モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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第2章開幕ッ!!


第2章 極東の放浪人
第16話 広大な大地を駆ける者達


 ヴェルデとアリナがイャンクックを狩猟してから、二週間が経過した。

ヴェルデの怪我は酷いものだったが、彼の生命力が予想以上に強く、そのおかげで回復は早かった。今では元気に動き回っている。

 そんな彼らは今、ギルドで依頼を受注しようとしていた。

「ドスファンゴ2頭の狩猟、か」

 そう呟いたのはヴェルデ。彼は、イャンクック戦でボロボロになってしまったハンターシリーズの代わりに、この前狩猟したイャンクックの素材でできた、イャンクックシリーズを着ていた。

 背中に背負っているのは、変わらずランポスクロウズ。以前の戦闘で、ほぼ壊れかけていたものを、何とか修理してもらったものだ。その刀身は、変わらずランポスの鋭い爪を映し出している。

「そうね。2頭を相手にするなら、いくらドスファンゴでも、慎重にいかなくちゃ」

 そう言ったのはアリナ。彼女はヴェルデとは違い、防具をハンターシリーズから変えていないが、武器はイャンクックの素材から作られた、クックアンガーに変えていた。 防具を変えていないのは、本人曰く、「自動マーキングのスキルがあった方が便利だから」との事である。

「狩り場は...【平原】、か。どうするアリナ?緊急の依頼ではないが...」

 【平原】は、カナタ村の西にある、開けた平原で、少し高度が高いため、狩人によっては、【高原】とも呼ばれることがある。ちなみにヴェルデは、「めちゃくちゃどうでもいい」と言い切った。

「うーん、でも放っておく訳にもいかないよ。それに、早く体を動かしたいんでしょ?ヴェルデくんの事だし」

 二週間の間、治療に専念していたヴェルデは、その間体を動かすことが出来なかったせいで、ストレスが溜まりに溜まっていたのだ。相手がドスファンゴということもあり、その鬱憤を晴らすにはいい相手だと判断した彼らは、結局その依頼を受けることにした。

 

 翌日の早朝、準備を済ませたアリナが、既に家の前に出ていたヴェルデに、

「もう、そんなに焦らなくてもいいじゃない。子供みたいだよ?」

と言う。

「いや、腕が鈍ってないか心配でさ...」

 しかしヴェルデは、相手がドスファンゴだというのに、かなり緊張した様子だった。まるで、何かを警戒しているかの様に。それを不審に思ったアリナが、

「どうしたの?何か気になる事でもあるの?」

 と、ヴェルデに訊いてみるが、彼の表情は変わらない。先程から【平原】の方向を見たまま、微動だにしない。

 数秒の沈黙の後、ヴェルデがハッとしてアリナに答える。

「あっ...いや、何か嫌な予感がするなと思って、気のせいだったらいいんだがな...」

 そう言ってヴェルデは、再び【平原】の方向を見る。対してアリナは、

「もう、変なこと言わないでよ。ほら、行くよ」

 と言って、【平原】への道を歩き出した。

 

 ――こういう時に限り、狩人の勘は当たるものなのだ。

 

 カナタ村から西に進むと、開けた大地がある。

 さまざまな大型モンスターなども来るこの大地を、狩人達は、【平原】、または【高原】と呼んでいた。

 

 岩に囲まれた、【平原】のキャンプに着いたヴェルデとアリナは、支給品ボックスから必要なものだけを取り出し、台車に乗せる。

 今回の狩りの相手がいくらドスファンゴとはいえ、油断するわけにはいかない。それに、討伐対象が2頭なので、長期戦になる可能性も十分あり得る。万全の準備を整えて、彼らは【平原】のエリア1へと向かって足を踏み出した。

 

 【平原】のエリア1は、他のどのエリアよりも開けていて、見通しが良かった。

 自動マーキングのスキルがついているアリナが、ヴェルデへと情報を送る。

「1頭はここにいるけど、もう1頭はいないみたい。早めに1頭を叩いて、楽な展開にしよう」

「了解」

 その情報を受け、短い返事を返したヴェルデは、広大なエリア1を見渡す。

 エリアが広大という事は、その分だけモンスターが多いという事でもある。【平原】のエリア1には、確かにドスファンゴ1頭の姿も確認できたが、その他にも、ランポスやイーオスの姿も多数確認できた。

「厄介だな...」

 ヴェルデが呟く。ランポスは、一対一なら相手にはならないだろうが、複数で同時に来るとなると、それなりに危険な存在になる。さらにイーオスともなると、今回ドスファンゴと戦いに来た彼らは、解毒薬を持って来ていない。乱戦の最中に毒になるという、最悪の事態も考えられた。

