で、結局パルの言ったとおりに尾行を始めた俺達。何とか物陰から様子を見る事が出来ているのだが……
「ちょっとふたみん! もう少し行ってよ!」
「バ、バカ押すなよ!」
「……いい加減止めた方が良いと思うです」
「……狭い」
「俺も綾瀬に同感だしリアが可哀想だから押すのマジ止めろ。つかせっかくシネマ村に来たのにやってる事が出歯亀ってどうよ?」
バカ丸出しじゃね? そして何故か男装している桜咲。……いや、ホントなんで?
「さっきから写真撮ったりそこら辺ウロウロしてばっかねあの二人……!」
「いや、普通だから」
「それにあの位なら普通にいるですよ。ハルナの言うような事はないと思うですが……」
「……」
「甘い! 甘いわね!! あれはまず間違いないわ!」
もう帰りてぇよ……。何だよこいつ、テンションおかしいよ。
「ふっふっふ……」
「「「「え?」」」」
「確かにあの二人アヤしいねぇ!」
「わっ、朝倉にいいんちょ達!?」
「……っ!?」
こいつらどっから湧いて出たんだろう? リアの驚く顔とか初めて見た。や、まだ会って二日程度だけどさ。
「皆さんも来ていたですか」
「後はえっと……村上と那波さん?」
「そだよー」
「うふふ、覚えててくれたのね。こうして話すのは初めてだけど」
「さすがに一瞬名前出なかったけどな」
そばかすと巨乳で覚えてた、って言ったら俺殴られるんだろうなぁ……。だが! 俺は武村のようなバカとは違う! そんなヘマはやらかさないさ!
「てかあんた達何ガッツリ変装してんのよ」
「いや~、ここ来たらやっぱやんないとダメっしょ。パル達もやりなよ~。……っておよ? ふたみん、そのゴスロリっ子は? 誘拐でもして来たのー?」
「カメラ叩き割るぞテメェ。リア、ほら挨拶」
「……リア。お兄ちゃんの……妹?」
俺に聞かれてもなぁ? 赤の他人なわけだしどう答えたら良いのやら。
「「「「そこ疑問形!?」」」」
「あれよ、近所の女の子が年上の男の子をお兄ちゃーんとか呼ぶあれ」
「あー、納得。でもふたみん、こんな可愛い子とどこで知り合ったのさ?」
「それは――」
「……公園で、独りでいた時に、一緒にいてくれた……優しい」
「あら、お優しい所がございますのね?」
「話しかけたのは好奇心だったんだけどさ? 独りだって言うからちょっと話してたら懐かれた」
「動機はともかく、この子凄く可愛いね! あ、私は――」
それから桜咲達の様子を確認しつつリアへの自己紹介タイムが始まった。最初こそ普通に聞いていたリアだったが、段々嫌になってきたのか俺のもとに戻って来た。
「……もういい。お兄ちゃんと、いたい……」
「あいよ。お、何か来たぞー」
「あれは……馬車かな?」
「のようですね。シネマ村では時々お客を巻き込んで芝居が始まったりするそうです」
なんだそりゃ。面白そうだなー……あの二人良いなー。あんな面白そうな事に巻き込まれて羨ましいなー。
『どうもー、神鳴流で……じゃなかった。そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます~~~。そこな剣士はん。今日こそはそこのお嬢様を借金のカタにもらっていきますえ~~~』
「へぇ~、設定むちゃくちゃっぽいけど結構面白いじゃん」
「んー……?」
「……月詠……?」
あれ、あの自称貴婦人どっかで見たことあるような……気のせいか? 俺ここに来たの初めてだし……。リアは誰だか思い当たる節があるのか、人の名前らしきを小さく呟いていた。
『そうはさせんぞ!! このかお嬢様は私が守る!!』
『キャ――っ、せっちゃん格好え~♪』
『お、お嬢様っ!?』
「しかし、桜咲ってこう言うのにノるタイプだったんだな」
「ちょっと意外ですね」
めっちゃノリノリだし。意外とああ言うの好きなんだねぇ。ちなみに俺は絶対にノリノリになるタイプである!!
「いやいやいや、そんなんじゃないって! 絶対あの二人デキてるって!」
「朝倉もそう思うよねー!」
「え、え? 皆さんどうしたんですの?」
「つかお前ら押すな! マジで倒れるっての!」
「……苦しい」
たまたま前に来てしまったのが運の尽き。野次馬全開のパルと朝倉にぐいぐいと押されている。一緒に来たリアまで巻き込んでな……!
