妖精と白き夜叉   作:さとモン

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5話 妖精さん、信じてみなよ家族でしょ

 

 

【神鳴殿:機能停止】

 

 

ラクサスの瞳が大きく開いた

 

 

「銀ちゃ~ん」

 

 

「なんだぁ?」

 

 

「わたし、ボロボロアル」

 

 

「銀さんもだ」

 

 

「でも銀ちゃんそこまでボロボロじゃ……テメッ!自分だけ魔法使って回避しやがったナ!?」

 

 

神楽の目には服だけボロボロの銀時が映っていた。

 

 

だが、ぐちぐちと文句を言っている本人も周りに比べれば随分とけろっとしている。

 

 

「馬鹿か、そんなことに俺が魔法を使うわけねぇだろ。」

 

 

「さっき使ってたのに信じられるわけないでしょうが」

 

 

新八がそういうのも無理はない。

確かに銀時はつい先程、魔法を使ったばっかりだったのだから。

 

 

銀「しっかし、派手やってんなぁ」

 

 

銀時は未だに激しい音が鳴り響く方を見つめた。

 

時折、炎や雷が建物の影から見えていた。

 

 

「でも、ナツってやつ……」

 

 

あのとき、ナツはフリードのかけた術式に引っ掛かっていた

 

 

あの見た目だと、ナツは明らかに80歳以上ではない。それに、石像でもない。

 

 

銀時でもわからない謎

 

 

ナツはただ者ではない。

 

 

それはいい意味とも悪い意味ともとれた。

 

 

「銀さん?」

 

 

「いや、なんでもねぇか」

 

 

「なに言っているアルカ」

 

 

神楽は冷たく、軽蔑した目で蔑み、銀時を見つめた

 

 

「というか、話を逸らさないでくださいよ」

 

 

別に話を逸らしたいわけではない。

ただ、魔法を使っていないというのは本当のことだ。

 

 

たしかに、妖精女王(ティターニア)の命が関わるため、あのときは仕方がなく、魔法を使ったが、本来は使うつもりではなかった。

 

 

何故ならそもそも、あの魔法は……俺には使う資格がないのだから

 

 

あの人をこの手にかけた……俺には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

この魔力はなんだ……?

 

 

とてつもなく強大な力が目の前に迫っているような感覚

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

そういえば、このギルドには3つの超魔法があると聞いたことがある

 

 

たしか、この魔法は……

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)……」

 

 

誰かがそう呟いた

 

 

術者が敵と認識したもの全てが標的とする

 

 

そんなの……

 

 

「神楽、新八!ここで待ってろ!」

 

 

雷が先程まで響いていたその大聖堂へと駆けた

 

 

 

「マスターが…あんたのおじいちゃんが……危篤なの!!」

 

 

少女がそう叫んでいた。

 

 

それを聞いたラクサスの瞳が、揺れたような気がした。

 

 

「だからお願いっ!もう止めてっ!マスターに会ってあげてぇっ!」

 

 

だからなのか。

 

 

さっきから、誰かの魂が消えかかっていたのは

 

 

「ラクサスゥ!!」

 

 

少女の悲痛な叫びが、その場に響いた。

 

 

「丁度いいじゃねぇか。これでこの俺がマスターになれる可能性が再び浮上した訳だ」

 

 

ラクサスは嬉しそうに、笑みを浮かべた。

 

 

レビィの瞳から、涙が零れた。

 

 

『なんで、なんで……そこまで……!?』

 

 

銀時は、祖父の危篤にですら笑みを浮かべるラクサスに、戸惑いを隠せずにいた。

 

 

「ふははははっ!消えろ 妖精の尻尾(フェアリーテイル)!」

 

 

 

馬鹿アルナ

 

 

銀ちゃん

 

 

どうして?

 

 

皆、大事なことを忘れてるアル

 

 

ねぇ

 

 

「オレが一から築き上げる!誰にも負けない!皆が恐れ戦く、最強のギルドをなァァ!」

 

 

その叫びは何なのだろうか

 

 

その言の葉には、確かにラクサスの本心が隠されていた。

 

 

「そんな……」

 

 

ガクッと、少女…レビィは膝をついた。

 

 

「お前は…何で、そんなに……」

 

 

アイツも銀ちゃんも、本当に不器用アルナ

 

 

神楽の声が聴こえた気がした

 

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)、発動!!」

 

 

ラクサスの両手が合わせられた。

 

 

辺りが、町が眩い光に包まれていく。

 

 

銀時は……

 

 

ただひとり、口元に弧を描いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは……ジジィを超えた……」

 

 

口角をあげて、そう呟く

 

 

しかし、見えたものは、ラクサスの予想とはまったく違うものだった

 

 

「ゲホッゲホッ…」

 

 

「ゴホッゴホッ…」

 

 

倒れてはいるものの、新たな怪我をつくったようすがないナツとガジル

 

 

「……ゴホッ、…あぁ、やっぱりか…」

 

 

銀時は、このことが起こることを予想していたかのように、うすっらと笑う。

 

「そ…そんなバカな……なぜだ!?なぜ誰もやられてねえ!!」

 

 

こいつと俺の何処がにてるんだ?

