一年戦争異録   作:半次郎

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第13話 交錯

 宇宙世紀(U・C)0079年4月。

 都合四回に亘るジオン公国軍の地球降下作戦及びその後の侵攻作戦によって、地上の大半がジオンの勢力圏となった。

 具体的には、ユーラシア大陸が東欧、中央アジアから中国、シベリアまで。北米大陸は北のアラスカ、南はメキシコ付近を除くほぼ全域。オセアニアのほぼ全域。そして、アフリカ大陸の北半分。

 連邦軍本部ジャブローの位置する南米、北極圏及び南極大陸を除き、地球上にジオンの勢力の及ばない地域を探すのが難しいほどの、連邦にとっては圧倒的な劣勢に立たされていることになる。

 ジャブローの連邦軍本部オフィスで、ヨハン・イブラヒム・レビル将軍は、この日も眉間に皺を寄せていた。

 苦虫を10匹ほどもまとめて噛み潰したような渋面に、オフィス内にいるスタッフの大半は、声をかけるのも憚っていた。

 その中で、レビルの執務机の前、来客用ソファに腰掛けた制服が、唯一口を開く。

「将軍、政府からは何と?」

 角張った輪郭、小さいが鋭い目、鼻の下に細く調えた口髭。

 かつて〈ルウム戦役〉で連邦軍先鋒艦隊を指揮し、高級士官の中で分艦隊を指揮したワッケイン少将とともに戦場を離脱し得た数少ない将校の一人、マクファティ・ティアンム中将である。

 連邦宇宙艦隊再編計画の最高責任者であり、連邦軍の中では、レビルにとって数少ない()()である。

 

 連邦宇宙艦隊再編案、〈ビンソン計画〉ーー。

 ルウムにおいて壊滅的被害を蒙った宇宙艦隊の再編成案であり、レビルが主導するモビルスーツ開発計画〈V作戦〉とともに、対ジオンの為の連邦軍改革案と言っても過言ではない。

 ビンソン計画の主眼は、ルウム戦役を生き残った艦艇の改修と、マゼラン級戦艦、サラミス級巡洋艦の再設計及び建造。

 マゼラン級、サラミス級ともに、ジオンに対抗すべくモビルスーツ運用を前提とした格納庫の増設と、ミノフスキー粒子散布下での有視界戦闘を前提とし、電波誘導式の超長距離ビーム砲などに変え、射程距離に劣るものの比較的小回りが利き、砲ごとの有視界照準を容易にする為の射撃支援用システムを取り込んだ大幅な改修を計画している。

 この日の来訪は、ビンソン計画とV作戦、レビルとティアンムが今後の連邦軍の命運を握る両輪と信じる計画の摺り合わせのためであるが、レビルの渋面を見ると、ティアンムとしてはその心痛を窺わざるを得ない。

 

「何もこうもない、いつもと同じだよ……」

 心底うんざりしたような、愛想の無さでレビルが応じる。

 ティアンム来訪の直前に軍本部を訪れた政府高官どもの言い分は、いい加減耳にタコが出来る類いの物。

 

『将軍、君はジオンに兵無しと言った。その結果がジオンの電撃作戦によるこの顛末だ』

『地球の大半を制圧されたこの現状……軍部の責任は重大だな』

『ルウムで惨敗した将軍を宇宙艦隊のみならず軍全体の総指揮官とした、その意味を自覚してもらいたいものだ』

『我々が君と軍に求めているのは、結果なのだよ。君の計画に予算を投入したのも、その『結果』を求めてのことだ。そのことを忘れんでくれたまえ……』

 

 圧倒的劣勢にある現状の責任を軍とレビルに負わせることで、自分たちの政治責任追求を逃れることしか考えない、保身主義の政治屋たち。

 レビルの立場からすれば腹が立つことこの上ないが、地球連邦の政治形態上、軍部が政府の統制下にある以上、彼らに従うしかない。  

 

 帽子を脱いで机の上に置き、白い髪を掌で撫で付けながら、レビルは溜息混じりに言った。

「このジャブローに隠っている軍幹部が土竜なら、政府高官(やつら)は鸚鵡だよ。保身の台詞と程度の低い小言以外に言葉を知らんらしい」

 辛辣な台詞である。

 その皮肉な口調に、一瞬笑おうか迷ったティアンムであったが、結局笑うのをやめ、しかつめらしい顔を作った。

「まあ、彼らの相手はゴップ提督がしてくれている。〈V作戦〉はこの間、予算案が可決された……ようやく動き出したところだよ」

 レビルが、若干表情を和らげる。

「そうですか。……〈ビンソン計画〉はそちらに比べれば比較的順調と言うところですな。……まあ、政府筋がいくら石頭と言えども、制宙権を取り戻すために宇宙艦隊の再建は不可欠ですので、それもありましょうが」

