「はひーっ! はひーっ! い、一体いつまで走るんだよっ!!」
「そんなの私が知るわけないでしょーが! 桜咲さんに聞いてよー!」
「な、なぜいきなりこんなマラソン大会に……!」
お、俺って別に体力とかある方じゃないんだけどなー!? つか桜咲足速ぇええええっ!?
「ひぃーっ、ひぃーっ! し、死ぬーっ!」
「お、おい桜咲ー! どうしたんだよ! いきなり走り出してさー!」
俺が桜咲の後ろについてそう叫んだ瞬間、なんか固い物が頭を直撃した。しかも何回も。
「い、いってぇええええ!!??」
「ふたみんさっきからうるさい!!」
「ど、どうかしたですか?」
「い、いや……今頭になんか固い物が……」
後ろを見ると先っちょがやや尖った物が落ちていた。……え? あれ危なすぎない!?
「ってかいつまで走るの桜咲さーん……ってここシネマ村じゃない!!」
「ぜぇっ、ぜぇっ!! あ、ホントだ」
「ひょっとして桜咲さんはここに来る為に……?」
「な、なぁんだ~! それならそうと言ってくれれば良かったのにぃ~!」
確かにパルの言うとおりだよな! ちゃんと言ってくれたらこんな走らなくてもすんだのに……。おえっ、走りすぎて吐きそう……。
「すいません! 私っ、その……このか、さんと二人になりたいんです! ここで別れましょう!!」
「は?」
「え!?」
「お嬢様失礼!」
「ふぇ?」
桜咲がそう言って近衛さんを抱き抱えると、そのままジャンプしてシネマ村の中へと入っていった。……うん? ジャンプして……?
「って、はぁああああああっ!!!???」
「こ、この跳躍力は……? てゆーか金払って入れです……」
「いやいやいやそういう問題じゃないだろ! 明らか人間のレベル超えてるって! 10m近くジャンプしたぞ今!」
「それもそうですが……先程の桜咲さんの発言。アレはどー言う事でしょうか……」
「女の子同士で二人っきりでしょ? まさか……」
「ただ単に一緒に遊びたいだけじゃねーの? あのジャンプとか金払わなかった事とかはさておいて」
別にパルがワクワクするような事を無いと思うけどねぇ。なんとなくそう思うだけだけどさ。
「そんな事はないわ! 私の勘がそう告げている……! 二人共! 私達も行くわよー!」
「まぁ、ここまで来たらなぁ」
「せっかくですしね」
そうして、俺達は真面目に金を払ってシネマ村の中に入った。
「ほぉー! 初めて来たけど、すげぇな!」
「そうですね、これがシネマ村……ハッ! 二見さん、あそこに自販機があるです!」
「何!? よし、行くぞ!」
「え、ちょ、おーい……」
パルが何か言っていたがそんなのはどうでもいい! 俺達はシネマ村にしかないであろうドリンクの方が大事なのだ!
「何々……サムライドリンクスカッシュ?」
「まぁ飲んでみたら分かるですよ」
「だな!」
早速一つ買って飲んでみると、ある変化が訪れた。
「どうですか?」
「……いや、普通の炭酸でござるよ? ……ござる? ござるって何でござるか!?」
「……二見さん、いくら普通の味だからってそんな無理なリアクションをしなくとも……」
「ち、違うんでござるよ! 口から勝手に出るでござる!」
いや、マジでござるって何!? つか侍ってそんな言葉遣いするの!?
「まさか二見さんがそんな残念なボケに走るとは思わなかったです。では私も一口……」
「……」
「ほら、何ともないでござ……る…………です」
「…………」
「…………すいませんでしたでござる」
「分かってくれたならいいでござるよ」
てか綾瀬の普段の喋り方にござるが混ざるとかなりヘンだ! 違和感しか感じない!!
「二人共ー! 行くよー!」
「はいでござる」
「分かったでござる」
「…………」
うわ、パルが物凄く可哀想な子を見る目で俺達を見てる!
「いや、シネマ村に来たんだからそれっぽくなりたいってのも分からんでもないけどいくら何でもそれは……」
「とりあえずこれ、走って喉が渇いただろうし炭酸で良かったら飲むでござる」
「え、奢り? わー、サンキュー!」
俺達はパルに見えない角度でVサインを出し合った。
「いや~、喉渇いてたから丁度飲み物買おうと思ってたんでござ……る……?」
「「(ニヤニヤ)」」
「…………ホント、ごめんでござる」
どうやらパルも俺達の苦しみを分かってくれたようで。
「綾瀬、今度はもっと普通の不思議ドリンクを探すでござる」
「そうでござるね」
「はぁ……どうしたら治るんでござるか……」
「パックの裏に数分で元に戻るって書いてあるぞ……あ、ホラ戻った」
良かった良かった。一時はどうなる事かと思ったけどな……。
「では私もそろそろでござるね」
「だろうな。俺達はこのままドリンク探してくるけどパルはどうする?」
「んー、二人も見失っちゃったしついていくでござるよ」
「オッケー」
あのドリンクのせいでエセ侍化した二人と一緒に自販機求めて歩き回る。
「――お、あったあった」
「意外と見つからないものですね。……と、私も戻ったようですね」
「後は私だけでござるねぇー」
「ま、それよりドリンクだぜ!」
「ですね。ほうほう、『鹿ドリンク』。やや場違いな気もしますが初見なのは確かですしね」
「だな。お、こっちにもあるぞ『奈良漬けワッショイ』か。お土産コーナーに沢山あるぞ! 買ってこうぜ!」
どうやらシネマ村にも同志がいるようだな! 素晴らしい!
