ゼロの使い魔 竜の乱   作:くたしん

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平均評価が付いている小説をみて、羨ましく感じているくたしんです(特に黄とか赤)

では本編へ


9話 トリステイン魔法学院 、そしてド・オルニエールへ 後編

あれから何日か経ち、その間に色々なことがあった。

 

まず、死んでいった生徒、教師の親族などが学院に怒鳴り込んできた。普段ならモンスターペアレンツ(ハルケギニアにそんな単語は無いが)として軽蔑なりなんなり出来るだろう。だが、今は状況が違う。信頼ある学院に愛する息子や娘を送り出したらいきなりその命を失ったのだ。怒鳴り込んでくる気持ちも分かる

 

学院は一連の流れを説明。これを聞いた親族一同は、今度はアギル一族の家に怒鳴り込んでいき、ミスタ・アギルの貴族の位を剥奪するよう要求した

 

だが、これはもうとっくに王宮が剥奪していた。加えてアギル家はミスタ・アギルのアギルの名も剥奪。ミスタ・アギルはただの平民となってしまった

 

余談だが、この時学院の長であるオスマンにも管理問題が指摘されて、危うく懲罰されるところであったが、これはアンリエッタ女王が抑えてくれたため無事だった

 

その後は学院をあげて葬式を行った。生き残った教師、生徒、親族が全員で死んだ者への冥福を祈る。生徒であるルイズも当然出席していた。その周りでは涙を流す生徒がいたり、未だ現実を受け入られず呆然とただ幽霊のように立っている生徒もいた。

 

ルイズや学生の前には数十個もの棺桶が並んでいる。その中にある遺体は何回も言ってるが、凄惨の一言だ。中にはリオレウスに喰われて、体が残っていない生徒もいた。その親族には遺体が帰ってこない。そればかりか骨すらも満足に帰ってこない。親族はリオレウスに対する憎しみだけが増していった。この親族達が後に『ギルド』を作ることになるのだが..それはまた別の話であろう

 

遺体の中にはルイズのことを『ゼロ』と馬鹿にするものもいたが、こんなことになると、ルイズは流石に同情した。

 

だが、こうも思ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざまあみなさい、と

 

ルイズはこんな考えを持っている自分が心の中にいることに吐き気を覚え、その場を去った。自分はこの場にいていい資格が無いように思ったからだ

 

葬式が終わった後、当然といえば当然なのだが大半の生徒が退学し、教師も大勢退職した。このことに学院も対応しきれなくなり、事実上の閉校となった。

 

そして、サイトだが...簡潔に言おう。サイトは助かった。アンリエッタ女王や軍医達の尽力もあり、壊死(ハルケギニアでは腐り病と言われている)の心配も無く、まだ不自由は残っているが、左腕も動かせられる。そして、ルイズ、サイト、シエスタ、キュルケ、ギーシュ、マリコルヌ、レイナールはかねてから決めていたド・オルニエール行きを決行。ド・オルニエールに向かうことになった。ちなみにタバサは一度、ガリアに戻り、モンモランシーも実家に帰った

 

 

 

一行は今、ド・オルニエールの土地へと入り込んだ。そこから今回の話は始まる

 

 

 

最も、ド・オルニエールに入った瞬間、あるモンスターの視界に捉えられたのをサイト達は知らないが

 

 

 

地球の日本時間で言うと12時にあたる時、晴天の中、二頭の馬と馬車がド・オルニエールの土地を闊歩していた。周りは寂れた土地だが、シエスタから見て左の方角に鬱蒼とした森がある。馬を操っているのはシエスタ。乗っているのはサイト、ルイズ、キュルケ、と荷物。もう一つの馬車を操縦しているのはギーシュ。乗っているのはマリコルヌ、レイナール、と多くの荷物。シエスタの馬車を追うように歩いている

 

シエスタが操っている馬車の中の空気は普段よりも10倍重く感じた。学院であんな事があったのだから和気藹々としている方がおかしいが。

 

そんな重苦しい雰囲気の中、ルイズが口を開いた

 

「ねえ、サイト。あのドラゴンをどう思う?」

 

「どうって...強かったとしか言いようが...」

 

ちなみにサイトは大事をとって左腕にギブスを付けている

 

「そうじゃなくて、何であいつは学院を襲ったのよ」

 

「分からねえよ。そんなもん」

 

