IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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シャルロットはその笑顔で何を隠すのか
プロロロローグ


『取材相手① 山田真耶』

 

 ああ、こちらです。こちらですよ。

 

「あ、はい。お待たせしました」

 

 いいや、全然待っていませんよ。まだ3杯目ですから。

 

「え? それってけっこう待ったのでは?」

 

 あはは。冗談ですよ。まだ1杯目に口をつけたばかりですから気にしないでください。

 

「冗談なんですか。よかったです」

 

 いやー、山田さん。今日はお忙しいところ、このような取材を受けてくださってありがとうございます。中々どうして、私どもの出版社は他人様の迷惑を考えないような取材テーマを押し付けるものかと……ああ、すいません。関係のないお話でしたね。では、取材を始めさせてよろしいでしょうか?

 

「はい、こちらこそお願いします」

 

 では、始めましょう。今回の取材は電話でお話した通り、『過去の日本の代表候補生達』というタイトルの元で『月村遊姫』さんについての質問を行わせてもらいます。早速ですが、月村さんはどのような方ですか?

 

「遊……月村先輩が――」

 

 言いやすい呼び方で構いませんよ。

 

「すみません。遊姫先輩は優しい人でした。とっても優しくて、思いやりのある先輩なんですよ。それに真面目でした。先生に頼まれたことはきちんとやっていましたし、後輩の相談事も、それがどんなに大変なことであっても、親身になって相談にのってくれました」

 

 なるほど、いい人なんですね。

 

「はい、そうなんですよ。後輩みんなの憧れの的でした。あ、私が入学した時の生徒会長でしたね。忙しいのに、それを感じさせない笑顔でカッコよくて綺麗でした」

 

 そういえば、たしかその頃でしたね。生徒会長=最強という認識が広まっていったのは。もしかして関係でも?

 

「そうですね。『生徒会長は最強であれ』は遊姫先輩の時に広まっていきました。生徒会長をしていた遊姫先輩が、当時の生徒達の中で一番強かったからですよ。その風潮は遊姫先輩が広めた訳ではないみたいなんですよ」

 

 月村さんの存在が生徒会長の敷居を高めたということですね。では、続いての質問にまいります。これは少しだけ答え辛いものだと思いますが、事故直後の月村さんはどのような様子でしたか?

 

「事故…直後ですか?」

 

 いや、答えるのが辛いのであれば答えなくても構いませんよ。

 

「いえ、大丈夫です。事故直後の遊姫先輩は見ているのが辛かったです。……すみません」

 

 それだけでも十分ですよ。質問を変えますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

『取材相手② 織斑千冬』

 

 ありがとうございます。最強と謳われた織斑さんが取材を受けてくださるなんて。

 

「構わない。だが、私も忙しい身なので手短に頼む」

 

 はい。では、早速質問に入らせてもらいます。学生時代の月村さんについて教えてください。

 

「遊姫か。入学当時からアイツは、真面目で人の頼みを断らない奴だったな。約束事などを破ったなどとは、聞いたことがないほどの真面目さだった。だからこそ、束が興味を持ったことに、驚いたものだ。後はそうだな、アイツは人を頼るということもしていたな。頼られる方の人間だったが、頼る人間でもあったな。まぁ、そのバランスがあったからこそ、アイツの周りに人が集まるのだろうな。才能だろう」

 

 誰もが欲する才能ですね。私もほしいものです。では、続いての質問です。遊姫さんの事故直後についてお聞きしても? ああ、答えたくないのであれば、それで構いません。

 

「いや、せっかくの機会だ。そうだな、私が聞いたのはアイツがISの起動実験中に事故にあったということだ。それで見舞いに行ったら、魂が抜け落ちたのではと錯覚してしまうほどの有様だったな。酷いものだったと記憶している。誰彼構わず笑顔を振りまいていた学生時代から想像もできなかった」

 

 つまり、従来の月村さんはもう見ることはできなくなってしまった、ということでしょうか?

 

「まぁ、そうだな」

 

 そうですか。最後の質問ですが、月村さんについて印象深いことについて教えてください。

 

「印象深いことか。そういえば、アイツは休日になると色々な所へと行っていたな。近場だったり遠くの方だったりと、よくもまあ足が動くものだと思ったな。夏休みになると、どこかの山だか川だかを歩いてきた、なんて報告してきたこともあったよ。考えてみれば、お互いに近すぎず離れすぎずの距離感でいたと思うよ」

 

 仲が良いことは何よりですね。いや、ありがとうございます。これにて取材は終了です。最後までお付き合いくださって、本当にありがとうございます。ここのコーヒー、美味しいでしょう? お代は気にしないでください。私の方で支払いますから。

 

「それならお言葉に甘えるとしよう。それにしても……」

 

 ん?

 

「私は『東京デルタ』という出版社を聞いたことはないが」

 

 あはは。小さいところですからね。吹けば飛ぶ程度のものでしかないんですよ。

 

「そうか、それは失礼したな」

 

 構いませんよ。今日の取材でちょっとでも東京デルタを知っていただけたのなら。

 

「そう言ってもらえると助かる。では、失礼させてもらおう」

 

 ええ、気をつけてお帰りください。

 

螺子桐(ねじきり)さんだったか? 貴方の顔、どこかで見たような気がするのだが」

 

 もしかして、ナンパですか? いやぁ、困りましたね。織斑さんのような美人に誘われてしまうとは。

 

「そのような意図はないが」

 

 ですよね。

 

「ではな」

 

 ああ、いなくなってしまいました。まぁ、いいですね。知りたいことは知れましたから。それにしても、やっぱりここのコーヒーは美味しいですね。マスター、コーヒーおかわりお願いしますか? え、初めての客が、さも常連のようなことを言うな? あれぇ? マスター酷いな。私は通いつめた常連さんですよ。……見たことのない新顔? 本当に酷いな、常連を相手にして。まぁ、今日から私の顔をきちんと覚えておいてくださいよ。ああ、後もう少しだけこの席を借りますね。最後の取材相手が残っていますから。エミリア・カルケイドさんって言うんですよ。じゃあ、ランチセットをお願いしますね。


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