「では、今週の成果を発表するです」
「おう。今週はこれくらいかな」
今週分の成果を書き込んだノートを綾瀬に手渡す。え? 昨日やっておけば良かったって? いやいや、一応今日が成果発表の日だからな。昨日会ったとかは関係ないのだよ。
「ふむふむ……5本ですか。少々ペースダウンしてるようですが、我々の部活は早さを競う物ではないので特に問題は無いですね。それで、こちらが私の成果です」
今度は俺が綾瀬からノートを受け取って内容を確認する。たまに思うけど結構綺麗な字だよな。……俺が雑なだけか?
「くっ……8本か。まーた負けちまったぁ」
これで2週連続で負け越しだ……。何故だ? 場所か? それとも探し方?
「何の勝負ですか」
「いや、なんとなく。だからそんな呆れた目で見るんじゃない」
「……まぁ良いです。では、今週のおススメは何ですか? 私はこの『お酢卵マヨネーズ』をおススメするです。最初は単なるマヨネーズ味の飲み物だと思ったのですが、意外とお酢と卵が邪魔をしてマヨネーズを全く引き立たせない面白い物となっていたです」
「なるほど。俺は『振って飲むゼリー・魚の煮こごり味黒酢入り』だな。ゼリーが異常にドロドロしてて飲みにくかったりするんだよ。でも魚と黒酢の味が結構合ってて美味かったぜ」
何の魚か分からないのが一番面白いところだな、うん。
「ほうほう。それはまた面白そうな飲み物ですね。では、これらを学園長に届けに行きましょうか」
「りょーかい」
…………
………
……
…
「では学園長、これが今週分のドリンクです」
と、綾瀬がさっきの二本を学園長の机の上に置く。
「お、おお……すまんのぅ……(誰か! 誰か助けてくれーーーーーっっっ!!!)」
「学園長、今回のもすっげー面白いっすよ!」
「そ、そうかの。それは楽しみじゃ……ふぉ(ワシ……本当に死ぬかも)」
「綾瀬、学園長にドリンクも渡したしそろそろ帰ろうぜ」
「ですね。では学園長、失礼しますです」
綾瀬に続き、俺も学園長室を後にした。学園長、顔が引きつってたけどどうしたんだろう?
「私はこれから本屋に行く予定ですが、二見さんは真っ直ぐ帰宅ですか?」
「んー……寮に帰ってもする事ないしなぁ……。本屋について行っても良いか?」
「良いですよ。では、私が哲学の魅力についてたっぷりと――」
「それは勘弁してくれ」
俺が見るのなんて漫画とかその辺だし。あと、本の話題になる度に勧められてる気がするが……特に興味がわくわけでもないしなぁ。
「そうですか? なら神社仏閣はどうです?」
「お前……自分の趣味で俺を染めようとしてないか?」
「うーむ……変人のあなたなら理解してくれると思ったのですが……」
「待てやコラ」
もう変人扱いは慣れたけどさっ? それでもやっぱ酷いと思う訳ですよ!?
「?」
「そこで不思議そうな顔するんじゃねえよ!」
「……まぁ良いです。早く本屋に行きましょう」
「釈然としないが、そうだな」
なんで俺が「仕方ないなぁコイツ」みたいな感じになってるんだ? おかしくね?
「一応言っておきますが、くれぐれも二見さんの年頃の男性が買うようないかがわしい本は私の目の前で買わないでくださいね」
「買わねえよ!! お前マジで俺を何だと思ってるの!?」
「変人ですが?」
「変態の間違いじゃねえのか?」
「そうとも言うです」
「や・か・ま・し・い!!」
ほっぺた引っ張ってやる! 俺のピュアな心を傷つけた罰だ!
