さらに一ヶ月と少したちました。
成長しない文才と、原作の急展開?に頭を悩まされる一方でございます。
まぁ、短いですがよんでください。
土方はけして、この王国の真の忠臣ではない。
そして、彼は侍になりたかった。
この世界では、それは到底受け入れられる夢ではなかった
土方は、王国の少し田舎に住んでいた。しかし、その田舎では有名な豪農の家だった。
父の顔は知らない。土方が生まれる数ヶ月にこの世を病死にて亡くなったと聞く。また、母も彼が幼い頃にこの世を去った。
ことの詳細は省くが、土方への家の者の風当たりは、けして弱くはなかった。彼に優しく接してくれたのは、兄の為五郎と、その妻だけだった。
しかし、その為五郎も、とある件があって失明した。その件があって以来、彼の肩身は余計に狭くなった。
為五郎は気にはしてなかったが、土方本人が気にしていた。
しかし、侍という夢は消えなかった。
少し成長した土方は、たびたびスラム街に出ては、木刀を片手に暴れまわっていた。
当時、王国軍に挑むことは、一種の力試しとなっていた。
土方も力試しと称して、何度か王国軍にも喧嘩を売ったこともある。が、珍しく土方は魔法を使うことを嫌う性分であったため、なかなか彼らにかなうことはなかったのだ。むしろ、負けたことしかなかった。
最初の頃は。
町に繰り出すようになって一年ばかりたった頃、土方は初めて町の住民に勝った。魔法を使わずして勝ったのである。これはある意味努力の賜物といえよう。この日から、土方はうなぎ登りに強くなっていった。
更に一年たった。
町の住民どころか、王国軍にも勝てるようになった。この頃には"バラガキ"と呼ばれるようになっていた。
王国軍に勝てるようになったのだが、土方は満足できなかった。
それでも彼は、木刀を振るった。
いつのまにか、隣で笑っている人がいることに気づいた。
その人は、一言で言えば猿。もっというなら、意思疏通のできるゴリラ。
太陽みたいに暖かくて、馬鹿だった。
気になって仕方がなかった。
その人も、侍というものに憧れていた。
小さな道場が実家らしい。
土方は、そこで一人の少年に会う。
あどけない顔のなかに、黒いものを持った少年に。
そんなある日のこと。
土方の髪が、まだ長かった頃。
彼はスラム街で、奇妙な光景を見た。
いや、奇妙なのではない。おぞましいのだ。
背筋が凍るようだった。
赤。赤赤。赤赤赤。赤赤。赤。紅
紅色のそれは、土方の目に焼き付いた。
世界が真っ赤に染まっている。
そう思うほどに、ヒトだったものも、壁も何もかもが紅かった。
そこに動くものひとつ。
真っ赤に染まったそれは、土方をチラリと見ると、「黒」と言い、その場を去った。
土方は、その時にハッとした。
何をしていたのか。あれはなんなのか。
一瞬、時が止まったように感じた。
あれは人なのか?
同じ人間とは思えず、あれは化け物なのではないかと思った。
今なら分かる。
血に濡れた白と、染まる前の黒の、初めての邂逅だと。
あれと俺が初めてあったのは、まだ俺が幼い頃。あの時は10才くらいだったか。
つまらない日々を送っていた。
つまらなくてつまらなくて、何かに飢えていた。
そんなときに、あれに会った。
「白……?」
小さくて、白くて、世界に絶望しているような、なにか期待しているような、紅い目をした子供だった。
頭がふわふわとしていて、わたあめのようだった。
「アンタは、こわくないのか?」
怖い?
何が?何が怖い?
そう言うと、その白いのは驚いた顔をする。
何を言っているのか。それで、考えて。わからないから、本人に聞こうと思った。
「俺は、こんなかみとこんな目をもってるから、みんなたいてい怖がる。
たまに、怖がらないやつもいるけど、子供で怖がらないのはおまえが初めてだ。」
それで、俺は漸くこいつが何者なのか理解する。
白い鬼だ。
血に染まった紅い瞳はと、薄汚れた白い髪をもっていて、会えばいつの間にか殺されているという。
たまに、会っても殺されないときがあるというが、それは子供や遠くで見たものだけらしい。
だが、見る限り、殺そうとも思っていないし、恐らくだが
「襲われたのか…?」
「そうだ。殺されそうになった。」
そう聞くと、人間はなんて醜いんだろう。という人の気持ちがわかる気がした。なんの罪もない者の命を、人は簡単に奪おうとするんだ。
白い子に、同情した。
どれだけ苦しかったんだろうか。そう思った。
だが、それも一瞬だった。
「だから、殺した」
それを聞いて、絶句した。
言葉が何も出なかった。
「殺される前に、殺した。しにたくないから、おれが殺した。」
なにも、聞きたくなかった。それ以上、聞きたくなかった。
まだ幼い彼にとっては、それは聞くに堪えないことだった。
彼は俯いた。
「でもさいきんは殺してない。
動けなくするだけ。血はでるけど…。」
頬に、あたたかいものが触れた。
普通の人と同じ感触、温度。
あぁ、生きてる。
コイツも、俺も生きてる。
「……チッ」
舌打ちをした音が聞こえた。
その直後、俺のからだが宙に浮き、強い衝撃を体に受けた。
視界がチカチカとした。
一瞬のことだった。
「おい、いたぞ!!」
走ってくる王国軍。白いソイツは逃げようとする。
待ってくれ。手を伸ばした。
朦朧とする視界では、ろくにそいつを捉えることもできやしない。
「名前…は?」
ただ、呟く。いや、言った。
何故、名前を問うたのか。
今でもわからない。
会ったという、証明が欲しかったのかもしれない。
白いソイツは、俺のことを一目見て、懐から紙とペンらしきものを取り出した。少し考えて、何かを書いて、しゃがんだ。
そして、俺の手を開き、握らせた。
そして、そのまま走っていった。
白い背中は、俺よりもだいぶ小さいはずなのに、何故か俺よりも随分大きく見えた。そして、遠ざかっていく。
俺よりも小さな背中を、王国軍が追っていく。
誰も、俺には気づかない。まるで、透明人間になったみたいだ。
ぐらり
世界がぐにゃりと歪んで、それから回った。
どんどん暗闇に落ちていく。
なにも、聞こえない。見えない。そうなる前に聞こえたのは、聞き覚えのある「高杉!」という声だった。
「知っていた。 お前は、この国のために働いてるんじゃない。」
馴染みのある口調に戻った。
地を這う土方を、シルヴィアは見下ろした。
そして、ふと呟く。
「……俺、土方とは気が会わない気がするんだよな」
「今更かよ」
「…だな。」
シルヴィアは、初めて土方の前で笑った。
それを見て、土方も笑った。
何がおかしいのか、何が楽しいのか。
誰にも、二人にもそれはわからない。
それでも二人は笑いあった。
『何をしているんだ?』
『エルザ』
エルザの隣には土方がいた。
土方の髪は、女性のように長かったが、それを後ろで括っていた。
土方は、エルザと話ながら歩いていたらしい。
『この餓鬼が軍に入りたいと…』
そう言って兵隊がチラッと見たのは、銀色の髪をした少年だった。
少年は、ギラギラとした瞳を持っている。
が、見たのはエルザだけだった。
『どう思う土方』
『なぜ俺だ?』
土方は、そこでようやく少年を見た。
それは、いつかのスラム街で見た顔だった。