リオレウスが学院を襲った理由は縄張り獲得なのだが...これを聞いたサイト達は一体どういう反応をするかは誰にも分からない...と言ったところだろうか

 

「あのドラゴン、文献を出来るだけ探したんだけど何処にも記載されてなかったわ。デルフリンガーは何か知ってる?」

 

「どうなんだ、デルフ?」

 

サイトはデルフリンガーを引き抜く

 

「知らねーな、あんなやつ。初めて見たぜ」

 

それでルイズは確信した

 

「そう、あいつは突然現れた。あんたのように」

 

その言葉にサイトが驚いた表情になる

 

「お、おい。それってまさか...」

 

「ええ、そうよ...奴は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サモン・サーヴァント』で呼び出された可能性があるわ」

 

キュルケが息を呑む。もし、そうだとしたらあれほど強力なドラゴンを呼び出せれる強力なメイジであるからだ。しかも、学院を襲わせたことになると、悪意あるものということになる

 

最も、あのリオレウスの目的は先述した通り、縄張り獲得だからこの予想は外れだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイトさん!!!」

 

唐突にシエスタが悲鳴に近い声でサイトを呼んだ

 

「どうした!!」

 

サイトも慌ただしく馬車から顔を出す

 

「あ、あれ!!」

 

シエスタが指をさす。場所は馬車から右方向70メイルほど。寂れた土地にそいつらは立っていた。詳しい容姿は分からないが、5匹いるのと小柄ということだけが分かった。あと、殺気をむんむん漂わせていたのがサイトには分かった

 

「逃げろ!!全速力だ!!」

 

「はいっ!!」

 

シエスタが鞭を入れ、馬を走らせるのと同時にそいつらと事情を把握したもう一つの馬車も動き出した。奴等は小柄な体のおかげなのか、速い

 

対して二頭の馬は馬車を引いてる上に、大勢の人、荷物が重く、ド・オルニエールの寂れた土地が悪路となり、思ったほどのスピードが出ない。どうなるかは想像しなくても分かる

 

そいつらが近付くにつれ、容姿が分かってくる。体長は二メイルほどだが、体高はサイトよりちょっと低い。ひょろりとした体。全体を褐色がかった橙色の鱗が覆っているが、申し訳程度に背中を青い鱗が走っている。特徴的な襟巻のような青い耳。

 

鳥竜種 ジャギィ、それが彼等の別世界での名前だ

 

何となくサイトは盗賊などのならず者を連想する。こう、砂漠に住んでそうな...

 

サイトはそういう事を考えるのをやめた。ジャギィ達が本格的に接近しているからだ

 

ジャギィ達は馬車に並走しながら、徐々に圧迫するように接近してくる。気がつけば、差は20メイルまで縮まっていた

 

シエスタはこれを避けるためか、馬の鼻を45度左に向けた。ジャギィ達はこれについていく。これにより、ジャギィ達が後ろから馬車を追うような形になる。

 

馬車は森に近づいて行くが、ようやく馬もスピードに乗り始めたのか、ジャギィ達を突き放す。シエスタはこれを見てホッとしたが、サイトはこう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまった、と

 

それをシエスタに伝えようとした時には...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、遅い

 

「きゃあっ!!」

 

シエスタが悲鳴をあげ、馬が嘶いたと思ったら森の中からジャギィよりも二回りも三回りも大きい影が飛び出し、馬の首に喰らいつき、ねじ伏せる

 

それの影響と慣性で馬車も盛大に吹っ飛び、サイト、ルイズ、キュルケと荷物が中から放り出され、地面に強かに打ちのめされた。当然、馬に乗っていたシエスタもだ

 

「サイト!!皆!!」

 

シエスタが操っていた馬車の後ろを追いかけていたギーシュが、サイトの元に駆け寄ろうとしたが、それもかなわない

 

「うわっ!!」

 

何故なら、森から飛び出してきた十数匹ものジャギィが馬に喰らい付いてきたからだ。しかし、ギーシュは咄嗟に『フライ』を使い、飛び上がったため、巻き込まれることはなかった。

体格ならジャギィより馬の方がしっかりしてるが、多勢に無勢。出血により、あっという間に馬は力尽きた。

ただ、馬は崩れ落ちるように力尽きたため、マリコルヌとレイナールは地面に叩きつけられるようなことは無かった

 

