あの後、神楽坂がハリセン持って飛び出していったが、俺達が想像していたような事はなく、どうやら魔力を補充する為だとか言って血を吸われていただけのようだった。……紛らわしいな!!
「全くお前らは勝手に入ってきおって……。言っておくがな、ここは入ったら丸一日経過するまで出られんぞ」
「えっ、マジで!?」
「……大体、制約付きのが基本」
「ま、そう言う事だ。浦島太郎があるだろう? ここはその逆バージョンだ。ここでの1日は向こうでの1時間しか経過していない。これを使ってぼーやは丸一日修行していたわけだ」
……そりゃ教職+丸一日の修業+献血までしてたらやつれもするわな……ネギ君本当に大丈夫か。
「二見さん、せっかくなのでエヴァンジェリンさんに魔法を教えてもらうのはどうでしょう?」
「え、エヴァに?」
「ええ。ネギ先生にもと考えたのですが、この修業を聞いた後だとさすがに……」
「あー……それは納得。じゃ、ちょっと頃合見て聞いてみっか」
「ですね」
だが、エヴァには面倒だからと一蹴され、結局ネギ君に杖を借りて教わる事になった。
「まぁ、ライター使った方が正直早いんですが初級魔法ですので。プラクテビギ・ナル『火よ灯れ』」
「おっ、スゲェ! 火が付いた!」
「おぉー……!」
「す、すごいですー……!」
「お、面白そ~な事やってるねぇ!」
朝倉達も交え、みんなで魔法の練習する事になりました!
「じゃ、まずは一番ふたみん、いっきまーす! プラクテビギ・ナル『火よ灯れ』!」
「……やはりダメですね」
「ダメアルな」
「魔力容量たったの――」
「まだそのネタ引っ張んのかフェイトぉおおおお!!」
「ま、まぁまぁ。普通は何ヶ月も練習しないと……!」
「だ、だよな! さすがネギ君良い事言うぜ! お礼にこの『地獄巡り風味《八熱》』を上げよう」
「ひっ!?」
おや、急に震え出してどうしたんだネギ君? そんなこの世の終わりみたいな顔までして……
「こらこらこら! ネギに変な物飲まそうとしないでよ!」
「変な物とは失敬な! アスナさん、これは不思議ドリンクと言う何とも面白おかしいドリンクでですね――」
…………
………
……
…
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(ry」
「ア、アスナさーん!?」
「少々熱くなりすぎたですね……申し訳ありませんでした」
「……美味しいのに」
「全くだ。この不思議さが理解出来ないとは残念だよカグラザカアスナ」
「出来なくて良いわよっ!!」
それは勿体無いと思うんだけどなぁ……。こんなに面白い味してるのに。
「どうでも良いが……お前達魔法の練習はせんのか?」
「おお、そう言えばそうだった!」
「では、今度は私が。ネギ先生、魔力とは即ち水や大気・その他万物に含まれるエネルギーの事ですよね?」
「あ、はい! 大体合ってます。そのエネルギーを体内に取り込むイメージで……」
「なるほど、解りました。では、行くです」
そうして何度か深呼吸した末に綾瀬が魔法を唱える。
「プラクテビギ・ナル『火よ灯れ』! …………」
「……」
「……」
「……まぁ、その、元気出せよ」
「何で慰めるですか!? べ、別にいきなり成功するだなんて思ってないです!!」
いや、だって……ねぇ? あそこまで大仰にしておいて結局発動せずって、なんか見てて居た堪れなく……。
「でもさー、プラクテビギナル~って何か恥ずかしいよねー」
「ばっか、そんな事で恥ずかしがってて魔法が使えるか!」
「いやまぁそりゃそうなんだけどさ……てかふたみんテンション高いね」
「魔法使いになるのが今のとこの目標だからな!」
「……それさ、この魔法成功したら一応達成だよね?」
「……」
「……」
「……さて、他の連中はどうなったかなー」
朝倉の言う通りだったー!? 単に魔法使いと言うだけなら今練習してるのが出来たらとりあえずは成功じゃねぇか!!
