IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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20話

『取材相手? 篠ノ之束』

 

 さて、今回の事件の黒幕であり、映画のヴィランみたく負けて捕まった。世界を嘲笑う天才な篠ノ之束さん。この度は見事な敗北おめでとうございます。

 

「変なキャラ作りだね。それに私は負けたわけじゃないよ」

 

 ええ、知っております。貴女の対戦相手は彼女達ではありませんからね。しかし、対戦相手の姿しか視認できなかった貴女はまさしく敗者と呼ぶに相応しいと考えますよ。

 

「それもこれも予期せぬ事態が起こったからだよ。まったくイレギュラーだよ。誰か邪魔な横槍を入れてきたに違いない」

 

 負け犬の遠吠えですね。牢屋に収まる貴女は負け犬以外の何者でもないように見えます。だからこそ、貴女の言葉の全ては敗者の戯言でしかなく、それが貴女のプライドと実力の低さをよく表しています。

 

「……もしかして、アンタじゃないよね?」

 

 ははは、ご冗談を。私はしがない雑誌記者に過ぎませんよ。

 

「東京デルタの螺子桐。嘘八百だ。東京デルタなんて雑誌は存在しないし、螺子桐なんて名前じゃないことなんて分かるに決まっているだろ。私を馬鹿にしているの」

 

 馬鹿にはしていませんよ。名前と身分を偽るだけで騙せる相手じゃないことは私自身がよく知っていますよ。

 

「なんで邪魔した?」

 

 なんで、と言われても困りますね。私は私がしたいことを行っただけですし。貴女のようなくだらない復讐心と承認欲求なんてありませんからね。ただ、楽しみたいからです。

 世界にISという画期的な物体を見せつけた三十年前の天才に追いつこうと必死な貴女は滑稽ですよ。

 

「うるさい。黙れ」

 

 口汚いですね。

 貴女が生まれる四年も前に天才が現れ、二つのものを作り上げた。

 一つはIS。

 もう一つは自分自身の才能の一部を再現したクローン人間。

 そしてそのクローン人間はISの出現から四年後にもう一人作られた。

 篠ノ之束。貴女のことだ。

 貴女は自らの才能を自らのものだと思い込んではしゃいでいたようですけど、途中で教えられてしまったんですよね。自分の才能が遊びで作られたと、そもそも自分自身の存在さえ手のひらの上の出来事でしかなかったことを。

 そこから貴女はクローンである自分が遺伝子提供者をぎゃふんと言わせることだけ考えて今までやってきた。結果はなんてことないザマさ。

 

「うるさいって言ってるだろ」

 

 生みの親が憎いのは分かったけど、やり口が意味分からない。強力な人間のクローンを作り出して何をするのか。どうして自ら出陣したのか。仲間が欲しいなら内側をさらけ出して泣きつけば良かったのにね。

 

「……ふん」

 

 頭ン中グチャグチャなんだろ。どこかで諦めているんだ。月村遊姫が自らのクローンに愛情を注いでいるのを目の当たりにしてショックでも受けましたか。真っ当な生まれ方をしていないクローンであることは同じなのに、その受け入れられ方の違いに。

 ま、どうでもいいでしょ。今日ここまで来たのは貴女を虐めるためじゃありませんよ。

 

「じゃあなんできた?」

 

 同じ生まれを持つ者同士の情と言えばいいでしょうか。まぁ、簡単に言えば助けにきたということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『取材相手? 笹萩(ささはぎ)弥子(やこ)

 

「良かったのですか。あのような者を解放してしまって?」

 

 構わないですよ。篠ノ之束はどうせ道化でしかないんですから。母親に勝てないことを認められない可哀想な子供でしかありません。

 

「なるほど。放っておいても害には成り得ないということですね」

 

 アレは母親の才能に嫉妬しているのさ。世間は篠ノ之束がISの量産化を成功させたみたいなことを言っているけど、そんなものは、子供の動向を愉しく見守る母親が反応を見る為に送ったヒントを利用しただけさ。それに気がついて母親を憎むようになった。自分が作り上げたと思っていたものが母親の誘導によって作らされたと憤慨しただけのこと。

 

「それに対して貴方は淡泊なんですね、螺子桐さん」

 

 張り合う気力を持ち合わせていなかっただけさ。同じく渡されたIS開発のヒントは解き明かしたけど。それで世界を変えてやろうみたいな気概もなかったしね。

 

「同じ篠ノ之とは思えませんね」

 

 篠ノ之(つどい)。確かに元は篠ノ之だけどねぇ、今の私は笹萩(ささはぎ)世一(よいち)でしかないよ。篠ノ之家ってなんだろうね。

 

「分かりません。貴方の母親である篠ノ之(まとめ)のことなんてメンタリストが束になっても解明できませんよ」

 

 違いないかもね。

 しかしまぁ、今回の事件は無事に終わったもんですね。束は結局負ける。足元見ないから駄目なんだよ。

 

「まずはあの篠ノ之束のクローンですね」

 

 その通りでございます。あの子にちょっとした指令を与えたのは私さ。せっかくだからと指針を示してあげればすぐに飛びつく。さすが篠ノ之束という名前。

 

「私は貴方の指示で織斑千冬に接触しました。篠ノ之の名前をチラつかせれば簡単でした」

 

 月村姫麗も篠ノ之束の使いと名乗れば疑いもなく、私の開発したISを受け取ってくれました。

 篠ノ之束はもう少し自分名前の危険性に気づけばよかった。おかげでやりやすかったぁ。

 

「それでは帰りましょう、お兄様」

 

 そうだね。十分に楽しめた。帰ろう、弥子。

 あーあ、そうだね、せっかくだからちょっとだけ手を差し伸べようかな。今回の功労者に一人にね。


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