『ほな、仕方ありまへんな~。え―――い♪』
『む……』
『このか様を賭けて決闘を申し込ませていただきます~。今より30分後、場所はシネマ村正門横「日本橋」にて――』
およ? なんだか展開が怪しくなってきたような?
「むむ? こりゃただの芝居じゃないかも!?」
「え……? そ、それはつまりどう言う事ですか?」
「イマイチ事態が飲み込めないんだが」
「……?」
展開が怪しくなってきたってのはなんとなく雰囲気で分かるけど、詳しくは良く分からん。
「んもー! あんたらとことん鈍いわね! だから、このかと桜咲さんがそーいう関係で、さらにこのかに横恋慕している第三の女が現れてシネマ村のお芝居にかこつけて略奪愛! ってな感じなのよ!」
「マジでか!?」
ドロドロじゃねえか!? 全員女ってのが引っかかるけど! いや、だからこそ余計にか!
「さーみんな! 二人のとこに行くわよ!」
「「「「おー!!」」」」
「……おー?」
「で、俺達も行くべき?」
「行かないとハルナがうるさいですよ」
「だよな……」
ドロドロ女同士の三角関係は確かに気になるけど……別に当人同士の問題だし、ほっときゃいいのに。
「ちょっと桜咲さんどーいう事よー!」
「わぁっ!?」
「ほらほら、今の心境は?」
いきなりみんなに囲まれて慌てふためく桜咲。何と言うか、ご愁傷様。
「やっぱりこうなるですか」
「可哀想になぁ」
「……」
「よーっし! 二人の恋、全力で応援するよーっ!!」
「よっしゃ野郎共助太刀だー!!」
「ちょ、えっ!? あの、皆さん!?」
……え、これ俺達も参加する流れ? ここ限定のドリンクもっと探したいんだけど……。リアと言う新たな戦力も得た事だし。
「二見さん、どうやら諦めるしかなさそうですよ。リアさんがいると言うのに残念ではありますが……」
「やっぱりかぁ……」
「……残念?」
「さぁ~って、敵は何人かな~!」
「全く、アホばかりです。……おや? このかさん、どうかしましたか? 顔が青いですよ」
「ホントだ。大丈夫か?」
「……大丈夫?」
今にも倒れそうなくらい真っ青になってるけど……。
「えっ……な、なんでもないよ?」
「そうですか? ならいいですが……」
「何かあったらちゃんと言えよ?」
「うん。ありがとな~…………ってその子誰なん!?」
「あ、そういや近衛さんは初めてだっけ。ほら、何度も面倒だとは思うが挨拶して」
「……お兄ちゃんが言うなら。……リア」
おい、簡潔すぎんぞ。だが近衛さんはリアに視線を合わせて微笑んだ。
「ふふ、リアちゃん言うんやね。うちは近衛木乃香やよ」
「……知ってる」
「え?」
「……なんでも、ない……気をつけて」
「う、うん? あ、ありがとう?」
リアの言葉に首を傾げる近衛さん。……リアは何が言いたかったんだ?
「このかさん、様子がおかしかったですね」
「そうだな。でも本人がそう言わないからなぁ」
「まぁ私達で気を配っておけば良いです。ハルナ達はあの調子ですから」
「そだな」
「……お兄ちゃん。コノカは……お兄ちゃんの、友達?」
「ん? ああ、そうだな。友達……だと思うけど急にどうした?」
なんで俺の服の裾掴んでるのこの子。可愛いんだけど?
「……ううん。なんでも、ない」
「「?」」
「おーい! そこの3人、さっさと来る!!」
「はぁ……行くとしますか」
「……うん」
「ですね……」
俺達を呼ぶパルの所に行くと、貸衣装部屋に放り込まれ半ば強制的に着替えさせられた。
「全く……ハルナは強引すぎるです」
「……私、似合う?」
「何か模造刀らしきもの渡されたんだけど。普通に重いんだけどコレ。俺に何させる気だよ……」
木刀みたいなもんと思えば良いんだろうけど、そもそもその木刀すら持った事ないし?
「ひゃっきやこぉー!」
「「へ?」」
「……あ」
みんなの元に辿り着いたかと思えばさっきの自称貴婦人が謎の怪現象を引き起こしていた。
「え、なにこのぬいぐるみ的なの」
「おそらくアトラクションの一部でしょう。……どうします?」
「……へっ、こんな面白そうなの、参加しないわけねーだろ?」
模造刀を抜き、俺も混ぜてもらおうと行った瞬間、俺は後悔した。
「キャッ!? 着物を……!?」
「ちょ、何このスケベ妖怪~~~!!??」
「ブ――――ッッ!!??」
「な、なんてハレンチな……なぁあああっ!?」
「……っ! 月詠、後で殺す……っ!」
次々とみんなの着物を脱がそうとする妖怪達。待て待て待てぃ!! これじゃ参加するに出来ねーよ!? あと1人物騒な事呟いてる子いるし!
