モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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戦闘シーンはあると言ったが、別にイャンクックとの戦闘とは言っていない...
そんなこんなで第10話です。


第10話 止まぬ雨、歩き出す狩人達

 クエストを受注し、ギルドから出たヴェルデとアリナ。彼らが見上げた灰色の空からは、未だに止まない雨が降り続けている。しかしその雨は、ヴェルデが村に戻った時よりはまだ小雨で、どしゃ降りとまでは言えないくらいには収まっていた。

「この分じゃ、足場はともかく、動きに支障が出る程じゃないな」

 そう呟くヴェルデは、その濃い深緑色の髪についた水滴を手で拭き、さらにこう言う。

「これ以上足場が悪くなると、冗談じゃ済まなくなる。出来るだけ早く準備して、早く行こう」

 アリナもその言葉に頷いて、二人は家へ向かい、歩き出した。

 

 家に着いた二人は、朝食をとりつつ、レミィに狩猟の件を話し、二階のヴェルデの部屋に入った。

「さて、今回の狩りは、今までと違う点が多くある。だけどイャンクックの事は分かっても、作戦とかそういうのは無理だから、アリナ、考えてくれ」

 と、人任せな発言をするヴェルデ。彼自身、学生時代では、そこまで頭が良い訳では無い。むしろだいぶ悪い上に、試験の時などは、アリナに質問をしに行くなど、結構アリナに頼る事が多かったのだ。

「うん...それじゃあ、隣の部屋から私のノートを取って来るね」

 そう言い、彼女は一旦部屋を出る。ヴェルデの部屋の扉が閉まる音と、アリナの部屋の扉が開く音が、同時に響いた。

 それから、一分と経たずに、彼女は部屋に戻って来た。

「あったよ。今から考えるから、ちょっと待っててね」

 と言って、彼女は、持ってきたノートのページをめくり、その中の1ページを凝視し、顎に手を当てて考え始めた。

(そう言えば、俺も学生時代のノートがあるんだったな...このまま待つのも何だし、少し見てみるか。)

 そう考えたヴェルデは、本棚から一冊のノートを取り出す。

(さて、イャンクックのページは、と...)

 そのページを探すのに、さほど時間はかからなかった。

 彼のノートには、それぞれの種族毎にページ分けされた、各モンスターの特徴、弱点部位などが殴り書きで書かれていた。

(あったあった。どれどれ...?)

 

 そして、彼らが各々のノートを読むこと5分、ふと我に返ったヴェルデが、アリナに問う。

「っと、いつの間にか他のページまで読んじまったぜ。どうだアリナ、何か思いついたか?」

 その言葉に彼女は、今まで開いていたノートから視線を外し、顔を上げる。

「そう...だね。それじゃあ、いくつか考えた事を言うね」

 と言って、一旦ノートを見てから、再び顔を上げ、言う。

「まず、イャンクックは、今まで戦ってきた、ランポスやファンゴと違って、甲殻が硬くて生半可な武器じゃあ、通用しないね」

 そこで彼女は、ヴェルデの側に置いてある、ランポスクロウズを見て、

「だけど、ボーン系の武器とは違って、ランポスクロウズだったら、イャンクックの甲殻でも、十分なダメージを与えることが出来ると思うの。問題は、その斬れ味がなくなった時」

 武器の斬れ味の保持は、剣士にとって、少なくともヴェルデの中ではスタミナと同じ位に重要な事だと心がけている。

 しかし、今回が初の狩猟となるイャンクックに対しては、まだ攻撃するタイミングがよく分かっていない。その為、どういうタイミングで砥石を使えばいいのか、それは重要な事だった。

「その時は、音爆弾を投げて怯ませて、すぐ離脱して。イャンクックは聴力が優れているから、それを利用するの。一瞬でも怯ませたら、私がLv1通常弾の速射で注意を引くから、その隙に研いで」

「了解。だけどお前も気を付けろよ、ただでさえ足場が悪いのに、ガンナーは装甲も薄いんだから」

 剣士と比べてガンナーは、弾丸を所持する分、どうしてもその分の装甲が薄くなってしまう。なのでヴェルデは、その辺りにも気を使い、注意をした。

「分かってるわよ、心配しないで」

 笑顔で、何ともないような顔をして言うアリナ。しかしヴェルデはその顔に、僅かな緊張と不安の色を感じた。

 

 玄関の扉が閉まる音がした。

 準備と作戦会議を終えた二人は、家を出て、【高山】へと向かって歩き出す。

 村を歩く二人の間には、様々な悪条件が重なったことで、言い知れぬ緊張感が漂っていた。

 いまだ空からは黒い雨が降り、足元は濡れ、気を抜けば地面に足を取られてしまいそうだ。

「雨は強くなった訳でもなく、弱くなった訳でもない、か」

 そう言うヴェルデの顔には、やはり隠し切れない緊張の色があった。

「うん、むしろ今みたいに雨が降ってた方が、イャンクックの炎をいちいち気にしないで立ち回れるし、いいと思うよ。」

 と返すアリナの顔にも、やはりヴェルデと同様に、緊張と不安が感じ取れた。

 二人は村の大通りの一番東側の端、ゴルドラ山、通称【高山】。その入り口に立ち、山頂を見上げる。

 そして二人は、村の出口である門をくぐり、【高山】へと足を踏み入れた。

 

