モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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第22話 村に響き渡る狩人の咆哮

 カナタ村に戻ってきた三人の狩人達は、心配して迎えに来たレミィを連れ、一旦家に戻った。 

 リオレイアの乱入、カナによる救援の話などをして、ひとまずカナがここに滞在する許可を得たヴェルデ達は、クエストの報告をするため、ギルドに足を運んだ。

「ヴェルデ君!大丈夫!?」

 ヴェルデ達がギルドに入るなり、心配そうに駆け寄ってきたのはリーシャだ。

 以前ヴェルデがランポスの討伐のクエストで、ドスランポスが乱入してきた時は、心配そうな素振りは見られなかったが、今回はギルドも想定外だったのだろう。

 実際は満身創痍のヴェルデだが、出来得る限りリーシャに心配をかけまいとして、なんともないような顔で返す。

 ヴェルデの嘘がばれなかったのか、それとも余程動揺していたのか、「そう...」とだけ返し、ヴェルデの横に立っていたカナを見る。

 数秒の沈黙の後、リーシャがカナに一礼した。

(...?おかしい、リーシャさんならここはからかう場面な筈...)

 そうヴェルデが考えていると、隣から「どうしたの?」と問うアリナの声がしたので、「いや、別に...」とだけ返して、ヴェルデはクエストの報告をした。

 

「ドスファンゴの狩猟は達成したので、報酬は渡します。ただ、近々リオレイアの狩猟依頼があなた達に回ってくるかもしれません。」

 そう告げるリーシャの顔は、やはり緊張で染まっていた。

 それも仕方ないだろう。カナタ村のすぐ近場の狩り場に、リオレイアという脅威が迫ってきているのだ。

 リオレイアの気まぐれ一つでカナタ村が滅ぼされる可能性だって大いにある。

 ならば、せめてそれを止めるのがヴェルデの役目だろう。

 幸い、今回はカナという助っ人もいる。ヴェルデとアリナの二人で戦うより、各段に成功率は上がるだろう。

 しかし、それでもなお払拭しきれない不安がある。

 いくらカナが一人でリオレイアと拮抗できるといって、それが長時間持つとは限らない。

 ふとしたきっかけで、一気に劣勢に立たされる可能性があるのだ。

 そして、何が起こるか、常に分からないのが狩り場である。

 以前のイャンクック戦の様に、自然が敵に回ることだって十分ある。

 しかし、それを自分たちは乗り越えてきた。

 いくらカナが助っ人としているとはいえ、これは本来は自分の役目。

 最悪カナがいなくても、リオレイアを狩猟しなければならない。

「わかりました。」

 ヴェルデはリーシャに短い返事を返し、報酬を受け取って、アリナ、そしてカナと共に自宅に向かって歩き出す。

 

「さて、これからについてだが...」

 自宅に入るなり、そう切り出すヴェルデ。

 実際の所、彼はかなり焦っていた。

 焦っても仕方がない、という事は分かっているのだが、カナタ村に迫りつつある脅威の事を考えると、いてもたってもいられないのだ。

 それが十二分に分かっているアリナとカナの二人は、特に何も言わず、ヴェルデの声に耳を傾ける。

「カナ、リオレイアと戦った事は?」

「はい、あります!」

 ふむ、リオレイアと戦ったことがあるなら、戦略の微調整や助言も貰えそうだ、と考えたヴェルデ。

「ならアリナ、俺とお前はリオレイアの資料をかき集める。ぶっちゃけ俺の方はあまりないだろうから、大部分は頼む。」

 相変わらず戦略や知識はからっきしのヴェルデは、それをアリナで補う。そうして立てた戦略をカナが微調整し、自分はそれに従って動くだけだ、という決意を暗に表明するヴェルデ。その意図を汲んだのか、アリナも了承する。