「おお!? 出来たアル!」
「なんですと!?」
「マジで!?」
そう言うくーふぇの手には確かに火が……ライターの火が……
「ってライターかよ!!」
「紛らわしいですー!!」
「せっかく期待したのにー!」
「あーん、ちょっとしたギャグアルよ~!」
夜まで練習したが、元から出来る人物を除き結局誰1人成功しなかった。やっぱ一日じゃダメなのかねぇ……。
「うーむ……プラクテビギ・ナル『火よ灯れ』……ぬぅ、出ない」
「……お兄ちゃん、寝ないの?」
「あ、悪い起こした?」
別のとこで寝てたはずなのにいつの間に布団に潜り込んで来ていたリアの事は既に今更なので気にしない。……気にしたら負けな気がする。
「……だいじょぶ。お兄ちゃん……無理しても、ダメ」
「んー、そうなんだけどなぁ。やっぱせっかくだし、な?」
「……時間かけたら、出来る。だから、今日はオシマイ。一緒に……寝る」
「分かった、分かったよ! その前にトイレ行ってくる」
「……ん」
全く……甘えん坊と言うか何と言うか。いや、可愛いのは可愛いけどな。……うん、ロリコン発言自重。
「おや?」
何やら物音がしたのでそちらを見ると、なんとネギ君がまだ修業をしていた。おいおい、やりすぎは良くないぞ。俺もリアから言われたばっかだし……ここはいっちょ注意してやるか。
「やっとるねー、少年」
「あ、ふたみんさん!」
「今の雷凄いなー。あれ何て言う魔法?」
「ありゃ上位古代語魔法の一つで『雷の斧』ってんだ。範囲は狭いが詠唱が早いから近接戦の決めには持ってこいってわけだな」
「あはは、まだ威力も低いし無詠唱の魔法の矢も出てないんですけどね……もっと練習しなきゃ!」
「……あのさ、ネギ君。一つ聞いていい?」
「なんでしょう?」
「何でそんなに頑張ってんの? いや、それが悪いとかじゃなくてな? 普通ネギ君くらいの年の子ならもっと遊んでたりしても良いんじゃないかと思ってさ」
やっぱり、ネギ君もリアと同じ様な特別な事情でもあるんだろうか? いや、無かったら単身日本に来て教師なんてやらないか。
「……お話、聞いてもらっても良いですか? アスナさんは勿論、皆さんにも話そうかと思っていた事なんですが……6年前、僕とサウザンドマスター……父さんと出会った時の事を」
「おう。聞かせてもらうぜ。場所を変えるか?」
「あ、いえ、ここで大丈夫ですよ。意識同調の魔法で直接見て頂けたら早いと思いますので」
「OKOK。で、それどうやんの?」
「額と両手を合わせて僕が呪文を唱えると出来ます!」
「なんだ、割と簡単なんだな」
「はは、そうですね。では準備しますね!」
俺とネギ君とじゃ背の高さが違うので丁度同じになるくらいの高さの段差がある所に移動し、ネギ君が魔法陣を書いたらそこに膝立ちになって、額と両手を合わせるとネギ君が魔法を唱え――俺はネギ君の過去を追体験する事になった。
「……おや、ここは? 何か雪も降ってるんですけど」
『ここは僕が6年前住んでいた山間の村ですね』
「声はするのに姿は見えない……それに雪が降ってるのに寒くもない。魔法って凄い。ついでに何で俺全裸?」
『ス、スミマセン仕様なもので……』
「まぁ、それなら良いけどさ……俺、通報されたりしないよな?」
ストリーキングで逮捕とか洒落になんねーぞ!
『あ、大丈夫ですよ。ここはあくまで僕の記憶ですので、外部からの干渉は一切不可です』
「なら良かった。で、あそこのいるのが6年前のネギ君で、その隣のが……母親? にしては若いな……」
『い、いえ、僕のお姉ちゃんで、ネカネ・スプリングフィールドです』
「っほー。姉ちゃんねぇ。結構年離れてるんだな」
『あはは、そうですね。あ、あの僕と同じくらいの子がアーニャって言う幼馴染です』
「……どうでも良いが、どこに行っても女に囲まれてるなネギ君」
けど、ネギ君は4歳の頃からほぼ一人暮らししてたのか……姉ちゃんはなんかバスで行っちまったし……。
『えうえっ!? そ、そんな事言われても!』
「はっはっは! 冗談冗談!」
『ふ、ふたみんさ~ん!』
「時にネギ君、さっきから君は木から飛び降りたり犬に悪戯したり何やっとるんだ」
『あ、あれはその……』
「ってぇ!? 冬の湖はヤバイだろ!? 死ぬぞお前!?」
何、姉ちゃんいないと寂しくて帰ってきて欲しかったの!? 多分あの姉ちゃんなら言ったら飛んで帰ってくるぞ!?
『あの頃は……ピンチになったらお父さんが来てくれる。そう思ってたんです。村のみんなは死んだって言ってたんですが信じられなくて……』
「なるほど、それで自らピンチを演出してたって訳か」
『はい……。でも、これが悪かったんですよね』
「あん? 何言って――」
ネギ君の言葉の意味を理解する前に、俺の目の前にそれこそ信じられない光景が広がっていた。
「おいおいおいおい、村が火事になってんじゃねーか! それにありゃ……石化!? おい、まさかフェイトが……!」
『あいつは関係ないですよ。すみません、この先が一番見て欲しい所なので……』
「む、ぐ……分かった。少し大人しくしとく」
幼少時代のネギ君の前に現れる異形のモノ……怪物的な何かか? が多数現れ、そのうちの一体がネギ君に襲いかかる。でも、ここでやられてたらネギ君が今この場にはいないわけだし……大丈夫、なんだよな……?
