艦隊これくしょん - variety of story -    作:ベトナム帽子

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太平洋を越えて その1

 中部太平洋に浮かぶ島々、ミッドウェー諸島。2014年の9月まで深海棲艦の一大基地だったこの島は日本海軍の艦娘達によって奪還された。現在では最も大きいサンド島に飛行場が整備され、艦娘、兵士、軍属含めて約600人が駐在している。

 その島を基点にある作戦が実施されようとしていた。

 

 サンド島の飛行場で大型輸送機が滑走している。空色迷彩のグレー塗装に日の丸。直径6メートルもある二重反転プロペラ式ターボプロップエンジン4基。全幅56メートルの後退翼、全長50.8メートルの巨鳥は滑走路をぎりぎりまで使って離陸した。

 空母翔鶴を基幹とする機動艦隊は離陸の様子を海上から見ていた。

「『渡り鳥』が飛び立ちました! 全艦、直援機、発艦始め!」

 翔鶴の号令の下に瑞鶴、飛鷹、隼鷹が発艦作業を開始する。翔鶴と瑞鶴は弓を射る。飛鷹と隼鷹は巻物の上に式神を走らせた。矢と式神は烈風と紫電改二に変身し、上昇していく。

 北アメリカ大陸へと向かう連絡輸送機を護衛するために。

 

 北南アメリカ大陸は世界から孤立している。

 深海棲艦の出現当初こそアメリカ軍は果敢に闘い、一部では戦果も上げていたが、深海棲艦の物量、能力に圧倒され、2002年には勢いを失った。その後もしばらくは衛星、海底ケーブルによる通信連絡が行われていたが、2003年には衛星通信すら途絶した。

 アメリカは滅びた。そのように噂されるのにも無理はない。実際、何とか互いに連絡を取り合えていたユーラシア、アフリカ、日本の国々もアメリカは滅びたと認識し、行動していた。

 2013年11月12日、北極海シーレーンにて輸送船団を護衛していたロシア海軍艦艇がある電波を受信した。

 アメリカからの電波だった。ロシア海軍は電波を分析し、電波はオハイオ州から発信されたということが分かった。アメリカは滅びてはいなかったのである。

 ロシアはこの情報を秘匿した。理由は自国の発言力を保持するためである。

 アメリカがいない状態のユーラシア大陸のパワーバランスは資源、食料を握る軍事大国ロシアに大きく傾いていた。もし、アメリカの影響力が復活し、パワーバランスが崩れるようなことがあれば、ロシアにとっては嬉しいことではない。

 

 電波を受信した艦艇の乗組員には箝口令が引かれたが、2014年1月に「ロシアがアメリカからの電波を受信した」という情報をイタリアの諜報機関がすっぱ抜き、全世界に公表した。数週間後に当のロシアもそのことを認めた。

 世界は沸き立ち、アメリカへ連絡を取る方法を模索した。長距離飛行機連絡案、潜水艦連絡案、艦娘護衛船連絡案、宇宙ロケット連絡案、中には海底トンネル連絡案すらあった。

 一番現実的なのは宇宙ロケット連絡案であったが、ユーラシア大陸一の有人宇宙ロケット技術を保有していたのはロシアであり、ロシアがアメリカと連絡を取り合おうとするわけがなかった。

 潜水艦案は潜水艦技術の高いドイツが実施したが失敗に終わっている。

 艦娘護衛船連絡案は文字通り、連絡船に多数の護衛艦娘を付ける、というもので可能ではあったが、シーレーン護衛や本土防衛が危うくなる可能性があった。

 唯一残ったのが、長距離航空機連絡案だった。

 有人宇宙ロケット案、艦娘護衛船連絡案ができない中では、一番現実的な方法ではあるが、問題があった。

 航空機の性能不足だ。

 太平洋、大西洋を無給油で横断できる航空機はあった。だが、速力が時速600キロメートルを超えないものばかりで、時速680キロメートルを発揮する深海棲艦の航空機に捕捉されれば、撃墜されることは確実だった。

 長距離航空機連絡案のために2つの計画が実行された。

 1つ目が時速850キロメートルを発揮し、12500キロメートルの航続距離、30トンのペイロードを持つ航空機の開発。開発型番は三十一試輸送機とされた。これは機体設計を日本の中島飛行機、エンジンを独ハインケル、英ロールスロイス共同で開発することになった。

 2つ目は必要になる航続距離の短縮。これは日本海軍がミッドウェー島を奪回し、飛行場を建設することになった。これが後のMI作戦である。

 航空機開発完了、ミッドウェー諸島奪還完了は10月までと決定された。

 

 MI作戦は成功し、サンド島に飛行場を建設することはできた。しかし、航空機の開発が難航していた。

 遅れの原因はエンジンである。搭載予定のターボプロップエンジンHeS/RR TP2-01の出力が目標値にほど遠いものだったからだ。遅れは開発自体をロシアに察知されないように資材調達ルートを巧妙にしていたせいでもある。

 試しに不完全なHeS/RR TP2-01を機体だけはすでに完成していた三十一試輸送機に搭載し、飛行試験が行われたが、時速700キロメートルが限界だった。この時点で7月である。

 ハインケルとロールスロイスは2015年3月までの開発期間延長を要請したが、日本海軍が難色を示した。ミッドウェー諸島の兵站は日本海軍の兵站能力の限界を超えており、長期間にわたる保持は不可能だったからだ。

 何とか日本海軍を説得し、12月まで延長させたが、エンジン開発はなかなか進まなかった。

 不完全なままでも下手な深海棲艦航空機よりは速い。このまま飛ばすか?

 そう、開発チームが考えていたとき、ある協力者が現れた。

 ロシアのエンジンメーカー、クズネツォーフ社である。クズネツォーフ社は多くのターボプロップエンジンの製造開発を手がけている会社だ。

 そのクズネツォーフ社がロシアに秘密で協力を申し出たのだ。クズネツォーフ社社長は「同じ人類、協力しなくてどうする」と言って、自社の優秀な技術者を「西欧旅行」と称して開発チームに送り込んだ。

 そのおかげで、何とか11月9日にHeS/RR TP2-01は高性能ターボプロップエンジンとして完成した。ハインケル社はクズネツォーフ社への感謝の意として、エンジンの型番をHeS/RR TP2-01kに変えた。

 

 HeS/RR TP2-01kを搭載した三十一試輸送機は時速834キロメートル、航続距離12312キロメートル、ペイロード29.7トンを発揮した。そして、一ヶ月半かけて機体不良や問題点を洗い出し、14式輸送機「瑞星」/Type-14 Cargo plane "Auspicious star"と正式採用された。




その1です。たぶん、その2で終わりです。(嘘になりました)
14式輸送機「瑞星」はこっちの世界のTu-114クリートみたいな飛行機だと想像してください。
零戦の試作機である十二試艦上戦闘機のエンジン「瑞星」とは何の関係もありません。

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