「お兄ちゃん起きて!朝だよ!」
その一声で、ヴェルデは目覚めた。
「んー、もう朝か、おはよう、レミィ。」
「おはよう、お兄ちゃん!」
「しかしまあ、よく寝たなぁ、もう8時か。」
ちなみにヴェルデは、ドンドルマにいた頃、毎日鍛錬のため、5時に起きていた。
「ん?どうしたの?まだ8時じゃん。」
「あぁ、俺はドンドルマにいた頃は、毎朝5時に起きてたんだよ―ってヤベ!トレーニングに行かなきゃ!」
ドンドルマにいたときの日課として、カナタ村でもトレーニングをする予定だったのだが、寝過ごした訳で、ヴェルデは割と焦っていた。
「え!?今から!?ご飯は?」
「用意しておいてくれ!10時過ぎくらいに戻ってくる!」
「――わかった!行ってらしゃい!」
「おう!」
「…まったく、いくら日課だからって、あそこまで焦らなくてもいいじゃない。こっちは話したいことが沢山あるんだから。」
そういって不満げに頬を膨らませながらも、兄が相変わらずなことに、ちょっとだけ安堵したレミィであった。
「いやー、寝過ごしたからって、そこまで焦ることは無かったかもな。」
ヴェルデは、トレーニングのために、村長とギルドに、下見をしたいといって、軽微迎撃施設に来ていた。
この施設は、西の平原から来る、ランポスなどの小、中型モンスターに対応する為の拠点である。
ちなみに、飛竜種などの大型モンスターに対しては、施設が小さいため、村の西側にあるフィールド【平原】に誘導し、そこで戦闘する。
迎撃施設は、主に小型かつ飛べないモンスターを相手にするため、高低差が激しくなっている。
そのため、トレーニングには、意外と適している場所である。
そこでヴェルデは、走り続けていた。現在9時。
一時間ぶっ続けで走っていても、ヴェルデはほんの少ししか息を乱していなかった。
これは、彼が、学校生活の中で、教官に、「双剣使いはスタミナが命だ!」と教わったからである。
「ふう、ランニングはこのあたりでいいかな?」
ちなみに、前述の通り、高低差が激しいところなので、普通の人がここの、ヴェルデが走ったところを走り続けると、30分ももたない(らしい)。
「さあて、あとは素振りでもするとするか。」
そして、立ち回りや、基本的なコンビネーションを確認するほど1時間弱。
「あ、ヤベ、いつの間にか10時半だ、レミィが心配してる。早く帰ろう。」
「ただいまー。」
「お帰りなさい。もうご飯できてるよ。」
「おう。じゃあ早速いただきます!」
「あー、やっぱいつになってもレミィの飯は最高だわ!」
「それはそうよ。今だってドンドルマとかからスカウトが来るもの。」
「そうだったのか…ところで、なんでスカウトをけったんだ?」
噂によると、レミィは、ドンドルマの他にも、他の街の高級レストランから、10軒を超えるスカウトが来ているという。
「えっと…やっぱりこの村から離れたくないって思ったし…それに…」
何か言いづらそうにして、もじもじしているレミィだったが、ヴェルデはかまわず問う。
「それに?」
「えっと…なんでもない!」
「ん?そうか」
「うん。やっぱり生まれ故郷からは離れたくないからね。」
「ふーん。そういうものか」
何か別の事を言おうとしてた気がするが、と直感的に感じたヴェルデだったが、同時に確かに生まれ故郷から離れたいとは思わないだろう、とも思ったので、それ以上追求することはやめておくことにした。
「それより、これからどうするの?」
ここで突然だが、今日のヴェルデの予定(だったもの)を。
朝5時に起床、7時までトレーニング
飯を食い、午前中は買い物の下見
午後から、何かクエストを見て、行けそうなクエストに行く。
帰宅、就寝。
――だったのだが、ヴェルデが寝過ごしたせいで、それが根本から覆されることとなってしまった。
「そうだな、予定が狂ったから、買い物を少しして、クエストを見るだけ見てくる。」
「わかった。じゃあ、これから買い物ね?」
「ああ、行ってくる。」
といって席を立ち、家を出る。
「行ってらっしゃい。」
ヴェルデの背中に、レミィの優しい声が掛けられた。
現在13時
~鍛冶屋(工房)~
「こんにちは、レイルさん。」
「おう、ヴェルデか!少し見ねぇ内に、でっかくなりやがったな!」
工房のレイルは、昔から、ヴェルデとよく、ハンターの武器について話していた、ヴェルデの兄貴的存在である。年齢は30代後半。
「そ、そうですか…?自分ではそんなに変わってない気がしますが…」
「何言ってんだ!この前まで、そこいらのガキとあまり変わらない体のくせして、今は俺とそう変わらないじゃねえか!」
実際、ヴェルデの身長は、この3年で、157cm→180cmと、かなり成長していた(と思う)。
「まあ、成長期ですからね…」
「そうだな!」
そんなやりとりをして、レイルが本題に入ろうとする。
「で、今日はどんな用件だ?」
「あ、いえ、今日は挨拶をして回ろうということで、特に用事はないんです」