「で、カナは一緒にリオレイアと戦ってくれるか?」

 そういえば訊いていないような気がして、今更ながら訪ねるヴェルデ。対してカナの返答はシンプルなものだった。

「もちろんです!微力ながら、助力させて頂きます!」

 実力はあるのに、やっぱり謙虚だな、心の中で苦笑を一つ。

「まあ、資料を探してる間は、特にやることがないだろうし、くつろいでいてくれよ。」

 自室は狭いから、と言ってカナをリビングに残し、アリナと二人、二階へと上がる。

「なあ、カナって何歳なんだ?ずっと気になってたんだ。後で聞いてくれないか?」

 言外に、俺じゃ聞きにくいし、という意味を加え、アリナの耳元で囁くヴェルデ。

 その言外の意味を理解したのか、アリナも応答する。

「そう...ね。私も少し気になっていたの。後で聞いてみるね。」

 そして、階段を上がり終わった二人は、それぞれの部屋のドアに手を掛ける。

「それじゃあ、資料を見つけたら、それを持って一階でいいの?」

「ああ了解。」

 短いやりとりを交わし、二人はそれぞれの部屋に入る。

 

 それから3分と経たないうちに、ヴェルデは自室から出てきた。

(...あまりにも少なすぎる気がする...これ大丈夫か...?)

 自室から出て立ち尽くし、呆然とそんな事を考えるヴェルデ。

 しかし、こういった分野は他力本願と心に決めているヴェルデは、その思考をきれいさっぱり忘れ、階段を下りていく。

(まあ、アリナに任せればいいか。)

 そんな思考を残して――

 

 ヴェルデが部屋を出てから約5分後、アリナは分厚い資料を持って、一階へと下りてきた。

「...多い、な。」

「...重い、よ。」

 そんなやり取りを交わしつつ、ヴェルデはアリナの資料を代わりに持ち、机に置く。

「しかし本当に重いな...これ全部リオレイアの資料か?」

「ううん、その中にいくつかリオレイアについて載っているだけ。」

 なるほど、道理で分厚い訳だ。と納得したヴェルデは、リオレイアのページを開く。

「リオレイア、通称雌火竜。」

 雄であるリオレウスとつがいをなす飛竜種。

 飛竜の中でも優れた脚力を有し、地上を中心として狩りをする。

 陸上の敵に対し、毒の棘を持つ尾による打撃や、巨体による突進などを中心にして狩りをする。

 ついた異名が[陸の女王]。

 どの時期であろうと油断ならないのはもちろんだが、繁殖期ではさらに気性が荒くなる為、たとえ一流の狩人であろうと、一瞬でも油断すれば命は無いだろう。

 その他生息地や、地域ごとの特徴等、さまざまな事が書かれていた。

 狩りについての情報のみ抜粋し、脳内で戦略を組み立てていく三人。

 そこで、ヴェルデがあることを思い出し、口を開く。

「そういえば、ここでは基本的に地上での行動しかないが、一応空中には飛び上がるんだよな。」

 そう、三人は確かに目撃していた。

 サマーソルトを放った直後のリオレイア、空中で滑空するときのリオレイアが、空中に飛び上がっていた所を。

 この資料を読んだだけでは、リオレイアが狩りでは全く空中に飛び上がらないと判断する所だったヴェルデは、あの敗北で得たものはあった、と感じて、多少報われた気がした。

「カナは分からないが、イャンクック戦の時、最後に仕留めたのは、エリア移動しようとして、空中に飛び上がったイャンクックの脳天に、アリナが弾丸を叩き込んで仕留めた。なら、リオレイアも同じ要領で撃ち落とせないか?」