 

 

銀時が見る限り、力尽きた者はいない。

 

 

皆、無事だった。

 

 

「どうなってやがる!あれだけの魔力を喰らって平気な訳ねえだろ!」

 

 

予想外だったのだろう。

 

 

いや、殆どの者がそうだったに違いない。

 

 

すると、ラクサスの問いに答えるようにタイミングよく、大聖堂の入り口に人影が表れた。

 

 

「ギルドのメンバーも、街の人も皆無事だ」

 

 

それはフリードだった。

 

 

負けて、ボロボロになっているはずのフリードがそこにいた。

 

 

「フリード!?」

 

 

「誰1人としてやられてはいない」

 

 

立つのもやっとの筈だが、フリードは確かに一人で立っている。

 

 

「そんなハズはねぇっ! 妖精の法律(フェアリーロウ)は完璧だった!」

 

 

そう、確かに完璧だった。

 

 

魔法には何処にも間違いなどなかった

 

 

「……魔法の完成度は完璧だった。

どこにも欠陥はなかったし、魔力も十分だった。」

 

 

銀時はあの言葉を思い出す。

 

 

やはり、神楽にはわかっていたのだ

 

 

「それがおまえの“心”だ、ラクサス。おまえが、マスターから受け継いでいるものは、力や魔力だけじゃない。仲間を思うその心。妖精の法律(フェアリーロウ)は術者が敵と認識した者にしか効果がない。

……言ってる意味がわかるよな、ラクサス」

 

 

神楽の言う意味

 

 

あれは、敵とも思っていない

 

 

大切な

 

 

「心の内側を魔法に見抜かれた…」

 

 

「魔法にウソはつけないな、ラクサス。これが、おまえの〝本音〟という事だ」

 

 

フリードは、壁に凭れながら笑みを浮かべた。

 

 

その言葉はラクサスを動揺させる。

 

 

「違う!オレの邪魔をする奴は全て敵だ!敵なんだ!」

 

 

拳を握り締め、叫ぶ

 

 

「もう、やめるんだラクサス。マスターの所に行ってやれ」

 

 

でも、似てると言われるのは気に食わない

 

 

「ジジィなんかどうなってもいいんだよ!!オレはオレだっ!! ジジィの孫じゃねえ!!ラクサスだっ!! ラクサスだぁあああーーっ!!」

 

 

泣いてるような

 

 

怒ってるような

 

 

もがいてるように見えた。

 

 

過去の、己と重なって見えた。

 

 

「ぐちぐちうっせぇんだよ。」

 

 

あぁ…

 

 

ここまで、俺の沸点は低かっただろうか

 

 

「当たり前のこと言ってんじゃねぇよ。テメェはテメェだ。誰かの孫なんかじゃねぇ。そんなこと、ここにいる全員が分かってんじゃねぇのか?」

 

 

そこに、力強い確かな声が響く

 

 

「そうだ、みんな知ってる」

 

 

先程までそこに倒れていたナツが立ち上がる

 

 

「思い上がるなバカヤロウ。じっちゃんの孫がそんなに偉ェのか、そんなに違うのか」

 

 

怒っていた

 

 

「血の繋がりごときで吼えてんじゃねえ!ギルドこそがオレ達の家族だろうが!」

 

 

「てめぇに何がわかる…」

 

 

雷をバチバチとさせるラクサス

 

 

「何でもわかってなきゃ仲間じゃねえのか」

 

 

ナツはその拳に炎を纏い、ラクサスに殴りかかる

 

 

「知らねえから互いに手を伸ばすんだろォ!! ラクサス!!」

 

 

「黙れぇぇぇっ!! ナツゥゥアアアッ!!」

 

 

それを聞いて、ラクサスも拳に雷を纏わせる

 

 

再び、二人が激突する―――

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 

「らあああああああっ!!」

 

 

共に走り出す二人

 

 

「オレの前から消えろ、ナツーーーー!」

 

 

「お前はオレが止める!」

 

 

相手に向かい、己の右拳を

 

 

「ギルドは死んでも渡さねぇ!!オレ達の、帰る場所だから!」

 

 

しかし、ナツの拳は空振りし、ラクサスの拳がナツに当たる

 

 

それでも、飛ばされながら体勢を整える。

 

