戦闘シーンなんて無かったんや!
ヴェルデとアリナが再会、同居を開始して1週間が経った。
その間に彼らは、ランポス等の小型モンスターなどを狩り、互いの動きを把握していった。
「大分連携も上達してきたな」
と、ボーンシックル改を研ぎつつ言うヴェルデ。
「そうだね。学生時代にはあまりパーティーを組むことは無かったけど、わりと早くお互いの動きに合わせられるようになった気がするよ」
チェーンブリッツの点検をしながら、少し嬉しそうにアリナは言う。
この1週間で、何度も何度も小型モンスターの討伐クエストを消化した彼らは、今日はドスランポスを討伐し、ギルドのテーブルで、反省会を行っていた。
「まあ、まだ大型モンスターを討伐するには程遠いかな?今回も少し危ない所があったし」
二人の体に目立った傷はないが、その体をよく見ると、数多くの切り傷や掠り傷がある。
しかし、危ない所があった、という割には、やけに少ない傷のようで、少し思考してから、若干呆れた様に、アリナが口を開く。
「それは自業自得じゃないの?ヴェルデくんはもう少し熱くなる癖をなんとかした方がいいと思うよ?」
彼女の言う通り、ヴェルデが言う危ない所とは、彼が熱くなってしまい、無防備に突撃してしまったことだ。
「大体、少し防戦になったくらいで、そこまで熱くなる事じゃないと思うよ。そこで熱くなって突撃する方がずっと危険だよ。今回はうまく切り抜けられたけど、次もうまくいくなんて保証は無いんだから」
「うーん、確かにそうなんだけどさぁ...避けて避けての繰り返しじゃ、ストレスが溜まってくるんだよなぁ...」
今回の狩りは、以前ヴェルデ1人で狩った時よりも、大分早く終わった方だが、まだまだ反省すべき点があった。
それは、すぐに熱くなるヴェルデだけでなく、アリナにもあった。
「それはともかく、アリナだって悪い所があったじゃんか。いや、悪い所っていうか、何というか...」
「え?そんなに目立つような所あったかなぁ...」
顎に手を当てて考えるアリナに、ヴェルデが言葉を見つけたように言う。
「ああ、うん。いくらドスランポスが初めてだからといっても、少し動揺し過ぎじゃないか?あれほど外すのはお前らしくない気がしたけど?」
ヴェルデは以前ドスランポスを狩猟しているが、今回が初のドスランポス狩りだったアリナにとって、普通のランポスと大きさが違うドスランポスとは、主に序盤、距離感が掴めずに、なかなか弾丸を当てる事が出来なかった。
「うーん、そうは言っても、ずっとランポスばかり狩り続けてきたから、急に標的が大きくなっちゃ、照準を定めるのに、少し調整を入れなくちゃいけないのよ」
それを聞いたヴェルデは、何か分かったような顔をして、
「なるほど、つまりどういう事なんだ?」
と言った。まあ、彼はガンナーではないので、仕方がないのかもしれないが、それを聞いたアリナは、
「もう、学校で習ったでしょ?ガンナーの場合は、標的が変わる度に、敵の急所に上手く弾丸を当てる為に、少し調整を入れる時間が必要だって」
それを聞いたヴェルデは少しうんざりしたような感じで、
「ああ、そういえば試験でそんな感じの問題が出たっけなぁ。あれって授業でやってたのか。俺って基本的に双剣の話くらいしか武器の授業は聞いてないしなぁ...もっと聞いておくべきだったかな?」
その、どう足掻いても不良発言にしか聞こえない発言を聞いた元生徒副会長は、
「当たり前でしょ!...と言うよりも、よくそんなので卒業出来たよね...」
と、当然の様に説教をして、それよりも、という感じで言った。
「まあ、俺の場合は基本的に実技でカバーしてたからな。ああ、そういえばアリナって、あまり実技良くなかった気がするけど?」
実際には、アリナは実技が悪い訳ではなく、むしろ上手い方だが、ハンター養成学校の、歴代で1、2を争う程の腕前を持つ彼に言われると、ぐうの音も出ないアリナだったが、
「でも、いくら腕っぷしばかり強くたって、それを生かせる知識がないと意味が無いじゃない」
「う、確かにそうかも知れないが、だからといって知識ばっかりあってもだなぁ...」
「腕っぷしだけの脳筋よりはマシなんじゃない?」
「誰が脳筋だよおいっ」
と、二人はいつものように言い合っていた。
そして言い合いが一段落したところで、ふとヴェルデが口を開く。
「そういえば今日は、ランポスクロウズを受け取る日だった様な気がするな。話も一段落したし、行ってみるかな」
と言って、席を立つヴェルデ。続くようにアリナも席を立ち、
「そうだね。じゃあ私も行こうかな」
と言った。
「良いのか?何もわざわざ立ち会う必要も無いし、先に買い物に行っていた方が良いんじゃないか?」
だが、その申し出を遠慮するヴェルデ。彼らはまだ、今回消費した分のアイテム等の買い物をしていないので、彼は、先に彼女に買い物をしてくれた方が、彼女の時間ができると思ったので、そう言ったのだが、
「それは後でも大丈夫でしょ?やっぱり、その、ほら、パートナーとして、ね?」
何故か最後の方が妙に言い淀んでいたのかは気になったが、アリナがそこまで言うなら、という形でヴェルデは了承した。
