「むぅ……」
黒酢コーラ……あのまま流れで受け取ってしまいましたが、やはり自分で手に入れないと感動が少ないですね。
「せめて代金くらいは返すですか」
確かに初等部の子だと言われ腹が立ったのは事実ですが、やはりコレをもらう理由にはならないですね。
「そう言えば……」
男性とアドレスを交換したのは初めてのような気がするです。中等部は男子と女子で別れるですし……。
「だからと言って何かあるわけではないですが」
今の私の興味はそんな事より、超不思議カレーにあるです。
「カレーの味は一切しなくて、ぬるってして、ねちょっとした食感とバナナをラムネに漬けてコーラで焼いた後、リンゴジャムで煮込んだ様な味なんてしないと思いますが、あの幻の不思議メニューは一度食べてみたいです」
さて、部活に行くです。のどか達が待ってるでしょうし。
――
あれから一週間後……その筋の奴に連絡を取ると、すぐにでも超不思議カレーを用意できるとの事だったので、綾瀬にメールを出し今日の放課後に世界樹広場で待ち合わせる事になった。その店の場所はちょっと分かりづらいところにあるため、案内する事にしたのだ。
「俺はどーなっても知らんからな……」
綾瀬のクラス担任は優しいのだろうか? それだと羨ましいな。きっと腹壊して休んでも特にお咎めは無いんだろうなぁ……。こっちは生活指導の新田だぞ? あん時は自己の体調管理がどうとか言われて反省文10枚+正座で説教1時間食らったもんだ。
「そうだ。あいつが来るまでに黒酢コーラでも飲んでみるか」
なんだかんだで結局飲んでないからな。待つ事になりそうだったら飲んでみるのも良いかもしれない。俺の好奇心を満たすと言う意味で。
「これで売り切れとかだったらちょっとショック」
そうして世界樹広場に着き、以前の自販機に行くと
「お、あるある」
特に売り切れでもなかったので、早速購入。
「さーて、お味は――――微妙だな……」
もう、微妙としか言いようがないくらい微妙な味だ。特段不味いわけでも美味いわけでもない。コーラの甘味と黒酢のまろやかな酸味がマッチしてるようでしていない。それだけでも微妙なのにさらに炭酸が微妙さを際立たせている、何とも奇怪な飲み物だ。
「いや、まぁ、面白いと言っちゃ面白い味ではあるなぁ」
これからMAHORA印のドリンクを探してみるのも面白いかもしれないな。綾瀬に聞いてみるかな、結構飲んでるみたいだし。
「おや、もう来てたですか」
考え込んでいると、後ろから声がかかる。
「ああ。意外とHRが早く終わったからな」
本当に意外だ。あの新田が……長引かせることは日常茶飯事だがまさか早く終わるだなんて……な。
「そうですか。――お、黒酢コーラを飲んでるですか」
「まぁな。味は微妙だったけど面白いとは思ったぞ」
「フフフ、あれの良さが分かるとはやりますね」
ニッ、と笑う綾瀬。なんか良く分からないけど、嬉しそうだ。
「――ま、とりあえず今日の目的を達成しに行こうぜ」
そうそう。今日は別にここでダベりに来たわけじゃないんだよな。
「はいです。それで、超不思議カレーはどちらに?」
「話はつけてあるからついてこいよ。店まで案内するから」
「楽しみです」
それから俺は綾瀬を促して商店街の方に歩いていく。
「そういや綾瀬って部活入ってるんだよな?」
「ええ。図書館探検部に。あと児童文学研究会に、哲学研究会に入ってるですね」
「哲学ってのは良く分からんが、とにかく本が好きなんだな綾瀬は」
そもそも哲学ってなんだっけ?
「むぅ、哲学については今度じっくり説いて差し上げるです。本が好きなのは哲学書を読んでいるうちに段々……と言った感じでしょうか」
「へぇ~。俺はあんま本とか読まないしなぁ……。漫画とかなら良く読むんだけど」
主にマガジソだな。最近よく読んでいる週刊誌は。……単行本は集め出すとキリがないので買わない事にしている。
「それはいけませんね。今度、読みやすい本を選んで差し上げるので一度読むべきです」
「まぁ、気が向いたらな」
面白そうな本があれば読むけどさ? 興味をひかれない物に時間割きたくないんだよな俺って。
「それでは本を厳選し終えたらメールをするので覚えておいてくださいです」
「あれ? 俺気が向いたらって言った気がするんだが」
「そう言う人は大抵その通りにしないものです」
……鋭い。
「はぁ……分かったよ。でも俺が面白いって思わなかった突き返すからな?」
「ほほう? それは私に対する挑戦と受け取りました。良いでしょう、後でごめんなさいと言いたくなるほど面白いものを選んでくるです」
いつの間にか勝負になっていた。ま、こういうのも面白くてアリ、かな?