そして、シエスタの操っていた馬の首根っこを押さえているモンスターをサイトは咳き込みながら立ち上がり、見る。体長は9メイルほど。リオレウスほどではないが、サイト達よりもはるかに大きい。最近、何者かと戦ったのか背中から腹にかけて白い古傷が付いている。頭に付いているボスの象徴である立派なエリマキ。

 

狗竜 ドスジャギィ。別世界での名前であり、ジャギィ達の群れのボスだ

 

ドスジャギィは馬が息絶えたのを確認すると、首から口を離す。ジャギィ達も同様だ。

ドスジャギィはすぐに馬を喰い始めた

 

ジャギィ達はご馳走を前にして嬉しいのか、ギャアギャア叫びながら飛び跳ねる。今すぐにでも喰らいたいが、ボスが睨みを利かせているためか我慢している。もし今、餌に手を出せばボスから制裁が加えられるのは目に見えているからだ。

基本的に、餌を食べる順番はボスであるドスジャギィ→巣を守っているジャギィノス→ジャギィ達。つまり、ジャギィ達はおこぼれしか貰えないのである。

その事もジャギィ達は分かってはいたが、最近何も食べていないのでだんだん抑止が効かなくなっていった

 

もう一頭の自分達で仕留めた馬を我慢できずに食べようとする者もいたが、ボスが声で制する。ジャギィノスに食べさせるつもりのようだ

 

そんな時、ジャギィ達は見つけた。ボスのすぐ近くで地面に横たわっているメイド服を着ている少女を。

 

シエスタだ

 

彼女はドスジャギィから距離にして僅か5メイルほどのところに倒れていた。それなのにジャギィ達に気付かれなかったのは、彼等が餌に夢中で視野が狭まっていたからであろう

 

馬を貪り食っているドスジャギィはともかく、飢えているジャギィ達にとってシエスタは格好の獲物であった

 

十数匹のジャギィ達は一斉に動き出し、シエスタを取り囲み、うち何匹かがツンツン突っつく。

 

「ん...」

 

その衝撃でシエスタは目を覚ました。そして彼女が見たのは、何個もの、欲望に満ちた目

 

「ひ、ひいっ!!」

 

温度を感じさせない冷たい目で睨まれたシエスタは腰を抜かしながらも何とか逃げようとするが、周りは完全にジャギィに包囲されている。逃げ場は、ない

 

「い、いや...」

 

ジャギィ達は鋭い針のような口を開き...

 

 

 

「ギャアッ!?」

 

突如現れた炎に驚き、大きく後ろに飛んだ。

 

炎の出所は赤髪を持つ少女。キュルケだ。彼女は『発火』の呪文を唱え、ジャギィ達を脅したのだ

 

「大丈夫...?メイドさん」

 

シエスタはすぐにその場を離脱し、キュルケの元に駆け寄る。キュルケは痛む身体を無理矢理起こす。顔も苦しげだ。それもそうだろう。何せ、先程の馬車の速度、時速40Km(ハルケギニア単位で時速40リーグ)の速度で地面に叩きつけられたのだ。骨の一二本ぐらい折れてても不思議では無かったが、幸いにもキュルケはそのような事は無かった。

 

サイトは受け身を取り、それでも強い衝撃が来たが無事ではあった。ルイズも特に大きな問題は無かった。直ぐに痛む身体を動かし、キュルケ、シエスタの元に駆け寄る。ギーシュ、マリコルヌ、レイナールも駆け寄った

 

「グワッグワァグワオウ!!」

 

一匹のジャギィが頭をもたげて吠える。すると、ジャギィ達はサイト達を取り囲んだ。サイト達はこれに対し、背中あわせで円陣を組んだ

 

すると、五匹のジャギィがジャギィ達に合流する。さっき、サイト達を追いかけていたジャギィ達である。

 

サイトはそのジャギィ達を忌々しげに睨みつける。あのジャギィ達は自分達を追い立てるだけの追い立て部隊。サイト達は逃げているつもりだったが、逆に森に追い込まれていたのだ。そして、森で待ち伏せしていた本隊が哀れな獲物を捕らえる...恐ろしいまでの連携と統率力であった

 

「グワオウ!!」

 

一匹のジャギィがサイトに飛びかかる

 

「ふん!!」

 

サイトはデルフリンガーを引き抜き、そのジャギィを斬る。

 

「ギャアッ!?」

 

