光に包まれて転送して帰ってきたのは僕の家の自室。
すぐさま変身を解除して元の姿に戻ると、疲れが足に来たのか傍にあったベットに倒れてしまう。
そのままだらけながらリフエットと反省会を始める。
「はぁ、とりあえずなんとかなったねー」
【そうですね、この星のツインテールの戦士も覚醒したみたいですし、戦いはまだ始まったばかりですが。お疲れ様でした。】
腕輪から出てきたリフエットがそう言っていたわってくれる。
僕はベットにうつ伏せになり、今後のことを考える。
「アルティメギル、また攻めてくるよね?」
【そうですね、今日倒したのは切り込み隊長ですし。幹部クラスなどがまだいますから、これから攻勢は激しくなっていくでしょう。】
「だよねー……」
今日は乗り切った、でも明日は?明後日は?と考えると気分が重くなっていく。
【憂鬱そうですね、明日のことを気にしても仕方ないですよ?】
「そうなんだけどさー。やっぱり僕達だけじゃ辛くない?」
【何をいいますか、今は武装制限されていますが、私と先輩の使っていたテイルギアは装備なしでもそんじょそこらのエレメリアンには負けませんよ!】
そう言って小さく胸を張るリフエット。
「でも、僕の使ってるギアってリフエットが使ってたのともその先輩が使ってたのとも違う物になってるんでしょ?」
【そうなんですよね、実際調べた結果幾つかのギアの機能が死んで別の機能に入れ変わったりしてるんですよ。それに調べれば調べるほどに謎が増えていくんで、比較的安全に使えそうなものしか説明してないんですよ?】
「ん?つまり今使ってる武装も不安定になる可能性があるってこと?」
【正直に言えばそうですね、そのために毎日解析してはいるんですけど、正直使えそうだけど危なそうなものは使用許可出してないですよ?】
「そう、頑張ってるんだ。ありがとうね。」
【いえいえ、千歳さんがいなければ私も存在できてませので当然です。】
「それでもありがとう。」
僕がそう言うとちょっと照れた顔でリフエットははにかんだ。
ちょっと気になることを聞いてみる。
「リフエットは元にはもどれないの?」
リフエットには元々の肉体があったはずだ、今は精神体としてテイルギアに宿ってサポートしてくれているが、僕の属性力を糧に生きているようなものだと先日言っていた。
【そうですねー私の体があれば、それにテイルブレスをつけることで戻れるかもしれませんが。消滅してるとしたらこのままですかねー】
ちょっと考えてそう言ったその顔は、やはり寂しそうだった。
【でも、この生活も悪くないですよ?ご飯も排泄もいらないですし、ネットにはつなげるので暇はしないですし。何より千歳さんとずっと一緒に要られますし。】
年頃の男子としては割とうれしい言葉をかけてくるリフエット。但し二次元である。
空間投射して身体があるかのように振る舞えるし、精神も人のものだから2.5次元ぐらいなんだろうか。
僕の反応が薄かったのが気になったのかさらに理由を言ってくれるようだ。
【おはようからお休みまで!貴方の側で見つめる電子妖精リフエットちゃんに何か問題でも?写真とかはお母様に差し上げる用ですし、保存した動画は個人で楽しむ用です!】
ん?今捨て置けないこと言ったぞこの子。
「写真と動画っていつ撮ったの?」
【え?千歳さんが戦ってる映像をとってるカメラをハッキングしたんですよ?あと、千歳さんが寝てる間にゆりかさんに手伝ってもらって超小型カメラとか作ってもらってつかいました!電子戦とかって得意なんですよ、私。ちょっとこれからネットで色々してお金稼ぐ予定ですよ?ネットバンクでお金を増やしたり?】
その言葉を聞いて頭が痛くなってきた。経済とか大変なことにしてしまう存在が異世界から現れて世界恐慌とかシャレにならないんだけど。
