モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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実は次回がイャンクック戦最終回というオチ。
まだ続きます。


第14話 雨に消える炎、消えぬ闘志

「おらあぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 雨の中、ヴェルデは雄叫びを上げる。

 ヴェルデの放った斬撃は、イャンクックの脚の甲殻に弾かれ、火花を散らす。

 しかし、その斬撃によって、何枚かの鱗は弾け飛び、内側の肉を晒す。

「くそ...ッ!」

 ヴェルデは焦っていた。

 今まで降っていた雨はほとんど止みかけている、それは、残り時間が少ないことを表している。

 加えて、斬れ味の低下による、ダメージの減少。

 さらに、アリナによる遠距離からのサポートが無い。

 これは、狩りの前に、ヴェルデが最重要と決めていたことだ。

 その全てが無くなり、あらゆる事が全て悪い方向へと向かってしまっている。

 それも、全て自分の責任だった。

 斬れ味の低下を見極めることもできずに、無意味な時間を過ごし、現に今、雨は止みかけてしまっている。

 それに、狩りの前に気を付けようとしていた、怒りに任せた攻撃を同じように繰り返し、結果、アリナに深手を負わせてしまった。

 結果的に全ての責任を負っている彼は、何としてでもイャンクックを仕留めなければならなかった。

 口から炎を溢れさせているイャンクックは、若干離れた場所にいるヴェルデに向かって跳び掛かる。

 それを前転で避けると、イャンクックのボロボロの脚に向かい、斬撃を繰り出す。

 しかし、やはりそれも、金属音と共に弾かれてしまう。

 手をビリビリと痺れさせつつも、次の攻撃を避けるヴェルデだが、やはり彼の顔には、苛立ちの色が隠し切れなかった。

(くそッ、やっぱり普通の斬撃じゃ駄目だッ!!)

 そう判断して、一旦退くヴェルデだが、それを見透かしたように、離れ際に、イャンクックが炎を吐いてくる。

「のわぁっ!?」

 体勢を崩しながらも、なんとかその攻撃を避けるヴェルデだが、彼が体勢を立て直した時には、次の攻撃がくる。

 その繰り返しで、一向に攻勢に出ることのできないヴェルデの脳裏に、アリナの顔が思い浮かぶ。

(くそッ!今はアリナに頼れないのに、余計な事をッ!)

 そう思考したヴェルデに、一瞬の隙が出来たのを、イャンクックは見逃さない。そのままヴェルデに跳び掛かってくる。

「うおっ!?」

 一瞬反応が遅れたヴェルデは、その攻撃を完全に避けることはできず、イャンクックの脚に、脇腹を蹴られ、吹き飛ばされてしまう。

 しかし、脇腹を抑えながらも、彼は立ち上がった。

 

 ――既に彼の体はボロボロだった。

 

 額からは鮮血が流れて、右目に血が入りかけている。右肩、左足の防具はイャンクックの炎によって溶かされ、今イャンクックに蹴られた衝撃で、おそらく肋骨の2,3本は折れているだろう。

 しかし、それでも彼は立ち上がる。

 立ち上がり、走り出す。

 全ては、イャンクックを狩る為に。

「おおぉぉぉぉぉおおおッッッ!!!」

 雄たけびを上げて、イャンクックの懐へと突っ込むヴェルデ。イャンクックの吐き出す炎を避け、抜刀する。

 接近されたイャンクックは、懐に入らせまいと尾を振る。

 高速で迫る尾を目前にして、ヴェルデはその尾を跳び越えた。

 さらに、それだけでなく、着地ざまに、全体重を掛けた斬撃を両手に持つ双剣に乗せて、イャンクックの頭部に向けて斬りつける。

 ヴェルデ渾身の一撃に、たまらず仰け反るイャンクック。こちらも、イャンクックの特徴である、大きな耳が裂けて、嘴も、脚の甲殻もボロボロになっていた。

 そして、怒り時特有の、口からの炎は無くなっていた。

(ここが勝負所だな...)

