モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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失踪したかと思ったか?
その通りです(白目)


第24話 衝突する咆哮、滾る雷光

 怒り状態のリオレイアは、閃光玉の効果が続いているのを忘れるほどの迫力があった。

 それは、やはり既に経験したからといってなんとかなるような、そんな生易しいものではなかった。

「ッ…はは…!やっぱり慣れねえもんだな…!」

 そういうヴェルデは口調こそ強いものの、その足は僅かにだが小刻みに震えていた。

「ゴアァァァァァァァァァァッ!!」

「――ッ!」

 耳を塞がせる程の声量ではなかったものの、その咆哮は、ヴェルデ達三人の足を止めるに足るものだった。

 そして次の瞬間、リオレイアが唐突に空に向かって小さく吼える。

「ッ!?」

 リオレイアが前を向き、ヴェルデを睨みつける。

 その眼は、明らかに今までよりも大きな敵意と殺意がこもっていた。

 その眼に、本能的に危機感を覚えた三人は、咄嗟に後方へと回避行動をとる。

 そして、つい先ほどまでヴェルデ達が立っていた大地を、リオレイアの三つの火球が焼き払う。

(チッ…閃光玉の効果が切れたか…!)

 そして、リオレイアはヴェルデ達三人が立て直す間も与えず、すぐさま突進で追撃を仕掛ける。

 標的は、横並びにいる三人の中心の、ヴェルデ。

「く――ッ!」

 ヴェルデが体勢を立て直した時、リオレイアは目と鼻の先まで迫ってきていた。

「しま…っ!」

 そして、ヴェルデがリオレイアの巨体に巻き込まれようとする、その直前に、

 辺り一面が白い閃光に包まれた。

「ゴアァァッ!?」

 リオレイアの悲鳴が平原に響く。

「…助かった、アリナ!」

「お礼は後にして、ヴェルデくん!」

 閃光玉を投げ、ヴェルデの危機を救ったアリナだが、ヴェルデが礼を言うその間にも、アリナはひたすら通常弾Lv2を撃ち込んでいく。

「わかった!」

 そして、視界を奪われたリオレイアへと駆ける。

 だが、リオレイアも、視界の無いままむやみに尾を振り回す。

 それは、無防備に近寄ってくるヴェルデ達の不意を突いた。

 その攻撃を、ヴェルデはかろうじて避けることが出来たものの、カナは背負う大剣の重みで動きが一瞬遅れ、尾が直撃する。

「きゃっ!?」

 ちょうど尾の先の部分に当たり、そのまま後方へと弾き飛ばされる。

 だが、かろうじて急所は外しており、何とか立ち上がる。

「カナ!大丈夫か!?」

 後方のカナに駆け寄ろうとするヴェルデを、だがカナが手で制し、リオレイアを指さす。

「――ッ」

 カナの意図を察したヴェルデは、そのまま振り返り、全速力でリオレイアへと駆ける。

 背に背負ったランポスクロウズを引き抜き、そのまま右手をリオレイアへと向けて突き出す。

「ゴアァッ!?」

 そして、リオレイアの鱗と鱗の間に突き刺さったランポスクロウズを、そのまま乱雑に横に払う。

 血飛沫が舞い、鱗が飛び散り、リオレイアの悲鳴が響く。

 なおもヴェルデは視界の奪われたリオレイアに向かって猛然と攻撃を仕掛ける。

 鱗と鱗の間を斬り、時には大胆に鱗に思い切り剣を叩きつけ、鱗を弾き飛ばしたりなど、多様な攻撃を仕掛け、リオレイアにダメージを蓄積させる。

 そして、そこに回復薬を飲み、傷を癒したカナが合流する直前、

「ゴアァァァッ」

 リオレイアが、苦痛を振り払うように天を仰ぐ。

「ッ…!」

 先程の経験から、それが閃光玉の効果切れだと本能的に判断したヴェルデとカナは、咄嗟にリオレイアと距離を取る。

 そして、距離を取ったヴェルデをリオレイアが見据える。

 リオレイアの口からは未だ黒煙が噴き出ていて、リオレイアが怒り状態であることを表していた。

(もう少し…あとここを乗り越えれば…ッ!)

