IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

68 / 101
5話

 第三アリーナには既にISスーツを着て万全な状態の一夏がいた。

 

「あれ、がつ――」

「遊姫先生。珍しいですね、このようなところにいらっしゃるなんて」

 

 私の姿に気がついた一夏が何かを言うよりも早く、セシリアが遮るように私の前に現れた。君たちっていまだに仲悪いよね。2人もそうだけど、いまだに一組内は二大勢力がぶつかりあっているらしい。少しは溝を埋めてはいるとも聞いているけども。

 いい加減に仲良くしないと、真耶が心労で倒れてしまう。この前もオレンジジュースを浴びるように飲んでいたのを見たし。

 

「まあね。基本的にアリーナには寄らないから」

「確かに、見かけたことがありませんね」

「遊姫先生って前もそうだったけど、あまり保健室から出てこないですしね」

「それはね、シャルちゃん。仕事熱心な私は怪我人がいつ来ても良いように準備播但で待機しているんだよ」

「多少慣れてきたとはいえ、遊姫先生の仕事熱心という発言はまったく慣れませんわ」

「うん。別人みたいだよね」

「その内慣れるよ」

 

 シャルロットもセシリアも、夏休みが明ける2、3日前に保健室を訪れてきた。多くの生徒達がそうであったように、セシリア達も私の変貌に目を丸くして、次の瞬間には予想外にもISを展開して威嚇してきたのだ。後々聞いたら偽物と思ったなんて言っていたな。ちょっと悲しかった。

 

「ところで、シャルロット。今日は料理部の方に行くと聞いたばかりなのですが」

「うん。僕のそのつもりだったんだけど」

 

 ははは、と苦笑いを浮かべて、私の背後にいる楯無を見る。楯無は不敵な笑みを浮かべて扇子をひらりひらりとしている。

 

「今日はね、一夏くんの為に特別な講師を連れて来たのよ」

「シャルロットさんは関係ありませんね」

 

 楯無が馴れ馴れしく私の肩に手を置く。一夏がえっと驚いているが何をそんなに驚くことがあるのだろうか。私だって専用機持ちなんだ。ちょっと世代が古いだけで。

 だけど、ISが古いことがそのまま弱さに繋がる訳じゃない。一部例外を除いて、私のISは最速の名を欲しいままにしている。例外がいる時点で欲しいままにはできていない気がするけど、あっちは非公式、こっちは公式だから大丈夫だ。

 

「という訳なので、遠慮なくかかってらっしゃい」

 

 何故か自信満々に宣言する楯無。いつから私は君の軍門に下ったのかと問い詰めてあげたい。

 

「生徒会長さんが一番手なんだね。ほら、ISを展開して配置につきなさいな」

「私は別に必要としてないから構わないですよ。それよりも、一夏くんも遊姫先生も早く配置についてほしいなぁ」

 

 一夏そっちのけで進む会話と、その会話を止めようとせずに聞いている一夏。君ももっと積極的に行動しなよ。

 

 

 

 

 

 

「月村先生。手加減はしませんよ」

 

 ご自慢の『白式』を展開して私と向かい合う一夏。私が知る『白式』と形が違う。臨海学校の時に変化したとは聞いたけど、本当に変わったらしい。

 

「考えてみれば、遊姫先生と戦うのは初めてだね」

 

 私の実力など知らないようで、えへへと笑顔を浮かべているシャルロット。可哀想にこれから笑えない時間が始まるとも知らずに。

 

「せめて……せめて一発は当てさせてもらいますわ」

 

 シャルロットとは違い、私のことを知っているセシリアは、聞く人によっては物凄く低い決意を持って私を見つめてくる。身の程を知っていると言えばそうなのかもしれない。

 

「速けりゃいいって訳じゃないのよ」

 

 双天牙月を頭上で振り回しながら、血気盛んな様子で私を睨み付けてくる鈴音。もしかして、知らぬ間に私は彼女に恨まれることでもしたのだろうか。

 

「この紅椿なら捉えられる!」

 