 と判断したヴェルデは、そのまま鬼人化し、連撃を繰り出す。

 どこにそんな体力が残っていたのか、そう思わせる程の速さで攻撃するヴェルデ。しかし、イャンクックも黙ってはいない。その嘴をヴェルデに向かって何度も叩きつける。だが、そこにヴェルデはいない。

 ヴェルデは、イャンクックの嘴による攻撃を避けて、その僅かな隙に、脚に向かって乱舞を繰り出す。

 その乱舞の前に、甲殻など意味もなく、ただ無力に斬りつけられるだけだった。

 その乱舞が終わった時、イャンクックの脚は、もはやボロボロじゃない部分を探す方が難しい程、甲殻はボロボロに剥がれ落ちていた。

 しかし、同時にヴェルデのランポスクロウズの斬れ味も、確実に削がれていた。

(どうする...!?)

 今攻めれば、イャンクックに効果的なダメージを与えることはできるだろう。しかし、ランポスクロウズが使い物にならなくなるかも知れないという、リスクを抱えた攻めとなる。

 確実に攻めるには、一旦退いて、ランポスクロウズを砥いでから出直した方がいいだろう。

 しかし、といってヴェルデは顔を上げる。

 空は、少しずつ、晴れ間が見えてきていた。

「今この場を離れる訳には...ッ!」

 そう言って再三イャンクックに突撃するヴェルデ。懐に潜り込み、連撃を繰り出す。

 その連撃は、正確にイャンクックの肉を斬り裂く。

 たまらずイャンクックは、翼を広げ、空へと逃げる。

(なんだ?移動か...?)

 しかし、予想に反してイャンクックは、一瞬その場で滞空したかと思うと、そのまま降下してくる。

「うおぉぉっ!?」

 慌ててその場から離れるヴェルデ。あのままそこに居たら、きっとイャンクックの足に押し潰されてしまっただろう。

(油断してる暇も無えなッ!)

 そして、また懐に潜り込み、斬撃を繰り出す。

 様々な悪条件が全てヴェルデにのしかかった状態で、狩りを続けている。彼の疲労は、肉体的にも、精神的にも辛いものとなっていた。

 既に彼の体は満身創痍で、動けるのがやっとの状態と言っても過言ではなかった。 しかし、そんな体で彼は、イャンクックを狩る為に走る。

 しかし、徐々にヴェルデは違和感に気付いていく。

(手応えが無くなっていく...?)

 イャンクックを斬っていく内に、イャンクックを斬る時の手応えが、徐々に無くなっていくのだ。

(斬れ味が...ッ!?)

 手元に視線を落とすと、ランポスクロウズは既にボロボロで、どこに刃があるのかすら、わからなくなりつつあった。

(このままじゃマズイ...ッ!)

 だが、顔を上げたヴェルデを待っていたのは、

 二度も彼の鎧を焼き、溶かしてきた炎の塊だった。

 

 意識が戻ったアリナは、自分の体が手当てされていることを確認し、エリア8へと向かっていった。

 しかし、そこでイャンクックと戦っていたはずのヴェルデは、地に転がり、動きを止めていた。

「ヴェル...っ!」

 言いかけて止めた。

 それは、ヴェルデと戦っていたはずのイャンクックが、悠然と立っていたからだ。

 今ここで叫べば、まだこちらに気付かれていないイャンクックに気付かれ、注意を引いてしまうだろう。

 アリナ一人でも、ヴェルデ一人でも対抗することができないイャンクック。ならば二人で対抗するしかない。

 だが、肝心のヴェルデはあそこにいる。死んではいないだろうが、気を失っている可能性は高いだろう。

 ならば、イャンクックに気付かれずにヴェルデを回収して手当てをするか、その場で意識を戻させるしか方法はないだろう。

 ちらりと空を見上げ、アリナはポーチから、こっそり持って来ていた、秘薬を取り出した。

 

 忍び足でヴェルデへと近づくアリナ。視線はイャンクックに向け、いつでも走れるように準備をする。

 幸いイャンクックはまだこちらには気付いておらず、明後日の方向を向いている。

 できるだけ近付こうとするアリナ、しかしその時、

 ぐちゃり、と泥の地面から音が鳴った。

 直後、イャンクックが振り向き、何度もアリナに向けて嘶く。

 それと同時に、アリナは走り出し、ポーチから丸い球体を取り出し、ピンを抜いて投げつける。

 そして、イャンクックの眼前で炸裂した音爆弾が、イャンクックの三半規管を揺さぶった。

 空を仰ぐイャンクックをよそに、ヴェルデに駆け寄ったアリナは、彼の口に秘薬を放り込む。

 すると、

「っ...くそ、見事にやられたな...助かったぜ、アリナ。」

 ――そう言って、ヴェルデが起き上がった。




次回こそイャンクック戦が終わります。

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