ジャギィは吹っ飛ぶが、すぐに立ち上がる。威力が乗っていないのだ。無理もない。サイトは今、左腕を使えないし、おまけにデルフリンガーは大剣だ。片腕では威力の半分も出ないだろう

 

「グワッ!!」

 

また一匹のジャギィが飛びかかってきた。今度はギーシュだ

 

「ワルキューレ!!」

 

ギーシュは『錬金』でワルキューレを作り出し、ジャギィを殴り飛ばした

 

「「ギャアッ!ギャアッ!」」

 

次に、二匹のジャギィがキュルケに飛びかかる。

 

「くっ、あっちに行きなさい!!」

 

キュルケは杖の先に炎を灯し、振り回す。すると、予想外なことが起きた

 

「クゥン..」

 

「キャン!!」

 

何と、さっきまであんなに殺気だってたジャギィ達が炎を見て一気に弱腰になり、距離をとりはじめたのだ。人によっては可愛く思える声を出しながら全く襲わない

 

「え?一体何なの?」

 

キュルケが目を見開きながらそう呟く。そこでサイトは思い出した。地球にいた時、テレビでコメディアンか何かが言っていた。『獣は火を怖がること』と

 

「みんな、火をたけ!!獣は火を怖がる!!」

 

サイトの声でギーシュ、マリコルヌ、レイナール、ルイズ、シエスタは落ちていた木や、大破した馬車の一部を拾いあげ、先端に土を付ける。そして、ギーシュの魔法で木の先端に『錬金』をかけ、土を油に変えた後、そこにキュルケの魔法で火をつけた

 

炎を見て、ジャギィ達は更に弱腰になる。ただ、相当腹が減っているのだろう。諦めようとはしない。やがて、両者共に全く動かなくなった。否、動けなくなった

 

 

数分たった。静寂の中、ドスジャギィが馬を食う音だけ聞こえている

 

未だに膠着状態は続いている。サイト達は木材を拾っては先端に火を付ける...という行為ばかりやっていた。

 

一方、ジャギィ達は腹は減っているが焦ることはない、と言わんばかりに腰を下ろす者もいた。獲物の周囲は完全に包囲している。奴らは逃げられない。しかし、すぐには襲わない。火は怖いし、下手に襲えばこちらも被害を受けるからである

 

ならば...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴らが衰弱して、火が消えたところを狙えばいい。獲物が衰弱し、反撃出来なくなったら一気に襲いかかり、仕留める。そうジャギィ達は考えた。

 

実に簡単で確実な狩りの方法であった。ジャギィ達だけでは大した連携はとれないが、これくらいなら朝飯前...と言ったところであろう

 

サイト達にもジャギィ達の狙いは分かっていた。しかし、突破口がない。オマケにキュルケは馬車から放り出された際、打ち所が悪かったのか、今にも倒れそうだ。オマケに、足を負傷している。

一箇所を突き崩して、突破口を...という手も考えたがキュルケが満足に動ける状況ではない

 

「なあ、サイト。いつまでこんな事続けるんだよ?」

 

マリコルヌが若干苛立ちながらサイトに質問する

 

「落ち着け、マリコルヌ」

 

「どーすんだよ相棒。このままじゃあやられちまうぜ」

 

デルフリンガーもそう言うが、いいアイデアが思いつかない

 

すると、ギーシュが焦った声を出した

 

「火が...」

 

木材の先に付けていた火が、ボボッという濁った音を出した後、消えた。それだけではない、木材が、尽きた。

 

「ギャアッ!ギャアッ!」

 

「グワッ!」

 

「グワオウ!」

 

ジャギィ達は待ってましたとばかりに包囲の網を狭める。サイト達との距離、わずか7メイル。

 

いよいよ攻撃を仕掛けるか...?そうサイトは考えた。しかし、直ぐには仕掛けてこなかった

 

「ウオオオオ、オッオッオッ」

 

すると、ジャギィよりも野太い声が辺りに響いた。ボスのドスジャギィだ。馬の右半身を食べ終わり、ドスジャギィも部下の食料確保のために動き出したのだ。そして、今の鳴き声は部下への命令。

 

「やべえな相棒。あいつの指揮下だとあのちっこい奴等の連携力が跳ね上がるぞ。どうする?」

 

「くっそ...左腕が使えたらこんな奴ら」

 

「来るわよ!!」

 

サイトが悔しげな声を出し、ルイズが警戒の声を上げた

 