 レビルにつられて、ティアンムの口調も政府に対しては厳しいものとなる。

「今後の課題はモビルスーツ運用……我らには未だノウハウがありませんからな。当面は過去のジオンの戦術の研究を始めさせているところですが……」

「うむ……それしかあるまいな。ときに、ザクⅡを土台(ベース)にした試験機が近々組上がる予定だ。その内の何機かをそちらに回せるか手配しておこう」

「たしか……〈RRfー06〉でしたかな」

 ティアンムの問い掛けにレビルが頷く。

「まだ試作段階だ……どこまでの性能になるかはわからんがな。……今はまだ堪えるときだ。ひとつひとつ……耐えて地道に積み上げていくしかない」

 レビルの言葉の後半は、単にモビルスーツ開発に関してだけのことではなかった。

 それは、ジオンの勢いに圧倒されている戦況、そして、政府と軍部との軋轢。さらには軍内部においてもまとまらぬ意見対立、常にその矢面に立ち続けるレビルの姿は、ティアンムにとって連邦軍総司令官と仰ぐに足りるもの。

 再確認せずとも共通する捲土重来の思いを秘め、事実上の連邦軍首脳の軍議は続いていった。

 

 

           *

 

 

 この時期、地球に降下したジオン公国軍にとっても、万事が順風満帆というわけではなかった。

 

 たしかに、日増しにジオンの勢力圏は広がりを見せている。「破竹の勢い」という(ことば)そのままに、至るところで連邦軍の抵抗を食い破り、支配地域を拡大している。

 否、「拡大」どころか、地上のジオン支配地域は爆発的に「肥大化」しているとも言えた。

 ジオン国内が快進撃に沸き立つ中、表層に顕れない問題も内包していた。

 生まれて初めて降り立つ天然自然の大地。時に氷雪の冷たさで、時に熱砂を孕んで吹き抜ける風。満天の星に彩られた美しい夜空と、朝日に美しく映え色鮮やかに目を楽しませる、夜露に濡れた草花。

 殆どの将兵にとって未知となる経験が心を撃ち、感動をもたらしたのも束の間。

 気温、天候に至るまで全てが管理されたスペースコロニーと異なり、土地土地によって千差万別の気候。

 場所によっては生水を口にしただけで病気を発症しかねない、過酷な土壌。

 微小な虫を介して伝染する、原始的な病気。

 等々。

 形容しがたい美しさに満ちた地球環境は、時としてスペースコロニーにいては体験すら能わぬ過酷な環境を、遠征の途に上る将兵に容赦なく突き付ける。

 連戦に次ぐ連戦を甘美な勝利で飾りつつ、それでもなお将兵の心を翻弄し、その士気を挫かんとする、抗えない思い。

 

 人類の揺り篭である地球ーーそれでもこの地球(ほし)は、(おれ)たちの故郷ではない。

 

 相次ぐ降下作戦が一段落し、地球上では小規模の小競り合いが各地で頻発している。ジオン優位の戦況のまま、大局的に見ると、戦争自体が小康状態になりつつある。

 将兵が必死に戦っているうちは良かった。余計なことを考える余裕がないからである。

 だが、大規模な衝突が途絶えたとき、生き残った将兵の胸に去来したのは、戦勝の甘美な果実と充実感、そして、その果実を抱いて生まれ故郷である宇宙(そら)に帰りたいという思い。夜空に浮かぶ月と星を見上げる度に、否応なく胸を穿つ郷愁。

 それが厭戦的な気分に直結しないのは、開戦以来積み上げた連勝が高い士気を保たせているからに他ならない。

 

 そして、ジオンにとって最大の懸念。

 物的にも人的にも、その国力と開戦までの備蓄が、連邦に比して圧倒的に劣っていること。

 モビルスーツの運用という戦術、或いは戦略的なアドバンテージによって、開戦以降、ジオン軍の損耗は連邦に対して圧倒的に少ない。が、しかし、比率ではともかく、物資も、その生産量も、そして戦闘に耐えうる兵として徴用可能な人口も、絶対数として連邦に比べれば圧倒的に()()()()のであった。