 今回の狩りは、晴れてしまうと、木などの燃えやすい物に引火する可能性がある為、立ち回りに気を使わなければいけないので、一気に不利になってしまう。

 なので、できるだけ様子見を最低限にして、雨がやむ前に決着をつける必要がある。

 本来の狩りは、こういった特殊な状況に陥ることはほぼ無いため、基本的に、制限時間は無いが、こういった特別な場合には、制限時間が設けられる。

 ただし、今回の狩りは、雨がいつ止むか、そういった自然との闘いで、いつ止むかのタイミングがわからない為、今回は制限時間は設けられていなかった。

 だが、いつ雨が止むか、全く予想できない今回は、できるだけ早めに決着をつけることが望まれる。

 なので今回は、多少手痛い出費を支払ってでも、イャンクックをできる限り早く倒す為に、罠などの様々な道具を持って来ている。

 今回の彼らの持つ道具は、回復薬がそれぞれ10個ずつ、ペイントボールが計5つ、それに音爆弾が5つ、ヴェルデはさらに砥石が10個。

 アリナはガンナーなので、通常弾Lv1とLv2、それと貫通弾、散弾、麻痺弾と毒弾の各種Lv1をいくつか持って来ている。

 それに加えて今回は、シビレ罠、落とし穴を1つずつ、そして雨天時にのみ効果を発揮する爆雷針を5つ持って来ていた。

 加えて、支給品として応急薬が6つ、携帯砥石が2つ、音爆弾が2つで合計7つ、さらに弾丸がいくつか。

 このように、以前ヴェルデが一人でドスランポスを狩った時よりも、はるかに大荷物となっていた。

「うへぇ...これ全部俺が運ぶのか...」

 と呟くヴェルデ。前の狩猟では、たいした荷物もなかった為、そこまで苦労して荷物を運ぶことはなかったが、流石に今回は違った。短期決着をつけるために、罠類をすべて一気に運ばなければならないのだ。

「頑張って。今回は台車もあるし、山頂までは流石に運べないと思うし、中腹まででいいから。」

 そう励ますアリナだったが、やはりヴェルデの表情は暗いままだった。しかし、

「まあ、このやり方じゃないと今回は厳しいし、我慢すっかな。」

 と顔をあげて、頬を両手で二回程叩き、気合を入れるヴェルデ。そのまま台車を引く準備に入り、アリナに声を掛ける。

「一応大丈夫とは思うけど、後方の確認頼むぞ」

 といって台車を引き出す。その背中にアリナは「了解」とだけ返し、ヴェルデの後に続いていく。

 

 エリア1を何事もなく通過して、エリア3に入ったヴェルデ達の前に、ランポスが現れる、その数2匹。

「...一匹任せるぞ、アリナ。台車は一旦ここに置いていく」

「了解、任せて」

 短いやり取りを交わして、彼らはそれぞれ動き出す。

 ヴェルデは最短距離でランポスに突撃し、抜刀する。

 対象的に、アリナは一度台車の陰に隠れ、通常弾Lv1をリロードする。

 ヴェルデとランポスの距離が5mを切った時、ようやくランポス達がヴェルデに気付く。

 2匹分のランポスの鳴き声が響く中、ヴェルデはそのうち、奥のランポスの背後まで走り抜け、振り向きざまに斬りつける。

 2匹の注意が完全にヴェルデに集中したのを感じ取った彼は、台車の陰から顔を覗かせているアリナにアイコンタクトを送る。

(今だアリナ!)

 彼の心の声に応えるかの様に、アリナが台車の陰から一気に飛び出し、ヴェルデから見て奥の方のランポスに、通常弾Lv1の速射を命中させる。

「ギャア!?」

 予想外からの攻撃に、たまらずランポスは仰け反る、この隙を見逃さずアリナは、再び通常弾Lv1の速射を放つ。

 そのうちの1つが、ヴェルデの対峙しているランポスに命中した。

 そのランポスも、驚いたのか、ヴェルデをそっちのけで、アリナの方を向く。しかし、

「おらぁッ!余所見してんじゃねえぞッ!」

 その隙を見逃さなかったヴェルデが、一瞬のうちに鬼人化し、ランポスを連続で斬りつける。

「ギャアッ!?」

 ヴェルデの連撃をまともに受けたランポスは、ヴェルデの斬り下ろしをくらい、吹き飛ばされる。そして、その攻撃によって、その青き身を鮮血で染められたランポスは、二度と起き上がる事は無かった。

 一方アリナは、最初こそ速射でランポスに効果的なダメージを与えていたが、3回目の速射が終わり、リロードをしている最中に、一気に距離を詰められてしまい、現在は防戦一方だった。しかし、ヴェルデが片方のランポスを倒すと同時に、もう片方のランポスに表れた動揺を見逃さずリロードし、最後の速射で、一気に片をつけた。

「まあ、こんなものだな」

 そう言いながら、ランポスクロウズを研いで、呼吸を整えるヴェルデ。彼の額には少量の汗をかいていたが、それもすぐ雨に流される。

 その雨を鬱陶しそうに拭きながら、ランポスクロウズを背中に納刀する。

「うん、正直反省する所もあったけど、今はそれより、早くイャンクックを見つけなきゃね」

 対するアリナも少量の汗をかいていたが、それを気にする事もなく台車へと向かっていく。

「どうする?エリア4に荷車を置いて、またここに戻って、山頂に登るか?」

 と提案するヴェルデ。それを聞いて、アリナは頷き、

「うん。でも、イャンクックは山頂じゃなくて、エリア4にいるから、エリア4の入り口に台車を置いて、そのまま戦おう。」

 ほら、自動マーキング。と、最後に付け足したアリナ。それに「あ、ああ。そうだったな。」と、やや焦って返すヴェルデ。

 そして彼らは、イャンクックのいるエリア4に向かって、歩き始めた。




次回はついにイャンクックとの戦闘になります。
さて、一体何話続くのか...

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