モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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イャンクック戦、序盤です。
それにしても戦闘シーンは辛い...
だからといって戦闘じゃないほうが良いってわけでもありませんけどね!(オイ


第11話 舞い降りる怪鳥、響く轟音

 エリア4に入り、台車を入り口の近くに置いたヴェルデ達。彼らは素早く必要な物だけを持ち、その場を離れる。

 アリナは、先程と同じように台車の陰に、ヴェルデは、近くの木々の間に、それぞれ隠れる。

 このエリア4は、頭上を見上げると、そこは崖になっており、その崖の下には、洞窟であるエリア8へと続く、大きめのトンネルが出来ていた。

 そのトンネルの周りは、小さな広場になっているが、そのさらに周りは、木々が生い茂り、隠れるだけの場所は、十分にあった。ヴェルデとアリナは、ちょうどその広場の中心を挟むように隠れ、ただ息を殺して、その時を待った。

 そしてその時は、すぐに来た。

 灰色の空から聞こえる、翼をはばたかせる音、その音は、徐々に大きくなっていく。

「来たか...!」

 そう言って、木の陰から、注意を引き付けるために飛び出すヴェルデ。

 彼が見上げる空には、一羽の巨大な鳥が、宙を舞っていた。

 水色の翼をはばたかせ、それはゆっくりと降下して、着地した。

 その体は、彼らが今まで戦った、ランポス等とは似ても似つかない体のつくりをしていて、背中は朱色の甲殻で覆われている。そこから生える水色の翼は、周りの生物を威嚇するように、未だに大きく広げたままだ。

 朱色の体には、飛竜種程ではないものの、しっかりとした尾があり、祖先の名残だと思われる。

 そして何よりも特徴的なのは、エリマキ状の大きな耳と、黄の色をした、顔のほとんどを占める、大きな嘴。

 ――怪鳥イャンクック。ヴェルデとアリナの前には、狩人の登竜門とも呼ばれる、鳥竜種がいた。

 それは、狩人たちに向けて一度大きく嘶く。

 不意に、イャンクックの嘴から炎が溢れ出す。それを見たヴェルデが、「やべっ」と言い、回避行動をとろうとする直前、イャンクックは、それを、ヴェルデに向かって吹き付ける。

 その炎の塊は、地面に着弾すると同時に、ジュワッ!と音をたてる。

 間一髪、その炎を回避したヴェルデは、「危ねぇっ...雨だからって油断してるとマズいな...」と言いつつ、すぐに体勢を立て直し、イャンクックの懐に潜りこむ。

(だけど、接近されたら、炎は吐けねぇよなぁ!)

 炎を吐いた反動で、硬直したイャンクックに、その僅かな時間で接近する。そして、走る勢いそのまま抜刀し、イャンクックの脚を狙って斬り払う。しかし、その攻撃も、 イャンクックの甲殻によって、弾かれはしなかったものの、手応えは感じなかった。

「くっ...斬れない事は無いが、やっぱり硬てぇ...っ!」

 若干手がビリビリと痺れるヴェルデだったが、反撃を予測して一旦距離をとる。しかし、その判断は間違いだったと、思い知らされることになる。

 ジュワッ!

 距離をとったヴェルデに、容赦なくイャンクックの吐いた炎が襲う。咄嗟に回避行動をとったヴェルデだったが、完全に避けることはできず、遅れた右足に着弾してしまう。

「ぐおぁっ!」

 たまらず叫ぶヴェルデ。しかしその炎は、すぐに雨によって鎮火される。

「畜生...っ!こいつ、俺が距離をとる瞬間を狙って...!」

 その言葉の意味を知ってか知らずか、イャンクックは、勝ち誇ったように鳴く。

 しかしヴェルデも、その鳴き声に、さらに勝ち誇ったように、言葉を返す。

「だがなイャンクック。何も敵は一人とは、限らないんだぜ?」

 モンスターに人間の言葉など分かる筈がないが、野生の勘なのか、その言葉を聞いた イャンクックは、目の前のヴェルデそっちのけで、首をもたげて、正面や横を見回す。

 そして――

 ――イャンクックの体を、爆発が包み込んだ。

 

 アリナは、叫びたい気持ちを、理性で抑え込み、息を飲み込んだ。

 時刻は数十秒前、ヴェルデがイャンクックと戦い始めて少し経った時。

 アリナは、数分前のヴェルデの言葉を思い出す。

『イャンクックが既にエリア内を歩いてるなら、さっきみたいに俺が、イャンクックの 向こう側に走り込む。イャンクックがまだ空にいるなら、俺はなるべく迂回して、エリアの向こう側で待機する。どっちの場合でも、やることはさっきと同じだ。イャンクックと戦ってる最中に、合図を送るから、そのタイミングに合わせて、イャンクックに効果的にダメージを与えてくれ。弾丸は任せる。』

