モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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ドスファンゴ戦、最終回です。


第17話 雨中の戦いを経て、二人の狩人の迷い

「二頭目...ッ!」

 そう呟いたヴェルデは、己の不覚を恥じた。

 目の前の敵に集中し過ぎる余り、死角から迫るもう一頭のドスファンゴに気付かず、本来喰らう筈のない攻撃を喰らってしまった。

 このエリアに入ってきていたドスファンゴに早めに気付いていれば、手を打っておく事もできた筈だったのに、目の前の敵に気を取られてしまい、周りが見えなくなってしまっていた。

 現に今、おそらく瀕死であろう一頭目のドスファンゴは、既にアリナに狙いを定め、体力の有り余っている、二頭目のドスファンゴが、ヴェルデの前に立ち塞がっていた。

「アリナッ!」

 そう言ってアリナに駆け寄ろうとするヴェルデだったが、目の前にはドスファンゴがいて、とても通してくれそうにない。

「なら、力ずくで...ッ!」

 鬼人化したままドスファンゴに向かい、乱舞を繰り出すヴェルデ。しかし、敵の隙も何もない状態で、隙の大きい乱舞をしたヴェルデを見逃すほど、ドスファンゴは愚かではない。ヴェルデを振り払うように大きく牙を振り回す。

「しまっ...!」

 言い終わる間も無く吹き飛ばされるヴェルデ。すぐに立ち上がるも、二度吹き飛ばされた衝撃で、全身に痛みが走る。

 そして、休む暇も無く、ドスファンゴはヴェルデに向かって突進する。体勢を崩しながらもこの攻撃を避けるヴェルデだったが、ドスファンゴは、その突進が外れた後、止まる事無くターンし、再度ヴェルデに突進してくる。

「おぉ...ッ!!」

 崩れた体勢のまま、無理やり突進を避けるヴェルデ。再度の突進に備えて、慌てて立ち上がろうとして、ドスファンゴの方を見つつ立ち上がる。

 ドスファンゴは、何度もターンできる訳ではなく、今は止まっていた。その隙に体勢を立て直し、アリナの方を見る。

 アリナは、突進によって距離を縮めて来るドスファンゴに苦戦しているが、アリナの対峙しているドスファンゴが瀕死だということもあって、ヴェルデ程は苦戦していないようだ。

 アリナの様子を確認したヴェルデは、再び正面を向く。

よく見てみると、ヴェルデが今対峙しているドスファンゴは、アリナの対峙しているドスファンゴよりも体が大きかった。ヴェルデが今まで苦戦していたのは、先程戦っていたドスファンゴより体が大きいせいで、攻撃範囲が広かったのだろう。彼自身も少し、やりにくさを感じていた。

 アリナが優勢なのを確認したヴェルデは、少し考え方を変えることにした。

今までは、瀕死のドスファンゴを一気に仕留める為、このドスファンゴに出来るだけ隙を作らせる、という考えだったが、目の前のドスファンゴは、標的をアリナに変える様子もない事と、アリナが優勢なのを踏まえ、アリナがドスファンゴを仕留めるまで、このドスファンゴを出来るだけ足止めし、間接的にアリナを援護する、という考え方をする事にした。

 その為にどうするか、それは、ヴェルデができるだけ突っ込まず、なおかつ自分に引き付けつつ、ドスファンゴと常に一定の距離を保って戦う事だった。

 それは、今までモンスターの懐に突撃し、攻撃を繰り出す事しかできなかった彼の、新たな課題でもあった。

 

 ――攻め一辺倒の戦い方以外の戦いを知る――

 

 ただ、あのイャンクックとの戦いを経て、彼が自分に課したその課題は、自分でもどうやったら良いのか、具体的には何もわからなかった。

 ハンター養成学校で、専属の教官から様々な事を教り、その中にもこういった課題はあったが、彼はその事について、何もわからなかった。

(そもそも狩りって、攻めなきゃ始まらないんじゃないのかッ!?)

 今も自問自答を繰り返しながら、ドスファンゴの攻撃を躱すヴェルデ。

 『攻め』と『守り』、その『守り』もよく分からず、今まで『攻め』だけを繰り返し、ここまで戦って来た彼は、その『攻め』の戦いが身に染み付いていたのだ。

 『守り』の戦いとは。それを知ることは、ヴェルデにとって、簡単な事ではなかった。

 ヴェルデは今まで、モンスターの懐に入ることしか考えていなかった。少なくとも、ハンター養成学校を卒業するまでは。

 だが、ハンター養成学校を卒業してから、地形を利用したり、罠を活用して狩りをしてきた。その点では成長したとは思っている。

 だが、まだ足りない。

 まだ、これから先は通用しない。

 だが、一体どうすれば良いのか。

 ――彼は、迷っていた。

 

 一方アリナは、そんなヴェルデを余所に、瀕死のドスファンゴと対峙していた。

 こちらのドスファンゴの方が体も小さく、瀕死という事もあり、ヴェルデから見て、アリナが優勢に見えた。

 しかし、実際にはそんな事は無く、見た目よりもかなりギリギリの戦いを強いられていた。

 まず、ドスファンゴは確かに瀕死だったが、だからこそ、ドスファンゴは必死になって、アリナと対峙していた。

 しかしそれ以上に、相性の問題があった。

 アリナは基本的に、遠距離からの狙撃を得意としているが、ドスファンゴは、遠距離から狙撃しようとするアリナに対して、真っ直ぐ、速く突進してくる為、得意の遠距離戦に持ち込むことが出来ず、苦手な短~中距離での戦いを強いられていた。

(手負いの獣ほど怖い者はいないって、そういえば教官もいつも言ってたっけ!)

