妖精と白き夜叉   作:さとモン

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おっひさしぶりーです。
さらに一ヶ月と少したちました。
成長しない文才と、原作の急展開?に頭を悩まされる一方でございます。
まぁ、短いですがよんでください。


二十三話 過去は過去で今は今。だから現在を楽しもうや

土方はけして、この王国の真の忠臣ではない。

そして、彼は侍になりたかった。

この世界では、それは到底受け入れられる夢ではなかった

 

 

土方は、王国の少し田舎に住んでいた。しかし、その田舎では有名な豪農の家だった。

父の顔は知らない。土方が生まれる数ヶ月にこの世を病死にて亡くなったと聞く。また、母も彼が幼い頃にこの世を去った。

ことの詳細は省くが、土方への家の者の風当たりは、けして弱くはなかった。彼に優しく接してくれたのは、兄の為五郎と、その妻だけだった。

しかし、その為五郎も、とある件があって失明した。その件があって以来、彼の肩身は余計に狭くなった。

為五郎は気にはしてなかったが、土方本人が気にしていた。

しかし、侍という夢は消えなかった。

 

少し成長した土方は、たびたびスラム街に出ては、木刀を片手に暴れまわっていた。

当時、王国軍に挑むことは、一種の力試しとなっていた。

土方も力試しと称して、何度か王国軍にも喧嘩を売ったこともある。が、珍しく土方は魔法を使うことを嫌う性分であったため、なかなか彼らにかなうことはなかったのだ。むしろ、負けたことしかなかった。

最初の頃は。

町に繰り出すようになって一年ばかりたった頃、土方は初めて町の住民に勝った。魔法を使わずして勝ったのである。これはある意味努力の賜物といえよう。この日から、土方はうなぎ登りに強くなっていった。

 

更に一年たった。

町の住民どころか、王国軍にも勝てるようになった。この頃には"バラガキ"と呼ばれるようになっていた。

王国軍に勝てるようになったのだが、土方は満足できなかった。

それでも彼は、木刀を振るった。

いつのまにか、隣で笑っている人がいることに気づいた。

 

その人は、一言で言えば猿。もっというなら、意思疏通のできるゴリラ。

太陽みたいに暖かくて、馬鹿だった。

気になって仕方がなかった。

その人も、侍というものに憧れていた。

小さな道場が実家らしい。

土方は、そこで一人の少年に会う。

あどけない顔のなかに、黒いものを持った少年に。

 

 

そんなある日のこと。

土方の髪が、まだ長かった頃。

彼はスラム街で、奇妙な光景を見た。

いや、奇妙なのではない。おぞましいのだ。

背筋が凍るようだった。

 

赤。赤赤。赤赤赤。赤赤。赤。紅

紅色のそれは、土方の目に焼き付いた。

世界が真っ赤に染まっている。

そう思うほどに、ヒトだったものも、壁も何もかもが紅かった。

そこに動くものひとつ。

真っ赤に染まったそれは、土方をチラリと見ると、「黒」と言い、その場を去った。

土方は、その時にハッとした。

何をしていたのか。あれはなんなのか。

一瞬、時が止まったように感じた。

あれは人なのか?

同じ人間とは思えず、あれは化け物なのではないかと思った。

 

今なら分かる。

血に濡れた白と、染まる前の黒の、初めての邂逅だと。

 

 

 

 

 

あれと俺が初めてあったのは、まだ俺が幼い頃。あの時は10才くらいだったか。

つまらない日々を送っていた。

つまらなくてつまらなくて、何かに飢えていた。

そんなときに、あれに会った。

 

「白……?」

 

小さくて、白くて、世界に絶望しているような、なにか期待しているような、紅い目をした子供だった。

頭がふわふわとしていて、わたあめのようだった。

 

「アンタは、こわくないのか?」

 

怖い?

何が?何が怖い?