そうヴェルデが言うと、レイルは少し残念そうな顔をしたものの、すぐに元の快活な笑顔に戻った。
「何だそうだったのか。なら今度は、素材を持って、俺に腕を振るわせてくれや!」
「はい、そうします。では!」
「おう、またな!」
ヴェルデの背中に、レイルの朗らかな声が掛けられた。
~調合屋~
「お、ヴェルデじゃあないか!帰ってきたんだね!」
「どうも、アレンさんもお元気そうですね」
「何言ってんだい、この老体が、そんなに元気に見えるかい?」
そうは言うものの、ヴェルデからしてみれば70歳近いとは思えないほど元気で、見方によっては自分とそう変わらないと思えるほどだった。
調合屋のアレンは、確かに70歳近い老体であるが、長年培ってきた技術で、調合屋として、ハンターを支えている。
「で、今日はどんな用件だい?」
「あ、今日は挨拶に来ただけなので、特に用件はないです。」
「そうかい。まあ、お前さんは調合が下手みたいだから、困ったらいつでもおいで!」
その言葉に、ヴェルデは驚いた顔をして振り向く。
「ど、どこでその情報を!?」
「お前さんの幼馴染だよ」
「ぐっ…まあ、困ったら遠慮なく行きますから、よろしくお願いしますよ?」
「へいへい、わかってるよ。またおいで!」
ヴェルデの背中に、アレンの気さくな声が掛けられた。
~道具屋&食材屋~
(道具屋と食材屋は一括)
「こんにちは、ラルドさん。」
「お、こんにちはヴェルデ君。久しぶりだね。」
「はい。ラルドさんも、お久しぶりです。」
道具屋のラルドは、食材屋も兼用している、器用な若者で、周りの人から(主に知識面で)頼りにされている。
「うん。で、今日は何か用かい?」
「あ、はい。実は、学校で使っていた道具だけでは、これからの戦いにはいささか足りないかと…」
ヴェルデの持ち物は、回復薬2種がそれぞれ20個ずつ、砥石が25個、閃光玉が15個、ペイントボールが20個etc…
「なるほど、じゃあ、どれが必要なんだい?」
「そうですね、じゃあ、ピッケルと、虫あみを3つずつ、小タル爆弾を10個、ホットドリンクを3つください。」
「はい、3030zだよ。」
「ん…どうぞ3050zです。」
「はい。どうもありがとう。ところで、食材のほうはいいのかな?」
「ん…たぶん大丈夫です。見た感じ、まだ余裕はありそうでした。ありがとうございました!」
「そう。ならいいんだ。じゃあまた!」
ヴェルデの背中に、ラルドの柔和な声が掛けられた。
~ギルド支部~
「こんにちはー」
「あれ?ヴェルデ君?どうしたの?」
「あ、リーシャさん。どうもです。」
ギルドの看板娘であるリーシャ。彼女は、去年カナタ村に配属された、新人である。
「もしかして、これから依頼を受けるの?」
「あ、いやそういう訳じゃなくて、今朝はちょっと慌てていたので、改めて挨拶に…」
「そうだったの、改めてなんて、礼儀正しいじゃない。」
「いやまあ、礼儀は学校で嫌と言うほど叩き込まれましたから…」
ヴェルデは学校生活で、(実技のみだが)優秀だったので、専属の教官がいた。
ハンター養成学校ではヴェルデのように、一定の技量を持つ者には専属の教官がつき、その生徒の能力をより向上させている。
ただ、その分辛く苦しいものでもあった。
「そ、そうだったんだ…」
「まあ、一応依頼も見ておきますか。」
「うん。明日になっても残ってる依頼はあるから見ていくといいよ。」
そして、ヴェルデは依頼書に目を通していく。
「うわぁ、リオレウスとリオレイアの同時狩猟かぁ、俺には到底無理だな…」
苦笑いを浮かべながら依頼書を見るヴェルデ。しかしそんな彼に、リーシャが笑いながら言う。
「でも、ヴェルデ君だったら、この先そんな依頼も受けられる、そんな気がするよ。今まで見てきたハンターさんには少し悪いけど、身に纏ってる雰囲気が違うもん。」
「似たようなことを村長にも言われましたよ?」
やはり、周りから見ても、ヴェルデはそれなりの雰囲気なのだろう。一部のハンターの視線は彼に向いていた。
「でもまあ、やっぱりこのあたりが妥当じゃない?」
「ランポスの討伐…ですか。目的地は…ああ、すぐそこのゴルドラ山か。」
「うん。少し地形が悪いかな?」
「いや、地図持ってれば何とかなるし、あの山だったら、走り回ってもあまり疲れませんよ。」
日頃からトレーニングをつづけているヴェルデは、ある程度山を走り回っても疲れない程度の体力はあった。
「それじゃ、明日この依頼が残ってたら受注します。」
「わかったわ。それじゃ!」
「はい、ありがとうございました!」
ヴェルデの背中に、リーシャの陽気な声が掛けられた。
「それじゃ、明日の予定は大体オーケーだな。明日が初めての狩りだ。気を引き締めて行こう。」
その日、ヴェルデの家の2階は、翌日まで薄明りが消えることはなかった。
モンハンなのに戦闘シーンなくてごめんなさい…
次回こそは必ず!