 同じく私の知らない真紅のISを駆る箒。聞くところによると束先輩が直々に造り上げたISらしい。つまり、そんじゃそこらのものでは比べものにはならない性能を持っている。

 

「ふん。教官と代表の座を争った月村教師が相手なら不足はないな」

 

 周囲から少し離れたところに浮かんでいるラウラ。何故に君がここにいるのかと疑問が浮かんでしまう。

 いや、そもそも何で一夏以外にもISを装着しているのがいるのか。それも、全員敵の立場になっている。

 おかしいことになっていると思って、安全なところにいる楯無に視線を送る。笑って手を振ってきた。考えることなくアイツのせいだということが分かった。

 だけど、これはこれでいい展開なのかもしれない。最近ISの練習はしているが、1人で黙々と練習しているので、対戦という形式は行っていない。やはり練習には試合を入れた方が練習にもなるし、臨機応変に対処する必要があるので経験にもなる。

 人数が多いことはさておき、私にとっていい練習になる。できる限りの実力を見せてあげなくてはならないな。

 

「さーてと、試合開始といきますか」

 

 そう言って顔をあげた私の前に丸い物が飛び込んできた。

 丸い物が手榴弾であると気がついた。目の前にあったとしても、手榴弾が爆発する前に範囲から逃れることは造作もない。

 私は手榴弾から離れた。そして、少しだけ離れたところで手榴弾は爆発した。目の眩むような閃光と共に。

 

「フラッシュバンだったの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒが行動に移したのは、遊姫の雰囲気が戦士のそれに変わった時だ。先手必勝、頭を抑える。フラッシュバンをコールして遊姫へと投擲する。

 ISの網膜保護を発動させて視界を奪い去る光から目を守る。

 遊姫が腕で顔を覆って止まっている。光を直に叩きつけられて視界を奪われているのは明確だった。ラウラ以外の全員が目をやられて動きを止めていた。悲しいかな、ラウラには仲間意識の欠片もなかったのだ。

 

「もらう!」

 

 この場で唯一まともに動くことのできるラウラが遊姫へと迫る。ワイヤー・ブレードが装甲から射出され、一足先に獲物へと肉薄していく。

 ブレードが遊姫を切り刻む。ラウラにはその光景が容易に想像できた。

 しかし、ラウラの攻撃を遊姫は紙一重で全てを避けた。

 

「何だと!?」

 

 ラウラの驚愕の声に遊姫はクスリと笑みを浮かべて、見えていないはずなのにワイヤーを掴む。

 

「視界を奪うのはいいけど、正面からの攻撃はいけないよ。避けるのが簡単だからね」

 

 目を閉じたまま遊姫が動き出す。ワイヤーを掴んだままスラスターを全開にして飛び上がると、ラウラの体が引っ張られる。最速と言われるIS『風撫』の出力の前に、シュヴァルツェア・レーゲンは抗うこともできず、空中を引きずり回される。

 フィールドを覆うシールド・バリアーに接触することなくラウラを振り回す遊姫は既に視力が回復しているのではないかと思いたくなるくらいのものだった。

 

「どんどんどんどん行かせてもらうから。頑張ってついてきてね」

 

 ラウラは絶望的な試合を知ることになった。

 

 

 

 

 

 

 味方の損害など知らぬ存ぜぬで放たれたフラッシュバンによって遮られた視界が回復した時、シャルロットが見たものはフィールドのシールド・バリアーに叩きつけられているラウラだった。

 ワイヤーを引っ張って引き寄せたところに蹴りを放ってシールド・バリアーに叩きつけ、またワイヤーを引き寄せて蹴りを放つ。

 ラウラをボールか何かと勘違いしているのではないだろうか。シャルロットだけでなく、その場にいた全員が微動だにせずに成り行きを見守っていた。一学年の中で最も実力のあるラウラがボコボコにされているという事実に動けないでいるといった方がいい。

 

「セシリア……何が起こっているの?」

「ありのままの事態が起こっているだけですわ」

「クラス別対抗戦の時よりも凄いように見えるんだけど」

「あー、一夏もそう思う。あたし、さっきまでの思いが吹き飛ぶくらい勝てない気がするのよ」

「……紅椿よりも速いとは」

 