その直後、一匹のジャギィがマリコルヌに襲いかかった...と見せかけてすぐに引き返した。レイナールにも襲いかかった..と見せかけてまた引き返した

 

無駄な事をしているようにも見えるが、これも立派な戦術だ。ああやってちょっかいを出すように接近すると獲物はジャギィの動きに集中することで気力を消耗する。気力が消耗し、集中力が無くなった後、徐々に傷を負わせて、体力を消耗させる。ドスジャギィが編み出した実に嫌らしく、効果的な戦法であった

 

「くっそぉ...」

 

サイトはデルフリンガーを振り回すが、それではジャギィ達の思う壺であった。余計に体力を消耗するからである

 

このままやられるのかよ...サイトはそう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、晴天の中、影が出来た

 

ジャギィやドスジャギィも空を見上げ、包囲を崩して散開した

 

刹那、そこに蒼のドラゴンが勢いよく降りてきた。体長6メイル。長い前足をもつハルケギニアの竜。

 

風韻竜 シルフィードだ

 

「シルフィード!?なんで」

 

ルイズが驚きの声をあげる。シルフィードはタバサの使い魔だ。そのタバサは今、ガリア王国にいるので当然、使い魔であるシルフィードもガリア王国にいるはずなのである。なのに、今ここにいる

 

「キュイ!!」

 

鳴き声をあげ、サイト達に逃げるように促すシルフィード。サイト達は包囲が緩んだため、一気に抜け出した。動けないキュルケはサイトが抱える

 

一方、ジャギィ達はシルフィードを馬をぶんどりに来た乱入者..とでも勘違いしたのだろう。数匹が馬の死骸に駆け寄る。獲物の見張り番と言ったところであろう

 

「ギャアッ!ギャアッ!」

 

そして、シルフィード迎撃部隊、とでも言ったジャギィ達が吠える。この餌は俺たちのものだ...と言わんばかりである。

 

シルフィードはドスジャギィと睨みあうような格好で対峙する

 

「キュイ!!キュイ!!」

 

シルフィードは前足を振り回し、ジャギィ達を近づけさせない。こちらに注意を引きつけて、サイト達が逃げる時間を稼ぐためだ

 

ただ、その動きはあまりに拙い。シルフィードは普段はタバサが「戦いに参加して怪我をして、移動出来なくなったら困る」という理由で戦いには参加していない。つまり、経験が少ない。

 

対して、ジャギィ達は今までに幾多もの戦いを繰り広げ、潜り抜けてきた猛者ばかりだ。その実力差は、明白であった。

 

「ウオオオオ、オッオッオッ」

 

ドスジャギィが指令を出す。すると、シルフィードの両脇にいたジャギィ達が跳ねながら、シルフィードの前に躍り出る

 

「キュイッ!!」

 

シルフィードはその二匹めがけ、右拳を振り下ろすが、身軽な体を活かし、躱された

 

そして、シルフィードがその二匹を視ている間に、死角に回り込んでいた三匹のジャギィがシルフィードの背中に飛びかかり、食らいつく

 

「キュイッ!?」

 

あまりの痛さに暴れるシルフィード。離すまいとばかりに食らいつくジャギィ三匹。すると、シルフィードは逆立ちをするかのように後脚を跳ね上げ、ジャギィ三匹は宙を舞い、地面に転がった。しかし、大きい怪我はないのか、すぐに立ち上がる

 

シルフィードはその三匹を見た後、視線をドスジャギィの方に戻す。

 

そして、シルフィードが見たのは、唸りながら迫ってくる鞭のような尻尾。

 

いかに素早いシルフィードも、流石に避けきれなかった。ビタン!!という音が響き、シルフィードは吹っ飛ばされた

 

「ワオオオオオオオン!!」

 

ドスジャギィは天に向かって吠え。勝鬨をあげる。ジャギィ達は一斉にシルフィードに駆け寄り、トドメを刺すつもりだ

 

「シルフィード!!」

 

「あ、サイト!!」

 

サイトはキュルケをルイズに預け、シルフィードの元に走る。だが、間に合わない。

 

シルフィードはぐったりとして、動かない。脳震盪を起こし、失神寸前なのである

 

ジャギィ達はシルフィードの上に乗ったりして嬉しそうに吠える。思わぬ獲物が手に入ったからであろう

 

そして、口を開け...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアッ!?」

 

五匹のジャギィが突如出てきた氷の槍に吹っ飛ばされた。それに驚いた他のジャギィ達もシルフィードの元から離れる

 

すると、空から小柄な少女が降りてきた。シルフィードの主人である少女、タバサだ

 

「タバサ、お前なんでここに!?」

 

サイトがタバサの元に駆け寄り、怒鳴るに近い声でタバサに尋ねた

 

「グワッ!!」

 

ジャギィ達は唾を飛ばしながら吠える。相当イラついてるようだ

 

「説明は後。とりあえず今はここから」

 

離れる、と言葉を続けようとしたその時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズゥン...