「とは言われたけど、本当に大丈夫かなぁ...」

 先程は、戦い慣れたランポスだったので、そういう戦法が十分に通用したが、今回の相手は、ヴェルデも初めて対峙するイャンクック。流石に1人で、しかも足元を気にしながら無傷で切り抜けるのは、いくらヴェルデでも心配だった。

 だが、「作戦は任せる」と言ったわりに、なんだかんだで自分も考えてるんだなぁ、とアリナが微笑を洩らした、その時。

「ぐおぁっ!」

 その叫びを聞いて、アリナはふと我に返り、前を見る。

 その叫びは、ヴェルデがイャンクックの炎を避けきれずに、右足に被弾し、思わず叫んでしまったようだ。

 しかしアリナは、そんなことは考えていなかった。彼女は今、どのタイミングで飛び出すかを考えていた。

 そう、ヴェルデが右足に被弾してから、体勢を立て直すその僅かな時間、彼は一瞬、アリナの方を向いたのだ。

 確証はなかったが、アリナは、それがヴェルデの言う、『合図』だと、直感で感じた。

 ふと、声が聞こえた。

「だがなイャンクック。何も敵は一人とは、限らないんだぜ?」

 その声は決して大きくなかったが、雨の中でもその声はアリナに届いた。

 アリナはすぐさま台車の陰から飛び出す。濡れた地面から、ズシャァという音がするが、アリナの耳に入ることはない。

 既に装填された拡散弾Lv1の、すべての爆弾をイャンクックに当てるため、スコープを覗き、首をもたげて背中が見えやすくなっているイャンクックの背中に照準を合わせる。

 その動作を一瞬の間にやってのけたアリナは、チェーンブリッツの引き金を引く。

 瞬間、

 ――イャンクックの体が、轟音と共に、爆発の炎に包み込まれた。

 

(まさか拡散弾をここで使うか...最高だな、アリナ!)

 ヴェルデは心の中で言い、イャンクックに狙いをつけられたアリナをフォローする為、鬼人化し、再びイャンクックの懐に潜り込む。

「遠方ばっか気にして、懐ががら空きだぜッ!」

 アリナの放った拡散弾と、ヴェルデが放った連撃により、イャンクックがダメージで仰け反る。

 二人はその隙を見逃さず、ヴェルデは鬼人化を解いて、彼の得意とするコンビネーションを繰り出し、アリナは通常弾Lv2をリロードする。

 しかし、やられたままで終わるほど、イャンクックは甘い相手ではなかった。

 怯みの硬直が解けたイャンクックは、その嘴から溢れ出んばかりの炎を漏らし、数回その場で跳ね回る。

 怒り。モンスターの身体能力が上昇し、モンスターによっては、攻撃パターンが増えることもある、狩人にとっては、狩猟の一番の山場だろう。

 イャンクックが飛び跳ねたことによって、接近戦をしていたヴェルデは、一度後退するが、通常弾Lv2をリロードし終えたアリナは、その最中も、イャンクックに弾を撃つ。

「アリナ、ここからだぞ!わかってるな!?」

「わかってる、心配しないで!」

 イャンクックから目線は外さずに、短いやりとりをする二人。

 そしてイャンクックは、今まで散々攻撃された恨みを晴らすかのように、嘴に溜めた炎を、何度も吐く。

 その攻撃に、一度後退して、様子を見ていたヴェルデは、たまらず回避し、さらに後退する。

「それじゃヴェルデくん、今から用意するから、イャンクックはよろしく!」

 つまり、怒り状態のイャンクックと、1対1で正面から戦えという意味だったのだが、 ヴェルデは「了解!」とだけ返して、イャンクックに突撃する。「とはいえ、こっちも流石にキツイけどな...」と言うヴェルデだが、彼は決して退こうとはしなかった。なぜならそこには、彼らが立てた、二つ目の作戦があったからだ。

 

「ごめんヴェルデくん...すぐ戻るから...!」

 

「さあ、第二幕だ。いくぞイャンクック!!」

 

 ――雨の中、狩人達は走り出す。




次回から、イャンクック戦、中盤に突入します。
これ、計4話くらいでイャンクック戦終わりそうだな...

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