 ワイヤーを振り回してラウラの小さな体躯を地面に叩きつけた遊姫。地面に激突したラウラのISの装甲が落下の衝撃で吹き飛び、シールド・エネルギーがゼロになって戦闘不能になった。

 

「さてと」

 

 先ほどまで見せていた野生満ち溢れた攻撃などなかったかのようにゆったりとした動作で振り返る遊姫に、全員が瞬時に身構えた。

 

「次は一体誰になるでしょうか?」

 

 絶対に来ないでください。全員の切実な思いだった。

 

 

 

 

 

 

 

「何をぼんやりと身構えている!」

 

 日本刀型のブレードを構えた箒が先陣を切る。その姿に一夏と鈴も闘志を奮い立たせて続いた。

 シャルロットも決心したようで両手に銃器を構えて遊姫に向かって発砲する。

 そんな中、セシリアもレーザー・ライフルを構えて引き金を引いた。

 エミリアと遊姫の試合データを何度も見たことがあるセシリアには、自分の攻撃は掠りもしないだろうと分かっていた。

 案の定、レーザーの線は遊姫の体に重なることはなかった。

 遊姫が次の標的を定めた。

 レーザーと実弾の火線を潜り抜けた遊姫が、壁蹴りをするかのように、箒、一夏、鈴の順番に蹴って加速し、真っ直ぐセシリアへと向かって行く。セシリアの目には3人が見えない何かに横殴りされたようにしか見えなかった。

 

「やあ、久しぶり」

 

 セシリアの耳に飛び込んでくる日常的な言葉と首に回される腕。しかし、肉体を襲うのは常識外のスピード。引っ張られるなどと言うにはあまりに強い力が、セシリアの意思を無視して体を空中を引き回す。ISの装着者保護機能がなければ体が引き千切れていることだろう。

 肉体の自由が利かないほどのスピードに晒されたセシリアは目まぐるしく変化していく景色も認識することができず、混乱してがむしゃらにレーザー・ライフルの引き金を引いた。

 

「あああああああっ!?」

 

 半狂乱になったセシリアは意味のある言葉を紡ぎ出すこともできずに振り回され続けた。それでも敵に攻撃しようとする意思はあるようで、レーザー・ライフルの引き金をカチカチと引いている。狙いなどなく放たれたレーザーは、遊姫を捉えようと躍起になる一夏達の行く手を阻んでいた。

 

「ちょっ!? セシリアの馬鹿。アンタ、どっちの味方よ!」

 

 暴風の中にあるというのに、セシリアの射撃は確実に味方に向かって行き、鈴は遊姫と結託しているのではないかと疑うしかない。実際は遊姫が上手く調節して当たるように仕向けているだけなのだが、鈴にも他の誰にもそんなことは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 みんなして怯えに怯えまくっているね。

 セシリアの首に腕を回して空中散歩。一夏達が頑張って追いかけてくるけど、私の方がまだまだ速いので一向に追いつく気配を見せない。まぁ、セシリアの援護射撃を避ける必要があるからなおさら追いつくことができないんだけど。

 セシリアが生きているか確認してみるともう意識は途切れる寸前みたいで、よく分からない義務感でレーザー・ライフルを引いていた指がピクリとも動かなくなっていた。

 こうなるともう抵抗の意思もないだろうから、セシリアを周囲を囲うシールド・バリアーへと投げ捨ててセシリアとはおさらば。残るは4人だ。

 セシリアが無事シールド・バリアーにぶつかって落ちていくのを見届けてから振り返ると、真っ赤な装甲と、それを纏う我の強そうな瞳を持った箒がいた。

 両手にそれぞれ持った日本刀を振りかぶってくる箒。普通の人ならダメージを覚悟する状態だが、生憎私もISも普通の範疇から外れている。

 紙一重で斬撃を回避して箒の後ろに回り込む。セシリアにしたのと同じように首に腕を回して捕える。

 箒の攻撃が避けられた時の為に鈴が背後に控えていて、私が箒の後ろに回り込むのを見て、咄嗟に武器を振るってきた。

 このまま避けるのは簡単だ。私はスラスターを噴かせて箒と立ち位置を交換すれば、鈴の刃の先にいるのは箒。私は箒の後ろにいて、彼女を楯にしている状態になる。

 私と箒の位置がくるりと入れ替わったのを見て、鈴が慌てるが振り下ろした腕が早々に止まる訳はなく、多少威力を軽減することはできたが、攻撃を命中させないことはできずに、箒のシールド・エネルギーを削り取った。