「そうだね。でも幸い、ドスファンゴとの距離は空いてるし、先にランポス達から狩ろうよ」

「わかった」

 そして彼らは、ランポスとイーオスの群れに向かって走る。

 数は、ランポスが2、イーオスが3だ。

 数の上では彼らが不利に思えるが、そんな事は無かった。

 敵に気付かれる前に、アリナの放った拡散弾が、ランポス達の群れの真ん中に着弾する。そして、拡散弾から解き放たれた小型の爆弾が、周辺の敵を一網打尽にする。

「ギャアッ!?」

 悲鳴をあげて吹き飛ぶ群れ。しかし、その中にも立ち上がった影があった。

 立ち上がったのは、3匹のイーオス。ランポスよりも強靭な肉体を持った彼らは、拡散弾の爆発を喰らいながらも立ち上がってきたのだ。

「後は任せろッ!」

 そう言って、イーオスの群れに突撃するヴェルデ。ランポスとは違い、危険な毒を持ったイーオスに対して、無策で突撃するのは好ましくなかった。

 だが、事前に作戦を立てていなくても、ヴェルデの中に、確かに策はあった。

 吹き飛ばされたイーオス達は、自分たちを吹き飛ばす攻撃を行ったアリナに向き、数回鳴く。

 ヴェルデが狙ったのは、まさにその瞬間だった。

 ヴェルデは、イーオス達の視線から少し離れた所にある大岩に向かって、全速力で走る。

 走る音を聞き、イーオス達はその大岩の方へ向くが、そこにヴェルデの姿は無かった。そんなイーオス達に向けて、

「どこを見てるんだ?」

 と、ヴェルデの声が響いた。

 

 アリナは、ただただ驚くだけだった。

「後は任せろッ!」

 そう言ってイーオスの群れに突撃したヴェルデは、アリナが止める間もなく走り出した。

「ギャアッ!ギャアッ!」

 その鳴き声を聞いたアリナが、イーオスの群れを見る。そのイーオス達は、既にアリナの方を向き、何度も鳴いていた。

「っ...!」

 しかし、イーオス達は、自分たちの視界を走るヴェルデに意識が行き、アリナそっちのけで大岩の方へ向く。

 だが、ヴェルデの姿はそこに無かった。

「どこを見てるんだ?」

 ヴェルデの姿は、イーオス達の背後にあった。

 それもその筈、ヴェルデは、大岩の向こうへ逃げたのではなく、その身体能力でもって、大岩を踏み台にして跳躍、イーオス達の背後に着地したのだ。

 不意を突かれたイーオス達が、ヴェルデに振り返る前に、1匹のイーオスを仕留める。

 それから、ヴェルデが残りのイーオスを仕留めるまでは、一瞬だった。

 

 残りのイーオスを倒したヴェルデは、気を抜く事無く、体勢を整える。

 集中している彼の目の先に映るのは、既に地面を数回後ろ足で蹴り、突進する体制を整えているドスファンゴの姿だった。

 ヴェルデの動きに目を取られていたアリナは、一瞬反応が遅れたが、ドスファンゴはそのまま突進してくる。

 その標的はヴェルデ。ドスファンゴは彼に突進をするが、彼は難なくそれを回避する。

「遅いぜッ!!」

 突進した反動で硬直していたドスファンゴに、そう言って双剣を振り下ろす。

 イャンクックの甲殻には、硬さでは遥かに及ばないドスファンゴの毛皮は、容易にヴェルデのランポスクロウズに斬り裂かれ、鮮血を飛び散らす。

 さらに一撃、もう一撃と連撃を繰り出し、ドスファンゴの毛皮を血で染めんとばかりの攻撃をする。

 しかし、ドスファンゴもただ黙っている訳にはいかない。背後から攻撃していたヴェルデに振り返り、その牙を振り回し、ヴェルデを近付かせまいとする。

 しかし、それこそヴェルデ達の思う壺だった。

 アリナの構えたクックアンガーから、火炎弾が放たれた。

 それは、弾丸に対して全くの無防備だったドスファンゴに着弾して、炎を上げる。

 一発で終わらず、何発も弾丸を撃ち込むアリナ。そして、ドスファンゴが牙を振り終わり、何度も弾丸を撃ち込まれたアリナに突進しようとするが、それをヴェルデが許さない。側面から斬りかかり、ドスファンゴの体勢を崩す。

「このまま押し切るッ...!」

 ここまで一切敵の攻撃を喰らわず、一方的な狩りを続けてきた彼らは、何としてもここでこのドスファンゴを仕留め、楽な展開にしたかった。

 そして、一旦距離を取っていたヴェルデが、再びドスファンゴに突撃しようとしたその時、

 ヴェルデの体を強い衝撃が襲い、その体を吹き飛ばした。

「―――ッ!?」

 そのまま地面に倒れ込んだヴェルデが慌てて立ち上がると、

 

 ――目の前に、二頭目のドスファンゴがいた。


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