 今はまだ、月面のグラナダにあって地球侵攻を統括的に指揮するキシリア・ザビ少将の采配とザビ家の威光により、各方面軍の連携が図られ、補給もーー多分に紙一重ながらーー破綻を来すことはない。

 だが、如何にオデッサにマ・クベ大佐率いる資源採掘隊があり、北米の穀倉地帯をガルマ・ザビ大佐率いる地球方面軍が押さえているとはいえ、鉱物資源も糧食も、鉱山や田園を支配すれば無限に湧き出てくる類いの物ではないのだ。

 無制限に湧き上がるのは、支配下地域に住み、スペースノイドに反感を抱く地球至上主義者の不満の声だけである。

 各方面軍司令官にとっては、市井から挙がる不満を抑え、彼らを懐柔することに、ある意味では戦地以上の苦心を強いられる者も少なくなかった。

 真偽のほども定かではないが、地球に降下した将兵の士気の低下を危惧した宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将が、ギレン総帥に対し、兵の士気が高いうちに一挙にジャブローを攻撃すべしと進言し、ギレンに却下された等という風評すら、地球に居る高級士官の一部に流布する始末であった。

 

 当面、士気の低下の心配がない部隊の一つが、突撃機動軍麾下の特殊部隊大鴉(レイヴン)隊である。

 この4月初旬の彼らは、地球降下に次ぐ東アジア侵攻に参加した後、地球に降りて以来の拠点であるクリミア半島、セヴァストポリに帰還途中であった。

 彼らの士気が他の部隊と比しても高く保たれている理由は、環境に影響されたところが大きい。

 特殊部隊という性質上、各地を転戦しているものの、常に最前線に立つという訳ではない。そして、彼らが地球での拠点として貸与されたセヴァストポリ基地は、黒海に突き出したクリミア半島の最南端。オデッサの前進拠点という性質は連邦軍管理時代と変わらないが、地上においてもジオンが優勢な現在では、前線からは離れた安全地帯にある。

 奇襲のおそれが少なく、風光明媚な土地に屯し、作戦参加時と訓練時を除いては心身を休める時間が比較的多目に取れるということ、さらに、参加した全ての作戦において一廉の戦功を挙げているという自信が、彼らの士気を保たせていた。

 

 中国方面の小拠点攻略に参加した後、二機の大型輸送機〈ファット・アンクル〉にモビルスーツとパイロットを分乗させ、ヒマラヤ山脈南方を西に進路を取る彼らは、俄に発生した戦闘に巻き込まれた。

 

