですが、まぁ原作との絡みは殆どないです。絡める余地が少ないです。早く麻帆良祭突入したい……!