「と、とりあえず……綾瀬、大丈夫か?」
「……今見た事は全て忘れてください。良いですね?」
「り、了解しました! サー!」
「ちょっとそこの二人! 遊んでる暇あったら手伝って!!」
「お、おう!!」
試しに模造刀で思いっきり妖怪をぶっ叩くと、奇妙な鳴き声と共に消えた。なるほど、強い衝撃を与えれば良いのか!
「オラァッ!!」
「おおっ、ナイスふたみん!」
「ふんぬっ! せいっ! どりゃあっ!!」
ギャラリーからも良いぞー兄ちゃん! とか頑張れー等と聞こえてくる。かなり嬉しい。
「……ん? なぁ、綾瀬今ネギ君いなかったか? 近衛さん連れて」
「え? ……ネギ先生は知りませんが、このかさんはいませんね……はて?」
「……お兄ちゃん」
「どうしたリア?」
「……あそこ」
そう言ってリアが指差した先、セットの城の上になんとネギ君と近衛さんがいた。しかも女の人と少年、それにゴッツイ妖怪が弓を手にしてネギ君達を狙ってる。
「っほー……こりゃまた随分と本格的だな」
「……このままだと、友達死んじゃうよ?」
「え?」
「……だから、助ける。『凍てつく氷柩』」
リアの言葉の意味が分からぬままぼーっと見ていると、あのゴッツイ妖怪さんがいきなり氷の塊に閉じ込められた。……え?
「え、ちょ、な、何アレ!? 綾瀬、お前あれ何か分かる!?」
「わかるわけないでしょう!? ですが凄い演出と言うのは理解できましたです!」
「……ふぅ」
side-?
「ほへ?」
「あれ?」
ちょ、ちょお待とか。今起きた事をありのまま話そうやないか……。ウチらはこのかお嬢様を追い詰めた。護衛剣士は月詠はんと交戦中。こっちにはフェイトはんもおるし、万が一に備えてのリアはんと……あのド変態がおる。負ける要素なんて皆無、皆無やのに……
「なんでこいついきなり氷漬けなっとんや!?」
「魔法だね。場所から察するに……と言うかリアさんだろうね。この威力の魔法を無詠唱で撃てる魔術師がそうそういるわけもないし」
「あー、なるほどなー。リアはんがなー……って待ちぃ!! なんでリアはんが!? あの子一応味方やろ!?」
「僕に聞かないで欲しいな」
「ぬぐぐぐ……こいつが使えん以上は……お、覚えときなはれー!!」
「……やれやれ」
やかましいわ! それよりリアはん! なんでいきなりあないな事したか、キッチリ説明してもらいますえ!?
sideout
「お、何か逃げた。と言う事は……」
「我々の勝利、ですね」
「……ぶい」
ふと桜咲達の方を見ると、まだやっていた。好きだねぇ……。
「……あららー、これはちょっと予想外ですなぁ」
「お前はどうするつもりだ」
「おーい、お二人さん、もう終わったみたいだぞー」
「っ!? ふ、ふたみんさん!?」
「……ツクヨミ、さっきは、よくも……」
リアさん落ち着きましょう。効果音が付いてたらゴゴゴゴゴとかなってるから、何か怖いから。とりあえず落ち着こう。
「うーん……ま、この場は引くとしますね~。リアはんも怖いですし~」
「あ、じゃあこれやるよ。殺陣やってて喉渇いただろ? 桜咲も」
「あら、ありがとーございます~」
「あ、ど、どうも……」
うんうん、こんな事もあろうかと途中見かけた自販機で少し多めに買っといて良かったぜ『スプラッシュ八ツ橋お味噌味』。
「「ブフォッ!!??」」
「ん?」
「……お兄ちゃん、ナイス」
「ゲホッゲホッ!! ま、まさか一服盛られるとは思いませんでしたわー……ふたみんはん、覚えましたえ?」
……え、なにこれ俺が悪いの? てか何で俺どこ言ってもふたみん呼び!?
「お願いですからあの様な珍妙なものはご自身のみで楽しんでください……」
「……面白いよなぁ?」
「……うん」
「判断基準おかしいですからね!? まったく……」
その後、近衛さんとも合流したのは良いのだが、何故だか近衛さんの実家に行く流れになっていた。
月詠の喋り方ってこれで良かったかな……?
さて、そろそろ修学旅行もクライマックスでございますね。次は誰にドリンクを飲ませようか……