「……あ」
「ん?」
俺がドリンクに手を伸ばすと、同じように伸ばされた手があり、その人物から発せられた声は聞いた事のある声だった。
「リアじゃねぇか」
「二見さん、お知り合いですか?」
「ゴスロリ少女と知り合いって……」
「……お兄ちゃん、やっと会えた」
「おま、ここでそれは――!」
「「お兄、ちゃん……?」」
リアの発言に俺を見てドン引きする2人。ですよねー、それが当然の反応ですよねー。
「ふたみん……いくらお兄ちゃんと呼ばれたい願望があっても見知らぬ幼女にそう呼ばせるのはどうかと思うでござるよ?」
「二見さん、よもやそのような趣味をお持ちだったとは……」
「待って! ねぇ待ってお願いだから話聞いて!? ほら、リアからも何か言ってやって!」
「……お兄ちゃん、私が独りの時に話しかけてくれた……初めての、人……」
「それもっとダメなやつぅううううううう!!!」
「ま、まぁ性癖は人それぞれでござるし……ね、夕映!」
「そ、そうですね。安心してください。二見さんが幼女しか愛せない方でも友情は不滅ですよ?」
「うるせぇええええええ!!!」
それから、二人の説得に30分以上を要した。もう泣きたい。ついでに、パルの侍化も終わってる。
「つまり、リアちゃんはふたみんの事をお兄ちゃんと思ってる、と。あ、私は早乙女ハルナだよー。気軽にパルと呼んでちょうだいな」
「私は綾瀬夕映と申します。この様な見た目ですがハルナや二見さんと同い年です」
「……お兄ちゃんと会えて嬉しい」
「はは……もう好きにしてくれ」
リアに手を繋がれ、俺は無力な中学生なのだと悟った。もうロリコンでもなんでも好きに呼ぶがいいさ……。
「そう言えば、リアさんは先程不思議ドリンクに手を伸ばされていましたが……興味がお有りで?」
「……良く分からない、けど……ああ言う良く分からない物は好き」
「え゛、まさかのリアちゃんそっち側!?」
「ほう。ならリアは京都の不思議ドリンクに詳しいのか?」
「……ううん、私は京都には少し前に来たばっかり、だから……」
「ふむふむ。もしよろしければこちらに来てから飲んだドリンクを教えていただけますか?」
そう言ってノートを取り出す綾瀬。ああ、場所とか聞いて取りに行くんだな!
「……えっと『京風大文字焼き芋DX』と『雅な漬物風お吸い物』……。前者は焼き芋の味に京風の出汁が効いてた……。後者は逆にしたら良かったのに、と思う程いいセンスだった……」
「なんと! その二つはまだ見た事がないものです!」
「マジか! リア、お前すげぇな!」
「……お兄ちゃんに褒められた」
心なしか、嬉しそうな表情になっている……気がする。
「あー……どうしよう。格好のネタなのに割って入るのに物凄く躊躇するんだけど」
「そういやリアは何でシネマ村に? やっぱ観光?」
「……違う。さっき待機してるように言われたけど……お兄ちゃんといる方が大事」
「ふふ、随分と懐かれてますね二見さん」
「ま、嫌われるよりは良いのは確かだな」
でも、いつまでついてくる気だろう? さすがにリアも家に帰らないとダメだろうし……後でそれとなく聞いてみるか。
「って、そうよ! んな事よりあの二人追わなきゃ!」
「……あの二人?」
「ええ……おや? あそこに見えるのは件のこのかさんと桜咲さんでは?」
「マジ? お、ホントだ。リア、俺達はあの二人探してたんだよ」
「……っ。そ、う……」
「ん? どうかしたのリアちゃん?」
「大丈夫ですか?」
今様子がおかしくなかったか? 俺ですら気づいたんだから他の二人も気づいて話しかけてるし。
「……大丈夫、何でも……ない。ユエ、ハルナ、ありがとう……」
「……夕映、リアちゃんが可愛すぎて生きるのが辛い」
「大袈裟ですよハルナは」
「ま、まぁ良いわ。なんだかんだあったけど見つける事が出来たんだし! 尾行するわよ!」
「言うと思った……」
「せっかく楽しそうにしてるのですから放っておいてあげたら良いですのに……」
「……」
リアちゃん、ふたみんグループに本格参戦です!
……当初の予定とは大幅に違うなぁ。