 

森の方から地響きのような音が聞こえてくる。そして、ピヨピヨと鳴き声をあげながら無数の鳥が森から飛び立つ

 

明らかに異様な光景にジャギィ達も動きを止め、森の方を見つめる

 

「なんなんだよ、一体」

 

困惑するサイト。それに対し、タバサは...

 

「来たか」

 

ちょっと嬉しそうな顔を浮かべた

 

静寂が訪れる。ピリピリと空気が張り詰め、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオン!!

 

「グオオオオオオオオオオ!!!」

 

爆発音にも似た音を出し、大木をへし折りながら森から現れたのは、姿形はリオレウスに似ているが、新緑の鱗を持つ、ワイバーン型ドラゴン。体長は15メイルほど。背中から無数の棘を生やし、長い尻尾にも無数の棘が生えている。黄金色の瞳。そして、強靭な足で、ジャギィ達に向かって爆進していく

 

別世界では『陸の女王』の異名を持つ、雌火竜 リオレイアだ。そして、ハルケギニアでは『緑火竜』と名付けられたモンスターである

 

「あいつは...」

 

ルイズの脳内に電撃が走る。ド・オルニエールへ行く直前、実はルイズは女王にその旨を伝えたところ、最初は止められたのだ。ただ、自分達意思が硬いことを知ると「緑色のワイバーンに気を付けなさい」とだけ言われた。

 

あいつが...とルイズは心の中で思う

 

それにしても、美しい。下手な貴族よりも気品に満ち溢れている。とルイズは感じた。しばらく見惚れたが、ここで我に帰る

 

「サイトーー!!早く逃げて!!」

 

リオレイアはどんどんサイト達に迫る。ルイズは焦っていった

 

「サイト、早く逃げる」

 

タバサは淡々とそう言った後、魔法で風を発生させ、シルフィードを無理矢理に近い形で空へ逃れさせる。リオレイアの襲撃に混乱するジャギィ達はそれに気付かない

 

「グオオオ!!!」

 

「ギャアッ!ギャアッ!」

 

リオレイアとドスジャギィが対峙し、吠え合う。どうやらお互い最初に排除すべき敵だと感じ取ったようだ

 

サイトは駆け出し、タバサも付いてくる。そして、全員で屋敷へ向かった

 

「グギャアアアアアアアオオオオォォォォォォ!!!」

 

「ワオオオオオオオン!!」

 

二体のモンスターに、恐怖しながら

 

 

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場所は変わり、森の中の道を一つの馬車が歩いていた。監獄のある町、チェルノボークに向かっているのだ。

 

馬車に乗っているのはミスタ・アギル。手に拘束具をはめられ、連行されている真っ最中であった。もちろん、杖も没収されていた。馬車はは非常に簡素で、荷車に幕を付けたようなものであった

 

そんな馬車の警備にあたっているのは四人の兵士。三人が馬に乗り、一人が馬車を操縦している

 

「(くそっ、なんでこの私がこんな目にあわなくちゃならない...)」

 

ミスタ・アギルは車内で一人心の中で忌々しげに呟く。そして、どう助かろうか脳内で考える。

 

「(そうだ、実家に金を出してもらえば...)」

 

アギル家は金欠のトリステイン貴族の中では珍しく、金持ちの一族である。裁判官にちょっとばかし金を渡せば..アギルは歯をむき出し、ニタリと笑った

 

彼は知らない。すでに実家から見放され、貴族の称号も剥奪されていることを

 

アギルは少しだけ気分が良くなったが、また顔を顰めた。頭が痛くなったのである

 

脳内に思い浮かべるはメイド服の少女、シエスタ。彼女は仕方なくアギルの頭をフライパンで殴り、気絶させたのである

 

「(くそっ、平民の分際で..)」

 

お前も今は同じ平民だ、というツッコミは置いておこう

 

「(そうだ、あいつは中々可愛いし胸も大きい。釈放されたらまず可愛がってやろう)」

 

ひひひ、と意地汚く笑い、脳内を妄想が駆け巡る。だが、これも無理な相談であった

 

そもそも、シエスタはサイトの専属メイドで、指名したのはアンリエッタ女王だ。そんな事をしたらまた牢獄行きになってしまうのは明白である

 

アギルが妄想を楽しんでいるその時..