そう言うと、その白いのは驚いた顔をする。

何を言っているのか。それで、考えて。わからないから、本人に聞こうと思った。

 

「俺は、こんなかみとこんな目をもってるから、みんなたいてい怖がる。

たまに、怖がらないやつもいるけど、子供で怖がらないのはおまえが初めてだ。」

 

それで、俺は漸くこいつが何者なのか理解する。

白い鬼だ。

血に染まった紅い瞳はと、薄汚れた白い髪をもっていて、会えばいつの間にか殺されているという。

たまに、会っても殺されないときがあるというが、それは子供や遠くで見たものだけらしい。

だが、見る限り、殺そうとも思っていないし、恐らくだが

 

「襲われたのか…?」

 

「そうだ。殺されそうになった。」

 

そう聞くと、人間はなんて醜いんだろう。という人の気持ちがわかる気がした。なんの罪もない者の命を、人は簡単に奪おうとするんだ。

白い子に、同情した。

どれだけ苦しかったんだろうか。そう思った。

だが、それも一瞬だった。

 

「だから、殺した」

 

それを聞いて、絶句した。

言葉が何も出なかった。

 

「殺される前に、殺した。しにたくないから、おれが殺した。」

 

なにも、聞きたくなかった。それ以上、聞きたくなかった。

まだ幼い彼にとっては、それは聞くに堪えないことだった。

彼は俯いた。

 

「でもさいきんは殺してない。

動けなくするだけ。血はでるけど…。」

 

頬に、あたたかいものが触れた。

普通の人と同じ感触、温度。

あぁ、生きてる。

コイツも、俺も生きてる。

 

「……チッ」

 

舌打ちをした音が聞こえた。

その直後、俺のからだが宙に浮き、強い衝撃を体に受けた。

視界がチカチカとした。

一瞬のことだった。

 

「おい、いたぞ!!」

 

走ってくる王国軍。白いソイツは逃げようとする。

待ってくれ。手を伸ばした。

朦朧とする視界では、ろくにそいつを捉えることもできやしない。

 

「名前…は?」

 

ただ、呟く。いや、言った。

何故、名前を問うたのか。

今でもわからない。

会ったという、証明が欲しかったのかもしれない。

白いソイツは、俺のことを一目見て、懐から紙とペンらしきものを取り出した。少し考えて、何かを書いて、しゃがんだ。

そして、俺の手を開き、握らせた。

そして、そのまま走っていった。

白い背中は、俺よりもだいぶ小さいはずなのに、何故か俺よりも随分大きく見えた。そして、遠ざかっていく。

俺よりも小さな背中を、王国軍が追っていく。

誰も、俺には気づかない。まるで、透明人間になったみたいだ。

ぐらり

世界がぐにゃりと歪んで、それから回った。

どんどん暗闇に落ちていく。

なにも、聞こえない。見えない。そうなる前に聞こえたのは、聞き覚えのある「高杉!」という声だった。

 

 

 

「知っていた。 お前は、この国のために働いてるんじゃない。」

 

馴染みのある口調に戻った。

地を這う土方を、シルヴィアは見下ろした。

そして、ふと呟く。

 

「……俺、土方とは気が会わない気がするんだよな」

 

「今更かよ」

 

「…だな。」

 

シルヴィアは、初めて土方の前で笑った。

それを見て、土方も笑った。

何がおかしいのか、何が楽しいのか。

誰にも、二人にもそれはわからない。

それでも二人は笑いあった。

 

 

 

 

『何をしているんだ?』

 

『エルザ』

 

エルザの隣には土方がいた。

土方の髪は、女性のように長かったが、それを後ろで括っていた。

土方は、エルザと話ながら歩いていたらしい。

 

『この餓鬼が軍に入りたいと…』

 

そう言って兵隊がチラッと見たのは、銀色の髪をした少年だった。

少年は、ギラギラとした瞳を持っている。

が、見たのはエルザだけだった。

 

『どう思う土方』

 

『なぜ俺だ?』

 

土方は、そこでようやく少年を見た。

それは、いつかのスラム街で見た顔だった。

 

 

 


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