そして、走り出す

 

 

「だらぁっ!!」

 

 

「この…死にぞこないがあっ!!」

 

 

だが、ラクサスはナツを殴り、地面に叩きつける。

 

 

「てめえごときが、オレに勝てる訳………!」

 

 

「う…ぐ…ふ……」

 

 

それでもナツは、倒れなかった。

 

 

「ギルドはおまえのモンじゃねえ……よ~く考えろ、ラクサス……」

 

 

「黙れェ!!」

 

 

そう叫び、ナツの腹部を蹴る

 

 

「ザコがオレに説教たァ、100年早ェよ!!!!アァ?」

 

 

何度もナツを蹴って蹴って、飛ばす。

 

 

しかし

 

 

「まだ…立つのか……」

 

 

フリードはナツに対し、背筋が震える

 

 

ラクサスの思いとは裏腹に、ナツは立ち上がる。

 

 

「何で…」

 

 

思わず、銀時はそんな言葉を溢す

 

 

「ハアーハアー、ハアーハアー」

 

 

「もうやめてナツ……死んじゃう………」

 

 

なにがナツを動かすのか、銀時には理解できなかった。

 

 

「ガキがぁ~……跡形もなく消してやるァ!!!!」

 

 

ラクサスは両手をかざし、バチバチと大きな雷の槍を作り上げる。

 

 

雷竜方天戟(らいりゅうほうてんげき)!!!!

 

 

「殺す気かぁっ!!!!」

 

 

誰もが終わりだと思った。

 

 

ガクンと膝をつくナツ

 

 

ナツの目の前まで、それは迫っていた。

 

 

だが、ナツにぶつかる直前に、その雷の槍は軌道をカクンと変えた

 

 

「ガジル!!」

 

 

「鉄……避雷針か!?」

 

 

思ったよりも銀時は賢いらしい。

 

 

雷が行き着くところは、己の腕を鉄に変えたガジルだった。

 

 

ナツの代わりにダメージを負ったようだ。

 

 

「ガジル…」

 

 

「行け」

 

 

ガジルの言葉に、ナツは立ち上がる。

 

 

「お…おのれ……」

 

 

ガクガクと震えるラクサス。

何故か体が動かない。

 

 

「火竜の…」

 

 

「おのれェェェェっ!!!!」

 

 

ラクサスに向かって駆け出した。

 

 

「鉄拳!!!!」

 

 

「がはっ!」

 

 

炎を纏いしその拳を、ラクサスに叩き込む。

 

しかし、攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 

ラクサスがこれぐらいで倒れないと思っているからだ。

 

 

「鉤爪!!!! 翼撃!!!! 劍角!!!! 砕牙!!!!」

 

 

全力を出しきる。

 

 

「その魔法…竜の鱗を砕き」

 

 

「竜の肝を潰し…竜の魂を狩りとる……」

 

 

「滅竜奥義……」

 

 

上からレビィ、銀時、フリードの順に呟く。

 

 

紅蓮爆炎刃(ぐれんばくえんじん)!!!!!」

 

 

ナツの両腕の炎の刃が、ラクサスにぶつかる

 

 

そのまま、ラクサスは後方へと吹っ飛んでいった。

 

 

そして

 

 

「(ラクサスが…負けた)」

 

 

動かなくなった

 

 

「オオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 

まちに、ナツの雄叫びか響いた。

 

 

「終わったアルナ…」

 

 

「そうだね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!雷ヤロー!」

 

 

「あ"ぁ?」

 

 

神楽は跳ねながら近づく

 

 

「……お前、やっぱり不器用アルナ」

 

 

「はぁ?」

 

 

神楽は傘を刺し、ラクサスの回りを回るように歩く

 

 

「オマエは自分の本音を隠して、空回りして本当にやりたいことと違うことをしていまっているアル。

ワタシ、最初お前のコト嫌いだったアル。でも、オマエは本当に悪いヤツじゃなかった。だからワタシ…お前のコト嫌いじゃないアルヨ。」

 

 

「なに言って…」

 

 

「それはワタシが教えることじゃないアル。自分で考えるヨロシ」

 

 

神楽はもう一度ラクサスを見る。

 

 

あぁ、半分はわかってるじゃないか

 

私がとやかく言うことじゃない。

 

いいギルドだ。

 

 

私の実の家族よりも、ずっと家族らしい。

 

 

「じいちゃんと仲良くするヨロシ!」

 

 

ニコッ!と神楽は笑った。

 

 

そして、跳ねながら帰っていく

 

 

(兎……)

 

 

ラクサスには神楽が兎に見えた。

 

 

 

 




最近のジャンプもマガジンもヤバイですね(゜゜;)

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