「っ! スゲェ……なぁ、ネギ君もしかしてアレが……」
『……はい』
先程ネギ君が練習していた『雷の斧』だろう。けど威力は比べ物にならないくらいのレベルだった。それでネギ君に襲いかかった怪物は一撃。また、それを発した人物に一斉に襲いかかる怪物達であったが、全て蹴散らされ良く分からん凄い魔法で全て消し飛んでいた。最後に残ったのも首を折られて……グロイな!?
「なぁネギ君! んな走り回って大丈夫なのか!? まだあんな奴ら沢山いそうだけど!」
『……ごめんなさい、おじいちゃん』
「ネギ君! 聞いてんの!?」
ネギ君の前に再び怪物が現れ、口を開いて何かを出そうとする。しかしネギ君の前に爺さんと姉ちゃんが出て代わりに受ける。するとどんどん石になっていく2人。……そうか、こいつが村の人達を石に……! あ、でも封印されてる! ザマァ!!
「……で、何とかネギ君と姉ちゃんだけは助かった訳か」
『はい……。その時に父さんからこの杖を貰ったんです。3日後に救助された僕とお姉ちゃんはウェールズの山奥にある魔法使いの村に住む事になって、僕はそこからの5年間は魔法学校で勉強の毎日です』
「……」
『僕はあの雪の日が怖くて怖くて、何故だか自分でも分からないくらい勉強に打ち込むようなったんです。ただもう一度、僕を助けてくれた立派な魔法使いの父さんに会いたいって……。でも、時々思うんです。あの出来事は「ピンチになったら父さんが助けに来てくれる」そう思った僕への罰なんじゃないかって……』
「んなわけあるかぁっ!!」
「うひゃい!?」
「さっきの話のどこにネギ君が悪い要素があるんだよ! ただ父さんに会いたかっただけだろ!! 4歳ちょっとのガキが父親に会いたいって思う事のどこが悪いんだよ!! 文句言う奴がいたら俺がぶっ飛ばす!!」
だってそうだろ? 普通なら家族に囲まれて幸せに暮らしてるような年齢じゃねぇか! それがなんだよ! 姉ちゃんはまぁ、仕方ないとしても両親いなくてほぼ一人暮らしだと!? これじゃ今までボケーっと過ごしてきた俺がアホみたいじゃないか。や、俺アホだけども!
「ふたみんさん……」
「それに、父さん生きてんだろ? だったら心配すんな。必ずどっかで会える!」
「うんうん」
「ん? 何……うおっ!?」
「え? うわぁっ!?」
いきなり声がしたかと思うと、ネギ君の後ろに全員いた。しかもどうやったかは知らんが話を聞いてたらしく、全員号泣していた。あ、フェイトを除いた全員か。
「ネギ君にそんな過去があったなんて……」
「それに罰って何よバカネギ! ふたみんの言う通り、あんたは全然これっぽっちも悪くない!」
「……ネギ、苦労してる」
「6年前、サウザンドマスター、ふむ……となるとアレは……?」
「き、聞いてたんですか皆さん!? あ、もしかしてのどかさんのアーティファクトで……?」
「そんな事より、及ばずながら私達もネギ君のお父さん探しに協力するよ!!」
「……拒否権は、ない」
「そう言う事だね」
あの話を聞いてなおさら無関係でいられるハズがない。あの出来事を自分への罰とか言っちゃうネギ君だ。いつどこでどんな無茶やらかすか分かったもんじゃない!
「えう、あの……マ、師匠! 師匠からも何か言ってください!」
「……いや、まぁ……私も協力してやらん事もないが。ぐすっ」
「ちょっとぉー!? ぐすってなんですかぐすって!」
「う、うるさいな、黙ってろ!」
「ほんじゃ、ネギ君のお父さんが見つかる事を願ってぇ……」
「ん? よっしゃ、カンパーイ!!」
「ちょ、お前らまた宴会か!?」
いや、今から寝れるわけないだろ? あの話聞いてすぐに寝られるとかどんだけ神経太いんだよ。
「……すぅ、すぅ……」
うん、いたね。神経太い子が。しかし……ネギ君の事情は分かったけど、リアは一体どんな境遇だったんだろうか? また、機会があったら聞いてみるか。話してくれなさそうだけどな。
~今回の出来事~
・結局ナニもしてなかった
・魔力容量たったの――
・過去話なのに過去の人物の台詞0
はい、ようやくネギ君過去話が終わりました。過去に出てくる人物の台詞がゼロ・場所も飛び飛びと言うお粗末っぷりですが……。にしてもアスナの出番奪い取りましたねーあいつ。一応理由としましては、「いどのえにっき」皆で見ての話とか書くのがめんど……コホン、やはり主人公ですから少しくらい良い事させてもいいかなって!
次回、いよいよあの(趣向的に)素敵なおじさまの登場でございます。