 仲間を攻撃してしまったことに狼狽える鈴。隙だらけな姿を晒しているので、私は箒の背中を押し出すように蹴って鈴にぶつける。

 後は独壇場。箒と鈴の周辺を飛び回りながら足のブレードで切り刻んでいく。抵抗は許さずに、腕を打ち、足を打ち、頭を打ち、体の至る所に蹴りを浴びせる。

 

「代表候補生なら抜け出してみなさいな」

 

 嵐のようにぐるぐるぐるぐると飛び回っての攻撃の前に、2人は何もできずに打ちのめされるだけで、抵抗することができていないし、私も言葉とは裏腹に抵抗させてあげる気はない。そんな状況下でも腕に覚えのある者や、向上心豊で熱意のある者は無理矢理抵抗するものだからだ。抵抗できないのは……半熟にも満たない未熟ものだからかな?

 半熟でも未熟でも私のやるべきことは変わらない。ボロボロになった2人の首根っこを摑まえて急降下。落下と言ってもいいほどの勢いで地上へと向かい、2人の体を地面に叩きつける。

 

「あがっ!?」

「くふぅっ!?」

 

 苦しそうな声を漏らして、2人のISが待機状態に戻る。これで後は一夏とシャルロットの2人だけだ。

 本来ならば、いの一番に一夏を撃墜するところだが、今回はあくまで一夏の為の練習試合であるからいきなり脱落させては意味がない。関係のない子から叩いていき、圧倒的な力というものを自覚してもらうのだ。まだ、君は弱いんだよって。

 一夏以外の生き残りがシャルロットになったのは、心のどこかで贔屓しているからかな。

 セシリアでも構わないのだけど、考えてみれば彼女はエミリアの愛弟子だから私が好き勝手にああだこうだと言うのはよくないだろう。セシリア自身も一番はエミリアみたいだし。

 それなら、こんな私を慕ってくれているシャルロットに、授業では知ることのできない格上の相手との戦いを教えてあげようじゃないか。

 結果、シャルロットは涙目で私の一挙一動に怯えている。やり過ぎたという自覚はあるけど、経験させるということで多少の罪悪感に蓋をしておこう。世の中は友達教師や友達家族で立派な人間ができる訳じゃないんだから。

 

「ごめんね、シャルちゃん」

 

 地上から空にいるシャルロットを見上げる。

 

「な、なんで謝っているんですか!? そ、それじゃあ次が――」

「うん。次は君の番だよ」

「嘘だと言ってほしかったです」

「大丈夫か、シャルロット?」

「大丈夫に見えるの、一夏?」

「わりぃ。どう頑張って見ても大丈夫そうには見えない」

 

 青白い顔になったシャルロットと、余裕の欠片もない一夏。どちらも取るに足らない相手だ。

 

「さーってと、休憩時間は終了したよ」

「あ、遊姫先生? 今から降参してもいいですか?」

「降参なんて認められないから諦めてみようか、シャルちゃん。みんながみんな通ってきた道なんだから、ちょっと位は我慢してみようよ、元男の子」

「最初から最後まで僕は女の子ですから、我慢なんてできません」

 