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

一人の兵士が悲鳴をあげ、馬が嘶く。

 

他の兵士の怒号。馬の嘶き、一瞬で混沌が訪れたが、数十秒後、すぐにまた静寂が訪れた。

 

「(何かあったのか...?)」

 

アギルは、馬車の中を歩き、中から顔を出す。

 

そして、彼は見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵士達を食っている山のような巨躯をもつ化物を

 

「ひぃっ」

 

アギルは出かかった叫びを押し殺し、すぐにまた引っ込んだ。そして、ガタガタと震える

 

「(な、なんなんだあいつ...)」

 

見たのは一瞬であったが、姿は鮮明に脳内に焼き付いていた。だが、思い出すのも嫌であった

 

辺りが静かになったので化物が肉を食い、骨を断つ音が否応なしにアギルに聞こえてくる。その音がアギルの恐怖心をさらに煽っていった

 

数分経ち、音が聞こえなくなった。

最初は外に出る気にはなれなかったが、ここでジッとしておいても何にもならないであろうと思い、意を決し、外に再び出る

 

そして、化物は...いなかった

 

アギルはふうっ、と息を吐くが、目の前の惨状に目を疑う。

 

兵士の姿は跡形も無く消えていた。馬も頭部だけ残し、後は全て消えていた。辺りの地面に血の海が広がっている

 

さて、どうしようか..とアギルは考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、凄まじい衝撃が起き、天地がひっくり返った。アギルが乗っていた馬車がひっくり返ったのである。

 

「ぐおっ」

 

突然の事で地面に叩きつけられたアギルは奇妙な声を漏らす。

 

そして、見た。化物を。

 

まず、前足が異常に短く、指が2つあるだけだ。だが、対照的に後ろ足は太く、長く、大樹のようだ。リオレウスなどのように発達した甲殻がなく、暗緑色の鱗と皮膚がその身を包んでいる。

全長は20メイルを軽く超えているだろう。体高もリオレウスなどを軽く凌駕するほど大きい

 

そして、顎から生えている...剣山のような歯。先程まで肉を食っていたせいか、紅く染まっている

 

「あ、ああああああああ!!!」

 

アギルは取り乱し、逃げようとするが、馬車に足を挟まれ、逃げ出せない

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

必死に身体を動かすが、抜け出せない。手がガリガリと地面を削るだけである

 

「グルルル...」

 

化物は頭を下げ、アギルに顔を近づける。アギルは化物の口から漂う臭いに顔を顰めるが、すぐにそれもまた恐怖に変わり、臭いを感じなくる

 

 

 

 

 

 

 

「や、やめて.....」

 

それが彼の最後の言葉であった。

 

化物は口を開き、アギルの顔に食らいつき、噛み砕いた

 

ブシュッという音を立てた後、脳と血が辺りに飛び散る。

 

化物は悠々とアギルの身体を馬車から引き抜き、まるで弄ぶかのようにブンブン振り回した後、ポリポリという音をたてながら食い始めた

 

やがて全部食い終わり、辺りにまた静寂が訪れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

化物は天に向かって、辺りの空気を壊すかのような咆哮をあげる。

そして、辺りに咆哮が響き渡った後、化物はその場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐暴竜 イビルジョー。ハルケギニアを喰らいつくす

 

 

 




アギル死刑執行人イビルジョーさんでした。今思えば、アギルは法律で裁くことには難しそうですね。自己防衛とかにあたりそうで。あと、ハルケギニアの司法システムが分かりません。まあ、それは置いておきましょう

あと、ルイズは聖女とも言われてますが、どうしても心に汚い部分があるのではないでしょうか?自分もあります

さて、今回葬式が行われましたが、この小説の原作の作者様は完結の前に天に召され、葬式が行われました。この小説を読んでくれた皆様、作者様の冥福をお祈りしましょう。くたしんからのお願いです

では、また次回

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