というか普っ通に犯罪行為だそれ。
僕は頭を抱えながらその話を聞く。
「リフエット、何しちゃってるの?」
【大丈夫ですよぅ、しんじてくださいよぅ。トラスト・ミー】
信用出来ない台詞だが、すでに話が大事なのでもう信じるしかないというか、僕が考えてどうにかなることではないので諦める。
もういいや、それよりも考えるのはあの娘のことだ。
「それにしても、テイルレッド……一体何者なんだ……?」
【何者でしょうかねー?……私と同じように異世界からの使者でも来たんですかね?】
小学生低学年ぐらいの幼女が戦うとか、魔法少女モノぐらいなんじゃなかろうか。
とは言うがそもそもテイルレッドの正体はおおよその見当がついている。問題点はなんの目的で僕の幼馴染をテイルレッドにしたのかということだ。
「平行世界はたくさんあるんだよね?」
【えぇ、私がいた世界と今いるこの世界は一枚壁を挟んだだけの隣の世界みたいなものです。それ以外の所から来られてもおかしくないのですが、結構な技術力が必要ですよ。】
「となると、同じように別世界の戦士が助けを求めた、もしくは敵討ちに巻き込んだ可能性がある?」
【その可能性が高いですね、敵討ちと言っても元の世界が救われる可能性は0に等しいので生産性はないんですけど。】
「……ごめん。」
今のはちょっと無神経だったな。リフエットの世界も滅んでるんだ、これはほぼリフエットにも当てはまることだ。きちんと謝ろう。
【いえ、いいんです。ちょっと千歳さんの属性力prprさせてくれれば許します。】
「それで許してくれるなら別にいいけど、その言い方やめようね。」
【いいじゃないですか減るもんじゃ無し。まぁ、勝手に頂きますから大丈夫です。】
どうやって補給してるかは知らないけど、勝手にすると言ってるんだから勝手にさせよう。
多分トゥアールさんが異世界から来た人で、テイルブレスを総二か愛香ちゃんに渡しテイルレッドにしたんだろう。
親友が幼女に変身してツインテールを守るために戦う戦士になるとか、どこの夕方アニメなんだろう。
さて。
「母さん、何か用?」
起き上がって、ドアの向こうで聞き耳を立てているであろう母に声をかける。
すると予想通りドアを開けて母が入ってくる。なかなかに良い笑顔である。
「ちーちゃん!素晴らしかったわ初陣!赤い娘との共闘もいい感じだったわ!さすがは私の娘ね!名乗りも完璧!はあぁぁ、ちーちゃんありがとう!!」
そう言って抱きしめてくる、抱擁はいいですけど。パワーありすぎませんか母上、ミシミシ言ってる体がやばそうなので離してください母上死んでしまいます。
【ゆりかさんその辺で、千歳さんが苦しそうです。】
「おっと、ごめんねちーちゃん。」
初陣でほぼ無傷だったのに、こんなとこでダメージ受けるとはヒーローってわからないよねー。
ミシミシ言う体をさすりながらそんなことを思う。
「で、要件は?」
ベアハッグ決めて息子にエレメリアンよりダメージを与えた母を半眼で見ながら問う。
「リフエットちゃんが動画取れるって言ってたからちーちゃんの勇姿をネットに流そうと思って。」
「ちょっ」
言葉に詰まる、なんてこと考えるんだこの母親は!常識的に考えて、自分の息子が女体化して戦ってる姿を率先して流そうとか考えないだろう!
【あ、それならもうやっておきました、ベストショットをサムネにしたのでシャイニングでは再生回数トップです。テイルレッドにはちょっと負けますけど。素材多めなので何パターンかアップしたので再生回数の総合数では勝ってますね。】
そう言って僕の部屋の壁に動画をプロジェクションする。それを見て母さんが喜ぶ。
「何やってるんだよおぉぉぉぉぉお!!」
僕、魂の絶叫。天まで届けとばかりに叫ぶ。というか勝つとか負けるとか何と戦ってるのこの人達!?