「ふぁ!? ふぁにふるですか!!(訳:あ!? 何するですか!!)」
「うるさいよ! いきなり俺をどこぞの変態と一緒にしたお前が悪い!」
俺は武村みたいな変態じゃない! 仮に変態だとしてももっと慎ましやかな変態だ。
「うぐ……痛いです」
「そりゃ抓ったからな」
「ヒリヒリするです」
「へー」
なぜだ、悪いのは向こうだと言うのに俺に物凄いプレッシャーが……。
「いきなり女性の肌を抓るのは如何な物かと思うのですが?」
「いきなり男性を変態扱いするのは如何な物かと思うのですが?」
「……」
「……」
そうして俺と綾瀬の間に見えない火花が散り……。
「「ごめんなさい」」
「抓って悪かったな」
「こちらこそいきなり言う言葉ではなかったです。申し訳ありませんでした」
結局二人で謝り合って終了した。うん、ケンカは良くないよね。……俺は断じてプレッシャーに耐え切れなくなったわけじゃないぞ? 違うからなっ!!
「ま、とりあえず本屋に着くまでの暇つぶしにはなったな」
「そうですね。では、私は哲学書を見てくるです」
「んー」
さて、俺はマガシソでも立ち読みすっか。特に読みたいシリーズとかは無いんだけども、つい読んでしまう。
「こらこら、そこの中学生立ち読みは駄目だぞー」
「あ、すんませ――」
店員さんだと思われる人の声に振り向くと見慣れた顔がそこに映っていた。
「おーい、聞いてるー? ねー、ふたみ~ん?」
「アッパー!!」
猫撫で声で人の名前(あんな呼び方許してない)を呼びやがる鷲崎。
「グハッ!! き、効いたぜお前の右アッパー……」
「遺言はそれだけか?」
「ま、待て! 待ってくれ! 俺は今バイト中なんだ!」
「……お前いつも思うけど一体いくつバイトしてるんだよ?」
「2~3日毎に別々のやってるから総数で言うと5、600くらいじゃね?」
なんで一個に絞らないんだろうか。てか、何で中学生がバイト出来るんだろうか? ……ま、心の底からどうでも良いからもう帰ろう。
「ふーん。じゃ、俺帰るわ」
「冷たい! 反応薄すぎないふたみん!?」
「んじゃまた月曜になー。あとふたみん止めろ。いい加減ブットバスゾ」
「いやだいやだ! 俺は絶対にふたみんって呼ぶんだ!」
体をくねくねさせながら変な事をのたまうキモい物体を放置して俺は本屋を出た。
「良い感じに時間も過ぎたし、寮帰って風呂入ろう」
たまには大浴場行くのも悪くねーか。
…………
………
……
…
「ただいまー」
「おー、二見お帰りー」
「おい変態、エロ本片付けろや」
帰って来るなり目に飛び込んだのは事もあろうかエロ本だった。……いや、こいつがいる以上は想定内か? 誰か、ルームメイト変えてください。
「えー!! せっかくこれからエロ本風呂に入ろうと思ったのに!」
「捨てられるか燃やされるか破かれるか、好きなのを選べ」
「全部しねえよ!! 分かったよ、直せばいいんだろ!? 二見の分からず屋! ムッツリド変態が!!!」
「はいはい。あと五分で片付けないと燃やすな」
エロ本焼却用のライターをチラつかせながら片付けさせる。あ、暴言? 気にしねえよ。だって武村だし。
「ご、ごめんなさあぁぁぁぁいっっっ!!!」
ほら、泣きながらエロ本片付けてる。
「そういやお前明日明後日はどうするんだ?」
「えーっと、明日は同志達との集まりで朝から晩までいなくて、日曜は特にないかな」
「ふーん」
「二見は?」
「別に。特にねえさ」
ドリンク以外する事ないし……。おや? 俺って結構寂しい奴?
「お前……寂しい奴だな」
「うるせーよ」
だが実際寂しい奴なのは変わらない訳で……そのまま土曜日を迎えてしまった。
「まぁ……そんな困ってるわけでもないんだけどさ」
って、俺は誰に向かって言ってるんだ? 独り言を言うようになったらヤバいよなぁ……。
「うっし、良い天気だし。今日も今日とてドリンクを探しに行くか~~」
今日はついでに買い物もしたいから商店街の方に行くとしよう。
…………
………
……
…
「うへー、やっぱ休日の商店街ってのは人が多いなぁ」
こう人が多いと買い物するのも億劫だ。場所変えるか? 別に買い物は今日じゃなくてもいいし……。
「貴方は……」
「え?」
「む?」
誰かに呼ばれて振り向くと、以前猫に襲われている所を助けてくれた絡繰、それと金髪の可愛い少女。妹か何かだろうか?