 そう、イャンクックを仕留めたのは、他ならぬアリナの弾丸だ。

 なら、空中のリオレイアの体勢をどうにかして崩して、墜とせないか、と提案するヴェルデだが、二人の反応は良くなかった。

「でも、あれは偶然当てられただけで、あそこまでうまくいくとは思えないよ。」

「ボクもそう思います。何より、いくら滞空はすると言っても、滞空時間が短すぎませんか?」

 しかし、二人の反論を受けても、ヴェルデの表情は変わらなかった。

 その表情を見て、二人も何か思うところがあるのか、ただヴェルデの言葉を待つ。

 そして、ヴェルデはある球体を取り出した。

「なら、これでどうだ?」

 ヴェルデの手の中にある物は――閃光玉。

 それを見た二人が息を呑んだのを見て、ヴェルデが思わず笑みを漏らす。

「あくまで推測だが――これを使えば、リオレイアを墜とせる上に、立ち上がった後にも閃光玉の効果は効いているだろう。ただし、墜とされた後、すぐ立ち上がる可能性も否定できないけどな。」

 そこで、ヴェルデは呆気にとられているアリナに声を掛ける。

「アリナ、これを組み込んだ戦略、適当に頼む。」

 その一言で我に返ったアリナが、ハッとした表情になり、すぐに考え込む。

「とは言っても、実際に戦略通りにいくとは思えない。相手はリオレイアだ。最終的にはその場その場で臨機応変に対応することになるだろうけどな。」

 アリナの批判の視線を浴びたような気がしたが、気のせいだと割り切ったヴェルデは、椅子の背もたれに体を預けるようにして、そのまま眠りについた。

 

 ヴェルデが目を覚ました時、外は明かりに包まれていた。

「よく考えれば、帰ってきてから全く寝てないのに、作戦会議は少し無茶だったな...」

 と、彼は机を挟んだところにいる二人の少女に目を向ける。

 アリナもカナも、疲れが溜まっていたのか、そのまま椅子に座って寝ている。

 ヴェルデは自室から持ってきた毛布を二人に掛け、外に出る。

 

 すっかりカナタ村にも冬が訪れ、外に出たヴェルデは身震いする。

 ゴルドラ山、通称【高山】を見上げても、木々の葉は枯れ落ち、冬という季節という事をヴェルデにより強く実感させた。

 ヴェルデはいつもの様にトレーニングをする為、村にある【迎撃施設】へと向かう。

 

 そして、いつもの様にトレーニングをするヴェルデだったが、ふと、【平原】の方へと顔を向ける。

「ゴアァァァァァァァァァ...」

 聞こえたのは、リオレイアの咆哮。

 それと同時に、ギルドの方から、こちらに向かって来る人影が見えた。

「ヴェルデ君!」

 駆け寄ってきたのは、リーシャだった。

「たった今報告があって、【平原】にいるリオレイアが、イーオスの群れと縄張り争いが勃発、ヴェルデ君達ハンターは、出来るかぎりイーオスを討伐しつつ、リオレイアを討伐せよ、らしいよ。」

 ――どうやら本当に、自分達に依頼が回ってきたらしい。

 リーシャがらしい、と言うからには、ギルドからの正式な依頼。それも緊急クエストの類だろう。

 改めて気を引き締め、ヴェルデは「わかりました!」と短く返し、クエストを受注。

 そして、その件をアリナ達に報告すべく、急いで自宅へと走り出した。

 

「と、いう事らしい。」

 自宅に戻り、クエスト受注の件を二人に報告したヴェルデ。その顔には、やはり緊張の色と――少しの希望があった。

「了解。すぐに荷物をまとめて、出発しよう。」

 そう言うのはアリナ。こちらはヴェルデとは対照的に、その顔には何の色も見られず、淡々と狩りを進める準備をする姿があった。

「あ、アリナさん、ボクも手伝います!」

 そう言うのはカナ。リオレイアと戦った経験があるからなのだろうか、その顔には不安や緊張といった色は見られなかった。

 三者三様の表情をする狩人達。彼らは各々の準備を済ませ、ヴェルデの家を出る。

 

 カナタ村に立つ三人の狩人。彼らは、【平原】にいるリオレイアの姿を思い浮かべる。

 そして、ヴェルデが叫び、狩人達は歩き出す。

 

「―――今度は負けねえぞ、リオレイアッッ!!!」


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