そんな僕をスルーして話は進む。
「仕事が速いのね、リフエットちゃん!グッジョブ!」
【はい!公式ファンクラブと親衛隊も作っておきました!会員登録どうぞ!】
そう言ってアドレスを空間に出すリフエット。それを素早く打ち込んで行く母さんを見て、もう大した用事ではないことを確認する。
今さらっと凄いこと言ったけど気にしないようにしよう。もうどーにでもなぁれ。
「私が一番なのね、リフエットちゃんが0番になるの?」
【はい。合言葉はシャイニングの輝きをあまねく世界に!です。あ、千歳さん。千歳さんのぶんも登録しておきましたから。やったぁプレミアムナンバーですよ!】
「やったわねちーちゃん!後リフエっとちゃん、その合言葉は似たのがあったからもうちょっと改変しましょう。」
【そうでしたね、では……】
大した問題ではなかったようなので母さんとリフエットを置いて僕はお風呂に行くことにした。
今日はもう疲れたしお風呂はいって寝よう。夕飯とかもういいや。疲れをとって寝たい。
そして僕は風呂場へ向かう、せめてもう今日はアルティメギルが来ませんようにと祈りながら。
◆
アルティメギルは異世界の侵略者である。
属性力を糧に生きる彼らは今日も今日とて異世界侵略を優雅に行う予定だったのだが、テイルレッドとテイルシャイニングによって第一歩目からその野望をくじかれたのである。
どこともしれない場所の秘密基地。その会議場に集まるは様々な怪人たちエレメリアンである。
今この場に集まったエレメリアン達は、初手から躓いた侵略作戦の会議をするのである。
誰かがバンと机を叩き発言する。
「馬鹿な!リザドギルディがやられただと!?」
「油断したというわけではあるまい、どういうことだ!」
円卓には強力なエレメリアンたちが、その部下たちはさらにその周りに集まってその会議の様子を見守る。
「事前調査では科学力に対して高数値の属性を有する理想的な環境だったはずではないか!」
ざわざわと波紋立つ会議場。
それをとあるエレメリアンが一喝する。
「静まれい!!」
龍の姿を模したかのようなそのエレメリアンの一喝で会議場は静まる。
「ドラグギルディ隊長……」
「あの者の強さは、師である我がよく知っておる。それを打ち負かす程の戦士があの世界にいたということ。」
「戦士……」
「これを見よ、瞬殺されたがアルティロイドが撮影し、転送してきた映像だ。」
そしてホールに集まった全員に見えるようにその映像が写される。
その映像が写されたテイルレッドの姿を見たエレメリアンが誰しもおおおおと感嘆の声を上げる。
「これは、素晴らしい……」
「このようなツインテールの持ち主があの世界にいたのか!」
「彼女がこの世界の守護者か……!」
そして映像は次に移る。分割され様々な角度から写されるレッドの映像に会話内容がだんだん変わっていく。
「このような幼子があのような大剣を振り回して戦うとは……」
「テイルレッド、なるほど。紅蓮の髪に相応しき名だ。」
「年の頃は小学生低学年ぐらいか?赤いランドセル……」
「いやもしかしたら幼稚園児なのではないか?」
わいわいがやがやと騒ぐうちに喧々囂々に変わるまで、そう遠くないと感じたドラグギルディは次の映像を準備する。
しかしこの熱意をドラグギルディは好ましく感じていた。この戦士を知りたいと、戦うことを恐れずに相手を知ろうという心意気をよしとするのだ。
「では次の戦士に移る。」
そして映しだされるシャイニングの映像に同じかそれ以上の歓声が起こる。
「何だこのツインテールは!?テイルレッドが可憐だとすれば、こちらは気高く、高貴とも言えるツインテール!」
「思い切りも良い、ためらうこと無く不意打ちしレッドを守っている。」
「あのバイザー、正体を隠すためのものとしてと同時に、視線を隠し行動を読ませなくするための物と見た。」
「……隊長この者は?」
「テイルシャイニングと名乗っていたな。そしてあの装備に私は覚えがある。」
そのドラグギルディの言葉に会議場が騒然となる。