 そう言いながら、再び突進してきたドスファンゴを躱して、再び距離を取ろうとするアリナ。しかしその前に、ターンしたドスファンゴが、距離を取ろうとして背を向けた アリナを追撃する。

「...っ!」

 彼女もまた、ヴェルデと同じく、自分に課題を課していた。

 

 ――攻めるという意識を持って戦う――

 

 ハンター養成学校生徒副会長という立場に立ち、常に人を指揮する立場であったアリナは、ガンナーの中でも特に、距離を取った戦い方をしていた。

 学生時代は、前線の剣士などを指揮したりする立場であったから、それは当然のことだと思っていたが、カナタ村に戻り、ヴェルデとの狩りを経験し、一つの死線を乗り越えた今だからこそ、いつの間にか自分が、『逃げ』の意識を持って戦っていたことに気付いたのだ。

 遠距離からただただ狙撃しているだけじゃ、これから先は通用しない。それは、今、この状況が物語っていた。

 ならば、どうすればいい。

 ガンナーには、剣士のような防御力が無いから、モンスターと肉薄したまま狩りをすることはできない。

 しかし、距離をとって戦う事では、結果的に『逃げ』ている事になる。

(――どうすればいいの...っ!?)

 ――彼女もまた、迷っていた。

 

 何度、ドスファンゴの突進を避けただろうか。

 アリナは、Lv2通常弾をドスファンゴに撃ち込み、ドスファンゴの突進に備える。

 相変わらず、遠距離からの狙撃という、本来の戦い方はできていないが、それでも短~中距離でなんとか踏ん張っていた。

 これまでも、隙を見つけてはLv2通常弾を撃ち込んできたが、未だにドスファンゴは倒れない。

 既にドスファンゴの体は血に塗れ、毛皮は斬り裂かれていたり、弾丸によって穴が開いていたりと、ボロボロだった。

 それとは対照的に、アリナに傷は無かった。しかし、額には汗が滲んでいて、彼女自身の疲労はかなりのものだった。

 チラリとヴェルデの方を向く。彼はアリナとは違い、ドスファンゴの突進を何度も喰らい、体に傷が出来ていた。

 ヴェルデの為にも、早くこのドスファンゴを狩らなければいけない。

 だが、そんな彼女の焦りと隙を突いて、ドスファンゴはアリナに突進する。

「――っ!?」

 意識はドスファンゴに向けていたつもりのアリナだったが、僅かな隙をドスファンゴに突かれ、一瞬反応が遅れてしまう。

 何とかその突進を避けるも、ターンしてきたドスファンゴが再びアリナに向かって来る。

 体勢を崩していたアリナは、その攻撃を避けようとするが、完全には避けきれず、足に掠ってしまう。

 しかし、ドスファンゴが再びターンしてくる事は無く、そのおかげで、アリナは余裕を持って立ち上がった。

 そして、ここからアリナの反撃が始まる。

 振り向いたドスファンゴに、敢えて接近して、Lv2散弾を乱射する。

 計4発のLv2散弾を、至近距離から浴びたドスファンゴは、血塗れだったその毛皮を、さらに血に染める。

 それだけでは終わらない。Lv2徹甲榴弾をリロードしたアリナは、それをドスファンゴの頭部に撃ち込み、距離を取る。

 着弾から、時間差で爆発した徹甲榴弾の爆発が、ドスファンゴを襲う。

 さらに、距離を取ったアリナは、Lv2拡散弾をドスファンゴ目掛けて撃つ。

 着弾したLv2拡散弾は、辺りに爆弾をばら撒き、ドスファンゴの体を爆発で包み込んだ。

 

 ヴェルデは、アリナがドスファンゴを討伐したのを確認して、再び目の前のドスファンゴに視線を戻す。

 数の上で有利になったからといっても油断することは出来ない。時間が経てば、ランポス等の小型モンスターが乱入して来る可能性も高まる。それに、先程のドスファンゴよりも、こちらのドスファンゴの方が体が大きく、その分体力もあるだろう。

 二人が分散されて戦うよりも時間は掛からないだろうが、それでも油断することは出来なかった。

 応急薬を飲み、弾丸をリロードしたアリナと、ヴェルデがドスファンゴと睨み合う。

 ドスファンゴにも、状況が悪くなった事が理解できたのだろうか、なかなか突進を仕掛けてこない。

 ヴェルデとアリナも、直ぐには仕掛けず、ドスファンゴの様子を伺っている。

 その時だった。

 

 ――頭上で、翼の羽ばたく音がした。

 


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