 

 カナは、勢いに乗って攻めるヴェルデに、何か違和感のようなものを感じていた。

 そしてそれは、時間が経つにつれ、確信へと変わっていった。

 

(何かおかしい…)

 遠距離から弾丸を放ち続けていたアリナも、カナと同様に違和感を感じていた。

 この狩りが始まってから、今まで余裕を保ってリオレイアと対峙していたヴェルデだったが、心なしかその余裕がなくなってきているように感じた。

 だが、それを気のせいだと信じ、アリナは再び弾丸を放つ。

 

 怒り状態のリオレイアに対し、状況を打開すべく、ヴェルデはポーチから閃光玉を取り出し、リオレイアの眼前に陣取る。

 冷や汗をかきつつ、だが不敵な笑みをリオレイアに向け、怒り狂うリオレイアをさらに煽る。

「ゴアァァァァァッッ!!!」

 そして、眼前の敵を排除すべく、リオレイアがサマーソルトを繰り出す。

 それを読んでいたヴェルデは、転がることもせずにその攻撃を避け、閃光玉を投げる。

 そして、ちょうど飛び上がったリオレイアの眼前に、閃光玉の光が広がる。

「ゴアァァァッ!?」

 

 この行動で、アリナとカナの、ヴェルデに対して抱く違和感が確信へと変わった。

 

(ヴェルデくんなら、私たちに閃光玉を投げるって必ず言うはず…!)

 

(やっぱり気のせいじゃない…ヴェルデさんの表情がだんだん険しくなってきてる…!)

 

 閃光玉によって、地に墜ちたリオレイアに駆け寄るのは、ヴェルデだけだった。

 アリナとカナは、絶好のチャンスにも関わらず、攻撃をしない。

 彼女たちは、ヴェルデの様子がおかしいことを受け、この機会に言葉を交わしていた。

「―――」

「………」

 しかし、ヴェルデはそれに気付くことなく、リオレイアに攻撃を仕掛ける。

 歯を食いしばり、リオレイアへと斬撃を加える。

 一つ、また一つと、凄まじい速度でリオレイアの鱗へとランポスクロウズを叩き込む。

 一つ、また一つと攻撃するうちに、ヴェルデは周りが見えなくなっていく。

「―――!」

「―――!!」

 ヴェルデの意識の隅で、二つの声が響く。が、ヴェルデの耳には届かない。

 そして、

「ヴェルデくん!危ない!!」

 その声だけが、ヴェルデの耳にはっきりと届いた。

 しかし、既に立ち上がり、ヴェルデに向けて突進する体勢に入っていたリオレイアに対して取れる行動は、最早何一つ無かった。

 ヴェルデは、自分が何か大きなものと衝突したと認識する間もなく、意識が暗転する。

 