彼らの隊長が記憶に留める装備、それは同じく隊長格と戦える戦士のものであると言うこと。
ざわめく会場を他所に記憶の意図を類い寄せるドラグギルディ。
場のエレメリアンたちはいつしか静まり、彼らの隊長の次の言葉を静かに待っていた。
そして多くのエレメリアンが待っていた言葉がドラグギルティから告げられる。
「確か…別の幹部が侵略していた世界で同じ装備を使うツインテールの戦士がいたのだ。だがその戦士は確かその幹部が撃破したはず、何故この世界に……?」
「他の幹部ですか?」
「あぁ、ツインテールの戦士と共にポニーテールの戦士が戦っていたという話があったので気に留めておいたのだ。」
「その戦士がこの世界でまたも我らに立ちはだかるということですか……燃える展開でありますね。」
「同じ戦士かはわからんがな。だが油断してかかれる相手ではないということだ。分かったな!」
そして一度会議場が静まる。その時誰かが
「つまりテイルレッドの先輩戦士ですね。」
とポツリとこぼした途端また沸き上がる。
「先輩戦士!そうかそうなるのか!」
「そう考えるとテイルレッドを守る行動や、安心させるための行動が多かったように見受けられる。」
「姉系か!世話やきお姉ちゃんなのか!?」
わいのわいの。
にわかに騒がしくなった部下たちを他所にドラグギルディはこの世界の侵略が難しくなるであろうことを感じとっていた。
だがその困難は強敵を望むドラグギルディにとって喜ばしいものであり、これほどに心躍る戦場もなく狂気と愉悦に笑みを作るのであった。
◆
「ところでそーじ、千歳にはどう説明すんの?」
俺が自身のおもしろ出生秘話を知って膝から崩れ落ちてる所に、愛香がこの場にいない幼馴染みのことを言う。
そう言えば転送には巻き込まれてなかったはずだからアドレシェンツァであの光景を見ていたはず。
「後で説明しなきゃならないか。どうすればいいと思う愛香?」
「別にありのままでいいと思うわよ?」
愛香に問いかけたのに答えてくれたのは母さんだ、その顔は自信ありげに笑っている。
「どうしてだよ母さん。普通こんな話したら妄想か何かと言われて頭大丈夫か?って聞かれるに決まってるだろ?」
「それはないわ、なぜならあの子も私と同じく中二病だからよ!まぁ、軽度ではあるけどね。」
「そうか、千歳も母さんと同類だったのか……一時期脳内に兄がいるとか言ってたもんなぁ。」
言われてみれば納得出来る理由がいくつかある。たまにとる奇行とかを思い返してみれば確かに中二病に合致する。
不可解なことに会った時ブツブツ言うのは治した方がいいと思うぞ千歳。
「あの端に座っていた人ですか、それは面白そうな人ですね。ちょっと合うのが楽しみです。」
そう言って笑顔になるトゥアール。その横で愛香がまた不審げにトゥアールを見ている。
なぜか愛香はトゥアールを警戒してるんだよな。なんでかはわからないけど。
「それにしても千歳が中二病だったとはなぁ。」
「ええ、だってちーちゃんのお母さんの百合華は私と同じ重度の中二病よ?だからそれを隠さずに家で生活してる分きっとそういうのには慣れてると思うわ!」
胸を張ってそんなことを言う母さん。
急に千歳が不憫になってきた。このテンションの母さんが常日頃から家にいる。それは俺にとってはかなりキツイ、そんな生活を千歳はしていたのだろうか。
そう考えると千歳が中二病でもそれはしかたないと思える。こういうのは染まったほうが楽だからな。
「じゃあ、明日辺りに千歳にも説明するのね。わかった。じゃあその時に百合華さんも呼んできましょう?トゥアールが本当のこと言ってるかの確認もしたいしね。」
「えっ、愛香さん私の話信じてないんですか!?」
「全部が全部嘘じゃないでしょうけど、真実も語ってないでしょう?だから洗いざらい全部吐くのよ、明日。」
明日、とにかく明日だ。千歳にも説明してこれからの方針を決めないとな。
それにしても千歳が中二病だったとはなぁ。
と俺は今日起こったことに対しての若干の現実逃避をしながら、隣の親友のことを思うのだった。