「うっ、わぁ……」
中に入ると外からではおおよそ見当もつかない位ファンシーな光景が広がっていた。机と言う机にはぬいぐるみが置かれてるし……。この子の趣味だとは思うが、良くこんなに用意できたな。
「茶々丸、茶を用意しろ」
「はいマスター」
「えーっと、聞いていいか?」
少女に言われお茶を入れに行こうとした絡繰を呼び止める。
「何か?」
「あれが、マスター? あのちびっ子が?」
「はい」
「てかマスターって何?」
普通に訳すと主人だっけ? バーのマスターとかそんな感じだったはず。
「何、と言われますと……説明に困ります」
「ふぅん……あ、そうそう。飲み物ならさっき買ってきたのがあるからこれにしなよ。3人分買ってきたし」
説明に困るなら別に良いや。そんなに気になるわけでもないし。
「どうも」
「いえいえ」
「……おいお前」
「だから言葉遣いはキチンとだな……」
何回言ったら聞き入れてくれるんだろうか?
「お前は吸血鬼についてどう思う?」
「あん? 吸血鬼?」
またかよ……いくら流行っているとは言えいい加減聞き飽きたなぁ……。
「そうだ。他の生徒のように恐怖を感じたり好奇心が沸いたりするか? それとも――」
「いや、どーでもいい」
「……は?」
「だから、どーでも良いって。つーかそんなのただの噂だろ? それに吸血鬼なんて実際いたらもっと大騒ぎになってるって」
俺はMAHORAドリンクで忙しいのだ。吸血鬼なんてあやふやな存在に興味ない…………ごめん、ちょっとだけあるけど実際に見た事無いし分からないね。
「つまらん奴だな」
「ガキに言われたくねーよ」
「マスター、お茶をお持ちしました」
「うむ。ああ、お前はもう良いからさっさと帰れ。この私をコケにした報いを受けさせようと思ったが、つまらん奴に興味は無い」
……もう一発シバイたろか? このお子様はホントに……。
「む? 変わった臭いだなこのお茶は……ずずっ」
「はい。二見さんに頂いた『吸血鬼撃退ドリンク』です」
「ブ―――ッ!!」
「うわっ!? 吹くなよ! かかるとこだったじゃないか!」
いきなりジュースを吹くなんてもったいない。こんなにも面白い味なのに。ふーむ、ニンニクの味が微妙にしてるが、この強烈な臭いと味の元は一体なんなんだ?
「ゲホッゲホッゲホッ!!! きっ、きききき貴様ぁああああ!! 一度ならず二度までもこの私をこんな目に遭わせてくれたな!?」
「え、いやまさかそこまで嫌なんて思ってなかったし……まぁ、嫌だったんなら悪かったな」
「許さん! おい茶々丸、アレを持ってこい!!」
「はいマスター」
許さんって言われてもなぁ……。言葉遣いについては……うん、もう諦めたよ。無駄っぽいし。
「……よもや貴様の様なつまらん奴に二度も辛酸を舐めさせられるとはな……」
「知らんがな」
「貴様をボコボコにする前に我が名を教えておいてやろう! 私の名前はエヴァンジェリン=A=K=マクダウェルだ!」
「へー。あ、俺は二見隼人。中等部3-C」
まぁ、どんだけ態度でかくても名乗られたら名乗り返さなきゃ失礼だよな、うん。にしても……名前長ぇな。外人なのは見た目でも分かるけど……。
「貴様の名なぞどうでも良いわ」
「……」
「お待たせしましたマスター」
いい加減シバきそうになったところに絡繰が何か持ってきた。
「何これ?」
「囲碁も知らんのか? 全く、だらしのない奴だ。良いか? これはな――」
何故だかいきなり囲碁講義が始まった。いや、講義されてもねぇ……
…………
………
……
…
「――で、あるからして囲碁と言う物はだな」
「あ、はい」
「お前……この私が講義してやっていると言うのによもや聞いていないのではないだろうな?」
「いや、うん、聞いてたよ?」
「フン、まぁ良い。では早速実戦だ。習うより慣れろとは良く言ったものだ」
~7時間後~
「あ、あの、まだやるのでしょうか……?」
「ん? ああ、もうこんな時間か。しかし、中々飲み込みが良いじゃないか。私には遠く及ばないがな」
「そりゃどうも……」
「二見さん、本日はどう致しますか?」
「んー……ここまで来たらもうちょっとやりたい様な気もするけど、腹も減ったし……今日は帰るわ」
「まぁ、気が向いたらまた遊んでやる」
「いつでも遊びに来てください。マスターのお相手が出来る方は珍しいですから」
そりゃ、囲碁する初等部の子なんてほとんどいないだろうしなぁ……
「ま、暇だったら考えとくよ」
「はい。それでは」
「フン」
絡繰に見送られ、ログハウスを後にした。
side-エヴァンジェリン
「……」
「マスター、お茶のおかわりは如何ですか?」
「……む? ああ、貰おうか。……おい、あのゲテモノドリンクじゃないだろうな?」
「いえ、あれは二見さんが美味しそうに飲んでいたのでなくなりました」
「……世の中には本当に変わった人間がいるものだな」
それにしても、今日はいつもより時が過ぎるのが早かったな。まさか囲碁で滅多打ちにするつもりがいつの間にか教えるハメになるとは……。
「気は済みましたかマスター?」
「何とも言えんが、別に気にする事はない」
sideout
「ったく……あんな態度のデカいちびっ子初めて見たぜ」
親の顔が見てみたい、とはまさにこの事だな。
それから日曜は本当に何事も無く過ごし(寮でゴロゴロしていただけ)、休日が明けた。
「そうだ二見、お前来週からの修学旅行の準備進めてる?」
「んにゃ、まだ。そういやどこ行くんだっけ?」
登校中、武村がそんな事を聞いてきた。修学旅行……面白いとこだと良いなぁ。
「おいおい。ハワイだよハワイ! 水着のお姉さん達いっぱいヒャッホーなハワイだよ!!」
「水着のお姉さんはともかく、ハワイかぁ……俺、海外旅行って初めてなんだよな」
オラ、ワクワクしてきたぞ!