「その節はどうも」
「いやいや、こっちこそあん時はサンキューな」
てか俺がどうもとか言われる謂れは無いって。むしろ俺が感謝するだけだって。
「おい茶々丸。誰だコイツは」
「はい、この間猫に襲われていた方です」
「……バカか貴様は?」
「チョップ!」
いきなり人の事を馬鹿にする少女の脳天に必殺チョップを叩き込む。この子はあの不気味さを知らないからそんな事が言えるんだ! それと年上の人に対して貴様とか言っちゃいけません。
「あいたぁっ!? いきなり何をする!」
「あのね? 年上の人にはもう少し丁寧な言葉遣いを心がけようね? 君、初等部の何年?」
「……茶々丸」
「なんでしょうか?」
「こら! お姉さんを呼び捨てにしちゃ――」
「黙っていろ!!」
「あ、すみません」
何かすごい迫力で睨まれたので素直に謝ってしまった。子供相手に情けないな俺……。
「マスター、この人が以前ジュースを頂いた人です」
「なにぃ!? それを早く言え! おいお前、名前は何と言う?」
「……」
えーと、確かこの近くの自販機は……。
「お前だお前!」
「え? あ、俺?」
「ええい、調子が狂う! 貴様の名前は何だと聞いている!!」
「チョップ!」
本日二回目の必殺チョップ。この子は懲りないなぁ。
「へぶぅ!?」
「全く……良いかい? 今そんなだと将来苦労するよ? 逆に今だからその言葉遣いを直せるって事を分かってくれよ。な?」
「ぐぎぎぎ……ゆ、許さん!! この私に二度もチョップを浴びせおって……!」
うーむ。ホント、懲りてないなぁこの子。
「二見さん、ここでは少々話し辛いのでマスターの家に来ませんか?」
「へ?」
「……良いだろう。この私をコケにした報い、その身に刻んでくれる!!」
「お前、本当に口悪いなぁ」
それから少女にチョップを入れつつ絡繰の案内でマスターとやらの家に向かった。……マスターって誰だ?
「うっへー、こんなとこに住んでんのかよ。ほとんど森の中じゃん」
「こんなとことは何だ! 人様の住処にケチつけるでないわ!」
「マスターは静かな所がお好きですので」
「ふーん。おっ!! 自販機があるじゃねーか!! 悪い、ちょっと見て来るから待っててくれ!」
まさかこんな森の中にも自販機があるとはな……。さすがはMAHORAドリンクだぜ!
「分かりました」
「ちっ……」
なんか舌打ちが聞こえた気がするが……まぁ良いや。
「どれどれ……お、『吸血鬼撃退ドリンク』なんてのがあるじゃねえか。最近流行ってるから便乗してんのか?」
ま、初めて見るし買わないとな。ついでにあの二人の分も買っておいてやるか。
「お待たせー」
「遅い! 貴様何分経ったと思っている!」
「いや、2~3分しか経ってないと思うけど……」
「その通りです。二見さんが自販機に行ってこちらに戻ってくるまで2分46秒かかっていますが遅いと言う範疇では無いかと」
スゴイな絡繰、時間正確に分かるなんて……計ってたのか?
「むぐぐ……もういい! さっさと行くぞ!」
「……なぁ、あの子カルシウム足りてないんじゃないか?」
「マスターは牛乳が嫌いなのです」
一人でズンズン先に行ってしまう少女を見ながら絡繰に話しかけた。――ってマスター?
「絡繰、今あの子がマスターって……」
「おい、着いたぞ。とっとと入れ」
「はい」
「……まぁいいや。そんじゃ、お邪魔しまーす」
どうせ家の中で聞けば良いだけだし。それにしても……ログハウスって初めて入るなぁ……。
学園長、割とマジで大丈夫なんでしょうか? 自業自得とは言え年も年なので今後が心配です。
そしてついにあの方が堂々と登場です。オリ主とは次回壮絶なバトルが……待っているハズもなく、平和的に終わります。