 部隊を率いるカイ・ハイメンダール少佐の乗るファット・アンクルの副操縦席に座ってオペレーターを務め、センサーを睨んでいたチカ・ソラノ兵長が声を張り上げた。

「センサーに反応複数! 当機の下方……取り囲まれています!!」

「敵か?」

 カイの冷静な声に、チカがセンサーを見つめなおす。

「いえ……失礼しました、識別確認。・・・・・・友軍も混じっています。戦力比凡そ三対一、友軍が不利です」

「ふむ……」

 カイが顎に手を当てて考え込んだ直後、僅かに後方を飛ぶファット・アンクル二番機からの通信が入る。

 モニターに現れた顔と声は、隊のモビルスーツ隊のエース・・・・・・部隊の戦闘面での実質的な責任者とも言える、ヤクモ・セト大尉。

「カイ、確認したか?」

 その声は、質問形式ではあるが、実際には確認ではなく、決断を促すもの。同じセンサーを有する輸送機同士、一方が捉えた反応をもう一方が知覚しない筈などありえない。

 一見不利な現状にある友軍の援護をすべきか、さもなくば想定外の戦闘に巻き込まれる前に、早急に離脱するべきか。

 カイがヤクモに返答する直前、再度チカの声が飛ぶ。

「後方に敵戦闘機と思われる機影、急速接近中!」

「・・・・・・だ、そうだ」

 カイが、苦笑混じりにヤクモに返す。

「自分たちの身の安全は自分たちで守るしかない。ここも戦地ということだな」

「・・・・・・わかった、迎撃に出る」

 通信が途絶え、ヤクモの顔がモニターから消える。

 部隊に指示を出すカイの目付きは、既に戦場の指揮官の鋭いものになっている。

「聞こえたな? 後方の敵機を迎撃する。対空戦準備、左にダイブしつつ旋回、回避行動後、レジーナ機を迎撃に出せ」

 指示を受け、機内が俄かに殺気立つ。機体最上部にある二連装機関銃が急いで向きを変える。と、同時に、機体が左下方に向けて大きく傾いた。

 その頭上の空間を、連邦軍戦闘機から放たれた銃弾が切り裂いていく。

「少佐、友軍から通信です! ・・・・・・『所属不明機の友軍機に告ぐ、当所は戦場と成れり、早期に離脱せよ』・・・・・・アジア方面軍ノリス・パッカード大佐からです」

 その報を受けたカイの口元に、再び苦笑が浮かんだ。

「既に手遅れというのに・・・・・・先に報せてくれればまだしも。・・・・・・一応返信しておいてくれ。『当方は既に敵と交戦状態に入れり。退避は不可能、貴軍の援護に当たる』というところか」

 

 

           *

 

 

 前方に捕捉した二つの光点。

 それが敵の輸送機であることを確認した連邦軍の指揮官は、内心でほくそ笑んだ。

 彼らの編隊が搭乗する大気圏内仕様の戦闘機TINコッドも、最新鋭機というわけではないが、輸送機程度は歯牙にもかけない空戦能力を有している。

 のこのこ前線に姿を現した()を狩る程度の認識で、無造作に接近しつつ、機銃を放つ。

 慌てて回避したように見える敵輸送機の上空を通過して反転したとき、敵輸送機が観音開きの格納庫ハッチを開くのが見えた。

 そして、そこからザクの頭部が姿を現したとき、連邦軍の戦闘機パイロットたちの間に、共通して冷笑が浮かぶ。

「おいおい、奴ら正気か? この高度であんなもの持ち出す気だぞ」

「撃墜されるより墜落したいんだろ?」

「パラシュートを狙え。自殺したいなら手伝ってやればいいさ」

 地上において猛威を振るうザクも、空中戦はできない。それは、連邦軍の共通認識でもあった。

 敵襲に慌ててパラシュート降下するザク、そのパラシュートを無力化すれば、ザクは重力に引きずられて地上に落下するしかない。

 空を戦場としてきた戦闘気乗りにとって、それは、地球上で「昼の次は夜になる」のと同じくらい当たり前の認識であった。

 一瞬姿を見せてから下方に沈み込んでいくザクの姿を見た彼らは、無造作に接近した次の瞬間、彼らにとって()()()()()()()を目にした。

 

 モビルスーツが空を()()()()()--。

 

 正確には、ザクⅡ自体に大気圏飛行能力などない。その現象の正体は、中空に躍り出たザクの足元にあった。

 その足の下にあるもの--赤茶けた色の、扁平な形状の飛行物体。ジオン地上軍の運用する、型式番号YS-11〈ドダイ〉。元来爆撃機であるが、本来の用途以上に有り余る推進力は、その「背」にモビルスーツを乗せてなお、大気圏内を飛行するに十分なほどである。

 ジオン公国突撃機動軍所属の特殊部隊大鴉(レイヴン)隊は、先に参加した作戦において試験的にドダイにザクを乗せて奇襲しているという一応の戦果はあるが、現在その光景を目の当たりにした連邦軍のパイロットたちには、そのような予備知識はない。

 彼らにとって不幸だったのは、彼らが「鴨」だと思っていた相手が、地上のジオン軍の中でも歴戦を誇る特殊部隊であり、その部隊が、碌に試験もしていない運用方法を実戦でいきなり活用するほど無謀--ある意味勇敢であったことと、何より、その「いきなりの実戦」に耐えうるほど練度の高い部隊であったこと。

 

 TINコッドの編隊は、それを操るパイロットたちが驚愕から覚めやらぬうちに、「空を飛ぶ」非常識なザクによって次々と撃墜されていった。

 

 

           *

 

 

 当面の脅威であった戦闘機を落とし終えたヤクモは、自機の死命を預けるドダイのパイロットに声をかけた。

「マーク、ドダイの方はまだもつか?」

 モビルスーツパイロットになる前には宇宙戦闘機乗りであった経験から、半ば無理矢理、ドダイの暫定パイロットを務めるマーク・ビショップが応える。

「まあ、何とか。・・・・・・このまま()にも仕掛ける気ですね?」

「流石、話が早い」

 軽く笑ったヤクモが、表情を変える。

「このまま高度を下げてくれ、地上に降りて仕掛ける。マークは、俺が降りたら高度を上げつつ敵に対地ミサイルを撃ち込んで帰投してくれ」

 そこまで言ってから、ザクⅡのモノアイの角度を変え、同じように中空にある僚機を視界に収めた。

「ジニー、それでいいな? 手伝ってくれ」

 

