艦隊これくしょん - variety of story -    作:ベトナム帽子

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集合写真

 ビアク島への兵力輸送作戦である渾作戦は第一次から第三次まで成功を収め、ビアク島を急襲した深海棲艦の空母機動部隊も撃退することができた。

 ニューギニア方面に展開していた艦娘達は今日、日本に帰ることになる。

 

 重巡洋艦娘の青葉は海の上でカメラを構えていた。

「撮りますよー」

 フレームの中には輸送駆逐艦「鷹」が入っている。乗員達は全員が甲板に上がっている。むろん、「とばり」所属の第二十一駆逐隊もだ。

「はい、チーズ」

 シャッターがきられる。

 

 青葉はやっと渾作戦に参加した艦艇全てを撮り終えた。

 なぜ、写真が撮っているのかというと、誰かが作戦を遂行した記念に撮って欲しいと言い出したからだ。言い出したのは、提督なのか、艦娘なのか、士官なのか、それともどこかの一水兵か。それは分からない。

 とりあえず、その話を聞いた青葉は自身のカメラを持って、撮り始めた。

 カメラのレンズに艦艇の艦首から艦尾までを入れることができ、全乗員が映ることができる状態で写真を撮れるのは海上を縦横無尽に動ける艦娘しかいなかった。飛行機では難しい。

 青葉は自身の所属艦である輸送艦「橋立」の甲板で停泊している艦隊を撮った。

 渾作戦に参加した艦艇数は13隻。その内の5隻が映っている。どの艦も警戒気球を上げ、警戒態勢は怠っていない。

 青葉は全ての艦を一枚の写真に収めたいと思ったが、さすがに無理だ。

 艦隊旗艦の巡洋艦「津万」の後部甲板からヘリコプターが飛び立つ。哨戒機か、連絡機かは青葉には分からない。ただ、瑠璃色の空にホワイトカラーのヘリコプターが浮かんでいる。

 青葉はヘリコプターを見上げる。

「空からなら――」

「艦隊全体を撮れるのに?」

 誰かが青葉の独り言を奪った。

 青葉は声の方向を見た。一人の男が立っている。半袖のカッターシャツ、黒いズボン、くたびれた野球帽、そして首に紐でかけたカメラ。明らかに水兵や軍人の類いではない。しかし、青葉はこの人物を知っている。

「有野さん」

「名前、覚えていただけているとは光栄」

 有野と呼ばれたこの人物は海軍従軍記者だ。艦娘が登場して以来、各地の鎮守府などや泊地に回って、艦娘の記事を書いている。日本国民に艦娘が受け入れられる存在になったのは有野の記事の影響が大きい。

「記事、読んでます」

「それは嬉しい。それはそうと、今回の作戦どう? 艦娘の視点から聞いてみたい」

「今回は――」

 青葉は第1次作戦に参加した。伊勢、日向を基幹とした聯合艦隊編成で輸送ルート上の敵を撃滅した。私たちの史実だと、第1次作戦は小規模編成が原因で失敗したため、今回は戦艦を基幹とした艦隊で挑んだのだ。

 結果としては大成功。展開していた深海棲艦を蹴散らし、最初の輸送船団は襲われずにビアクについた。

 聯合艦隊編成だと、遠距離での砲撃戦となるから、命中率が低かったのが青葉としては悲しかった。弾着観測機も飛ばしていたが、いかんせん当たらなかった。

 今回、新型深海棲艦に出くわしたが、戦艦の前には無力だった。ただ、リ級と比べると砲熕兵装は強力で重巡以下の艦娘は注意が必要だった。

「その新型深海棲艦の姿形は?」

 新型深海棲艦はヒト型で重巡リ級以上、戦艦タ級未満ほどの能力を持っていた。リ級よりも高い砲撃力、防御力。速力も極めて高く、夜戦では弾を当てるのが難しかった。

「最近、ヒト型の深海棲艦が多いね。チ級、リ級、ル級、タ級にヲ級、鬼級に姫級。今回は、駆逐艦クラスにもヒト型がいたそうじゃないか。私が若い頃――といっても10年ほど前だが、その頃には今で言う雷巡チ級と空母ヌ級くらいしか、いなかったんだがな」

 深海棲艦が全世界に出没し始めたのは14年前、つまり2000年だ。有野はその頃にはすでに海軍従軍記者として働いていた。深海棲艦との戦いに出くわしたこともあれば、乗っていた艦が沈められた事もある。

「話半分で聞いて欲しいんだが、最近、こう思うんだ。撃破した深海棲艦をサルベージして艦娘にしているのではないか、ってね」

 艦娘の建造はすべて鎮守府の艦娘部工廠で行われている。しかし、どのように建造するのか、どのような行程なのか、具体的なものは一般に知られていない。一般どころか、多くの軍人、艦娘、はては提督にすら知らないのだ。

 工廠は鉄のカーテンで覆われている。

「あの中に何があるのか、知りたいとは思う」

 有野は手すりにすがり、空を見上げた。空にはカモメが飛んでいるだけ。ヘリコプターはどこかに飛んでいった。

「好奇心は猫を殺すと言いますよ」

「その通り。しかも、艦娘が深海棲艦だったとしてどうとする。ま、そんな具合だ。うさんくさい話はこれでおしまい。取材ありがとうね」

 有野は歩き出す。暗い雰囲気になってしまったので、青葉はひとつ、冗談を飛ばすことにした。

「ネタ切れでも起こしてるんですか? いい情報ありますよぉ。提督を争っての艦娘同士の対立の話なんてどうです?」

「ゴシップな記事を書くのは苦手なんでね。遠慮するよ」

 有野は振り返って、笑った。青葉は振り返った有野の笑顔を写真に撮った。

「後で送ってくれよ、その写真」

「分か――」「有野さんなのです!」

 青葉の言葉は大声で遮られた。

 艦内入り口にカゴを持った電が立っている。カゴの中身は洗濯物が入っている。

「有野さん!? あの!?」

「本当だ」

「えっー、どこどこー?」

 入り口から、暁、響、雷と出てくる。最後に「転ぶなよ」と洗濯物を干すのを任された水兵が続く。

「有野さん! 撮ってくださいなのです!」

「うん、いいよ」

「みんなで映りましょう! 政田さんも! 青葉さんも!」

 雷が水兵を引っ張る。青葉、暁、電、響、雷、水兵と横に並ぶ。洗濯カゴは手前に適当に置いた。

 水兵は笑顔を笑顔を浮かべればいいのに、どう映ったらいいのか分からないのか、緊張しているのか、足を閉じて、掌を体側につけて、背筋を伸ばしていた。

「政田さん、リラックスして」

 その言葉で水兵は、自分が緊張していることに気づいたようで、足を開いて、ゆったりとした姿勢を取る。

「はい、チーズ」

 シャッターがきられた。


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