「あ、俺も俺も!」
「そんじゃま、金曜か土日にでも準備すっか」
「おうよ!」
そうしてワクワクしていると、あっという間に金曜日が来た。
「ほぅ、二見さんのところはハワイに行くですか」
「おう。海外旅行なんて初めてだからワクワクが止まらねえよ!」
「は、はぁ。それは良かったですね」
「てな訳で準備があるから今日の活動は休みたいんだけど……」
泳ぐための水着やら何やら買わないといけないし。
「分かりました。それではノートとジュースだけ渡してもらえますか? こちらで学園長に届けておくです」
「サンキュ。ほら」
「ふむふむ、今週は6本ですね。して、おススメは何ですか?」
「フッフッフ、おススメは『里芋山芋とろろ芋(醤油風味)』だ。まぁ、名前で予想つくだろうけどかなーりネバネバのドロドロした舌触りで飲み込みにくさと喉の痒さが半端じゃあない。でも醤油風味で普通に美味かったぞ」
ちょっとコツを掴めば普通に飲めたけど敢えて教えない。だってその方が面白そうだし。
「これはこれは……いつも面白いドリンクを見つけてきますね」
「まぁな! んじゃ、俺行くわ」
「はいです。それでは、次は修学旅行明けですね」
「だな。ハワイの珍ドリンク持ってきてやるぜ」
きっとハワイだから物凄く面白いドリンクがあるんだろうなぁ~~~~!
「では私は京都の珍ドリンクを探しておきましょう」
「おうよ!」
…………
………
……
…
「よぉっし、久しぶりの学園外だ! 遊ぶぜ――っ!!」
「おーっ!」
「おい、バカコンビ。俺達の目的忘れたのか?」
「僕達が学園を出て都心に来たのは修学旅行の買い物をするためだろう?」
俺と武村に鷲崎、中林君を加えた他のクラスメイトより仲が良い4人で街に繰り出したが……バカ2匹が速攻でふざけた事を言い出した。
「えーっ! 良いじゃんかよちょっとくらいさー!」
「そうだそうだ! ふたみんも中っちも硬すぎるぞ!」
「あのなぁ……昼間ならまだ考えたけど、もう夕方だぜ? 中途半端で終わるのがオチだって」
「二見君の言う通りだよ。今日中に買い物をして土日で荷物をまとめると言ったろう?」
うーん……こう言えば済むかな?
「お前ら、ハワイのお姉さんにまともに準備もしていない状態で行って笑われても良いのか?」
「「さて、さっさと買い物済ませるか!」」
「……さすがだね」
「慣れてるからね」
時々バカ2人が暴走したがなんとか無事に買い物出来た。買い忘れは全て中林君がチェックしてくれたのでナシ。
「我が同志よ! 俺はこれからハワイのお姉さんの為にしっかりと準備をしておく。そっちもぬかるなよ」
「当然だ。エロに懸けて手は抜かないさ」
「中林君はいつから準備始めるんだ?」
2人は無視して中林君に話しかける。
「そうだね……明日にしっかり準備して明後日の夕方~夜に最終確認をして、と言う感じにするつもりだよ。そうするとまず忘れ物はしないだろうからね」
「なるほど。俺もそうしよっかな」
そして……待ちに待った修学旅行当日――だと言うのに
「何で俺って奴は寝坊するかなぁあああああ!!??」
朝起きると部屋に『二見、起こしたけど起きないから先行くぞ~』と言う書き置きがあった。時計を見ると8時ジャスト。出発が9時で寮から駅まではちょうど1時間くらいだから……今こうして全力疾走しているわけである。俺、ホントバカだ……。
「ちくしょう、興奮しすぎて全然眠れなかったからだ!」
だってハワイだよ? 初海外だよ!? 興奮しない方がおかしいだろ! 絶対間に合ってみせる!!!
それからとにかくがむしゃらに走り続け――
「ぜぇーっ、はぁーっ……おっしゃあ! ギリギリセーフだ!!」
時計を見ると8時50分。ナイスだ俺! 良くやった俺! あとは新幹線に乗るだけだ。
エヴァ様、すっかり丸くなられて……(笑)
こんなゆるーい雰囲気のまま進んで……いけたらいいな。