 降参したいと言っておきながら両手にマシンガンを構えて引き金を引くシャルロット。青白い顔に反して、私を確実に狙ってくる。

 だけど、遅いと言わざるを得ない。私は右に少しだけずれて全弾をやり過ごすと、シャルロット目がけて一気に加速した。

 シャルロットが悲鳴をあげながらマシンガンを所かまわず乱射するが私には掠りもしない。何故か隣にいる一夏にまで銃口を向けるため、一夏が慌てて射線から外れた。

 狙いもへったくれもないマシンガンというものは予想ができないので以外と避けるのに気を使った。気を使っただけで、簡単にシャルロットへと最接近することができた。

 接近してシャルロットの頭を掴んで膝蹴りを浴びせる。

 衝撃にシャルロットの体が仰け反っって腹部が天に向いた。

 その腹に私はかかと落としをする。

 体中のスラスターを使ってのかかと落としの威力は絶大で、シャルロットは体をくの字に曲げながら、背中から地面に激突して動きを止めた。

 

「うおおおお!」

 

 横から雄叫びが聞こえてくる。一夏が吼えて、私へと斬りかかる。

 迫りくる『雪片』を私は左足で受け止めた。

 

「零落白夜!」

 

 ブレードとは言え私の装甲と『雪片』の接触に勝機を見出した一夏が『零落白夜』を発動する。刀身をエネルギーが包み込み、全てのエネルギーを消し去ろうと牙を剥いた。

 

「何でだよ、零落白夜が命中してるのに!?」

 

 だけど、そこに待っていたのは勝利ではなく驚愕だ。装甲に接触しているというのに、『零落白夜』の攻撃

が私のエネルギーを削ぎ落とせていない。その光景を見た一夏は信じられないものを見ているかのような間の抜けた顔をしていた。

 

「命中しているよ。間違いなくね」

 

 零落白夜は正しく発動している。そこは断言してあげよう。正しく発動できているからこそ、私の

シールド・エネルギーを削ることができないのだ。

 エネルギーを無効化にする『零落白夜』はシールド・バリアーを切り裂いて、膨大なシールド・エネルギーを消費させる絶対防御を発動させるというもの。

 シールド・バリアーと接触することができれば無効化にして、絶対防御を強制的に発動させることができるが、生憎ながら私の足のブレード部分にはシールドバリアーが張られていない。ブレードの内側にシールド・バリアーが張られているのだ。

 『零落白夜』の弱点はシールド・バリアーには絶対的な力を持つが、物理装甲の相手には全くの無力だということだ。

 学年別トーナメントでソレはもう知っているだろうに、一夏は状況をうまく呑み込めていないようで、明らかに動きが鈍っていた。

 私は『雪片』を上空に蹴り上げると、一夏が両手に力を込めて『雪片』が飛んでいくのを防いだ。

 しかし、私の蹴りの前に両腕は頭上へと打ち上げられ、無防備を晒してしまっていた。

 

「素直に手を離せばよかった」

 

 一夏の腹部を蹴ると顔を突き出すように前のめりになるので、首に腕を回してがっちりと捕まえる。そして何度も腹部を膝で蹴ってある程度ダメージを与え、蹴飛ばして解放してあげる。

 もちろん、解放は一時的なものだ。吹き飛んで行く一夏を追いかけて足を掴んで地面に叩きつける。

 

「ぐううう!?」

 

 呻き声が聞こえる。無視して頭を掴んで地面に押し付ける。

 一夏の頭を地面に押しつけたままスラスターを吹かして加速する。

 

「あがががががが!?」

 

 接触した衝撃でガタガタと揺れる頭を離さずに地面を滑らせ続ける。華麗などそこにはない。

 3分ほど地面を滑らせてから一夏を上空に放り投げる。

 

「くっ!?」

 

 投げ放たれた空中で必死に姿勢制御をしている一夏。その無防備な姿に向かって、私は右足を突き出した恰好で突撃した。

 

「これで終わり!」

 

 全身のスラスターを集中させて得た推力による蹴りは、一夏が視認するよりも早く体に突き刺さってそのまま押し出した。

 

「って!?」

 

 苦悶の表情を浮かべながらも一夏が見たものは、フィールドのシールド・バリアーだった。私は一夏を蹴りで突き刺して、シールド・バリアーへと叩きつけて試合を終えたのである。

 

「さーってと、生徒会長さんにも特別に指導してあげるよ」

「私、今日は生徒会で忙しいんですよね」

 

 そして、ついでとばかりに逃げようとした楯無にも同じ目にあってもらうことにしたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。