 

           *

 

 

「・・・・・・ニー、・・・ジニー! 聞こえてるか!?」

 繰り返し呼びかける通信によって、レジーナ・ハイメンダールの意識が「現実」に戻ってくる。

「え? あ、ごめん、なんだっけ?」

 慌てて聞き返す声に応じたのは、ヤクモの心配するような声。

「大丈夫か? どこかやられたのか?」

「うん? そんなことないよ。少し、考え事をしてただけ」

「はぁ・・・しっかりしてくれ。まだ戦闘中だぞ? これから地上に降りて友軍の援護に向かう。いけるか?」

「ん、大丈夫」

 ため息混じりの呆れ声に応えつつ、戦闘中に余計なことを考えていた自分を少し羞じ、その反面、通信の相手に少し腹が立つ。

 

(まったく・・・誰の所為だと思ってるんだか!)

 

 現在は、普段と全く変わりない様子だが、先に「おかしな様子」になったのは、ヤクモが先である。

 先般行われたククルス・ドアンという逃亡兵の追跡作戦、その逃亡兵の尋問に当たった直後、何を話しても上の空で、どこか虚ろになっていたのだ。

 その後数日で、何事もなかったかのように振舞っているヤクモであったが、ククルス・ドアンと話をしていたときにちらりと見えた、慄然(ぞっ)とするような空疎な目。

 あの尋常でない瞳を見てしまった瞬間の、不安とも恐怖とも言えない感情は、ヤクモ自身がそんな出来事がなかったかのようにしている現在でも、時にレジーナの胸の奥に、焦燥とも不安とも言えない想いを駆り立てるのだ。

 

 ジオンと連邦、両軍の部隊の間に交わされる銃火を掻い潜って地上に接近したドダイから、ヤクモに続いて飛び降り、脚部のスラスターを噴かせつつ、地表に降り立つ。

 慣性で前のめりになる機体を、下半身では右足を踏み込んで支えつつ、上体は慣性に無理に逆らわず前傾姿勢を取り、目下直近にいる連邦軍の61式戦車に照準を合わせた。

 

 連邦軍は数こそ多いものの、そのほとんどは旧式の61式戦車とホバートラックである。普段はヤクモの陰に隠れることが多いが、レジーナ自身も熟練の域に達しつつあるパイロット。油断しなければ危険な相手ではない。

 ヤクモと連携を取りつつ、先に地上戦に入っていた友軍を援護して連邦軍を次々に駆逐していく。

 

 予想外の被害を蒙ったのか、辛うじて隊伍を組みつつ撤退していく連邦軍を尻目に、レジーナはヘルメットの中で、軽い溜息を吐いた。

 

 自分の気持ちが今一つわからなくなってきている。

 

(私、何でこんなにアイツのことを心配してるんだろう)

 

 人知れず、誰にも言えない悩みに首を傾げるレジーナ。視線の先にあるモニター内では、左肩が黒いザクⅡが追撃を止め、動きを止めている。

 

 機体に「突撃機動軍の徽章を背に翼を広げる鴉」の、特徴的なエンブレムを書き込んだ二機のザクⅡに、ジオン軍部隊の指揮官機であろう、ブレードアンテナの付いたザクⅡJ型--陸戦型ザクⅡが、近付いて来た。




 ヒルドルブ格好いいなあ……

 うん、ソンネン格好いい。

 良い(ベネ)!! 

 ン!? 何奴!!


ーーしばらくお待ちくださいーー







 ……失礼しました。

 皆様こんばんは。
 健やかにお過ごしでしょうか。

 私事になりますが、3月は中旬以降、急に忙しくなったり、風邪を引いて熱を出したり、花粉症だったりで完全なスランプでした(言い訳)。

 ようやく更新まで漕ぎ着けましたが、今後もペースが遅くなることが予想されますので、ご理解頂けると幸いです。

 新年度になったところで改めて。

 読んで下さる皆様、お気に入りして下さった皆様、そしてご感想、評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。
 この作品の半分は皆様の優しさで出来ています(何のこっちゃ)

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