「精々頑張れ。っと、ほら。目的の場所に着いたぞ」
目の前にあるのは『カレーハウス印度屋』と書かれた看板。俺達の目的地であり、実は麻帆良でも人気のカレー屋だったりする。(麻帆良新聞調べ)
「あれ? ここはこの麻帆良でも有数のカレーを出すと言う店ではないですか」
「おう。実はアレ、ここの裏メニューでよ。俺もここでバイトしてる友達から聞いたんだ」
それで腹壊して一週間トイレに閉じこもるような状態になってしまったのだがな。
「ほうほう」
「いらっしゃいませ~、お二人様ですか~?」
入るなりウェイトレスがやってきて俺達に話しかけてくる。店の中は意外と人がまばらだった。
「例のアレを頼んだ二見だけど……」
「! かしこまりました~。それではこちらへどうぞ~」
俺の時と同じく、奥の部屋に通された。そこは個室になっていて、相変わらず隔離されているような気分だ。
「? 何故こんな個室に?」
「そりゃ、裏メニューだからな。知る人ぞ知る……ってのにしたいんだろ?」
「なるほど」
それから10分ほど待って
「は~い、お待たせしましたー。『超超不思議カレー改』でぇ~す☆」
「「……」」
なんか、名前がグレードアップしていた。しかも、色はピンクでボコボコと噴いている。その姿に俺達は絶句した。
「ちょっと待て! 俺は普通の超不思議カレーと言ったはずだ!」
「あ、実はですね~。超不思議カレーって言うのは単なる全体的な名称で、どれを作るかは店長しだいなんです~☆ あ、お代いらないですよー? 店長の気まぐれメニューですのでー」
「綾瀬……」
ポン、と綾瀬の方に手を置く。
「え?」
「ファイト☆」
そして満面の笑みでエールを送った。
「ちょっ!!?? 見捨てるですか!?」
「いや、見捨てるもなにも……食べたいって言ったのは綾瀬だし?」
「そ、それはそうなのですが、こう実物を目の当たりにすると……」
さすが、と言えるほど綾瀬の事を理解したわけじゃないけど、かなり躊躇っているのは確かなようだ。
「案外食べてみると逝けるかもよ?」
「今、字がおかしくなかったですか!? ……まぁ、分かりました。確かに食してみたいと言ったのは私です。何より興味を引かれるのは間違いないですからね……」
そう言って、綾瀬はスプーンを手に取り一口分すくった。……ピンク色のカレー……でも青色よりマシじゃね?
「はむっ! …………」
「?」
おや? 急に震えだしたぞ?
「○△☆×◇■~~!!??」
~しばらくお待ちください~
…………
………
……
…
「こ、これは最早食べ物とは呼べないです……」
とてもやつれた顔で戻ってきた(どこからかは敢えて言うまい)。
「で、残りはどうする?」
「……え゛?」
「全部食べなきゃ勿体ないだろ?」
「ホ、ホントですよぉ~。お客様が食べて下さらないと私たちが強制的に食べさせr」
先ほどの綾瀬よりも激しくウェイトレスさんが震えだした。……何と言うか、ご愁傷様。
「し、しかしいくらなんでもコレは……」
「まぁ、気持ちは分かるが……」
以前食った身からしたら……な。気持ちは痛いほどに分かる。
「やはり、食べないと駄目ですか…………」
綾瀬は、泣きながらカレー(?)と激闘を繰り広げ……1時間後。
「た、食べ終えたです……」
そこには満身創痍の綾瀬。そして物凄くホッとした顔のウェイトレスさんの姿があった。
「お疲れ~」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「い、いえ感謝されるほどでは……うぷっ」
どうも、逆流しかけているようだな。早めに退散するとしよう。
「それじゃ、帰るか」
「え、ええ……おぷっ」
多分、明日から綾瀬はしばらく学校を休むだろうな……。
店を後にして、女子校エリアギリギリまで送っていく。一応俺にも責任の一端はあると思ったし、なにより途中で吐いたりしたら可哀相だ。
「っと、ここからは女子校エリアだな。それじゃ、綾瀬……って大丈夫か?」
「問題、ないです……うぷっ。そ、それより……わざわざ送って下さってありがとうございましたです。えぷっ」
「……さすがにそんな状態の奴を放っていくのもな……」
自業自得とは言え、経験者として分かる。アレはやばい、と。
「では……またいずれ」
「あ、ああ。気を付けて」
うーむ……恐るべし、超不思議カレー! 二度と食わん!
この二人、恋愛に発展しうるのでしょうかね? そうなりそうならまたタグを追加させていただきたいと思います。