 ――最も恐れていた事態が起こった。

 ヴェルデを吹き飛ばした勢いそのまま、二人の少女目掛けて突進してきたリオレイアをなんとか避けた二人は、地に横たわるヴェルデを一瞥し、そう思う。

「アリナさん、やっぱりヴェルデさんは…」

 自分に問いかけてくるカナに、静かに頷く。

 ――やっぱりヴェルデくんは、無茶をしていた。

 だが、考えてみれば当然のことだった。

 いくらヴェルデが驚異的な回復力を発揮してきていたとはいえ、ヴェルデは、つい先日、リオレイアのサマーソルトが直撃していたのだ。

 そんな状態で、慣れない大型モンスター戦を、常に最前線で戦い続ければ、もちろん限界は来る。

 ヴェルデは先日、『最終的にはその場で臨機応変に』と言っていた。

 それは、「不測の事態が起きても焦らず落ち着いて」ともとれるのではないか。

 そして何よりも、ヴェルデの様子がおかしいことに気付けなかった自分の責任――

「アリナさん、来ます!」

 そこまで考えて、カナの声で我に返ったアリナは、突進する体勢に入っていたリオレイアを見て、冷静に避ける。

 こういう事態になったのなら、まずヴェルデの救助を第一に考えなければならない。

 幸い、リオレイアの怒り状態は解除されている。

 あとはどうやってヴェルデを助け出すか。

 リオレイアの怒り状態は解除されているが、ヴェルデが倒れている位置は、ちょうどアリナ達から見て正面。

 だが、リオレイアのいる位置も、アリナ達から見て正面。

 ヴェルデはリオレイアのすぐ後ろにいるので、アリナ達に突進してきてそのまま跳ね飛ばされる――ということは無いだろうが、放置しておく訳にもいかない。

 この状況からヴェルデを救う策は――

「アリナさん、私がリオレイアの注意を引き付けるので、その間にヴェルデさんを。」

 ――この方法しかない。

 閃光玉を投げ、リオレイアの視界を塞いだとして、万が一リオレイアが暴れ、すぐ後ろのヴェルデを踏みつぶさない、という保証は一切ない。

 ならば、この方法が、ヴェルデを救うためには、一番安全性が高いだろう。

 ただしカナは――

「ボクの事なら心配しないでください。こう見えてもリオレイアとはそれなりに戦い慣れているんです。」

 と、アリナに向かい、微笑を浮かべるカナ。

「――うん。わかった。」

 その言葉でアリナも納得し、短い返事を返す。

 ――そして、二人の少女は平原を駆ける。

 まず最初に動いたのはアリナ。

 アリナは、馬鹿正直にリオレイアに突っ込むのではなく、大きく横に逸れ、回り込むようにしてヴェルデへと向かう。

 次に動くのは、カナ。

 カナは、その辺りに落ちている手ごろな石を掴み、万が一ヴェルデに当たらないよう、慎重に、だが全力でリオレイアに投げつける。

 それによって、突然動き出したアリナへ向かっていたリオレイアの意識が、カナへと移る。

「ゴアァァァァァッ!!」

 効きもしない攻撃をされたことに腹が立ったのか、リオレイアはあっさりとカナの挑発に乗り、カナに向かって一直線に突進する。

 リオレイアがあらかじめそう動くように仕掛けたカナは、リオレイアを迎撃する体勢に入る。

 ――具体的には、突進するリオレイアに対し、背負った大剣をそのまま溜めるように振りかぶる。

 アリナは、カナのその行動に対し、改めてカナの勇気に感激した。

 いくらカナがリオレイアと戦い慣れているといえども、自分に向かって突進してくるリオレイアに対し、大剣でガードもせずに迎撃するなど、下手をしたらヴェルデの二の舞になる行動を、迷いなく行っている事である。

 うまくいけば、リオレイアに大ダメージを与えられる。

 しかし、失敗すれば、カナまでもが戦闘不能になり、リオレイア狩猟は絶望的になる。

「ゴアァァァァァァッッ!!!」

「やあぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 二つの叫びが木霊し、衝突する。

 アリナは、一瞬ヴェルデに駆け寄ることも忘れ、その場で立ち止まる。

「グオォォォッ!?」

 リオレイアの体に雷光が迸り、鮮血が撒き散らされる。

 カナが、リオレイアの迎撃に成功したのだ。

(凄い…)

 だが、立ち止まっている暇はない。カナが迎撃に成功し、作り出したチャンスを無駄にしない為にも、アリナは急いでヴェルデに駆け寄る。

「ヴェルデくん!大丈夫!?」

 幸い意識はあり、呼吸もしている。

「ぁ――」

 ヴェルデが口を開き、何かを話そうとするが、すぐさまアリナが止める。

「喋らないで、でもそのまま口は開いておいて。」

 ポーチから取り出した回復薬をヴェルデの口に流し込み、落ち着いたところでヴェルデの体を起こし、カナに目配せする。

「とりあえず、一度撤退して、体勢を整えよう、ヴェルデくん。」

 ヴェルデにも異論はもちろん無い。ただ、たった今リオレイアに閃光玉を投げ、隙を作ってきたカナが二人に掛けより、

「ボクは、お二人がしっかり撤退したのを見届けてから撤退します。後ろは気にしないでください!」

 と、自ら殿を務めるという。アリナとしてもそれは有り難かった。

 そして、アリナはカナが出来るだけ身軽に撤退できるように台車を運ぶ。

 アリナはタル爆弾やヴェルデなど、重い荷物が多数あったのだが、なんとかそれを一人で運び、ベースキャンプへと歩を進めていった。


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