「それじゃ、鍛冶屋に行くとするか」
と言ってギルドの扉を開けるヴェルデ。それに続くようにして、アリナもギルドを出た。
ギルドを出た彼らの前には、大通りが広がり、更に視線を伸ばせば、ゴルドラ山、通称【高山】がそびえ立っている。山の木々の葉はすでに枯れ落ちており、冬の始まりという雰囲気をかもし出していた。
「あの山の木も、すっかり枯れ落ちちゃったね」
少し残念そうな様子でアリナが言う。
「そうだな。これだったら、まだ少し前くらいだったらまだ紅葉も見れただろうな」
冬になると、ゴルドラ山は、標高の高いこともあり、ホットドリンクが必要になるほどの寒さになる。
いくら常人より並外れた体力を持つヴェルデでも、流石に自然に勝つことはできない。しかし、
「だけどまあ、しっかりホットドリンクを持って行けば、まあ寒く感じることはそうそう無いんじゃないか?この辺りだったら、よほど露出面の大きい装備じゃない限り、慣れれば何とかなるだろ」
昔からこの辺りに住んでいると、慣れでだいぶ何とかなるのか、ヴェルデは軽い調子でそう言った。
「それはヴェルデくんだからだよ。普通だったら、いくら慣れても平気じゃないよ?」
しかし、アリナはそう反論する。それもその筈、実際にはこの付近のゴルドラ山脈は、寒い時では-10℃を下回る程の寒さなのだ。
とは言っても、普段から氷点下が普通のフラヒヤ山脈付近と比べれば、比較的暖かい方だろう。ということをヴェルデが言うと、
「んー、それも確かにそうね」
と納得した。さらに、
「あと、最近までドンドルマにいたからっていうのもあるだろ。そういうこともあるから、うん。アリナは早く寒いのに慣れようぜ...?」
「そ、そうだね...」
ヴェルデが寒いのに強いことに対して、アリナは寒いのが大の苦手だった。
カナタ村の鍛冶屋は、そもそもこの村を拠点とするハンターがおらず、通りすがりのハンターがクエストをこなす、という感じで、長くこの村に滞在するハンターがいない為、長い時間をかけて製造する必要のある武具を、カナタ村でやろうというハンターはほとんどいなかった。
しかし、今カナタ村の鍛冶屋には、一時はドンドルマの工房を任されたこともありかなりの腕前をもつ職人がいた。
「おう。ヴェルデじゃねぇか!お待ちかねの品は出来てるぜ!」
そこには、武具を製造する過程で自然に鍛えられた筋肉を惜しみ無く晒す、少し暑苦しそうな中年の男がいた。
彼の名はレイル。
「こんにちは、レイルさん。と言うことはもう出来てるんですか!?」
ヴェルデは、今回が初めて武具を製造してもらったという事もあり、彼自身は隠しているつもりのようだが、かなり興奮していた。実際、先程アリナと話していた時も、彼はずっとそわそわしていた。
「やっぱり楽しみだったんだなぁヴェルデ。早く見た「お願いします」」
見たいか?と言おうとしたレイルに被せるように言うヴェルデ。一体どれほど楽しみにしていたのだろうか。
「お、おう。こいつだ」
そう言って袋を取り出す。
「い、いいんですか?開けますよ?」
「楽しみなら早く開けちまえ。自信作だぜ」
「は、はい。それでは…」
そこには、ヴェルデと死闘を繰り広げた青き狩人の爪があった。
大胆にも、ドスランポスの手の部分をそのまま使い、しかし爪ではなく、ドスランポスの頭のトサカを鋭く削った部分で斬るような構造になっている。
ドスランポスの鱗の色である青の中に、刃である赤いトサカが強調されている。ボーンシックルのように、叩き斬ることを考えて製造されているのではなく、鋭い刃で切り裂くことを考えられて製造されているようだ。
その為ボーンシックルよりも、切れ味はかなり良くなっている。
手元は、ドスランポスの爪や、滑らかな皮で覆われている。モンスターとの超接近戦の中で、最悪手で防御される事も想定されている。
「これが...ランポスクロウズ...」
思わず感嘆の声をあげるヴェルデ。ライトボウガンを使用しているアリナも、その出来に息を飲む。
「少し、持って良いですか?」
余りの出来にヴェルデが、少し引き気味に質問する。しかしレイルは眉を潜めて、
「なんだよ、代金はもう貰ってあるんだ。その剣はお前の剣だよ。遠慮するな!」
と、快く了承した。
「じゃあ失礼して...」
慎重な動作で、ランポスクロウズを持ち上げる。
基本的に刃が骨で作られているボーンシックルとは違い、それなりの重量がヴェルデの二の腕にかかる。
「っと...流石に少し重いな」
しかし、一回持ち上げると、慣れた動作で剣を振る。少しずつ腕に重量を馴染ませる様に、剣に自分の手を馴染ませる様に。
しばらく剣を振って、馴染ませる作業を終わらせたヴェルデが、レイルに向き直る。
「レイルさん、ありがとうございます。いい剣ですね。」
するとレイルは、当然の事だとばかりに胸を張り、
「当然だ。なんたって、俺の自慢の一振りだからな。いい剣を作らせて貰ったぜ!また頼むぜ、ヴェルデ!」
「はい。それでは」
そう言ったヴェルデ達は、鍛冶屋の扉を開け、大通りに出た。
次回からはぶっ続けで戦闘だと思います。
実際戦闘の描写の方が下手なんじゃないかと思い始めている...